やはり俺が魔法使いでプリキュアなのはまちがっている。   作:乃木八

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第十話「さよなら魔法界!?みらいとリコと八幡……それぞれの最終テスト!」Bパート

 

「ヨックバール!!」

 

蝶とも蛾とも言える姿の怪物、ヨクバールが四枚の羽を羽ばたかせて突風を巻き起こす。

 

「「「「「わぁぁっ!?」」」」」

 

目も開けられないほどの風圧にみらい達はその場から動くこともままならない。

 

「皆さん!こちらへ!」

「この場から脱出します!急いで!」

 

アイザックをはじめとした先生達が魔法で風を和らげながら魔法の絨毯へと生徒達を誘導し、三つの絨毯に全員が乗り込んだのを確認して飛び立った。

 

「っ空が……!」

「さっきまであんなに晴れてたのに…」

 

闇の力の影響なのか重く薄暗い色をした雲が辺りを覆い尽くし、さながら嵐の中にいるような景色に変わっている。

 

「逃しませんよ!」

 

離脱しようとしているみらい達に気付いたバッティが髑髏の杖を突き出して後を追うようヨクバールに指示を下した。

 

「ヨクバール!」

 

大きな羽を羽ばたかせてみらい達を追うヨクバール。その速度は魔法の絨毯よりも速く、あっという間に距離を詰められてしまう。

 

「「あっ!?」」

「追ってくる~!?」

 

迫りくるヨクバールにジュン達が悲鳴混じりの声を上げた。追い付かれてしまったらどうなるかを考えれば無理もないかもしれない。

 

「っ…!」

「取り戻さなきゃ…!」

 

ヨクバールに取り込まれた合格証を取り戻すためにみらいとリコが変身しようとして立ち上がる。二人は他のみんなが危機に(さら)されている事も起因して少し冷静さを欠いているようにも見えた。

 

「待て!いまここで変身するのはまずい」

 

立ち上がった二人を手で制して止める八幡。このまま二人が変身すれば間違いなく先生方やジュン達にプリキュアの正体が露見してしまう。

 

(別に正体を隠している訳でもない…が、もしバレたら後々面倒な事になる)

 

もし知られたとしても先生やジュン達がその正体を言いふらすとは思わない。しかし何かの拍子にうっかり…という事もある。

 

伝説の魔法使いに興味を持つ人間は大勢いるだろうし、その中には当然、悪意を持った人間もいる筈だ。

 

そんな人物に正体が知れたら何をされるかわからない。なら極力、伝説の魔法使いの正体は隠すべきだろう。

 

「でも…!」

「もう伝説に傷がつくなんてそんな事を言ってる場合じゃないわ!」

 

八幡の言わんとしている事を察した二人はそれでもと食い下がった。

 

「傷?…いやそういうわけじゃ……」

「とにかく!今はみんなが危ないんだから何とかしないと!」

 

理由の部分で微妙に食い違う八幡とリコ。どうやら以前自分が言った事を八幡が気にしていると勘違いしたらしい。

 

「…落ち着け、別に伝説がどうとか言う理由じゃない」

「ならどうして?このままだと……」

「リコ待って、きっと八くんには考えがあるんだよ」

 

焦るリコをみらいが止める。八幡の様子を見て察してくれたようだ。

 

「……今からヨクバールを引き付ける。お前らはその隙に見られない場所で変身してくれ」

「引き付けるって……また八幡が一人で危ない事をするの…?」

 

これまでの八幡の行動を(かんが)みたリコが悲しげに目を伏せる。

 

「…だったら私も嫌だよ八くん。色々考えてくれてるのはわかってる……でもそれで八くんが傷つくのは嫌だ」

 

先程まで話を聞こうとしていたみらいも八幡の考えには賛成は出来ないらしい。眉根を寄せ、少し怒った表情で八幡を見つめる。

 

「…それでもやるしかないだろ」

「八幡…!」

「八くん!」

 

目線を逸らした八幡にリコとみらいが声を上げて距離を詰めた。

 

「危険がないとは言わない。今からやるのは要するに囮だからな」

「なら…!」

 

肯定の言葉に言い(つの)ろうとしたリコを遮って八幡が続ける。

 

「だとしてもやることは変わらない……だからまあ、その、怪我をしないように気をつける」

「「…え?」」

 

みらいとリコが目を丸くして意外そうな声を漏らした。

 

「…俺だって痛いのは嫌だし、意味もなく怪我をするのは御免ってことだ」

 

二人の反応に八幡は何とも言えない表情で返す。今までを振り返ればそういった反応をされるのも無理はないのだが、そこまで驚かれるとは思わなかった。

 

「え、えっと…」

「つまり…」

 

あまりに予想外で混乱する二人。実のところ八幡は気をつけると言っただけで止めるとは言っておらず、みらいとリコが混乱している内に箒を取り出してそれに(また)がる。

 

「じゃ、後は頼んだ」

「ふぇ?あっ…!」

「ちょっと待ちなさ……」

 

八幡が飛び立とうとしている事に気付いた二人が慌てて止めようとするが…もう遅い。魔法の絨毯を飛び出した八幡はヨクバールに向かって真っ直ぐ飛んでいってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「?何かが向かってくる……あれは…!」

 

後方からみらい達を追うようヨクバールに指示を出したバッティが向かってくる何かを(いぶか)しげな表情で見つめ━━気付く。

 

「っヨクバール!今すぐ目を閉じなさい!!」

 

箒でヨクバールに迫る人物……八幡の魔法を警戒したバッティは急いでヨクバールに指示を飛ばした。

 

「ヨクバール!」

 

指示を受けたヨクバールは進む速度を維持したままの状態で目を閉じる。

 

「これで貴方の魔法は通じませんよ」

 

この距離では聞こえないとわかっているが、それでもこれまで辛酸を舐めされられてきた八幡に先手を取れた事で言わずにはいられなかったらしい。

 

「さあ、ヨクバール!彼を叩き落としなさい!!」

「ヨクバールッ!!」

 

ヨクバールが目を閉じたまま正面に向かって四枚の羽を振るい、それによって巻き起こされた突風が八幡を襲う。

 

「ぐっ…!」

 

突風に(さら)された八幡は苦しげな声を漏らしながらも箒を操り、どうにか抜け出そうともがいていた。

 

(っ風でコントロールが…!このままだと向かってくるヨクバールをかわせない……どうする…?)

 

風に逆らい、ヨクバールの方へ直進する事は出来る。だが、少しでも方向を変えようとすれば操作不能に陥り、最悪の場合、猛スピードで地面に激突するかもしれない。

 

加えて閃光の魔法が通じないヨクバールを引き付け、尚且つみらいとリコが変身するのを隠す必要があった。

 

(どう考えても俺に出来る事の範疇を越えてるだろ……)

 

いっそこの場で閃光の魔法を放てば最低限の目的は達成出来るかもしれない。通じなくとも二人が変身するのを隠す事は出来るし、目を閉じたせいで直進しか出来ない状態のヨクバールなら魔法の絨毯で振り切れるだろう。

 

問題があるとすれば八幡自身がただでは済まない、という事だ。

 

箒にしがみついている現状ですら危ういのに魔法を使うとなれば間違いなく吹き飛ばされるか、激突するかの二択になる。

 

どちらにしても重症…あるいはそれ以上の結末になるのは目に見えていた。

 

(怪我をしないように気をつけるって言った矢先に怪我をする選択肢しかないのは……)

 

耐えながら心の中で八幡は自嘲気味に笑う。嘘は言っていない。痛いのが嫌なのも意味もなく怪我したくないのも本当だ。

 

しかし、痛くとも怪我じゃ済まない可能性があったとしてもそれしか方法がないのなら八幡はそれを選ぶ。

 

たぶんこの選択は間違いなのだろう。先生方やジュン達に伝説の魔法使いの正体がバレるとしても後から校長先生辺りに他言無用と言ってもらえばそれ以上広まるリスクは抑えられる。

 

何もせずに最初からあの二人に任せるのが正しい選択なのかもしれない。

 

それでも八幡はこうする他なかった。リスクが抑えられようともゼロではないし、なにより誰かを完全に信用するなんて出来ないのだから。

 

(……そういえばアネット先生が使ったのも風の魔法だったな…)

 

吹き荒れる風の中、振り落とされないように箒にしがみつきながら杖を構えた八幡が、ふとそんな事を思い出した。

 

(まあ、この風はヨクバールが羽ばたいて起こしてるもので厳密には魔法じゃな…い……?)

 

これから危険な賭けをしようという中で妙に冷静な自分を俯瞰(ふかん)しつつ、八幡は自らの言葉に引っ掛かりを覚える。

 

(ただの風…魔法を使ってない……もしかすると……)

 

まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()次から次へと考えが浮かび、一つの可能性へと変わった。

 

(…問題は魔法が上手く発動するかどうかだが……ついさっき身を持って体験したばかりだし…イメージは出来る)

 

目前に迫るヨクバールを前に焦りそうになるのを堪えて想像を膨らませ、意を決して杖を振るう。

 

「キュアップ・ラパパ!風よ、渦巻け!!」

 

放たれた魔法は目の前の吹き荒れる風と交わり、大きな渦となってヨクバールを呑み込んだ。

 

「ヨ、ヨクバール!?」

 

目を閉じていたヨクバールは何が起こったのか理解出来ないまま風の渦に巻き上げられていく。

 

「…ひとまず上手くいったな」

 

どっと疲れたような表情で呟く八幡。アネットの魔法の再現でヨクバールが巻き起こした風を利用しようと狙ったが、どうやら予想以上に効果があったらしい。

 

(あの大きな四枚の羽か……)

 

突風を生み出し、高速で移動するための羽はヨクバールの強みであると同時にその大きさ故、風の影響を受けやすいという弱点でもあった。

 

そのため八幡の放った魔法が倍以上の効果を発揮し、ヨクバールの巨体を吹き飛ばす程の威力に至ったのだろう。

 

「後は……」

 

慣れない規模の魔法を成功させた事で疲れながらも妙な高揚感の中にいた八幡は何でも出来るような気がして、みらい達が乗った魔法の絨毯の方へと杖を向けた。

 

「キュアップ・ラパパ!雲よ、()()()()!!」

 

呪文を唱えるとみらい達の姿を隠すように雲が湧き上がり、周囲の視界を遮る。

 

 

 

 

「これって…!」

「お姉ちゃんの魔法…?」

 

見覚えのある魔法に目を見開く二人。飛び出していった八幡がヨクバールを吹き飛ばし、リズの魔法を再現した事に驚きを隠せない様子だった。

 

「これなら外から見られる事もあるまい。さあ、二人共、今の内じゃ!」

 

周りが雲に囲まれた事を確認した校長が魔法の絨毯を停止させて叫ぶ。

 

「リコ!」

「みらい!」

 

校長の声を合図に二人が手を繋いで絨毯から勢いよく飛び下りた。

 

 

「「キュアップ・ラパパ!」」

 

 

「モッフー!」

 

 

呪文と共に深紅の光が放たれ、モフルンの元に集う。

 

 

「「ルビー!」」

 

 

紅き光は情熱の炎を秘めしリンクルストーン━━ルビーへと変わってモフルンの首元にセットされた。

 

 

「モフッ♪」

 

 

その身にルビーを宿したモフルンがみらいとリコの元へと駆け出して手を繋ぎあう。

 

 

「「ミラクル・マジカル・ジュエリーレ!!」」

 

 

モフルンを起点に鮮やかな紅が二人を包み込んでハートを形作り、深紅の花弁となって弾けた。

 

 

 

 

降り注いだ花びら達はその姿を紅蓮の衣装へと変えてゆき、それを身に纏った二人が魔方陣の中から現れる。

 

 

「ふたりの奇跡!キュアミラクル!」

 

 

「ふたりの魔法!キュアマジカル!」

 

 

「「魔法つかいプリキュア!!」」

 

 

そして二人は爆炎を背に紅き情熱の炎を纏う伝説の魔法使い……プリキュアとして名乗りをあげた。

 

 

━━━━トンッ

 

 

変身して一本の箒の上に降り立った二人は宙を舞うヨクバールを真っ直ぐ見据え、思いっきり跳躍する。

 

「ヨ、ヨ、ヨクバールッ!」

 

八幡の魔法で渦巻く風に巻き込まれてぐるぐると目を回していたヨクバールはそれに気付くも反応する事が出来ない。

 

「「はぁぁぁぁぁ━━━だぁっ!!」」

 

「ヨクッ!?」

 

跳躍の勢いとルビースタイルのパワーが乗った二人の拳をまともに受けたヨクバールが放物線を描いて地面に落下していく。

 

 

ズシンッ!!

 

 

ヨクバールの巨体が鈍色(にびいろ)の霧立ち込める地面に激突して轟音を響かせた。

 

「ヨ、ヨクバール…!」

 

ダメージが抜けきらないのかゆっくりと起き上がるヨクバール。そしてその目の前にミラクルとマジカルが着地する。

 

「…新たなリンクルストーンが現れる気配はない……」

 

いつの間にかヨクバールの隣にいたバッティがプリキュアの姿を見て確認するように呟き、表情を歪めた。

 

「ならば…片付けてしまいなさい!!」

 

「ギョイッ!」

 

バッティの命令を受けたヨクバールの目が妖しく光って先程までダメージを引きずっていたとは思えないほど機敏に動き始める。

 

「ヨクバールッ!!」

 

蝶、あるいは蛾型のヨクバールがその蛇腹(じゃばら)のような胴体を伸縮させ、叩きつけてきた。

 

「「っ!?」」

 

突然ヨクバールの動きが速くなった事で避ける余裕がなかったミラクルとマジカルはその攻撃を辛うじて受け止める。

 

「「っぐぅぅぅ……!!」」

 

二人を押し潰そうと力を込めるヨクバールに対し、二人はルビースタイルのパワーで何とか持ちこたえているがジリジリと増していく圧力に身動きがとれない。

 

「プリキュア。戦う力があったところで所詮たった二人…どんなに足掻こうと何の意味も……」

 

「キュアップ・ラパパ━━━━!」

 

自らの作り出したヨクバールでプリキュアを追い詰め、嘲笑うバッティの言葉を遮るように呪文を唱える声が響く。

 

「チィッ!」

 

短く舌打ちしたバッティがその場から飛び退くと先程までバッティのいた場所を何かが高速で通り過ぎた。

 

「……ああ、もう一人いましたね。戦う力もなく、つまらない魔法しか使えない貴方が…!」

 

それを見て忌々しそうに呟くバッティ。その見つめる先にはバッティに向けて杖を構える八幡の姿があった。

 

「……ハッ…そのつまらない魔法でしてやられてきたのはどこの誰ですかねっ!」

 

八幡は言葉と共に杖を振るい、バッティに向けてヨクバールを吹き飛ばした風の魔法を放つ。

 

「フッ…」

 

迫るつむじ風をあっさりとかき消したバッティは勝ち誇った表情で笑みを浮かべた。

 

「だから言ったでしょう?所詮はこの程度。いくら足掻こうとも意味はない…とねっ!」

 

バッティがマントを翻して突風を生み出し、お返しと言わんばかりに八幡へとぶつけてくる。

 

「っ…!?」

 

その突風の威力は八幡の放った魔法の比ではなく、あっという間に八幡を呑み込んで吹き飛ばした。

 

「っ八…くん…!」

「助け…ないと…!」

 

圧力に耐えながら吹き飛ばされた八幡を心配する二人。しかし、助けに行こうにも降りかかる圧力がそれを許さない。

 

「ヨクバールッ!」

「「ぐっ………!」」

 

そこへ追い討ちをかけるようにヨクバールがさらに圧力を強める。

 

「もういい加減諦めてしまいなさい!何をしようと無駄です!」

 

押し潰されそうなミラクルとマジカルを見下ろしたバッティは勝利を確信した様子でそう言い放った。

 

「……前の…私だったら…そうしてたかも…しれない…でもっ!」

 

マジカルが押し潰されないよう全力で踏ん張りながら途切れ途切れで答え、ミラクルがその先の言葉を紡ぐ。

 

「……この…春…休み…私達…三人で…いろんな…事を…乗り越えてきた……」

「っ…一緒だったから…挫けずに頑張れたっ!だから…これからも…どんな事だって……」

 

 

「「一緒なら諦めたりしない!!」」

 

 

その決意に応えるかのごとくルビーの輝きが増し、二人を紅蓮の光が包み込んだ。

 

「「はぁぁぁ━━………やぁぁっ!!」」

 

踏ん張るために思いっきり踏み込んだ足は地面を砕き、掴んだその手は押し返せなかった筈のヨクバールをフルスイングで投げ飛ばす。

 

「何ぃっ!?」

「ヨクバール!?」

 

まさかの事態にバッティは思わず驚愕の声を上げ、ヨクバールは頭から地面に叩きつけられた。

 

「……一緒なら…か。まさかその言葉の中に含まれる日が来るなんて思いもしなかったな」

「なっ!?」

 

背後から聞こえた声に反応して振り向いたバッティはさらに驚き、目を見開く。

 

「キュアップ・ラパパ……」

 

振り向いたその先には吹き飛ばされた筈の八幡が杖を真上に構え、呪文を唱えながらバッティを見据えていた。

 

「しまっ…!?」

 

杖を構える八幡の狙いに気付いたバッティが慌てて防ごうとするがすでに遅い。

 

「━━閃光よ、爆ぜろ」

 

防ぐよりも早く八幡の魔法が炸裂し、バッティの視界を白く塗り潰す。

 

「ぐっがぁぁっ━━!おのれぇっ!!」

 

閃光による目の痛みに加え、つまらない魔法と侮っていた八幡にしてやられた事でバッティは怒り叫んだ。

 

 

 

 

 

 

「━━すげぇ…!ありゃ一体……」

 

周囲を覆っていた雲が晴れ、プリキュアとヨクバールの戦いを目にしたジュンが呆気にとられた様子で呟く。

 

「もしかしてこの前魔法商店街で噂になってた……」

「伝説の魔法使い……」

 

ジュンの呟きに反応して食い入るように下を見つめるエミリーとケイ。一人を除いて全員がプリキュアに注目しているのが幸いしてバッティの後ろにいる八幡には気付いていないらしい。

 

「………」

 

唯一、プリキュアの方に視線を向けなかった校長が無言でみらいとリコが乗っていた絨毯の後部を見つめている。

 

仕方がないとはいえ、闇の魔法使いとの戦いを生徒に任せきりにしてしまっているのに思うところがあるのか、あるいは昨晩の占いを気にしての事か、その真意は本人以外に知るよしもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヨ、ヨクバール…」

 

力なく羽を動かし、ふらふらしながらヨクバールは起き上がる。どうやら地面に叩きつけられたのは相当(こた)えたようでその場で浮遊しているのがやっと、といった様子だ。

 

「っ…まずい!このままでは……」

 

叫んだ事で幾分か冷静な思考を取り戻したバッティが状況を理解して焦りを見せるも閃光の影響で未だに視界は眩んだままのためどうすることもできない。

 

「今だ!!」

「モフッ!」

 

八幡の合図でモフルンがミラクルとマジカルの元へと駆け出す。

 

「ヨクバッ…!」

 

自らに迫ろうとしている危機を察したのかヨクバールはふらつく身体を無理矢理動かしてそれを阻止しようと突撃するがそれよりも早くモフルンが二人の元にたどり着いた。

 

すぅ……いくわよ!ミラクル!!」

「うん!マジカル!!」

 

互いに呼び合うとミラクルとマジカルは伝説の杖を手にする。

 

 

「「リンクルステッキ!」」

 

「モッフー!」

 

 

モフルンの首元にセットされたルビーから放出された紅の光が二人の方へ勢いよく向かってきた。

 

「「っ………!!」」

 

二人は歯を食いしばって大きな力を秘めた光をリンクルステッキで受け止める。

 

 

「「ルビー!」」

 

「「紅の情熱よ!私達の手に!」」

 

 

ミラクルとマジカルは手を繋ぎ合い、情熱の炎が宿ったリンクルステッキでくるくると円を描いた。

 

 

「「フル…フル…リンクル!」」

 

 

描かれた二つの円は重なり、深紅のハートに変わると二人はそれを真上に向かって放つ。

 

 

「「プリキュア……」」

 

 

放たれたハートは魔方陣を形作って、それを足場にミラクルとマジカルが真っ直ぐヨクバールは見据えた。

 

 

ぎゅっ……

 

 

「……!」

 

 

強く繋いだ手から伝わるマジカルの想いに一瞬、ミラクルが驚いたように隣を見てから前に向き直る。

 

 

「「ルビー・パッショナーレ!!」」

 

 

呪文を叫ぶと同時に足場にしていた魔方陣が爆ぜ、深紅の弾丸と化したミラクルとマジカルがヨクバールへと撃ち出された。

 

 

バチバチバチッ━━!!

 

 

衝突してせめぎ合うプリキュアとヨクバール……そして決着が訪れる。

 

 

「ヨクバール……」

 

 

深紅の光はヨクバールの闇を浄化し、元となったびっくり花と合格証に分かれてひらひらと落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っまたしても、手ぶらで帰る羽目になるとは……!オボエテーロッ!!」

 

未だに目を押さえているバッティはヨクバールが浄化された事を知ると憤り、捨て台詞に似た呪文を唱えてその場から消える。

 

 

 

 

 

「っと…あと一枚は……」

「モフ~!あっ……」

 

落ちていく合格証を広い集めた八幡とモフルンの二人はミラクルとマジカルが手を繋いだまま立ち尽くしている事に気付いた。

 

 

「「…………」」

 

 

闇の魔法の影響で曇っていた空が晴れて光が降り注ぎ、鮮やかな虹と照らし出された海面が美しい風景を彩っているのに二人の表情には寂しさが浮かんでいる。

 

「……終わり…か」

 

ぼそりと呟かれた八幡の一言が晴れ渡る空の中に溶けて消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕暮れの駅のホーム。ナシマホウ界行きのカタツムリニアに乗り込んだみらい、モフルン、八幡の三人を先生方やジュン達が見送っていた。

 

「ほ、本当に…もう…行っちゃうのね…」

 

涙で顔を濡らしたエミリーが言葉に詰まりながら窓越しにみらい達を見つめる。

 

「はは…」

「…ああ」

 

あまりに号泣するエミリーにみらいは困ったような笑みを浮かべ、八幡は目線を逸らした。

 

「…あたいさ、ナシマホウ界に憧れてるんだ」

「「「え?」」」

 

しんみりとした空気を切り替えるためかそう言い出したジュンに全員の視線が集まる。

 

「……意外だな」

「そうかい?これでも何度もマホウ界を抜け出そうとして失敗してるんだよ」

 

八幡の言葉にジュンは軽く肩を竦めて返した。

 

「それで出席日数が足りなくなったの?」

「まあね」

 

ジュンが補習を受けるに至った理由にケイが少し呆れた表情を浮かべる。

 

「……絶対遊びに行くからな」

「うん!」

「…今度は補習にならないようにな」

 

これでもう会えないなんて事はないと伝えるジュンなりの言葉にみらいと八幡はそれぞれ元気な返事と軽口で答えた。

 

「…教頭先生、あれを渡さなくていいの?」

 

みらい達のやり取りに区切りがついたタイミングを見計らってアネットが隣に立っている教頭に声をかける。

 

「そうですね。二人とも、これを」

「あ…」

「これは…」

 

教頭が差し出してきたのは中央に魔法学校の校章である黒猫が描かれているピンクの手帳だった。

 

「魔法学校の生徒手帳です……朝比奈みらいさん、比企谷八幡さん、いかなる時、いかなる場所でも我が校の生徒として恥ずかしくない振る舞いをするように」

 

生徒手帳を手渡した教頭が二人にそう言い聞かせるのはみらいと八幡を魔法学校の生徒として認めたという事だろう。

 

「ありがとうございます!」

「…いいんですか?」

 

嬉しそうにお礼を言うみらいと裏腹に八幡は困惑した様子で教頭の方を見る。当初から入学に反対していた教頭から生徒手帳を渡されたという事で本当に自分なんかがもらってもいいのか?と思い出た言葉だった。

 

「ええ、もちろん。それと比企谷八幡さん、貴方には謝らなければいけませんね……初めてお会いした時に失礼な態度で接してしまった事を」

 

そう言って深々と頭を下げる教頭にまさか謝られるとは思っていなかった八幡が慌てて言葉を返す。

 

「い、いえ……こちらこそ色々ご迷惑をおかけしました」

「あ…わ、私もその、ご迷惑をおかけしました!」

 

頭を下げる二人に教頭は顔を上げ、こほんと咳払いをしてから言葉を続けた。

 

「ナシマホウ界に戻ってもさっきの私の言葉を忘れないように!…いいですね?」

「「はい」!」

 

声を揃えて返事をした八幡とみらいに今度はリズとアネットが一言ずつ声をかける。

 

「二人とも頑張ってね!」

「ま、あんまり無茶しないように!……特に八幡君」

 

リズからは激励を受け取り、アネットからは名指しの注意をもらって苦笑いを浮かべる八幡。どうやらアネットは試験を通して八幡の危うい面に気付き、心配してくれたようだ。

 

「…気をつけます。ありがとうございました」

「ん、わかってるならよろしい……向こうでも元気でね!」

 

満足したように頷いたアネットは片目を瞑ってウィンクをすると一歩下がってジュン達に目配せをした。

 

「実は私達からも渡したいものがあって……」

 

モフルンの方をチラチラと見ながらケイが口火を切り、ジュンとエミリーがあるものを取り出す。

 

「わぁぁ…!!」

 

ジュン達の渡したいものとはモフルンの大きさに(あつら)えてある魔法学校の制服だった。

 

「みんなとお揃いモフ~♪」

 

その制服に袖を通したモフルンは今にも踊り出しそうなくらいはしゃぎ、喜んでいる。

 

「三人で作ったの」

「もっと早く渡せたら良かったんだけど…」

「結構難しくてギリギリになっちまったね」

「モフー!ありがとうモフ♪」

 

モフルンの喜びようにジュン達も作った甲斐があったと微笑んだ。

 

「それとみらいにはこれ!」

 

ピンク色の包装紙で包まれた箱をケイが手渡すとみらいは少し驚いたような顔をする。

 

「わたしにも?」

「うん!みらいのおかげで忘れ物をなくす事が出来たからそのお礼で用意してたんだ~」

 

渡すタイミングがなくて最後になっちゃったけど…と付け加えてケイは照れたように頬をかいた。

 

「お礼なんてそんな…」

「いいから、開けてみて?」

 

ケイに促されて包装紙を開くとそこにはデフォルメされた子熊がデザインされた可愛らしい写真立てが出てくる。

 

「わぁ!すっごく可愛い!!」

「でしょ~!実はお店で見かけて買ったんだけど使う機会がなくて…みらいにもらってほしいなって」

 

写真立てのデザインを気に入ったらしく目を輝かせて喜ぶみらい。それを見て嬉しくなったのかケイも一緒に笑顔を浮かべた。

 

「ありがとう、大切にするね!」

 

受け取った写真立てを胸に抱いたみらいがお礼を言うとケイはもう一度照れたように頬をかき、今度はエミリーの方に視線を向ける。

 

「後は…エミリーが八幡さんに渡したい物があるんでしょ?」

「ふぇ!?そ、それは……」

 

話を振られたエミリーが戸惑いと恥ずかしさの入り交じった表情を浮かべて言い淀んだ。

 

「渡さなくていいの?」

「うぅ……でも…」

 

迷っているエミリーにケイが本当にいいのかと問いかける。

 

「次はいつになるかわからないんだよ?今、渡さないでエミリーは本当に後悔しない?」

「あぅ…」

 

問われたエミリーは少しの間俯き考え込むと意を決したように顔を上げて八幡の方に近付いた。

 

「あ、あ、あのっ!八幡しゃんっ!」

「……なんだ?」

 

相当緊張していたらしく思いっきり噛んでしまった事に触れないよう気を付けて八幡が答える。目の前でケイとエミリーのやり取りを聞いていたのでエミリーが何かを渡そうとしているのは理解したのだが、どうして自分に?と八幡は内心で疑問符を浮かべていた。

 

「そ、その…こ、これをっ!」

「これは……手紙?」

 

エミリーから手渡された赤いリボン付きの黄色い封筒に八幡は首を傾げる。

 

「え、えっと…その…色々伝えたい事があって…手紙なら全部伝えられると思って…」

 

しどろもどろになりながらも一生懸命言葉を紡ぐエミリーに後ろから見ていたアネットがニヤリと笑みを浮かべて八幡へと声をかけた。

 

「八幡君も隅に置けないね~♪」

「…いや別にそう言うのじゃないと思いますけど」

 

アネットの言葉にそう返しつつ、八幡はエミリーからもらった手紙を開けようとする。

 

「あっ…そのっ!で、出来れば今じゃなくて後で……」

「……わかった」

 

顔を赤くしたエミリーが言わんとした事を理解した八幡は開けようとした手を止めて手紙をポケットにしまった。

 

「渡せて良かったね」

「う、うん……ありがとうケイ」

 

無事、八幡に手紙を渡したエミリーは背中を押してくれたケイにお礼をしてからほっと胸を撫で下ろす。まだ少し顔が赤いのはアネットが八幡に言った言葉のせいだった。

 

 

 

「…そういえばリコさんは?」

 

様子を見守っていたアイザックは一人、リコがこの場にいない事に気付いてキョロキョロと辺りを見回す。しかし、いくら見てもリコの姿が見えない。

 

「………」

 

リコが見送りに来ていないという事実にみらいは困った表情を浮かべ、八幡は何も言わずに瞑目する。

 

 

━━━━チリチリチリチリチリチリーン

 

 

ホームにベルが鳴り響いて乗り込み口のドアが自動的に閉まった。

 

「カタ~カタ~カタ~」

 

カタツムリニアが鳴き声と共にゆっくりと発進し始める。

 

「っみんなまたね!」

「モフー!」

「…じゃあな」

 

開いている窓から身を乗り出したみらいに続いてモフルンと八幡もそれぞれ別れの言葉を口にした。

 

「元気でねー!」

「お気をつけて」

「またなー!」

 

手を振って答えながらジュン達が徐々に速度を上げていくカタツムリニアをホームの終わりまで追いかける。

 

そしてジュン達は別れを惜しむようにカタツムリニアが見えなくなるまで手を振り、みらい達を見送っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━補習が行われていた教室。静まり返ったその室内でポツンと一人、リコが俯いたまま座っていた。

 

「見送りに()かんでよかったのかな?」

「あっ…」

 

水晶のキャシーを手に教室の後ろから入ってきた校長がリコに問いかける。

 

「……別れはもう済ませましたから」

 

校長の問いにそう答え、視線を落とすリコ。その手元には魔法の森の補習で撮ったみらい達との記念写真が握られており、写真を持つその手は微かに震えていた。

 

「━━あなた方二人…いえ、三人の出会い。それがいかなる運命によるものなのか……」

 

再び俯いてしまったリコにキャシーが独り()つように語りかける。

 

「…みらい君と八幡君、あの二人をここに留まらせたのはそれを確かめるためじゃった」

「ぇ…?」

 

キャシーの話を継いで続けた校長の思わぬ言葉にリコが顔を上げた。

 

「無論、あの時言った言葉にも偽りはない。一人の魔法使いとしてこの世界が認めた二人を受け入れたのも本当じゃ……しかし、それ以上に君達三人の運命を見極める必要があった」

 

そこで言葉を区切った校長は目を伏せ、その先を紡ぐ。

 

「このままでは答えの出ぬまま終わりの時を迎えてしまう…そう思っていたが、これも何かの導きなのか……夕べ、リンクルストーンの兆しが現れたのじゃ」

「…!」

 

その話を聞いたリコは僅かに目を見開き、視線を校長の…延いては占いの結果を告げようとしているキャシーの方へと向けた。

 

「私の占いが指し示すその場所は━━━━」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━ガタガタガタガタ……

 

 

夕陽を背に、みらい達を乗せたカタツムリニアはどんどんと魔法学校から遠ざかって行く。

 

「モフ~……」

 

窓から顔を覗かせて小さくなっていく景色を見つめながらモフルンが声を漏らした。

 

「食べる?冷凍ミカン」

「モフ?」

 

みらいがモフルンと八幡の方に皮を剥いた冷凍ミカンを差し出してくる。その声は無理に明るく振る舞っているようにも聞こえ、モフルンと八幡が心配して顔を見合わせた。

 

「……大丈夫か?」

「うん、平気だよ?また、遊びに来ればいいんだしっ!」

 

八幡の言葉に明るく答えたみらいは剥いた冷凍ミカンを一房(ひとふさ)手に取ると自らの口に放り込む。

 

はむっ………カリッ━━━

 

「ん…あれ?おかしいなあ………もう一人でも…魔法、上手く使えるようになったと思ったんだけどな……」

 

ミカンを咀嚼しながらそう呟き、やがて何かを必死に堪えるようにスカートの裾をぎゅっと握り締めて俯くみらい。そのスカートの上にはみんなで撮った記念写真が置かれていた。

 

「「…………」」

 

そんなみらいの姿を前にモフルンと八幡は黙って見つめる事しか出来ない。

 

━━━ポタッ

 

透明な雫が一粒、記念写真の上に(こぼ)れ落ちた。

 

「ぅ………」

 

ここまでずっと堪えていた涙が止め()なく(あふ)れ、ぽたぽたと写真を濡らしていく。

 

〝平気なんて嘘だ。また遊びに来ればいいってそのまたはいつになるの?イヤだ…お別れなんてしたくない!もっと…一緒にいたいよ……〟

 

涙と共に抑え込んできた感情はぐるぐるとみらいの中を駆け巡ると嗚咽(おえつ)に変わっていった。

 

「モフ……」

 

静かに揺れる車内にみらいの嗚咽だけが響き、どうする事も出来ずに立ち尽くしたモフルンがうっすらと涙を浮かべている。

 

「………失敗してもまた練習すればいいだろ…()()()

「え…」

「モフ…?」

 

窓の外に顔を向けながら独り言のように呟かれた八幡の思わぬ言葉にみらいとモフルンが顔を上げて目を見開く。

 

「リコ!?」

「はーちゃん!」

 

そこにいたのは箒を走らせカタツムリニアと並走するリコとその肩にしがみつくはーちゃんだった。

 

「どうして…?」

「私も行くわ!ナシマホウ界に……あなた達の世界に!!」

 

風にかきけされないようリコは懸命に叫ぶ。涙を浮かべるみらいへちゃんと伝わるように、と。

 

「あっ……」

 

リコの口から伝えられた事実にみらいは驚きと嬉しさが込み上げて何も言えなくなってしまう。

 

「…早く迎えに行かないとこのまま引き離されるぞ」

「はっ!…うん!」

 

八幡の言葉で我に返ったみらいは涙を拭い、急いで後ろの扉へと走り出した。

 

「リコー!」

 

勢いよく扉を開けて外に飛び出したみらいがリコの方に向かって身を乗り出し、必死に手を伸ばす。

 

「リコ━━━!!」

 

「みらい━━━!!」

 

互いに呼び合い手を伸ばす二人。しかしあともう少しのところで僅かに届かず、リコの乗る箒が徐々に引き離され始めた。

 

「っまだ…!」

 

 

「っ届いて…!」

 

少しずつ距離が離れていく中でもみらいとリコは諦めず手を伸ばし続ける。もう後悔なんてしたくない…絶対に届くと信じて。

 

「あと…少し………わぁっ!?」

 

突然吹いた強風が()()()()()()()()()()()()届かなかった距離を埋め、みらいの元へとリコを運ぶ。

 

「えっ……きゃっ!?」

 

強風に運ばれたリコは勢い余ってみらいに飛び込む形でカタツムリニアへ着地するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に行かせても良かったんですの?」

 

他に誰もいなくなった教室で魔法の水晶であるキャシーが校長に尋ねる。

 

「……ああ、それが八幡君との約束じゃったからの」

 

目を閉じ、思い出すようにして校長は答える。

 

昨晩、校長の元を尋ねてきた八幡はリコのナシマホウ界行きを提案してきた。

 

これからもリンクルストーンを狙って闇の魔法使いは現れる。その時に伝説の魔法使いプリキュアとしてみらいとリコは一緒にいた方がいい、と。

 

とはいえそれはあくまで可能性の話。もしナシマホウ界にリンクルストーンの兆しがあるとキャシーが占わなければ考える余地もなかったかもしれない。

 

「いくらリンクルストーンの兆しが見えたと言っても彼女はまだ……」

 

憂いを含んだ言葉で返すキャシー。やはりまだ学生で半人前のリコを送り出した事に思うところがあるのだろう。

 

「無論、最初は(わし)も反対じゃった。校長として未熟なリコ君を一人でナシマホウ界に行かせるわけにはいかんからの」

「なら…」

 

たとえプリキュアだったとしてもリコは魔法学校の一生徒だ。安全面を考慮すればおいそれと許可が出せるような事柄ではない。

 

少し語気を強めて言い募ろうとしたキャシーを遮って校長は続ける。

 

「だが、そう思うと同時に八幡君の意見も一理あると感じたのじゃ。だからこそ儂は試験を課した…魔法を学んで間もない彼には困難であろう試験を」

 

魔法学校が始まって以来の麒麟児(きりんじ)だったアネットを相手に一対一で勝つ事。それが八幡に課された試験であり、到底成し遂げられるとは思えない課題だった。

 

「しかし八幡君はアネット先生を撃ち破り、儂の課した試験に合格して見せた……ならばそれに応えなければなるまい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リコ~!!」

 

夕暮れに染まる景色の中、リコとの再開を無事に果たしたみらいは感極まって思いっきり抱きついた。

 

「……?」

 

いきなり抱きつかれたリコは少し驚きながらもみらいが涙を流し、肩を震わせている事に気付く。

 

「これからもずっと一緒にいられるんだよね!?」

「ぁ……ぅっ…」

 

涙声で確かめるように尋ねるみらいを前にリコは溢れる涙を誤魔化してそっぽを向き答えた。

 

「…だからそう言ってるでしょ」

「━━うん!」

 

照れて頬を赤く染めながら答えたリコに嬉しくなり、みらいはぎゅぅっと抱きつく力を強める。

 

「約束だよ!ずーっとずーっとずっと一緒だよ!!」

「だからそう言ってるでしょ!」

 

二人はしばらくの間、もう絶対に離さないと言わんばかりに互いを抱き締め合うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ちゃんと約束を守ってくれたんですね」

 

窓から少し身を乗り出した八幡が()()()()()()をしまいながら呟く。

 

試験が終わってから校長に確認が取れず、カタツムリニアに乗車する際にもリコの姿が見えなかったので少し心配だったが、それも杞憂(きゆう)に終わったようだ。

 

体を引っ込め、ドサッと座席に背中を預けた八幡はゆっくりと息を吐いて二人の会話に耳を傾ける。

 

「ずっと一緒、か……」

 

その言葉を反芻(はんすう)し、無意識の内に漏らす八幡。どんなもの、どんなことにだっていつかは終わりがくる。

 

ずっと一緒なんて言葉は幻想でそんな事は不可能なのかもしれない。

 

けれど……だとしても、あの二人の関係はこれから先も続いてほしいと願ってしまう。

 

 

そして…もし、叶うのならば……

 

 

比企谷八幡は━━━━

 

 

 

━十一話に続く━

 

 

 





次回予告


「リコ~!!」

「どこモフー!リコの分のクッキーもあるモフ!」

「なっ……こんな人前で空を飛んだら……!」

「迷子になってたりして…」

「おいしそうモフ」

「だから…そんな迂闊に魔法を…」

「捜さないと!」

「もぐもぐ……クッキーおいしいモフ」

「…モフルン、俺にも一枚くれ」

「「もぐもぐ……」」

「ここどこ?あぅぅ…!お腹が空いて力が……」





次回!魔法つかいプリキュア!やはり俺が魔法使いでプリキュアなのはまちがっている。

「ただいま!ナシマホウ界!やっと帰れる……ってリコどこ?」





「キュアップ・ラパパ!今日もいい日にな~れ!」
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