やはり俺が魔法使いでプリキュアなのはまちがっている。   作:乃木八

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第六話「マホウ界での休日!あの子は誰?八幡の過去と謎の少女!」Bパート

 

「こ、このお店アネットさんが作ったんですか!?」

 

周りの注目が集まるのも気にせずにみらいが再び大声で尋ねる。

 

「え、ええ、流石に建てたのは私じゃないけど、外装や内装は私がデザインしたの」

 

ぐいっと近づいてきたみらいにアネットが少し驚きながら答えた。

 

「私のお店って…ああ…そういう…」

 

その言葉に未だに驚いて固まったままだったリコが納得したように呟く。

 

「あ、もちろん経営も私がしてるよ?商品だって全部じゃないけど私が作ってるし…」

「今、作ってるって言いました!?」

 

さらにぐいっと来たみらいにぎょっとするアネット。

 

「そんな…あのアネットさんがお店を経営してるなんて…」

 

そして、リコはなぜかショックを受けたように呆然としている。

 

「…確かにあの若さで自分の店を持ってるのは凄いと思うが、そんなに驚くことか?」

 

不自然なまでのリコの驚きように、八幡は首を傾げた。

 

「…八幡はアネットさんの伝説を知らないからそんなことが言えるのよ…」

「伝説?」

 

リコのいう伝説が気になり、どういうことか聞こうとした八幡だったが、周りの視線に気付いて口を紡ぐ。

 

「あー…とりあえず場所かえよっか?」

 

その視線にアネットも気付いたらしく、少し困った顔をしながらそう提案してくるのだった。

 

 

 

店の事を他の店員に任せ、四人を奥の部屋へと案内するアネット。どうやらそこは応接室のような場所らしく、ガラス張りのテーブルと立派なソファーが置いてある。

 

「わぁ…このソファーふっかふかだ~!」

「モッフ~!」

 

ソファーを見るなり、勢いよく飛び込んで座ったみらいとモフルンは思った以上の柔らかさに驚き、はしゃいでいた。

 

「ちょっと!二人ともはしゃぎすぎよ!」

 

そんな二人の行動に知り合いのお店とはいえ流石に失礼だろうと思い、注意するリコ。

 

「あ、ごめんなさい…」

「モフ…」

 

リコに言われて、自分でもはしゃぎすぎだと感じたのか、二人は申し訳なさそうな顔をして素直に頭を下げる。

 

「ん?大丈夫、大丈夫、気にしなくていいよ?むしろ喜んでくれて嬉しいかな」

「「「?」」」

 

特に気にした様子もないアネットの言葉に、みらいとモフルン、リコの三人が首を傾げた。

 

「…もしかして、このソファーもアネットさんが?」

「そうだよ?このソファーは自信作で、座り心地を調整出来るように魔法がかけてあるの」

 

八幡が尋ねるとアネットは自慢気に胸を張ってそう答える。

 

「ソファーも作れるなんて…アネットさんってすごい人だねリコ!」

「………」

 

感心したみらいが話しかけるが、リコは口をポカンと開けたまま動かない。

 

「リコ?」

「ハッ…な、なにかしら?」

 

みらいが名前を呼びながら固まっているリコの顔を覗き込むと我に返ったようで、ようやく気が付いた。

 

「…そんなに凄い魔法なのか?」

 

リコの様子から、アネットがソファーにかけた魔法がなにかとんでもないではないかと思った八幡が呟く。

 

「…かけられている魔法自体は普通の魔法、けれど、少しでも加減を間違えたら効果を発揮しないはず、こんな繊細なコントロール見たことないわ」

 

魔法使いになりたてのみらいと八幡にはわからないかが、リコいわく、魔法学校の先生でも出来る人はいないらしい。

 

「いやいや、リコったらそれは流石に誉めすぎだよ」

 

予想以上の評価にアネットは照れたように手を振って否定し、みらい達の方を向いた。

 

「…私より凄い人なんていっぱいいる…例えばあなた達だってそう」

「「え?」」

 

思わぬアネットの言葉にみらいとリコの声が揃う。

 

「確かにみらいちゃんと八幡君は魔法を勉強し始めたばかりだろうし、リコもまだ学んでいる途中、けれど、あなた達は魔法を使う上で一番大切なものをもう持ってる」

「一番…大切なもの?」

「モフ?」

 

ナシマホウ界から来たばかりのみらいや八幡、魔法が苦手なリコ、そんな三人が持ってるもの言われても、思い当たる節がない。

 

「んー…と、それじゃあ、魔法を使う上で重要な事ってなんだと思う?」

 

いまいちピンときていないみらい達に質問を変えてアネットが問う。

 

「ええ…と、努力と根性?」

「そうだね、もちろん努力と根性は大事、他には?」

 

リコの答えは間違っていないが、アネットが言いたいのは他のことらしい。

 

「他には…」

「…はっきりとしたイメージと想像力」

 

考えるみらいの横で魔法を使った時の事を思い出して八幡が答える。

 

八幡が魔法を使った回数は数えるほどしかないが、例えば、目眩ましの魔法を使った時、映画や漫画に出てくる閃光弾をイメージした。箒で飛ぶ時は目標を定めて飛ぶと上手くいった。

 

そのことから、八幡はそれらが魔法に必要なの要素ではないかと考えた。

 

「それも正解、たとえ呪文が抽象的でもきちんと結果をイメージ出来ていれば、上手くいくくらい重要な要素、でも私が言いたいのはもっと簡単なことかな?」

 

そう言いながら、アネットはみらいの方へと視線を向ける。

 

「みらいちゃんはなんだと思う?」

「え、えーと…」

 

名指しで聞かれたみらいは色々と考えたが、何も思い浮かばずに言葉に詰まってしまう。

 

「ヒントは…料理にも同じ事が言える」

「料理…?」

 

戸惑った声を出すみらい。それは八幡とリコと同じらしく、怪訝な顔をしている。

 

「料理…料理…うーん…なんだろう?」

「魔法と料理で同じって言われても…」

「…料理を作る上で大切なことか……」

 

ヒントが料理と言われても、八幡の家事能力は小学校六年生レベルで止まっているので思い付かない。

 

「…そういえばお母様が言ってたわ、お料理に大切なのは愛情だって」

「あ、それお母さんも言ってた!」

「…じゃあ魔法にも愛情が大切…と?」

 

料理に愛情が大切なんていうのは確かによく聞くが、魔法にとってもそれが大切かと聞かれても、反応に困ってしまう。

 

「おお~三人とも大正解!」

「「「え?」」」

 

パチパチと拍手するアネットに三人はポカンと口を開けて驚いた。

 

「せ、正解ってじゃあ、魔法に大切なのは愛情ってこと?」

 

慌てた様子でリコが聞き返す。

 

「そ、もちろん全部が全部の魔法がそういうわけじゃないけどね」

「でも、魔法に愛情っていうのは…?」

 

みらいがそう問うと、アネットはソファーの方を見ながら答えた。

 

「愛情って言い方だとわかりづらいかな?んーと…例えばそのソファー、私の自信作って言ったけれど、それは出来てからそう思っただけなの」

「えーと…?」

 

アネットの言い回しが少し難しかったのか、みらいが首を傾げる。

 

「…作っている途中はそういうことを考えなかったってことですか?」

 

首を傾げているみらいに代わって八幡が口を開く。

 

「うん、あ、もちろんいい加減な物を作ろうとかそういうのじゃなくてね、このソファーに座る人が快適に過ごせたらいいなって思って」

 

そう語るアネットの顔は照れているようで、どこか誇らしげな不思議な表情に見えた。

 

「…つまり?」

 

いまいちアネットの伝えたい事がわからないリコが焦れたように先を促す。

 

「つまり、大事なのはどんな想いを込めるか、だよ」

「想い…」

 

急かすリコを気にした様子もなく、アネットは四人の顔を順番に見ながら続けた。

 

「誰かを助けたい、力になりたい、喜んでほしい、そういった想いが魔法を輝かせる…みんなも覚えはない?」

 

アネットの言葉にそれぞれが今までの出来事を思い返す。

 

みらいは思う。ひゃっこい島での補習授業、寒くてみんなとおしくらまんじゅうをして暖まったけれど、初めて魔法を使う自分がどうして上手くできたのだろう?と。

 

リコは思う。エメラルドを探してナシマホウ界へと飛び出したあの日、箒で飛ぶのが苦手な自分がどうして恐ろしい闇の魔法使いを相手に逃げることができたのだろう?と。

 

八幡は思う。初めて魔法を使った時、何が出来るわけでもなく、ヨクバールの前に立った自分がどうしてあんな魔法を使えたのだろう?と。

 

誰かを喜ばせたくって、助けたくって、力になりたくて、誰かのため、誰かを守るため、そして、誰かの信頼に応えるため、そんな想いを込められた魔法は奇跡を起こす。

 

思い返してみれば、何度もそれを目の当たりにしている事に気付いたみらい達はようやくアネットの言っていることを理解した。

 

「…わかったみたいだね、努力と根性、イメージも大切、けれど一番大切なのは誰かを想うこと。それを忘れない限り、みんなは凄い魔法使いになれるよ」

 

私が保証する!と胸を張って笑うアネットをみらいとリコはぼーっと見つめ、八幡は少し顔を赤くして視線を逸らす。

 

「モフ~」

 

そしてモフルンはそんな三人を見て、嬉しそうな表情を浮かべた。

 

「さて、大分話が長くなっちゃったけど…ってどうしたの?」

 

魔法については一区切りついたので、みらい達の話を聞こうと仕切り直そうとした矢先、三人の様子にアネットは首を傾げる。

 

「え、いや…その…なんというか…」

「ええと…」

 

なんといっていいのかわからず言葉に詰まる二人。それはアネットの真っ直ぐな言葉にあてられて照れたせいなのだが、当の本人は無自覚らしく気付いていない。

 

「…なんでもないです」

「そ、そう?ならいいけど…」

 

それを悟った八幡が誤魔化すように呟くと、アネットは少し疑問が残ったような表情をうかべたが、とりあえずは納得した。

 

「それで?今日はどうしてうちのお店に?」

 

全員が座ったのを確認してアネットがそう尋ねる。

 

そもそもアネットは接客をしている最中、知り合いの少女らしき人物が知らない二人に詰め寄られていたから声をかけただけで事情をなにも知らない。

 

「実は…」

 

そこからみらいと八幡が簡単に事情を説明する。その間リコはというと、モフルンを膝に乗せモフモフしていた。

 

「…それで、どうしようかなって話してたら…」

「私が来たってことね…でも、どうして店に入るまで気付かなかったの?」

 

一通り話を聞いたアネットのもっともな疑問に、モフルンをモフモフしていたリコの手が止まり、肩がビクッと震える。

 

「そ、それは…」

「もしかしてリコがうっかり忘れてたとか?」

 

言い淀む様子を見て、理由を察したアネットが一発で正解を言い当てるとリコは顔をひきつらせて、慌てたように口を開く。

 

「そ、そんなわけないでしょ!私がそんな当たり前のこと忘れるわけ…」

「じゃあどうして?」

 

どうにか誤魔化そうとしたリコだったが、その質問に答えることが出来ずに押し黙ってしまった。

 

「…変なところで意地を張るのは相変わらずみたいね」

 

呆れたようにそう言うとアネットはリコに近付いて頭を撫でる。

 

「よしよし」

「ちょっ…もう子供じゃないんだから!」

 

撫でる手を振り払うように頭を振るリコだが、動きに合わせてアネットが追従するので振り払えず、最終的には為すがままにされてしまう。

 

「…いいなぁ」

 

撫でられているリコを見て、みらいがぼそりと呟く。

 

「みらいちゃんもおいで?」

 

その呟きに気が付いたらしく、アネットは手招きしてみらいを呼ぶとリコと同じように頭を撫でる。

 

「えへへ~」

 

嬉しそうに笑うみらいに横で撫でられているリコも自然と笑顔を浮かべた。

 

「…どういう状況?」

 

アネットに撫でられている二人を前に八幡は思わず困惑した声が出てしまう。

 

「八幡君もおいで?」

 

みらいと同じ調子で八幡にも手招きするアネット。

 

「…遠慮しときます」

 

その誘いを断る八幡。年上のきれいなお姉さんに頭を撫でられるというのは流石に恥ずかしい。

 

 

 

 

謎のなでなでタイムも終わり、ふとアネットが思い出したように口を開く。

 

「そういえばうちのお店、普通の小物なんかも売ってるよ?」

「「え?」」

 

その一言であっさりと問題が解決してしまい、声を揃えて驚く二人。

 

「普通っていうのは、魔法がかかってない物もあるって事ですか?」

「うん、作るのは魔法で作ってるけど、完成した品物には魔法をかけてないから不自然に動いたりはしないよ」

 

そういう品物にも需要があるからと言うアネットの言葉に八幡はなるほどと納得する。

 

「どういうこと?」

 

一人で納得している八幡に向けてリコが尋ねた。

 

「ここに買い物にくる全員が魔法のかかった商品を買いにくるわけじゃないってことだ」

「そっか、かかってない方がいいって人もいるかもしれないもんね」

 

魔法で動くインテリアは確かに珍しい。だが、部屋に飾るのにそういった機能はいらないと言う人だっているだろう。

 

「その通り!だから魔法のかかっていない商品はかかっている商品より少し安くして販売してるの」

「確かにそれなら普通の商品がほしいって人にも来てもらえるわね…」

 

かかっている商品とかかっていない商品、どちらか選べて、きちんとどちらにも損がないように配慮してあるなら自分の目的に合わせて買い物できるため、人気があるのも頷ける。

 

「…まさかあのアネットさんがそこまで考えてるなんて…!?」

「…なんかリコってば私に対して辛辣過ぎない?」

 

本日二度目のショックを受けているリコにアネットが口を尖らせて呟く。

 

「そういえばリコ、さっきアネットさんの伝説がどうって…」

 

二人のやりとりを見て、みらいがそんなことを言い出した。

 

「言ってたな、伝説を知らないからそんなことが言える…とか」

 

八幡もみらいの言葉に頷いて口を開く。

 

「で、伝説なんて大げさだと思うよ?そんな大したことはしてないし…」

 

二人の問いに答えたのはリコではなく、なぜか目線を逸らして明後日の方を向いているアネットだった。

 

「一体何をやらかしたんだこの人…」

 

その伝説が自慢できるものなら、むしろ吹聴して語るのが人の心情だ。

 

しかし、アネットのそれは完全に何かを隠しておきたい人の反応、一見謙遜しているようにも見えるが、誤魔化しきれていない。

 

そんなアネットの反応から伝説の内容を想像した八幡の口からつい、そんな言葉がこぼれる。

 

「本当に大したことじゃなかったら何年も生徒の間で語り継がれてないわよ…」

 

リコはそう言うと、語り継がれる伝説について話始めた。

 

伝説その1、入学式の大騒動。アネットが魔法学校に入学したその日、入学式に集まった全校生徒と先生達がいる中でアネットは杖を片手に箒に乗り、上空から高らかにある宣言をする。

 

「私はこの学校で一番になってマホウ界に革命を起こします!」

 

そして宣言の後、アネットが呪文を唱えて指を鳴らすと校舎全体の色が光輝いた…とか。

 

伝説その2、中庭の巨大水オブジェクト事件。その名の通り、ある日突然学校の中庭に水でできた巨大なオブジェクトが現れ、これまたアネットが上空から宣言する。

 

「これが私の自信作!さあみんな私を誉め称えなさい!」

 

そう言って高笑いをした直後、オブジェクトが崩壊して校舎が水浸しになった…とか。

 

伝説その3、校内対抗暴走箒レース事件。校舎全体をコースにして、参加者をこっそり募り、アネットが企画した箒レース。

 

非公式にも関わらず、各学年からそれなりの人数が参加したそのレースは熾烈(しれつ)を極めたが、最後はアネットが箒の上に立ち、両手を挙げながらゴールして優勝。

 

その結果、アネットの真似をして箒の上に立って乗る生徒が続出し、箒から落ちて怪我をする生徒が増え、更にはレース中に学校の備品があちこちで壊れていた事が判明して、それ以降、校内対抗箒レースが開催されることはなかった…とか。

 

他にも様々な伝説がリコの口から語られるが、そのどれも確かに伝説と言われるだけのエピソードばかりだった。

 

「…結局全部やらかした話じゃねえか…」

 

リコの話を聞き終えた八幡がぼそりとそんな感想を漏らす。

 

「アネットさんって子供の頃からすごかったんだね」

 

みらいが目をキラキラさせてアネットの方を見つめる。

 

「やめてぇ…それは私の黒歴史ぃ…」

 

八幡の呟きとみらいの視線に耐えられなくなったらしく真っ赤になった顔を両手で覆い、(うずくま)るアネット。

 

「黒歴史が永遠と語り継がれるとか地獄だろ…」

 

黒歴史という単語に反応して八幡が踞るアネットに同情の視線を向けた。

 

「…ともかくこれで私が驚いた理由がわかったでしょ?」

 

アネットの様子から、リコが少しばつの悪そうな表情を浮かべる。

 

「まあ…確かに」

 

リコの言葉に同意する八幡。あれだけやらかした人物がお店を経営していると聞いたら驚くのも頷けるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見つからないじゃと!?」

 

広い図書館に校長の大きな声が響く。

 

「は、はい…マキナ先生が下宿していた部屋にも行ってみたのですがもぬけの殻でして…」

 

滅多なことでは大声を上げない校長のそんな様子から、ようやくただ事ではない事態が起きている事を理解した教頭。

 

それに加えて、突如として姿を消した同僚についての記憶に違和感を覚えていた。

 

「その…校長先生はマキナ先生についてご存知なかったのですか?」

「うむ…そのマキナという名には聞き覚えがない、そもそも、其奴が教員として来たのはいつからじゃ?」

 

この魔法学校の長たる校長の許可なくして教員になるのは不可能。

 

にも関わらずマキナと名乗る人物が校長の認知しないところで教員して勉を振るっていたというのなら一体いつからなのか、そしてその目的は何か調べる必要がある。

 

「それは確か……いつだったかしら?」

 

校長の問いに教頭は首を傾げた。しかしそれも仕方ない、おかしなことにどれだけ記憶を振り返ってもマキナがいつから同僚だったのか靄がかかったように思い出せない。

 

「まさか…魔法で記憶の改竄(かいざん)を…?」

 

教頭の様子を見てその可能性に気付く校長。それと同時に使われている魔法恐ろしいさと凄まじさに戦慄した。

 

(一体どれほどの…既存の魔法では…いや仮に闇の魔法であっても可能なのか…?)

 

ここまでの規模で記憶を改竄する魔法は魔法学校の校長であっても聞いたことがない。

 

(こんな大規模な魔法を使ってまで潜入した目的とは…)

 

部屋がもぬけの殻ということは潜入する必要がなくなった、もしくは目的が達成されたかのどちらか、校長はそこまで考えるとハッとしたように顔を上げた。

 

「教頭、みらい君達は今どこに?」

「?あの子達なら買い物に行くと言って魔法商店街へ行きましたよ」

 

マキナのことで頭が混乱している中、突然そんなことを聞かれ教頭はさらに困惑する。

 

「なんじゃと!?こうしてはおれん!」

「ちょっと!?校長先生!?」

 

慌てて出ていく校長。事態についていけない教頭は一人ポツンと図書館に残される。

 

「もうなにがなんだか…」

 

もはや、困り果てた教頭には頭を抱えることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こっちの棚が普通の商品だよ」

 

可愛らしいデザインからスタイリッシュなものまで並んでいる棚を指してアネットが言う。

 

「わぁ…いっぱいあって迷っちゃうねモフルン!」

「モッフー!たくさんあるモフ!」

 

目移りしながらはしゃぐみらいとモフルン。

 

「魔法のかかってない商品ってこんなにあるのね…」

「…見た目だけだとどう違うのか見分けがつかねぇな」

 

見落としていたことにショックを受けるリコを八幡はそれとなくフォローする。

 

あの後、しばらく踞っていたアネットだったが、突然、普通の商品の棚に案内すると言って何事もなかったように立ち上がった。

 

どうやらアネットは黒歴史について何も聞かなかった事にしたようで、八幡達もそれに合わせて聞かなかったフリをすることにして今に至る。

 

「あ!このマグカップ可愛い!」

 

みらいがピンク色のハート模様をあしらったデザインのマグカップを手にとって目を輝かせる。

 

「ん?そのマグカップだったら他にも種類があるよ」

 

そう言って奥の方から同じ形をした色の違うマグカップを取り出すアネット。

 

「青に緑、黄色と白…それとみらいが持ってるピンク、全部で五色みたいね」

 

マグカップが気になったのかリコが横から覗き込む。

 

「お土産はそれにするモフ?」

「うーん…どうしよう…」

 

五色のマグカップを見つめて悩むみらい。可愛いマグカップなのだが、家族へのお土産にするには微妙なところらしい。

 

「…そんなに悩むんならお土産は別のにして自分用それを買えばいいだろ」

 

別の棚を物色していた八幡が背中を向けたまま呟いた。

 

「自分用……そうだ!」

 

何か思い付いたのか、みらいは八幡の言葉を反芻(はんすう)して少し考えた後に突然大きな声を上げる。

 

「せっかくだからみんなで買ってお揃いにしようよ!」

「は?」

「へ?」

「モフ?」

 

唐突なみらいの提案に少し面を食らったような返事を返す三人。お揃いにするという提案事態は普通なのだが、毎度ながら突然言われると戸惑ってしまう。

 

「お揃いにするの?そういうことならセットでお安くするよ?」

 

その提案に便乗してここが売り時とばかりに割引を勧めるアネット。学生時代がどうであれ今はこの店の経営者、その商売根性はなかなかに(たくま)しい。

 

「いやまだ買…」

「いいんですか!やったー!!」

 

買うとはいっていないと八幡が言いきる前にみらいの嬉しそうな声がそれを遮った。

 

「………」

「いつの間にか買う流れになってるわね…」

 

言葉を遮られた八幡はみらいにジト目を向け、リコは自然と買う流れになっていたことに苦笑する。

 

「毎度あり~♪色はどうするの?」

 

マグカップが売れて上機嫌なアネットが包装の準備をしつつ、みらいに尋ねた。

 

「えーと…モフルンが黄色でリコが青!それから…八くんは白…かな?」

「なんで疑問型なんだよ…」

 

そもそも買う流れになってしまったのは仕方ないとしても、買うのは八幡自身なのだから色くらいは選ばせてほしい。

 

「いや~なんとなく八くんは白かなって」

「…さいですか」

 

諦めたような返事を返す八幡。正直なところ何色でもいいのだが、自分に白色というイメージが結び付かない。

 

結局、三人でお金を出しあって五つのマグカップをセットで買うことになった。

 

みらいはハートをあしらったピンク、リコは星が散りばめられた青、モフルンはお菓子な黄色、そして八幡はぐるりと赤い輪っかが描かれている白のマグカップが割り当てられる。

 

「あとひとつはどうするの?」

 

余ってしまった緑のマグカップを見つめてその行く末を尋ねるリコ。

 

「へ?」

 

しかし、尋ねられたみらいは余るということを失念していたらしく、きょとんとした顔をしていた。

 

「…まあ、誰かが使うだろ」

 

そんなみらいの代わりに八幡が適当に答える。全員でお金を出しあったのだから誰かのマグカップが壊れた時用の予備にすれば問題ない。

 

「それもそうね…ってもうこんな時間!?」

 

八幡の答えに納得して頷くリコの視線が時計を捉え、予想以上に時間がたっていた事に驚く。

 

「包装し終わったけど…どうする?このまま持っていく?」

 

可愛らしく包装された箱を手にアネットがそんなことを聞いてきた。

 

「えっと…?」

「や、みらいちゃん達はこの後も商店街を回るんでしょ?この包みを持ったままだったら邪魔になるんじゃないかと思って」

 

確かに荷物を持ったままというのは少し煩わしいが、ここに置きっぱなしというのも迷惑がかかるし、後から取りに来るのも手間になる。

 

「良ければ学校まで届けるよ?うちのお店配達もやってるから」

 

アネットの提案は願ってもないものだった。それなら後から取りに来る必要もないし、そういうサービスをしているのなら迷惑というわけでもないだろう。

 

「うーん…どうしよっか?」

「いいんじゃないかしら、荷物を持ったままは疲れるだろうし…」

 

そう言ってちらりと八幡を見るリコ。おそらくリコの中で八幡が荷物を持つことが決定しているのだろう。ならば八幡としても配達してもらうのには賛成なのだが…。

 

「…その配達は無料ですか?」

 

アネットは配達もしているとは言ったが、それが無料(ただ)だとは一言も言っていない。

 

「…もちろん」

「今の間は何かしら…?」

 

八幡の質問に目線を逸らすアネットの表情はまるで隠し事を見つかった子供のようでリコは呆れながらツッコミをいれた。

 

「…本当は有料だけど、サービスで無料ってことにさせていただきます…」

 

どうやら八幡の指摘は正しかったらしい。なにも言われなければ代金を払うときにしれっと配達料を上乗せするつもりだったようだ。

 

「なんか悪いことしちゃったかな…?」

 

直接問い詰めたわけではないが、アネットのあまりのしょぼくれようにみらいが呟く。

 

「気にしなくても大丈夫よ、どうせすぐに元気になるか

ら」

「でも…」

 

昔からの付き合いのリコはそう言うが、それでも未だにみらいの表情は晴れない。

 

「…配達料のことを黙っていた罰が当たったんだよ」

「え?」

 

気にしすぎるみらいを見かねて、八幡が口を開く。

 

「これが普通に配達料がかかるって言われているのに、文句をつけて無料にしてもらったならあれだが、向こうはそれを黙って払わせようとしたんだからそんなに気にする必要もないだろ」

 

無論、来る客全員にこんな騙し討ちじみたことをしているわけではないだろう。

 

多少違和感を感じるが、おそらく知り合いだからこそ出たアネットの茶目っ気のはずだ。

 

でなければこの店がこんなに繁盛している訳がない。

 

「そうかもしれないけど…そんな言い方しなくても」

 

理由としては納得したみらいだったが八幡の少しきつい言い回しにムッとした表情を浮かべる。

 

「え、えーと…なんかごめんね、八幡君の言う通り私の悪ノリが過ぎたせいだから気にしないで?」

 

険悪な雰囲気になり始めたのを察したアネットが慌ててその旨をみらいに伝えると、そのムッとした表情も収まり、ようやく事なきを得た。

 

 

 

それからみらいと八幡、それぞれが家族へのお土産を無事に選んで、それも魔法学校へ配達してもらうことになった。

 

その分の配達料も無料にしてもらったのだが、よくよく話を聞くと、どうやら始めから配達料をとるつもりはなかったらしい。

 

話している途中で()()()急に配達料が惜しくなってつい、黙ってしまったようだ。

 

「本当にごめんね、せっかくの楽しい買い物に水を差すようなことしちゃって…」

 

会計のためにレジに立ったアネットが沈んだ表情で謝る。

 

「そんなことは…」

 

確かに少しだけ険悪な空気になったものの、そこまで気にする程でもない。

 

しかし、アネットにとっては自分の行動がショックだったようでリコの言葉に自嘲した笑みを浮かべていた。

 

「…なら次来た時にまた割引でもしてください」

「え?」

 

沈んだ表情のアネットが目を丸くして八幡の方を見る。

 

「まだまだ見たりないもん!絶対にまた来ます!ね?リコ!」

 

八幡に続いてみらいが元気な声でリコに同意を求めた。

 

「へ…あ、そ、そうねまた来ましょう」

「モフルンもまた来たいモフ~」

 

二人の意図を読み取ったリコは頷き、モフルンも笑顔を浮かべる。

 

「みんな……うん!今度は飛びっきりのサービスしちゃうから、任せて!」

 

みらい達の言葉で元気を取り戻したアネットからは、さっきまでの沈んだ表情はすっかり消え、飛びっきりの笑顔で四人を見送るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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アネットの店を後にした四人は昼食をとるためにいくつもの出店が集中している広場を目指していた。

 

「思ったよりアネットさんのお店で時間をとられたわね…」

「でも楽しかったよ!素敵なお土産も買えたし、アネットさんは優しいかったし」

「マグカップも嬉しいモフ!」

 

色々あったが、それぞれ満足したようで足取りは軽い。

 

「…まあ、色々と凄い人だったな」

 

疲れた表情で八幡が呟く。伝説もそうだが今のアネットも凄い人というのは変わりなく、八幡としても初めて関わるタイプだったので疲れたようだ。

 

「それにしても八くんがあんなこと言うとは思わなかったよ~」

「あんなこと?」

 

唐突なみらいの言葉が何を指しているのかわからずに八幡は眉根を寄せる。

 

「ほらアネットさんに次来たときって言ってたでしょ?八くん出掛けるのを嫌がってたからうれしいなって思って…」

「いや…あれは…」

 

あの時、口から自然と出た言葉で八幡は自分でもどうしてああ言ったのかわからなかった。

 

春休みが終わればいなくなる八幡には次の機会なんてないにも関わらずそんな事を口にしてしまったのはどうしてなのか、答えはでない。

 

そこから先の言葉に詰まり、八幡は黙り込んでしまう。

 

「あらあら、楽しそうですね」

 

そんな時、四人の前に突然人影が現れた。

 

「マキナ…先生?」

 

リコが戸惑った声を出す。その人物はみらい達の補習を担当しているマキナだったのだが、いつもと纏う雰囲気があまりにも違った。

 

「本当ならもう少し先生を続けたかったのだけれど、残念ながらそうもいかなくなったの」

「何を…」

 

口調も雰囲気もあきらかにみらい達の知っているマキナではない。四人はそんなマキナにどこか恐ろしいものを感じて後ろに一歩下がる。

 

「そんなに怖がられると先生傷ついちゃうな」

 

言葉とは裏腹に笑いながら近付いてくるマキナは、今まで対峙してきた闇の魔法使いよりも怖い。

 

「…アンタは誰だ」

 

みらい達を庇うように前に出た八幡がマキナに問う。

 

「ふふっ誰って私はマキナ先生よ?まあちょうどよかったわっと」

「!?」

 

マキナが答えた瞬間、いつの間にかその顔が吐息の掛かるほど近くまで来たことに驚く八幡。

 

「用があるのは貴方だけ」

 

パチンッ

 

指を弾く音が響いてマキナと八幡の姿が消えはじめた。

 

「八くんっ!!」

「八幡っ!!」

 

消える八幡へと伸ばした二人の手は届かずに虚しく空を切る。

 

「そんな…」

「っ…」

「モフ…」

 

残された三人は八幡の消えた場所を見つめて愕然と呟いた。

 

「皆っ無事かっ!?」

 

そんな中魔法の絨毯に乗った校長が血相を変えて飛んで来る。

 

「校長…先生」

 

三人の様子とその場に八幡がいないことから校長は嫌な予感が当たってしまったことを悟った。

 

「っ間に合わなんだか…」

 

校長は一足遅かったことに歯噛みしながらも、事態の把握に勤めるべく頭を切り替える。

 

「何があった?」

「…突然マキナ先生が現れて八幡を連れて消えてしまいました…」

 

未だに起こったことが信じられないのか、リコの答える声は震えていた。

 

「消えた…奴の狙いは八幡君だったということか…」

「奴の狙い…?」

「っどういうことですか!?」

 

何かを知っているらしき校長の言葉にみらいとリコが詰め寄る。

 

「…君達には謝らねばならん。全てはわしの警戒不足じゃった…すまぬ」

 

そう言って頭を下げる校長。そして次の一言に二人は目を見開いた。

 

「まず魔法学校にマキナという名前の教師は存在しない」

「「え…?」」

 

衝撃の言葉に固まる二人。それもその筈、なら今まで先生として接し、先程八幡を連れ去った人物は誰なのかという話になる。

 

「でも先生はちゃんといたモフ」

 

固まる二人に代わってモフルンが問い返した。

 

「左様、しかし校長であるわしはその事実を知らなんだ。マキナと名乗る人物はわし以外の魔法学校の教師を含む生徒全員に自分が教師だと信じ込ませていたのだ」

「ぜ、全員って一体どれだけの人数が…」

「そんなことができるんですか…?」

 

とてつもない規模にリコは絶句し、みらいがそんな事が可能なのか疑問を口にする。

 

「…わからん、少なくともわしの知る限りここまで大規模の魔法を使えるものなどおらぬ」

 

魔法学校の校長ともあれば、魔法もそれを行使する魔法使いもマホウ界の誰よりも知っていると言っても過言ではない。

 

その校長をして驚愕させる魔法を行使したマキナはよもやただの魔法使いではないだろう。

 

「だが今はそれを考える時ではない、一刻も早く八幡君を助け出さねば」

「でもどこに…」

 

八幡を助けに行こうにもどこへ消えたわからない上に闇雲に探し回れるほど猶予はない。

 

「どうしたら…」

 

何の解決策も思い付かないまま時間だけが過ぎていく。

 

「はー!!」

 

そんな暗い空気を打ち破るように元気な声が鳴り響いた。

 

「はーちゃん?」

「はー!はー!」

「どうしたの突然…」

 

スマホンから飛び出したはーちゃんはちょこんとみらいの掌の上に乗るとしきりにある方向を指差す。

 

「これは…もしやその方向に八幡君が…」

「え?そうなの?はーちゃん?」

「はー!」

 

みらいの問いに元気よく答えるはーちゃん。なぜかはわからないがはーちゃんには八幡のいる場所がわかるらしい。

 

「他に宛もないわ…ここははーちゃんを信じて行ってみましょう」

 

リコの一言から全員がはーちゃんの指す方へと急ぎ足で向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ…ここは」

 

目の前に現れたマキナが指を弾いたと思ったら突然景色が切り替わるように一変し、八幡は見覚えのない場所に立っていた。

 

「ここは魔法商店街の外れよ」

 

八幡の疑問に答えたのはこの場所に連れてきた張本人であるマキナだ。

 

「本当はもっと遠くまで行きたかったのだけれど…どうにも貴方を連れながらだと上手くいかないみたいね」

 

マキナから注意をそらさないように気を付けて辺りの様子を窺う。

 

(商店街からはだいぶ離れている…が、縛られているわけでもないなら逃げ切れる)

 

気付かれないように杖と箒を取り出して頭の中で手順を確認する。

 

(魔法で目眩ましを食らわせたら全力で街の方へと飛ぶ、いくら瞬間移動が出来るのだとしてもこの箒の速度ならいける筈だ)

 

どんな目的で拐ったのかわからないが、八幡一人のこの状況では逃げるしかない。そう考え、腹を括って八幡は杖を突き出した。

 

「キュアップ…」

 

パチンッ

 

呪文を唱えようとした瞬間、指を弾く音が響いて八幡の体が硬直する。

 

「っ…!?」

 

杖を突き出したまま硬直した八幡は声も出せず、もう片方の手に隠し持っていた小さいままの箒を落としてしまった。

 

「残念だけれど、貴方達の戦いは全て見せさせて貰ったわ…だからこの状況で貴方がどうするのか簡単に予想ができるの」

 

そう言ってマキナは八幡に近付くと手に持っていた杖を取り上げて後ろに向かって放り投げる。

 

「これで貴方は何も出来ないわね」

「っ……」

 

マキナの言う通り、杖を取り上げられ、体の自由を奪われた八幡にはもう抵抗する手段が残っていない。

 

そんなわかりきった事をあえて言い聞かせるように言うということはおそらく八幡の抵抗する意思を削ぐためだろう。

 

「そんなに怯えなくても大丈夫、私は貴方のことが知りたいだけだから…ね?」

 

パチンッ

 

三度、マキナが指を弾くと、それを皮切りに八幡の全身に凄まじい悍気(おぞけ)が襲ってくる。

 

まるで体の内側から全身に至るまで、隅々を這いまわれるような感覚。そして次に襲ってきたのは記憶のフラッシュバックだった。

 

━なあ俺達友達だよな?

 

━謝れよ!お前が悪い事をしたんだから

 

━気持ち悪いんだよ…お前

 

次々に浮かんでくるのは八幡にとって心的外傷(トラウマ)ともいえる記憶ばかり。

 

もうすでに過去の出来事だと理解していても一度に押し寄せてくる負の記憶は八幡の心を抉っていく。

 

「がぁぁぁぁっっ!!?」

 

抉られた痛みは叫びとなって八幡の口から漏れ出ていく。

 

「あらあら、とても辛そうね。よしよし」

 

叫ぶ八幡を見て楽しそうに笑い、その頭を撫でるマキナ。先程まで声が出なかった筈なのに叫び声が出るということは、わざわざ苦しむ声を聞くために拘束を解除したのだろう。

 

「ぐっがぁっ!!?」

 

どれだけ叫ぼうとも、次から次へと八幡に容赦することなく負の記憶が思い起こされていくそんな時だった。

 

「八くーん!!」

「八幡ー!!」

 

二人のいる場所へと街の方から魔法の絨毯が物凄いスピードで飛んでくる。

 

「…あら?呼んでもいないのにしょうのない子達ね」

 

飛んでくる魔法の絨毯を見つめマキナは呆れたように呟いた。

 

「見つけた!」

「八幡!」

 

八幡の姿を見つけ、絨毯から降り立ったみらいとリコはマキナと対峙する。

 

「お主がマキナか、これ以上好きにはさせぬ!」

 

その後から校長とモフルン、そしてモフルンの頭の上に乗っかったはーちゃんが続いた。

 

「八幡が苦しそうモフ!」

「はー!」

 

モフルンとはーちゃんが八幡の様子に気付いて心配そうに声を上げる。

 

「っ八くんに何をしたの!?」

「何って…ちょっと記憶を覗いてるだけよ?それよりも…どうしてここがわかったのかしら?」

 

声を荒げるみらいを適当にあしらいつつ、マキナは全員に探るような視線を向け、はーちゃんを見つけると、そこで止まった。

 

「ふーん…なるほど、その妖精の子の仕業といったところね」

 

視線がはーちゃんに向いたことで庇うように立ち塞がるみらいとリコにマキナは肩を竦める。

 

「そんなに警戒しなくても、その子に手を出す気はないわ…で?何の御用?」

「八くんを返して!」

 

首を傾げてそう問うたマキナはみらいの返答に笑いを押さえきれないといった様子で答え返した。

 

「ふっふふ…返してなんておかしな事を言うわね、別に貴方のものというわけでもないでしょうに」

「っあなたのものでもないわ!八幡は八幡自身のものよ!」

 

リコがそう言い放つと、とうとう大きな声で笑い出したマキナ。

 

「ふっ…アッハッハッハッ…そうね、その通りだわ。ならどうして貴方達は八幡君を助けにきたのかしら?」

「どうしてって、友達を助けるのは当たり前でしょ!」

「八幡は私達の大切な仲間よ!見捨てられるわけないじゃない!」

 

その答えにマキナは更に大きな声で笑い、(あわ)れむかのような目で二人を見つめる。

 

「友達、ねぇ…それは貴方達が勝手に思っているだけではないの?」

「なっ…そんなこと…」

「ないと言いきれる?」

 

思わぬ問い掛けに動揺して一瞬詰まってしまうリコ。それに畳み掛けるようにマキナの言葉が突き刺さる。

 

「それは…」

「そんなことない!」

 

揺らぐリコの不安をみらいの力強い言葉が払った。

 

「みらい…」

「…その自信はどこからくるやら…はぁ…仕方ないわね」

 

みらいを忌々しげに見つめ、ため息を吐くとマキナは掛けている赤い丸眼鏡を外して空高く放り投げる。

 

「えーと、確か…こうだったかしら?魔法、入りました。出でよっヨクバール!」

 

パチンッ

 

そしてマキナが指を弾くと、空中に魔法陣が現れ、放り投げた丸眼鏡と地面に落ちていた八幡の箒が吸い込まれていく。

 

「ヨォクバール!」

 

中から現れたのは箒が眼鏡を掛けているような一見ふざけた姿をしたヨクバールだった。

 

「あらあら、中々に可愛らしいじゃない…あの子達の相手はお願いね」

「ヨォクバール!」

 

指示を受けたヨクバールが二人の前に立ちはだかる。

 

「いくよ!リコ!八くんを助ける!!」

「…ええ、待ってなさい八幡!」

 

決意を胸に二人はお互いの手をぎゅっと繋いだ。

 

「「キュアップ・ラパパ!」」

 

「「ダイヤ!」」

 

「「ミラクル・マジカル・ジュエリーレ!!」」

 

光が二人を包み込んで消え、魔法陣と共に変身した姿で現れる。

 

「ふたりの奇跡!キュアミラクル!!」

 

「ふたりの魔法!キュアマジカル!!」

 

「「魔法つかいプリキュア!!」」

 

ダイヤの力を纏った二人は名乗りをあげて戦うべき敵を見据え、ポーズを決めた。

 

「ヨォックバールッ!!」

 

それと同時にしびれを切らしたヨクバールが土煙を上げながら突っ込んでくる。

 

「「ふっ…はぁっ!!」」

 

突進をくるりとバックステップでかわした二人は勢いをそのままに隙だらけになったヨクバールの横っ腹に向かって同時に突きを繰り出した。

 

「ヨォクバールッ!」

 

突きが当たる直前、ヨクバールはその場で回転し攻撃してきた二人を逆に吹き飛ばす。

 

「きゃあっ!?」

「くっ!?」

 

予想外の反撃で防御する暇もなく、攻撃がまともに入ってしまい受け身さえとれなかった。

 

「ヨォクバールッ」

 

畳み掛けるようにミラクルの方へと再び突進するヨクバール。そのスピードは最初の突進よりも速い。

 

「ミラクルッ!」

「っ!」

 

マジカルの声に反応し、咄嗟(とっさ)に思いっきり横に飛ぶことで間一髪かわすことに成功したミラクルだったが、その余波で更に吹き飛ばされてしまう。

 

「っやぁぁっ!」

 

吹き飛んだミラクルに追撃を加えようとしているヨクバールの注意を逸らすためにマジカルが攻撃を仕掛けた。

 

「ヨォクバー…ルッ!」

 

しかし、その攻撃はあっさりとかわされ、無防備になったマジカルに最初のお返しと言わんばかりのヨクバールの攻撃が直撃する。

 

「かひゅっ…」

 

あまりの衝撃に肺の空気が全て押し出され、そのままマジカルは地面に叩き付けられた。

 

ドゴォッンッ!!

 

叩き付けられた衝撃で轟音と共に土煙が舞い上がり辺りを一帯包み込む。

 

「うぅぅぅ…」

「っ………」

 

土煙が晴れて現れたのは傷だらけで地面に伏すミラクルとマジカルだった。

 

「ミラクルっ!マジカルっ!」

 

ボロボロの二人の姿にモフルンが悲痛な叫びを上げる。

 

「伝説の魔法使いであるプリキュアがこうも一方的に…」

 

マキナが生み出したヨクバールの力に戦慄する校長。それもその筈、学校での戦いではヨクバールとプリキュアにここまでの力の差はなかったからだ。

 

「っぅ…いつもより…強い…!」

 

ミラクルが絞り出すように呟く。今まで何度かヨクバールと戦ってきたが、苦戦することはあれど全く歯が立たないことはなかった。

 

「ヨォクバール」

 

ところがこのヨクバールは違う。

 

二人の攻撃をかわし、隙を狙ってカウンターを繰り出す事のできるスピード。

 

たった二発で二人を満身創痍にしたパワー。どれをとってもこれまでのヨクバールより上だ。

 

「あら?もう降参かしら?」

 

心底楽しそうに嗤うマキナ。そのすぐ隣には未だに苦しそうに呻く八幡が見えた。

 

「っくぅ…まだまだっ…!」

「っ…降参なんてするもんですかっ…!」

 

絶対に負けないという決意で二人はボロボロのまま立ち上がる。

 

「そう。なら…ヨクバール、止めを刺してあげなさい」

「ギョォイ」

 

先程とは打って変わった冷たい声音でマキナがそう言い放つと、命じられたヨクバールが突撃体勢に入った。

 

「マジカル!」

「ええ!いくわよミラクル!」

 

それを見て二人もヨクバールを迎え撃つべく構える。

 

「「リンクルステッキ!」」

 

「「ダイヤ!」」

 

リンクルステッキへとダイヤのリンクルストーンがセットされた。

 

「「永遠の輝きよ!私達の手に!」」

 

光が一面に広がり、二人はステッキを頭上へと構える。

 

「ヨォクッ!」

 

そこへ今までで一番の速度を出しながらヨクバールが迫った。

 

「「フル…フル…リンクル!」」

 

二人は三角形を描いてダイヤを作り出しヨクバールを迎え撃つ。

 

「「プリキュア!」」

 

ダイヤの光とヨクバールの放つ闇の力が激突し、せめぎあう。

 

「「ダイヤモンド…」」

 

そして、闇に打ち勝ちダイヤの光がヨクバールをダイヤモンドの中へと封じ込めた。

 

「「エター…っ!?」」

 

浄化まであと一歩というこの状況で二人は驚愕に目を見開く。

 

ピキッ

 

なんとヨクバールの封じ込めた筈のダイヤモンドが徐々にひび割れ始めていたのだ。

 

ピキピキピキッ━

 

「「っ!?」」

 

「ヨォクバールッ!!」

 

封じ込めていたダイヤモンドは完全に崩壊し、ヨクバールが解き放たれてしまう。

 

「「きゃぁぁぁっ!?」」

 

至近距離で突き破られた衝撃を浴びた二人は為す術もなく吹き飛ぶしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

暗闇の中、八幡の吐く荒い息の音だけが空間に響きわたる。

 

「これ…で…何度…目…だ…」

 

誰に聞かせるでもない独り言を息も絶え絶えに呟き、疲弊しきった精神を気休め程度に誤魔化した。

 

「っ…また…!」

 

暗闇の空間が色づいてあっという間に形を変えていく。

 

そこに現れたのは教卓ときれいに並べられた机と椅子、そして見知った制服をだった。

 

「今度は中学時代…一体いつまで…」

 

何度目かの光景。というのもここはマキナの作り出した精神世界で、八幡のトラウマと呼べる記憶ばかりを再現し続けるらしい。

 

なぜこんなことをしているのか目的はわからないが、トラウマが再現される度に八幡の精神はじわじわと削られていく。

 

『おいお前だろ?財布を盗んだの』

 

いつの間にか再現が始まり、一人の男子生徒が過去の八幡に詰め寄っていた。

 

『お前しかいねえんだよ!白状しろ』

 

決めたつけた口調で怒鳴る男子生徒に対して過去の八幡は無視を決め込んでいる。

 

(確か…)

 

この出来事は八幡の元にリンクルストーンが現れた後の事、晒し者にされた影響で後ろ指を差される毎日を送っていた時だ。

 

クラス内で財布の紛失事件が起き、その犯人として八幡が槍玉にあげられる。当然のごとく八幡の肩を持つ者など誰もおらず、先生でさえ八幡を犯人だと決めつけていた。

 

その挙げ句、財布の紛失は持ち主の勘違いという結果で解決したのにも関わらず、決めつけていた男子生徒は勘違いを謝るどころか大きく舌打ちをして自分の席に戻っていった。

 

「っ…」

 

そこで風景が切り替わり、今度は小学校低学年くらいの八幡が小学校のグラウンドで遊んでいる光景に替わる。

 

『待ってよー!』

 

『次はお前が鬼だぞー!』

 

幼い八幡と数人で鬼ごっこをしている様子はとても楽しそうだった。

 

(この後…)

 

友達だと思っていた、けれど日を追う毎に付き合いはなくなり、最後には無視をされるようになった。

 

『お前と遊ぶと友達に嫌われるんだよ!』

 

何が原因かは知らないが友達の友達は八幡の事が嫌いらしく、その友達にそう言われたらしい。

 

『だから話しかけてくんな!』

 

友達に嫌われる…その時はなら仕方ないと子供ながらに思ったが、それと同時にこうも思った。〝それなら自分とは友達ではなかったのか?〟と、幼い八幡を通してその言葉が今の八幡へと突き刺さる。

 

━所詮、友達なんてものは曖昧ですぐ消えるような薄っぺらい関係なんだよ

 

地の底から響いてくるように八幡の声で何かが叫んだ。

 

「うぷっ…」

 

その叫び声は頭に響き渡り不快感が押し寄せ、込み上げてくる吐き気を必死で抑えて意識を保つ。

 

『俺は比企谷の味方だからな』

 

再び場面が替わって別の教室。小学校高学年になった八幡が廊下から教室の中の会話を聞いてしまった時の事だ。

 

『あいつ、いつも一人でクラスで浮いてるからな』

 

聞こえてきたのは出来たばかりの〝友達〟の声。

 

『そういうやつと仲良さげにして見せれば先生達に受けがいいんだよ』

 

『んなわけねえだろ?むしろ嫌いだわ』

 

『それ面白そうだな!比企谷のやつがどんな顔するか楽しみだ』

 

次から次へと信じたくない言葉が聞こえてきて堪らず過去の八幡はその場から逃げ出していた。

 

そこからは今朝夢に見たばかりの光景。クラス全員で八幡を吊し上げ、友達のふりをしたそいつがにやついた顔で謝るように促す。

 

━ほらな?薄っぺらい。誰だって自分が一番、信じた奴が悪い、だから誰も信じられない

 

今度はより近くで、囁くように八幡の声が聞こえた。

 

「はぁ…はぁ…っ誰だ!?」

 

自分の声で語りかけてくる何かによりいっそう神経を削られる。

 

何度も何度も場面は切り替わり、その度に八幡の心は磨耗し、傷ついて、謎の声が近付いてくる。

 

━あの二人の事だってお前は信じられないだろ?

 

「………」

 

景色は黒一色に塗り潰され、耳元で聞こえた謎の声の言葉が核心をついたように疲弊した八幡の心を揺らした。

 

━だから些細なことでさえ言葉の端を拾って否定し、結論を歪めてまで探し続ける…

 

「…違う…俺は…あいつらは…」

 

━お前が欲しがっているものなんてどこにもない。そんなことは()自身が一番わかってるはずだ

 

「っ……」

 

突きつけられたそれは紛れもなく八幡の心。そんなものは八幡本人にしかわからない。つまり…

 

「……これは俺の本心ってわけか…」

 

どこか諦観めいた呟きと共に八幡の目が虚ろになっていく。

 

何度も裏切られて誰も信じられなかった。けれどリコと出会い、みらいに手をひかれて過ごしている内に二人なら信じられると思った。

 

それでも結局誰かを信じることなんて八幡には出来なかったのだ。

 

八幡の内からどす黒い何かが外に出ようと蠢く。もう何もかもがどうでもよくなって全部を投げ出してしまいたい衝動に駆られる。

 

「…それで楽になるなら……」

 

━それでいいの?

 

全てを諦めかけたその時、八幡の声とは違う鈴のような澄んだ声が聞こえてきた。

 

「…この声は…」

 

その声には聞き覚えがある。初めて魔法商店街に来たとき、二人を助けにいくことを躊躇っていた八幡に聞こえた不思議な声。

 

それは今と同じようにそれでいいの?と八幡に問うてきたのだ。

 

「それでいいって何がだよ…」

 

八幡もあの時と同じ台詞を呟く。あの時と違うのは今の八幡にはもう立ち上がるだけの気力がないということ。

 

━あなたは二人に何かを期待したのでしょう?

 

「………」

 

返事が返ってくるとは思わず微かに八幡は驚いた。

 

━ここで諦めるの?

 

「…押しても駄目なら諦める、人間諦めが肝心だろ」

 

本当にどうでもいいのならこんな問い掛けなんて無視すればいい、その筈なのになぜか不思議な声には答えなければならない気がして八幡は答える。

 

━ならあなたはどうしてここまで苦しんだの?

 

「それは…」

 

━諦められるのなら苦しむ必要はなかったでしょう?

 

不思議な声の言う通りここにくるまで何度も苦しい思いを味わった。八幡がもっと早くに諦めていれば苦しい思いなんてする必要はなかったはずだ。

 

━それでも苦しむ事を選んだのはどうして?

 

「…どう…して…?」

 

そう問われて八幡は自分がなぜ諦めなかったのかをようやく思い出した。

 

「…欲しいものがあった…ずっと欲しくて…でもどんなに願っても手に入らないから…そんなものはないと…あっても手が届かないものだと…そう思ってた…」

 

けれど、二人と…みらいとリコに出会い、過ごしていく内にもう一度手を伸ばしてみようと思ったのだ。

 

焦がれて苦しくても、どんなに手が届かなくても、それでも諦められないほど欲しいものがあって、二人とならそれが見える気がした。

 

━本当に()()()いいの?

 

不思議な声が最初の問いを再び投げ掛ける。

 

「俺は…」

 

その問いに答えんとする八幡の目は光を取り戻し始め、暗転していた世界がひび割れていく。

 

「俺は、二人を信じたい」

 

瞬間、暗闇が弾けた。

 

辺り一面が真っ白に染まり、暗闇を消し去っていく。

 

〝それがあなたの本当の気持ち〟

 

不思議な声が聞こえて振り返ると、何もない真っ白の世界にぽつんと誰かが立っていた。

 

「…誰…なんだ?」

 

その姿はぼやけていてはっきりと見えない。声は聞こえているのに酷く遠くに感じる。

 

〝わたしは━━━〟

 

その先の言葉が切り取られたように聞こえない。それどころか段々と不思議な声の主の姿が薄らいでいく。

 

「待っ…」

 

助けられたお礼すら告げてられていないままに消えようとしている声の主に手を伸ばす八幡だったが、届くはずもなく、その手は虚しく空を切る。

 

〝いつかあなたが本当に向き合えたのなら…〟

 

最後にそれだけ言い残すと声の主は消えてしまい、同時に八幡の意識も薄らいでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そん…な…」

「私…達の…魔法が…通じない…なんて…」

 

喋るのもままならない程ダメージを負った二人が愕然と呟く。

 

「ふふっ可哀想に、これで打つ手なしといったところかしら?」

「ヨォクバール!」

 

マキナがヨクバールを従え、二人を見下ろしながら嗤って近付いてきた。

 

「くっ…」

「まだ…」

 

立ち上がろうと力を込めるが力が入らない。戦闘によるダメージと金魔法を放った反動のせいだ。

 

「残念ねぇ…これじゃあ八幡君を助けられないわよ?」

 

倒れている二人の顔を覗き込んで嘲笑いマキナは続ける。

 

「ふふふっそんなに必死になって助けるほど友達というのは大事なものかしら?」

「当たり…前…でしょ…!」

「大事…だから…負け…られない…!」

 

二人の答えがあまりにも予想通りだったので笑いが止まらずに、しばらくマキナは笑い続けた。

 

「プッアッハッハッハッ━」

「何…がそんなにおかしいの…!」

 

ミラクルがマキナを睨む。しかし、マキナはその視線すら可笑しいと笑う。

 

「━ハァ…ごめんなさいね、大事と言う割にはあまりに脆い関係だと思って」

「どういう…こと…?」

 

その言葉に眉を(ひそ)めるマジカル。

 

「だってそうでしょう?ほんの些細なこと…そうね、例えば楽しいお買い物で()()()()()()()()()()()()()から簡単にひびが入るのだから」

「まさか…!」

「あれはあなたが…!?」

 

脳裏に店でのやりとりが浮かんでくる。あの時、どうして黙ってしまったのかアネットはわからないと言って沈んだ表情をしていた。

 

それがマキナによる魔法のせいだと知った二人は許せないと拳を硬く握り締める。

 

「あらあら、私に怒るのはおかしいわね。貴方達の言う通り、本当に友達というものが大事ならあのくらいで揺らいだりしないはずだもの」

 

そんな二人の様子にマキナはおどけるように肩を竦めた。

 

「っ…話を誤魔化さないで!あなたが魔法をかけたからアネットさんはあんな悲しい表情に…」

「話を誤魔化しているのはどちらかしら?」

 

ミラクルの言葉を遮り、マキナが間髪(かんはつ)入れずに続ける。

 

「そのアネットという人が悲しんで許せないというのなら、私はその人に謝りましょう。けれど、許せないのは本当にそれだけ?」

 

マキナは愉しそうに問い掛け、困惑する二人の顔を再び覗き込む。

 

「口では大事といっても頭では理解しているんじゃない?友達なんて所詮その程度の関係、簡単に壊れる脆いものだって」

「「………」」

 

押し黙る二人。言い返す言葉が無いわけではない、ミラクルもマジカルもマキナの言っている事にはっきり違うと言える。

 

しかし、ほんの些細なことですれ違ってしまったことは事実。当事者であるアネットが場を取り成さなければもっと(こじ)れていたかもしれない。

 

「ふーん…否定しないのね?さっきまでの威勢はどこにいったのやら…」

 

マキナはつまらなそうに呟くとくるりと背を向けた。

 

「ま、いいわ。どのみち貴方達にはもう反撃する手段は残されていないのだし、この問答も無意味ね…ヨクバール」

「ギョォイ」

 

背を向けたままそう吐き捨てるとヨクバールに指示を飛ばす。

 

「くっ…」

「体が…」

 

逃げようにも受けたダメージが大きく動けない。二人がこのまま為す術なくやられてしまうかとぎゅっと目を閉じたその時、少し離れた場所から声が聞こえてくる。

 

「キュアップ・ラパパ!閃光よ…爆ぜろ!!」

「!!?」

「ヨクッ!?」

 

突如発生した激しい光にマキナとヨクバールは驚き、怯んで動きを止めることなった。

 

「えっ…」

「一体何が…」

 

目を閉じた二人は光の影響を受けなかったが、聞こえてきた呪文と驚くヨクバールの声に戸惑ってしまう。

 

「…なぜ貴方が動けるのかしら…?」

 

後ろを向いていたおかげで光の影響の少ないマキナは驚愕と困惑の入り雑じった表情でその人物を見た。

 

「…八幡君」

「「っ!」」

 

マキナの言葉にミラクルとマジカルも(つむ)っていた目を見開くと、そこにはいつの間にか見覚えのある背中が見える。

 

「八くん!?」「八幡!?」

「…おう」

 

そこに立っていたのはついさっきまでマキナの魔法で苦しんでいた筈の八幡だった。

 

「おかしいわね、貴方は自らの記憶に押し潰されてもがき苦しんでいる筈…」

「…あんたの魔法が失敗したんだろ」

 

八幡に掛けられたのは過去を覗く魔法。マキナが八幡の事を知るために用いたものだ。

 

その副作用として覗かれた当人は過去のフラッシュバックに襲われる。八幡の見たものが負の記憶ばかりだったのはマキナが意図的にそうしたから。

 

どうしてそこから抜け出せたのか、それを明かす必要はないし、八幡自身にもよくわからなかったため適当に答えるしかなかった。

 

「八くん…良かった…」

「心配したんだから…」

 

無事な様子の八幡に安堵する二人。そんな二人のボロボロな姿に八幡は無意識に拳を握り締める。

 

「…俺のせいでこんなボロボロに…」

「八くん…?」

 

俯く八幡をミラクルが心配そうに見つめた。

 

「感動の再開はもういいかしら?」

 

驚いていたはずのマキナが余裕を取り戻した表情で尋ねてくる。

 

「…わざわざ待ってるとか、随分とお優しいことで」

「ええ、どうやったのかはわからないけれど、もう一度捕まえて確かめれば済む話だもの」

 

八幡の皮肉もどこ吹く風といった様子でマキナは返した。

 

「たとえ八幡君が動けたとしてもこの状況は変わらない。後ろの二人はボロボロ、そして貴方には戦う力はないのだから」

 

マキナの言う通り、ミラクルもマジカルも満身創痍で八幡はプリキュアのように戦う事はできない。さらに言えば、八幡の箒はヨクバールに取り込まれてしまって使えず、目眩ましも二度は通じないだろう。

 

「…確かに俺に戦う力はない、もし攻撃がかすりでもしたらそれだけで終わるだろうな」

 

否定するどころか全てを認める八幡。しかし、その目は微塵も諦めていない。

 

「…その割にはまだ諦めていないようだけど?」

 

そんな八幡の目が気に入らないとマキナは声を低くして問う。

 

「…たとえどんな絶望的な状況だろうと、俺に出来る事は変わらない…こいつらを信じる…それだけだ」

 

真っ直ぐマキナを見据えて八幡が言い放った。

 

「理解できないわね、そんなのただの他力本願でしょう?」

 

心底くだらないと八幡の言葉をマキナは切って捨てる。

 

「八くん…!」

「八幡…!」

 

マキナがくだらないと吐き捨てた八幡の言葉。けれどその言葉はミラクルとマジカルに立ち上がるための力を与えた。

 

「…まだ立ち上がるというの…?貴方達のどこにそんな力が…」

 

立ち上がろうとする二人を見てマキナは驚きの言葉を口にする。

 

「もう力なんて入らない…本当は立ち上がるのだってギリギリ…だけど…!」

 

「倒れてなんていられない…八幡が…信じるって言ってくれたから…!」

 

「「私達はその信頼に応えたい!!」」

 

どれだけ相手が強くても、どれだけ自分達がボロボロでも、大切な友達が信じてくれるのなら何度でも立ち上がる覚悟で二人が叫んだ。

 

「無駄な事を…貴方達がいくら立ち上がろうとも結果は同じ、ヨクバール!」

「ヨォクバール!」

 

目眩ましの影響がようやく薄れてきたヨクバールにマキナが苛立ったように指示を飛ばす。

 

「ミラクル!マジカル!」

 

突撃体勢に入ったヨクバールを見て、八幡は二人に向かって()()()()を投げ渡した。

 

「これって…八くんのリンクルストーン?」

「でもこれは八幡にしか触れないはずじゃ…」

 

投げ渡されたのは八幡しか触れないはずのリンクルストーン。それを投げ渡すと八幡はヨクバールの方を向いて走り出す。

 

「八くん!?」

「八幡!?」

 

急に走り出した八幡に慌てる二人。先程自分でも敵わないと言っていたのにも関わらず、向かっていくのは自滅行為に等しい。

 

「後は任せた」

 

二人の声に八幡は振り向かずに答える。このまま突っ込めば確かに八幡は無事ではいられないだろう。しかし、八幡にはある確信があった。

 

(どういうわけか知らないが、あいつは俺を生け捕りにしたいらしい…なら、このまま突っ込めば攻撃を躊躇するはずだ)

 

最初に現れた時、マキナは八幡にだけ用があると言っていた、そしてさっきも八幡をもう一度捕まえると言っている、ならば、八幡を巻き込むような攻撃は出来ないと考えたのだ。

 

「…なるほど、考えましたね。確かに私は八幡君に下手な攻撃はできません…けれど、これならどうかしら?」

 

パチンッ

 

マキナが指を鳴らすと同時に八幡の真横から突風が吹き荒れて八幡の体を吹き飛ばす。

 

「っ!?」

 

吹き飛ばされた八幡は目立った外傷こそ無いものの、地面に叩きつけられた衝撃でそのまま気を失ってしまった。

 

「っ八くん!」

「八幡っ!」

 

ミラクルとマジカルの悲痛な声が響く。今すぐにでも八幡の元へと駆け出したい二人を阻むようにヨクバールが立ち塞がった。

 

「残念だけど貴方達はここでおしまい。少し驚かされたけれどなんてことない…貴方達はボロボロでお得意の魔法も私のヨクバールには通用しないのだから」

 

再び余裕を取り戻したマキナが得意げに語る。

 

確かに現状、立ち上がれただけでボロボロなのは変わらず、切り札の金魔法も通じないままだ。

 

「このままじゃ………へ?」

「一体どうす………え?」

 

打つ手がなく八幡の投げたリンクルストーンの意味もわからないままの状況でふと、二人の耳に聞き覚えのない声が聞こえてくる。

 

「なんだろう…この声…」

「なにかを…伝えようとしている…?」

 

聞こえてくる声は酷く小さくてうまく聞き取れない。

 

「何を…?」

 

その声は二人にしか聞こえていないらしく、マキナが訝しげな表情をしている。

 

「もう…一度…?」

「おも…い…?」

 

断片的に聞き取れた単語はそれだけ。それだけでは到底、何を伝えたいのかわからない筈なのに、二人にはその声の言わんとしている事が不思議と理解できた。

 

「…魔法に大切なのは誰かを想うこと…」

「…その想いが魔法を輝かせる…」

 

アネットが教えてくれた魔法に一番大切な事。二人がどうしようもないこの状況で忘れていた大事な事を謎の声が思い出させてくれた。

 

「…何が聞こえているのか知らないけれど、いい加減決着をつけさせて貰おうかしら?…ヨクバール!」

「ギョォイ!」

 

マキナの指示されるとほぼ同時にヨクバールが突撃を繰り出し、二人に迫る。

 

「マジカル!」「ミラクル!」

 

「「リンクルステッキ!」」

 

迫るヨクバールを前に二人は再びリンクルステッキ構え、もう片方の手で八幡のリンクルストーンを握ったまま手を繋いだ。

 

「「ダイヤ!」」

 

「「永遠の輝きよ!もう一度私達の手に!!」」

 

光の奔流が駆け抜けて、二人の元へと集まる。

 

「ヨォクバァールッ!!」

 

一度目と同じようにヨクバールが最大速で突っ込んできた。

 

「「フル…フル…リンクル!」」

 

描かれた三角形がダイヤとなって二人の前に現れる。

 

「「プリキュア!」」

 

光と闇が衝突して激しい火花を散らした。

 

「「ダイヤモンドエターナル!!」」

 

今一度、光のダイヤモンドがヨクバールをその中へと封じ込める。

 

「ヨォクッ!」

 

ピキッ

 

が、それも一時の事でやはりヨクバールを押さえきれないのか再びダイヤモンドにひびが入り始めた。

 

「「ぐっ…!」」

「何度やっても同じ、貴方達の魔法は通じないわよ?」

 

必死に粘る二人を見てマキナは呆れた声を出す。

 

「同じ…じゃ…ない!」

 

「私…達は…八…幡の…信頼に…応える!」

 

「「だから…負けない!!」」

 

二人の想いに呼応するかのように握り締めていた八幡のリンクルストーンが光を放ち始めた。

 

「っこの光は…!?」

 

リンクルストーンから溢れた光にマキナは目を細める。

 

「この光…なんだかあったかい…」

「それに…力が溢れてくる…」

 

その光はボロボロだった二人の傷を癒して包み込んだ。

 

「っヨクバール!」

 

二人の傷を癒した謎の光に危険を感じたのかマキナが焦った声でヨクバールを焚き付ける。

 

「ヨォクバァァッル!!」

 

主人の命令に応えてヨクバールが思いっきり力を込めてダイヤモンドを突き破ろうと暴れ始めた。

 

ピキピキピキッ━

 

徐々にひび割れていくダイヤモンド。しかし、ミラクルとマジカルに焦りの表情はなく、静かにリンクルステッキを重ねる。

 

「私達の想いを込めて…」

 

「共鳴し合う二つの魔法…」

 

八幡のリンクルストーンから伝わってくる光が二人の想いと響きあって、新たな魔法を紡いでいく。

 

「「プリキュア!」」

 

暴れるヨクバールを見据えて、二人は重ねたリンクルステッキを天に(かか)げる。

 

「「ダイヤモンドエターナル…」」

 

呪文と共に光が溢れ、ひび割れたダイヤモンドをさらに大きなダイヤモンドが包み込んで、ヨクバールの動きを完全に封じ込めた。

 

「「レゾナンス!!!」」

 

繋ぎあっていた手を前に突き出して二人は新たな魔法を解き放つ。

 

「ヨォクバール…」

 

解き放たれた魔法はヨクバールを宇宙の彼方へと吹き飛ばし、闇の力を浄化していく。

 

「まさか私のヨクバールが負けるなんてね…」

 

マキナは浄化されていくヨクバールを呆然と見つめて呟くと指をパチンッと鳴らして消えてしまった。

 

「やったモフ!二人が勝ったモフ!」

「はー!はー!」

 

少し離れたところで戦いを見守っていたモフルン達が二人の元へと駆けてくる。

 

「私達…勝てたの…?」

「そう…みたいね…」

 

二人がとてつもない脱力感に襲われながら呟くと同時に握っていた八幡のリンクルストーンが光って宙に浮いた。

 

「「…?」」

 

突然の出来事に首を傾げていると、光が集束してぼんやりと白い少女の姿を形作っていく。

 

「女…の子…?」

「あなたは一体…」

 

戸惑う二人に白い少女は薄く微笑むと粒子になって倒れている八幡の方に飛んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…くん!…ちくん!…

 

…幡!…ち幡!…

 

「……?」

 

必死で呼び掛けてくる誰かの声が聞こえた気がして八幡はゆっくりと目を開ける。

 

「八くん!」

「八幡!」

 

意識が定まらない八幡の耳にみらいとリコの大きな声が響いた。

 

「……耳が痛い」

 

意識を取り戻した八幡が開口一番で文句を口にするが、それよりも八幡の意識が戻った事に喜んでいる二人の耳には入らない。

 

「良かった…八くんが無事で…」

「全く…無茶ばっかりして…」

 

少々擦り傷はあるが八幡の無事を確認して安堵する二人。そんな二人の様子を見て八幡は自分がどれだけ心配をかけたのかを知った。

 

「…心配かけて悪かったな」

「「!?」」

 

八幡が素直に謝ると、二人はなぜか驚いた表情になって顔を見合わせている。

 

「…何だ?」

「え、いや…八くんが素直に謝るなんて珍しいなーと思って…」

「そうね…いつもだと捻くれた言葉で返す筈だもの」

 

どうやら二人の中では八幡が素直に謝るのは驚く程の事らしい。

 

一瞬、そんなことはないと思う八幡だったが、よくよく考えてみれば確かにここまで素直に言葉が出てきたことは今までなかったと思い直す。

 

「…()()に謝るのは当たり前だろ」

「へ?」

「え?」

 

少し照れたように八幡がそう言うと、二人は素っ頓狂(すっとんきょう)な声は上げて目を見開いた。

 

「い、今、友達って言いました!?」

「は、八幡、本当に大丈夫!?頭を打ったんじゃ…」

 

色々あったにも関わらず、今日一番の驚きの表情を浮かべた二人に苦笑する八幡。

 

八幡にとって友達というのは薄っぺらくとても脆いものだった。その考えは今も変わったとは言えない。

 

短くとも今までそう思って生きてきた価値観はそう簡単には変えられないものだ。

 

けれど、みらいとリコの事を信じたいと思った。

 

確かに一朝一夕では価値観は変わらない。それでも少しずつ…一歩一歩、歩み寄れたならいつかは変われるのかもしれない。

 

いつの間に手に握られていたリンクルストーンが不思議と軽くなった八幡の心情を表すかのように白く輝いていた。

 

 

━七話に続く━

 




次回予告


「もう休みが終わってしまった…」

「魔法の杖の授業ワクワクもんだ~!」

「絶対合格するわよ二人とも…!キュアップ・ラパパ…キュアップ・ラパパ…!!」

「リコ、凄い気合いだね…」

「…休み明けの補習授業でどうやったらそんなに気合い入れられるんだよ…」

「あれ?今日は先生が違うモフ?」

「え?あ…お、お、お姉ちゃん!?」





次回!魔法つかいプリキュア!やはり俺が魔法使いでプリキュアなのはまちがっている。

「特訓!魔法の杖!お手本は八幡?先生はリコのお姉ちゃん!?」





「キュアップ・ラパパ…!?今日もいい日になーれ!!」
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