やはり俺が魔法使いでプリキュアなのはまちがっている。   作:乃木八

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第七話「特訓!魔法の杖!お手本は八幡?先生はリコのお姉ちゃん!?」Aパート

 

中休みも終わった次の日、他の生徒はまだ春休みを満喫している中で補習組の生徒は今日から再び補習授業が始まる。

 

「おかしい…休みが終わるのが早すぎる…」

 

その補習組の一人である八幡が普段から(よど)んでいる目をさらに淀ませて呟いた。

 

「また八幡が変なことを言ってるモフ」

 

見た目は可愛いクマのぬいぐるみなモフルンがさらりと辛辣な言葉を返す。

 

「いつものことよ、ほっときましょう」

 

気にするだけ損だと手に持ったリンクルスマホンを覗きながら八幡の発言を切って捨てるリコ。

 

「はーちゃん、よく眠ってるね~」

 

そもそも八幡の呟きが聞こえていないみらいはスマホンの中で眠るはーちゃんを微笑ましく見つめている。

 

「…まあ寝る子は育つって言うからな」

 

さっきのは独り言で別段、返事なんて求めていない筈なのに八幡は少し疎外感を感じてさりげなく会話に参加した。

 

「ええ」

「すやすやモフ」

 

はーちゃんの可愛い寝姿に四人は笑顔になって和やかな空気が流れる。

 

「あっ…ねえ?今日の補習なんだろう?」

 

ふと思い付いたようにみらいが尋ねた。

 

「…そういえば教えるのはアイザック先生一人だけになるのか…」

 

みらいの質問でその事を思い出し呟く八幡。昨日の一件で補習を担当していた先生の一人、マキナ先生が闇の魔法使いの仲間だという事実が判明した。

 

校長以外の全員を魔法で欺き、魔法学校に潜入していたが、校長にバレた時点で実力行使にでて、返り討ちに遭い姿を消している。

 

つまり、マキナという先生が現れることはまず、ないのだ。

 

「そうね…でも大丈夫よ。アイザック先生はベテランの先生だし、なにが来たって合格してみせるから!」

 

リコはスマホンを静かに閉じてしまうとみらいの方を向いて自信満々にそう答えた。

 

「…そうだな」

「うん!頑張ろうねリコ!八くん!」

「うん!」

「その意気モフ~!」

 

気合い充分で張り切っていると時計の針が動いて補習開始のチャイムを鳴らす。

 

━キンコーンカーンコーン…ポンッ

 

チャイムが鳴り響くと教卓の辺りから煙と共に教頭先生が姿を現した。

 

「えー…アイザック先生は腰痛のためお休みで、マキナ先生は一身上の都合により退職されました」

「「「ええっ!?」」」

 

マキナの突然の退職に驚きの声を上げたのはジュン、ケイ、エミリーの補習トリオで、みらい達は浮かない表情を浮かべている。

 

「いきなり退職なんて…」

「どうしたのかな…」

 

残念そうにジュンとエミリーが呟くが、ケイが口にした次の一言でそれも吹き飛んだ。

 

「じゃあ…補習はなし…?」

「!」

「よぉっしゃー!!」

 

補習授業がなくなるかもと一気にテンションを上げる三人。しかしそれも長くは続かなかった。

 

「静かに。代わりの先生を呼んであります」

「「「ええぇ~」」」

 

予定通り補習授業がとり行われるようで三人は不満の声を上げる。

 

「…春休みも限られてるから穴を開ける訳にはいかなかったんだろうな」

 

ぼそりと八幡が呟く。そうでもなければ昨日の今日で代わりの先生を用意してまで補習はしないだろう。

 

「さ、どうぞ」

「はい」

「ぇ…」

 

教頭に呼ばれて、返事を返した代わりの先生であろうその声にリコは驚いて後ろを振り返った。

 

「ぉぉぉっ…」

「「「?」」」

 

こつりこつりと後ろから歩いてくるその人物を目で追いながら、言葉にならない声を漏らすリコにみらい達三人は何事かと顔を見合わせる。

 

「みなさん、おはようごさいます。教育実習生のリズです」

 

前に立って自己紹介をしたのは青い髪に()()()()()マゼンタの瞳が印象に残る若い女性だった。

 

「リズ…?その名前どっかで聞いたような…」

 

聞き覚えのある名前に首を傾げる八幡だったがその疑問はすぐに解消する事になる。

 

「お、お姉ちゃん…?」

「は…?」

「へ…?い、今、お姉ちゃんって言いました!?」

 

戸惑うリコと状況が飲み込めない八幡、そしてみらいは驚いた表情でリコを見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お姉ちゃんなの?」

 

みらいが声のボリュームを下げてこっそりとリコに尋ねる。

 

「…まあ…そうだけど…」

 

少し俯き気味のリコが教卓の前に立つリズを見てぼそぼそと答えた。

 

「そうか…聞き覚えがあると思ったらアネットさんか…」

「モフ…?」

 

思い出すのは昨日の出来事、アネットがその名前を話題にだした時、リコは慌てて誤魔化そうとしていたのだ。

 

「おぉ~!リズさんが補習の先生か~!」

「素敵…!」

 

ジュンとエミリーが嬉しそうにリズの見つめる。

 

「みなさん、リズ先生は魔法学校でも一、二を争う魔法の杖の使い手です」

 

教頭にそう紹介されるとリズは軽く頭を下げてから一歩前に出た。

 

「そんなに凄い人なのか?」

「それは…」

 

八幡の問いにリコは言い淀み、さらに俯いてしまう。

 

「今日は魔法の杖の実技をしっかり身に付けてもらいます。みなさん、どうぞよろしくお願いしますね」

「「「はーい!」」」

 

リコ、八幡、ケイを除く三人が元気よく答えた。

 

「あ、魔法の杖…忘れた~!!」

 

鞄の中を探っていた忘れ物常習者のケイが頭を抱えて叫び、俯いたままのリコ以外の全員が苦笑いを浮かべる。

 

「取りに行ってきま~す!!」

 

慌てて教室を飛び出すケイにリズも困った顔をしていた。

 

「魔法の杖の…実技…」

 

リコが自分の杖を握り締めながら不安そうに呟く。

 

「………」

 

そんなリコを八幡が心配そうに見つめていた。

 

 

 

 

教室での説明が終わった後、魔法の実技を始めるために噴水のある中庭に来た一同。

 

「キュアップ・ラパパ!水よ、象の形になりなさい」

 

リズが呪文を唱えると噴水の水が丸く浮かび上がり、象の型を作っていく。

 

「「「「わぁぁぁっ!」」」」

「すごーい!」

 

淀みなく発動したリズの魔法にみらい達は感嘆の声を洩らした。

 

「魔法ってこんなこともできるんだね~!」

「…そうね」

 

興奮した様子ではしゃぐみらいとは裏腹に目線をそらして微妙な表情を浮かべている。

 

「そういえばアネットさんの伝説であったな、中庭の巨大水オブジェクト事件」

 

水の象を見て八幡が思い出したように呟いた。

 

「みなさん知っての通り、私達は普段、魔法を使う時杖を使います。魔法の杖は生まれた時に杖の木から授かるもので、人によって形は様々ですね」

「へぇ…」

「…確かに全員バラバラだな」

 

先生であるリズの杖は末端に赤い宝石が付いた杖。ジュン、ケイ、エミリーは先の形がそれぞれ違う似た形の杖。

 

そしてみらいと八幡の杖は同時に同じ木から生まれただけあって先端以外はそっくりな杖だった。

 

「あ、リコのもちょっと変わった形だ」

「ぁ…そんなの別にいいでしょっ」

 

俯いていてぼーっとしていたリコがみらいの言葉で我に返り、緊張した面持ちで前を向く。

 

「…大丈夫か?」

「な、何が?わ、私はいつも通りだし…」

 

本人がそう言うが、明らかにいつも通りには見えなかった。先生が自分の姉ということで変に力が入っているのかもしれない。

 

「杖を集中して頭の中にイメージを描いて…」

 

そんなやり取りを他所に授業は進み、リズはそう言うと静かに目を閉じて集中し始める。

 

「キュアップ・ラパパ!水よ、象の玉乗りをしなさい!」

 

パッと目を見開いたリズが杖を振ると新たに水の玉が形成されて、その上で水の象が玉乗りを始めた。

 

「「「おぉぉっ!!」」」

「「わぁぁぁっ!」」

 

再び感嘆の声を上げるみらい達。そこに玉乗りをしていた象が鼻から水を噴射して見せてさらに歓声と拍手が鳴り響く。

 

「っ……」

 

そんな中でもリコは浮かない顔でリズから目線を逸らしていた。

 

「八くん!八くん!」

「?」

 

みらいが声を弾ませて八幡の袖を引っ張る。

 

「今日の補習授業って昨日アネットさんに教えてもらった事だよね!」

 

どうやら今日の補習の内容が偶然アネットに問われたのと同じではしゃいでいるらしい。

 

「まあ…確かにそうだな」

 

厳密に言えばアネットが教えたというよりは答えた中のひとつなのだが、謀らずも予習になったようだ。

 

「あら?アネットを知っているんですか?」

 

二人の話が聞こえたらしくリズが話しかけてくる。

 

「昨日ちょっと…」

「はい!アネットさんのお店で色々教えてもらいました!」

 

八幡がぼそりとみらいが元気よく答えた。

 

「そう…あなた達はみらいさんに八幡君ね?」

「は、はい朝比奈みらいです」

「…比企谷八幡です」

 

突然名前を言われて少し驚く二人。恐らく校長か教頭からナシマホウ界から来たことを聞いたのだろう。

 

「あ、この子は友達のモフルンです」

「モフルンモフ~!」

「可愛いお友達ですね」

 

自己紹介したモフルンと握手を交わすリズ。

 

「アネットさんと知り合いなんですか?」

「ええ、アネットとは学生時代からの友達なの」

 

八幡の質問にそう答えるリズの顔はどこか昔を懐かしんでいるように見えた。

 

「アネットさんって…あの伝説の?」

「リズさんと同級生だったんだ…」

 

アネットの黒歴史…もとい、伝説は知れ渡っているようでエミリーとジュンが驚いたように口を開く。

 

「ふふっ今でも伝説なんて呼ばれて語り継がれてるけれど、当時は大変だったんですよ?何度も先生に呼び出されていて…でも、アネットの魔法の杖の実技は歴代の生徒の中でも一、二を争う程だったからお説教だけで済んだんですけど…」

 

語り継がれている伝説はどれも停学、もしくは退学になっていてもおかしくない規模のものばかり、それがお説教だけで済んだという事はそれだけ実力を認められてたということだろう。

 

「もっとも、アネットは自分で出した損害は自分で何とかしていたというのが大きいんですけどね」

「「「「自分で?」」」」

「モフ?」

 

リズの言葉にリコと八幡以外の声が重なり、モフルンが首を傾げる。

 

「はい、汚してしまった物や壊してしまった物は責任を持ってアネット自身がきれいにしたり、直したりしていたんです」

「そ、それって…」

「まだ私達と同じ生徒の時の話…ですよね?」

「す、すごい…」

 

ジュン、エミリー、ケイが呆気にとられたように呆然と呟いた。

 

「…まさかあの人、その経験から今の仕事に行き着いたのか…?」

「あ、そう言われると確かにアネットさんの今のお仕事に似てるかも…」

「……あの…おね…先生!」

 

意外なところでアネットと今の仕事との繋がりを見つけた八幡とみらい。そんな中、一人俯いていたリコが口を開く。

 

「はい、リコさん。どうしました?」

 

妹とはいえ今は生徒と教師、分別をつけるためにリズはあえて他人行儀な口調で返した。

 

「その…そろそろ始めないと時間が…」

 

リコが時計を見て言いづらそうに答える。確かにリコの言う通り、アネットの話題で話が逸れてしまったため大分時間が経っていた。

 

「教えてくれてありがとうリコさん」

「いえ…」

 

リズが笑いかけるがリコの顔は浮かないまま。その事に一瞬、複雑な表情を浮かべるリズだったが、すぐに切り替えて前を向く。

 

「では、みなさんも水で好きなものを作って十秒間形を保ってください。それが今日の課題です」

 

そう言うとリズは噴水近くに用意してあった台の上に変わった形の砂時計を置いた。

 

「これは十秒を測る砂時計です。アネットの作品で合図をすると自動的にひっくり返ります」

「十秒…か…」

 

まだ光の魔法と箒で空を飛ぶ事しか経験のない八幡にはそれが難しいのか、はたまた簡単なのかわからない。

 

「十秒もかよ~!」

「長過ぎない?」

「そんなの無理だよぉ…」

 

補習トリオのジュン、ケイ、エミリーが口々にそう言うという事は十秒間、形を保つのは難しいのだろう。

 

「最初にやってみる人は?」

「「「………」」」

 

誰もがトップバッターは避けたいらしく顔を見合わせて動こうとしない。

 

「はいはい!じゃあ私から!!」

 

全員が尻込みする中、一歩前に出て元気よく立候補したみらい。そして、噴水の前に立つと杖を振るって呪文を唱える。

 

「キュアップ・ラパパ!水よ、モフルンになーれ!」

 

水の塊が浮かんでうねうねと形を変えていき、モフルンのシルエットがうっすらと浮かび上がってきた。

 

「「「「あ」」」」

 

成功するかに見えたみらいの魔法はまるで膨らんだ風船が割れるような音をたてて弾けてしまう。

 

「「「わあぁ…」」」

 

失敗してしまい思わず声を出してしまったみらいとジュン達の声が重なって響いた。

 

「すぐ崩れちゃったモフ」

「…意外とモフルンって辛辣だな…」

 

思ったことをそのまま口にするモフルンに八幡がツッコむ。決してモフルンに悪気があるわけではないのだろうが素直な意見は時として辛辣に聞こえてしまうのだ。

 

「どうして失敗したんだろう?」

 

途中まで上手くいっていただけに崩れてしまった理由がわからず、みらいは首を傾げる。

 

「少しいいですか?」

 

リズがみらいの後ろから手を取って動きを教えつつ、説明を始めた。

 

「杖をしっかり持って、大きさや形を具体的にイメージして…魔法の言葉を唱える」

「わかりました!」

 

動きを交えた説明はわかりやすかったようでみらいは一度で理解し、もう一度挑戦するために集中して目を閉じる。

 

「………」

 

授業が始まってからずっと不安な顔をしたままのリコは色々な感情を抱えたままみらいの方を見た。

 

「柔らかくて…ふわふわでモフモフで…」

 

みらいは頭の中でモフルンのイメージを膨らませ、声に出すことでより明確にしていく。

 

「今です!」

 

リズの合図で弧を描くように杖を振ってみらいは呪文を唱えた。

 

「キュアップ・ラパパ!水よ、モフルンになーれ!」

 

再び水の塊が浮かび上がって、うねうねと形を変えていき、今度ははっきりとモフルンの形に変わる。

 

それと同時に砂時計がひっくり返り、十秒間の計測が始まった。

 

「わぁぁぁ…!」

「えっ!?」

「おぉ!」

「モフ!モフ!」

 

みらいが水のモフルンに目を輝かせ、リコはたった一度のアドバイスで成功させた事に慌て驚き、八幡とモフルンは嬉しそうな声を上げた。

 

「できました!!」

 

成功したのも束の間、みらいがリズの方へと意識を逸らした瞬間、水のモフルンは再び音をたてて弾ける。

 

「あっ!ぁぁ……」

 

やってしまったと落ち込むみらいにリズが少し困った表情で声をかけた。

 

「みらいさん、途中で気を抜いてはいけませんよ?」

「…はい!!」

 

自分でもわかっているようで力のこもった返事を返したみらいは、くるりと後ろを向いて近くに立っていた八幡の方へと駆け寄ってくる。

 

「次は八くんの番だよ!」

「は?」

 

突然そう言われ困惑する八幡。本当ならもう何人かの後が良かったのだが、周りの視線が向いているのを察して、渋々前に立った。

 

「では八幡君、お願いします」

 

リズに促されて、八幡は杖を構えるとゆっくり目を閉じる。

 

(好きなもの…好きなもの…)

 

好きなものと言われてもパッと思いつかず、少しの間思い悩んだが、ふと思い付いてイメージを浮かべながら集中し、呪文を唱えた。

 

「キュアップ・ラパパ!水よ、マッ缶に変われ!」

 

みらいの時と同じく水の塊が浮かび上がり、マッ缶の形へと変わっていく。その変化は淀みなく、出来上がったマッ缶は書いてある文字まではっきりと見えた。

 

「「おぉぉ…!!」」

「きれいな形…」

「すごーい!」

「モフ!」

 

先生であるリズと比べても遜色のない魔法にみらい達はそれぞれが称賛の声を上げる。

 

「MAXコーヒー…」

 

そんな中、一人暗い表情で呟くリコ。MAXコーヒーはリコにとっても思い入れのある飲み物で八幡と初めて出会った時に貰ったものだ。

 

それなのに浮かんでくるのは八幡の魔法に対する羨望や嫉妬といった負の感情とそこからくる不安ばかり。

 

リコはそんな事を思ってしまう自分に嫌気がさして唇を強く噛んだ。

 

 

 

「…はい、そこまで」

 

砂時計の砂が落ちきったところでリズが八幡に声をかける。

 

「十秒経ったので八幡君は合格です」

「…ども」

 

魔法を解いて薄く息を吐くと、八幡はやけに周りが静かな事に気付いた。

 

「い、一発合格…」

「う、嘘…」

「八幡すごいモフ!」

 

ジュンとエミリーがまさかの事態に口をパクパクさせて驚き、ケイとみらいはポカンとして八幡を見ている。

 

「…そんなに驚くことか?」

 

八幡としては先に挑戦したみらいがもらっていたアドバイスを参考にしたら上手くいっただけなので、思っていたよりも難しくなかったという感想しか湧かない。

 

「みなさんが驚くのも無理はありません。八幡君の魔法はお手本と呼んでも差し支えない程、完璧でしたから」

「…それは流石に誉めすぎじゃないですかね」

 

先生であるリズにそこまで言われるとは思わず、八幡は照れたようにそっぽを向いた。

 

「そんなことはありません。魔法を扱うためのイメージ、形を維持するための集中力、そしてなにより魔法に対する柔軟な発想がずば抜けて優秀です」

「柔軟な…発想?」

 

それが何を指すのか、わからずに首を傾げる八幡。発想というが、魔法に関しては習い始めて間もない八幡よりも、マホウ界の住人であるジュン達の方が詳しい筈だ。

 

「ええ、まずみらいさんと八幡君、二人は同じ魔法を使いましたが、唱えた呪文が少し違うのには気付きましたか?」

「そういえば…私はなーれって唱えたけど、八くんは変われって」

「それが柔軟な発想と何か関係あるんですか?」

 

なーれと変われ、言ってしまえばただのニュアンスの違いだろう。意味さえ通ればどちらでも構わないし、他の言葉に置き換える事だってできる。

 

「もちろんあります。そうですね……みらいさんはどうしてなーれと唱えたのですか?」

「へ?なんで…?」

 

なんでと聞かれても意識して言葉を選んだわけではないみらいには理由らしい理由が特にない。

 

「うーん…リズ先生がなりなさいって唱えてたから…?」

「何で疑問形なんだよ…」

 

とどのつまり、無意識の内に見本となったリズの呪文が印象に残っていたという事だろう。

 

「では、次に八幡君。あなたはどうして変われと唱えたのですか?」

 

みらいと同じ質問に八幡は少し考えてから答える。

 

「…〝なれ〟よりも〝変われ〟の方がしっくりきたというか、イメージがしやすかったから…ですかね」

 

八幡はリズの魔法を見て、水が形を変えてイメージした物を型どっていくと考えた。ならば、呪文もなれより変われと言い換えた方が思い描いたイメージに()っている。

 

「そう言われると…確かに変わるって言葉の方がしっくりくるね」

「私は…なれの方がイメージ通りかな…?」

「ええ!?どっちが正解なの~!?」

 

意見が別れるジュンとエミリー。そんな二人の言葉にケイが頭を抱えて叫んだ。

 

「どちらが正解と言われればどちらも正解で、人によってはどちらも間違っています」

「え…それってどういう…」

「ますますわかんなくなっちゃった…」

 

まるで謎かけのような言い回しで混乱するみらい達。しかし、それはあくまで前置きらしくリズはその先を続ける。

 

「難しく考える必要はありません。一言でいうならイメージの違いです」

「「「「イメージの違い?」」」」

「モフ?」

 

リズの言葉に八幡とリコ以外の四人が声を揃えて首を傾げた。

 

「魔法を使うイメージは人によって違います。そしてそれに添って呪文も変えることでよりイメージが鮮明になり、魔法を安定して使う事ができるようになります」

「そっか…たしかにどっちも正解でどっちも間違いだ」

 

八幡とジュンにとっては〝変われ〟が正解、しかし〝なれ〟は二人にとって間違い、その逆は言わずもがなだ。人によってはこの二つ以外の言葉が当てはまるかもしれない。

 

「…つまり自分のイメージに合った言葉を選ばないと上手く発動しない…と」

 

ここまで聞いてようやく柔軟な発想の意味が見えてきた。

 

要は自分で考えるという事なのだろう。こうして授業で魔法の使い方を学んでいるが、根幹の部分で重要になるのは自分の感覚だ。

 

習った通りのやり方が合えばいいが、合わなければやり方を変える必要がある。しかし、習った事とは違うやり方というのは難しい。

 

教えてもらっているやり方が正しいという先入観に引っ張られて違うやり方を試そうという発想自体が浮かばないのだ。

 

リズが優秀と評したのは魔法に触れて間もない間もない故に、八幡がそういう固定観念に囚われなかった事かもしれない。

 

「その通りです。本当ならこの授業を通してそれを学び、みなさんに課題をクリアもらう予定でしたが…八幡君は自分でたどり着いたみたいですね」

 

本来、この課題は授業を踏まえてクリアできるようになるものだったが、八幡はその前に正解を引き当てたらしい。

 

「…すいませんでした」

 

意図的ではないとはいえ、授業の目的を妨害してしまったと思った八幡は頭を下げる。

 

「?どうして謝るの八幡君」

「それは…」

 

もし、八幡がリズの立場ならまさににこれから教えようとしていた事を必要ないと言わんばかりに実践してしまう生徒を良くは思わないだろう。

 

「その…まだ教わってもいないことを勝手に実践してしまって…」

 

一般的に学校の授業というのは先生に教わってから初めて実践に移すものだ。

 

もちろん例外もあるが、それはその分野が得意、(ある)いは詳しい人物がやる事であって、魔法という今回の分野では魔法に触れてから数日の八幡がやって良いことではない。

 

「八幡君は自力で考えてその答えを出したんです。誉められる事はあっても、決して咎められる事ではありませんよ?」

「……」

 

八幡の顔を覗き込み、真っ直ぐ見つめるリズ。その表情から八幡は、リズが本当にそう思っている事を感じ取った。

 

「八くんの魔法すごかったもん!だから悪い事なんてなにもないよ!」

「だね、よくわかんないけど悪い事してないのに謝る必要なんてないよな」

 

リズに続いてみらいも八幡を肯定し、ジュンがそれに同意する。

 

「そ、そうですよ!教えてもらう前に成功させるなんてとってもすごいことです!」

「リズ先生の魔法と同じくらいきれいだったよね~!…でも、あれってなんの形なんだろう?」

 

興奮気味に語るエミリーとマッ缶の形を思い出して首を傾げるケイ。もちろんどちらも八幡が悪い事をしたなど微塵も思っていない。

 

「…あれはMAXコーヒー、ナシマホウ界の飲み物だ」

 

みらい達の素直な感想に照れたのか八幡はケイの疑問にそっぽを向きながら早口で答えた。

 

「八幡照れてるモフ?」

「…別にそんなことはない」

 

そんな八幡にモフルンが訪ねるが、これまた明後日の方を向いてそれよりと誤魔化すように口を開く。

 

「…まだ色々と分からないところがあるんですが…」

「ふふっでは続きを説明しますね」

 

誤魔化す八幡の様子にリズは微笑みながら説明を再開し始めた。

 

「先程までの説明で魔法はイメージに合った呪文を唱える事で効果を発揮するというところまではお話ししましたが、問題はその先、きちんとイメージを膨らませられるかどうかです」

「?どういうことですか」

 

イメージを浮かべてそれに添った呪文を唱えるといっていたのにも関わらず、そのイメージを膨らませられるかどうかが問題になるという話にみらい達は首を傾げる。

 

「みらいさんや八幡君はナシマホウ界から来たばかりなので魔法が物珍しいかもしれませんが、私達魔法使いにとって魔法は日常の一部と言えるでしょう」

 

確かにマホウ界の住人にとって魔法は生活に欠かせないもの、例えるならそれはナシマホウ界でいうところの電化製品、つまり科学技術に(あたい)するだろう。

 

「生まれた時から魔法を目にしている私達は意識的にイメージせずとも呪文を唱えれば()()()()事が当たり前なのである程度扱うことが出来てしまいます」

 

水が流れるように、太陽が西に沈むように、杖を振って呪文を唱えればその現象が起こる、それがマホウ界にとっての常識。

 

だからわざわざ考えなくても無意識の内に、唱えた後どうなるのかを思い浮かべているということだ。

 

「しかしそれではある程度扱うことが出来ても、それ以上を望むことが出来ません。きちんとイメージをしてこそ一人前の魔法使いと言っても過言ではないでしょう」

「一人前…」

 

一人前の魔法使いという言葉に引っ掛かりを覚え、呟く八幡。

 

確かにきちんとイメージして魔法を使うというのは、誰かに教えてもらわなければ中々自分では思い付かない事かもしれない。

 

だが理解してしまえば後は簡単な事だ。魔法を使う時に具体的なイメージを浮かべるだけ、現に魔法の素人である八幡が出来たのだから日常的に魔法に触れている他の生徒にとっては容易いことだろう。

 

にも拘らず、それが出来れば一人前の魔法使いというのは妙な話である。

 

「どうにも納得いかないといった顔をしていますね八幡君?」

 

考えていることが顔に出ていたのか、あるいは疑問に思うのを予測していたのか、リズが八幡の方を向いて問いかけた。

 

「…納得というか、ただ、そんなに難しいことかな…と」

 

リズの問いに八幡は思った事を素直に口にするが、やはりその疑問が出るのを予測していたようでリズは悩むことなく答える。

 

「確かに八幡君には難しくはなかったかもしれません。けれどそれは八幡君にとって魔法が特別な物だったからと考えられます」

「特別…ですか?」

 

そう言われても何がどう特別なのか思い浮かばず、八幡は曖昧な返事を返した。

 

「八幡君、それにみらいさんにとって魔法はずっと空想の中だけ存在だった筈です」

「へ?」

「それは…まあ」

 

みらいはそうでもないようだが、リズの言う通りリコと出会うまでは魔法が本当にあるなんて思いもよらなかったのは確かだ。

 

しかし、それが特別かと聞かれればいまいちピンとこない。

 

「在る筈のない物の存在を知る…それは今までの常識がひっくり返るような、充分特別な物と言えるのではありませんか?」

「…言われてみれば」

 

確かに魔法がないのが常識のナシマホウ界で育ったのなら空想上の存在である魔法は、いくら実際にあると知っても、それが日常だと受け入れられないのが普通だ。

 

そういう意味ではなるほど、ナシマホウ界の住人である八幡には特別な物と言えるだろう。

 

「うーん…でもそれが何できちんとイメージ出来ることに繋がるんだい?」

「それなら私達の方が身近に魔法がある分イメージしやすいと思うけど…」

「え?じゃあ…どういうこと?」

 

話を聞いていたジュン達がそれぞれ疑問に思った事を口にする。

 

「…()()?」

 

話を整理しながら三人の疑問に耳を傾けていた八幡が、ふと思い付いた事をそのまま呟いた。

 

「八くんどうしたの?」

 

呟く八幡にみらいが訪ねる。

 

「いや…もしかしたら()()()()()()()()()()こそ、きちんとイメージできる事に繋がるのかと思ってな」

「?」

 

八幡の言いたい事がわからず首を傾げるみらい。

 

「ナシマホウ界から来た人間にとって魔法は日常からかけ離れた特別な存在だ。何がどうなるのか未知な部分が多く、そこを補うには頭の中で想像するしかない」

 

イメージは魔法に大切な要素、どんな結果になるのか考えなければ発動はしないし、仮に発動したとしても思った程の効果は得られないだろう。

 

「対して、日常的に魔法を目にしているマホウ界の住人はリズ先生の言う通り、想像で補わなくてもそうなることが当たり前だからイメージが疎かになるってことだ」

 

慣れていない事ほど人は慎重になる生き物だ。手順を確認し、間違いがないか気を付けながら、今取り組んでいる事に意識が集中する。

 

それが良いか悪いかは物事によるが、こと魔法に関しては集中する必要がある分、慣れていない方が良いのだろう。

 

「それならみんながきちんとイメージする事を意識すれば出来るようになるのかな?」

 

そこまでの説明をざっくり自分なりに解釈したみらいがそんな疑問を挙げるが、八幡は首を横に振った。

 

「たぶん、それは難しいだろうな」

「えっどうして?」

「イメージすれば良いってわかったなら後は簡単だと思うけど…」

「まさかあたい達がそんな事も出来ないって言いたいのかい?」

 

難しいという言葉にケイは首を傾げ、エミリーが疑念の声を出し、ジュンはなめられていると思ったのか八幡を睨む。

 

「別にそういう訳じゃ…」

「なら、実際にやってみましょうか」

 

ジュンの視線に圧されて言い淀む八幡に会話の成り行きを見守っていたリズが助け船を出した。

 

「実際に…ですか?」

「ええ、説明の途中ですが、一度やってもらった方が伝わると思いますから」

 

リズがそう言うとジュン、ケイ、エミリーは噴水の前に移動し、それぞれが杖を構える。

 

「よぉし!あたいも一発合格ねらうよ!」

「ええと、杖…杖…とあった」

「きちんとイメージすればできる…!」

 

三人は構えた杖をくるりと振って同時に呪文を唱えた。

 

「「「キュアップ・ラパパ━━━」」」

 

みらいや八幡と同じく水の塊が浮かび上がるが、唱えて数秒もしない内に形を変えることなく弾けてしまう。

 

「ええ!?」

「なんで!?」

「きちんとイメージしたのに…!」

 

成功すると思っていた筈が、まさかの結果に驚きの声を上げる三人。

 

先生の言う通り、魔法を使う前にきちんとイメージを浮かべていたのにも関わらず、上手くいかなかった事がどうしてかわからないようだった。

 

「…上手くいかなかった理由、それはあなた達のイメージが足りなかったからです」

「足りなかったって…」

「そんな事は…」

 

イメージが足りなかったと言われた三人はどうにも納得できないといった顔をしている。

 

「では…みなさんが何を形作ろうとしていたのか教えてください」

 

ジュン達のそんな表情にリズは、一拍置いてからそう尋ねた。

 

「何って…あたいはブーツだよ」

「私はリュック」

「私は花束です…」

 

その質問に三人は少し戸惑いながら答える。

 

「なるほど…ならそれらを具体的にどんな柄で、何のための物かまでしっかりイメージしていましたか?」

「そ、それは…」

「パッとブーツを思い浮かべただけで…」

「そんなに詳しくまでは考えてないよ~!?」

 

リズが指摘する中に思い当たる節があるようで、三人のイメージ不足が浮き彫りになった。

 

「これでわかったと思いますが、今までやってきたやり方を変えるのはとても難しい事。魔法学校で学ぶ生徒達が必ずと言って良いほどぶつかる壁なのです」

 

八幡やみらいのようにナシマホウ界から来たような例外を除けば大半の生徒は(つまず)くらしく、リズの言葉にも力がこもっている。

 

「それでは、次は唱える前に具体的なイメージを口に出してみましょう。そうすればイメージ不足は解消されるかもしれません」

 

無論、毎回魔法を使う前にそうするわけにはいかないだろうが、少なくとも三人の無意識が意識的に変わるまではやる必要があるだろう。

 

「それともう一つ、先程も言いましたがその具体的なイメージに一番しっくりくる呪文を唱えるように心掛けてください」

「「「はい!」」」

 

リズの言葉に三人は元気よく返事をするとそれぞれ目を閉じてイメージを膨らませる。

 

「八幡君をお手本にして、何を作りたいのか、どんな形や大きさなのかをしっかりイメージし、それに添った適切な呪文を唱えればきっと上手に出来る筈です」

「…俺がお手本ですか」

 

お手本と呼んでも差し支えないとは言っていたが、まさか本当にお手本にされるとは思ってなかった八幡がぼそりと呟いた。

 

「…私はおばあちゃんにプレゼントするきれいな花束を」

「私は…忘れ物をしないように大きなリュック…」

「あたいは思いっきり目立つようにデコりまくったブーツ!」

 

エミリー、ケイ、ジュンが思い描いたイメージを言葉にして再び杖を構える。

 

「キュアップ・ラパパ!水よ、きれいな花束になって!!」

 

「キュアップ・ラパパ!水よ、おっきなリュックになーれ!!」

 

「キュアップ・ラパパ!水よ、思いっきり目立つブーツに変われ!!」

 

三人が呪文を唱えると今度はすぐに弾ける事はなく、うねうねと思い描いた物を形作っていく。

 

「「「うぅぅっ……!」」」

 

砂時計がひっくり返って十秒の測定が始まる中、必死に形を保とうとしている三人に反して徐々に物の形が揺らぎ始めていた。

 

「「「ぅぅ……わぁぁっ!!?」」」

 

それでも何とか形を維持しようとしていた三人だったがそれも叶わず、十秒よりも前に魔法は弾けてしまう。

 

「あぁ…」

「また失敗しちゃった…」

「くっそ~!!」

 

さっきよりも上手くいっていただけに悔しさを隠しきれない三人。きちんとアドバイスを実践したがやはりそう簡単にはいかないらしい。

 

「その調子です。コツはしっかりと掴めてきているので後は練習あるのみ、そうすればすぐに出来るようになるでしょう」

「「「っはい!!」」」

 

失敗だと思っていた魔法が成功へと近づいている事を知った三人は先程よりもさらに元気よく返事を返した。

 

「…はぁ……」

 

順調に課題をこなしていくジュン達の様子に、ここまでずっと黙ったままだったリコの口からため息が漏れる。

 

「…具合でも悪いのか?」

「っ…八…幡!?」

 

そのため息に気付いた八幡が声を掛けると、なぜかリコは驚いたように顔を上げた。

 

「…本当に大丈夫か?」

 

リコが驚いた事に八幡は一瞬、怪訝な顔をしたが振り向いたリコの表情を見て、反射的にそんな言葉が出てくる。

 

「…私…ううん、何でもない大丈夫よ」

 

八幡の心配する言葉にリコは何かを言いかけて、途中でやめた。

 

「……そうか」

 

明らかに大丈夫ではないのだが、本人がそう言う以上、八幡には追求することができない。

 

別に体調が悪いわけではないのは八幡も理解しているし、リコの様子が変な理由もだいたい察しはついている。

 

けれどそれはあくまでも推測であり、リコが話したがらない事を知った風に聞くのはあまりにも傲慢だ。

 

ひゃっこい島で何気ない一言がリコを怒らせた事を八幡は思い出す。あの時よりも互いの距離は縮まっているのかもしれない。

 

だからこそリコの気持ちに踏み込んでいいものか殊更(ことさら)に迷ってしまい、ただ返事をする事しかできなかった。

 

「二人ともこんな隅っこでなにしてるの?」

 

そんなやり取りが気になったのか、みらいが二人の元へと駆け寄ってくる。

 

「何って…俺はちょっと休憩しようと思っただけだ」

 

理由を聞かれて返答に迷った八幡は誤魔化すようにそう答えた。

 

「むむ…八くんってばもう合格したからって余裕だね…?」

「別に…そんな事ないだろ」

 

どうにか誤魔化す事は成功したようでみらいは不審がる事なく会話を続ける。

 

「む~…こうなったら八くんよりもすごい魔法で合格するしかない!ね、リコ!」

「へ?そ、そうね…」

 

気合い充分のみらいに圧されてリコは曖昧な返事と共に苦笑いを浮かべた。

 

「あれ?どうかしたの?」

 

リコの表情から何かを感じ取ったのかみらいが不思議そうな顔で尋ねる。

 

「っ…き、緊張なんかしてないし!」

 

みらいの問いに答えになっていない答えを返すと、リコはチラリとリズの方を見た。

 

「いくわよ!」

「う、うん…」

 

今度はみらいがリコの勢いに圧されてしまう。先程のみらいの気合いとは違い、リコのそれは緊張を誤魔化すための虚勢に見える。

 

「………」

「リコ…大丈夫かな…」

 

ずんずんと噴水の方に向かうリコの背中を八幡とみらいが心配そうに見つめた。

 

 

 

 

 

 

「ではリコさん、お願いします」

「は、はい!」

 

周りが注目する中、リズに促されてリコが噴水の前に立ち、ゆっくりと杖を構える。

 

「…キュアップ・ラパパ!水の象よ、玉乗りしなさい!」

「え?」

 

リコの唱えた呪文にリズが戸惑いの声を漏らした。

 

「わぁっ!?」

「っ……」

 

大きな水の塊と小さな水の塊が浮かぶと、みらいは驚き、リコはそれを制御しようとイメージする。

 

「ぐぅぅ……!!」

 

バチャリ、バチャリと音をたてながら二つの塊は形を変えようともがくが、次第に不安定になって大きく崩れ始めた。

 

「あっ!?」

 

バッシャァァァンッ━

 

派手に音と共に水の塊は弾けて噴水に落下し、その余波で噴水の水が波となって辺りに撒き散らされる。

 

「うっ…!?」

「冷たっ!?」

 

撒き散らされた水は一番近くにいたリコと一人別の場所で見ていた八幡に降りかかった。

 

「いきなりリズさんの真似なんて…」

「それは難しい過ぎるよ~!」

 

基本をすっ飛ばしていきなり応用に挑んだリコにジュン、エミリー、ケイの三人が呆れた顔をする。

 

「次は絶対に成功するわ…!」

 

降りかかった水を拭いながら、どこか意固地になっているリコ。そんなリコを心配して見つめるリズだが、姉としても、先生としても、どう言葉をかけていいのかわからない。

 

「………」

 

すれ違っている二人の様子を見て八幡は、濡れた頬を拭うのも忘れてしまう程にさっき踏み込まなかった事を後悔していた。

 

━もし、踏み込んでいたら何か変わったのか?

 

後悔する八幡の頭の中でそんな言葉が浮かんでくる。

 

仮に踏み込んで聞いていたとして、その時は聞いた事を後悔していたかもしれない。

 

結局のところ八幡は怖かったのだ。踏み込んだ末に今の関係性が崩れてしまう事が。

 

そんな事で壊れてしまうような関係ならその程度だったということ、少し前までならそう割り切っていたことだろう。

 

今でもその考えは変わっていない。これが他の誰か、見知らぬ他人の話ならば八幡は以前と変わらない反応を示した筈だ。

 

けれど初めて当事者の立場に立って気付いてしまった。その関係性を壊してしまうかもしれない怖さを。

 

誰にだって話したくない事はあるだろうし、隠し事の一切ない関係なんて理想論なのはわかっている。

 

だから八幡は聞かなかった。リコが話したくないならそれでいいと思ったから。

 

でも、もしみらいだったら?八幡と同じ様に踏み込むのを躊躇(ためら)っただろうか?

 

(いや、朝比奈だったら迷わないだろうな…)

 

きっとみらいは八幡のように悩んだりはしない。関係性が崩れるだとか、それが怖いだとか、そんな事は考えずにただリコの力になるために動く。

 

短い付き合いだが、八幡の見てきた朝比奈みらいとはそういう少女だ。

 

「…誰かの為に…か」

 

自分が傷つくのを恐れて踏み込めなかった八幡にはとてもではないが真似できない。それでも…

 

「…友達…だからな」

 

八幡は二人を信じたいと、少しずつでも歩み寄って行こうと決めたのだ。それならば、ここで尻込みするわけにはいかないだろう。

 

今も暗い表情のままのリコを見つめて、八幡はそう自分に言い聞かせた。

 

 

八幡がそんな事を考えている間にも補習授業は進み、まだ合格していない面々は各自、練習を続けている。

 

「キュアップ・ラパパ!水よ━」

 

「キュアップ・━」

 

「━━なーれ!」

 

リズ先生監督の元、何度も何度も失敗しながら着実に維持できる時間を増やしていった。

 

「きゃっ!?」

 

「わっぷっ!!」

 

「うぇ~…」

 

失敗する度に水飛沫が飛ぶのでほぼ全員が濡れてしまっている。

 

バッシャァァァンッ━

 

中でも特に濡れているのはリズと同じ魔法に挑んでいるリコだ。

 

「っはぁ…はぁ…」

 

水の象と玉を作り出す分、浮き上がらせる量も多くなっている上にみらい達とは違って挑む度に時間が短くなっている。

 

「…っ……」

 

どこか余裕のないリコの様子に声をかけると決めて、機会を(うかが)っていた八幡がタイミングを逃してしまう。

 

「っ…キュアップ・ラパパ!水の象よ、玉乗りしなさい!」

 

そんな事を知るよしもないリコは、それでも頑なにリズと同じ魔法を行使し、今度は数秒も経たない内に弾けてしまった。

 

「あっ…」

「モフ…」

 

何度も難しい魔法に挑戦しては失敗するリコを心配してみらいの手が止まる。

 

「…水の象よ、玉の…」

「リコ!」

 

再び魔法を行使しようとしていたリコをみらいが呼び止めた。

 

「少し休んだ方がいいよ…?」

「っ平気よ!!」

「っ…」

 

よほど精神的に切迫しているのだろう。みらいの言葉にリコは声を荒げて返した。

 

「…朝比奈の言う通り、一旦落ち着いてから…」

「っ余計なお世話よ!邪魔しないで!!」

 

みらいに続いて八幡も声をかけるが、それはどうやら火に油を注いだだけらしく、無視して杖を構えようとするリコ。

 

「…リコさん、無理せずイメージをはっきり持って…」

「む、無理なんてしてません!!」

 

ずっと心配そうに見ていたリズの言葉にも強く反発してしまい、リコは杖を構えた手を震わせながら暗い表情で俯く。

 

(…小さい頃から私は何でもお姉ちゃんをお手本にしてきた)

 

浮かんでくるのは夕暮れの草原。杖を振るリズの横で、見よう見まねで杖を振っている幼いリコ。

 

(学校にはいってからも…ずっと練習をしてきたし、魔法の知識だって…必死に…勉強してきたのに…!)

 

それでもいざ魔法を行使すれば失敗ばかりでいつまでたってもリズの足元にも及ばない。

 

(どうして…できないの!!)

 

そんな自分が嫌で…認めたくなくて…見られたくなくて…

 

「……っ!?」

 

ぐるぐると自分でも抑えられない感情が渦巻く中、震えるリコの手をリズの両手が優しく包む。

 

「できるわ。あなたの杖は…」

 

優しく語りかけるリズと意地を張っている自分との差と呼ぶべき違いにリコの感情が爆発した。

 

「杖が何だって言うのっ!?私にはできないのっ!!」

 

強引に手を振り払ったリコはその場から逃げ出すように後を向いて走り出す。

 

「ぁ…リコっ!」

「お姉ちゃんに私の気持ちなんてわからないわ!!」

 

初めてぶつけられる妹の感情に先生としての分別も崩れ去り、リズはその名前を叫んだ。

 

「リコ!?待ってよ!!」

「モフー!!」

 

走り去ってしまったリコに、みらいとモフルン、それに八幡が急いで後を追いかける。

 

「行っちゃった…」

「リコは魔法の実技だけが苦手だからね…」

「魔法の杖の形は立派なのになー…」

 

それを見ていたエミリー、ケイ、ジュンがそれぞれそんな事を漏らした。

 

「………」

 

姉として、先生として、どうすべきだったのか?リズはそんな思いを胸に抱えて、リコが走っていった方を見つめていた。

 

 

 

 

「リコー!リコってばー!」

「どこモフー!」

 

大声でリコの名前を呼ぶみらいとモフルン。あの後、急いで追いかけたみらい達だったが、リコの姿を見失ってしまった。

 

「いつの間にか八くんもいなくなってるし…」

「どこか他のところを探してるモフ?」

 

一緒にきたはずの八幡の姿も見えなくなってしまい、二人は不安に駆られる。

 

「みらいさんっ!」

「あっリズ先生…」

 

そんな時、名前を呼ばれて振り向くと、やはりリコの事が心配だったようでリズが走って追いかけてきていた。

 

「勝手に抜け出してごめんなさい…」

 

リコを追いかけるためとはいえ、授業を抜け出し事をみらいが謝る。

 

「いいえ、妹が心配かけてごめんなさいね」

「うぇ…そ、そんなこと…リコはいつもあんな風ですし…って、あっ!?」

 

まさか先生に謝られると思っていなかったみらいは慌てて喋るが、失言に気付いてこれまた慌てて自分の口を塞いだ。

 

「…リコと私は小さい頃からいつも一緒だったのよ」

「へ?」

「モフ?」

 

リズは口を塞いでいるみらいに優しく笑いかけて続ける。

 

「だけど、私が魔法学校に入って…離れ離れになっている間に…いつの間にかよそよそしくなって…あまり顔も合わせてくれなくなったの…」

 

環境の変化…もあったのかもしれない。けれどそれ以上に二人の溝を深めてしまう要因があった。

 

「…後で聞いてわかったけど、魔法の実技が苦手で悩んでいるらしくて…」

 

優秀な姉と比べてリコはそれがコンプレックスになったのかもしれない。

 

「でも…リコには素晴らしい才能がある。きっかけさえ掴んでくれればきっと魔法も上手に使えるはず…」

 

きっとリズは誰よりもリコの才能を信じているのだろう。でなければリコがいきなりリズの真似をした時点で無理だと止めていた筈だ。

 

「リズ先生…」

 

リコの事を語るリズの顔はとても穏やかで本当に大切に思っているのがみらいにも伝わってくる。

 

「…あの、先生は戻っててください。リコ、必ず連れ戻して来ますから!」

「え?あ、みらいさん!?」

「モフルン達に任せるモフー!」

 

このまますれ違ったままなんて絶対に駄目だ、リズの話を聞いて強くそう思ったみらいはいてもたっても居られなくなり、戸惑うリズにそれだけ言うと再びリコを探す為に走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━とある巨大樹の上━

 

「プリキュアめ…今度こそエメラルドのありかを吐かせてやるわよ…!」

 

魔法学校を一望できるその場所で闇の魔法使い、スパルダが息巻く。

 

「あらあら、そんな事を言ってまたやられて帰ってくるんじゃないですか?」

 

その隣でもう一つの影がスパルダを煽るように口を開いた。

 

「ハッ、それはアンタの方だろマンティナ?潜入任務を放棄してまで逃げ帰ってきたのはどこの誰だい?」

「…何の事でしょう?」

 

煽るつもりがまさかの反撃を食らってしまい面白くないといった顔をするマンティナことマキナ。

 

「潜入がバレて実力行使に出たら返り討ちにされたんだろ?情けないねぇ」

 

ここぞとばかりに責めてくるスパルダにマキナはにっこりと笑って返した。

 

「何か勘違いをしているようですね?」

「どこが勘違いだって言うんだい」

 

マキナの態度に眉をひそめるスパルダ。

 

「魔法学校で調べる事はもう無かったのでバレても問題はなかったんですよ、それに()()()()()も見れましたしね」

「チッ…」

 

ご機嫌そうに話すマキナの様子にこれ以上は無駄だと判断したスパルダは舌打ちと共に魔法学校の方を向いた。

 

「まあいいさ、アンタは今回大人しく見てな」

 

スパルダはそう言うと木から飛び降りて魔法学校へと向かう。

 

「そう、ならお手並み拝見といきましょうか」

 

木の上からスパルダを見送りながらマキナは薄く笑って呟いた。

 

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