やはり俺が魔法使いでプリキュアなのはまちがっている。   作:乃木八

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第八話「人魚の里の魔法!え…歌うんですか?よみがえるサファイアの想い!」Bパート

 

━━━━ズドォォンッ!!

 

轟音と衝撃が静かな海中に響き渡る。

 

「…フッ」

 

音の発生源である闇の魔法使い、ガメッツが泡と砂の中から姿を現した。

 

 

 

 

 

 

 

━━━━ズドンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━ズドンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「…!」

 

何かを感じ取ったようにシシーがはっと入り口の方に振り向く。

 

「大変!なにか怖いものが来たみたい…!」

「怖いもの?」

 

入り口の方を見ても特に変わった様子は見受けられなかったため訝しげな表情を浮かべる八幡。

 

それはみらい達も同じらしく、不思議そうに顔を見合わせている。

 

「うん…どんなものかまではわからないけど、ものすごく怖いもの」

「早く逃げないと…」

 

続けてナンシーとドロシーが怯えた様子で近くにいたモフルンを抱き上げた。

 

「あたいがいるんだ、心配すんな」

 

怯える二人を勇気づけようとジュンが目線を合わせて笑いかける。

 

━━━ズドォォンッ!!!

 

誰の耳にも聞こえるくらい大きな轟音が響き、地鳴りとなって洞窟を揺らした。

 

「「きゃぁぁ!!」」

「わぁぁ!?」

 

轟音に驚いたナンシーとドロシーは悲鳴を上げてジュンの腕の中に飛び込む。

 

━━━━ドドドドドッ!!

 

「ぅぅ…」

 

止むどころか継続的に鳴り響く轟音を恐れてシシーもまた、みらいにぎゅっとしがみついて震えていた。

 

「みらい、八幡」

 

二人の名前を呼び、目で合図を送るリコ。その合図を察して八幡は目線を返し、みらいは震えているシシー達を見て決意したように頷く。

 

「ジュン、この子達をお願い」

「え?」

 

リコの言葉にジュンは少し驚いたようで思わず声が出てしまった。

 

「私とリコ、それに八くんで様子を見てくるから隠れててね」

「えっ…でも…」

 

怖くて震えているにも関わらず、みらい達の身を案じて止めようとするシシー。そんなシシーを安心させるようにみらいは微笑んだ。

 

「大丈夫」

 

みらいのその一言はシシーの怖いという気持ちを和らげ、震えを止める力を秘めていた。

 

「…危なくなったら無理せずに逃げる。だからまあ…心配しなくても大丈夫だ」

 

続けざまに八幡もそう言ってシシーの頭を優しく撫でる。

 

「二人の言う通り私達の心配はいらないわ、すぐに戻るから待ってて」

 

リコは未だに怯えているナンシーとドロシーに笑いかけると、原因を探るためにみらい、八幡の二人と洞窟の外に駆け出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

洞窟を後にした三人は音の正体を確かめるために辺りをキョロキョロと見渡していた。

 

「怖いものが来たって…」

「あそこまで怯えるって事はまず、気のせいじゃないだろうな」

 

さっきまでの地響きが嘘のように消え、静かな海中にみらいと八幡の声だけが響く。

 

「…?」

 

ふと、三人の真横を一匹の魚が物凄いスピードで通りすぎた。

 

「「「……!?」」」

 

それを皮切りに様々な魚の群れがまるで何かから逃げるように泳ぎ去っていく。

 

「この先に何かがあるのか…?」

「行ってみるしかないわね」

「行こう!」

 

魚達が逃げてくる方向に向かって三人は再び駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それと時を同じくしてみらい達とは別の場所にいたアイザック、ケイ、エミリーの三人がロレッタに先導されて避難していた。

 

「皆さんはここに」

 

アイザック達を洞窟に先導し終え、そう言うロレッタ。どうやらこの辺一帯が安全地帯らしく他の人魚達も集まっている。

 

「みらいさんとリコさん、それに八幡くんとジュンさんが…」

 

運悪く自由行動中に異常が起こってしまったことで、合流出来ていない四人を探しにいかなければとアイザックが飛び出そうとした。

 

「私が見てきます」

 

飛び出そうするアイザックを制止してロレッタが代わりに踵を返す。

 

「みんな……」

 

探しに向かったロレッタの後ろ姿を見つめながらエミリー不安そうに呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「はっはっはっ━━」」

「はっはぁっはぁっ……」

 

息を切らしながら魚達が逃げてくる方向に向かってひたすら走る三人。すでに逃げきってしまったのか進めば進むほど魚達の姿は見えなくなっていた。

 

「やはりお前達もいたか」

「…?」

 

走っている途中、頭上から聞こえてきた声に三人は足を止め、上を見上げる。

 

「フッフフフ…」

「なんでここに…!」

 

見上げた先、その声の正体は闇の魔法使いが一人、ガメッツだった。

 

「フッ…プリキュア、今こそ勝負だ!」

 

ガメッツは好戦的な笑みを浮かべて髑髏(どくろ)の杖を構える。

 

「魔法、入りました。出でよ、ヨクバール!!」

 

拳と拳を突き合わせて呪文を唱えるとガメッツの背にある甲羅から魔方陣が浮かび上がり、無数の貝達とヒラヒラした海草を吸い込んだ。

 

「ヨクバール!」

 

魔方陣の中から現れたのは大きな髑髏の顔に巨大な貝の体、長く伸びる触手のような海草が手のように生えているのが特徴のヨクバールだった。

 

「ヨォ……ヨォッ!!」

 

ヨクバールは一瞬、後ろに下がって力を溜め、反動をつけて加速しながらみらい達に強襲をかける。

 

「っ避けろ!」

「わぁっ!?」

「きゃっ!?」

 

八幡が咄嗟に叫ぶが、迫るヨクバールの圧に叫んだ本人も含めた三人の足がもつれてその場で転んでしまった。

 

ビュォォォ━━━━

 

転んだ事が幸いして激突は間逃れた三人。

 

ヨクバールの突撃は通りすぎた後に渦潮(うずしお)を巻き起こす程の威力があったようで、もし当たっていたらひとたまりもなかっただろう。

 

「どんな威力だよ…!」

 

あまりの威力に八幡は悪態をつくが、そんなことを言っている間にもヨクバールは折り返して再び突撃してくる。

 

「リコ!」

「うん!」

 

みらいがリコの名前を呼び、プリキュアに変身しようと手を繋いでもう片方の手を空へと向けた。

 

「お前らちょっと待っ…」

 

何かに気がついた八幡が声を上げるが二人の耳には届かない。

 

「「キュアップ・ラパ…」あれ?」

 

呪文の途中で二人もいつもと違うことに気付いたらしく顔を見合わせる。

 

「っモフルンは!?」

「あ…」

 

モフルンがいないことに慌てるみらい。プリキュアに変身するためにはモフルンの存在が必要不可欠、つまり今二人は変身することが出来ない。

 

「……モフルンは洞窟で待ってるあいつらと一緒だ」

「…そういえばあの子達が抱えてたわね」

 

八幡の言葉にリコが記憶を思い返して呟く。

 

「どうしよう…」

「どうしようって言われても…」

「…あんまり迷ってる時間はないぞ」

 

二人がプリキュアに変身出来ない以上、ヨクバールに対抗する(すべ)はない。

 

「「「あっ…」」」

 

つまり、それは今から旋回してくるヨクバールの突撃に対してどうすることも出来ないということだ。

 

「ヨクバールッ!!」

 

旋回したヨクバールがこちらに向かって一直線に飛んでくる。

 

「とにかく今は逃げ…」

 

━━━━ドォォォンッ!!

 

八幡が言い終えるより前にヨクバールの巨体が地面を揺らし、辺りに轟音が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、洞窟に隠れていたジュン、シシー、ナンシー、ドロシーの四人はモフルンを連れて入り口付近にある岩陰から外の様子を(うかが)っていた。

 

「モフ~!離してモフ~!!」

 

ドロシーの腕の中でモフルンがジタバタともがく。

 

「モフルンも行くモフ~!!」

「あ、危ないからダメだってば!」

 

必死に腕の中から脱出しようとするモフルンをドロシーがぎゅっと抱いて離さない。

 

「リコ達大丈夫かな…」

 

岩陰から顔を出してキョロキョロと辺りを見渡しながら心配そうに呟くジュン。

 

━━━━ドォォォンッ!!

 

止んだと思っていた轟音が再び響き、さらなる不安がジュン達を包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヨクッ!!」

 

━━━━ドォォンッ!ドォォンッ!ドォォンッ!!

 

「「わ、わぁぁっ!?」」

「うぉっ!?」

 

右へ、左へ、時に倒れながらヨクバールの突進をかわし逃げる三人。

 

どうやら悪運は強いようで先程の突進も吹き飛びはしたが直撃は避けられたらしく、柔らかい地面がクッションになってほぼ無傷で済んだ。

 

しかし、その運もずっと続くわけではない。ヨクバールとの速度差は圧倒的でこのままでは(じき)に逃げ切れなくなってしまうだろう。

 

「あっそこの岩陰!」

「っ飛び込め!」

 

切迫したこの状況で聞こえたみらいの声に八幡が叫び、三人は岩陰へと思いっきり飛び込んだ。

 

「ヨクバールッ!!」

 

間一髪、激突する寸前だったようで飛び込んだのとほぼ同時にすぐ真横をヨクバールが通過する。

 

「っ…この…ままだと…まずい…」

「っはぁっ…はぁっ…そんな…こと…言われ…ても…」

「っはぁっ…モフルン…がいないと…」

 

全力で走ったせいで息も()()えになりながら、三人は酸欠で回らない頭を必死に働かせて打開策を考えるがやはりなにも浮かばない。

 

「……とにかく…まずはモフルンと合流するのが先決だな」

 

考えを整理するために八幡はまず行動の指針を決めてそれを口にする。

 

「でも…その前に追い付かれちゃうよ!」

 

みらいの言う通り、ここからモフルン達がいる洞窟までの距離は流石に逃げ切れない。

 

「それ…に…このまま合流したらあの子達まで危険にさらすことになるわ…それだけは避けないと…」

「………」

 

リコの懸念は八幡も考えていた事だ。危ないからと待っていてもらったのに、そこへ危険を持ち込んでは本末転倒になる。

 

(…目的はモフルンとの合流。前提条件として洞窟で待っているあいつらの安全を考慮すること、それにはヨクバールを引き離す必要がある……なら)

 

八幡が何かを決めたように二人の方を向いた。

 

「お…」

「「それはダメ」だよ!」

 

思い付いた案を話そうとした瞬間、みらいとリコが声を揃えてそれを遮る。

 

「……まだ何も言ってないだろ」

 

まさか喋る前に遮られるとは思っていなかった八幡は少し面をくらいつつも、そう切り返した。

 

「言わなくてもわかるよ!八くん、危ないことしようとしてるって」

「そうね、八幡のことだから自分が囮になるとでも言うつもりだったんでしょ?」

「……よくわかったな」

 

自分の考えをピタリと当てられて驚く八幡。

 

二人の言うように八幡は自分を囮にすることで、みらいとリコがモフルンと合流する時間を稼ごうとしていた。

 

「やっぱり…そんなの絶対にダメ!八くんだけ危ない目にあうなんて…」

「…他に方法はないだろ」

 

危険を伴うその案に反対し、まっすぐ八幡を見つめてくるみらいから目線を逸らして答える。

 

「だとしても、その方法はダメよ……もっと自分を大切にして」

 

引き下がる気配のない八幡にリコは目を伏せ、そう投げ掛けた。

 

「…別に犠牲になるわけじゃない。ただ合流までの時間を稼ぐだけだ」

 

八幡だって痛いのは嫌だし、ヨクバールなんて怪物を前にすれば今でも足がすくむ。

 

それでもこの方法が()()()()()で、三人とも助かる可能性が高く、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

伝説の魔法使いプリキュアとただの一高校生である自分、比べるまでもないだろう。

 

「でも…」

「…なるべく早くしてくれると助かる」

 

話を強引に遮ってそう言い残すと八幡は岩陰から飛び出していった。

 

「ちょっと!待ちなさい!」

 

リコが引き留めようとするも、すでに遅く伸ばした手が空を切る。

 

「っもう!」

「八くんを止めないと!」

 

囮になろうとする八幡を止めるために駆け出す二人。

 

━━ゴツンッ

 

「「あいたっ!?」」

 

同時に駆け出そうとしたせいで互いに頭をぶつけたみらいとリコは痛みのあまり、すぐに八幡の後を追い掛けることができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…変身しないのか?このガメッツが相手では不足とでも言うのか!」

 

ヨクバールの上に立ち、三人を追い回していたガメッツが苛立ったように叫ぶ。

 

どうやら二人が変身出来ないことを知らずに軽く見られていると勘違いしたらしい。

 

「ハッ…なんだわかってるじゃねえか」

「なにっ!」

 

囮役として飛び出した八幡がガメッツの気を引くため、皮肉げに笑う。

 

(上手い具合に勘違いしてるな……ならそこをつつけば…)

 

「お前は……他の二人、プリキュアはどうした?」

「…自分でさっき言ってただろ?相手にするのに役不足だって」

 

勘違いを利用して自分に注目を集めさせようと八幡はさらにガメッツを挑発した。

 

「…なるほど、つまりお前が相手をすると言うのだな?」

 

先程までとはうって変わって冷静になったように見えるガメッツ。

 

それに対し八幡は、挑発が失敗したのかと冷や汗をかきながらもそれを表情には出さないようにして続ける。

 

「まあ、そういうことになるな…伝説の魔法使いが相手をするまでもない」

「フッ…おもしろい、その挑発に乗ってやろう」

 

そう言うとガメッツはヨクバールを八幡の方に向けた。

 

(挑発は失敗した…それでも結果的に囮役は勤まりそうだな…)

 

ガメッツは八幡の言葉が見え透いた挑発だと理解した上であえて乗っかってきたのだ。

 

たとえ意図がバレていたのだとしても八幡の方を狙ってくれるのなら問題はない。

 

「ではいくぞ!」

「っキュアップ・ラパパ!箒よ、飛べ!!」

 

ヨクバールがこちらに向かってくるのとほぼ同時に八幡は小さくなっている箒を元の大きさに戻して呪文を唱えた。

 

「ぐっ…!おぉぉっ!」

 

箒による急加速で八幡の口から苦しげな声が漏れる。

 

「ヨクバッ!?」

 

当たると思った攻撃をかわされ驚くヨクバールにガメッツが指をさして叫ぶ。

 

「逃すな!ヨクバール!」

「ヨクバールッ!!」

 

目標を見定めたヨクバールが猛スピードで飛んで行く八幡の後を追って加速を始めた。

 

ギュィィィンッ━━━━

 

「がっ━━うっ━━!」

 

加速する音と共に八幡は声にならない(うめ)きを上げる。

 

“まずい…このまま離れすぎれば囮の意味がなくなる━━━“

 

速度に振り回されながらも必死で頭を働かせ、手に力を込めて箒の進路を強引に変更する八幡。

 

キィィィィッ━━━━!

 

「うぷっ…」

 

急ブレーキによる慣性とそこから加速した圧力で圧迫された内臓が悲鳴をあげて、猛烈な吐き気が八幡を襲う。

 

“吐くなら吐けばいい、余計な事を考えるな━━━”

 

Uターンした箒は(あやま)たず飛んできた軌道をたどり、追ってくるヨクバールに向かって飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「なに?こちらに向かってくるだと…?」

 

急に旋回して向かってくる八幡にガメッツは怪訝な表情を浮かべる。

 

ガメッツは八幡が油断ならない相手なのは知っているが、それはあくまでも間接的な話。直接戦うような力はないはずだ。

 

だからこそ八幡の狙いが他の二人を逃がすための囮だということを見抜き、ガメッツはあえてその挑発に乗った。

 

にも関わらず正面衝突も辞さない速度と軌道でこちらに向かってくる八幡の行動が解せない。

 

「なんのつもりか知らんが、向かってくるというのなら好都合。返り討ちにしてくれる…ヨクバールッ!」

「ヨクバール!!」

 

考えても仕方ないと言わんばかりにヨクバールへと命令を下したガメッツは猛スピードで向かってくる八幡を正面から打ち砕くために身構えた。

 

 

 

 

 

 

 

ゴォォォォッ━━━━

 

身構えるガメッツとそれに向かってさらに加速する箒に八幡はこれまでにないほど焦っていた。

 

“っやばい!逃げる方向を完全に間違えた…!!”

 

慌てて箒を切り替えしたせいで本当ならヨクバールの横をすり抜けるはずが、勢い余って衝突する軌道になっている。

 

“もうブレーキは間に合わない━━”

 

箒の速度に慣れてきたのか、はたまたこの危機的状況からくる走馬灯のようなものなのか、信じられないほどの速さで巡る思考の中で八幡はそれを悟った。

 

“避けようにもこのスピードだと曲がりきれずに衝突する━━”

 

ブレーキをかけても間に合わない、かといって避けようにも速すぎて曲がる前にぶつかる。

 

考えても良い案はは浮かばないまま眼前に迫る髑髏の顔。もはや八幡にとれる手段はない━━━━。

 

 

 

「っがぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

━━━ぶつかる直前、八幡は叫びながら無我夢中で体を思いっきり左に倒した。

 

「な、何ぃっ!!?」

 

驚愕の声を上げるガメッツ、しかしそれも無理はない。八幡の乗った箒は突如ガメッツの視界から消え、いつの間にかヨクバールの後ろへと通り抜けていたのだから。

 

「ありえんっ!どうやってあのスピードから避けたというのだ…!?」

 

迎え撃つつもりで構えていたガメッツはその宛が外れ焦り、慌てて八幡の後を追いかける。

 

「が、はぁっはぁっ……っ!」

 

緊張と叫んだ反動で八幡は息を切らしながら、後方にヨクバールが追ってきているのを確認すると改めて避けた瞬間の事を思い返した。

 

(たまたま上手くいっただけ…もう一度同じ事をやろうとしてもまず失敗する…)

 

八幡はぶつかる数メートル手前で思いっきり体を左に倒し、まるでプロペラのように箒ごと回転しながら真っ直ぐ突っ込んでヨクバールの真下を通り抜ける事に成功したのだ。

 

しかしこれはヨクバールの形状が貝のように平べったかった事と八幡のタイミング、その他様々な偶然が重なった結果、運良く避けられたに過ぎない。

 

“それにまだ終わったわけじゃない━━”

 

ひとまず目の前の危機を脱したと言ってもこれから囮としてさらに時間を稼がなければならないし、なによりすでに次の危機が迫っている。

 

“っ地面━━!!?”

 

すぐそこまで砂の地面に迫っていた事に気付いた八幡は一瞬ヒヤリとしつつも、慌てずに箒の柄に力を込めてゆっくりと引き上げた。

 

━━━━ボフッ━━ゴォォォォッ!!

 

箒は自然な軌道で流れるように弧を描き、砂を巻き上げて地面を滑空する。

 

(…なんとなくこの箒の扱いがわかってきた)

 

この危機的状況で徐々に暴走箒を扱うコツを掴み始めた八幡は忘れないように頭の中で()()()()反芻(はんすう)した。

 

“箒の速さに飲み込まれるな……焦らずゆっくりと力を込めろ━━”

 

魔法の基本はイメージだ。それはもちろん箒で飛ぶことも変わらない。

 

飛んでいる自分を想像してそのイメージ通りに箒を操る、それさえ出来れば後は本人の感覚次第で自由に飛べるはずだ。

 

無論、想像通りに動かすのは難しく、自由に飛ぶというのは理想論だろう。それでもそれを意識していけば(おの)ずと理想に近付き上達していく。

 

今まで八幡は箒の速度に振り回されてイメージどころではなかった。

 

しかし、ヨクバールと衝突する土壇場でそれを回避するために考える事を余儀なくされた結果、八幡にイメージする猶予が生まれたのだった。

 

「ぬおっ!?止まれヨクバール!」

「ヨ、ヨクッ!?」

 

━━━━ズトォォォンッ!!

 

八幡を追いかけていたガメッツとヨクバールが速度を落としきれずに砂の地面に突っ込んだ。

 

「っキュアップ・ラパパ!箒よ、止まれ!」

 

ガメッツとヨクバールが地面に突っ込んだ事で八幡は距離を離すのはまずいと箒を旋回させて、その場に留まり様子を(うかが)う。

 

「…なるほど、どうやらお前の事を少々(あなど)っていたようだ。よもやあのような方法でこのガメッツと対峙するとはな」

「ヨ…ヨクバール…」

 

巻き上がった砂が晴れ、好戦的な笑みを浮かべるガメッツと地面に激突した事でダメージを受けたらしいヨクバールが姿を現した。

 

「…だから言っただろ、伝説の魔法使いが相手にするまでもないって」

 

狙ってやったわけではないがガメッツが都合良く解釈してくれたので八幡は再び挑発を試みる。

 

「フッ…そんな挑発をせずともこのガメッツ、存分にお前の相手をしよう…いくぞ!」

「ヨクバールッ!」

 

ガメッツは認識を改めたようで八幡の事を自分が戦うに値する相手と認め、全力で向かってきた。

 

「キュアップ・ラパパ!箒よ、飛べ!!」

 

向かってくるガメッツに対して八幡は再び背を向け、箒を走らせる━━━━

 

“さっきよりも速い━━!?”

 

迫りくるガメッツとヨクバールのスピードが明らかに上がっている━━どうやら今まで本気ではなかったらしい。

 

“っそれでもまだ……”

 

上がっていると言ってもその速度は八幡の操る箒には及ばない、これならまだ時間を稼げると思った矢先、ガメッツが行動を起こす。

 

「追い付けぬのなら撃ち落とすまで、やれっヨクバール!」

「バールッ!」

 

ガメッツの合図と共にヨクバールは自身の体━━大きな貝の口をカパッと開き、そこから無数の光弾を機関銃のように吐き出した。

 

ヒュッヒュッヒュンッ━━!!

 

「っ!?」

 

思わぬ攻撃に今度は八幡が驚愕する。ヨクバールが吐き出した光弾はざっと見ただけでも数百発、そしてその一発一発が八幡にとって無視できない威力を持っていた。

 

“一発でも当たればそれだけで致命的…それに加えてこの数は━━━━”

 

いくら暴走箒を乗りこなし始めたと言ってもこんな機関銃(まが)いの速度で無数に飛来する光弾の隙間を縫ってかわすことなんて不可能だ。

 

八幡はそう判断すると体を横に倒して柄を握る手に力を込め、先程ヨクバールをかわしたのと同じ要領で箒ごと回転しながらほぼ真横に曲がりきる。

 

━━ザシュッ

 

「ぐっ…」

 

光弾の速度が思った以上に速かったらしく、避けきる前に一発の光弾が背中を(かす)め、八幡の口から苦悶(くもん)の声が漏れた。

 

「ほう…あれを避けるとはな……だが、長くは持つまい。ヨクバールよ、攻撃の手を休めるな!」

「ヨックバール!」

 

指示を受けたヨクバールの苛烈な攻撃は続く。

 

━━右へ━━左へ━━上へ━━下へ━━八幡は自分の三半規管が上げる悲鳴を無理矢理押し込めて縦横無尽に箒を操る。

 

━━ズキッ

 

「痛っ…」

 

避けようと動かす度、背中に鋭い痛みが走った。

 

それはギリギリで攻撃をかわしているこの状況において判断ミスに繋がりかねないだろう。

 

それに八幡を襲っているのは痛みだけではなく、緊張と恐怖からくる発汗、目眩、息切れ、吐き気…いつ気を失ってもおかしくない。

 

“少しでも気を(ゆる)めればその時点で終わる━━!?”

 

目まぐるしく変わる視界の中で八幡が目にしたのはこちらの方に駆けてくるみらいとリコ、二人の姿だった。

 

「八くんっ!!」

「八幡っ!!」

 

八幡の名前を叫びながら走る二人の近くにモフルンはいない。あの後、そのまま八幡を止めるために追いかけてきたのだろう。

 

「む…ようやく出てきたかプリキュア。さあ、変身して見せろ!」

 

二人が現れたのを見てガメッツは待ちくたびれたと言わんばかりに標的を変える素振りを見せた。

 

(まずい…!)

 

みらいとリコがガメッツの標的になったと思い逃げるのを止めてヨクバールに向かっていく八幡。

 

ガメッツの嬉々(きき)とした様子から、二人がまだ変身出来ない事に気付いていないのだろう。

 

つまりガメッツは何の躊躇(ためら)いもなく攻撃を仕掛けるという事だ。そうなってしまえば今の二人に防ぐ手立てはない。

 

“こっちに注意を向けさせる━━━━”

 

ヨクバールの目の前を通り過ぎ意識をそらす、それが今できる最善の方法だと八幡は箒を握る手に力を込める。

 

しかし、ここで一つ八幡には大きな誤算があった。

 

「ヨクバール」

 

二人に標的を変えていたはずのヨクバールが飛んでくる八幡の方を向く。

 

「━━っ!?」

 

それを見て八幡は気付く、ガメッツが標的を変えたわけではない事を。

 

「言ったであろう?このガメッツ、存分にお前の相手をすると、プリキュアはその後だ」

 

そう言ってガメッツは突っ込んでくる八幡を迎え撃つために再び身構えた。

 

()しくも先程と同じ構図にはなったが、もう一度、同じ様にヨクバールを避けるのは不可能に近い。

 

(…さっきと同じ様に避けようとしても一度見られている以上、それが成功するとは思えないし、何よりあんな動きをもう一度できる自信もない)

 

恐らくガメッツは八幡がギリギリでかわすことを前提に考えているだろう。…というより実際にそれ以外にとれる選択肢がないのが現状だ。

 

そのまま進めば衝突して終わり、ブレーキをかけても中途半端に減速してヨクバールの前に無防備を(さら)すだけになる。結局、最善はギリギリで避けるという事になってしまう。

 

選択肢があるとすれば避ける方向くらいでそれも上か下かの二択しかない。

 

“なら…一番可能性があるやり方で……”

 

危機的状況で驚くほど速く思考が回っているとはいえ、ヨクバールまでは文字通り一瞬、もう迷っている時間はないと八幡は()()()()()()()()()()()()()()()

 

「っキュアップ・ラパパ!箒よ、止まれ!!」

 

減速するために体ごと箒を横向きに倒しながら八幡が呪文を唱えた。

 

「なっ!!?」

 

まさかの行動に再び驚愕の声を上げるガメッツ、そして八幡はその僅かな隙を逃すまいと減速した事で自由になった片手を使って杖を取り出す。

 

「キュアップ・ラパパ!閃光よ、()ぜろ!!」

 

杖を突き出し、八幡が呪文を唱えると先端から強烈な光が爆ぜた。

 

「ぐっ…」

「ヨクッ!?」

 

完全に不意を突かれたガメッツとヨクバールはまともに光を()らって視界を奪われる。

 

「っ…ひとまずは上手くいったな」

 

目を(つむ)っていたとはいえ、至近距離だったせいで少し影響を受けた八幡は覚束(おぼつか)ない様子で地面に降り、呟いた。

 

八幡が選んだ一番可能性のある方法、それはブレーキをかけて減速し、ヨクバールの前で止まるというものだった。

 

あれだけ驚くような避け方を見せられれば、当然印象に残る…まして同じような構図ならなおさらだ。

 

()ればこそ、ガメッツは同じ様に避けてくるだろうと予測する。そこへ想定外の行動をやって見せれば隙ができるはずと考えたのだが、上手くいくかどうかは賭けだった。

 

「「八(くん)」幡!!」

 

痛みと酩酊感(めいていかん)から、未だに立ち上がることすら出来ない八幡の元にみらいとリコが駆け寄る。

 

「……今の内にモフルンと合流しろ」

 

駆け寄ってきた二人に向けて八幡は突き放すように言った。

 

「うん、そうする。八くんも一緒に、ね?」

「ほら、肩に掴まって」

 

二人はそんな言葉を物ともせずに八幡へと手を差し伸べる。

 

「…いや、いい。俺はここに残るからお前らだけで行ってくれ」

 

差し伸べられた手から目を背け、八幡は早口で否定の言葉を口にした。

 

「やだ!」

「ダメ!」

 

それに対して否定の言葉を短くスッパリと否定で返す二人。その様子から八幡を置いていくという選択肢がないのは明らかだった。

 

「…さっきの目眩ましがいつまで効いているかわからない以上……誰かが残って足止めした方がいいだろ」

 

痛みはあるが、背中の怪我は大したことない。しかし、無茶な運転をしたせいで体のあちこちが悲鳴を上げ、まともに動く事すらままならない状態だ。

 

そんな八幡を連れてモフルンの元へ向かうには時間がかかってしまい、ガメッツの視力が回復してしまうだろう。

 

「それにはプリキュアに変身できるお前らよりも俺が残るのが一番リスクが低い」

 

最悪の場合でも二人がモフルンと合流さえできればそれでいい。八幡にもしもの事があってもみらいとリコが無事ならばヨクバールを倒す可能性は(つい)えないのだから。

 

「……そんなの絶対にやだ」

 

みらいは真っ直ぐ八幡を見つめた。

 

「だって八くん絶対に無茶しようとするもん!さっきだって止めたのに……私、怒ってるんだよ!!」

 

足手まといだからとか、リスクが少ないだとかそんな理屈で武装した八幡の言葉を関係ないと言わんばかりに突っぱねたみらいの表情は本人の言う通り怒っているように見える。

 

けれど、それと同じくらい八幡の事を心配しているのが伝わってきた。

 

「私もみらいと同じ気持ち……ねぇ、八幡。もし私達が八幡みたいに囮になるから逃げてって言ったら八幡は逃げる?」

「………」

 

リコからの問いかけに押し黙る八幡。そんなたらればを考えても仕方がない。

 

囮になるべきは八幡で逃げなければならないのがみらいとリコ、考えたところでそれに変わりはないのだ。

 

「……たぶん…ううん、絶対に八幡は逃げない。なんだかんだ屁理屈(へりくつ)を言って私達を逃がそうとすると思う」

「…そんなこと」

 

返答を待たず、確信を持ったように断言するリコに思わず八幡も口を開きかける。

 

(…いや、そもそもこの問答自体に意味がない)

 

いつまで目眩ましが持つかわからないこの状況でこんなやり取りをしている場合ではないだろう。

 

「ぐっ……」

 

悲鳴を上げる体を無理矢理動かし、酩酊(めいてい)からくる吐き気を飲み込んで八幡は立ち上がった。

 

「八くん…?」

 

ふらふらと今にも倒れそうな八幡を心配そうに見つめる二人。支えようと手を伸ばすが、二人を見つめ返す八幡の表情がそれを許さない。

 

「は…」

 

━━━━━━パチンッ

 

八幡が口を開きかけたその時、聞き覚えのある不吉な音が響く。

 

「ぐ……ぬ?どういうことだ、急に見えるようになったぞ」

「ヨクバール?」

 

音が響くと同時に目眩ましの影響で(もだ)えていたはずのガメッツとヨクバールの視力が回復してしまった。

 

「なっ━━!?」

 

あまりにも早すぎる復活に驚愕する八幡。その声が聞こえたのかガメッツが三人の方を向く。

 

「そこかプリキュアっ!」

「ヨクバールッ!!」

 

ヨクバールの口が開き、そこから撃ち出された光弾が三人を襲う。

 

「っ━━」

 

咄嗟(とっさ)に八幡が二人を近くの岩陰に突き飛ばした。

 

「きゃっ!?」

「わっ!?」

 

いきなり突き飛ばされた二人が倒れ込んだ直後、先程まで立っていた場所へと光弾が降り注ぐ。

 

ドドドドドドドドッ━━━━!!

 

「八くんっ!」

「八幡っ!」

 

悲痛な声を上げる二人。しかし、無情にも降り注いだ光弾は止むことなく、砂煙を巻き上げながらみらいとリコに迫っていた。

 

メキメキッミシッ━━━━

 

盾となった岩が音をたてて(きし)み、あっという間にひび割れが拡がっていく。

 

「「きゃぁぁっ!!?」」

 

光弾はものの数秒で岩を穿(うが)ち、その先にいる二人を吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒィッ!?なんだあいつ……!?」

 

隠れている岩陰から覗いていたジュンがヨクバールの力を目の当たりにして短い悲鳴を上げる。

 

「っみらい!リコ!八幡!」

 

同じくその様子を目にしたモフルンが三人の名前を叫び、ドロシーの腕の中から飛び出した。

 

「モフちゃんっ!」

 

三人の方へ走り出したモフルンを止めようとドロシーが手を伸ばすが届かない。

 

「ちょ、ちょっと!?おい!」

 

少し遅れてそれに気付いたジュンは慌ててモフルンの後を追った。

 

「一体なにが…?」

 

ジュンと入れ替わるように現れたロレッタが見えない状況を前に呆然と呟く。

 

「先生っ」

「モフちゃんが…」

 

ドロシーとナンシーの心配する声にロレッタは応える事ができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つまらぬ…もう終わりか」

 

ガメッツが鼻白(はなじろ)んだように砕かれた岩と砂煙が立ち込める地面を見下ろす。

 

「よもや変身しないままとは……ん?」

 

砂煙の中に何かを見つけ、ガメッツは怪訝な表情を浮かべた。

 

(まだ無事な者がいたのか…)

 

それが人影だと気付いたガメッツが感心したように注視する。

 

「ゲホッ……っはぁ…はぁ…」

 

地面を(おお)っていた砂煙が晴れるとそこには苦しげに肩で息をしている八幡がいた。

 

「ほう…お前だったか。先程の箒(さば)きといい、何度も驚かせてくれる」

 

おおよそ無事でいられるとは思えないヨクバールの攻撃を受けて立っている八幡を見てガメッツは楽しげに笑う。

 

「…何…が…いや…それよりもあいつらは…」

 

ヨクバールの攻撃をもろに浴びたはずの自分が無事な事に疑問を覚えた八幡だったが、それどころではないとすぐに二人の行方を探した。

 

「うぅ…」

「くっ…」

 

八幡は岩の残骸から少し離れた場所に倒れている二人を見つける。二人に目立った外傷はなく、どうやら岩が盾になった事が幸いして吹き飛ばされるだけで済んだようだ。

 

(あいつらは無事……なら俺のする事は変わらない)

 

二人の無事を確認した八幡はガメッツを見据え、わかりやすいよう皮肉げに口の端を上げる。

 

「…それはなんのつもりだ?まさかこの()に及んでまだ時間稼ぎをするつもりか」

 

理解できないと眉をひそめるガメッツ。プリキュアの二人はヨクバールの攻撃を受けて倒れたままだ。

 

それを知っているにも関わらず、時間を稼ぐ意味がわからない。

 

「無駄だと知っていてなぜそこまでする?なぜ逃げない?お前は自分を犠牲にしてまであの二人を守るというのか?」

 

満身創痍(まんしんそうい)になりながらも未だに倒れない八幡にガメッツが問うた。

 

「……別に、これは自分のためにやってることだ。犠牲になったつもりはないし、無駄だとも思ってねぇよ」

「何?」

 

投げ掛けられたその問いが、先程意味がないと答えなかったリコの問いと重なる。

 

━━なぜ逃げないのか?

 

逃げるよりも効率的で一番リスクが低いから

 

━━立場が逆だったら逃げるのか?

 

そんな仮定に意味はない、伝説の魔法使いなのはあの二人で比企谷八幡にそんな力はないのだから

 

━━自分を犠牲にしてまで二人を守るのか?

 

元より()けられるものがないのだ、そういうやり方しかできないし、知らない。二人を守るのは自分のため、それを犠牲とは呼ばないだろう

 

 

 

━━無駄と知りながらどうしてそこまでするのか?

 

 

 

「あいつらは必ず立ち上がる…ならそれまでの時間稼ぎをする事は無駄じゃないだろ」

 

自問自答を重ね、おおよそ答えとは言えない……傲慢(ごうまん)で押しつけがましく、なにより自分本意なそれを自覚して八幡は笑う。

 

「…無駄ではないというのなら足掻(あが)いてみせろ。さもなくばプリキュア共々、この里ごと終わる事になるぞ」

 

これ以上の問答は不要とガメッツは戦闘体勢に入った。

 

「全てを吹き飛ばせばおのずとリンクルストーンの在処(ありか)もわかるか…ヨクバール!」

 

辺りを見渡してそう呟いたガメッツがヨクバールに指示を下す。

 

「ヨクバールッ!!」

 

 

ドドドドドドッ━━━━!!

 

 

ヨクバールの放った光弾は辺り一帯に無差別でばら()かれ、轟音を響かせながらあらゆるものに降り掛かった。

 

 

ドゴォォォンッ━━━━!!

 

「モフッ━━!?」

 

 

ズドォォォンッ━━━━!!

 

「「「「きゃあぁぁっ!?」」」」

 

 

光弾の余波でみらいとリコの元に向かっていたモフルンとその後を追いかけていたロレッタ達が吹き飛ばされる。

 

「っ…」

 

少し離れた場所から聞こえてきた悲鳴に歯噛みする八幡。時間を稼ぐと言ったものの、今の八幡は立っているのがやっとで魔法はおろか動くことすらできない状態だった。

 

(どうする…どうしたらいい…考えろ…まともに動けないこの状態で何ができる…?)

 

思考を巡らせるが何もいい案が思い浮かばない。そうしている間にもヨクバールの撒き散らした光弾が辺りを吹き飛ばしていく。

 

「……まだ腕には力が入るみたいだな…なら箒にしがみつく事くらいはできるか…」

 

壊されていく風景を前に八幡は無謀としか言えない行動に出ようとしていた。

 

(たとえ操作はできなくてもこの箒のスピードなら方向がぶれる前に当たる筈だ)

 

一か八か、箒による特攻。成功しても稼げる時間はほんの(わず)か、箒にしがみつくことしか出来ない八幡はどちらにしろただでは済まない。

 

激突して放り出されるか、光弾の餌食(えじき)になるか、はたまた力尽きて振り落とされるか、多少の違いはあれど助からないだろう。

 

「…それでも今できる事はこれだけだ」

 

このまま手をこまねいて、ただ見ているわけにはいかない。無謀だろうと他に策がないのならこれに(すが)るしかないのだ。

 

「キュア…」

 

「…待ち…なさい」

 

意を決して呪文を唱えようとしたその時、背後から聞こえてきた声が八幡を止める。

 

「…お前ら……」

 

声の方へ振り返るとそこには、よろめきながらも立ち上がろうとしているリコとみらいの姿があった。

 

「…これ以上…八くんに…無茶な事はさせない…よ」

「…あれだけ…言ったのに…本当…聞き分け…ないんだから…」

 

立ち上がった二人はゆっくりと八幡の方へ歩み寄り、まるで庇うようにその前へと進み出る。

 

「なにを…」

 

「だから…今度は私達の番…!」

 

「八幡の言うことなんて…聞いてあげない…!」

 

そう言うと二人はゆっくりと息を吸い込んだ。

 

 

「「すぅ…っここから出ていきなさい!!」」

 

 

海中に木霊する二人の叫び。それは逃げないという二人の強い意思表示だった。

 

━━━━……!!

 

二人の叫びは里中に響き渡り、恐怖に怯える人魚達を勇気づける。それはもちろん後ろにいる八幡にも伝わってきた。

 

「……無茶で聞き分けのないのはどっちだよ…」

 

みらいとリコの背中に向けて(ひと)()つ八幡。その言葉とは裏腹に二人を見つめる八幡の表情はどこか晴れやかだった。

 

 

 

 

「…まさか本当に立ち上がるとはな」

 

里中に響き渡った二人の叫びは当然ガメッツの耳にも届き、少し驚いた様子を見せる。

 

「だが…叫ぶだけで我を倒せると思ったのかっ!!」

 

しかし驚いたのは一瞬の事で、未だに変身してこない二人に苛立ち、それを汲み取ったヨクバールが攻撃を仕掛けた。

 

「ヨクッ!」

 

ドドドドドドッ━━━━!!

 

ヨクバールの苛烈な攻撃は幸いにも直撃はしなかったが、その余波が二人に襲い掛かる。

 

「「っ!!」」

 

あまりの衝撃で吹き飛ばされそうになる二人だったが、不意に後ろから背中を押されてギリギリのところで踏みとどまる事ができた。

 

「…ぐっ……」

「八…くん…!?」

「八…幡…!?」

 

後ろを振り向き驚く二人。その背中を支えていたのは動くことすらままならなかったはずの八幡だった。

 

「……この…まま…お前らだけに…任せる…のも…あれだからな…」

 

少しでも気を抜けば途切れそうになる意識を必死に保ちながら八幡は言葉を紡ぐ。

 

「……()()で切り抜けるぞ」

 

小さな声でぼそりと呟かれたその言葉にみらいとリコは目を見開いて驚き、その嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

「…うん!この三人で…!!」

「…ええ!この三人なら…!!」

 

 

「「三人なら怖くない!!」」

 

 

━━パカッ━━パカッ━━パカッ━━━━

 

みらいとリコの叫びに呼応して無数のマール貝達が一斉に開き始める。

 

「これは…」

 

蒼く綺麗な光を放ちながら開いてゆくマール貝。その光はどこまでも拡がって辺り一面を埋め尽くした。

 

「「「「「「「「マ━━━━ル━━━━━」」」」」」」」

 

そしてマール貝達の合唱が鳴り響き、それを合図に人魚達の胸にも蒼い光が灯る。

 

━━━━━━………

 

人魚達は光がなにを指し示すのかを悟ると胸の前で手を組んで静かに祈りを捧げた。

 

「ぬ…この光は…」

 

里中から湧き出る光にガメッツは目を細めて、少し気圧されたように呟く。

 

「ヨクッ……」

 

どうやら同様にヨクバールもその光に気圧されたようで、ガメッツ共々しばらくその場を動くことができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

溢れた光は吹き飛ばされながらもみらい達の元へと向かっていたモフルンにも届く。

 

「くんくん……甘い匂いモフ!!」

 

蒼い光からそれを感じ取ったモフルンは三人の方へと急いで駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…うぅ」

 

ヨクバールの攻撃で吹き飛ばされ、倒れていたジュンが不意に目を覚ます。

 

「…ここは……って…なんだ…?」

 

起き上がったジュンの目に飛び込んで来たのは蒼く輝く景色と遠くに見えるその中心部、光が収束している場所だった。

 

「うわっ!?」

 

何が起きているのかと中心部を見つめるジュンの頭上をそこから伸びた光が流星の(ごと)く駆け抜ける。

 

ヒュゥゥゥゥ━━━━━━

 

光は先程までジュン達が隠れていた洞窟…人魚の里に伝わる宝物である大きな貝に向かっていた。

 

━━━━━━カパッ

 

人魚達の心に灯った光を受け、輝きで満たされた大きな貝は固く閉ざされていた口をゆっくりと開く。

 

キランッ━━

 

そうして開かれた貝の中から姿を現したのは金色の(ふち)(しずく)(かたど)ったようなフォルムの青い宝石、なによりそこから発せられる穏やかな光が特徴的なリンクルストーンだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「青いリンクルストーン…」

 

突如として頭上に現れたそれを見て八幡が呆然と呟く。

 

「サファイア!穏やかな気持ちのリンクルストーンモフ!!」

「「モフルン!」」

 

声を弾ませながら駆けてくるその姿にみらいとリコが同時に名前を呼んだ。

 

「…後は頼んだ」

 

モフルンと合流したことで緊張の糸が切れたらしく、八幡はそれだけ言うと限界を越えて保っていた意識を手放して二人に後を託した。

 

「「…うん!」」

 

そして託されたみらいとリコは八幡の言葉に頷き、手を繋ぎ合う。

 

「「キュアップ・ラパパ!」」

 

呪文を唱えて手を掲げた二人から青い光がジグザクに宙を舞った。

 

「モッフー!!」

 

青い光がモフルンまで届くとその胸元にリンクルストーンがセットされる。

 

「「サファイア!」」

「モフッ♪」

 

サファイアの輝きは泡となって三人を静かに包み込んだ。

 

「「ミラクル・マジカル・ジュエリーレ!!」」

 

三人を中心として渦が巻き起こり、ハートの形を象ってみらいとリコの姿を変えてゆく━━━━

 

 

━━━下から吹き上げる泡沫のような光が弾けると、青き魔方陣を潜り抜けて新たな力を身に(まと)いし二人が華麗に舞い降りた。

 

「ふたりの奇跡!キュアミラクル!」

 

「ふたりの魔法!キュアマジカル!」

 

「「魔法つかいプリキュア!!」」

 

穏やかな青き光を宿した伝説の魔法使い…プリキュア、サファイアスタイル生誕の瞬間である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━ザバァァァァンッ!!

 

ようやく変身した二人を前にガメッツは体制を整えるべく場所を海中から地上へと移した。

 

━━ザバンッ!

 

「「「プハッ」」」

 

二人の後を追ってシシー、ナンシー、ドロシーの三人がモフルンを抱えて海面に顔を出す。

 

「サファイアの…海の色のプリキュアモフ!」

 

シシーに抱えられたモフルンが変身した二人の姿を見て声を上げた。

 

「フンッ…エメラルドではなかったが……新たな力を手に入れたかプリキュア」

 

ガメッツが忌々(いまいま)しそうに、でもどこか嬉々とした様子で呟く。

 

「行こう!」

「ええ!」

 

手にした新たな力に予感を覚えつつ、ミラクルとマジカルは相手を見据えた。

 

「ヨク…バールッ!!」

 

そこへ二人目掛け、ヨクバールが海草の腕をビュンッ、と伸ばして攻撃を仕掛けてくる。

 

「「ふっ!!」」

 

二人はその攻撃を()()()()()()軽々とかわしてみせた。

 

「飛んだだと…!?」

 

「モフー!空飛ぶプリキュアモフ!!」

 

空を飛ぶミラクルとマジカルにガメッツは驚愕し、モフルンが嬉しそうにはしゃぐ。

 

「ぬぅぅんっ…!いけぇ!ヨクバールッ!!」

 

「ギョイィィッ!━━━ヨクバールゥゥッ!!」

 

怒号にも似たガメッツの指示を受けたヨクバールはその腕から猛烈な勢いで連続突きを繰り出した。

 

━━ヒュンッ━━ヒュンッ━━ヒュンッ

 

一撃━━二撃━━三撃━━弾丸にも迫るほどの速度で繰り出される突きをミラクルとマジカルが流麗にかわしていく。

 

「なっ……!!」

 

目の前で起きていることが信じられず、言葉を失うガメッツ。そうしている間にもヨクバールは休むことなく攻撃を繰り出すが……当たらない。

 

 

トンッ、タンッ、トンッ、とステップを踏んで、舞い踊るように空を泳ぐその姿はまるで━━━━━

 

「輝きの…人魚…!!」

 

見てみたいと思いを馳せていたシシーがその光景を前に目を輝かせて呟いた。

 

 

 

 

「こっちよ?」

 

「ヨクッ…バールッ!」

 

ミラクルが手招きをするように空中で振り返る。

 

「こっちこっち~!」

 

今度はマジカルが反対側からヨクバールを注意を引いた。

 

「ヨクッ?ヨクバー…ッ!?」

 

両側から声を掛けられたヨクバールが方向転換する瞬間を狙ってミラクルとマジカルはその長く伸びた海草の腕をガッチリと掴む。

 

「「せぇーのっ!!」」

 

腕を掴んだ二人は反動をつけると大縄のごとくヨクバールを振り回し始めた。

 

 

 

━━ヒュンッ 「ヨッ!?」

 

 

 

━━ヒュンッ 「ヨッ!?」

 

 

 

━━ヒュンッ 「ヨッヨクゥ~!?」

 

 

 

回転する度に振り子の要領で勢いを増していき、ついにはヨクバールが目を回すほどの速度に至る。

 

 

「「それっ!!」」

 

 

「ヨクゥゥゥッ~!!?」

 

 

━━━━バッシャァァァンッ!!

 

 

加速した状態で放り投げられたヨクバールはきれいな放物線を描き、派手に水飛沫(みずしぶき)を上げて海へと落ちていった。

 

 

「ぐぅぅ…まだまだぁっ!ヨクバールップリキュアを沈めてしまえ!!」

 

やられっぱなしのヨクバールに歯噛みしつつも、ガメッツは鼓舞(こぶ)するように叫ぶ。

 

 

ザバァァァッ━━━━

 

 

「ギョォォイ……!」

 

その叫びにヨクバールは目を赤くギラつかせて海の中から飛び出した。

 

「ヨ…ヨクバールゥゥッ!!」

 

プリキュアを打ち倒すためにヨクバールが残った全ての力を込めて一直線に突進を繰り出す。

 

 

「「…うん!」」

 

 

ミラクルとマジカルは迫りくるヨクバールを前に合図をかわし、杖を取り出した。

 

 

「「リンクルステッキ!」」

 

 

二人の杖が伝説のリンクルステッキへと変わる。

 

「モッフー!!」

 

モフルンから放たれた青き光が辺りを清澄(せいちょう)なる湖に染め上げた。

 

 

「「サファイア!」」

 

「「青き知性よ……私達の手に!」」

 

 

穏やかなるサファイアの輝きを秘めたリンクルステッキ、二人はそれを手にして円を描く。

 

 

「「フル♪フル♪リンクル━━♪」」

 

 

くる、くる、くるりと描き出された円は巨大な雫の形を(かたど)って天に浮かび、迫るヨクバールを照らし出した。

 

「━━ッ!?」

 

ヨクバールの真下に巨大な魔法陣が現れ、その動きを完全に封じ込める。

 

 

トンッ━━…

 

 

巨大な雫の上に降り立つ二人。そして静かに手を繋ぎあい、ヨクバールを見下ろした。

 

 

「「プリキュア…」」

 

 

二人がリンクルステッキを下に向けると巨大な雫が(こぼ)れ落ち、中から下にあるものと同様の巨大な魔法陣が現れる。

 

 

「「サファイア・スマーティッシュ!!」」

 

 

呪文と共に空中の魔法陣から噴き出した水の奔流(ほんりゅう)幾重(いくえ)にも重なってヨクバールを呑み込んだ。

 

 

「ヨ……ク……ッ!?」

 

 

水は光に変わり、ヨクバールを包み込むと同時に圧縮されていく━━━━

 

 

「バァ………ル━━…」

 

 

水面の上に降り立ったミラクルとマジカルがリンクルステッキを振り下ろすのを合図に、限界まで圧縮されたヨクバールが()ぜ、青き光の(もと)に浄化されていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「新たなる力……フッフッ…ますます面白くなってきたな……オボエテーロ!!」

 

プリキュアの力を目の当たりにしてなお、ガメッツは不敵に笑う。そして恒例の捨て台詞に聞こえる呪文を唱えて撤退していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━リンクルストーン・サファイア…それに……フフフ、これは思いの外いい退屈しのぎになりましたね」

 

ヨクバールが破壊していったものが修復されていく様子を眺めながら愉しそうに呟くマキナ。

 

「…では、またの機会に……」

 

誰に聞かせるでもなくそれだけ言い残すと、マキナは指を弾いて姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━修復された広場。そこにはみらいとリコとモフルン、それにロレッタ、そして少し離れたところにいる八幡の五人が集まっていた。

 

「これを…私達に?」

 

渡されたリンクルストーン・サファイアを手にみらいがロレッタを見つめる。

 

「ええ、このサファイアはあなた方が持つ運命なのよ」

 

そう言って微笑むロレッタにみらいとリコは一旦、顔を見合わせてから再び向き直った。

 

「「ありがとうございます!!」」

 

譲り受けたサファイアを握りしめ、二人は声を揃えてお礼の言葉を口にする。

 

 

 

「みらいちゃん!リコちゃん!」

 

そこへナンシー達がはしゃいだ様子で近付いてきた。

 

「二人が手を繋ぐとすっごく強くなるんだね!」

「「?」」

 

シシーの言葉に二人は疑問符を浮かべて首を傾げる。

 

「私達にも、外の世界にも」

「新しい友達ができるかな?」

「いつか空を泳いでその友達に会いに行けるかな?」

 

外の世界を怖がっていたはずのシシー達は希望と期待に胸を膨らませてみらい達に尋ねた。

 

「もちろん!」

「それにもう私達……」

 

その問いに二人は笑顔を浮かべ、少し離れたところにいる八幡へと視線を向ける。

 

「……友達…だろ?」

 

向けられた視線から意図を汲み取った八幡がプイッとそっぽを向いて答えた。

 

「「「…うんっ!!」」」

 

みらい達の答えにシシー、ドロシー、ナンシーの三人は満面の笑顔を咲かせる。

 

三人の笑顔からは人魚の里の現状を変えていく、そんな予感を感じさせた。

 

 

 

 

 

「おーいっ」

 

遠くの方から大声を出して駆けてくるジュン、その後ろにはアイザックにエミリーとケイの姿も見える。

 

「あんた達…良かった無事で、あの変な化物!それに青い光も……一体どうなったんだい?」

「「えっと……」」

 

矢継ぎ早に飛んでくるジュンの言葉に困った表情を浮かべる二人。

 

「モフー…」

「まぁ…あれだけ派手に暴れてたから仕方ない」

 

モフルンと八幡が疲れきった顔で諦めるように頷く。

 

「…さあ、それよりもレッスンの続きを」

「おおっそうでした!」

 

事情を知っているロレッタがそうやって話題を打ち切ってくれたおかげでそれ以上の追求はなんとか間逃れた。

 

「「「マール━━━♪」」」

 

補習授業を再開しようとしたアイザックの真横を通り抜けて三匹のマール貝がみらい、リコ、八幡の元へと飛んでくる。

 

「おっ?貝の口が開いておる!」

 

アイザックが驚いたように三人の肩に乗ったマール貝を見た。

 

「ええ、この三人は合格ですわ♪」

 

くすくすとロレッタが微笑み、合格を証明するスタンプが押される。

 

「よーし!あたい達も負けてらんないよ!!」

「おー!」

「お、おー!」

 

先んじて合格したみらい達に負けじと気合いを入れるジュン、ケイ、エミリーの三人。

 

そしてみらい達はいつの間にか合格していた事に戸惑いつつも、それぞれ嬉しそうに顔を見合わせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジュン達が課題に取り組む中、緊張した様子のエミリーが八幡の元に駆け寄ってくる。

 

「あ、あのっ八幡ひゃんっ!!」

 

八幡に話しかけようとしたエミリーは緊張のせいか呂律(ろれつ)が回らず、言葉を噛んでしまった。

 

「……何か用か?」

 

エミリーに配慮してそれを聞かなかった事にした八幡が尋ねる。

 

「えっと……ご、ごめんなさい!」

「…………何が?」

 

突然の謝罪に心当たりのない八幡は怪訝な表情で聞き返した。

 

「その……さっきの授業で…マール貝を……」

 

ぼそり、ぼそりと要領の得ない言葉だったが、八幡はエミリーが何の事を指しているのかはだいたいわかったらしい。

 

少し考えるようにして俯き、頭をガシガシとかいてから八幡はエミリーの方を向いた。

 

「…別に気にしてない。現に言われるまで忘れてたくらいだしな……それに庇ってもらったのはこっちの方だからそっちが謝る必要はないだろ」

 

なるべくエミリーが気にしないよう言葉に気をつけながら返す八幡。しかし、そんな八幡の考えとは裏腹にエミリーは浮かない表情を浮かべていた。

 

「まぁ……あれだ…あんまり気にするな」

 

これ以上自分が何を言ってもエミリーの気を悪くするだけだと思い、八幡はそれだけ言って足早にその場を離れようとする。

 

「ぁ……っ待ってください!」

 

意を決したエミリーが八幡の袖を掴んで呼び止めた。

 

「……何だ?」

 

まさか呼び止められるとは思っていなかったらしく、八幡は少し驚いた様子で振り返る。

 

すぅ…はー…わ、私は八幡さんの事を庇ったつもりはないんです」

「…え?」

 

エミリーから飛び出た予想外の言葉に八幡の口から思わずそんな声が(こぼ)れた。

 

「あ、あの時言ったことは全部、私の本当の気持ちなんですっ!魔法が上手で…優しくて……それに…その…か、カッコいいって言ったのも……と、とにかくそれだけ伝えたくて……えっと…うぅ…そ、それじゃっ」

 

言いたいこと…素直な自分の気持ちを一気に吐き出したエミリーは顔を真っ赤に染め、逃げるように課題に戻っていく。

 

「……誰だよ…それ」

 

走り去っていくエミリーの背中を見つめて八幡は呟いた。

 

魔法が上手に見えたのは、たまたま着眼点が違っただけ。優しくなんてないし、カッコいいというのも含めてそれはきっと美化されたイメージだ。

 

だから八幡はそれを額面(がくめん)通りに受け取らない……いや、受け取れない。

 

「………」

 

無言のまま上を見上げた八幡は、ふとリコの言葉を思い出した。

 

 

〝もっと自分を大切にして〟

 

 

……もしもまた同じような状況に(おちい)ったとしたらきっと八幡は迷わず同じ行動をとるだろう。

 

その次も、そのまた次も、何度だろうと。

 

 

比企谷八幡は変わらない。

 

 

━九話に続く━

 

 





次回予告


「次の補習はペガサスとの記念撮影ね」

「おぉ!ペガサスに会えるの?」

「そんなに簡単に見つからないわよ…それにまずちゃんと箒を乗りこなさないと」

「…誰かみたいに落ちると大変だからな」

「お、落ちてないし!…ってところ構わず暴走して激突する八幡には言われたくないわよ!」

「暴走?…ハッ、MAXコーヒー並みに甘いな……そんなものは……あれ?」

「見てなさい!キュアップ・ラパパ!箒よ、飛びなさい……あれ?」

「八くん、リコ、大丈夫?」

「ペガサス見つけたモフ」

「え…?」

「あ、二人とも見て見て!箒で飛べたよ!!」

「え…?」

「「えぇっ!!?」」





次回!魔法つかいプリキュア!やはり俺が魔法使いでプリキュアなのはまちがっている。

「魔法のほうきでGO!暴走再び?ペガサスの親子を救え!」





「キュアップ・ラパパ!今日もいい日になーれ!」
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