やはり俺が魔法使いでプリキュアなのはまちがっている。   作:乃木八

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第七話「特訓!魔法の杖!お手本は八幡?先生はリコのお姉ちゃん!?」Bパート

 

「どうして私にはできないの…」

 

感情のままに補習授業を飛び出したリコは別校舎の屋上で自らの杖を抱えてそんな事を呟いた。

 

「っ」

 

抱えていた杖を睨んで一人歯噛みするリコ。

 

リズが言いかけた〝あなたの杖は〟という言葉が頭に(よぎ)り、自分とは違ってこの杖は特別なんだと思うと投げ捨ててしまいたい衝動に駆られた。

 

「こんなものっ…」

 

その衝動に従って屋上から投げ捨ててしまおうとリコは思いっきり杖を振りかぶる。

 

「っ!?」

 

振りかぶった手を誰かに掴まれて驚きながらリコが振り向いた。

 

「いや、何で自分の杖を空に向かってスパーキングしようとしてるんだよ…」

 

振り向いたその先にいたのは驚きと呆れが入り交じった表情を浮かべる八幡だった。

 

「っ八幡!?どうして…」

 

先程とは異なった驚きを見せるリコに、八幡が明後日の方を向いて答える。

 

「あー…どうしてって言われてもなんとなく屋上にいるかと思ってだな…」

 

みらい達と一緒にリコの後を追った八幡だったが、その途中でふと、屋上が気になり自然と足がその方に向かっていた。

 

「そうじゃなくて…どうして…」

 

追いかけてきたのか?リコが聞きたかったのはその理由だ。

 

「…()()…だからな…」

「友…達…」

 

〝友達だから〟少し前までの八幡だったら絶対に言わなかったであろう言葉、けれど今は違う。

 

その繋がりを大切にしようと、自分から一歩踏み出そうと決めたからこそ出てきた言葉だった。

 

「でも…」

 

何かを言い淀むリコの言葉を遮って八幡が続ける。

 

「友達が悩んでいるなら一緒に悩むのが友達なんじゃねぇの?知らんけど…」

「………」

 

それも少し前の八幡だったら鼻で笑っていたであろう言葉だ。

 

確かに解決策を提示出来るのならば、一緒に悩んで相談に乗ってもらうのも悪くはないだろう。

 

だが、大抵の場合は解決策を提示するでもなくただ頷いて話を合わせ、一緒に悩んで相談に乗ってあげているという自己満足でしかない。

 

たとえ誰かを頼らなくても時間、あるいは自分次第で殆どの悩みは解決してしまう。

 

だからこそ八幡はその言葉を、行為を否定していた。

 

解決する気がないのなら聞くな、自己満足の為に聞くだけ聞いてどうしようと(のたま)うのを許容してしまう関係なんて虫酸が走る、と。

 

「…正直、何を悩んでいるのかわからんし、それを俺が解決できる保証もない」

 

もし、今八幡のしようとしている行為に対して、それはお前が否定したものと同じではないのかと聞かれたら〝違う〟とは言えない。

 

「それでも、俺は…」

 

そんな事を考えてしまったせいなのか、そこまで口にしたにも関わらず、そこから先がどうしても出てこなかった。

 

言いたい事は決まっている。リコの力になりたい、それだけだ。

 

けれど、それを言葉にして伝えることが酷く苦しい。これまでずっと他人を否定し、否定されてきた八幡にはそんな言葉すら本人の前で言うには傲慢な事だと思ったから。

 

「…八幡には関係ないでしょ…」

「っ…」

 

言葉に詰まってしまった八幡にリコの言葉が突き刺さる。

 

「八幡に…私の気持ちなんてわかるはずないわ…それが一緒に悩む?ふざけないで!」

 

叫ぶリコの声に八幡は俯き、黙ったままその言葉を受け止めた。

 

「だって八幡は合格したじゃない!!お姉ちゃんにも誉められて!みんなのお手本になって!できない私とは全然違う!!」

「……」

 

(せき)を切ったようにリコが抑えていた胸の内を吐露(とろ)する。

 

本当はこんなこと言いたくなかった、あの時と同じ過ちを繰り返したくなかった、そう思っても(あふ)れてくる感情を止められない。

 

「魔法の練習はずっとやってきた!魔法の知識だって必死に勉強してきたの!!それなのに……魔法を習い始めたばかりのみらいや八幡が私のできない事をいとも簡単にやってのけて…私のしてきた事は無駄だったて言うの!!?」

 

吐き出されたのはひた隠しにしていた嫉妬や羨望、そして誰に問いかけるでもない悲痛な叫びだった。

 

それは誰もが持ちうる感情、現れた理不尽の前に努力が霞んでいき、どうしようもない思いが心に渦巻いていく感覚。

 

そのどうしようもない感情を誰かにぶつけたくなる気持ちは八幡にも覚えがある。

 

けれど、八幡にはそれをぶつけられるような相手はいなかったし、すぐに世の中なんて理不尽なものだと諦めてそれを溜め込む事はなかった。

 

だがリコは違う。理不尽を目の当たりにしても八幡のように諦める事はしなかった。意固地になって、がむしゃらに突っ走っていたけれど、諦めずに理不尽に抗っていたのだ。

 

もちろんそれが全部正しいとは言わない。少なくとも途中で諦めてしまった八幡にリコの事をとやかく言う資格はない。

 

「…悪い」

 

俯いたまま謝る八幡。もし、感情を吐き出す事でリコの気が少しでも晴れるならこのまま感情の捌け口(サンドバッグ)になっても仕方ないと思った。

 

「あっ…」

 

そんな八幡の思いとは裏腹にリコの口から漏れたのはやってしまったという後悔を含んだ声だった。

 

ひゃっこい島での失敗から何も学べていない。

 

自分は何一つ成長していないのではないか?リコの気持ちは晴れるどころか、悪い方へと考えては沈んでいく。

 

「………」

「………」

 

八幡はリコの力になりたいのに言葉にして上手く伝える事ができない。

 

リコは八幡の事を傷付けたくなんてないのに感情を抑える事ができない。

 

お互いにできない事を恐れてしまい、二人とも俯いたままで黙り込んでしまった。

 

(このまま踏み込まなければ何も変わらない…)

 

(謝らないと…でも…どうしたら…)

 

いくら頭の中で考えようとも、言葉が出てこない。互いに沈黙したまま、ただ時間が過ぎていく。

 

そんな時、辺りに響く大きな泣き声が二人の沈黙を破った。

 

「ぅわぁぁぁっん!!」

「「!?」」

 

二人が突然聞こえた泣き声に驚く中、リコの持っていたリンクルスマホンが宙に浮かぶ。そしてスマホンから光と共にはーちゃんが飛び出した。

 

「はーちゃん!?どうしたの!?」

「びぃぇぇぇんっ!!」

「寝起きでお腹が空いているんじゃ…とにかくリンクルストーンを…」

 

さっきまでの気まずい沈黙もリコの掌の上で泣きじゃくるはーちゃんを前にしてはそれどころではなく、二人はわたわたと慌てふためく。

 

「そ、そうねっ…ええと…あった!」

 

八幡の言葉に急いでリンクルストーンアクアマリンを取り出したリコ。それをスマホンにセットし、空色のスープが描き出される。

 

「はい、はーちゃんあーん」

「ぇぇん…んく…んく…」

 

空色のスープをスプーンでひと(すく)いして、それをゆっくりはーちゃんの口元に近付けると、それまで泣きじゃくっていたのが嘘のように泣き止み、夢中でスープを飲み始めた。

 

「んく…はー♪」

 

スプーンで掬った分を飲み干すと、はーちゃんは満足したようでスマホンの中に戻り、再び眠り始める。

 

「「良かった…」」

 

すやすやと眠るはーちゃんを見て、リコと八幡は同時に安堵の声を漏らした。

 

「「あっ…」」

 

声が揃ったことに少し驚き、二人は顔を見合わせる。

 

「「………」」

 

一瞬、目と目が合い、同時に顔を背ける二人。はーちゃんが眠ってしまったことで再び気まずい空気が流れ始めた。

 

「……すぅ…はぁ……は、八幡!」

 

互いに踏み出せないさっきまでの沈黙が続く中、深呼吸をしたリコが意を決したように八幡の名前を呼ぶ。

 

「ひゃ、ひゃい!」

 

このまま沈黙が続くと思っていた八幡は、突然名前を呼ばれて驚き、思わず噛んでしまった。

 

「その…ごめんなさい!!」

「…え?」

 

頭を深々と下げて謝るリコに戸惑う八幡。そんな八幡を他所にリコはその先を続ける。

 

「私…心配してくれた八幡に酷いことを…言っちゃ駄目ってわかってるのに…止められなくて…」

 

ぽつり、ぽつりとリコの口から言葉が(こぼ)れていく。それは途切れ途切れで断片的だったけれど、その一つ一つからリコの後悔が痛いくらいに伝わってきた。

 

「…そうだな」

「っ」

 

肯定する八幡の言葉に息を呑んで肩を震わせるリコ。怒るのは当然、それだけの事を言った自覚はあった。それでも、八幡の肯定はリコの心に重くのし掛かる。

 

「けど…まあ…あれだ…別に謝る事じゃないだろ」

「…え?」

 

予想外の言葉に今度はリコが戸惑いの表情を浮かべた。

 

「誰だって多かれ少なかれそう思うときもある…それにそういうのを溜め込むのはものすごくしんどい。ソースは俺」

「そ、そーす?」

 

続けて出た聞き慣れない単語に八幡の意図がわからずリコは困惑する。

 

「…要は気にするなって事だ。無理に聞こうとしたこっちも悪いしな」

 

悩みでいっぱいいっぱいになったところに、たまたま八幡の言葉がきっかけでそうなってしまっただけの事。

 

確かにリコは酷いことを言ったのかもしれない。だが、リコの言った事は間違っていないと八幡は思う。

 

必死に努力して、それでも出来なかったのに隣で何も知らない初心者がいとも簡単にやってのける姿を見せつけられれば腹が立つのも当然だ。

 

ましてそいつは何も知らないくせに一緒に悩むなんて宣うのだからふざけるなと言われても仕方ないだろう。

 

「…ううん、悪いのはやっぱり私。だって八幡は心配してくれただけでなにも悪くないもの」

 

首を振ってリコは全面的に自分に非があると主張する。

 

「…いや、それは違うだろ」

 

即座にその主張を八幡が否定した。

 

「違わないわ。私が悪いの」

 

否定した八幡の言葉をリコが更に否定する。

 

「いや俺が…」

「だから私が…」

 

互いの意見が食い違って平行線のまま会話が進まない。

 

「じゃあ二人とも悪くないってことでいいんじゃないかな?」

「へ?」「は?」

 

突然の違う意見に驚き、リコと八幡は同時に声の方を向く。

 

「やっと見つけたよ二人とも」

「探したモフ~」

「みらい…」

「…とモフルン」

 

そこにいたのは八幡と同じくリコを追いかけてきたみらいとモフルンだった。

 

「八くんってば一人で探しに行っちゃうんだもん…リコのこと心配なのは私もおんなじなんだよ?」

「…別れて探した方が効率的だろ」

 

ぱたぱたと近くまで駆け寄ってきたみらいから視線を逸らして八幡が答える。

 

「そうかもだけど、その前にきちんと相談してほしかったな」

「………」

 

今までずっと一人だった八幡にはその考え自体浮かばない。みらいの言葉で八幡は改めて自分の中にぼっちとしての習慣が染み付いている事を思い知った。

 

「……悪い、次からは気を付ける」

「ん!わかった!」

 

八幡の返事に満面の笑みを浮かべるみらい。

 

「それにしてもどうしてここにいるってわかったの?」

「はーちゃんの声が聞こえたモフ!」

 

リコがそう尋ねるとモフルンが答えた。どうやらさっきのはーちゃんの泣き声は遠くまで響いたらしい。

 

「それで二人ともどうしたの?」

 

みらいが八幡とリコに改めて事情を問う。

 

「えっ聞いてたんじゃないの?」

「ううん、私達が来たのは二人とも悪いって言い合ってる時だったから」

 

つまりみらいはどうしてそうなったか知らないということになる。

 

「…よくわからないのに二人とも悪くないって言ったのか?」

 

先程のみらいの言葉を思い出し、八幡が少し棘のある言い方で尋ねた。

 

「うん、だって八くんもリコも自分が悪いって言い合ってるんだもん。それって二人とも相手は悪くないって思ってるからでしょ?ならきっとどっちも悪くないんだよ!」

「「えー…」」

 

まさかの超理論に思わず呆れた声を漏らす二人。みらいの言っていることは穴だらけで、たぶん反論しようと思えば簡単に出来るのだろう。

 

「…まあ、仕方ないか」

「…ふふっみらいらしいわね」

 

しかし、不思議とみらいの言葉を否定する気にはなれず、二人は笑ってその超理論を受け入れることにした。

 

「えっ?なになに?」

「なんでもない。ただ、お前の言う通りだなとおもっただけだ」

「そうね、みらいの言う通りだわ」

 

さっきよりも晴れやかな表情になった八幡とリコに首を傾げながらも、元気になったのなら良かったと一緒になって笑うみらい。

 

「みんな仲良しモフー♪」

 

笑いあうみらい達を見てモフルンが嬉しそうに呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

「みんなに聞いてほしいことがあるの」

 

一頻(ひとしき)り笑いあった後、リコが意を決してそう切り出した。

 

「聞いてほしいこと?」

「モフ?」

 

みらいとモフルンが首を傾げる。

 

「…いいのか?」

「ええ、みんなには知っていてほしいの」

 

心配してくれた八幡とみらいの言葉に背中を押されてリコは隠していた胸の内を語り始めた。

 

「…リズお姉ちゃんは何でも出来て私の憧れだった」

 

リコはそう言いながら首から下げているリンクルストーンダイヤを取り出す。

 

「このペンダントも私の家に代々伝わる大事もので、本当はお姉ちゃんが受け継いだものだったの」

 

ダイヤのペンダントを見つめてリコは()()()の事を話し出した。

 

 

 

 

 

 

 

『キュアップ・ラパパ!水よ、凍れ!』

 

今のリコと同じく魔法学校の制服に身を包んだリズが噴水に向かって魔法を掛ける。

 

『わぁっ!お姉ちゃんすごーい!!』

 

リズの魔法によってカチンコチンに凍った噴水に目を輝かせる幼いリコ。

 

『リコもお姉ちゃんみたいになりたーい!!』

 

自分の杖を握り締めて幼いリコはリズに憧れの眼差しを向けた。

 

『リコならきっとなれるわ、立派な魔法使いに』

 

そう言うとリズは屈んで目線を合わせ、首から下げていたダイヤのペンダントを外して幼いリコの首にそっとかける。

 

『わぁぁ…お姉ちゃん!』

 

嬉しそうな表情を浮かべる幼いリコにリズは優しく微笑み返していた。

 

 

 

 

 

 

 

「あの日からお姉ちゃんみたいな立派な魔法使いになる…それが私の夢だった」

「だった…?」

 

リズの事を語るリコの表情は誇らしげなのにそれを自分の夢だったと過去形で語る事に八幡が反応を示す。

 

「…いざ学校に入ってみたら魔法の実技だけがどうしてもできなくて…そんな姿を見られるのが恥ずかしかったの」

 

優秀で憧れだった姉のリズ、そしてそんなリズを目標に夢見ていたリコ。

 

けれど、現実は非情で出来なければ出来ないほどにリズとの差を感じ、それが原因で姉妹はすれ違ってしまった。

 

「このペンダントに相応しいのはやっぱりお姉ちゃん…お姉ちゃんがこれを持っていれば良かったのよ…」

 

ダイヤを握り締めてリコは声を震わせる。後悔の気持ちに押し潰され、再び感情の歯止めが効かなくなっていた。

 

「そう…プリキュアだってお姉ちゃんの方が…」

「そんなのイヤだよっ!!」

 

後悔するリコの言葉をみらいの言葉が遮る。

 

「リコがこのペンダントを持っていたからっ私達は出会えたんだよ!一緒にプリキュアになれたんだよ!今ここにみんなで一緒にいられるんだよ!私はリコじゃなきゃイヤだっ!!リコと一緒に合格するのっ!!」

「っ……みらい!」

 

誰が相応しいだとかそんなのは関係ない、リコだから、リコじゃなきゃ嫌だ、叫ぶみらいの言葉は真っ直ぐリコの心に届いて暗い感情を吹き飛ばした。

 

「…嫌だ、か」

 

誰にも聞こえないくらいの声で八幡が呟く。

 

もし、伝説の魔法使いというのが世界を救う為に存在しているのならば、みらいの言っている事はある意味ワガママなのかもしれない。

 

世界を救う為にはより優秀な魔法使いがプリキュアになると考えた方が合理的なのだろう。

 

しかし、それはあくまでも理屈の上の話だ。本当にプリキュアが世界を救う為の存在か、なんて誰にもわからない。

 

たとえそうだとしても()、伝説の魔法使い、プリキュアはみらいとリコの二人なのだ。誰が否定しようとその事実は変わらない。それに━━━━

 

「…俺はお前らがプリキュアで良かったと思う」

「八…幡…」

 

みらいとリコだから、あの二人だからこそ八幡はもう一度諦めていたものに手を伸ばそうと、向き合っていこうと思えた。

 

他に相応しい誰かがいる?より優秀な魔法使いに任せるのが合理的?そんなことはどうだっていい。

 

二人は魔法つかいプリキュアで八幡にとって大切な存在。それはたとえ、みらいとリコ本人達だって否定させはしない。

 

「だから…その、あれだ。俺もお前らじゃないと嫌だし…困る」

 

自分の正直な気持ちを口にすることに慣れていない八幡は顔を赤くしてそっぽを向きながら呟いた。

 

「…八幡照れてるモフ?」

「…ふふっほんとだ、八くんの顔赤いね」

「…ふふっ」

 

少し捻くれているが八幡の素直な言葉にモフルンとみらいが嬉しそうに微笑み、リコも自然と笑顔になる。

 

━━ドォォォォンッ

 

「「「!?」」」

 

暖かい雰囲気に包まれる中、突如として中庭の方から凄まじい轟音が聞こえてきた。

 

「なんだ!?」

「あれは…!」

「あそこは…」

 

音の聞こえてきた方向に顔を向けると派手に土煙が上がっているのが見える。

 

「池のそば!?」

「なにが起こったの!?」

 

土煙は先程までみらい達もいた補習の行われている中庭の噴水近くから上がっていた。

 

「あれは…!?」

「お姉ちゃんっ!!」

 

晴れてきた土煙の中から出てきたものに八幡は驚き息を呑む。

 

「ヨクバールッ!」

 

現れたのは砂時計の体に髑髏(どくろ)の頭、その鼻先にノズルのようなものをつけた怪物、ヨクバールだった。

 

「あっ!」

「っお姉ちゃん!」

 

渡り廊下を支える柱を壊しながら進むヨクバールの先には補習授業の途中だったリズ達がいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っんだよ!アレ!?」

 

突如襲ってきた怪物を前にジュンが驚きと恐怖の混じった悪態をついた。

 

「ヨク…バールッ」

 

巨体を揺らしてゆっくりと迫るヨクバールに対し、リズは自分にできる最善を尽くすために杖を構える。

 

「キュアップ・ラパパ!魔法の絨毯よ、来なさい!」

 

リズが呪文を唱えると何処(どこ)からともなく魔法の絨毯が飛んできてジュン達三人の前で止まった。

 

「っ早く乗って!」

 

状況を呑み込めていない三人はリズの切羽詰(せっぱつ)まった声音に急いで魔法の絨毯に飛び乗る。

 

「リズ先生!」

 

最後のエミリーが乗り終えたのを確認したケイに促され、乗り込もうとするリズ。

 

「ヨクバール」

「っ!」

 

しかし、近くまで迫っていたヨクバールが攻撃体勢に入った事に気付いて、このままでは間に合わない事を悟る。

 

「ヨクバー…」

「皆さんは先に!」

「リズ先生っ!」

 

攻撃が発射される寸前のところでリズは杖を振ってジュン達の乗った魔法の絨毯を逃がし、その勢いのままヨクバールへと杖を向けた。

 

「キュアップ…」

「ルッ!!」

 

呪文を唱えるよりも速くヨクバールの顔についたノズルから水の塊が勢いよく発射されて無防備なリズへと迫る。

 

「きゃぁぁっ!?」

 

ヨクバールの狙いが甘かったお陰で直撃こそ間逃れたものも、その衝撃でリズは空高く放り出されてしまった。

 

「なんだい、プリキュアかと思ったら他人の空似じゃないか」

 

ヨクバールの真上、渡り廊下の(ふち)に立っている闇の魔法使い、スパルダが吹き飛んだリズを見てつまらなそうに呟く。

 

プリキュアを探していたスパルダは中庭で補習授業の途中だったリズをリコと勘違いしてヨクバールをけしかけた。

 

スパルダにとってはただの勘違いで済む話だが、生身でヨクバールの攻撃を受けたリズは違う。

 

受けた衝撃で気を失ってしまい、空高く放り出されたリズがこのまま落ちれば怪我だけでは済まない。

 

「っあぁぁぁ!!」

 

そんな時、叫び声を上げながらリズの方に何かが高速で飛んできた。

 

「こ、この声は…!?」

 

叫び声に既視感を感じたスパルダが思わず身構え、その方向に顔を向ける。

 

「っ!!」

 

飛んできたものの正体に怒りの表情を浮かべるスパルダ。それもその筈、魔法商店街での戦いでスパルダは()()のせいでプリキュアに負けたようなものだったからだ。

 

「お前はっ!!」

 

落ちていくリズの元へ飛んできたのは化け物じみた速度の箒に跨がる八幡だった。

 

「ぐっ…とぉぉぉっ!?」

 

八幡は箒の速度に振り回されながらも、足で柄にしがみついて両腕を前に突き出し、空中でリズを受け止める。

 

「がっ!ぐぅぅぅっ!!」

 

受け止める事には成功したものの、勢いのついた箒は簡単には止められない。リズを抱えたまま体を捻り、強引に進行方向を変えて八幡は空に向かって飛んだ。

 

「っ止まれぇぇっ!!」

 

空中で一回転し、今度は箒の進行方向を真下に向け八幡が叫びながら、体を思いっきり逸らして足に力を込め、ブレーキをかける。

 

「っ!」

 

しかし完全に止める事は叶わず、八幡は咄嗟に柄を蹴って箒から飛び降りた。

 

「ぐっ…!?」

 

リズを庇って背中から地面に落ちた八幡。幸い飛び降りたのは地面に近い高さだったので大事には至らなかったが、それでも落ちた衝撃で鈍い痛みが八幡を襲う。

 

「お姉ちゃん!!」

 

そこへ後ろにみらいを乗せたリコが遅れて飛んできた。

 

「八くん!リズ先生!大丈…夫?」

 

箒から飛び降りたみらいが駆け寄って無事を確かめようと声を掛けるが、唐突にその言葉を止める。

 

「お姉ちゃん!良かった…無事…で…」

 

みらいの後からリコも駆け寄ってリズの無事を確認すると、不意にその動きがピタリと止まった。

 

「痛っ……えっなに?」

 

痛みに顔を(しか)めながらも八幡は二人の視線に気付いて怪訝そうな表情を浮かべる。

 

「えっと…八くん…それは…」

「それ…?なんの事…だっ!?」

 

珍しく言い淀むみらいの目線の先を見て八幡はぎょっと驚き、一瞬固まってしまった。

 

「んっうぅ…」

 

八幡の腕の中、抱き止められる形で気を失っているリズがいる。箒から飛び降りる際に落とさないよう体の方に引き寄せたせいかリズの顔がかなり近い。

 

「…八幡?」

「ひっ…」

 

リコが目を細めながら八幡を呼ぶ。その声音は冷たく、表情と相まってみらいが思わず短い悲鳴を上げる程恐ろしかった。

 

「ハッ本物のお出ましだね」

 

そんな空気の中に渡り廊下の上にいたスパルダが飛び降り全員の視線がそちらに向く。

 

「助かった……」

 

スパルダの登場でリコの意識が逸れたことに安堵した八幡が小さい声でぼそりと呟いた。

 

「…八幡には後で話があるから」

 

呟きが聞こえたのか、リコが顔だけ八幡の方に向けてそう言い放つ。どうやら助かってはいないらしい。

 

「何をごちゃごちゃと…覚悟しな!アタシの力で叩きのめしてやる…その弱っちいのと同じようにね!」

 

気を失っているリズを指して嘲笑うスパルダにリコはぎゅっと拳を握り締め怒りを燃やした。

 

「みらいっお願い!!」

「うん!」

 

その言葉を合図に二人は手を繋ぎあう。

 

「「キュアップ・ラパパ!」」

 

「「ダイヤ!」」

 

「「ミラクルマジカルジュエリーレ!!」」

 

ダイヤの光が二人を包み込み、伝説の魔法使いへと変えて現れた。

 

「ふたりの奇跡!キュアミラクル!!」

 

「ふたりの魔法!キュアマジカル!!」

 

それぞれ名乗り、再び手を繋ぎあってくるりと回る二人。

 

「「魔法つかいプリキュア!!」」

 

ポーズを決めた二人は真っ直ぐスパルダを見据える。

 

「くっ行きな!ヨクバール!」

「ギョイッ!」

 

二人の強い意思を秘めた瞳を忌々しそうに見つめ、スパルダがヨクバールをけしかけた。

 

「ヨッヨッヨッ━」

 

ヨクバールの鼻先から圧縮された無数の水塊(すいかい)が水弾となってミラクルとマジカルに襲い掛かる。

 

「「はぁっ!」」

 

初弾を飛び退いてかわした二人は迫る無数の水弾を前に後ろにくるりとかわし、合間を抜けてヨクバールの頭上へと飛び出した。

 

「ヨクッ!」

 

ヨクバールが慌てて鼻先を上へと向けるがすでに遅い━━━━

 

「「はぁっ!!」」

 

「ッヨクバール!」

 

二人が同時に繰り出した上空からのドロップキックがヨクバールの顔に直撃する。

 

「ヨクッ!?」

 

衝撃をこらえて二人を振り払おうと暴れるヨクバール。

 

しかし、ドロップキックを放った反動を利用して飛び退いた二人には当たる筈もなく、それどころか逆にヨクバールがダメージを受けてしまった。

 

「やぁぁぁっ!!」

 

「たぁぁぁっ!!」

 

自らの攻撃で怯んだ隙にミラクルとマジカルは怒濤の攻撃を繰り出す。

 

「ヨッ!?ヨッヨッ━ヨクバールッ!?」

 

拳と蹴りの応酬をまともに喰らってしまったヨクバールは堪らずよろめき、たたらを踏んで柱に激突した。

 

「…いつにも増して凄いな」

 

戦闘の余波を受けない安全な場所へリズを運んでいた八幡が二人の戦いっぷりに思わずそう呟く。

 

「お姉ちゃんを傷つけるなんて…許さない!」

「ハッ、弱いくせにでしゃばるからだよ!魔法学校の先生なんて大したことないねぇ?」

 

怒りに燃えるマジカルを挑発するようにスパルダが嘲笑った。

 

「っ!!」

「なんてこと言うの!リズ先生は生徒思いで…みんなが尊敬する立派な魔法使いなんだから!!」

 

スパルダの挑発にマジカルは拳を握り締め、ミラクルは怒りを(あらわ)にする。

 

「立派な魔法使いぃ?くだらない」

 

激怒する様子を見たスパルダはニヤリと口を歪めてさらに二人を(あお)った。

 

「ヨクバールッ!」

 

二人の注意がスパルダへと向いている隙をついてヨクバールが起き上がり、水弾を放つ。

 

「っ危ない!」

 

気付いたミラクルが咄嗟に叫ぶが間に合わない。水弾は(あやま)たず、マジカルへと一直線に向かう。

 

「しまっ━━!?」

 

「キュアップ・ラパパ!水よ、象になれ!!」

 

━━━━バシャァァン!!!!

 

水弾がマジカルに直撃する寸前で弾けた。

 

ミラクルもマジカルも、そしてスパルダやヨクバールでさえ何が起きたわからず、水弾が弾けたあとを見つめる。

 

「なんとか上手くいったな…」

 

少し離れたところから聞こえたその声に全員の視線がその方向を向く。

 

「八…くん?」

 

視線の向いた先、そこには杖を構えた八幡がいた。

 

「リズ先生は安全な場所に運んだ。気を失ってるだけで目立った怪我もなかったから一先ずは大丈夫だろ」

「え、ええ…」

 

ヨクバールを警戒しながら歩いてくる八幡に戸惑いの視線を向けるマジカル。そんなマジカルの視線に気付いた八幡が訝しげな表情を浮かべる。

 

「…どした?」

「今の…」

「八くん!今の魔法どうやったの!?」

 

マジカルが答えるより先にミラクルが顔をぐいっと八幡の方に近付けて聞いてきた。

 

「いや近い…」

「へ?わっご、ごめん!」

 

その言葉に一瞬、首を傾げるミラクルだったが、八幡の反応を見て気付き、慌てて離れる。

 

「…それで?」

 

二人にジト目を向けながらマジカルが続きを促した。

 

「…どうって言われても特別な事はしてない、ただ()()()()()()()()()をやってみただけだ」

 

ジト目から逃れるように顔を背けて八幡が答える。

 

「真逆な事?」

「…ヨクバールが攻撃に使っているのは水だ。ならさっき習った魔法をわざと失敗させれば攻撃が直撃する前に防げるかもしれない、そう思ったんだよ」

 

いくら地面を(えぐ)るような攻撃でも水は水、もしかしたら何もイメージを思い浮かべずに合わない呪文を使って魔法を失敗させれば授業の時のように弾け飛ぶのではないか?一か八かだったが八幡の考えは当たっていたらしい。

 

「わ、わざと失敗させるってそんな事、普通は思い付かないよ…」

 

八幡の発想に驚愕するミラクル。その隣でジト目を向けていたマジカルも同様に驚いている。

 

「…どうやらどこまでもアタシを怒らせたいみたいだねぇ…!」

 

固まっていたスパルダが怒りを(にじ)ませ、血走った目を八幡に向けた。

 

「弱いくせにでしゃばるとどうなるか教えてやるよ…さっきの()()()()()使()()とやらと同じようにね」

「っ!!」

 

スパルダが言い終えると同時にマジカルが飛び出す。怒りに任せ、ただ一直線にスパルダに向かっていった。

 

「ハッ!かかったねぇ…ヨクバール!」

 

「ギョイ」

 

飛び掛かってくるマジカルにスパルダは再びニヤリと笑う。

 

どうやら八幡に怒りを向けながらも頭は冷静だったらしい。わざと挑発して誘い出したマジカルにヨクバールの発射した水弾が迫っていた。

 

「マジカルッ」

 

「っ…!?」

 

「キュアップ・ラパパ!水よ、象になれ!!」

 

━━バシュンッ━━バシュンッ━━バシュンッ

 

発射された水弾が八幡の魔法で全て弾け、辺りに水が撒き散らされる。

 

「マジカル!」

 

ヨクバールの方に杖を向けたまま八幡が大声で叫んだ。

 

「落ち着け、リズ先生が本当に立派な魔法使いなのはお前が一番よく知ってるだろ」

 

その言葉にマジカルがハッと目を見開く。

 

(そうだ…お姉ちゃんは立派な魔法使い、誰がなんと言おうとそんなの関係ない!)

 

スパルダの挑発によって頭に血が上ってしまったマジカルだったが、八幡の言葉でようやく冷静さを取り戻した。

 

「またしてもアタシの邪魔を…ヨクバールッ!」

 

「ギョイ!」

 

しかし、それは再び八幡がスパルダの目論見を打ち砕いたという事だ。指示を受けたヨクバールが八幡へと迫る。

 

「ヨクバールヨクバールヨクバールヨクバールッ!」

 

「っ…!」

 

一心不乱に両手を広げてドシンッドシンッと迫るヨクバールは他には目もくれずに八幡に襲い掛かった。

 

「やぁぁぁっ!!」

 

「ヨクバールッ!!?」

 

━━━━ドガァァッン!!!!

 

マジカルの鋭い蹴りがヨクバールを吹き飛ばす。そのあまりの威力に吹き飛ばされたヨクバールが激突した柱は粉々に砕けてしまった。

 

「私の大好きなお姉ちゃんを馬鹿にしないでっ!!」

 

八幡のおかげで幾分か冷静さを取り戻したとはいえ、怒りを忘れたわけではない。今の蹴りはマジカルの怒りが充分に伝わってくる威力だった。

 

「今、大好きって言いました!?」

 

素直なマジカルの言葉ににミラクルが嬉しそうな声を上げる。

 

「私はお姉ちゃんを…大好きなお姉ちゃんをいつか越えて、もっともっと立派な魔法使いに…なってみせるんだからっ!!」

 

ずっと秘めたまま口には出来なかった目標。けれど今なら言える、マジカルの決意を込めた宣言と共にリンクルストーンアクアマリンが光を放った。

 

「リンクルストーンが…」

「マジカルの想いにアクアマリンが応えたモフー!!」

 

青く輝く光に八幡が呆然と呟き、モフルンは興奮したように口を開く。

 

「くっ…」

「ヨク、バール…」

 

苦虫を噛み潰した表情で怯むスパルダ。そして、よろよろとヨクバールが立ち上がり、鼻先に力を溜める。

 

「マジカル!」

 

呆然と光を見つめていたマジカルがミラクルの言葉にハッとしてそっとアクアマリンを掴んだ。

 

「………」

 

想いに応えてくれたアクアマリンを手に取ったマジカルはリズとの思い出を浮かべながら杖を握りしめる。

 

「リンクルステッキ!」

 

マジカルに呼応して星形の杖が伝説の杖へと姿を変えた。

 

「リンクル・アクアマリン!!」

 

アクアマリンがセットされたリンクルステッキをマジカルは振るう。

 

 

━━━━カチコチカチコチガキンッ!!!!

 

振るわれたリンクルステッキは青い魔方陣を描き出し、そこから猛烈な冷気がヨクバールの鼻先をカチカチに凍てつかせた。

 

「ヨッ━!?」

「なっ!?」

 

アクアマリンの力に発射口を凍らされたヨクバールが驚き、スパルダは目を見開く。

 

「今だよ!」

 

ミラクルの合図で二人はリンクルステッキを構えた。

 

「「ダイヤ!」」

 

「「永遠の輝きよ!私達の手に!」」

 

光輝くダイヤのカーペットの上でミラクルとマジカルがステッキを掲げる。

 

「「フルフル…リンクル!」」

 

掲げたステッキで描いた三角形が合わさり現れた輝くダイヤが闇を纏うヨクバールと激突した。

 

「「プリキュア!」」

 

「「ダイヤモンド…」」

 

光が闇を払い、ヨクバールを光輝くダイヤモンドが包み込む。

 

「「エターナル!!」」

 

呪文と共にヨクバールを包み込んだダイヤモンドは宇宙の彼方へと吹き飛んで浄化されていった。

 

「おのれぇっ!!オボエテーロ!!」

 

浄化されたヨクバールを見て歯噛みしながら、ギロリと八幡を睨み付けたスパルダは捨て台詞のような呪文を唱えて撤退していく。

 

「…なんかプリキュアよりも目の敵にされたな……はぁ…」

 

修復されていく校舎をに目を向けながら八幡は深くため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……んんっ…」

 

木陰のベンチに横たわっていたリズが意識を取り戻し、ゆっくりと目をあける。

 

「「………」」

 

そこには心配そうにリズを見つめる二つの人影が見えた。

 

「ぁ…」

 

リズが不思議そうに見返していると二つの人影は安心したように笑い、どこかに跳んでいってしまう。

 

「あれは…伝説の魔法使い…プリキュア…?」

 

木の隙間から差し込む光をぼんやりと眺めながらリズは誰に聞かせるでもなく呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ、でかい口を叩いた割に結局やられてしまいましたね…ま、予想通りですけど」

 

離れたところで戦いを静観していたマキナがつまらなそうに口を開く。

 

「…またいずれ会いましょう」

 

遠くに見える八幡に向けてそう言い残し、マキナは指をならして姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

━━サァァァ……

 

砂時計から聞こえる小さな音だけが静かに響く。

 

「十秒突破です」

「「「「ふぅ…」」」」

 

リズの言葉に安堵の声を漏らしたのはみらい、ケイ、ジュン、エミリーの四人。

 

ヨクバールを撃退した後、無事にリズが目を覚ました事で補習授業が再開され、四人は再び課題に挑んでいたのだ。

 

「よし!」

「できた~♪」

「へへっ余裕だぜ」

「リズ先生のおかげです!」

 

課題を無事にクリアしたみらい達は喜びあう姿にリズも微笑む。

 

「……はぁ…」

 

それを少し離れたところで見ていたリコは視線を迷わせ、中途半端に伸ばしかけた手を引っ込めてはため息をついていた。

 

「…課題、やらなくてもいいのか?」

 

リコの様子を見かねて、隣にいた八幡が問いかける。

 

「うっ…その、やらなくちゃいけないのはわかってるんだけど…」

 

八幡の問いかけにリコはぎくりと言葉に詰まって目を泳がせた。

 

「わかってるんならいくしかないだろ、ここで手を(こまね)いているだけじゃどうにもならないぞ」

 

そんなリコに対して八幡は少し厳しい正論をぶつける。

 

リコはリズを越えて立派な魔法使いになると宣言したのだ、ならここで立ち止まる訳にはいかないだろう。

 

「でも…私…授業を勝手に抜けて…お姉ちゃんにも酷いことを…」

 

どうやらリコはそれを負い目に感じているらしい。そのせいで踏み出す勇気が出ず、この場でまごついているようだ。

 

もしかしたらリコは怖いのかもしれない、尊敬する大好きなお姉ちゃんに拒絶されることが。

 

「…それなら素直に謝れば許してくれると思うけどな」

「…え?」

 

思わぬ八幡の言葉に驚くリコをちらりと見ながら八幡は続ける。

 

「お兄ちゃんやお姉ちゃんってのは基本的に妹の事が大好きなんだよ。だから妹が何をしようと素直に謝られればついつい許してしまう、そういう生き物だ。ソースは俺」

 

八幡だって妹の小町によく振り回されたりもしたが、なんだかんだで小町を溺愛している。

 

きっとそれはリズも同じ筈だ。でなければ走り去るリコに対してあんな顔はしない。

 

「…本当に?お姉ちゃんは許してくれると思う?」

 

まだ少し不安そうに聞いてくるリコ。決心はついたが、あとちょっとが踏み出せないのだろう。

 

「ああ、俺が保証する。だから…合格してこい」

 

ならばその背中を少しだけ押そうと思った。らしくはないのかもしれないけれど、今のリコにはそれが必要なのだから。

 

「…もちろんよ!見てなさい!絶対に合格するんだから!!」

 

リコは自信たっぷりにそう言うとリズの方へ駆け出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すぅ…はぁ…リズ先生!」

 

深呼吸をしてから勇気を振り絞りリズに声をかける。

 

「勝手に抜け出してすいませんでした!私ももう一度お願いします!」

「…ええ!」

 

頭を下げるリコに一瞬驚いたリズだったが、顔を上げたリコの真っ直ぐな瞳を見て嬉しそうに微笑んだ。

 

 

 

噴水の前、そこに杖を構えたリコが緊張した面持ちで立っている。

 

「っ……」

 

固い表情で水を見つめるリコに全員の視線が集まる。

 

「…大丈夫、できるわ。あなたなら」

 

向けられたリズの優しい言葉にリコの緊張は薄れ、固かった表情も笑顔に変わった。

 

「………」

 

ゆっくりと目を閉じてイメージを鮮明に浮かべる。

 

「キュアップ・ラパパ!水よ、ペンダントになりなさい!」

 

杖を振るうと水の塊が浮かび上がってゆっくりと形を変えていく。

 

「…!!」

 

リコがペンダントの形を選んだ事にリズが目を見開いた。

 

「あっ…」

 

順調にペンダントを形作っていた水がうねうねと不安定に揺らぎ始める。

 

「お願いっ…壊れないで!」

 

目を閉じて壊れないように集中するリコ。それに応えるかのように星形の杖とダイヤのペンダントが光を放った。

 

━━━━カチコチカチコチ

 

すると、不安定に揺らいでいた水のペンダントがピタリと止まって、氷のペンダントへと変わる。

 

「「「「わぁ…!!」」」」

「キラキラモフー!!」

「氷になっちゃった!」

 

きらきら光る氷のペンダントにみらい達が感嘆の声を上げた。

 

「…!?」

 

みらい達の声に目を開けたリコがまさかの事態に驚き、氷のペンダントを手に取る。

 

「あの…これ…」

 

凍ってしまったペンダントを差し出して、不合格になるのではないかとリコは不安そうにリズを見つめた。

 

「氷の魔法は上級者でも難しい。よくやりましたね」

「えっ?」

 

不合格どころかよくやったとリズに誉められてリコがポカンと口を開ける。

 

「合格よ、リコ!」

 

氷のペンダントを受け取ったリズはそう言うと紙に合格のスタンプをポンッと押した。

 

「ありがとう…お姉ちゃん」

 

リズに認められた嬉しさからか、うっすらと涙を浮かべるリコ。

 

「へーやるじゃん」

「…やったな」

 

ジュンが感心したようにリコを見つめ、八幡が誰にも聞こえないくらいの声で呟く。

 

「やったー!!リコ!やったね!!」

「ちょっとっみらいってば!はなれなさいってば!」

 

嬉しさのあまりに抱きついてきたみらいと少し照れた表情のリコにみんなが笑顔になって笑いあった。

 

「……」

 

そんな様子を微笑ましく見つめてリズは思いを馳せる。

 

(リコ、あなたの魔法の杖は星の祝福を受けた杖の木から生まれでたもの…あの星はきっとあなた自身が引き寄せた。あなたはきっと素晴らしい魔法使いになれる…そう、だからペンダントを託したのよ)

 

すれ違ってしまったけれど、リズはずっと信じていたのだ。

 

(良い友達と出会えてきっかけを掴めたようね、頑張ってリコ!)

 

先生だから直接は言えない、リズは心の中で最愛の妹に精一杯のエールを贈るのだった。

 

 

━八話に続く━

 

 





次回予告


「ゆっららー!!」

「うるさいわよみらい」

「そうだぞ、安眠妨害だ」

「なんで八幡は寝ようとしてるの…?」

「人魚さんと一緒にお歌の練習モフー!」

「「歌…ねぇ…」」

「あまーい~ニオイモフ♪」

「あまーい匂い…?」

「もしかして新しいリンクルストーン!?」





次回!魔法つかいプリキュア!やはり俺が魔法使いでプリキュアなのはまちがっている。

「人魚の里の魔法!え…歌うの?よみがえるサファイアの想い!」





「ららら~♪キュアップ~ラパパ~♪さん、はい♪」

「ららら~♪今日もいい日にな~れ~♪…はっ!?釣られた…」

「ふっ…」

「…八幡?私、忘れてないからね…?」

「リコが怖いよー…」

「…きょ、今日もいい日になーれ」

「あ、八幡が誤魔化したモフ」
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