やはり俺が魔法使いでプリキュアなのはまちがっている。   作:乃木八

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第八話「人魚の里の魔法!え…歌うんですか?よみがえるサファイアの想い!」Aパート

 

「すぅ……あのぉぉぉ!だれかいませんかぁぁぁ?

 

見渡す限りの広い海にみらいの大きな声が響き渡る。

 

「もう!いきなりびっくりするじゃない!」

「危うく落ちるところだった…」

 

あまりにも大きいその声に隣で座っていたリコが堪らず声を上げ、箒に乗って並走していた八幡は冷や汗を浮かべた。

 

「だって…誰もいないんだもん」

 

みらいが少し口を尖らせて呟く。

 

現在、みらい達補習組の生徒は魔法の絨毯に乗って大海原のど真ん中に来ていた。

 

「いや、だからってこんな海のど真ん中で大声を出しても仕方ないだろ」

 

一人だけ箒に乗っている八幡が呆れたように口を開く。

 

「…ぁ」

 

そんな八幡を見つめ、エミリーが何かを言いたそうに手を伸ばすが、話しかける事ができないままその手を引っ込めてしまった。

 

「………」

 

ちなみに八幡が一人だけ箒に乗っているのは仲間外れにされたとかそういうわけではない。

 

その裏にはこんなやり取りがあったからだ。

 

 

『今日の補習授業は学校外で行います。皆さん魔法の絨毯に乗ってください』

 

運転するための位置に座ったアイザックが乗るように促す。

 

『あれ?八くん乗らないの?』

 

他の全員が乗り込んだのに乗り込もうとしない八幡にみらいが尋ねた。

 

『いや…俺は』

(…あの絨毯に全員が乗るっていったら密着しないと乗れないだろ、それに…)

 

『ひゃうっ!?』

 

チラリと絨毯の方を見やると目があったエミリーから悲鳴に近い声が漏れる。

 

(どうにもまだ怖がられてるみたいだしな…さすがにそんな中で乗るわけにはいかないだろ)

 

他の生徒は馴れたようだが、どうにもエミリーだけがまだ八幡の事を怖がっている節があるので、尚更乗るわけにはいかなかった。

 

『あの…アイザック先生、練習も兼ねて箒で行ってもいいですか?』

『ぇ…』

 

それらの事を考慮した結果、箒で行く事を思いついた八幡。

 

魔法の絨毯と並走するように呪文を唱えればあの暴走箒だって普通に飛べる。それにこれからも闇の魔法使いが襲ってくるかもしれない。

 

ならば出来ることの選択肢を増やすためにも箒で飛ぶという事に少しでも慣れておいた方がいいだろう。

 

幸い八幡の箒が扱いにくいことは先生も知っていたようで練習ならばと許可が下り、今に至る。

 

 

 

「八幡君の言う通りです。そんな大声では相手が怯えてしまいますよ?」

「相手…?」

「こんな海の中誰もいないだろ」

 

アイザックが諭すようにそう言うので八幡は辺りを見回すが誰もいない。それを見てジュンが呆れたようにツッコむ。

 

「ウオッホン…私は魔法学校のアイザックです。どうかお姿をお見せください」

 

ゆっくりと立ち上がったアイザックはキラキラ輝く水面に向かって話しかけた。

 

━━ブクブクブク…

 

すると、水面に無数の泡が浮かんでくる。

 

「「え…?」」

 

困惑するみらい達は一斉にブクブクと音の聞こえる方を向いた。

 

━━━━バシャンッ

 

「おお、ロレッタ先生!」

 

水面から顔を出した女性に話しかけるアイザック。どうやら魔法学校の教員らしい。

 

「なーんだ、海の中で泳いでたん…」

 

━━━ザバァァァン

 

派手に水飛沫(みずしぶき)上げて空へと飛び出したその姿に、思わずみらいの言葉が止まった。

 

白い浮き雲と青い空を背景にキラキラと水飛沫が舞い、淡い色の髪をはためかせて、赤い()()()が美しくしなる。

 

「「「「「「「わぁ…」」」」」」」

 

その場にいた全員があまりの美しさに感嘆の声を漏らした。

 

「今日の特別講師は人魚のロレッタ先生です」

「「「「「「ええぇぇぇぇっ!?」」」」」」

 

アイザックの言葉に今度は全員が驚きの声を上げる。

 

今、人魚って言いました!?

 

そして再びみらいの大きな声が辺りに響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みらい?」

 

隣に座っているみらいの様子がおかしいことに気付いてリコが声をかける。

 

「………ピィッ!?いき!?いき!?」

「…なにやってんだ?」

 

止めていたらしい息を吐き出し、慌ててそれを口の中に戻そうと手をバタバタさせるみらいに八幡は怪訝な視線を向けた。

 

「さっき先生に海の中にいられる魔法をかけてもらったでしょ」

「…プハッ…そうだったー!」

 

呆れるリコの言葉にみらいがてへへと頭に手をあてる。

 

「まあ…ナシマホウ界の常識じゃあまずありえない事だからな…」

 

仕方ないと呟いて八幡は周りをぐるりと見渡した。目に映るのは深い蒼と差し込む日の光、そして優雅に泳ぐ魚の群れだ。

 

ここは海の中、補習組一行はロレッタ先生の先導で人魚の里を目指していた。

 

リコの言ったように魔法で呼吸はできるのだが、水中にいるという感覚はあるので何とも言えない不思議な気分になる。

 

「息ができるのもビックリだけど魔法の絨毯って海の中でも進めるんだね~」

「確かに。この箒もそうだが、海の中でも振り落とされないのには驚いた」

 

空を飛ぶのと違って海の中は水の抵抗があるため、しがみついていなければ普通は振り落とされてしまう筈だ。

 

魔法なのに普通と言うのも変な話だが、とにかく魔法の絨毯や箒にはそのための魔法がかけられているのだろう。

 

八幡とみらい以外は驚いていないところを見るとそういう魔法がかけられている事は当たり前なのかもしれない。

 

「モフ?なんか光ってるモフ!」

 

何かに気付いたモフルンがその方向に向かって指をさした。

 

「「「?」」」

 

指をさしたその先には岩と岩が重なってできた大きな穴があり、そこから眩い光が溢れて辺りを照らしている。

 

「みなさん、ここが人魚の里です」

 

ロレッタの後に続いてその穴を(くぐ)るとそこにはおおよそ海の底とは思えない景色が広がっていた。

 

貝殻のような建物に整えられた街並み。石造りの門を潜れば地上では見たことない赤い実をつけている木々を上から射し込む光が照らしている。

 

まるで花や観葉植物のように生えている珊瑚と優雅に泳ぐ魚達がここが海の中という証だ。

 

その鮮やかさと宙を舞うように泳いでいる魚達。

 

そんな幻想的な光景はどこかおとぎ話の浦島太郎に登場する竜宮城を彷彿(ほうふつ)とさせる。

 

「「「「「わぁ……きれい…!!」」」」」

「ここが海の…中…?」

「キラキラして明るいモフ~!」

 

見たことのない美しい景色に目を奪われる補習組の生徒達。

 

「「「………」」」

 

そんな様子を岩陰から(うかが)う小さな三つの視線にこの時は誰も気が付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔法の絨毯を降りたみらい達はロレッタとアイザックの後について目的地まで歩いている。

 

「海の上はあんなに静かだったのに…こんな世界が広がってるなんて…」

 

キョロキョロと上を見上げてみらいが独り言のように呟いた。

 

「…私達は滅多に海の上には行かないの」

「え?」

 

その呟きに気付いたロレッタがそう答えるとみらいは驚いた表情を浮かべる。

 

「外の世界は怖いと言われているし」

「怖い?」

 

遠い目をして上を見つめるロレッタ。みらいはロレッタの言った〝怖い〟の意味がわからず首を傾げた。

 

「…色々事情があるんだろ」

「事情?」

 

なんとなくだが、ロレッタの言葉に込められた意味を察して八幡がそれ以上深く聞かないようにお茶を濁す。

 

「ええ…それに…ここには守るべき大切なものがあるから」

「大切なもの?」

 

ロレッタの言うそれは一体何を指しているのだろう?とリコとみらいは顔を見合わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

そこから歩くこと数分、石造りの建物に到着した補習組一行はシンプルな木製の扉を開けて、本日の補習授業が行われる部屋へと足を踏み入れる。

 

天井が吹き抜けになっているその部屋は、中央に大きな珊瑚の木が(そび)え立ち、その下には口を開けた巨大な貝殻がまるでステージのように(たたず)んでいた。

 

「発声は魔法にとってとても重要です。今日はロレッタ先生に教わってきっちりマスターしてもらいますよ?」

 

貝殻のステージに立って授業の概要を説明するアイザック。

 

「さぁ、こんな風に」

 

アイザックの説明が終わるとロレッタがステージの中央に移動し、発声を始めた。

 

「━━♪━━♪━━♪━━♪━━━♪」

 

ロレッタの声に合わせてステージをはじめとした部屋の至るところに生えている海藻がゆらゆらと踊るように揺れる。

 

「絵にも描けない美しい声…」

「って声が絵に描けるわけないだろ~」

 

うっとりするアイザックにジュンが揚げ足を取るようなツッコミを入れた。

 

「はい!みなさんも張り切って…」

「えっ…」

 

お手本が終わり、そのまま課題に入ってもらおうと促すアイザックに八幡が戸惑ったような声を上げる。

 

「どうかしましたか?八幡くん」

「あの、先生……。それって俺も歌うんですか?」

 

恐る恐る尋ねる八幡。そんな八幡の反応に対して、隣にいたリコが不思議そうに顔を覗き込んだ。

 

「そんなの当たり前でしょ?発声の補習なんだから歌わないと合格できないわ」

「それは……あれだ、別に俺が歌わなくても三人の内の誰かが合格すれば課題はクリアした事に…」

 

なぜか頑なに歌うことを拒否する八幡が思い出したようにそんな事を口にする。

 

「この課題は前回のリズ先生の授業と同じく三人揃って合格しないとクリアしたことにはなりません」

 

八幡の逃げ道を塞ぐ一言をアイザックがピシャリと言い放った。

 

「くっ……」

 

逃げ道を封じられた八幡が呻くような声を漏らす。

 

「…そんなに歌うのが嫌なの?」

「嫌…というか…」

 

単純に恥ずかしい、その一言に尽きる。補習組の男子は八幡一人だけ、そんな中で歌えば上手い下手に関わらず浮いてしまうだろう。

 

浮くという事に関してはボッチなので少なからず耐性はある。だからといって進んでそんな思いをしたいとは思わないし、避けて通れるのなら避けたい。

 

「私は八くんと一緒に歌いたいな」

 

言い淀む八幡を真っ直ぐ見つめてみらいが言う。それは言葉にしてみれば短いものだったけれど、込められた純粋な想いはしっかり八幡へと伝わった。

 

「……揃って合格しないといけないなら仕方ないな」

 

素直なみらいの気持ちに八幡は少しのこそばゆさを感じながらそっぽを向いて答える。

 

「やったー!!」

「まったく…本当に捻くれてるんだから」

 

嬉しそうに笑うみらいと呆れながらも微笑むリコ。三人の間に暖かい雰囲気が流れた。

 

「んー…では八幡くんも納得したようなので今度こそみなさん張り切って歌いましょう」

 

三人の様子に柔和な笑みを浮かべながらアイザックが改めて授業を再開する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あー

 

ぁー

 

あー

 

「ふわぁぁ…」

 

「あぁぁぁぁ」

 

「ぁ、あー」

 

授業が再開され、六つの声が辺りに響いた。

 

大きく元気な声(ただし、音程があっていない)

 

自信のない小さな声(そのうえ、音程があっていない)

 

高く伸びるような声(しかし、音程があっていない)

 

もはやただの欠伸(当然、音程があっていない)

 

低く呻くような声(もちろん、音程があっていない)

 

戸惑い(うかが)うような声(やはり、音程があっていない)

 

バラバラな上に音程を外している六つの声が重なり、どう聞き取ればいいのかわからない混沌とした(カオスな)音へと変わる。

 

「やれやれ…」

 

ロレッタの歌声の時はゆらゆらと踊るように見えた海藻がだんだんと萎れていくのを見て、アイザックは困った表情を浮かべた。

 

「はーちゃん、遊ぶモフ!」

 

みらい達がそんなバラバラな歌声を披露している後ろでモフルンがリンクルスマホンに向かって話しかける。

 

「はー♪」

 

するとスマホンから光が飛び出し、元気な声と共にはーちゃんが現れた。

 

━━━カタカタカタカタ

 

「?」

 

近くを通りかかった小さなカニの足音に気付いたはーちゃんがジッとそのカニを見つめる。

 

「はー!」

 

初めて目にするカニに興味津々なはーちゃん。

 

カタカタカタカタ━━

 

「チョキ♪チョキ♪チョキ♪」

 

はーちゃんは手をチョキの形にすると、カニの後をついてまわりはしゃいでいた。

 

「なにあれ超可愛いんだけど…!」

「うぇ!?八幡…?」

 

発声の途中ではーちゃんの姿が目に入り、普段からは想像のつかないテンションの八幡。

 

それに対してリコは信じられないものを目にしたように驚いて一歩後退(あとずさ)った。

 

「どうしたの?」

 

二人の様子が気になったらしく、みらいが尋ねるとリコはギギギといった効果音が聞こえてきそうなくらいゆっくりと振り向く。

 

「…八幡が変なの」

「?八くんが変なのはいつものことなんじゃ…」

 

神妙な面持ちで答えるリコにみらいは何を当たり前のことを言ってるんだろうと不思議そうに首を傾げた。

 

「それはそうなんだけど…」

「み、認めちゃうんだ…」

 

さらっと肯定したリコの反応に近くで二人の会話を聞いていたエミリーが思わず呟く。

 

「なになに?なんのはなし~?」

「あたいにも教えておくれよ」

 

ケイとジュンも話に加わり、もはや授業をそっちのけで話し始めた。

 

「ウォッホン!」

「「「「「「あ…」」」」」」

 

アイザックの大きな咳払いの音に全員が振り向く。

 

「…では、次のステップに移ります」

「「「「「「はい…」」」」」」

 

困った表情でロレッタがそう言うとこれまた全員で申し訳なさそうに返事をするみらい達。

 

「はー♪」

「モフー♪」

 

静まり返った中、はーちゃんとモフルンの声だけが響いた。

 

 

 

 

 

 

「次は早口言葉よ」

「どーれ…まずは私が見本を…」

 

授業が再開され、アイザックが手本を見せようと前に出る。

 

「オッホン…あかまきがいあおまきがいきまきま…」

 

━━キュポンッ

 

「「「「「「わぁっ!?」」」」」」

 

途中まで順調に早口言葉を並べていたアイザックの口から入れ歯が勢いよく飛び出し、みらい達は驚いて声を上げた。

 

「「「……」」」

 

そのまま目を見開き固まってしまったジュン、ケイ、みらいの三人。

 

「あふぁまひぃわぃ…」

 

飛び出した入れ歯は水中だからなのか、失速して宙を泳いでいる。

 

「っ……」

 

突発的な出来事で思わず吹き出しかけてしまった八幡。しかし、流石にそれは失礼だと思い、咄嗟(とっさ)に唇を噛んで(こら)えた。

 

「はむっ……」

「……~!!」

 

八幡と同様にリコは目と口を(つむ)って()え、エミリーはお腹を抱え俯いて体をプルプルと震わせながらも吹き出すのを必死に我慢している。

 

「モゴモゴ…こりゃなかなか難しい…」

 

宙を泳ぐ入れ歯を急いで入れ直したアイザックが渋い表情で首を傾げた。

 

「ふふっではみなさんも順番に挑戦してください。それでは…エミリーさんから」

「ふぇっ!?」

 

微笑みながら生徒達を見つめ、エミリーを指名するロレッタ。

 

まさか最初に当てられるとは思っていなかったエミリーから驚きの声が漏れる。

 

「私の後に続いてください。いきますよ?赤巻き貝、青巻き貝、黄巻き貝、はい」

「えっあ、あきゃまきかっいたっ!ふぇ…しひゃかんしゃった……」

 

驚いたまま慌てて後に続こうとしたエミリーは勢いあまって思いっきり舌を噛んでしまった。

 

「ちょっエミリー大丈夫!?」

「いひゃい…」

 

涙目になって舌を出すエミリーを心配してリコが駆け寄る。

 

「大丈夫?」

「すっごく痛そう…」

「少し血が出てるんじゃないかい」

 

みらい達も心配して駆け寄り、それぞれエミリーに声をかけた。

 

「…とりあえず冷やした方がいいだろ。少なくとも痛みは誤魔化せる」

「冷やすっていっても…あ!リコ、氷!」

 

冷やすものを探して周りを見渡すみらい。そしてリコの姿が目に入り、前回の補習授業の最後にリコが水を凍らせた事を思い出した。

 

「へ?あ、う、うん!氷を出せばいいのよね?」

 

突然名前を呼ばれて一瞬戸惑うリコだったが、すぐに切り替え杖を取り出す。

 

「水は…海の中だからそこら中にあるわね…」

 

目を閉じ、拳くらいの大きさになるようイメージして呪文を唱えた。

 

「キュアップ・ラパパ!水よ、凍れ!」

 

━━━━カチコチカチコチンッ

 

杖の少し先に音をたてて氷が出来上がる。

 

「っと…ほら氷だ」

 

出来た氷を八幡が両手で受け止め、いまだに涙目で痛がっているエミリーに渡した。

 

「はひひゃとこひゃいまひゅ……ひゃっ!?ひゅへひゃい」

 

氷を受け取ったエミリーはゆっくりとそれを舌にあててその冷たさに驚く。

 

「…早口言葉ってやっぱり難しいんだね」

 

舌を冷やしているエミリーを見てみらいがそんな事を口にした。

 

「だね~私も自信ないな…」

「あたいも実技には自信があるけどこれは…」

 

ケイとジュンもみらいの言葉に同意して頷く。

 

「次は私の番ね…こういうのは落ち着いて言えば大丈夫よ」

「…先に氷を用意しといた方がいいんじゃないですかね?」

 

自信のない三人と反対に強がりにもみえる自信を振りかざして挑もうとするリコの姿に失敗を予期した八幡がぼそりと呟いた。

 

「なにか言ったかしら?」

「…なんでもないです」

 

ギロリと睨まれて八幡は目を逸らす。

 

それは短い付き合いではあるが、これ以上言ってもリコは聞き入れないだろうと知っているからだ。…決して怖いからではない。

 

「お願いします」

「はい、ではいきますよ?」

 

ロレッタはリコの方を見つめゆっくりと息を吸い込み口を開く。

 

「赤巻き貝、青巻き貝、黄巻き貝、はい」

「赤巻き貝、青巻ききゃい、きまききゃいっ!?」

 

(((あ、噛んだ)))

 

「やっぱり噛んだじゃねえか…」

 

案の定、途中で噛んでしまったリコに対してエミリーを除く三人は同じ事を思い、八幡がジト目を向ける。

 

「…ひゃ、ひゃんてにゃんてにゃいんにゃいし」

「リコ…それは無理があるよ…」

 

エミリー同様、涙目になりながら噛み噛みで否定するリコにはもちろん説得力はない。何とも言えない空気の中でみらいが力なくツッコミを入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━パチパチ

 

「………?」

 

なんとか早口言葉の課題が終わり、みらい達は掌の上に乗せた貝と文字通り目を合わせ、互いに瞬きしながら見つめあっていた。

 

「次はそのマール貝に話しかけて貝の口を開けてください」

 

上の口に大きな目が二つあるその貝、マール貝が全員に行き渡ったのを確認してからそう説明するロレッタ。

 

しかし、説明を聞いてなかったのかジュンが貝を抉じ開けようと思いっきり力を込めていた。

 

「んぐぎぎぎっ━━…硬いねぇっ!」

「いや、普通の貝だったとしても素手で開けるのは無理だろ…」

 

踏ん張るジュンに八幡が呆れて思わず呟く。

 

「ジュン。手を使ってはいけませんよ?」

 

━━クスクス

 

「んぁ?」

 

ロレッタの注意の後に聞こえてきた笑い声に気付き、ジュンは辺りを見渡した。

 

「誰だい!今笑ったのは!!」

 

笑い声の主は近くにいると思い、ジュンが横にいる五人に少し怒気のこもった声で詰め寄る。

 

「わ、私じゃないよぅ…」

「俺でもない…というか誰も笑ってないな」

 

勢いに圧され、たどたどしく答えるエミリー。そしてそれを庇うように八幡が続けて答えた。

 

「気のせいじゃない?」

「確かに聞こえたと思ったんだけどね…」

 

リコの言葉にジュンは納得いかないといった表情で首を傾げるが、考えても仕方ないと割り切る。

 

「みなさん、声で貝に語りかけるのです。貝が口を開けば合格ですよ」

「「「貝に…」」」

「「「語りかける…?」」」

 

具体的にどうすればいいのかわからず、全員が戸惑った表情で貝を見つめた。

 

「…なんか俺の貝だけ目付きおかしくない?」

 

渡されたマール貝を周りと見比べて八幡はそんな事を呟く。

 

「え?あ、ほんとだ!なんか八くんに似てるね!」

「どれどれ?わ、そっくり~」

 

八幡の手元を覗き込んだみらいがびっくりしてから笑い、続いて覗き込んだケイも同じく驚いた。

 

「いや、流石にここまでじゃないだろ」

 

二人はそっくりだと言うが、いくらなんでもここまでアレな目ではないと改めてマール貝の方を見る。

 

(似てる…のか?いやいや、この貝とそっくりって流石に…似てないはず…似てないよな?)

 

「どう見ても八幡にそっくりじゃない」

「そうだね、あたいもそう思うよ」

「なん…だと…」

 

考えている内に自信の無くなってきたところでリコとジュンに追い討ちをかけられてショックを受ける八幡。

 

「わ、私はえっと、か、かっこいいと思いますよっその目…」

「「「「「え?」」」」」

 

まさかの意見に言った当人であるエミリー以外の全員、ショックを受けていた八幡でさえも思わず声が出てしまった。

 

「か、かっこいいって…アンタ正気かい?」

「そうだよ~エミリーってば八幡さんの目が怖いって言ってたでしょ?」

「…酷い言われようだな」

 

とはいえ二人が言っていることももっともだ。この目は八幡自身でさえ、どうしようもないと思っている。

 

それを怖がっている筈のエミリーがかっこいいと言ったのだから二人の反応も仕方ない。

 

「ふぇ!?そ、それは…」

「「「「それは?」」」」

 

詰め寄られて言い淀むエミリーに八幡を除く四人が続きを促す。

 

「そ、その…最初は怖いなって思って…今でも少し怖いけど…でも、悪い人じゃないってわかって…魔法も上手だし…いろんなところで気遣ってくれて……優しい人だなぁって…その…

「え?何だって?」

「最後の方が聞こえないよ~?」

 

俯きながら尻すぼみになっていくエミリーの言葉にジュンとケイは聞こえないとさらに詰め寄った。

 

「うぅ…」

「うーん、エミリーはもう八くんは怖くないよってことなのかな?」

「でもそれでかっこいいなんて言うかしら…?」

 

ぐいぐいと迫られて黙り込んでしまったエミリーを見てみらいとリコは首を傾げる。

 

「…かっこいいとか云々(うんぬん)は可哀想だからってことでつい口から出ただけだろ、たぶん」

 

これ以上エミリーが詰め寄られるのを見かねてか、途中から話に参加しないようにしていた八幡が口を開いた。

 

「そ、そういうわけじゃ…」

 

八幡がエミリーに追及が向かないようしてくれているのはわかっている。

 

しかし、それは可哀想だからエミリーが八幡を庇ったと本気で思っているからこそ出た言葉でもあるのだ。

 

伝えたいことがうまく伝わらない。そんなもどかしさを抱えてしまい、エミリーはそこから先の言葉を見つけることができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エミリーの思わぬ言葉から始まった追及も八幡の発言で収束し、みらい達は改めて課題に取り組み始める。

 

「いいこと?貝よ、口を開けなさい!」

 

得意気な表情を浮かべたリコが少し命令気味の口調で語りかけた。

 

「………」

 

リコの命令口調が気に入らないのか、マール貝は目を半開きにしたまま沈黙している。

 

………」

 

マール貝の反応に顔をしかめて眉を寄せ、汗を浮かべながら睨みあうリコ。

 

そっくりだな…

 

その何とも言えないにらめっこを繰り広げるリコとマール貝を見比べた八幡が聞こえないくらいの声量で呟く。

 

「貝よっその口を開けなさい…!」

「………」

 

八幡の呟きを他所にリコは顔を強張らせてもう一度語りかけるが、マール貝は半開きのまま目線をプイッと横に逸らした。

 

「ちょっと!聞いてるの!!」

「………」

 

二度も無視され、さらには目線を逸らされた事でリコの中でなにかがプチンと切れたらしい。

 

「このっ…八幡みたいな目をして…!」

「おい、その表現だと八幡みたいな目が悪口に聞こえるからやめろ」

 

リコの言葉に思わぬ流れ弾を食らった八幡がツッコむ中、渦中のマール貝は半開きにしていたはずの目をいつの間にか閉じて完全に無視を決め込んでいた。

 

「くぅぅぅぅっ……!」

 

悔しさと苛立ちが混じった声と共にリコはマール貝をじっと睨むが、閉じた目を開ける気配すらない。

 

「貝ってどこに耳が…?」

 

その隣、同じくマール貝と向き合っているみらいがそんな疑問を口にする。

 

「…そんなこと気にしてたらきりがないと思うぞ」

「えー…でも、どうやって音を聞いてるのか気にならない?」

 

うーんどこだろう?とマール貝を観察するみらい。そして何かを思い付いたと思ったら、おもむろに息を吸い込み始めた。

 

「すぅ……やっほー!貝ちゃーん?

「!!?」

 

突然目の前で大声を出されてマール貝が驚き跳ね回る。

 

「うわわわぁっ!?っと」

 

跳ね回るマール貝に今度はみらいが慌てふためき、危うく貝を落としそうになった。

 

「それでは駄目よ」

 

様子を見守っていたロレッタが優しく二人を注意する。

 

「…でしょうね」

 

近くにいたせいでみらいの大きな声を至近距離で浴びてしまった八幡が片耳を塞ぎながらぼそりと呟いた。

 

「声はね?自分の気持ちを相手に届けるものなの。貝にあなた達の心が届けば、きっと貝は口を開くわ」

「気持ちを…」

「心が届けば…」

 

ロレッタの言葉にリコとみらいはふと、今までの出来事を思いだし、思わず八幡の方を見つめる。

 

「………」

 

見つめられた八幡も思うことがあるのか黙ったまま何かを考えるように俯いていた。

 

「…少し休憩しましょうか」

 

課題を通して思い悩んでいる生徒達の姿にロレッタは優しい声音で告げる。

 

「マール貝はそれぞれ持っていてくださいね」

 

ロレッタがそう言うとそれぞれ休憩に入る生徒達。

 

「声は気持ちを届けるもの、かぁ……」

 

みんなが休憩するため外に出た後の閑散(かんさん)とした部屋で、エミリーが独り呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はーちゃん、ねんねモフーねんね…」

 

リンクルスマホンの中ですやすやと眠るはーちゃんに向けてモフルンは子守唄を歌っている。

 

「むぐむぐ…ん!!おいし~!モフルンも食べる?」

 

その隣でバナナに似たオレンジの果物を食べていたみらいが全身で美味しさを表現しながらモフルンにそれを差し出した。

 

「わぁありがとうモフー!」

 

差し出された果物を受け取ったモフルンも一緒になって食べ始める。

 

「むぐむぐ…止まらな~い!」

「モフ~!」

「さっきまでの空気はどこにいったんだよ…」

 

夢中になってモグモグしている二人に八幡は呆ため息をついた。

 

休憩するために部屋を出たみらいとリコとモフルン、それに八幡の四人は外に備え付けられていた椅子に腰掛けてテーブルを囲んでいる。

 

ちなみに二人が食べているのはそこらに実っていた果物だ。

 

というのも部屋を出る直前でロレッタに外にある果物や木の実は自由に食べても大丈夫ですよと言って木のざるを渡されたからである。

 

「んぐ…それはそれだよ八くん!」

「八幡も食べるモフ?」

 

どうやら考え事は一旦、置いておいて目一杯休憩しようという事らしい。

 

(こういう時は大抵注意が飛んでくるはず…)

 

八幡はモフルンから果物を受け取りつつ、そんな事を考えてリコの方をちらりと見る。

 

「…みらいの言う通り今は休憩するための時間だもの。色々考えるのは後にしましょう」

「……そうだな」

 

視線を向けられたリコは八幡の予想に反してそう言うとまんまるとした赤い木の実を手に取った。

 

「これはどうやって食べるのかしら?」

「そもそも食べられるのか…?」

 

赤い木の実は皮が硬く、とてもではないが素手で剥けそうにはない。もしかしたら食べるのではなくそれ以外、例えば装飾品などに使うという可能性もある。

 

「食べられると思うけど…よし」

「おい待て、一体それでなにをするつもりだ」

 

おもむろに杖を取り出したリコに警戒して身構える八幡。いままで食べ物にリコの魔法という組み合わせは失敗しなかった試しがないのだ。

 

「大丈夫、見てなさい…キュアップ・ラパパ!ジュースになりなさい!」

 

━━━━ヒュゥゥゥゥ━━パァァンッ……

 

「あっ……」

 

リコがジュースになれと魔法をかけた木の実は光る玉と化して空中に打ち上がり、派手な音と鮮やかな色彩を散らす花火に変わった。

 

「…なんかもう失敗したとかいう次元の話じゃないだろ」

「うぅ…」

 

ジュースが花火になるというまさかの失敗を前に呆れを通り越して感心する八幡とがっくし項垂(うなだ)れるリコ。

 

そしてそんな二人を見てみらいとモフルンは苦笑いを浮かべる。

 

「「「わぁぁぁっ!!」」」

 

そこにみらい達以外の感嘆する声が聞こえてきた。

 

「「「「?」」」」

 

声に気付いた四人がその方に視線を向けると岩陰から小さな女の子が三人顔を覗かせている。

 

「あ、人魚さん!こんにちは~!」

「「「あわわっ!?」」」

 

みらいが元気よく挨拶した途端(とたん)に小さな人魚達は慌てて岩陰に引っ込んでしまった。

 

「あれ?」

「逃げていったな」

「八幡にびっくりしたんじゃない?」

 

その反応にみらいは首を傾げ、リコはしれっとそんな事を口にする。

 

「ひ、否定できねぇ……」

 

反論したいが、自分でも自覚があるのでなにも言えない。

 

「人魚さーん?」

 

再度みらいが呼び掛けると人魚達は恐る恐る岩陰から顔を出した。

 

「い、今の花火ってやつでしょ?」

「へ?」

 

まさかの第一声に花火を打ち上げた本人であるリコの目が一瞬、点になる。

 

「え、えっと…今のは…」

「すごく…きれいだった」

 

本当はジュースを作ろうとしていたとは言えず、言い淀むリコに別の子が素直な感想を呟いた。

 

「……良かったな、評判良いみたいだぞ花火」

「ぐっ……そ、そうね、ね、狙い通りなんだから!」

 

さっきのお返しと言わんばかりの皮肉めいた一言をぶつける八幡。

 

八幡の一言は見事に命中し、リコは苦い表情になるがそれも束の間、どうやらいつも通り開き直ることにしたらしい。

 

動揺を隠しきれていないが、額に汗を浮かべたまま得意気な顔をしている。

 

「私、朝比奈みらい!」

「こ、こほん…私はリコ」

「モフルンモフ~」

「……比企谷八幡」

 

人魚達に向けて元気よく自己紹介をしたみらい。それに三人も乗っかった。

 

「わたし、シシー!」

「ナンシー!」

「ドロシーよ」

 

紫色の髪を二つ結びにした活発そうなシシー。

 

水色の髪にカチューシャを着けている少し気弱そうなナンシー。

 

黄緑色の髪とピンクのリボンが特徴的でしっかりしていそうなドロシー。

 

自己紹介をしたことで三人の警戒心が解けたのか岩陰から姿を表し、名前を教えてくれた。

 

「わぁ!ねえ、人魚さんってロレッタ先生とあなた達だけなの?」

「ううん、もっとたくさんいる」

 

はしゃぐみらいの問いにシシーが首を横に振って答える。

 

「でも、誰にも会わないけど…」

「…それでも気配や視線は感じたな」

 

疑問符を浮かべるリコの隣で八幡がここにくるまでの道中を思い返して呟いた。

 

「私達隠れてたの」

「へ?なんでそんなこと…」

 

目を伏せて不安そうに言うナンシーの言葉にみらいが首を傾げる。

 

「だって!海の外には何があるかわからないし…外の人達だってどれくらい意地悪かわからないもの」

 

ナンシーと同じく不安な様子のドロシーに困惑するリコとモフルン。

 

「誰だってわからないものは怖いだろ」

 

そこに八幡が誰に聞かせるでもない独り言を語るように口を開く。

 

「知らない場所に行って、知らない人に出会って、痛い目にあうかもしれない、酷いことを言われるかもしれない、もしかしたら帰れなくなるかもしれない、そう考えれば隠れもする」

 

知っているということはそれだけで充分に安心を得るための材料になりうるのだ。

 

無論、例外はあるかもしれない。だが、場所であろうと人であろうと知っているのなら、それが安全なのか、あるいは危険なのか、判断することができる。

 

「でも……」

「言いたいことはわかる」

 

リコの言わんとしていることを遮って八幡は続けた。

 

「確かに俺達は補習のためにここに来ただけでなにか危害を加えるつもりはない。けどな、ここの住人からしてみればそんな事は関係ないんだよ」

「…どういうこと?」

 

八幡の言葉にリコが眉根を寄せて尋ねる。

 

「目的がなんであろうとここの住人にとって俺達は他所から来た知らない人間だ。たとえ危害を加えるつもりがなくても知らないから安全とは言い切れない。そんな人間達に積極的に関わりたいとは思わないだろ」

 

講師であるロレッタはここに来た目的が補習であることを知っているし、みらい達と直接触れあっている分、ある程度どんな人間達かというのは理解しているだろう。

 

しかし、他の住人達は違う。目的を知らないのかもしれないし、知っていてもどんな人間なのかまではわからない。

 

少なくとも八幡は自分がその立場だったらそんな得体の知れない人間達には近付きたくはないと思った。

 

「それにロレッタ先生の言っていた通り、ここの住人達が滅多に地上にいかないのなら尚更、外からくる人間に対しての警戒心は自分達の身を守るのに必要な筈だ」

「……そう…ね…」

「モフ……」

「………」

 

理由を聞いてリコとモフルンが目を伏せ、みらいもなにか考え込むように俯く。

 

「………」

 

そんな三人の様子を見て八幡もまた黙ってしまい、いつの間にか人魚の里の意見を代弁するような事をしていた自分に驚く。

 

(…なんで俺はあんなことを言ったんだ……?)

 

あの時、ドロシーの言葉を聞いて何故か言わなければならないような…そんな衝動に駆られた。

 

「っ……」

 

考えている途中、見たことも無い光景がふと頭に浮かんでくる。

 

(これ…は…)

 

浮かんできた光景はぼんやりしていてはっきりとは見えない。光景というよりはイメージと表現したほうがしっくりくるだろう。

 

(人…人魚…黒…)

 

浮かんでいるのは人間と人魚、そしてそれを塗り潰すような黒だった。

 

その三つから連想されるのはここに来たときロレッタが言っていた怖いという言葉。

 

もし、そうだとすれば八幡の頭の浮かんでいるイメージは…

 

「…よし!」

 

そんなことを考えていると、俯いていたみらいが何かを思い付いたように声をあげ、八幡の思考はそこで中断される。

 

「ねえ、もっと魔法を見てみない?」

「「「え?」」」

 

突然のみらいの提案にシシー、ナンシー、ドロシーの三人は揃って戸惑いの声を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

「キュアップ・ラパパ!皮よ、踊れ!」

 

先程食べたバナナっぽい果物の皮に向けてみらいが杖を振るう。

 

「あれー…?」

 

魔法をかけられた皮は一瞬、直立して踊り出すかと思われたが、すぐにふにゃふにゃとへたり込んでしまった。

 

「きっと躍りかたを知らないモフ!」

「わわっ!?」

 

リコの腕に抱かれていたモフルンはそう言って勢いよく飛び出し、着地すると三つある皮の内二つを手に取る。

 

「いちっ、にっ、モフモフ♪にっ、にっ、モフモフ♪モフ♪モフ♪モフ♪」

 

手に取った皮をポンポンの代わりにして右に、左に、手を振り、ステップを踏んでモフルンは踊り出した。

 

「お「わぁぁっ!!」」

 

モフルンの躍りに引き寄せられたのか、様々な種類の魚とタコ、エビやカニが集まってくる。

 

「可愛い~!!」

 

集まってきた魚達はモフルンの躍りに合わせて動き、ついにはみらいが魔法をかけたバナナの皮までもが一緒に踊り出した。

 

「…まさか本当に浦島太郎にでてくるような光景を見るとは思わなかった」

 

人魚の里の街並みを初めて見たときに竜宮城みたいだと思ったが、まさに魚達の舞いや躍りを目の前にして八幡は呆然と呟く。

 

「モッフー♪」

 

踊りの締め括りにモフルンがポーズを決めると魚達も同じくポーズを決めた。

 

「「「わぁぁぁ!」」」

「「あはは~!」」

 

モフルンと魚達による可愛い躍りに歓声が上がり、パチパチと拍手が巻き起こる。

 

「……気にしてもしょうがないか」

 

はしゃいでいるみらい達に先程まで色々考えていたのが馬鹿らしくなって八幡はそのことについて深く考えるのをやめ、みんなと一緒にモフルン達へと拍手を送った。

 

 

 

一緒にはしゃいだことでみらい達と打ち解けあったシシー、ナンシー、ドロシーの三人。

 

そんな三人はさっきまでおっかなびっくりの様子が嘘みたいにみらい達へと質問をぶつけていた。

 

「え~!?みらいちゃんと八くんってナシマホウ界から来たの?」

 

思わぬ質問の答えにナンシーは驚きの声を上げる。

 

「こっちの世界に来るの怖くなかったの?」

 

ナンシーと同じく、ドロシーがびっくりしながら続けて聞いた。

 

「怖くなんかない、もうっワクワクもんだったよ~!」

「…というよりも、わけがわからないまま行くことになって怖いなんて思う暇もなかったぞ」

「「「ほへぇ…」」」

 

怖くなかったと語る二人をドロシー達は呆気にとられた表情で見つめる。

 

「リコだって一人でナシマホウに来たんだよ?」

「ええ!?大丈夫だったの?」

 

シシーが心配そうにリコの方に目を向けた。

 

「そりゃ最初は怖かったけど……わぁあっ!?ちょっとだけだから!…でも思いきって行って良かったかも」

「みらいとモフルン、それに八幡とも友達になったモフー♪」

「えへへ~♪」

「…やたらとお腹の虫を鳴らしてけどな」

 

うっかりそのまま答えそうになり、慌てて誤魔化すリコ。

 

そこにモフルンが素直なリコの気持ちを代弁し、みらいが嬉しそうに笑って、八幡はぼそりと事実を暴露する。

 

「もうっモフルン~!……八幡は後で覚えてなさい」

「モフッ!?」

「俺に対しての当たりだけ強くないですかね……」

 

少し怒られたモフルンに対して後からやり返す宣言をされた八幡は納得いかないと首を傾げた。

 

「違う世界の人と友達になれるの?」

 

なんだかんだで仲良く見えるみらい達にシシーが不思議そうに尋ねる。

 

「もちろん!リコといるとすっごく楽しいし、ね?八くん」

 

屈託のない笑顔でそう言うみらいに八幡とリコはまるで示し合わせたようにそっぽを向いて答えた。

 

「……悪くはないな」

「ま、まあ、私も二人といると退屈だけはしないわね」

「二人とも素直じゃないモフ」

 

二人の少し(ひね)くれた答えにモフルンが呆れて笑う。

 

「「「?」」」

 

八幡とリコの捻くれた回答は伝わりづらかったらしく、ドロシー達は困った顔をして顔を見合わせた。

 

「世界はとっても広くて、見たことも無い景色やびっくりすること…それにまだ出会えていない友達がたくさんいる…」

 

初めて見たマホウ界の景色、ルビーのリンクルストーンと出会って変身したこと、また見ぬ不思議。

 

そんな思い出を振り返りながら不安そうなドロシー達に向けて、みらいは続ける。

 

「だから、きっと外の世界に行くのってすっごくワクワクするんだと思う」

「外の……」

「世界……」

 

みらいが語ったのは良い面の話だ。当然、そこにはドロシー達が考えていたような〝怖い〟こともある。

 

けれど、それを恐れて踏み出さなければ先に何があるのかはわからない。

 

少なくともみらいの話を聞いたドロシー達の表情からは〝怖い〟よりも〝ワクワク〟の方が(まさ)っているように見えた。

 

「「「…うんっ」」」

 

シシー、ドロシー、ナンシーの三人は再び顔を見合わせると何かを決めたように頷く。

 

「ねえ、良かったら三人に良いもの見せてあげる!」

「良いもの?」

 

三人を代表したナンシーからの誘いにリコが聞き返した。

 

「私達に伝わる大事なたからもの」

「「…?」」

 

シシーの答えにピンとこないみらいとリコは首を傾げる。

 

「…宝物なんて見せて大丈夫なのか?」

「うん、大丈夫!私達についてきて!!」

 

張り切る三人の後について、みらい達はその場所へと向かう事になったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━とあるドクロのお城━

 

 

「ドクロクシー様。占いの結果、新たなリンクルストーンの気配を人魚の里に感じます……もしかしたらエメラルドかもしれません」

 

主の前に(ひざまず)き、トカゲ男であるヤモーが報告を述べる。

 

コツコツ━…

 

報告するヤモーの後ろから亀のような大男、ガメッツが現れた。

 

「ドクロクシー様、海ならばこのガメッツにお任せを」

 

━━━ギランッ

 

ガメッツの言葉に闇の魔法使いが主、ドクロクシーの目が妖しく光る。

 

「では…イードウッ!」

 

了承を得たガメッツが呪文を唱えてその場から消えた。

 

「なるほど…次はガメッツさんですか、スパルダさんをからかうのも飽きましたし…お手並み拝見といきましょう」

 

こっそりと話を盗み聞きしていたマキナも指を鳴らして消える。

 

闇の魔法使いの脅威が人魚の里に迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが…」

「宝物…?」

「大きな…貝…か?」

 

ドロシー達に案内されて三人が辿り着いたのは、大きな貝が中央に鎮座している洞窟だった。

 

「宝物だって!!」

 

それを眺めていると突然、後ろから大声が聞こえてくる。

 

「「「わわぁっ!?」」」

 

声に驚き慌てて逃げ出すドロシー達。しかし、隠れるところもなく、声のする方から少し遠ざかるだけに止まる。

 

「ジュン、どうしてここに…?」

 

リコが後ろを振り向くとそこにいたのは、同じ補習組の生徒であるジュンだった。

 

「ちょうどこの辺、探検しててさ」

「あ、さっきの…」

 

声の正体がこっそりと覗いていた時にマール貝を素手で開けようと四苦八苦していた人物だとわかってナンシーが思わず呟く。

 

「「「ふふふっ」」」

 

その時の事を思いだしてつい、笑ってしまう三人。けれど、笑ったおかげで変に怖がることもなく接する事ができそうだった。

 

「?」

 

まさか目の前の人魚達三人が自分の失敗を見ていたとは露知らず、なんで笑っているのだろうとジュンは首を傾げる。

 

「それにしても大きい貝だね~」

 

鎮座している貝を見つめてそんな感想を口にした。

 

「あの貝はね、ずっと昔から人魚の里で大切に守られてきたの」

 

みらいの感想にナンシーが貝にまつわるエピソードを教えてくれる。

 

「その昔、貝は口を開いていて…その頃、人魚は海の中だけじゃなく…空も泳いでたんだって!」

「人魚が空を!?」

 

空を飛ぶ人魚という聞いたことのない話にみらいは大きな声で驚いた。

 

「そう……そうして人魚が外に出て、他の色んな種族と交流してたって…」

「してたって事は…」

 

ナンシーの話が過去形なのに気付いた八幡が言外に尋ねる。

 

「うん…人魚が空を泳ぐのをやめた頃から貝は眠ったように口を閉ざしてしまって…外の世界との交流も少なくなったの」

 

八幡の疑問に答えるドロシー。今の里の現状からも分かっていたことだったが、だいぶ閉塞的になっているようだった。

 

「あら?貝の下に何かを書いてあるみたいね」

 

話を聞きながら貝を観察していたリコが台座に彫られた石碑を見つける。

 

「…人魚の心に光戻りし時、再び輝きの人魚現れ、我らを広き世界へと導く」

 

使われているのはどうやら一般的なマホウ界の文字らしく、リコがそれを手でなぞりながら読み上げた。

 

「輝きの人魚?」

 

それがどんな人魚なのだろうと思ってみらいは呟く。

 

「うん!」

 

みらいの呟きに頷き、シシーは天井を見つめる。そこには二人の人魚が空を舞っている姿を描いたレリーフがあった。

 

「見てみたいなぁ……」

 

天井を見上げて輝きの人魚に思いを馳せるシシー。

 

まさかその先、海中を通り越した空の上に腕組みしながら闇の魔法使いが不敵な笑みを浮かべているなんて、シシーはおろかその場にいる全員は思いもしなかった。

 

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