やはり俺が魔法使いでプリキュアなのはまちがっている。   作:乃木八

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第十話「さよなら魔法界!?みらいとリコと八幡……それぞれの最終テスト!」Aパート

 

マホウ界の夜。自室で羽ペンを走らせていた校長の手元を青白い三日月の光が照らす。

 

「…いよいよ明日は最後の補習ですわね」

 

校長と向かい合うように置かれた魔法の水晶…キャシーが静かに呟いた。

 

「ああ…」

 

手を止め、窓の外を物憂(ものう)げに見つめながらそう返事をする校長。それはキャシーの言う最後の意味を考えていたからだろう。

 

「補習が終わればあの三人は……」

 

どうにもその先を言葉にしてしまうのは(はばか)られ、校長とキャシーは黙り込んでしまった。

 

━━━コンコン

 

静まり返った部屋にノックの音が響き、校長とキャシーは怪訝(けげん)な表情を浮かべる。

 

「こんな時間に誰でしょう…?」

「…開いている。自由に入ってくれ」

 

まだ真夜中という程ではないが、人の部屋を訪れるにはだいぶ遅い時間だ。少し非常識な訪問者のノックに校長は少し警戒した様子で返事を返した。

 

「……失礼します」

「貴方は…」

 

入ってきたその人物を見てキャシーが僅かに驚いたような反応を見せる。

 

「校長先生にお話があります」

 

扉を開けて入ってきたその人物…比企谷八幡は校長の方を真っ直ぐ見据えて口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

━━みらいが寝泊まりしている部屋。室内は静まり返り、モフルンの寝息だけが聞こえてくる。

 

「………」

 

そんな中でみらいは窓際の椅子に腰を掛けて今日の課題で描いた写真を眺めていた。

 

「……ふふ」

 

笑顔で並んでいるペガサスの親子にピースをしながらその両隣で笑っている自分とリコ。そして少し離れたところでそっぽを向いている八幡……この写真は力を合わせて課題をクリアした証であると同時に大切な思い出だ。

 

「………うん」

 

明日が最後の課題…合格でも不合格でも明日で終わり。なら最後まで……そんな想いを胸に秘めたみらいは窓の外に目を向けて一人、なにかを決意したように頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━君の話はわかった。だが……」

 

訪ねてきた八幡の()()()()を聞いた校長は難しい顔をしていた。八幡の提案は多少驚かされたものの、変な話ではない。

 

しかし、それは可能性の話。魔法学校の校長として不確定なままおいそれとその提案を呑むわけにはいかず、反対しようとしたその時、魔法の水晶であるキャシーが何かを感じ取った様子で光り始めた。

 

「なんじゃ…?」

 

何事かと校長が尋ねるとキャシーは戸惑ったように答える。

 

「リンクルストーンの兆しが……」

「なんと……!?」

「………」

 

キャシーが告げた占いの結果は本人を含め、その場にいた三人に衝撃を与えるものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日の朝、補習を受ける生徒達はいつもの教室に集まっていた。

 

「聞いて聞いて!私、今日一つも忘れ物しなかったの!!」

 

開口一番、みんなの前に立ったケイが嬉しそうに告げる。

 

「ケイが…?」

「ホントかよ…!?」

 

ケイの忘れ物の多さを知っているエミリーとジュンが信じられないと言わんばかりに驚いた。

 

「…忘れ物がなかった事がそこまで驚くことか……?」

「だ、だってケイは試験当日に肝心の杖と箒を忘れたから補習を受けてるんですよ?それくらい忘れ物がひどかったのに…」

 

エミリーが八幡の言葉に驚いた理由を口にする。毎日何かしら忘れ物をしていたケイが一つも忘れ物していないというのは二人にとってはそれほどまでに驚く事だったらしい。

 

「…って本当はみらいのおかげなんだけどね~」

「「え?」」

 

再び驚くジュンとエミリーに向けて、テヘッと小さく舌を出したケイは手に持っている丸めた紙を広げて見せる。

 

「忘れ物をしないようにってみらいが描いてくれたこの絵をドアに貼っておいたら……ちゃんと持ち物全部(そろ)えられたんだ」

 

とはいえ出発しようとする度にあれがないこれがないと行ったり来たりするのはあれなので、根本的にいつかは自分で忘れないようにしなければならない。

 

「ほーん……確かにそこに貼っておけば必ず目に入るな…」

 

なるほどと八幡は頷いた。これなら忘れ物することはないまずないし、続けていく内にケイが自分で忘れ物に気づくようになるだろう。

 

「でしょでしょ~!…だからありがとうみらい。二年生になってもこれ大切にするね!」

「あっいやぁ~」

 

素直なお礼の言葉にみらいは少し照れたような笑顔を浮かべた。

 

「二年生かぁ……」

 

ケイの口から出たその言葉にエミリーが思いを()せて呟く。

 

「もうすぐ春休みは終わりだけど…二人は?」

「ぁ…」

 

ふと気になったのか、みらいと八幡にそんな事を尋ねるエミリー。そしてそれに反応してみらいの隣で浮かない表情のリコが小さく声を洩らした。

 

「うん!向こうの学校が始まるよ」

「「えっ!?」」

「…元々春休みの間だけって話だったからな」

 

視界の端に浮かない表情のリコを気にしながら八幡はみらいの返答を補足する。

 

「それじゃあもう帰っちゃうのかよ!?」

「うん!」

「ああ」

 

ジュンの問いかけにみらいは笑顔で、八幡はそのままの表情で答えた。

 

「「えーっ!」」

「やっぱりぃ……」

 

残念そうにケイとジュンが声を上げ、エミリーが大声で泣き始める。おそらく三人の反応からしてみらいと八幡がこれからも魔法学校に通うと思っていたのかもしれない。

 

「はー…ぅぅぇぇ……」

 

エミリーに感化されたのか、モフルンと遊んでいたはーちゃんも一緒に泣き出して教室に二人の泣き声が響く。

 

「モフモフ」

「泣かないでエミリー」

「だってぇ…」

 

はーちゃんの頭をよしよしとなでて(なだ)めるモフルン。そしてみらいはエミリーに優しく笑いかける。

 

「みんなとはいつでも会えるじゃない。カタツムリニアに乗って…びゅーっと遊びに来ちゃうから!ねえ?リコ」

「あっ…え…ええ……」

 

暗い雰囲気を払拭するようにみらいは明るく振る舞うが、声をかけられたリコはどこか歯切れが悪くそのまま俯いてしまった。

 

(…いつでも…か)

 

その様子を見て八幡はふと考えてしまう。

 

━━果たしてそんな気軽に行き来できるのか?

 

━━出来るのだとしても許可が降りるのだろうか?

 

━━物理的に空いてしまった距離に今のような関係は続くのだろうか?

 

「………」

 

思い浮かんでしまったその疑問を口に出すのは(はばか)られ、八幡はそのままそれを呑み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キュアップ・ラパパ!花よ、咲け!」

 

帽子についている花の蕾に向けてアイザックが魔法をかける。

 

「ギャァァァァッ!!!」

 

魔法をかけられた花はパッと開花して、いきなり叫び声を上げたかと思うとあっという間に(しお)れてしまった。

 

「この花は魔法を感じると驚いたように咲くビックリ花です」

「ビックリ花……」

 

謎の習性を持つビックリ花に八幡は〝生態もあれだが名前の方が気になる…カタツムリニアといい、マホウ界ってそういうのばっかなの?〟と心の中で呟く。

 

「今日はいよいよ最後の補習。この花を使って試験を行います」

「その花を…?」

「一体どんな試験だろう?」

 

魔法を感じると叫び声ながら咲く花、そんなもので一体どんな試験を行うのか?全員がアイザックの言葉を待った。

 

「さて、その内容は………ずばり!先生との魔法対決です」

「「「「「えぇぇぇっ!?」」」」」

 

思わぬ試験内容に八幡以外の五人が驚き声を上げる。ビックリ花の説明からいきなり先生との魔法対決と言われれば驚くのも無理はないかもしれない。

 

「よろしいかな?ルールは簡単。君達は六人で一つのチームになり、帽子に付けた自分の花を守りながら誰か一人でも先生の花を咲かせる事が出来たら全員合格。晴れて二年生になることができます」

 

わかりやすいようアイザックは黒板に魔法で絵を描きながら説明しているが、要約すると箒を移動手段として行う一人対六人の魔法合戦だ。

 

チームワーク、魔法の発想とコントロール、箒の操作技術…おそらく今までの補習授業で学んできた事を全て発揮させるための形式なのだろう。

 

「私達の花が咲いたらどうなるんですか?」

「その時は退場。そしてもしも六人全員が退場となったらその時点で…落第決定です」

「「「「っ………」」」」

 

アイザックの口から出た落第という言葉にみらいと八幡を除く四人が息を呑む。

 

「…逆に一人でも先生の花を咲かすことが出来れば合格ならこっち……生徒側の方が有利すぎるんじゃないですか?」

 

いくら魔法学校の教師とはいえアイザック先生はご高齢…魔法の絨毯を操縦する姿は見たことあるが箒に乗って魔法を回避したりするほどの機動に身体がついていけるとは思えない。

 

それに対し生徒側は技術が(つたな)いとはいえ箒に乗って飛び回れる六人、加えて八幡の箒が速度で飛び抜けている上に前回の補習である程度コントロールできるようになっているのでそれも含めてあまりに有利すぎる。

 

「言われてみれば確かに…」

「六人もいるならなんとかなるかも…」

 

ジュンとケイも自分達の有利に気付いたようで互いに顔を見合わせた。

 

「ふむ、八幡君の意見はもっともですが…その心配には及びません。()()()()()()()()()()()を紹介しましょう」

「「「「「「え?」」」」」」

 

思わぬ一言に全員の口からそんな言葉が漏れる。相手になる先生方…つまり最終試験の相手はアイザック先生ではないということだ。

 

━━カチャ…

 

教室の後ろでドアが開き、誰かがゆっくりと歩いてくる。

 

「「リズ先生!」」

 

声を揃えて驚くジュンとケイ。そしてその人物…リコの姉であり、教育実習生でもあるリズは優しく微笑んだ。

 

「みんなに合格してほしいけど、手加減はしませんよ?よろしくね」

 

教卓の前まで来たリズは生徒の方を向いてにっこりと笑う。

 

「よりによってお姉ちゃんが相手だなんて……」

 

進級がかかった大事な試験、その相手が自らの姉で優秀な魔法使いのリズ、二重のプレッシャーがリコを(さいな)んだ。

 

「いや…それだけじゃない。さっきアイザック先生は先生方って言ったはず……」

 

 

「その通~り!」

 

 

━━ボフンッ

 

 

教室内に大きな声が響き、突如として煙がもくもくと巻き起こる。

 

「ケホッ…な、何…?」

「ちょっと煙がすごくて何も見えないよ~」

 

最初の補習授業でアイザックが煙と共に現れていた時と同じく誰かが魔法で移動してきたのだろうが煙の量が尋常ではない。

 

「ケホッ…もうっキュアップ・ラパパ!煙よ、晴れなさい!」

 

このままでは授業ならないと判断したリズが魔法で教室内の煙を全て吹き飛ばした。

 

「ケホッケホッ……いや~ちょっとやり過ぎちゃった」

「えっ」

「あっ」

「なっ」

 

いつの間にかリズの隣に立っていた人物を見てみらい、八幡、リコの三人が驚いたように声を上げる。

 

「え…誰?」

「見たことないけど…」

「新しい先生…?」

 

みらい達とは打って変わってジュン、ケイ、エミリーの三人は見知らぬ人物の登場に困惑して首を(かし)げた。

 

「む…そっか、はじめましての人もいるからまずは自己紹介。こほん…私はアネット!ここの卒業生で今は魔法商店街で魔法の雑貨店を経営してます。よろしくね!」

 

はた迷惑な煙を起こした張本人、魔法のインテリア雑貨店の店主アネットが自己紹介と共にウィンクを決める。

 

「「「え?アネットさんってあの伝説の…!?」」」

 

アネットの名前を聞いた途端にジュン達三人は驚き混じりで声を揃えて同じ事を口にした。

 

「あ、やっぱりアネットさんの伝説って有名なんだ?」

「……名前を聞いて真っ先に…それも声を揃えて出てくるくらいだからな…」

 

ジュン達の反応にみらいと八幡が伝説の知名度を再認識し、当の本人であるアネットはピキリと固まってしまう。

 

「と、ところでどうしてアネットさんが?」

 

何とも言えない空気に耐えきれず、不安でいっぱいいっぱいだったはずのリコがその不安を棚上げにしてまで尋ねた。

 

「…えっ、あ、うん。えっと…実は私、お店をやりながら魔法学校の教員資格を取るために勉強してるの」

「教員資格って…リズ先生みたいに?」

 

その答えにそう聞き返すみらい。すでに魔法のインテリア雑貨店を経営しているアネットがどうして教員資格の勉強をしているのかと首を傾げる。

 

「うん。まあ、リズに比べてだいぶ遅れてるんだけどね」

「それはアネットがお店の経営と同時に勉強してるからでしょう?本当ならもっと早く教育実習までいけるはずだったのに…」

 

苦笑いのアネットにリズが少し口を尖らせたように呟く。その言葉には一緒に教育実習をやりたかったという意味が含まれていた。

 

「そんな事ないよ。お店をやってなくても私、筆記試験が苦手だったから変わらなかったと思う」

「…そういえば昔から苦手だったわね」

 

アネットの実技の成績は良かったが、筆記試験の方は昔からリズがノートを貸したり勉強を教えたりして何とかクリアしていた事を思い出す。

 

「そ、むしろお店の空いた時間に集中してやったからこそ教員資格の筆記試験に合格出来たのかもね」

 

軽い口調でアネットは言うが経営と勉強の両立…それが難しい事なのは誰が見ても明らかだ。ましてや筆記試験が苦手らしいアネットには尚更大変だっただろう。

 

「とにかく!やっとリズと一緒に教育実習できるんだから今日は張り切っていくよ~!」

 

少ししんみりしてしまった空気を振り払うようにアネットは元気よく声を出しながら拳を高く突き上げた。

 

「ふふっ、私もアネットと一緒に出来るのは嬉しいわ。でもこの試験はあの子達の進級に関わるのだから真剣に、ね?」

「もちろん!私もリズと同じく手加減はしないよ~」

 

そう言ってアネットはみらい達の方を向き、笑みを浮かべる。

 

「お姉ちゃんだけじゃなくてアネットさんも相手だなんて……」

 

リズだけではなく在学中に数々の伝説を残したアネットも相手取らなければならない、その事実が再びプレッシャーとなってリコに重くのしかかった。

 

「ホント!強敵だね~…」

「っ………」

 

リコの方を向いて少し困ったように…それでいて明るく振る舞うみらい。試験だけではなくそんなみらいの様子もまた、リコが表情を曇らせる要因の一つになっていた。

 

「よ~し…みんな頑張ろう!」

「「「うん!」」」

 

それを知るよしもないみらいはこれから始まる試験に向けてジュン達と一緒に気合いを入れている。

 

「……そういえばアネットさ…先生は今でも箒に乗るのは得意なんですか?」

 

しばらく黙ったままだった八幡が突然そんな事を聞き始めた。伝説の中で非公式ながらも生徒自由参加のレースで優勝しているとは聞いたがそれはあくまで学生時代の話。今も腕が落ちてないとは限らない。

 

「フッフッフ、良い質問だね八幡君。ならその問いにはこう答えようかな━━━私が呼ばれたのは君対策でもあるんだよ?」

 

不敵な笑みを浮かべたアネットは八幡の方を見つめて片目を(つむ)った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━チャポッ━━シュウウウッ━━

 

毒々しい液体が詰まった壺に骨が投げ入れられたかと思えば、そこから音をたてて赤い煙が立ち昇る。

 

「んー…やはり……」

 

立ち昇った煙を見つめてトカゲ男━━闇の魔法使いヤモーは得心がいったように頷いていた。

 

「ドクロクシー様。リンクルストーンの目覚めの兆し…日に日に強くなってきております━━特にかの力はより強く…」

 

石造りの階段。その先の玉座とも表現すべき椅子に腰を掛ける闇の魔法使い達の主、ドクロクシーに向けてヤモーは占いの結果を報告する。

 

「━━流石はヤモーさん。占いは正確……でも本命を外してばかりの失敗続きですけど」

 

柱の陰からヤモーの報告に割り込んだのは数日前まで魔法学校に潜入していたマキナことマンティナだ。

 

「おや、マンティナさん。私の占いに何かを文句でもあるんですか?」

 

マキナの発言をそう受け取ったヤモーが少し怒気を込めて尋ねる。

 

「まさか。ヤモーさんの占いに文句なんてありませんよ。ただ、本命ではないにしろリンクルストーンが相手方の手に渡った事で何度も負け帰っているのはどうなのかな?と思っただけです」

 

向けられた怒気を何事もなかったように流して答えるマキナ。その返答を要約すると〝占いに文句はないがそれを元に失敗した者達を言外に責めている〟といったところか。

 

「チッ…喧嘩を売ってんのかい?マンティナ!」

 

舌打ちと共に語気を荒げたのは前回の戦闘でも負け帰っているクモ女…スパルダだった。

 

「あら?私は特に誰とは言ってませんけど…ああ、自覚があったんですね。負け続きのスパルダさん?」

「っ!!」

 

口元に手を当てて忍び笑いをしているマキナを睨みつけたスパルダはギリギリと音が聞こえるほど歯噛みする。もしこの場が主たるドクロクシーの前でなければマキナに襲い掛かっていたかもしれない。

 

「…確かに負け続きの身には耳の痛い言葉だ。事実である以上、これが現状の評価だと受け止める他あるまい」

 

スパルダの隣にいる筋骨隆々の大男ガメッツが瞑目して呟く。敗北を事実として受け止め、静かに闘志を燃やすその様はまさしく武人といえる。

 

「フフ、この程度の言葉で心を乱すのはやはりスパルダさんだけですね。ガメッツさんの落ち着きを見習ったらどうです?」

「この…っ!!」

 

━━カタッ

 

なおも挑発を続けるマキナと怒りを抑えられないスパルダのやり取りへ割り込むようにその音は響いた。

 

「「………」」

 

先程まで言い争っていたにも関わらず、一瞬で静かになる二人。なぜならその音は座ったままのドクロクシーから発せられた音だからだ。

 

「ははっ!直ちにあちらに向かう準備をさせましょう」

 

ドクロクシーはただ骨で出来た右手を少し動かしただけだったが、それだけの動作でもヤモーには伝わったらしく迅速に指示下そうと三人の方に顔を向ける。

 

「さあみなさん!………バッティさんは?どこです!?」

 

気合いを入れて振り向いた矢先、顔ぶれの中にコウモリ男ことバッティがいない事に気付いたヤモーは素っ頓狂(すっとんきょう)な声を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、当のバッティはある考察を元にマホウ界の空を飛んでいた。

 

「フフフ、プリキュアの元にリンクルストーンが集まっている……確かにマンティナの言う通り、奴らは毎回リンクルストーンのある場所には必ず現れた…」

 

〝リンクルストーンがある場所にプリキュアが偶然現れるのではなく、プリキュアがいる場所にリンクルストーンがある〟

 

マキナの語ったこの仮説が正しいのなら占いを宛にするよりもプリキュアの近くにいた方が良いのではないかと考え、今に至る。

 

「…この調子なら今日辺りにもエメラルドが現れる筈……」

 

そう呟いたバッティは計画の成功を確信したのかフッと短く笑って速度を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔法学校から少しのところにある平原。そこで箒に乗った八人の魔法使い達が二人と六人に別れて対峙している。

 

「それでは、位置について……」

 

対峙している八人から離れた場所でアイザックが拡声器のような花を使い、試験開始の合図を出そうとしていた。

 

「「………」」

 

教育実習生で今回の試験官でもあるリズとアネット。

 

「「「「「「…………」」」」」」

 

そしてそれに挑む補習組の生徒達。

 

「よーい………」

 

アイザックの合図を前に張り詰めた空気が場を支配し、そして━━━━

 

 

「━━試合開始!」

 

 

━━━最終試験の幕が切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

「キュアップ・ラパパ!……」

 

開始直後、杖を天高く掲げていきなり攻勢に出たのは生徒側であるみらいだった。

 

「「「「みらいっ!?」」」」

「っ!」

 

作戦も連携もなく突然動いたみらいにリコ達が驚く。

 

「花よ!咲いて!!」

 

放たれたみらいの魔法はリズに向かって真っ直ぐ飛び、目標を正確に捉えたように見えた━━━が、リズはそれを最小限の動きでかわす。

 

「キュアップ━━━」

「っ!!」

 

反撃と言わんばかりに魔法を放った後で隙だらけのみらいへ杖を向けようとしたリズ。しかしそれはいつの間にか横へ回り込んでいた八幡によって阻まれた。

 

「っキュアップ・ラパ……」

「━━悪いけどそうはさせないよ」

 

完璧に近いタイミングでリズの隙をついた八幡の奇襲は奇しくもアネットによる奇襲という形で返されてしまう。

 

「っ…!?」

 

前もって呪文を唱えておいたのかアネットが振るった杖からノータイムで魔法が繰り出され、八幡はとっさにそれを体ごと思いっきり横に回転することでギリギリかわした。

 

「八くんっ!」

 

八幡のピンチにみらいの意識が逸れて注意が散漫になってしまう。

 

「━━見ている暇はないですよ?」

 

その隙をリズは見逃さない。素早くみらいとの距離を詰めて杖を振るう。

 

「キュアップ・ラパパ!花よ、咲きなさい!」

 

みらいの放った魔法とは比べ物にならない速度と精度を誇るリズの魔法。本来なら至近距離で放たれたそれをかわせる筈もない。

 

「わぁっ!?」

 

しかし魔法が放たれた事に驚いてバランスを崩したみらいはよろめいた。そのお陰で偶然にもリズの魔法は命中することなくみらいの頬を掠めるに留まったらしい。

 

「ととっ……ふぅ…助かった~」

 

間一髪、窮地(きゅうち)を脱したみらいは一旦距離を距離を取り、リコ達の元へと戻った。

 

「みらい……」

「いきなり飛び出すやつがあるかよ!」

「危ないよ~…」

 

ケイ、ジュン、エミリーが口々にみらいを(たしな)める。実力では敵わないリズ達の相手をするには全員で挑む必要があるのに一人で飛び出したのだからそう言われても仕方ない。

 

「あっははは……ごめん、ごめん」

 

ちょっと失敗しちゃったと言うような軽い口調で謝るみらいにジュン達がジト目を向ける。

 

「ホントに反省してるの~?」

「たく……みらいだけかと思ったらもう一人飛び出してたやつもいるし…」

「…八幡さんの事ですよ……?」

 

こっそりと戻って来て何食わぬ顔をしている八幡にも追及の矛先は向けられた。

 

「……いや、止めるのは無理だなと思ってどうせならそれに合わせて奇襲しようかと…」

 

みらいが一人で飛び出したのは八幡にとっても想定外。止めようにもタイミング的に間に合わず、放っておくよりは同時に仕掛けた方が懸命だと考え、箒を走らせたのだ。

 

「「「………」」」

「……いえ何でもないです。ごめんなさい」

 

三人からの無言の圧力で思わず敬語で謝る八幡。みらいに合わせて奇襲を仕掛けた判断が間違っているとは思わない。

 

実際に八幡が仕掛けなければリズとアネット、二人の反撃によってみらいはリタイアになっていただろう。

 

しかし、ジュン達の言っている事も正しい。圧倒的な技量の差がある相手に単独で挑むのは論外だし、八幡も自分の箒の速度なら奇襲が成功するかもと思っていたのだから。

 

(奇襲は失敗。なら今度は全員でどちらか一人に狙いを絞って仕掛ける…ルールで何人と言及していない以上、片方の花を咲かせれば合格になる筈だ)

 

そうでなければきちんと全員、もしくは二人と言っていなければおかしいし、なによりリズとアネットの二人の花を咲かせるなんていうのは難易度が高すぎる。

 

「…にしても最終試験だからって難しい過ぎじゃないかい?」

「うん…リズ先生だけじゃなくてアネット先生もあんなに凄いなんて思わなかった」

「やっぱり伝説は全部本当だったんだ…」

 

先程の攻防だけでもアネットの実力がリズと同等かそれ以上だという事がわかった。加えて奇襲を仕掛けた八幡に対応できる箒の速度とそれを操る技術は確かに八幡への対策と言える。

 

「…箒自体の性能は負けてないが……箒にライドしながら曲芸染みた機動で魔法をぶっぱなしてくるからなぁ……」

 

直接その実力を体験した八幡はジュン達の話に遠い目をしながら呟いた。リズに勝るとも劣らない魔法の精度と箒の上に立って操る独特のスタイルは想像以上に厄介で正直なところ足止めするのも困難だろう。

 

「こうなったら全員で……」

「よ~し!次こそ……それ!!」

 

ジュンが言い終えるよりみらいが再びリズに向かって勢いよく飛び出した。

 

「あっ!?」

「みらい!」

「ってあれ?八幡さんもいつの間にかいなくなってる!?」

 

止める間もなく飛び出したみらいとそれを追いかけていった八幡の姿にジュンはさっき注意したのにと眉根を寄せる。

 

「…何であんなに張り切ってるのかしら?」

 

いつもと様子の違うみらいと八幡にエミリーがぼそりとそんな疑問を口にした。

 

「ナシマホウ界は楽しい所だっていうからなー……早く帰りたいんだろ?きっと」

「あっ……」

 

二人の独断専行に少し苛立っているジュンの投げやりな言葉に、ここまで黙ったまま不安そうな表情を浮かべていたリコの口から思わず声が漏れる。

 

(八幡は最初から帰りたがっていて…みらいも?ううん、今は試験に集中しないと……でも………)

 

進級が懸かった試験に尊敬する姉という強敵、そしてみらいと八幡がナシマホウ界へと帰ってしまうという事実、その全てがぐるぐると頭の中を駆け巡り、リコは自分がどうすればいいのかわからなくなってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く……リズ先生だけではなくアネットさんまで連れ出して…あの子達がどこまで通用することやら」

 

少し離れた場所で校長、アイザックと共に試験を観戦していた教頭が魔法で紅茶を淹れながら呆れたように呟く。

 

リズとアネットが学生の頃から優秀だった事を知っているだけに教頭はこの試験がいかに難しいかを理解しているのだ。

 

「あの子達はこの補習で実技だけではなく魔法使いにとって大切な事を学んできました」

 

教頭からティーカップを受け取ったアイザックはそこで言葉を区切ると落ち着いた様子で紅茶を口にする。

 

「━━その成果がこの試験で分かるでしょう」

 

これまでの補習を合格して乗り越えて来た生徒達なら何の心配もいらない。言葉にこそしていないがアイザックは生徒達の合格を確信していた。

 

「…よろしい。とくと見せていただきましょう」

 

アイザックとは違い、半信半疑の教頭は訝しげに試験の行く末を見つめる。

 

「ふふふ、君もそこで見ておいで」

「モフ~」

 

解凍された冷凍ミカンを片手に微笑む校長は隣のモフルンに声をかけると再び奮闘する生徒達に視線を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「花よ、咲け!」

 

ケイと並走しながらジュンはリズに向けて杖を振るう。

 

「キュアップ・ラパパ!花よ、咲きなさい!」

 

迫る魔法を難なくかわしたリズは並走しているジュンとケイの隙間を狙い魔法を放った。

 

「「うわぁっ!?」」

 

二人の間を正確に射ぬいたリズの魔法は当たりこそしなかったものの、たった一発でジュンとケイの連携と攻撃を封じてしまう。

 

「っわぁぁぁ━━!!?」

 

攻撃を仕掛けたジュンはともかく、並走していたケイは予想外の位置に放たれたリズの魔法に驚き、バランスを崩してしまった。

 

「ケイっ!」

 

危うく箒から落ちそうになってしまったケイの手を寸前のところで駆けつけたエミリーが掴み支える。

 

「大丈夫かよ!?」

「うん、ありがとうエミリー…」

 

駆け寄ってきたジュンと助けてくれたエミリーに礼を言い、安堵するケイ。試験の上では箒から落ちても不合格にはならないがこの高さから落ちてしまえばもう試験どころではないだろう。

 

一応、万が一落ちてしまっても下にいる先生方が助けに入るので怪我をする可能性は低いのだが、緊張感を持ってもらうため生徒達には知らされていない。

 

それにいくら助けてもらえると言ってもそれを知らないケイ達にとって落ちる恐怖は変わらないので助けられる前に気絶するか、しなかったとしてもその恐怖ですぐには箒に乗れない筈だ。

 

もしエミリーが間に合っていなければケイは脱落していたかもしれない。

 

「素晴らしいわ。しっかり飛べるようになったのね」

 

ケイを助けたエミリーの箒捌きにリズが称賛の言葉を贈る。元々、箒で高く飛ぶ事を怖がっていたエミリーが補習を通して、ここまで箒を乗りこなすようになったのだから教師として生徒の成長を喜ばずにはいられなかった。

 

「…私だっていつまでも弱虫のままじゃいられない……追いつきたい背中があるから!━━花よ、咲いて!」

 

決意の言葉と想いを込めてエミリーは杖を振り、魔法を放つ。

 

「!」

 

怖がりで気弱なエミリーの強い想いに驚きつつも放たれた魔法をかわしたリズは三人に囲まれる可能性を考慮して一旦、距離を取るべく箒を走らせた。

 

「━━私だって今までの私じゃない!」

 

エミリーの想いに触発されてケイも自分に出来る全力をぶつけるべく逃げるリズの後を追い、その進行方向にある緑の生い茂った切り株に向かって魔法を放つ。

 

「キュアップ・ラパパ!木の芽よ、伸びなさい!」

 

放たれた魔法は正確に切り株を捉えて生い茂った木の芽がうねうねと動き始めた。

 

「……!」

 

木の芽はリズが切り株の真上に差し掛かった瞬間、一気に伸び、まるで鳥かごのようにリズを取り囲む。

 

「やった…!」

「よし!」

 

リズを木の芽の鳥かごに閉じ込める事に成功したケイの口から思わず喜びの声が漏れた。

 

「…やるわね。でも……」

 

ケイの魔法に感心ししながら、自分に魔法を当てるために挟み撃ちしてきたジュンとエミリーを冷静に見つめるリズ。そして杖を構え、三人は同時に呪文を唱える。

 

「「「キュアップ・ラパパ!」」」

 

このチャンスを逃すまいとした姿勢が功を奏したのか二人の方がリズよりも僅かに早い。

 

「「花よ、咲け!」」

 

左右から放たれたジュンとエミリーの魔法は木の芽によって逃げ場のないリズを確実に捉えたかに見えたが……

 

「━━枝よ、花開きなさい!」

 

二人より遅れて放たれたはずのその魔法は二人の魔法が届くよりも先に木の芽に命中して文字通り、花を開かせるようにほどいてしまった。

 

「あっ!?」

 

まさか解除されるとは思っていなかったのかケイが声を上げる。リズの力量を考えれば解除される可能性を考慮すべきだったが、魔法が上手くいった嬉しさで失念していたらしい。

 

「「ああっ!?」」

 

木の芽から抜け出したリズが真上へと避けた事で左右から挟み撃ちにしようとしていたジュンとエミリーに互いの放った魔法が命中してしまう。

 

「あーっ!!」

「しまったっ!!」

 

二人のビックリ花が大きな声で叫び(しお)れる。それはジュンとエミリーの退場を意味していた。

 

「ジュン!エミリー!」

「━━花よ、咲け」

 

同士討ちしてしまった二人の方に気を取られていたケイは背後からリズが忍び寄っていた事に気づかず、そのまま魔法を受けてしまう。

 

「あっ…あ~……」

 

ジュンやエミリーと同様に花を咲かせられたケイは崩れ落ちるようにゆっくりと降下していった。

 

「花を咲かされた人は退場ー」

「お疲れさま」

 

アイザックのアナウンスが響く中、しょぼんと肩を落として戻ってきたジュン達三人に校長が労いの言葉をかける。

 

結果として三人は退場になってしまったが試験の内容は決して悪いものではない。それぞれの成長や連携を見せる事ができたはずだ。

 

「残りは三人……」

 

試験が始まる前から実力差を憂慮していた教頭が空を見上げて小さく呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、アネットを相手取っているみらい、リコ、八幡の三人は案の定、苦戦を()いられていた。

 

「キュアップ・ラパパ!花よ、咲きなさい!」

 

リコの魔法を軽々とかわしながらアネットは箒でターンを決める。

 

「おっと、そのくらいじゃあ当たらないかな~」

「くっ…!」

 

そこから空中で静止したままリコの方を向き、片目を瞑って人差し指をたてるアネットに今度はみらいが向かっていく。

 

「キュアップ・ラパパ!花よ、咲いて!」

「よっと」

 

向かってくるみらいの魔法を身を捻ってかわすと同時にアネットは杖をリコの方に構えた。

 

「じゃ、そろそろ反撃するねキュアップ……」

「キュアップ・ラパパ!花よ、開け!」

 

アネットが呪文を唱えようとした瞬間、八幡が猛スピードで肉薄して先に魔法を放つ。

 

「ほっ、と…やっぱり速いねその箒。八幡君も徐々に乗りこなし始めてるみたいだし…うん、凄いね」

 

不意をついたと思われる八幡の魔法も難なく回避し、感心した風な言葉を口にするアネット。八幡にしてみれば不意をうち、なおかつ三対一の状況でその速度に余裕を持って反応するアネットの方が圧倒的に凄いだろとツッコミをいれたいところだ。

 

「う~全然魔法が当たらないよ~」

「…魔法も箒の扱いも私達とは比べ物にならないわ」

「それにこっちは全力でもアネット先生はまだ余裕があるように見えるな」

 

攻防を繰り返したみらい達がそれぞれ苦々しい表情で感想を漏らす。経験も技量も圧倒的に上、こちらが勝っているのは八幡の箒の性能と人数の差くらいだろう。

 

「さてと、このまま君達とおいかけっこするのも(やぶさ)かじゃないけど…リズの方は終わったみたいだからね」

「え…?」

「終わったって…」

「………」

 

遠くの方を見つめていたアネットの一言に怪訝な表情を浮かべる三人。そしてその言葉の意味をすぐに知ることになった。

 

「リズ…先生……?」

 

アネットの見つめていた方向から飛んできたリズの姿にみらいが呆然と呟く。

 

「そんな…ここにお姉ちゃんがいるってことは…」

「…残っているのはこの三人だけって事だ」

 

対峙していたジュン達を全員退場させたからこそリズはアネットと合流したということ…つまりここからは一人でジュン達三人を退場させたリズとみらい達が三人がかりでも歯が立たないアネットを同時に相手取らなければならない。

 

「や、リズの方は終わったの?」

「ええ、みんな凄く成長していて驚かされたわ」

 

軽い調子で尋ねたアネットにリズは生徒の成長を嬉しそうしながら答える。

 

「本当に手加減なしなんだね~」

「もちろんよ。それがあの子達のためだもの」

 

そこまで言うとリズはみらい達の方を見つめた。

 

「だからここからはアネットと私…二人があなた達の相手よ」

「くっ…」

 

リズの宣言に八幡が思わず声を上げる。未だ数の上では有利だが、一人で三人以上を相手取れる二人の前にはそれも大して意味をなさない。

 

「だとしても絶対合格してみせる!いっくよ~!」

「みらい…!?」

 

真っ直ぐリズを見据えたみらいが杖を片手に疾駆する。一直線に突っ込むその姿は特に作戦や考えがあるようには見えなかった。

 

「キュアップ・ラパパ!花よ、咲いて!」

 

スピードに乗ったみらいはその勢いを利用して杖を振るう。これなら速度の劣るみらいの魔法も当てやすくなる筈だ。

 

「ふっ…どうしたの?隙だらけよ!」

 

その魔法をあっさりと回避したリズは突撃してきたみらいではなく後ろのリコを狙って魔法を放つ。

 

「わ、わわぁっ!?」

 

まさか自分が狙われるなんて思わず、慌てて箒を動かすリコ。幸いリズとの距離が離れていたためギリギリで避ける事ができたが、大きく体勢を崩してしまった。

 

「今は試験の最中…集中しないとすぐに退場になるわよ」

「っ…わかってる…でも……」

 

リズに叱責されるがやはりリコの表情は浮かないままで何か別の事に気を取られている。

 

「…私は先生として手加減はしません。たとえそれで落第させてしまうとしても……」

 

姉として何かに悩む妹の力になってあげたい、無事に試験に合格してほしい、そういう気持ちはもちろんある。

 

けれどそれ以前にリズは魔法学校の先生だ。まだ教育実習の途中だとしても先生としてこの場にいる以上は私情を挟むわけにはいかない。

 

それにもしリズが手加減して合格出来たとしても次に同じような事があれば結局そこで(つまず)いてしまうだろう。

 

だからこそリズは全力で挑む。それが生徒達の…リコのためなのだから。

 

「キュアップ・ラパパ!花よ、咲け!」

「っ!」

 

集中力を欠いたままのリコにリズの魔法が容赦なく襲い掛かる。

 

「まずっ…!キュアップ……」

「残念、そうはさせないよ~!」

 

リコの窮地(きゅうち)に八幡がフォローしようとするもアネットに阻まれてしまった。

 

「っキュアップ・ラパパ!花よ、開け!」

 

立ちはだかるアネットに八幡は一瞬怯むが、すぐさま狙いを変更して魔法を放つ。

 

当たればそれで良し、当たらなくとも牽制になればその隙をついて助けにいけばいい…そう思っていた八幡の考えはすぐに打ち砕かれる事になった。

 

「甘いね━━キュアップ・ラパパ!花よ、咲け」

「なっ…!?」

 

アネットは避けるのではなく八幡の魔法に向かって突撃し、()()()()()()()()()()()()()()()()魔法を撃ち出してくる。

 

その動きは人魚の里で八幡が見せた動きと似ているが同時に魔法を撃ち出している分、より高度で洗練されていた。

 

「ぐっ…がぁっ!!」

 

予想外な突撃に対してアネットと逆向きに箒ごと体を回転させる事で無理矢理やり過ごした八幡。その反動で全身が(きし)み、八幡の口から苦悶(くもん)の声が漏れる。

 

「…うーん、今のも避けられちゃったか……リズの方もまだみたいだし…一筋縄ではいかないね」

 

交錯の後、空中で一旦箒を止めたアネットは下を見つめながら八幡達に対する認識を改めた。

 

(八幡君もだけどみらいちゃんやリコもなんだかんだでリズの魔法を避けてる……)

 

試験前に言っていたようにアネットもリズも手加減は一切(いっさい)していない。

 

魔法を習い始めて間もない三人、特にみらいと八幡はまだ一週間も経っていないにも(かか)わらず、アネットとリズを相手にしてここまで張り合えるとは思いもしなかった。

 

「凄い魔法使いになれるとは言ったけど、流石に早すぎるかなぁ……でも━━」

 

みらい達の成長速度に辟易(へきえき)しつつも、アネットは冷静に状況を見極めてその言葉の続きを紡ぐ。

 

「━━このままならみんな不合格。誰一人として私達に魔法を当てる事はできない」

 

そう確信して呟いたアネットは試験官としての務めを果たすために八幡の方へ箒を走らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「…………っ」」」

 

退場になってしまったジュン、ケイ、エミリーの三人がみらい達の攻防を不安そうに見つめている。

 

「…モフー……」

 

それは校長の隣で試験の行く末を見守っているモフルンも同じらしくみらい達に魔法が当たりそうになる(たび)に小さく声を上げていた。

 

「…やはりあの子達にこの試験は難し過ぎたのではないですか?今からでも合格の基準を見直すべきです」

 

あまりに一方的な展開に見かねた教頭は基準の変更を打診する。いくら補習授業の集大成といえどもあの二人を相手に魔法を当てなければ合格できないというのは技量の差からはっきり言って厳しい。

 

「ふむ、確かに教頭先生の言う事はもっとも……しかし合格の条件を変更する事はできない。…いや、するべきではないと言った方が正しい」

「それはどういう…?」

 

謎かけのような校長の言い回しに怪訝な表情で聞き返す教頭。試験が補習授業で行うような難易度ではないのは明らかなのにするべきではないとはどういう意味なのか。

 

「教頭先生、さっきも言った通りあの子達は補習を通して学んだ成果をこの試験で見せてくれるはずです。あの子達の成長をもう少し見守ってはくれませんかな?」

 

校長が答えるより先に隣にいたアイザックが試験が始まる前となんら変わらない口調で諭すように教頭へ問いかける。

 

「ですが………いえ…」

 

ジュン達が退場になり、残ったみらい達も追い詰められているというのにアイザックは生徒達の合格を微塵も疑っていないという事がその言葉から伝わってきた。

 

「……わかりました。アイザック先生がそこまでおっしゃるのなら私もあの子達を信じて見守りましょう」

 

正直なところあの状況で生徒達が合格できるとは到底思えない。それでもアイザックの言葉を聞き、一教師として生徒の可能性を信じようと教頭は試験の行く末を見守る事にしたのだった。

 

「…君はこの()()をどう乗り越えるのかな」

 

空を見上げた校長の小さな呟きは誰にも聞こえないまま風にかき消える。

 

そして試験はいよいよ佳境を迎えようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キュアップ・ラパパ!花よ、咲いて!!」

「━━ふっ!」

 

一人突出したみらいはリズに向かって魔法を放ち、それをかわしたリズが反撃として杖を振るう。

 

「わっ!━━ああっ!?」

 

その反撃で体勢を崩したみらいが箒と共に落ちかけて、ビックリ花のついた赤い帽子が宙を舞った。

 

━━━━パシッ

 

「あ……リコ…」

 

みらいが崩れた体勢のまま上を見上げると眉根を寄せ、複雑な表情を浮かべたリコの顔が見える。どうやら宙に投げ出されたみらいの帽子をキャッチしてくれたらしい。

 

「…一人で張り切りすぎよ」

「あはは……ごめん、ごめん」

 

くるりと体を反転させて体勢を戻したみらいは帽子を受け取りながら先程と同じく軽い調子で謝るとすぐさま身を(ひるがえ)した。

 

「よ~し…今度こそ……!」

「ああっ!あ……う………」

 

止める間もなく飛び去ってしまったみらいに逡巡(しゅんじゅん)を見せるリコ。しかしそれも一瞬の事で迷いを呑み込んで浮かない表情のままみらいの後を追いかけていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キュアップ・ラパパ!花よ、咲け!」

「くっ…!」

 

息つく暇もないほど連続で魔法を繰り出してくるアネットに八幡は防戦一方に追い込まれていた。

 

「ほらほら、反撃しないと合格できないよ~?」

 

逃げ回る八幡に追従しながらアネットが間延びした口調で喋りかけてくる。

 

「…っなら少しは手加減してもらえませんかね……!」

 

箒の性能は勝っているにもかかわらず、振りきれない事に辟易(へきえき)した八幡が絞り出すように答えた。

 

「ん~それは無理な相談だね。リズにも手加減は無しって言っちゃったし……」

 

八幡と同じくらいの速度で飛んでいる筈なのにアネットはそれを苦にした様子もない。恐らくこの程度の速度はアネットにとって何でもないという事なのだろう。

 

「さい…です…かっ……!」

 

━━右━━左━━右━━反転━━急降下━━急上昇……振り切るために八幡が縦横無尽に箒を走らせるがどんな動きをしてもアネットはあっさりと追いつき、ついでと言わんばかりに魔法を撃ち出してきた。

 

(反撃…する…暇もない…っ!何で…この人こんだけ動いてて…平気な顔…して……っ向こうも…!)

 

アネットと違い余裕のない八幡は目まぐるしく動く景色に翻弄されて考える事ともままならない。

 

「……一旦、休憩しよっか?」

 

そんな中でアネットが箒を止め、唐突にそんな提案をしてきた。

 

「━━…えっ?」

 

圧倒的にアネットが有利なこの状況でもたらされたまさかの提案にさしもの八幡も箒を止めて思わず振り返ってしまう。

 

「いやね?そういえば言い忘れてた事があったな~って思い出して」

「忘れてた事…ですか?」

 

余裕のない八幡にとって休憩自体は助かる提案だったのですぐに逃げ出せるよう声が届くギリギリの距離を保ったままアネットの話に応じた。

 

「うん。それと手加減はしないけど、ヒントくらいは出そうと思ってね」

「はあ……」

 

要領を得ないアネットの言葉に八幡も曖昧な相槌(あいづち)で返す。ヒントと言われても何に関するヒントなのかいまいちピンとこない。

 

「それじゃあまずはヒントから。八幡君、君はたぶんこう思ってるんじゃない?〝どうして箒の性能では勝っているのに引き離せないんだ〟って」

「それは……」

 

確かにそれは疑問に思っていた事だ。性能だけなら追いつける筈もないのにどうして差を詰められるのか、と。

 

「……単純に先生の腕が良いって事じゃないんですか?」

 

二人の間に箒の性能を(くつがえ)す程の技量の差があるからだと思っていたがアネットの口振りから察するにそれだけじゃないらしい。

 

「もちろんそれもあるよ?後、八幡君がその箒の性能を引き出せてないって理由もある……でもそれ以前の問題かな」

 

そこで一拍おき、アネットは八幡を真っ直ぐ見つめる。

 

「……そんなにみらいちゃんとリコが心配?」

「は……いや、何の話ですか?」

 

ヒントを出すという話からどうしてそんな事を聞くのかと八幡が怪訝な表情で聞き返した。

 

「だって八幡君さっきから…ううん、この試験が始まってからずっとあの二人に気を配ってるでしょ?」

「……別にそんな事ないですけど」

 

真っ直ぐ射ぬくような視線を向けてくるアネットに八幡は思わず目を逸らしてしまう。

 

「最初にみらいちゃんが一人で飛び出した時も私から逃げてる時も余裕なんてないのに二人の事ばっかり気にして…()()()()()全然集中出来てないことわかってる?」

「………」

 

何度も問われ、突きつけられた問題に黙り込む八幡。アネットの言う通り八幡は常に二人の方へ意識を割いていた。

 

無茶をしていないか、あるいは危機的状況に(おちい)っていないかと気にかけるのが(くせ)になっている。

 

それは幾度となく危険な目に遭ってきた経験と今までの日々から八幡の中でみらいとリコが大切な〝友達〟として守るべき存在に変わっていたからこその行為だった。

 

「協力や手助けをすること自体は否定しないよ?この試験もそれを前提にしてるし、たぶん今までの補習もそうだったと思う」

 

先生二人を相手にするのに協力や助け合いは必至、実力差があるのだから人数や連携で補わなければ確かに合格は難しいだろう。

 

「でもね、八幡君のそれは違う。過剰……いやいっそ()()()って言った方がわかりやすいかな」

「…過保護……ですか」

 

そう言われても八幡にそんなつもりはない。飛び出したみらいをフォローしたことも、アネットと対峙しながら隙を見て援護しようとしたことも、試験に合格するため必要だったからだ。

 

すでにジュン達が退場してしまった以上、人数を減らされるわけにはいかない。

 

「自覚はない…か。なら少しきつい言い方になるけど……」

 

八幡の反応に一瞬、考え込むように俯いたアネットは意を決した表情でその先の言葉を口にする。

 

「…八幡君は二人の……みらいちゃんとリコの事を信頼してないんだね」

「っ……」

 

そこまで大きな声ではなかったのにやけにはっきりと聞こえたその言葉に八幡は思わず息を呑んだ。

 

「……ヒントはここまで。後は八幡君自身が考えることだよ」

 

どこか優しげな声音でそう言うとアネットは瞑目し、思考を切り替える。

 

「言い忘れてた事だけど…これは校長先生からの伝言。〝もし君がアネット先生に勝って試験に合格したのなら八幡君の提案を受け入れよう〟だって」

「それは……」

 

昨晩、八幡が提案した事への答え。条件付きとはいえ許可が出たのはおそらく占いの結果があったからだろう。

 

「八幡君がどんな提案をしたのかは知らないけど、それを叶えるためには私を倒さないとダメって事だね」

 

リズかアネット、どちらか一人に魔法を当てることが出来たら補習試験は合格だ。しかし、八幡に課された()()は一人でアネットに勝つという更に困難なもの。

 

補習試験の合否すら危うい状況でより難しい条件を達成するなんて無茶を通り越して無謀とも言えるが、それでも八幡は挑戦せざるおえない。

 

その提案を押し通す事が今、八幡に出来る唯一の方法なのだから。

 

「…それじゃあ休憩は終わり。さあ、八幡君!全力でかかっておいで!!」

 

宣言と共にアネットと八幡、二人のチェイスが再び始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、リズを追いかけるみらいとリコは大きな川の近くに差し掛かっていた。

 

「キュアップ・ラパパ!水玉よ、舞い踊りなさい!」

 

リズが呪文を唱え、(すく)いあげるように杖を振るうと真下を流れる川から無数の水泡がみらい目掛けて飛んでいく。

 

「うわぁっ!?」

「きゃっ!ちょっ!?」

 

迫る水泡に気圧されたみらいは思わず後退してしまい、すぐ後ろを飛んでいたリコとぶつかってしまった。

 

「「わぁぁぁっ!?」」

「みらいー!リコー!」

 

空中で衝突してバランスを崩し、そのまま地面に落下してしまう二人の姿に校長の隣で試験を見守っていたモフルンが心配そうに声を上げる。

 

「っ…!」

 

アネットと壮絶な箒チェイスを繰り広げていた八幡も落ちていく二人に気付き、助けるために急いで箒を反転させた。

 

「…また集中出来てないよっ━━キュアップ・ラパパ!水の鳥達よ、羽ばたき踊れ!」

 

八幡が背を向けた瞬間にアネットもまた、リズと同様に川の水を利用して魔法を撃ち放つ。

 

「ぐっ、前が……!?」

 

水で構成された無数の鳥達が八幡の進路を塞ぐように広がって二人の元にたどり着くことができない。

 

「キュアップ・ラパパ!花よ、咲け!」

 

どうにか振り払おうとしている八幡にアネットが容赦なく追撃の魔法を放った。もちろんそこに一切の手心は加えられていない。

 

「っ突破できないならこれで…!」

 

迫る魔法を急降下する事でなんとか避けた八幡は水の鳥に背を向け、アネットの方へと箒を加速させる。

 

「キュアップ・ラパパ!閃光よっ!爆ぜ……」

 

杖を真っ直ぐ突き出し、これまで幾度となく頼ってきたその呪文を口にしようとする八幡。闇の魔法使い相手にしか使っていないこの魔法ならアネットの虚を突けると確信して━━━━

 

 

「━━風よ、渦巻け」

 

 

暴風と化したアネットの魔法が八幡を吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いたた…やっぱリズ先生は凄いな~……」

 

落ちた衝撃で尻餅をついたみらいが痛みに顔をしかめながらも元気そうに起き上がる。どうやら高度が低かった事と箒を離さなかった事が幸いして軽傷で済んだらしい。

 

「んっ…でもまだまだ……!」

「っ……」

 

軽傷とはいえ痛みを押して立ち上がり、明るく振る舞うみらいの様子に同じく軽傷で済んだ筈のリコが暗い表情をしてぎゅっと拳を握り締めた。

 

「…そんなに早く帰りたい?」

「え?」

 

リコの口から絞り出されるように漏れたその問いにみらいは目を丸くして戸惑う。何故そんな事を聞かれるのか本当にわからないという反応だ。

 

「これが終わったら私達…………お別れなのよ!」

 

前回の補習の終わりからリコはもうすぐ訪れるみらい達との別れを意識してしまった。

 

あの時は八幡の言葉で終わる前から暗くなるのは嫌だと思う事が出来たのに、いざその日を迎えるとどうしても気持ちが沈んでいくのを止められない。

 

そんなリコとは反対に今まで以上に気合いをいれて張り切っているように見えたみらいの姿に〝離ればなれになるのにどうして?〟という意味を込めてそう聞かずにはいられなかった。

 

「…………立派な魔法使いになるのがリコの夢」

 

お別れという言葉に込められたリコの気持ちを知ったみらいは何かをこらえるように箒を握り、(くちびる)を震わせる。

 

「……だから合格しなきゃ!」

「あ……」

 

紡がれる想いを前にリコはどうしてみらいがいつも以上に張り切り、明るく振る舞っていたのかに気がついた。

 

「絶対合格して…リコは二年生になって……魔法を頑張ってほしい!」

 

早く帰りたいからなんかじゃない、大好きで大切な〝友達〟の夢を応援したいから…精一杯自分に出来る事をやろうと、みらいは最後の試験に(のぞ)んでいたのだ。

 

「だから私…今は試験の事だけ考えようって……寂しいとか考えてちゃ駄目だって………」

「みらい……」

 

無理に明るく振る舞って押し留めていた感情が言葉と一緒に溢れそうになっているみらいを見上げ、リコは静かに瞑目して立ち上がる。

 

「…ふっ……余計なお世話よ」

「え…」

 

みらいの想いに触れたリコは腰に手を当てて照れたようにそっぽを向いた。

 

「そんな気を使ってもらわなくても……私、自分で合格できるしぃ?」

「…………うん!」

 

すれ違っていた二人の気持ちが今、ようやく通じ始める。

 

━━━━ヒュゥゥゥ……ドンッ!

 

そんな矢先、辺りに鈍い音が響いた。どうやら二人から少し離れたところに何かが落ちてきたらしい。

 

「え、な、何…!?」

「今のって……」

 

驚きながらもその正体を確かめるために音のした方へと向かう二人。そしてその先にはあちこち擦り傷だらけの八幡が倒れていた。

 

「八くん!?」

「えっ…?ちょっ大丈夫!?」

 

思わぬ事態に二人は急いで八幡の元へ駆け寄り、声をかけて状態を確認する。

 

「痛っ………あ、ああ…大丈夫……?」

「何で疑問系なのよ……」

「でもおっきな怪我がなくて良かった~……」

 

アネットの魔法が起こしたつむじ風に巻き込まれて墜落した八幡だったが、箒の安全機能が上手く働いたおかげで大きな怪我を負わずに済んだ。

 

それでもところどころ痛みはあるので大丈夫とは言い切れない…が、重症で動けないという程でもないため表現に困ってしまう。

 

「………」

 

けれど言葉尻が疑問系になってしまったのはそれが理由ではない。駆け寄ってきた二人の様子が今朝見た時と違って見えたからだ。

 

「な、なに?」

「どうしたの?八くん」

 

じっと自分達を見つめたまま動かない八幡にリコは困惑し、みらいは首を傾げる。

 

「…何でもない。ちょっと確認しただけだ」

「「?」」

 

何の?と疑問符を浮かべる二人に八幡はもう一度、何でもないと言って肩を(すく)めた。

 

(変にギクシャクしていた雰囲気がいつの間にか元に戻ってる……たぶん、この二人が本音をぶつけあった結果なんだろうな…)

 

みらいが変に張り切っていた事やリコが何かを思い悩んでいた事に気づいていても八幡は何も出来なかった。

 

声をかけて話を聞くくらいは出来たかもしれないがそれでどうにかなったとは思えないし、みらいとリコを見る限りその必要なかったのだろう。

 

喧嘩をしようとすれ違いを起こそうと二人はぶつかりあって互いを認め、それを乗り越えていく……そこに八幡の入る余地も必要もなかった。

 

(…過保護……か)

 

アネットに言われた事を思い返し、八幡は心の中で呟く。

 

そんなつもりはない。過保護どころかむしろ色々な事を任せっきりにしているという自覚がある。

 

こと、闇の魔法使いとの戦いなんて丸投げも良いところで八幡に出来る事自体がほとんどないし、前回の補習で思うところがあったものの、未だ改善には至っていない。

 

だからこそ八幡の手が届く範囲で出来る限りの事をしようとした。校長への提案も上手くいっていない二人をカバーしようとした事もそれくらいしか思いつかなかったからだ。

 

それを過保護だと言うのだろうか?

 

だとすると他に何が出来る?任せてばかりで何も返せていないのに。

 

……もしかすると何もしなくてもいいのかもしれない。八幡がどうにかせずともみらいとリコは自分達で立ち直ったのだ。

 

この試験だって二人は力を合わせて立ち向かい、リズに勝利して合格を掴みとる可能性は十分にある。

 

なら八幡に出来る事…すべき事は……

 

「八幡?」

 

様子のおかしい八幡を心配している二人の方に顔を向ける。

 

「……アネット先生は俺が止める。だからリズ先生は任せる」

「「!」」

 

八幡の口から出た言葉に驚く二人。そしてすぐその意味を理解し、顔を(ほころ)ばせた。

 

「…うん!リズ先生の花は私達が咲かせる!」

「…アネットさんは任せたわ八幡!」

 

力強い返事を返したみらいとリコに八幡は向けた視線を逸らしながら立ち上がる。

 

「…その…あれだ……が、頑張れ」

「!……ふふっ…八幡もね」

「よ~し!みんなで絶対に合格しよう!!」

 

一頻(ひとしき)り笑い合うとみらい達は箒を手に空を見上げて深く息を吸い込んだ。

 

「「「キュアップ・ラパパ━━━━」」」

 

呪文を唱える声が重なり、三人は空に向かって飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ふふっ、なーんか懐かしいね……」

 

空からみらい達の様子を見つめてアネットは目を細める。

 

「そうね……私達が学生の頃を思い出すわ」

 

ゆっくりと箒を走らせながらアネットと合流したリズも同じように目を細めて呟いた。

 

「あの頃は色々と無茶してリズに怒られたなー…」

「…それは私に限った話じゃないでしょう?いつも先生方に怒られていたじゃない」

 

昔を懐かしむアネットにリズが呆れた様子で答える。

 

「まあそうなんだけど…同い年で怒ってくれたのはリズだけだから……そういう友達って大事だなーって」

 

毎日のように無茶をやらかすアネットは同級生にとって積極的に関わりたい相手ではなく、いじめられこそしなかったがどこか壁を感じずにはいられなかった。

 

そんな中でリズがアネットを(しか)り、友達として一緒に過ごしてくれたおかげで多少なりとも自重できるようになって、そこから他の人にも徐々(じょじょ)に受け入れられるようになったのだ。

 

もし、リズがいなければアネットはずっと一人ぼっちだったかもしれない。

 

「…どうしたの?」

 

みらい達の方に視線を向けながらどこか呆然としているアネットにリズが眉をひそめる。

 

「……今度は私が叱る立場だからしっかりしないとね」

 

答えとも独白とも取れる言葉を口にしたアネットは小さく頷くとリズの方を振り返った。

 

「よ~し!さあ、こっからが本番だよ~!リズ、準備はいい?」

「え、ええ…アネットの方こそ大丈夫なの?」

 

戸惑うリズに笑みを浮かべながら大丈夫と返したアネットはそこで言葉を止め、一拍おいてから続ける。

 

「……なんていうか…ありがとねリズ」

「…へ?な、なんの話…?」

 

突然のお礼に驚くリズ。アネットも少し照れくさかったのか赤くなった顔を隠すようにそっぽを向いた。

 

「……何でもないっ…ちょっと言いたくなっただけというか……そ、それよりもみらいちゃん達の方も準備が出来たみたいだよ!」

 

誤魔化すように早口で喋るアネットの様子が何だか可笑しくてリズはくすりと笑い、そうねと答える。

 

「…最後まで全力を尽くすわよアネット?」

「……うん」

 

そうして二人は向かってくるみらい達を見据えて杖を構えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

様々な思い抱えて挑むみらい達。

 

そしてそれを迎え撃つは全力のリズとアネット。

 

進級を賭けた試験。その最後の大一番………

 

 

━━━━最初に仕掛けたのはみらいとリコの二人だった。

 

 

「「キュアップ・ラパパ!花よ、咲きなさい!!」」

 

 

同時に放たれた魔法は左右にアーチを描きながら挟撃する形でリズに迫る。

 

「ふっ…!」

 

迫りくる魔法の軌道を一瞬で読み取ったリズは前進することで二つの魔法をかわし、大きく旋回しながらみらい達へと回り込んだ。

 

「なるほど、そう来るってことは……」

「キュアップ・ラパパ!花よ、開け!」

 

三人の意図に気付いたアネットに対してその通りと言わんばかりに八幡が魔法を放つ。

 

「っとと…やっぱり私とリズの分断が狙いみたいだねっ」

「……さあ、どうですかねっ!」

 

言葉と魔法の応酬を繰り返しつつ、八幡はアネットをその場から遠ざける事に成功する。それが意図に気付きながらアネットが誘いに乗ったからだとしても、分断出来るのなら問題はない。

 

「ふっ…!じゃあ正々堂々、一騎討ちだ!」

「っ……正々堂々かどうかは保証しかねますけど…ね!」

 

互いに魔法を避け、撃ち放ち、息つく暇もない攻防を繰り広げるアネットと八幡。そしてそれはみらい達の方も同様だった。

 

「キュアップ━━」

「━━ラパパ!」

 

みらいとリコはリズに向けて矢継ぎ早に魔法を繰り出す。交互に撃ち出すことで反撃する暇を与えないようにするためだ。しかし……

 

「キュアップ・ラパパ!雲よ、()き立ちなさい!」

 

二人の魔法が届かない高度まで一気に上昇したリズはくるくるとかき混ぜるように杖を回して呪文を唱える。

 

「「あっ…」」

 

突如として湧き出てきた大きな雲にみらいとリコはそれこそあっという間に呑み込まれてしまった。

 

 

「おおっ」

「「「ああっ!」」」

 

渦巻く大質量の雲に下から試験を見守っていたアイザックとジュン達が思わず声を上げる。

 

 

━━カランッ……

 

 

「「「っ……!」」」

 

雲の中から吐き出されるように落ちてきた()()の箒にざわめく見学席。それの意味する事を想像したジュン達に緊張が走った。

 

 

 

 

「みらいちゃん達の方を気にしなくてもいいの?リズの魔法で大変な事になってるよ?」

 

アネットが撃ち合いの手を止めて八幡に尋ねる。

 

「…気にせず集中しろって言ったのはアネット先生ですよ」

 

空中で止まりながら八幡はアネットの問いに素知らぬ顔で答えた。

 

「へぇ……動揺しないんだ?」

 

さっきの今で全く違う八幡の反応に驚きを見せるアネット。ヒントは出したがまさかこんなに早く変わるとは思っても見なかった。

 

「…俺のやるべき事はアネット先生に勝つ事です……それに気にするほどの窮地には見えませんから」

「?それってどういう……」

 

聞き返すより先に八幡の返答の意味に気付いたアネットはまさか…と声を漏らしながら渦巻く雲の方に目をやる。

 

 

「「キュアップ・ラパパ!!」」

 

 

渦巻く雲の中から呪文と共に何かが勢いよく飛び出してきた。

 

「なっ!?」

 

声に反応して真上を見上げたリズはその光景に驚愕する。

 

なぜなら渦巻く雲から飛び出してきたのは箒に(また)がりながら杖を突き出しているリコと箒の柄に片手でぶら下がったままもう片方の手で杖をリズへと向けるみらいの二人だったからだ。

 

いや、それだけだったらリズもここまでは驚かなかったかもしれない。

 

みらいがぶら下がっている箒がリコの箒でなければ。

 

 

「「花よ、咲きなさい!!」」

 

 

「くっ…!」

 

みらいとリコが放った魔法は当たりこそしなかったがリズの不意を突き、その体勢を崩す事に成功した。

 

「っと」

 

リズが体勢を立て直すため距離を取った隙にぶら下がっていたみらいはリコの後ろに乗り、そのまま二人乗りの状態でリズの後を追いかけていく。

 

 

 

 

 

 

 

「あの状態でリズの魔法から脱出するなんて……」

 

箒が落ちてきた時点で二人が退場になるのも時間の問題だと思っていただけに驚きも大きく、アネットの意識は完全にみらい達の方へ向けられていた。

 

「今…!キュアップ・ラパパ!花よ、開け!!」

「え、ちょっ……!?」

 

そんな絶好の機会(チャンス)を八幡は見逃さない。よそ見をしているのが悪いと言わんばかりに何の躊躇(ためら)いもなく魔法を放つ。

 

「わ、わわっ…と……!?」

 

魔法に直前で気付いたアネットはふらつきながらも何とかギリギリでそれを回避すると、少し頬を膨らませて八幡の方を向いた。

 

「む~…流石に今の不意打ちはひどいんじゃないかな?」

「…さっき保証はしかねますって言いましたよ。それにこうでもしないと勝てませんから…ねっ!」

 

(むく)れるアネットを前に八幡は得意げな表情を作りながら追撃を仕掛ける。

 

「わっ…もう!八幡君がその気なら私もっ……」

 

八幡の言い回しと表情に少しカチンときたのかアネットは先程の攻防よりも積極的に攻め始めた。

 

「っ…キュアップ・ラパパ!花よ、開け!」

 

アネットに負けじと高速で移動しながら反撃する八幡だが、やはり地力の差で負けているためどうしても攻めきれない。

 

(さっきの不意打ちを当てられなかったのはまずかったな…正面切っての撃ち合いはどうやっても負ける)

 

得意げ表情と言葉でいくらかアネットの注意力を削いだものの、このままではそれを活かす前に押し切られてしまうだろう。

 

(…なら撃ち合わなければいい。狙うのは一発…不意打ちでも何でも今だけ通じれば……)

 

能力的に勝つ必要はない。一回、たった一回だけ魔法を当てれば試験は合格なのだから。

 

「二度目はない……これで…!」

 

大きく旋回した八幡が()()()からアネットに向かっていく。

 

「なっ…!?」

 

まさかの突撃に驚きながらもアネットは八幡の方に杖を突き出した。

 

 

 

 

「速い……!」

 

後ろから追いかけてくる二人に魔法を放ちながらリズが驚きの声を漏らした。

 

「「え~い!!」」

 

魔法をかわした二人はそこからさらに速度を上げてリズに肉薄する。その速さは一人で乗っている時よりも数段速い。

 

「っ追いつかれる!?なら……」

 

振り切れないと判断したリズは箒を反転させて二人を迎え撃つために杖を構えた。

 

 

 

「「キュアップ……」」

 

 

 

迎え撃たんとしているアネットとリズの声が重なる。

 

 

 

「「「…ラパパ!!!」」」

 

 

 

同様にみらいとリコと八幡の声も重なり響いた。

 

 

 

「「「「「花よ━━」」」」」

 

 

 

五人の呪文が揃い、次の魔法で決着がつくと誰もが固唾(かたず)を呑んでその行く末を見守る。

 

 

「「咲け!!」」

 

 

「「咲きなさぁぁい!!」」

 

 

「━━開け!」

 

 

飛び交う魔法と交錯する五人。そして━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ギャァァァァァッ!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━リズとアネットのビックリ花が同時に大きな叫び声を上げた。

 

 

「「あっ!!」」

 

「「あ……」」

 

 

自分達の花から上がった叫び声にリズとアネットは愕然(がくぜん)とし、みらいとリコは顔を見合わせる。

 

「みらい…リコ…八幡~!!」

 

未だに実感が湧かないのか少し困惑した様子で地面に降り立ったみらい達の元にモフルンとジュン達が駆け寄ってきた。

 

「やったモフ!すごいモフ~!!」

「モフルン…ありがとう」

 

嬉しそうに飛び込んできたモフルンを受け止めたみらいは少しくすぐったそうに笑う。

 

「すごい!すごい!」

「合格だぜ!これで!」

「私たち二年生になれるわ~…!!」

 

ケイ、ジュン、エミリーも嬉しそうに笑い、それぞれ喜びの言葉を口にしていた。

 

「やったね!リコ!」

 

みんなの喜ぶ姿にようやく合格した事を実感したみらいは隣にいるリコへ笑いかける。

 

「いや~してやられたよ~」

「立派でしたよ皆さん」

 

喜びあうみらい達の元にアネットとリズが帽子を抱えながら歩いてきた。

 

「あ、はいこれ。八幡君の帽子」

「…ありがとうございます」

 

八幡が帽子を受け取るとアネットは(おもむろ)に頬を緩める。

 

「まさか魔法を撃ち合う直前に自分の帽子を放り投げるなんて思いもしなかったよ……私の完敗だね」

「……運が良かっただけですよ。もう一度したら確実にこっちが負けます」

 

決着がつこうとしていたあの瞬間、八幡は振り落とされないよう足に力を入れて箒から両手を放し、杖を握る手とは反対の手を使って自分の帽子を真上に放り投げていた。

 

試験のルールでは花を咲かされた方が負け。つまり、花のついた帽子さえ無事なら本人に魔法が当たろうとも退場にはならない。

 

二度は使えないし、ルールの穴を突いたとも言うべきギリギリの手だが、それでもこの試験を乗り越えられたのならそれで良かった。

 

「そんな事はないと思うよ?」

「え?」

 

アネットの意外な言葉に八幡は驚く。帽子を放り投げて魔法に当たったけど花は無事だからセーフなんて方法は抜け道もいいところで、もしアネットが否と首を振れば合格が取り消されてもおかしくはない。

 

「だって八幡君は全力で試験と向き合ったんだもの。不意打ちも挑発も私に勝つための方法…運なんかじゃなくて八幡君が頑張って掴んだ勝利だよ」

 

この最終試験を補習の集大成と位置づけるのなら八幡の取った方法は論外も良いところで最後は一か八かの運任せ…それなのにアネットはそうじゃないと言ってくれる。

 

「………ありがとうございました」

 

その事が何故だか無性に嬉しくて緩みそうになった表情を隠すように八幡は深々と頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━ポンッ

 

最後のスタンプが押されて全員分の用紙が埋まる。

 

「おめでとう」

「全員合格ですよ」

 

アイザックと教頭が誇らしげにみらい達を見つめ言葉を贈った。

 

「成長した君達の姿…見せて見せてもらったぞ」

 

二人の後に続けてそう言った校長は一瞬だけ八幡の方に視線を向け頷き、合格を喜び笑いあっている生徒達を見て柔らかく微笑む。

 

和気藹々(わきあいあい)とした雰囲気が流れ、先生側も生徒側も笑顔で華やいでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━お遊戯は終わりましたか?」

 

そんな暖かい空気を切り裂くように冷たい声音が響く。

 

「お前は……!」

 

声の方を見上げるとそこにはコウモリ男……闇の魔法使いバッティが腕を組み、(たたず)んでいた。

 

「フッ」

 

突然の来訪者にざわめく中、バッティがマントを翻して突風を起こす。

 

「「ああっ!?」」

 

突風に巻き上げられてリズの帽子に着いていたビックリ花とアイザックの手にあった四枚の合格証が空を舞った。

 

「魔法、入りました。出でよっヨクバール!」

 

闇の魔方陣に吸い込まれたビックリ花と合格証はその姿を蝶にも蛾にも見える怪物へと変えて現れる。

 

「私達の合格証が…!」

 

空に木霊する声。試験が終わって息つく暇もない内に更なる試練がみらい達に襲いかかろうとしていた。

 

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