やはり俺が魔法使いでプリキュアなのはまちがっている。   作:乃木八

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第五話「氷の島ですれ違い!?翻弄される八幡と魔法がつなぐ友情!」Bパート

 

吹き荒れる風に一面の白、方向感覚が狂いそうになる吹雪の中、みらい達は偶然見つけた穴の中に避難していた。

 

「モフゥ~…」

 

みらいに抱かれているモフルンが寒さに体を震わせる。

 

「…偶然ここを見つけられたのは不幸中の幸いだったな」

 

外の様子を見て、独り言のように八幡が呟いた。

 

「そうね…先生達心配してるだろうな……」

 

八幡の呟きに相づちを打って、リコは憂いの混じった声を出す。

 

「…魔法のヤカン、持ってくれば良かったね」

 

そうすれば暖かくなるのに、と何気なく口にしたみらいの言葉にリコが皮肉混じりに答えた。

 

「そうね、あなたが魔法でお湯を沸かせば暖かくなるでしょうね」

「…ふんっ!」

 

そんなリコの言葉に頬を膨らませてソッポ向くみらい。こんな状況でも喧嘩は続いているらしい。

 

「はぁー…」

 

しかし、そんな皮肉を口にしていたリコが寒そうに手を擦り合わせる。

 

どうやら、今一番暖まらないとまずいのは白い息を赤くなっている指先に吹き掛けているリコのようだ。

 

「お前…その手は…」

 

擦り合わせている手を見て、八幡が眉を寄せる。

 

「リコの手…どうしたモフ?」

 

モフルンもそれに気付いて心配そうに声を掛けるが、リコは別に…と、つんけんした様子で答えた。

 

「霜焼け……あっ」

 

リコの赤くなった指先を見てみらいは呆然と呟き、課題の最中にリコが寒そうに手を擦っていたのを思い出す。

 

「……とりあえずこれ、手に巻いとけ」

 

そういうと八幡は自分の制服の上着をリコに差し出した。

 

「え…でもこれは…」

 

差し出された上着に戸惑うリコ。

 

「…そのまま霜焼けた手を放置してたら凍傷になる。こんなものでもないよりはマシだろ」

 

まあ、嫌かもしれんが我慢してくれと付け足す八幡にリコは俯き、遠慮がちに礼をいうと上着を受け取った。

 

 

 

そこからしばらく沈黙が続いて、風の音だけが聞こえるそんな中、何かを考え込んでいたみらいが口を開く。

 

「…ごめん」

「え?」

 

突然の謝罪に、リコは少し驚きながらみらいの方へ顔を向けた。

 

「リコちゃんの気持ち考えなかった…」

 

みらいの口から漏れたのは後悔と反省の言葉、ぽつりぽつりと口にするそれに、リコだけでなく、八幡とモフルンも耳を傾ける。

 

「リコちゃんは立派な魔法使いになるんだもんね…リコちゃんにとって魔法はとっても真剣なこと…」

 

声を震わせて、ゆっくりと、それでも続けるみらい。

 

「…そんな魔法の事をもっと知りたい、一緒に勉強したい!って思ってたの…それなのに…」

 

泣き出しそうな顔でみらいは自分の気持ちを吐露する。

 

「私…一人で夢中になっちゃって…魔法が使えたのが嬉しくて…はしゃいじゃった」

 

正直に感情を吐き出して、自嘲気味な笑みを浮かべるみらいに、リコは目を見開いて驚き、そして何かを考え込むように俯いた。

 

「…羨ましかった」

「え?」

 

俯いたリコの口から出た言葉にみらいは驚く。

 

「魔法を使えたあなたが……だから私……ごめん」

「リコちゃん…」

 

認めたくなかった自分の気持ちと向き合って、素直に謝ったリコ。みらいはそれを優しく微笑んで受け入れた。

 

「…お互いに、か…」

 

八幡が二人に聞こえないくらい小さく呟く。

 

互いの感情、気持ち、それを素直にぶつけ合えるみらいとリコを八幡は羨ましく思った。

 

言葉にすれば分かりあえる、と誰もが口にするが、そんなのはある意味当たり前だ。

 

先程までのリコのようになにも言わずに怒るのも、みらいのように言わなくても意図が伝わっていると思うのも、言葉にすればすれ違わずに済んだのかもしれない。

 

けれど、人はそれを簡単には言葉にできない、できたとしても、曲解して、もっとすれ違うかもしれないし、伝わらないこともあるだろう。

 

言えば壊れてしまうかもしれないし、理解されないかもしれない、自らの醜くて弱い部分を見せたくない、そんな怖さを振り切って一歩踏み出すことはとても辛いのだ。

 

だからこそ、素直に自分の過ちを認められたみらいが、認めたくなかった自分の気持ちと向き合えたリコが、恐れを振り切って理解しあえた二人の絆が、酷く羨ましい。

 

なぜならそれは、八幡には到底できるはずのないことだから。

 

認めることも、向き合うことも、そして理解しあうことも、八幡にはできない。

 

(俺は…)

 

どろどろの思考の渦にはまり、八幡の中で諦観めいた結論が出掛けたその時、不意に声をかけられた。

 

「八幡…さん」

 

遠慮がちにかけられたリコの声に、ぐるぐると渦巻く思考の渦に呑まれていた八幡の意識が現実に引き戻される。

 

「…なに、どした?」

 

八幡は浮かびかけていた結論を頭の隅に追いやり、ゆっくりとした声音で聞き返した。

 

「…さっきはごめんなさい」

「は?」

 

いきなり謝られ、なんのことかわからずに戸惑う八幡。

 

「その、せっかく声をかけてくれたのに…怒鳴ってしまって…」

 

俯き振り絞るようなリコの言葉にようやく八幡はなんのことか思い当たる。

 

「…あれは俺が悪い、だから謝られるようなことじゃ…」

「それは違うわ」

 

言いかけた言葉を遮ってリコがそれを否定した。

 

「少し考えたらわかることだもの、あれは私に肩の力を抜けって言いたかったんでしょ?それなのに…」

 

イライラをぶつけてしまったとリコは後悔して唇を噛む。

 

「だから…本当にごめんなさい」

「…おう」

 

頭を下げて謝るリコの言葉を、不思議と八幡は受け入れることができた。

 

「モフッ」

 

全員が仲直りしたのを見てモフルンがみらいの腕の中からぴょこんっと飛び降りる。

 

「おしくらまんじゅうモフ~!」

「「え?」」

「は?」

 

こちらにお尻をつきだして、唐突にそんなことを提案したモフルンに疑問の声を出す三人。

 

「みんなで仲良くおしくらまんじゅうするモフ!」

 

くるっと反転して両手を上げるモフルンの様子からは、このおしくらまんじゅうが暖まる以上の意味があるというのがわかる。

 

「うん!」

「え?」

 

モフルンの言葉にみらいは頷くと霜焼けたリコの手を握った。

 

「ね?」

「…仕方ないわね」

 

握られたその手にリコは苦笑しながらも握り返すと八幡の方を向く。

 

「八幡…さんも」

「…いや俺は」

 

遠慮しておくと言い終える前にリコは八幡の手をとって引っ張った。

 

「いいから、一緒にやるのよ」

 

少し強引な言葉だったが、八幡の手を引くリコの嬉しそうな表情に仕方ないと諦める。

 

 

 

 

「「「おしくらまんじゅうっ押されて泣くな♪おしくらまんじゅうっ押されて泣くな♪」」」

 

モフルンの提案の元、四人でおしくらまんじゅうをすることになったみらい達は、背中合わせで座りあって腕を組んでいた。

 

「「「おしくらまんじゅうっ押されて泣くな♪おしくらまんじゅうっ押されて泣くな♪」」…八くんも声だして」

 

一人だけ声を出していなかった八幡にみらいが呼び掛ける。

 

「「「おしくらまんじゅうっ押されて泣くな♪おしくらまんじゅうっ押されて泣くな♪」」…もっと大きな声でー!」

「歌のお姉さんかよ…」

 

みらいの呼び掛けにそんなツッコミをしつつ、渋々八幡も声を出すことにした。

 

「「「「おしくらまんじゅうっ押されて泣くな♪おしくらまんじゅうっ押されて泣くな♪」」」」

 

八幡も加わって四人の声が揃うと、そのことがよほど嬉しいようでみらいが笑顔になり、それを見て、リコとモフルン、遂には八幡までもが表情を緩める。

 

「「「「おしくらまんじゅうっ押されて泣くな♪おしくらまんじゅうっ…おー…?」」」」

 

薄暗い穴に差し込んできた虹色の光に、何事かと思い空を見上げる四人。すると、モフルンが鼻をならし始めた。

 

「くんくん…甘い匂いがするモフッ!!」

 

そういうと、モフルンは穴の外に出て、空を見上げる。

 

「「わぁ…」」

「おぉ…」

 

その後からみらいとリコ、そして八幡が穴の外に顔を出して同じく空を見上げて、感嘆の声を漏らした。

 

「オーロラモフー!!」

 

全員が見上げた空の先には、ハートに星形、三角に丸といった様々な形をしているオーロラが見える。

 

「これがマホウ界のオーロラ…」

 

一般的に知られているカーテン状のものとは違うが、それでも初めて見るオーロラにみらい達は目を奪われた。

 

「こんな景色が見られたのも、リコちゃんと魔法に出会えたからだね!」

「モフ!」

 

笑顔で言うみらいにモフルンも同意する。

 

「…魔法は難しくて大変なだけかと思ってたけど、そう悪くないかもね」

「うん!」

 

晴れやかな表情で呟いたリコの言葉を聞いて、みらいが嬉しそうに頷いた。

 

「あ、でも勘違いしないで?」

「?」

 

照れたように顔を背け、チラリと片目でみらい達を見ながらリコは人差し指をピンと立てる。

 

「もちろん、魔法には努力と根性も必要よ?」

「…まあ、程々に、だな」

 

決め台詞のようにポーズを決めて言ったリコに、八幡も片目を瞑って付け加えた。

 

「わ、わかってるわよ」

 

リコが顔を赤くして答えるとみらいとモフルンが優しく微笑み、それに釣られて八幡とリコもなんだか可笑しくなって笑いあい、和やかな空気が流れる。

 

「あ」

「モフ」

 

みらいとモフルンが何かに気が付いて声を上げ、それに反応して八幡とリコも二人がみている方を見た。

 

「?なんだ…星形のオーロラが…」

 

八幡が眉をひそめて呟くと、オーロラの中からキラリと光る何かがゆっくりと落ちていくのが見える。

 

「リンクルストーンモフ!」

 

モフルンが光る何かを指差して叫んだ。

 

「私、とってくる!」

「あ…」

 

突然のリンクルストーンの登場に唖然としているリコにみらいはそういうと、一目散に飛び出して、リンクルストーンの元へと走る。

 

 

 

 

「…フン!」

 

そんな様子を上空から監視していたバッティが髑髏の杖を取り出し掲げた。

 

「魔法、入りました。出でよっヨクバール!」

 

バッティが呪文を唱えると魔法陣が現れ、そこに氷柱と氷の雪だるまが吸い込まれていく。

 

「ヨクバール!」

 

 

 

そんなことは露知らず、みらいは息を切らしながらリンクルストーンの元へとひた走っていた。

 

「もう少しモフー!」

 

落ちてくるリンクルストーンまであと少しのところまで近づいたみらいは手を伸ばす。

 

「ヨッ!!」

 

轟音と共に氷で出来た羽を生やした、雪だるま氷ヨクバールがみらいの真後ろに降り立った。

 

「っ!?」

 

驚きと恐怖が入り交じった短い悲鳴を上げるみらい。

 

「渡しませんよ?」

 

ヨクバールの頭の上に立っているバッティが余裕ありげにみらいを見下ろす。

 

「っ!」

「朝比奈っ!!」

 

今にも襲われそうなみらいにリコと八幡が焦った声を上げるが、距離が離れすぎていてどうすることもできない。

 

「ヨクバー…ル!!」

「っあぁ!?」

 

ヨクバールが力を貯めて、氷の羽を振りかぶると暴風が巻き起こり、みらいは吹き飛ばされてしまう。

 

「「ああっ!?」」

「くっ!」

 

吹き飛ばされて宙に放り出されてしまったみらいを見て、リコとモフルンが悲鳴を上げ、八幡は慌てて箒を取り出した。

 

「キュアップ・ラパパ!!箒よっ全速力で飛べぇっ!!」

 

八幡が呪文を唱えた瞬間、箒は凄まじい速度で飛び出す。

 

「がっ!?」

 

あまりの速度に八幡口から声が漏れた。

 

「ぐぅぅっ!!」

 

歯を食い縛ってふりかかる圧力に耐え、みらいの元へと飛んだ。

 

━ドシャ…

 

派手に雪を巻き上げて落ちる二人。

 

「リンクルストーンごと吹き飛ばしてどうするんです!…まあ、二人片付きましたし、良しとしましょうか」

 

わざわざ自分から突っ込むとは、愚かですねぇ…とバッティは嘲笑う。

 

「モフ…」

「みらい…八幡……」

 

姿が見えず、無事が確認できない二人に、モフルンとリコが青い顔をして呟いた。

 

「っ…!」

 

頭に浮かぶのは二人の顔、元気に笑うみらいとソッポを向いている八幡。

 

無事でいてほしい、その思いが足を動かし、リコは二人が落ちた場所へと駆け出す。

 

「みらいぃぃ!!八幡っっ!!」

 

二人の名前を叫びながら、息を切らして走るリコ。

 

「はぁ…はぁ…あっ!」

 

リコがその場所まで近付くと突然、雪がもこっと競り上がった。

 

「「ぷはっ!!」」

 

その中から頭を出したのは雪まみれのみらいと八幡、どうやら無事だったようでリコは胸を撫で下ろす。

 

「ぶるるるっぷっ…」

「ちょっ…やめろ…!」

 

みらいが顔を左右に振って雪を払うが、その雪は八幡へと降りかかり、八幡はさらに雪まみれになってしまう。

 

「…今、みらいって言いました!?」

「へ?」

 

八幡の抗議をさらっとスルーしてみらいは興奮したようにリコに尋ねた。

 

「雪で助かったモフ!」

「何!?」

 

無事な様子の二人を見て嬉しそうなモフルンとは対称的に、バッティはそんなバカなと驚きの表情を浮かべる。

 

「今初めて呼んでくれたね名前!!」

 

手を引いて二人を雪から引っ張り出すリコに、詰め寄るみらい。

 

「っ呼んでないわ!」

 

声を詰まらせて否定するリコに、みらいはムッと頬を膨らせる。

 

「呼んだよっ!」

「呼んでないっ!」

「いまそれどころじゃないだろ…」

 

こんな状況で睨み合う二人に八幡は呆れた声を漏らした。

 

「この期に及んでまだ喧嘩ですか」

 

言い合う二人を見て、バッティがそんなことを聞くと、みらいとリコが同時にバッティの方を向く。

 

「「喧嘩なんてしてないっ!!」」

「「えぇ…?」」

 

二人の言葉に八幡は敵であるバッティと声を揃えては戸惑いの声を漏らした。

 

そんな八幡とバッティを他所に、みらいとリコは手をぎゅっと繋ぐ。

 

「「キュアップ・ラパパ!」」

「モッフー!」

 

呪文と共にモフルンへとリンクルストーンルビーがセットされる。

 

「モフッ!」

 

トコトコとモフルンが二人の元に飛び込んで、輪っかになるように手を繋いだ。

 

「「ミラクル・マジカル・ジュエリーレ!!」」

 

三人が紅い光に包まれ、魔法陣から炎を纏って現れる。

 

「ふたりの奇跡!キュアミラクル!」

 

「ふたりの魔法!キュアマジカル!」

 

「「魔法つかいプリキュア!!」」

 

爆炎を背に、紅きプリキュアが降り立った。

 

「話に聞くルビーのプリキュア!…ん?」

 

険しい表情で歯噛みしながら、プリキュアを睨んでいたバッティは遠くで何かが光ったのを見つけてそちらに視線を向ける。

 

「あれは…」

 

バッティは光るものの正体をリンクルストーンだと結論付けると、急いでヨクバールへと指示を飛ばした。

 

「ヨクバール!奴等は任せましたよ!」

「ギョイ!」

 

命令を受けたヨクバールがプリキュアへと迫り、バッティはリンクルストーンの方へ飛んでいってしまう。

 

「「っ!」」

「ヨクバァールッ!!」

 

二人はリンクルストーンの元へと向かうバッティを止めようとしたが、鋭い爪を突きだして突撃してくるヨクバールを前に足を止めざる得なかった。

 

「ルッ…!!」

「「ぐぅぅぅぅ…!!」」

 

全体重を乗せて押し潰そうとするヨクバールの巨体を、二人は真正面から受け止めて押し返している。

 

「モフ…二人の心が強く繋がっているモフ」

「強く…」

 

モフルンがガッツポーズしながら呟き、八幡は呆然と二人を見つめていた。

 

「なんというパワー…ですがこの隙にリンクルストーンを!」

 

分厚い氷の地面に亀裂が入るほどの力を前にバッティは冷や汗を浮かべつつも、少し余裕を取り戻して、リンクルストーンに向かって速度を上げる。

 

「まずいモフ!リンクルストーンが盗られちゃうモフ!」

 

リンクルストーンに近付くバッティに気付いたモフルンが焦った声を上げた。

 

「しまっ…!?」

 

少し遅れて八幡もそれに気付く。普段の八幡ならばバッティの狙いにすぐ気付けたかもしれないが、呆然と二人を見ていて気付くのに遅れてしまった。

 

「キュアップ・ラパパ!……」

 

八幡は落ちていた箒を拾い上げると、急いで呪文を唱えようとしたが、あることに気付いて詰まってしまう。

 

(リンクルストーンまでの距離が…!)

 

雪原の上で何かが光っているのは見えるが距離感が掴めない。それは八幡にとって非常にまずい状況だった。

 

今までで八幡は制御できない速度の箒に目標を加えることでなんとか乗っていた。

 

しかし、今は目標であるリンクルストーンがはっきりと見えないため八幡は自分で箒を操らなければならない。

 

先程、落下するみらいに向かって飛んだときは偶然上手くいったに過ぎず、それに加えて今回は小さいリンクルストーンを地面から拾い上げるというおまけ付きだ。

 

(…それでもやるしかないだろ)

 

二人はヨクバールの相手をしていて動けない、モフルンにはあそこまで離れた距離を移動する手段がないだろう。

 

つまり、消去法で八幡しかいないということになる。それに、これ以上悩んでいる暇はない、バッティはすでにリンクルストーンの目前まで迫っている。

 

とどのつまり、出来ようが出来まいがやるしかないのだ。

 

「…すぅ……」

 

八幡は腹をくくって箒にまたがり、一度深呼吸をして、呪文を唱える。

 

「キュアップ・ラパパ!!箒よ飛べ…っ!!」

 

ズドンッ!という轟音と共に八幡の乗る箒が大砲のように飛び出した。

 

「ぐぅがぁっ!!」

 

何度味わっても一向に慣れないスピードに苦しみこ声を洩らす八幡だったが、辛うじて目を開けることに成功する。

 

凄まじい風にぶれる世界、それでも八幡の視界は、光るリンクルストーンとそれに向かって飛ぶバッティの姿を捉えていた。

 

「なっ!?」

 

後ろから弾丸のごとく迫る八幡にバッティは信じられないものを見たような声を出す。

 

「ぐっ…!負けませんよ!!」

 

焦ったバッティがさらに速度を上げる。いくら八幡の箒が速くても、このままではバッティの方が先にリンクルストーンにたどり着いてしまうだろう。

 

(っ…どうすれば)

 

風圧に耐えながら必死に考えを巡らせる八幡。

 

(直接体当たりをする?いや…)

 

魔法商店街の時のようにバッティに直接体当たりをすればと考えるが、即座にそれを却下する。

 

理由は単純、あの時体当たり出来たのは偶然だからだ。たまたま油断していたスパルダが進行方向にいたから出来た、それだけ、このスピードの中、狙っては出来ない。

 

それにバッティに追い付かなければ体当たりなんてできるはずがない、どちらにしたって無理な話だ。

 

(追い付けなくても何か…)

 

良い考えが浮かばないまま、吹き付ける風に思わず顔を逸らした時、真っ白な地面が視界に入り、八幡はあることを思い付く。

 

「もらった!!」

 

先にたどり着いたバッティがリンクルストーンへ手を伸ばそうとした瞬間、八幡は箒の柄に片足を立て、両の手で柄の先端に近い部分を思いっきり引いた。

 

「やらせるかぁっ!!」

 

すると凄まじい速度で飛んでいた箒に急ブレーキが掛かって減速し、それと同時に箒のスピードの余波で地面の雪が巻き上げられて、放射状に広がりバッティに襲いかかる。

 

「なっ!?ちょっ…!?」

 

大きな波のように降りかかる大量の雪に、バッティは為す統べなく飲み込まれた。

 

「ぐっ止まれぇっ!!」

 

雪を巻き上げながら、八幡の乗る箒は徐々にスピードを落としていき、ピタリと止まる。

 

「ぶっ!?」

 

止まる瞬間、完全には速度を落としきれていなかったせいで八幡はつんのめって、頭から雪の中に突っ込んでしまった。

 

「っ痛……あ」

 

額を押さえながら八幡が顔を上げると、そのちょうど目の前に青き輝きを放つリンクルストーンが落ちていた。

 

「リンクルストーン…」

 

そのリンクルストーンを拾い上げて八幡が呟くと同時に雪の中から埋もれていたバッティが飛び出してくる。

 

「リンクルストーンは渡しませんよ…!!」

「くっ…」

 

ジリジリと迫るバッティに八幡は額に汗を浮かべ後ずさることしか出来ない。

 

「さあ、リンクルストーンを…」

「「リンクルストーンは渡さない!!」」

 

バッティの声を遮ったのは離れたところでヨクバールを受け止めている二人だった。

 

「ヨッ?」

 

二人は受け止めているヨクバールを力任せに横へ振り回し、ハンマー投げの要領で遠心力を利用してぐるぐる回し始める。

 

「「はぁぁぁぁっ!!」」

「ヨッヨッヨヨヨヨッ!?」

 

目で追うのも困難なほど、回転している二人はバッティ目掛けてヨクバールをぶん投げた。

 

「「はぁっ!!!」」

「ヨクバァールッ…!?」

 

きれいな放物線を描いて宙を舞うヨクバールはまるで引き寄せられたかのようにバッティの元へと飛んでいく。

 

「なっ!?正気ですか!?ここにはまだ…!?」

 

そこまで言いかけて、先程までいた筈の八幡の姿が見えないのに気付くバッティ。

 

「いない!?いつの間…にぃぃ!?」

 

突然消えた八幡に気をとられたバッティはヨクバールを回避する暇もなく、そのまま直撃をくらった。

 

 

━一方、消えたと思われていた八幡はというと、二人の元へと箒で爆走の最中だった。

 

バッティに気づかれないように素早くこっそりと呪文を唱えたため、目標を指定する余裕もなく、八幡は自分でブレーキをかけなくてはいけなくなった。

 

八幡がいつあの場を離れたとかというと、二人がバッティの声を遮って叫んだ瞬間だった。あの瞬間、八幡は二人のやらんとしていることを察して巻き込れないように身構えていたのだ。

 

そして、バッティが空中に気を取られたタイミングを見計らって、呪文を唱え脱出したのだった…が、八幡は止まれなくなっていた。

 

「ぐっ!と、止まれっ!!」

 

苦し紛れにそう言うと、少しずつ箒は速度を落とすのだが、完全には止まらない。

 

先程のように全身を使ってブレーキをかけようにも、そんなことをすれば今度はミラクルとマジカルに雪をひっかけてしまう。

 

そうこう考えている内に、二人は目前に迫っていた。

 

(スピードはそれなりに落ちている、プリキュアの身体能力ならよけれるはずだ)

 

八幡は二人が避けてくれるのに賭けてぎゅっと目を閉じ、衝撃に備える。

 

「っ………?」

 

箒から放り出された浮遊感はあるのに、いつまでたっても衝撃がやってこないのを疑問に思い、八幡は恐る恐る目を開けると、至近距離にマジカルの顔があった。

 

「っ!?」

 

なにが起きたのかわからずに、とりあえず離れようと体を動かそうとした八幡をマジカルが止める。

 

「ちょっジタバタしないで!今落ちたら危ないわよ!」

 

そう言われ、初めて自分がマジカルにお姫様抱っこされているのに気付いた八幡。隣に目を向けると八幡の箒を片手に持ったミラクルが見えた。

 

どうやら突っ込んできた八幡を、二人は避けるのではなく空中で受け止めたらしい。

 

「…だからってお姫様抱っこはないだろ……」

「えっ?なにか言った?」

 

八幡の呟きは聞こえなかったらしく、聞き返されたが、なんでもないと誤魔化した。

 

「よっ…ってちょっと!?」

 

着地すると同時に八幡は脱兎のごとくマジカルの手から転がり落ちるように離れる。

 

「そんなに慌ててどうしたの八くん?」

 

そんな八幡の反応をミラクルが不思議そうに尋ねた。

 

「…ちょっとそういう気分になっただけだ」

「そういうって…どんな気分よ…」

 

八幡の意味不明な言動に呆れるマジカル。八幡としても不本意だが仕方ない。

 

普段のリコならともかく、プリキュアとなった今の姿は妙に大人っぽく見え、意識してしまうのだ。

 

しかし、そんなことを言えるはずもなく、誤魔化すためについ、意味不明な事を口にしてしまったのだから。

 

「…それよりこれ」

 

話題をそらす意味も含めて、八幡は持っていたリンクルストーンを取り出して見せた。

 

「リンクルストーン!…えーと…この形は…」

「氷のリンクルストーン…アクアマリンモフ!」

 

思い出せずに悩んでいたミラクルの後ろから、モフルンが大きな声を上げる。

 

「なに!?エメラルドではありませんでしたか…っ早くどきなさい!!」

「ヨクッ!?」

 

ヨクバールの巨体の下敷きになっていたバッティは、なんとか這い出ながら悔しそうにそう吐き捨て、ヨクバールを蹴飛ばした。

 

「ヨクバァール……ヨクッ!!」

 

蹴飛ばされたヨクバールは顔に付いていた雪を振り落とすと再びプリキュアの方を向き、闘争心を昂らせる。

 

「…こうなったらなんとしてもプリキュアを倒すのです!ヨクバール!!」

「ギョイ!」

 

指示を受けたヨクバールが氷の翼をはためかせ、真正面からプリキュアへと迫った。

 

「来るぞ!」

「うん!マジカル!」

「ええ!ミラクル!」

「モフ!」

 

八幡の声に三人が応え、伝説の杖を手にヨクバールを迎え撃つ。

 

「「リンクルステッキ!」」

 

「モッフー!!」

 

モフルンの叫びと共に紅く燃える情熱の炎がリンクルステッキへと放たれた。

 

「「ルビー!」」

 

「「紅の情熱よ!私達の手に!」」

 

ルビーの情熱をリンクルステッキに秘め、二人はくるくると円を描く。

 

「「フルフルリンクル!」」

 

円はハートへと姿を変え、共に空を舞った。

 

「「プリキュア!」」

 

紅の魔法陣を足場にぎゅっと手を繋いで、ミラクルとマジカルは必殺の魔法を撃ち放つ。

 

「「ルビーパッショナーレ!!」」

 

「ヨクバール……」

 

爆炎を纏った二人の魔法は闇を焼き払い、その情熱の炎に氷を溶かし尽くされ、ヨクバールは浄化されていった。

 

「仲間割れしたのに、前より力を増しているとは…くっオボエテーロ!!」

 

何故だ!と言いたげな顔をしたまま呪文を唱え、バッティは撤退していった。

 

「…それがあいつらの強さ…なんだよ」

 

バッティが撤退していった後を見つめて、八幡が誰にも聞こえないくらいの声で呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「氷のリンクルストーン…アクアマリン」

「ダイヤやルビー、八くんのリンクルストーンとは少し違うね」

 

ヨクバールが暴れた痕もすっかり元通りに直った雪原の上でみらい、リコ、八幡の三人はモフルンを中心に集まっていた。

 

「エメラルドを支えるリンクルストーン…」

「そう見えるのは役割が違うから…か」

 

八幡のはともかく、ダイヤ、ルビーは共に守護する輝きだと校長は言っていた。

 

そしてこのアクアマリンは支える輝き、役割が違えば形もそれに適したものになるのだろうと八幡は結論付ける。

 

「モフルンのおかげで見つけられたね!」

「だな」

 

みらいの言葉に八幡も同意した。匂いを感じとり、オーロラの中から見つけたのはモフルンだからだ。

 

「違うモフ、みらいとリコと八幡、三人の気持ちがピッタリあったおかげモフ!」

 

三人の気持ちがピッタリあったから、そう言って笑顔を浮かべるモフルンに全員が笑みを浮かべる。

 

「…まあそれでも、モフルンのおかげなのは変わらない」

「だね!ありがとうモフルン!」

「私からもありがとうモフルン」

「モフー!!」

 

八幡の一言を皮切りにみらいとリコからお礼を言われて嬉しそうなモフルン。そして、再び全員で笑い合う。

 

「はー!!」

「「?」」

「はー?」

「モフ?」

 

そこに突然、声が聞こえたかと思ったら、リコが持っていたリンクルスマホンの中から光と共に妖精の赤ちゃんが現れた。

 

「「おぉ!!」」

 

妖精の赤ちゃんがみらいの手に収まると輝きを増して、一瞬辺りが光に包まれる。

 

「っ…一体なにが…」

「あ!」

 

強烈な光に思わず目を閉じた八幡の耳に驚くみらいの声が聞こえた。

 

「大きくなったモフー!」

「「え?」」

 

そのモフルンの言葉にリコと八幡の声が重なる。

 

「はー!」

「「本当に大きくなってる…」」

 

恐る恐る目を開けて妖精の赤ちゃんを見た二人は驚き、再び声を揃えて呟いた。

 

「はー!はー!!」

 

妖精の赤ちゃんがモフルンの方へ手をパタパタさせながら何かを訴えている。

 

「な、なにかしら?」

「はー!は!」

「モフルン…というかリンクルストーン…か?」

「はー!!」

「ひょっとしたら…」

 

八幡の言葉に一際強く反応を示したのを見てみらいが何かを思い付いた。

 

「モフルン貸して!」

「モフ」

 

モフルンからリンクルストーンを受けとると、みらいはそれをリンクルスマホンへとセットした。

 

すると、スマホンの上に取り付けられてたピンクのペンがひとりでに動きだし、何かを描いていく。

 

「「「わぁ…!」」」

 

スマホンに描かれた絵が完成すると、一瞬、光って中から澄んだ色のカップが現れた。

 

「描いたものが実体化した…?」

「空色のスープモフ!」

「やっぱりね」

 

みらいはそう言うとカップに注がれた空色のスープをスプーンで掬い上げて、ゆっくりと妖精の赤ちゃんの口元に持ってくる。

 

「んく…んく…んまっ!!」

 

赤ちゃんは近付けられたスプーンに小さな両の手を添え、口の周りに白い髭をつけながらスープを飲み干すと満足そうな笑顔を浮かべた。

 

「…天使…?」

「「へ?」」

 

あまりの可愛さに八幡の口から、八幡らしからぬ言葉が漏れてしまい、みらいとリコがポカンと口を開ける。

 

「……なんでもない…それよりこの赤ちゃん、名前はどうするんだ?」

 

八幡が誤魔化すために話題を変えてそんなことを聞いた。

 

「そういえば…」

「名前って私達が勝手につけていいのかな…?」

「はー!はー!」

 

今度はみらいの方に向かって手をパタパタさせている赤ちゃんを全員が見つめる。

 

「はー…ちゃん…」

「はー!」

「「「「はーちゃん!!」」」」

 

みらいの呟きに赤ちゃんが応えた瞬間、全員の意見が一致した。

 

「はーちゃ!はーちゃ!」

「嬉しそうね!」

「…喜んでるならいいか」

 

八幡は勝手に名前を決めて良かったのかと一瞬考えたが、赤ちゃん自身がはーちゃんと嬉しそうにしているのを見て考えるのをやめた。

 

「みんなが笑ってるからはーちゃんも笑ってるモフ」

「ずっと笑顔でいてもらわないとね!」

「うん!あ…」

 

笑顔のはーちゃんを囲んで笑い合う四人。そんな中、みらいが何かを思い出したような声を出した。

 

「名前っていえば…ねえリコちゃん!さっき呼んでくれたよね?私の名前!」

「え?」

「そういえば…確かに呼んでた気がするな」

 

ヨクバールに吹き飛ばされたみらいと一緒に雪に埋もれていた時、リコが叫んでいたのを八幡も思い出す。

 

「だからそれは…」

「呼んだモフ」

 

照れて誤魔化そうとするリコにモフルンが畳み掛けた。

 

「…リコちゃんなんて呼ぶ人、あなただけよ」

「へ?」

 

腕を組み、そっぽを向いたリコが頬を赤らめながら続ける。

 

「…リコでいいわ」

「うん!わかったリコちゃん!…あ、じゃなくてリコ!」

 

嬉しそうに名前を呼ぶみらい。それをチラリと見ながらリコも応えた。

 

「それでいいわ……みらい」

「…ツンデレだな」

「モフゥ~」

 

そんなリコの様子に八幡がボソッと呟き、モフルンが朗らかに笑う。

 

「…あなたにはまだ名前すら呼ばれてないんだけど?」

 

八幡の呟きを聞き逃さなかったリコがムッとした顔で詰め寄った。

 

「そういえば私も名字でしか呼ばれてないよ!」

 

リコに続いてみらいも詰め寄ると、身を引いて八幡は顔を逸らす。

 

「…気の…」

「「気のせいじゃない!」よ!」

 

言い終える前に遮られ、どんどん詰め寄ってくる二人にどうしようかと考えていたその時、上空から誰かの声が聞こえた。

 

「「「おーい!大丈夫ー?」」」

 

その方を向くと、ジュン、エミリー、ケイ、そしてマキナがアイザックの運転する魔法の絨毯に乗り、こちらに手を振っているのが見える。

 

「みんな…」

「探しに来てくれたんだ…」

 

みらいとリコもそれに気付いて、おーいと手を振り返した。

 

「…助かった……」

 

ちょうどいいタイミングの迎えで二人の意識がそっちに向いたことに安堵する八幡。

 

「忘れてないわよ?」

 

しかし、そうは問屋が許さなかったようで、リコが半眼で八幡を睨む。

 

「………」

 

しばらく睨んでいたが、八幡が黙っているのを見て仕方ないとため息をついた。

 

「…いつかちゃんと名前を呼んで……八幡」

 

リコはそれだけいうと踵を返して、先にみんなのところに向かったみらいを追いかけ、走っていった。

 

「……いつか…か…」

 

走っていったリコの背中を見つめて呟く八幡。

 

一度は出した筈の答え、それが間違っていようとも八幡にとってはそれで良かった。

 

けれど、その間違った答えすら、今の八幡にはわからない。

 

胸に去来するどす黒い何かを確かに感じながら八幡はゆっくりと歩き出した。

 

 

━六話に続く━

 





次回予告


「今日は補習はお休み!みんなで遊ぼう!」

「…休みは休むためにあるんだ」

「ええ~せっかくのお休みだよ?起きて八くん!」

「いつまで寝てるの!だらしないわよ!」

「リコもさっきまで寝てたモフ」

「ちょ、モフルン!違うから、ちょっとだけだし!」




次回!魔法つかいプリキュア!やはり俺が魔法使いでプリキュアなのはまちがっている。

「マホウ界での休日!あの子はだれ?八幡の過去と謎の少女!」




「キュアップ・ラパパ!今日もいい日になーれ!」
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