やはり俺が魔法使いでプリキュアなのはまちがっている。   作:乃木八

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第一話「出会いはミラクルでマジカル!甘いコーヒーと捻くれ者?魔法のプリキュア誕生!」プロローグ

 

春、それは出会いの季節。

 

入学、就職、進級、色々な事が変わっていく中で不安になったり、逆に期待を膨らませたり、人によって様々である。

 

津成木第一学校中等部に通う朝比奈 みらいはもうすぐ二年生になる女の子だ。新しい学年へ期待しながら春休みを満喫している。

 

そんなある日の夜、ふと窓を見ると綺麗な十六夜月が輝いていた。

 

「わぁ…大きなお月さまだねぇ」

 

部屋の中にはみらいの他にぬいぐるみのモフルンがソファの上でちょこんと座っている。

 

「ふぇ?」

 

大きな月の中に小さな紫の物体が一瞬見えた気がして窓を開けベランダから月をよくよく見てみると紫の物体が上へ下へ右から左へと動いている。

 

「おぉ…おっ…おー…おぉっ…おぉぉぉ!」

 

紫の物体が動くに連れて思わず声が出てしまうみらい。見ていると紫の物体が右へ左へとふらふらしながら徐々にしたに向かっていき森の方へガサッと音をたてながら消えた。

 

「落ちたっ!」

 

落ちた紫の物体の行方が気になって、上着を羽織り玄関に向かう。

 

「あーら、どこへお出掛けかしらぁ~?みらい」

「あぁ…」

 

お母さんに見つかってしまった!と思いながら苦笑いするみらい。

 

「ホントッホント!何かがさ空からぱぁって、クルクルって落ちてったんだよ!!」

「まぁ、それは大変」

「でしょ~!もうワクワクもんでしょ~!!」

 

お母さんの袖を引っ張って外に連れ出し、目を輝かせながら見たことを必死に伝えるとみらいと呆れながら答える母。

 

「あっ!お母さんも一緒に行く?」

「じゃあ今からお化粧直して準備を…なーんて、言うわけないでしょ」

「うぇ…あはは……デスヨネ~」

「春休みだからって夜更かしはダ~メ!」

 

ボケてからのお説教、ノリのいい母である。

 

「は~い」

 

そう返事するとみらいはお母さんと一緒に家の中に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、みらいが見ていた方向にある桜の木の上。

 

「はわわっ」

 

赤く唾の広いトンガリ帽子をかぶった少女が箒にまたがって桜の中から飛び出す。

 

ガサッ

 

「はうっ」

 

ザッ

 

「わっ」

 

バサッ

 

「きゃっ」

 

少女は空を飛びながら桜の中に突っ込んでは出て来て、また突っ込んで、飛び出し何度もバウンドを繰り返していた。

 

「たぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

一際強く桜の中に突っ込んだかと思うとそのまま墜落する。このまま落ちれば大ケガをしてしまうのだが、少女は無我夢中で手を伸ばし、奇跡的に枝を掴んだ。

 

「ほっ…ふぅ……着陸成功ね」

 

冷や汗をかきつつもどや顔でそんなことを呟く少女。

 

「ニャーン」

 

木の上にいた猫がどや顔の少女の隣で鳴く。

 

「んっんん、何か?」

 

咳払いし、野良猫に向かって何か?と聞く、正直それは野良猫のセリフだろう。

 

「ねらい通りだから、私、落ちてないしぃぃぃっ―!?」

 

そう言い終わる前に重さに耐えきれなくなった枝がバキリと折れる。

 

ドシンッと音が響き、桜が舞う。その後、

 

「ニャン?」

 

と猫が鳴いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月が一際大きく見える夜、比企谷 八幡は桜が舞う中を歩いていた。月に照らされる夜桜は幻想的ではあるが、別に八幡はそれを見るために夜道を歩いている訳ではない。

 

そもそも比企谷 八幡は必要最低限の外出しかしない。

今だって風呂上がりに愛飲しているMAXコーヒーを飲もうとしたらストックが切れていることに気付き、コンビニに買いに出た帰りだ。

 

本当は明日でもいいか、とも思ったが愛する妹に「小町、アイスが食べたいな♪」と言われてしまったのでしかたがない。

 

「ふぅ…まさか、MAXコーヒーのストックを見誤るなんてな」

 

(確かに昨日みた時はストックがあった筈なんだが…無意識に自分で飲んだのか?…MAXコーヒーの中毒性ならあり得る)

 

そんなことを考えていると風が吹いて桜の花びらが大きく揺れ、ふと足が止まる。

 

「春…か」

 

この春休みが終われば八幡は高校二年生になるがあまり実感がない。それというのも八幡は高校一年の約半分を病院のベッドで過ごしたからである。

 

入学式の日に交通事故にあって即入院、10月の中頃まで登校出来なかった。それでも医者が言うにはこの程度で済んだのは奇跡らしく、本来ならあのスピードで突っ込んできたトラックに激突されたら即死だそうだ。

 

医者曰く、衝撃が()()()()()()()()()きれいに分散されて致命傷を回避していたと。

…それでもあちこちの骨が折れたりしていて重症なのだが。

 

「まあ、学年が変わろうとも俺がボッチなのは変わらないだろうな」

 

事故で大幅に出遅れ、登校した時にはすでに人間関係は出来上がっているためそんな中には混ざれない。すなわち、高校でもボッチだ。

 

もっとも、事故が無かったとしてもボッチにはなっていただろうし、それでも後ろ指を指されながら過ごした中学時代よりはマシだろう。

 

「ん?」

 

ふいに音が聞こえ、思考が中断される。

 

ガサッ━はぅ、ザッ━わ、━━━━━━━━━━

 

何か桜が揺れる音の後に短い悲鳴が聞こえる。音が段々と近くなり、音の出所が目で見える。

 

「なんだ…あれ?」

 

簡潔にいうなら、箒にまたがった少女が桜の上でバウンドしている…だ。正直、八幡は自分の目が腐るだけでなくいよいよもっておかしくなったのではないかと思う光景だ。

 

まず、こんな夜道に箒にまたがった少女がいる時点でおかしいのに、まして空を飛んでいるなんてありえないだろう。

 

「…夢…か?」

 

これが夢なら箒で空を飛ぼうが、桜の上でバウンドしようが夢オチで片付くのだか、それにしては妙にリアル感がある。

 

ガサッ…たぁぁぁぁぁぁっ!?

 

近くで気合いの入った叫び声?が聞こえ少女が桜の木に墜落した。墜落といっても間一髪、少女は地面には落ちていないようでカランと箒が落ちる音だけが響いた。

 

このまま歩けば少女と鉢合わせてしまうだろう。

 

(…なんとなくだが、関わると面倒なことになる気がする、ここはスルーして帰ろう。家で愛する妹が待ってるからな…アイスを)

 

心の中で誰に聞かせるでもない言い訳を並べてその場を立ち去ろうとするも、何故か足が動かない。

 

「別に俺が出ていかなくてもきっとなんとかなるだろ」

 

そう声に出しても、あのままだと少女は結構な高さから落ち怪我をするんじゃないか?当たりどころが悪ければ、もしもの事があるんじゃないか?そんな考えが頭を過ってしまう。

 

そもそも、少女が怪我をしようが何しようが赤の他人のことで八幡には関係ない、多少罪悪感を覚えてもそれで終わりのはずだ。八幡は困っている人を誰でも助けるような気概は持ち合わせていないのだから。

 

「………はぁ」

 

ため息を吐き、八幡は少女が落ちたであろう方へ向かって駆け出す。結局、どれだけ言い訳を重ねても八幡は少女をほっとけなかったのだ。

 

 

――少女はすぐに見つかった。近いと思っていたが本当に目と鼻の先にある桜の枝に引っ掛かっているのが見えた。

近づくにつれて少女の声が聞こえてくる、無事だったようで安心したのも束の間、少女が掴まっていた枝がばきりと音を立てて折れ、少女と共に落ちるのが見えた。

 

「くそっ!」

 

(この距離からじゃ間に合わないっっ)

 

頭で無理だと分かっていても思いっきり地面をけって走る。何故こんなに必死なのかは自分でもわからない。

 

(間に合えっ間に合えっ間に合っ!?)

 

一瞬目の前が光ったかと思うと上から、しぃぃぃぃぃという絶叫が聞こえてくると同時に少女が落ちてきた。

 

「は?」

 

状況が理解できないまま、とにかく少女を受け止めようとするも角度が悪く、落下の勢いもあったため支えきれずに体ごと倒れてしまう。

 

ドシンッッッと音が響き、桜の花びらが舞って、ニャン?と猫が首をかしげる。

 

「あいたた~っ」

「っうぅぅ…」

 

八幡がクッションになったおかげで少女は軽症ですんだようだ、無論、クッションなった八幡はそれなりのダメージをくらったが。

 

「にっ二度目の着陸成功ねっ…ねらい通りなんだから!」

「…一体誰に言い訳してんだよ」

「ひっ!?」

 

…短い悲鳴をあげられてしまった、いやまあ、いきなりこんな目の腐った男に話しかけてきてそれが自分の下敷きになっていたらそう言いたくなるのも分かりますよ?

でも、そんなゾンビと遭遇したみたいな顔しなくてもいいんじゃないですかね。

 

「…とりあえずどいてくれるか?」

「へ?あっごごごめんなさい!」

 

少女の反応に傷つくも、ある意味よくあることだと割りきる。

 

「ふぅ…」

 

体のあちこちが痛むがなんとか立ち上がり、服についた埃を払うと思わずため息が出てきた。

 

「あっあの…あなたは?」

「えっあー…」

 

なんといえばいいのか、助けるのに夢中で後の事を考えていなかった八幡は返答に困る。

 

「ただの通りすがりの高校生だ、気にしなくていい」

「え?えーと…」

 

今度は少女が返答に困る、デスヨネーただの通りすがりの高校生って何の説明にもなってないし、なんなら怪しすぎるまである。

 

八幡としては面倒なことになる前に早く帰りたいので困惑しているうちにこの場を去ろうと、踵を返し歩きだした。

 

「ちょっ待ちなさい!あっいや待ってください!」

 

まさかの呼び止められた、もしかして通報されるのだろうか?そしてお巡りさんに夜道を歩いていたら箒で空飛ぶ少女が現れてその下敷きになりましたと、…説明した瞬間、不審者扱いされてアウトだな。

 

「なんだ?」

 

内心ビクビクしながら立ち止まり振り替えると、月明かりに照らされて少女の姿がはっきり見えた。

紫色の髪を後ろで結っていて前髪はぱっつんと切り揃えられ、マゼンタの瞳がこちらを不安そうに見ている。

 

「ごめんなさい!」

「はい?」

 

呼び止められ何事かと思ったら突然謝られた。何に対してなのか図りかねていると、少女が続ける。

 

「その…下敷きにしてしまってごめんなさい、それにひって言ってしまってごめんなさい」

 

八幡にとっては予想外だった。言ってしまえば下敷きになったのは八幡が突っ込んだからだし、目の腐った男が下にいたらそんな声が出てしまうのもしかたないだろう。

 

「いや、別に気にしてない。それに下敷きになったのは自業自得だし謝られることじゃない」

「自業…?よく分からないけれど、もしかして私が怪我をしないように下敷きに?」

 

少女は八幡がたまたま下を歩いていて下敷きになったと思っていたが、八幡の様子と少し離れたところに落ちている袋をみて思い違いに気付く。

 

「別に…たまたまだ」

 

八幡はそう言うとそっぽを向いて少女から視線をそらした。そのようすがなんだか少しおかしくて少女から思わず笑みがこぼれる。

 

「ふふっ」

「何だよ?」

 

少女が笑うと中学時代の影響か、自分が嘲笑われているように聞こえて少し声が険しくなってしまった。

 

「あ、ごめんなさいっ!その、なんだか捻くれてるなぁ思ったらつい」

「…捻くれていて悪かったな」

 

八幡がそう返すと少女はまた小さく笑う。

その笑顔は何故か印象的にうつった。もしかすると、八幡が今まで見てきた嘘や欺瞞に満ちた笑顔とは違う本物の笑顔に見えたからだろうか。

 

「その、助けてくれてありがとう。私はリコ、あなたは?」

「…比企谷 八幡だ。別に礼を言われるような事はしてない」

 

そういうと少女…リコは首を横に振って答える。

 

「いいえ、もし八幡さんが下にいてくれなかったら私は無事ではなかったと思う。箒が先に落ちて魔法で飛ぶことも出来なかったから」

「………」

 

いきなり名前で呼ばれるのにも驚いたが、それ以上に()()と普通に口にしたことに驚いた。

ラノベや漫画なんかだと一般人に魔法を知られるのはNGだから見なかった事にした方がいいかと思ってスルーしていたのにまさか自分から言うとは思わなかったからだ。

 

もしかしたら現実ではそんな規則は無いのかもしれない。現実なのに魔法とは変な感じだが…もし規則があったとしたらうっかりにも程があるだろう。

 

「八幡さん?」

「…なんでもない。特に怪我もないみたいだし、俺は帰る。じゃあな」

 

魔法の事には触れずに逃げるようにその場を去ろうとした。聞いてしまえば引き返せない気がしたからか、それともこの少女、リコの悪意のない笑顔が怖かったからなのかはわからない。

 

「あっちょっと待っ‥」

 

ぐぎゅるるるぅぅ~

 

去ろうとした八幡を引き留めようとリコが慌ててかけた声は途中、大きな音に遮られた。

 

「は?」

 

あまりに大きな音だったので驚いて思わず振り替えると顔を真っ赤したリコが視界に入る。

 

「………」

「………」

 

一瞬、お互いに気まずい沈黙がながれその場を静寂が支配した。

 

「お腹空いたのか?」

「べっ別に空いてないし!きちんと食べたんだか―ぐぎゅるるぅ」

 

話している途中で再びリコのお腹が鳴った。

 

「…はぁ」

 

八幡は短くため息をつくと少し離れたところに落ちている買い物袋を拾い、中からコンビニのおにぎりを取り出してリコに差し出す。

 

「ほら、やる」

「え?でも…」

「いいから、夜食用に買っただけだし遠慮はすんな」

 

俺はあんまり腹減ってないし、と付け加えおにぎりをリコに渡すとそのおにぎりを物珍しそうにみていた。

 

まさか見たことないわけないだろうし、あれか、目の腐った怪しい男からもらったから警戒してるとかかな?そうだったら八幡泣いちゃう!とまあ冗談はおいといて、

 

「どした、食べないのか?」

「えぇっと、これはどうやっ…あっ、いや、別にお腹減ってないし!」ぐぎゅるる~

「…もしかして開け方がわかんないのか?」

 

図星だったようでギクッとなるリコ。

 

「わっ分かるし!見てなさい!!」

 

そういうとリコはポケットから先端に星がついた杖?を取り出すとおにぎりに向け呪文を唱える。

 

「キュアップ・ラパパ!おにぎりの袋よ、開きなさい!」

 

すると、杖が光っておにぎりの包装フィルムが……おにぎりごと真っ二つになっていた。

 

いや確かに開いたけど、魔法ってこんなことに使っていいのかよ…それにおにぎりごと真っ二つとか完全に失敗じゃねぇか。

 

「………」

「ねっねらい通りだし!失敗なんかしてないんだから!」

「…俺、なにも言ってないんだけど?」

 

まあ、確かに残念なものを見る目を向けていたが、自分で失敗してないとかいうあたり自覚はあるのだろう。

 

「本当に失敗じゃないし!食べやすいように二つにしただけだもん!」

 

頑なに失敗を認めないが食べやすいように二つにしたと言われても、包装してあるフィルムごと真っ二つになっているので引っ掛かって取り出しづらくむしろ食べづらいだろう。

 

案の定、おにぎりを取り出そうとして四苦八苦しているので、見かねてコンビニの袋からもうひとつおにぎりを取り出しフィルムを剥がしてリコに渡す。

 

「へ?これ…」

「こっちをやるから、そっちはもらうぞ」

 

そう言って失敗した方と今フィルムを剥がした方を交換した。

正直、あまり腹は減っていないが食べ物を粗末にするわけにもいかないので失敗したおにぎりは後で食べるとしよう。

 

「…ありがとう、いただきます」

 

余程お腹が空いていたのだろう、お礼をいうと夢中でおにぎりを食べ始めたリコ。

 

「おい、そんなに急いで食べると―」

「ん?むぐぅぅっ!?」

 

喉に詰まるぞと言おうとした矢先、リコは苦しそうに胸をトントン叩く。

 

「言わんこっちゃないな、まったく」

 

コンビニの袋から飲み物を取り出し、プルタブを開けてリコに渡してやる。

 

「んくっんぅん~ぷはっ甘っ!?」

 

どうにかおにぎりを流し込んだのも束の間、思わぬ甘さに驚いたようでまじまじと缶を見つめている。

それもそのはず、リコに渡したのはMAXコーヒー、通称マッ缶。その強烈な甘さはもはや飲み物を通り越してスイーツといっても過言ではないだろう。最初こそ甘さに驚くが段々とその甘さが癖になり中毒者を生むのだ。そもそも……

 

頭の中でマッ缶について考えていたら止まらなくなるところだった、マッ缶の中毒性恐るべし…。

 

「この飲み物は一体…?」

「MAXコーヒーだ」

「MAX…コーヒー?でもコーヒーって苦いものじゃ―」

「人生は苦いから、コーヒーくらいは甘くていい」

「………」

 

一瞬、痛い沈黙が場を支配し、リコが何言ってるのと言いたげな視線を向けてきた。

 

「まあ、あれだ、MAXコーヒーの甘さは苦い人生のオアシスってことだな」

「ますます意味がわからないわよ」

 

ため息混じりでそういうとリコはマッ缶をもう一口飲んでふぅと息を吐く。

 

「でも、この甘さはクセになりそうね」

「だろ?」

 

フッ、また一人マッ缶の虜にしてやったぞ!と言っても広める相手とかいないから一人目だけどな。

 

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

「ごちそうさまでした」

 

おにぎりを食べ終わり、マッ缶を飲み干したリコは律儀に手を合わせて食後の挨拶をする。

 

「お粗末様でした?」

 

リコに合わせてそう言うものの、コンビニのおにぎりだし、俺が作った訳でもないのだから釈然としない。

 

「ふふっ何で疑問形なの?」

「別に俺が作った訳じゃないからな、そう言っていいのかと思っただけだ」

 

変なのと笑うリコに何故か思わず目を逸らしてしまう。それを誤魔化すように話題を変えた。

 

「そういえば、何でこんな時間に出歩いてたんだ?」

 

誤魔化すためとはいえこの質問は悪手だったと思う。面倒なことになりそうだから極力関わらないようにしたのに自分から首を突っ込むような質問をしてしまったのだから。

 

「それは…」

「…別に言いづらいなら無理に言わなくてもいいぞ」

 

誤魔化すために聞いただけだしなと心の中で付け加える。

 

「いえ、大丈夫よ、私はあるものを探すためにこのナシマホウ界にきたの」

 

探し物か、それにしてもナシマホウ界ねぇ…魔法がないからナシマホウってことなら…リコがいた世界はさしずめマホウ界といったところか。

 

「そうか、まあ、頑張れよ」

「へ?えーと…聞かないの?」

 

何を?とは言うまでもないだろう、そのあるものが何だろうと俺が手伝えるとも思えないし、何より手伝う理由もない。

 

「別に、俺はただ出歩いてた理由を聞いただけだ。それ以上の事は聞かない」

「そう…」

 

もしこれが物語の世界の話なら魔法使いと出会った主人公が頼まれずとも一緒に探し物を見つけ、そこから色々始まるのだろう。

しかし、これは現実で俺はただのボッチな高校生だ。魔法なんて非現実にもご都合主義にもついていけないし関わる気もない。

 

「…それじゃあ俺はそろそろ帰るわ」

「えっ…ええ、その、色々ありがとう」

「大したことはしてないから気にしなくていい」

「そういう訳には……」

 

リコが俯いてしまいそこで会話が途切れる。

 

少しの沈黙の後、八幡はくるりと後ろを向き歩き出そうとする、俯いたままのリコを残して。

 

リコ自身、何故自分が俯いているのかわからない。親切にしてもらったのに十分にお礼ができないから?違う、話を聞いてもらえないから?違う、そもそも色々助けてもらったからといって初対面の相手に言うような話でもない。

そう考えると初対面なのにどうしてあんなに話せたんだろう?自分は人付き合いが苦手なのに。

 

理由のわからないまま俯いている間にも八幡は帰ろうと足を進めている、わからないけれど何か言わないといけない気がしてそう思ったら声が出ていた。

 

「あっあのっ!」

 

再び帰り際で呼び止められた八幡は少し驚き足を止め振り返る。

 

「…なんだ?」

「えっと…その、」

 

言葉がでてこない、何をいえばいいのかわからない、けれど何か、何か言わないと…。

 

「MAXコーヒー!」

「は?」

「MAXコーヒー、甘くて美味しかった!」

「そっそうか、それは良かったな」

 

呼び止められたかと思ったら突然マッ缶の味の感想を言われて戸惑う八幡。

 

「だから、ごちそうさまっそれとありがとう!!」

 

それだけ言うとリコは満面の笑みを浮かべ手を振って見送る、よく分からないけれど多分これでいい。

 

「……おう」

 

軽く手をあげて短く返事をすると再び背を向け比企谷八幡は歩き出す。きっと少女には二度と会うことはないだろうと思いながら。

 

 

 

 

 

十六夜に不思議なものを見てワクワクなみらい。

 

何かを探しにナシマホウ界にやって来たリコ。

 

奇妙な少女に出会った八幡。

 

まさか今夜の出来事がすべての始まりになるなんてこの時の3人には思いもよらなかった。

 

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