やはり俺が魔法使いでプリキュアなのはまちがっている。 作:乃木八
ナシマホウ界へ向かうカタツムリニアの車内。みらい達は無事に再開を果たしたリコからナシマホウ界行きが決まった経緯を聞いていた。
「━━それで占いの指し示した場所が…ナシマホウ界。あなた達の世界なの」
「「ええっ!?」」
新たなリンクルストーンの兆しがナシマホウ界にあると聞いて驚くみらいとモフルン。マホウ界に伝わる伝説であるリンクルストーンがナシマホウ界にあるなんて予想外だったのだろう。
「………」
「…八幡は驚かないの?」
驚く二人とは対称的に黙ったままの八幡を不思議に思い、リコが少し訝しげな視線を向けた。
「……まあ、その可能性を考えなかったわけでもないからな」
そんな視線を受けながら何でもないように答える八幡だったが、本当の事を言えばリコから話を聞くより前に占いの結果を知っていたのだ。
(出来れば校長先生に提案を持ち掛けた事を知られるのは避けたい)
隠す必要があるかと聞かれれば特にないと思うがわざわざ自分から話すことでもないだろう。
「うーん…そう言われればそうかもしれないけど……」
リコはまだ納得いかないという表情を浮かべるも、考えても仕方ないと判断したらしくそれ以上は追及しなかった。
「じゃあその占いがあったからリコはナシマホウ界に行く事になったの?」
「ええ、それもあるけど私が校長先生にお願いして…」
みらいに尋ねられたリコは自分がお願いしたと途中まで言いかけたところでハッとなり、誤魔化すように咳払いを重ねる。
「んっんん……えーと、お願いされてそっちに行く事にしたのよっ!」
「ほーん……」
言い直すリコへ今度は八幡が訝しげな視線を向けた。
校長に提案したのは八幡だ。そのため八幡の提案を呑んだ校長からリコがお願いされたとしても不思議ではない。しかし、照れたようにそっぽを向くその様子を見れば誰から頼んだのかは、まるわかりだった。
(別に誤魔化すような事でもないだろうに…)
先程までの自分を棚に上げてそんな事を思う八幡。当人達は否定するかもしれないが変なところで意地を張る部分は二人共よく似ているように見えた。
「でも、せっかく二年生になれたのに……」
一緒にナシマホウ界に行ける事は嬉しいけれど、そのせいでリコの進む道を邪魔しているのではないかと思ったみらいがそんな言葉を口にする。
「ん…ナシマホウ界でも魔法に必要な事は学べるって校長先生も言ってたし、絶対に立派な魔法使いになるから!」
「モフ!」
「うん!そうだよね!またリコと一緒なら私も嬉しい!」
リコの一言で懸念が晴れたみらいはモフルンと共に改めて一緒に過ごせる事を喜んだ。
「…そうだな。いつまでも箒から落っこちたり、おにぎりを真っ二つにしたり、冷凍ミカンを半解凍したりするわけにはいかないからな」
八幡にしては珍しく少しからかうような響きを含ませた言葉をリコに向ける。
「なっ…!お、落ちてないしっ!おにぎりも冷凍ミカンも失敗したわけじゃないから!」
そんな八幡の言葉にすぐさま早口で反論するリコ。とはいえ落ちてないし失敗ではないと言いきるには些か無理があった。
「ふふっ…八くんもリコと一緒で嬉しいんだよね!」
「八幡は照れ屋さんモフ~」
二人のやり取りを見たみらいとモフルンが笑顔でそんな事を言い出す。
「……何でそうなる」
思わぬ一言でピキリと固まってしまった八幡は油の切れた機械のようにギギギと首だけ動かしてみらい達の方を半眼で睨んだ。
「だってリコと言いあってる時の八くんすっごく楽しそうなんだもん。だから八くんも嬉しいんだろうな~って」
「………」
みらいの返答に否定も肯定もする事ができない八幡は気まずそうに目線を逸らす。
「ふ、ふ~ん……ま、まあ?私がいないと、あなた達だけじゃ心配だし?仕方ないわね」
言葉とは裏腹に顔を赤くしたリコがみらいと八幡の方をチラチラと見ながらそう言った。
「……心配なのはどっちだか」
聞こえないくらいの大きさで八幡がぼそりと呟く。その口元には微かに笑みが浮かんでいた。
「そ、そういえばそのモフルンの制服はどうしたの?」
照れて赤くなった表情を誤魔化すために話題を変えようとリコがモフルンの制服へと話を向ける。
「これはジュン達にもらったモフ~♪」
「三人で作ったんだって可愛いよね~!」
モフルンはフリフリと制服を翻し、その場でくるっと回って見せた。
「似合ってるモフ?」
「ええ、とてもよく似合ってるわ」
魔法学年の制服であるマゼンタ色のトンガリ帽子とケープはモフルンに実際よく似合っている。
特にトンガリ帽子から耳がぴょこんと覗かせているところが可愛らしく、ジュン達がモフルンに合わせて丁寧に縫製した事が
「それと私はケイにこれをもらったんだ~」
「へ~…可愛いデザインの写真立てね」
写真立てを見たリコは少し意外そうな顔をして感想を漏らす。三人ではなくケイにもらったというのが少し引っ掛かったらしい。
「…忘れ物を無くすことが出来たお礼だと」
「忘れ物……?あ、今朝の…」
表情からリコの疑問に気付いた八幡が話を補足する。今朝の話なのでリコもその場にいたはずだが、その時は試験やらの事で頭がいっぱいだったのだろう。
「あ、そういえば八くんはエミリーから手紙をもらったんだよ」
「………へ、て、手紙?」
思い出したように呟かれたみらいの一言にリコは一瞬、何を言っているのか理解できずに一拍遅れて反応した。
「うん、八くんにいっぱい伝えたいことがあるからって」
「つ、伝えたいこと…!?へ、へぇ~……」
あからさまに動揺を見せたリコは口の中で小さく〝あの恥ずかしがりやなエミリーが…!?〟と呟き、考え込むように俯く。
「おーいリコ~?」
「聞こえてないみたいモフ」
俯いてしまったリコの顔の前でみらいが手を上下させるが気付いていないらしく、ぶつぶつと何かを呟いたまま動かない。
「手紙ってやっぱりそういうこと…?で、でもエミリーが八幡に…!?」
聞き取れないくらいの声で呟くリコにみらいは首を傾げ、八幡は訝しげな視線を向ける。
「リコ、どうしちゃったんだろ…?」
「……いつものことだろ」
そんな様子にみらいと八幡がヒソヒソと声を潜めながら顔を見合わせていると考え込んでいたリコがバッと顔を上げ、ギュイーンと首を動かして八幡の方を見た。
「な、何?」
リコの動きに思わずたじろいだ八幡は言葉に詰まりつつも、どうにか誤魔化して何事かと尋ねる。
「……エミリーの手紙にはなんて書いてあったの?」
少しの沈黙の後にリコが神妙な面持ちで切り出したのはエミリーからの手紙の内容についてだった。
「いや、まだ読んでないけど……」
渡された時にエミリーから読むのは後でと言われ、それからも読むタイミングがなかったので内容には目を通していない。
「そ、そう…まだ……なら今読んだら?」
八幡に手紙を読むように促すリコ。言葉こそなんでもない事を提案するものだが、その口調は有無を言わせない圧力を感じさせる。
「………読めん」
「え?」
促されてエミリーからの手紙を読もうとした八幡だったが、いざ目を通してみると何が書かれているのか全くもってわからなかった。
「…この手紙は全部マホウ界の字で書いてあるからな」
「そっか、私達マホウ界の字は読めないもんね」
理由を聞いたみらいが納得したように頷く。日常的な会話に支障がないためすっかり忘れていたが、ナシマホウ界とマホウ界では使用されている文字自体が異なり、読み解くためにはそれ相応の知識が必要だった。
「ならリコに読んでもらえばいいモフ」
「はー♪」
読めずに困っている八幡にモフルンがそんな提案をしてくる。読めないのなら読める人に頼む…それは至極当然の提案だ。
しかし、自分に宛てられた手紙を他の人に読んでもらうというのは多少抵抗を覚えないでもない。
「……そうだな、悪いが頼んでもいいか?」
それでも読まないわけにはいかないし、マホウ界を離れる現状では勉強のしようもないと最終的に判断した八幡はリコの方に手紙を差し出した。
「へ?あ、え、ええ、八幡がいいなら構わないけど……」
手紙を受け取ったリコは少し戸惑いながらもその内容に目を通して読み上げる。
「んんっ…じゃあ読むわよ?……八幡さんへ、この手紙を読んでいるという事は私は無事に手紙を渡せたようでまずは安心しました。それから━━━━」
リコが読み上げたエミリーの手紙を要約すると八幡への感謝から始まり、友達になってほしい事や今度会えたら一緒にどこかへ出掛けようという
「えっと……つまりエミリーは八くんと友達になりたかったってこと?」
「そうみたいモフ」
内容を聞いたみらいが
「うーん……」
「…どこか変なところがあったか?」
首を傾げたまま
強いて挙げるとすれば手紙で友達になってほしいと伝えられるのは少し変わってるかもしれないが、元々友達なんてどうなるのが正解という答えはないのだからそこまで気にする程の事でもないだろう。
「だってエミリーと私達はもう友達だよ?それなのに不思議だなと思って……」
「………?」
もう友達だから友達になってほしいと書いてあるのが不思議というみらいの予想外な疑問に今度は八幡が首を傾げ、〝自分とエミリーは友達だったのか?〟と考え始めた。
(友達…そもそも友達ってどこからが友達?友達の定義は…いや…え、友達……トモダチ……)
考えがまとまらずに混乱し、友達という単語自体がわからなくなってしまった八幡。というのもみらいやリコと出会うまで八幡にはまともに友達と呼べる人はいなかった。
例を挙げるなら友達だと思っていた人物から友達に嫌われるから話しかけてくるなと言われ、味方だと言ったやつは打算でフリをしていただけで陰では八幡を嫌って罠にかけようとしていたりと
そのせいで八幡にとって友達とは酷く
無論、今は違う。本人はあまり口にしないが、八幡はみらいとリコの事を大切な〝友達〟だと思っている。
けれどそれは様々な出来事を経てお互いに友達だと言葉にしたからこその関係で、一般的な友達というのは八幡にとってはまだ馴染みのないものだった。
「……友達ってどうやったら友達なんだ?」
悩んだ末に結論が出せなかった八幡の口から思わずそんな言葉が漏れる。
「友達は友達だって思ったらもう友達だよ」
誰に尋ねたつもりでもなかった八幡の呟きにみらいがフフン、と口の端を吊り上げて答えた。
「えぇ…なにその超理論……」
みらいの答えとも言えないような返答に八幡は呆れた表情を浮かべる。友達だと思うだけで友達だというならば誰も悩まない。
「そんなに難しいことかな……リコはどう思う?」
呆れる八幡の様子に再度首を傾げたみらいは他の意見を求めてリコの方に話を振った。
「これってやっぱりデートの…?でも友達って………」
話を振られた筈のリコは先程と同じように俯いた状態で何かを呟いたまま反応を示さない。
「リコー?……もしかしてまた聞こえてないのかな?おーいリコってば!」
顔の前で手を振っても気付かないリコに対してみらいは肩を揺すってさらに呼び掛けた。
「…っ!?な、なに?」
肩を揺すられた事で流石に気付いたリコがハッしてみらいの方を見る。
「なにって…リコが呼んでも返事しないから」
「え?あ、ごめんなさい…ちょっと考えごとをしてて」
素直に謝るリコ。どうやら本当に気付いていなかったようで何の話だったの?とみらいに聞き返している。
「ふわぁ……」
そんなやり取りをしている横で窓際に座っていた可愛らしい
「はーちゃん眠くなっちゃったモフ?」
「はー…」
モフルンが尋ねるとはーちゃんは眠そうに目を擦りながら答える。
「…今日は色々あったからな。はーちゃんも疲れたんだろ」
可愛らしいはーちゃんの欠伸に表情を緩める八幡。どうやらみらいの一言で友達につきて深く考えるのをやめたらしく、すでに話題を他に切り替えようとして窓の外に目を向けていた。
「それに外の景色からはわかりづらいが、もう夜遅いだろうからな」
「モフ?」
窓の外は宇宙空間のような景色が拡がっていて昼夜の区別がつかない。それでもリコがこのカタツムリニアに乗り込んだ時点で日が暮れかけており、そこから結構な時間が過ぎているため今が夜遅くである事が予測できる。
「それならそろそろ寝る準備をした方がいいわね」
「寝る準備?」
疑問符を浮かべるみらいの他所にリコは立ち上がって上の網棚からあるものを取り出した。
「大きな
「ヤドネムリンの
リコの身の丈の半分ほどの大きさを持つそれはどうやらこのカタツムリニアに備え付けられているものらしい。
「はー♪」
「ヤド…ネムリン?」
その貝殻で何をするのかと気にしているみらい達に見てなさいと言ってリコは靴を脱ぎ、両足を殻の入り口に近付ける。
━━━━スルスルスル
「え?」
「うわっ…」
するとまるで吸い込まれるようにリコの体がヤドネムリンの殻の中へと入りこんでしまった。
「この中だとよく眠れるの」
「いや、よく眠れると言われても……」
最終的にヤドネムリンの殻から頭だけを出すイモムシ状態になったリコを見て八幡はものすごく微妙な表情を浮かべる。
「あなた達のも網棚にあるわ」
「おお~!」
「え……」
少しはしゃいだ様子のみらいと嫌そうな顔をしている八幡が上を見るとリコの言う通りヤドネムリンの殻が大小合わせて四つ並んでいた。
「モフルンとはーちゃんの分もあるよ!」
「何でサイズまで合わせてあるんだよ…」
八幡が呆れ混じりのツッコミを入れる。こういうのは誰でも使えるものを何個か用意するものではないだろうか。
「はい、これは八くんの分!」
そんな事を考えていた八幡にみらいが一番大きなヤドネムリンの殻を手渡してきた。
「……俺は普通に座ったまま寝るからいい」
そう言って八幡は渡されたヤドネムリンの殻を網棚に戻すとそのまま隣の座席に移動する。
「このカタツムリニアは急行じゃないから着くのは朝よ?ヤドネムリンの殻で眠った方が休めると思うけど…」
心配するリコに慣れているから大丈夫だと首を横に振る八幡。正直なところ座って寝た事はあまりないのだが、ヤドネムリンの殻に入るのは流石に抵抗があるので
「それならいいけど……ゆっくり体を休めるのよ?明日から忙しくなるわ」
まだ少し納得していないが本人がそう言うならとそれ以上は言わない事にしたリコは向かいの座席で寝る準備をしているはーちゃんとモフルンに声をかける。
「モフー♪」
「はー♪」
ジュン達からもらった制服を丁寧に畳んだモフルンがヤドネムリンの殻に入りながら、はーちゃんと元気よく返事をすると唐突に叫び声が聞こえた。
「うわぁぁ~!?助けて~!?暗いよ~!!」
叫び声のした方を見るとそこにはヤドネムリンの殻から足だけ飛び出した状態のみらいが通路を右往左往しているのが見える。
「…入り方逆よ」
「どうやったら頭から突っ込もうって発想が出てくるんだよ……」
みらいの行動に呆れたリコと八幡はため息混じりにツッコミを入れるのだった。
みらい達がマホウ界を出発した後、魔法学校の
「リンクルスマホン…その中に住まいし妖精の子。そして伝説の魔法使いプリキュアと不思議な
一冊の本を手に取った校長がそれを開くとまるで立体映像のようにリンクルストーン達が宙に浮かび上がる。
「彼女達の行いがリンクルストーンの目覚めを呼び、その輝きは彼女達を新たな力へと導く……この繋がりが世界に何をもたらすのか…」
校長は映像のリンクルストーンを見つめながら目を閉じて呟いた。
「あまりに大きな運命の流れ…今、私に見えるのはナシマホウ界で目覚めつつある輝き。そしてそれに忍び寄る邪悪な魔法……」
その呟きに答えるかのようにキャシーが占った結果を口にすると校長は短く息を吐いてゆっくり目を開ける。
「……きっと、困難な道のりになろう」
「…今は祈りましょう。あの子達の幸運を……」
これまでの出来事をと占いの結果から校長とキャシーはみらい達を待ち受ける運命を憂い、その身を案じた。
━━━ピロン♪ピロン♪ピロン♪
無事にマホウ界から戻ってきたみらい達はMAHOKAを使って改札を通り抜け、津成木駅の入り口に到着した。
「んん~~~……!」
「……全身が痛い」
大きく伸びをするみらいの横で八幡が関節をポキパキ鳴らしながら気だるそうにぼやく。
「だから言ったのに…ヤドネムリンの殻を使わないからよ」
そんな八幡にリコは言わんこっちゃないと呆れ混じりにジト目を向けた。
「……いや、なんというか…………あ」
リコの視線から逃れるように顔を背けた八幡はその拍子に道端で思わぬものを発見して自然と声が漏れる。
「どうしたの?八くん……あ!」
「?向こうになにか……ああっ!?」
釣られて同じ方向を向いたみらいとリコも
「「「リンクルストーン!?」」だ!」
「あ、甘い匂いモフ」
まさかの発見に声を揃えて驚く三人の後に続いてモフルンがぼそりと呟く。
「いきなり見つけちゃった……」
「これは流石に予想外過ぎるぞ……」
ナシマホウ界に到着していきなり目的のリンクルストーンを見つけるという事態を前にリコと八幡は呆気にとられていた。
「金色のリンクルストーン……」
「……最後の守りのリンクルストーンだな」
ダイヤ、ルビー、サファイアに続く守りの輝き。あのリンクルストーンを手にすれば絶大なる力…エメラルドを守る四つのリンクルストーンが揃った事になる。
「ってことは新しいプリキュアになれるってこと?」
「え、ええ、そうね…でもこんなに簡単に見つかるなんて……」
「ここまであからさまだと何かが起こりそう………あ」
━━━カァーカァー
八幡がそこまで言いかけた瞬間、まるでそれが引き金になったかのように飛んできたカラスがリンクルストーンを
「「「………」」」
あまりに一瞬の出来事だったためみらい達はポカンと口を開けたまま立ち尽くす。
「はー!」
そんな中でリコの肩に乗っていたはーちゃんがカラスを追って勢いよく飛び出した。
「「はーちゃん!?」」
「待って!」
まだ飛ぶ事に慣れていないのかフラフラしながらカラスを追いかけていくはーちゃんに慌てる三人。早くはーちゃんの後を追わなければ見失ってしまう状況でリコが
「なっ…!?」
箒を振って元の大きさに戻したリコに八幡は驚愕の表情を浮かべる。戻した時に生じたピンク色の煙で何も見えないが、ここまでくればリコが何をしようとしているのかは容易に察する事ができた。
「こんな人の多い場所で魔法を……」
「キュアップ・ラパパ!箒よ、飛びなさい!!」
止めようとした八幡の言葉を遮るように呪文を唱えたリコはそのまま箒に乗ってはーちゃんの後を追いかけ、飛んでいってしまう。
━━━カァッ
━━━━はー!!
「待ってぇ!!」
はーちゃんから少し遅れて飛び出したリコはぐんぐんとスピードを上げ、駅から遠ざかっていった。
「リコ!はーちゃん!」
離れていく二人を追いかけるためにみらいも駅の外へ駆け出し、箒を取り出そうとしてポケットを探る。
「箒…箒……あれ?箒がない」
いくらポケットを確認しても箒が見つからず焦るみらい。そうしている間にも開いていくはーちゃんとリコとの距離がさらにみらいの焦りを加速させていた。
「トランクの中モフ」
「そうだった!」
モフルンの一言でしまった事を思い出したみらいは慌てて魔法のトランクを開こうとするが、どれだけ力を込めても開かない。
「あ、開かない~!?どうしよう!?」
パニックに
「っはぁ…はぁ…落ち着け、どのみちこんな場所で箒を使うのはまずい……教頭先生に言われた事を忘れたのか?」
「うぅ…それはそうだけど……」
その言葉で一旦、落ち着きを取り戻したみらいはリコの飛び去った方を見つめると不安そうな表情で八幡の方を振り返った。
「…とにかく今は走って追いかけるしかない」
八幡はみらいの表情にバツの悪さを覚えながらも、他に方法がないと走るように促す。
「急がないとリコを見失っちゃうモフ!」
「えっ…あ、う、うん……急ごう!」
気まずい雰囲気をそのままに、みらい達はリコの向かった方へと走り出していった。
「はー!!」
「待ちなさい!」
カラスを追うはーちゃんの後ろから追従してきたリコが少しずつ距離を詰めながら叫ぶ。
「はー……」
飛び慣れていないはーちゃんがここまでの距離を飛行するのはやはり難しかったらしい。はーちゃんの飛行速度が徐々に落ち始め、後ろを飛んでいるリコの肩にペタンと着地してしまった。
「っはーちゃん!無茶しないの!」
「はー…」
肩に掴まって休むはーちゃんへ少し叱るように言い聞かせるリコ。その声音には心配したという気持ちが強く含まれていた。
「…後はリンクルストーンね」
はーちゃんと無事に合流したリコはそのままリンクルストーンを咥えたカラスを追いかけて箒を走らせる。
「待ちなさ……」
ぐぅぅぅぅぅ~~
追いかけている途中、いきなりリコのお腹から大きな音が発せられ、空に鳴り響いた。
「お、お腹が空いて…力が………」
音の直後、リコの乗る箒はコントロールを失い、フラフラと空中を蛇行し始める。
「わぁっ…!わわっ!?あぁぁぁっ!?」
箒は暴れるように上下左右へ動いた後、真下の木に向いて垂直に落下した。
━━━ガサッ
「っ痛つつ……」
落ちた先が木の上だったおかげで葉がクッションになり、大きな怪我をせずに済んだリコは落ちた衝撃で少しだけ痛む体を起こして辺りを見回す。
「あっ!」
近くにある木の枝に追いかけていた筈のカラスが止まった事でリコが思わず声を上げた。
━━━カァー
リコと一瞬だけ目を合わせたカラスは何を思ったのか、ここまで咥えてきたリンクルストーンをまるでいらないもののようにポイッと首を振って放り投げる。
「っリンクルストーンが…!」
木の上から放り投げられたリンクルストーンは
ミシミシッ━━バキンッ!!
リンクルストーンの行方を確認しようと身を乗り出しすぎたせいでリコの乗っている木の枝が大きな音をたてて折れてしまう。
「っきゃぁぁぁぁ!!?」
━━━ドシンッ!!
最初に落ちた時の痛みも引かない内に再び尻餅をつくように下の茂みへと落下したリコは二度目の痛みに顔をしかめた。
「痛たた……」
「じょーぶ?」
髪に葉や枝をつけたまま起き上がり、茂みから顔を出したリコの元に飛ぶ事で難を逃れたはーちゃんが心配そうに寄ってくる。
「ぜ、全然平気よ!落ちてないから。降りただけだし……」
他に人がいるわけでもないこの状況でリコは何故かはーちゃんを相手に言い訳を繰り広げていた。
━━━ブロロロ………
「へ………?」
突如として聞こえた音に反応して周りの様子を確認したリコの口から思わずそんな声が漏れる。
━━ブォンッ━━ブブーン━━プープップ~!!
左右からリコとはーちゃんを囲むように聞こえてくるエンジン音とクラクション。行き交う無数の車はマホウ界からやって来たばかりのリコにとって見慣れない光景だった。
「な、何!?ここ!?」
二人が落ちたのは道路のど真ん中。車線を区切るために設置された植え込みから顔を突き出しているという状態だ。
「っは~~!!?」
車の速度と音に驚いたはーちゃんは慌てて隠れるようにリンクルスマホンの中に戻ってしまう。
「は……あっあー……ど、どうしたらいいの~~!?」
どこを向いても車だらけで駅の方に戻ろうにもここから動くことすらままならない。そんな現状にリコは途方に暮れ、空に向かって叫ぶのだった。
闇の魔法使い達が集う髑髏の城。しかし今は城の主たるドクロクシーと紳士の格好をしたトカゲ男…ヤモーの姿しか見えない。
「…占いに出ております。〝輝ける二つの石が
不気味に光る闇の魔法陣の上に立ち、誰もいない空間に向かって語りかけるヤモー。一見、独り言を呟いているように見えるが、足元の魔法陣を介してナシマホウ界に向かった他の闇の魔法使い達と通信が繋がっていた。
「━━つまりはこのナシマホウ界にリンクルストーンが現れると?」
武人のような
「さよう…」
この魔法は使用している間、常に回線がオープンになっているため繋いでいる全員に会話の内容は伝わっていた。
「なるほど。ダイヤが現れたこの場所…ということか」
ガメッツとヤモーのやり取りを聞いたコウモリ男…バッティが納得したように頷く。
輝ける二つの石がダイヤを指すのなら蘇りし地というのは紛れもなくナシマホウ界だという事は目の前で復活を
「ドクロクシー様は
「ふむ……戻ってくるな、なんてだいぶ切迫した状況なんですね」
他の闇の魔法使い達とは異なり、普通の人間に見える出で立ちをした女性…マキナことマンティナが思案しながら呟く。
「…この世界には前に来たことがあります。私、バッティに任せてもらいましょう」
「我、ガメッツがプリキュアを倒し、エメラルドも手にいれる」
「エメラルドをドクロクシー様にお持ちするのはこのスパルダさ」
バッティとガメッツ、それに先程まで会話に参加していなかったクモ女…スパルダの三人が自分こそは、と名乗りをあげた。
「うーん…私はもう少し様子見ですね。一番手は誰かに譲りますよ」
そんな中で一人、思案していたマキナだけが三人とはうって変わって消極的な答えを返す。
「ハッ!なんだい?随分と臆病じゃないか。びびっちまったんじゃないだろうね」
マキナを目の敵にしているスパルダがここぞとばかりに
「そうかもしれません。私、正面切って戦うのは不得手ですから」
安直なスパルダの挑発に対して肩を
「フフッ…ですからみなさんのご活躍を楽しみにしていますよ」
笑顔を貼り付けて心にもない言葉を吐いたマキナは通信魔法を切ると指を弾いてその場からいなくなった。
「リコ~!どこいっちゃったの~?」
人通りが
「流石に何の手掛かりもなく探すのは難しいか…」
その隣で同じく周囲に目を配らせていた八幡が小さくそんな事をぼやいた。
「こっちの方に飛んでいったのは確かなんだけど……」
困ったようにみらいが呟く。駅から走って追いかけたものの、空を飛ぶ箒の速度に追い付けるはずもなく、みらい達はリコとはーちゃんの行方を完全に見失っていた。
「くんくん……甘い匂いモフ!」
二人がどうしようかと考えていたその時、モフルンが鼻を鳴らして声を上げる。
「甘い匂い?それは…」
「もしかしてリコのダイヤ…!?」
顔を見合わせたみらいと八幡はモフルンの鼻を頼りに匂いの元へと走り出した。
「あっちモフー!」
モフルンが指す方に急ぐ二人。するとその先には一台の大きな車が止まっているのが見える。
「ここモフ~!」
「え…ここって……」
「お菓子の移動販売…だな」
オレンジとレッドのカラーリングをしたその車の後部ではカウンターに色とりどりの様々なクッキーが並べられていた。
「「確かに甘い匂いだけど……」」
「違ったモフ」
声を揃えてツッコむ二人へモフルンがごめんなさいモフ♪とお茶目に謝る。
「でもせっかくだから買っていこうよ。ずっと走ったりしてたからお腹が空いちゃって……」
そう言われると確かにまともな食事とったのはだいぶ前だ。そこからカタツムリニアを降り、リコを追いかけて走り通しだった事を考えればお腹が空くのも無理はない。しかし━━━
「あっ!?そういえばお金を持ってないんだった……」
その事を思い出してみらいは意気消沈する。ここがマホウ界ならば校長から渡されたお小遣い(口止め料)がチャージされているMAHOKAで買い物が出来るのだが、ナシマホウ界では使えるはずもない。
「うぅ~…買えないと思うと余計にお腹が……」
未練がましそうにクッキーを見つめるみらいに販売員のお姉さんも困ったような笑みを浮かべている。
「お金…か……」
そんなみらいの様子を見かねた八幡が自分の財布を取り出すも、やはりクッキーを買える程のお金は入っていなくなった。
(元々新刊を買うお金しか入れてなかったからな……あの時のイチゴメロンパンで
財布の中を覗いているとポイントカードや学生証などが入っている場所に微妙な隙間がある事に気付いた八幡はカード類をまとめて取り出し、その隙間を確認する。
「……これは」
カード類の間に挟まっていたのは小さく折り畳まれた千円札だった。
(そういえば何かあった時のために分けといたんだった……)
非常用にとっておいたものの、こうして見つけるまで忘れていたのでは全く意味がない。とはいえ、そのおかげで使わずに残っていたのだから結果オーライと言えるだろう。
「…千円あれば足りるだろ」
見つけた千円を手に八幡は移動販売車の方へゆっくりと歩き出した。
一方その頃、道路のど真ん中で途方に暮れていたリコは必死の思いで道路を横断し、なんとか歩道へとたどり着いていた。
「はぁ…はぁ…はぁ………」
元いた場所から歩道までの距離は近いものの、見慣れない物への恐怖や不安からリコは息を切らせながら後ろを振り返る。
「…自動車と自動二輪車…近くで初めて見たけど速さだけならペガサスといい勝負だわ……」
道路を走る自動車の速度にリコがそんな感想を漏らした。もしこの場に八幡がいれば、むしろペガサスが自動車といい勝負になる方がおかしいとツッコミをいれていたかもしれない。
━━━チャリンッチャリンッチャリンッ
安全な場所だと思って完全に気が抜けていたリコへ警告のベルと共に自転車が迫る。
「っ!?」
リコは安堵と油断から避ける事もままならず、迫る自転車をただ見つめる事しか出来ない。
━━━パシッ
ぶつかる……!そう思ってぎゅっと目を閉じた瞬間に誰かがリコの手を掴んで引っ張った。
「わぁっ!?」
突然引っ張られた事に驚くリコだったが、そのおかげで自転車との衝突は避けられたらしくほっと息を吐く。
「大丈夫?」
「あ、ありがとうございます…」
声をかけられたリコが助けてもらったお礼を口にしながら顔を上げるとそこにはカチューシャにみらいとよく似た髪の色をした女性がいた。
「掃除は感心だけど、気を付けないと」
「掃除…?」
どうやらその女性はリコの持つ箒を見て熱心に掃除をしていたと勘違いしたようでリコに優しく注意を呼び掛ける。
「あ…いえ、これは……」
ぐぅぅぅぅぅ~~
違うと言いかけた瞬間にリコのお腹から大きな音が鳴り、言葉を遮った。
「うぅ……」
羞恥心から顔を赤くしたリコがお腹をおさえて俯いてしまう。
(確かにご飯を食べたのはだいぶ前だけど…!今鳴らなくてもいいじゃない!)
鳴るのは仕方ないとしても他に誰もいない時ならここまで恥ずかしい思いもしなかったのにとリコは自分の事ながらに恨めしく思った。
「…おいでよ」
「え?」
思わぬ言葉に顔を上げて聞き返すリコに女性はふふっと微笑んで続ける。
「お腹空いてるんでしょ?
「………?」
呆気にとられているリコを他所に女性はそう言ってスタスタと歩き始めた。
「さあ、早く♪」
「あっ…はい」
誘われるがままに女性の後を追うリコ。よもや助けてくれた女性が実はみらいの母である朝比奈今日子だと、この時のリコが気付ける筈もなかった。
今日子に連れられてその家に到着したリコは店内に陳列されたアクセサリーの数々に目を奪われていた。
「わぁ…
ピンクのハートに黄色の星、水色の三日月など様々な種類のアクセサリーを前にリコの口から素直な感想が漏れる。
「パワーストーンだとかね、石のアクセサリーのお店なの」
「へぇー……」
声が聞こえたらしく、奥からお盆に乗せられたおにぎりと沢庵を持って出てきた今日子がそう教えてくれた。
「さあ、出来たわ」
「あ……ふふっ」
運ばれてきたおにぎりを目にしたリコは八幡と出会った時の事を思い出して微かに頬を緩める。
「簡単なものしか出来ないけど……さあ召し上がれ♪」
「…いただきます」
すごくお腹が空いていたせいか、リコはおにぎりを両手で持つといつもより少し大きな一口で勢いよく頬張った。
「もぐもぐ━━━ん!?酸っぱ~~!!」
今までに感じた事のない酸味に思わず口をすぼめてしまうリコ。前に八幡からもらったおにぎりの味を想像していた事もあって思いの外、驚いてしまった。
「梅干し駄目だった…?
その反応を見て申し訳なさそうな表情を浮かべる今日子にリコが慌てて言葉を重ねる。
「い、いえ、美味しいです!その…前に食べたおにぎりとは中身が違ってて……梅干しは初めて食べたので味に意表を突かれまして………」
「良かった…」
梅干しが苦手というわけではないとわかってほっと胸を撫で下ろした今日子はおにぎりを作る前に準備しておいたミキサーに牛乳注ぎ、用意したフルーツを投入し始めた。
「ミカンにリンゴにバナナにパイン♪いくよ~」
ミキサーに投入されたフルーツがあっという間に細かく砕かれて牛乳と混ざりあっていく様子をリコがまじまじと見つめる。
「これが機械……まるで魔法と一緒ね」
ナシマホウ界出身の八幡とみらいが魔法に驚いていたように、マホウ界からやって来たリコにとっては科学技術の結晶たる機械の類いが物珍しいようだった。
「よっと……どうぞ」
今日子はミキサーの上の部分を取り外し、出来上がったミックスジュースをコップに注いでリコの前に差し出す。
「んく……おいしい…!」
色々なフルーツの甘味や酸味が牛乳の風味とマッチしたミックスジュースはとても飲みやすく、リコの表情も自然と綻んだ。
「………あの、どうしてこんなに親切にしてくれるんですか?」
使い終わったミキサーを片付けている今日子を見たリコが不意にそんな事を尋ねる。
危ないところを助けてくれただけでなく、おにぎりや手間の掛かるミックスジュースを用意してくれたりと見知らぬ少女にここまでしてくれる事が純粋に疑問だった。
「ふふ…困った時はお互い様でしょ?それに……家にもあなたと同じくらいの娘がいるからほっとけなくって」
「娘さん…ですか?」
微笑みながらリコの疑問に答える今日子。もちろん今日子の指す娘というのはみらいの事なのだが、当然ながらリコが気付く筈もない。
「そうよ。困った子でね?そそっかしくて…あの時も……」
「あの時?」
そこまで言いかけると今日子は少し俯き、表情を落としてしまう。
「ううん。いきなり春休みの間なんとかって学校に行ったきりで…元気でやってるのかしら?連絡くらい寄越せばいいのに……」
しかしそれも一瞬の事で、話題を誤魔化すように首を横に振った今日子は遠くの方を見つめてそう呟いた。
まさか探しているリコが自分の家にいるなんて思いもしないみらいは八幡に買ってもらったクッキーを手に町の中を探していた。
「もぐ…リコ…もぐ…どこ行っちゃったんだろう?」
「もぐもぐ……」
「……流石に食べ歩きながら喋るのは行儀が悪いぞ」
キョロキョロしながらクッキーを口に頬張るみらいを見て八幡が呆れたように注意をする。幸いそこそこ幅のある道なので迷惑という程ではないものの、誉められた行為ではない。
「…八くんって時々、お母さんみたいなこと言うよね」
注意を受けたみらいは通行人の邪魔にならない位置で立ち止まってぽしょりと呟いた。
「…別にそんな事ないだろ」
そう言いつつも八幡は今までの言動を振り返る。確かに何度か注意をしたような覚えはあるが、それがお母さんみたいだと言われてもいまいちピンとこない。
「え~そんな事あるよ!さっきだってカタツムリニアを降りる時に〝忘れ物はないか?ちゃんと網棚の上まで確認したか?〟って何回も言ってたし……」
「あれは忘れ物すると後が面倒になるからで……」
普通の電車でも忘れ物の受け取りは面倒なのにマホウ界の乗り物であるカタツムリニアに関してはどこにどう連絡していいかすらわからない。そんな中で忘れ物に注意するのは当たり前の事だろう。
「他にもご飯を食べる時によく噛んで食べなさいとか寝る前にきちんと歯を磨いたか?とか…」
「……そんな事言ってたっけ?全然記憶にないんだが」
覚えのない言動に首を傾げる八幡。とはいえわざわざみらいが嘘をつくとも思えないので、もしかしたら無意識の内に注意していたのかもしれない。
「もぐ……八幡はお母さんモフ?」
「いや、違うから……」
とうとうモフルンにまで聞かれてしまい、八幡は半ば諦めたように否定する。あまり強く否定しないのはお母さん扱いがそこまで嫌ではないという理由もあった。
「そういえば八くんお母さんはクッキー食べないの?」
「……別にそこまでお腹は空いてないからな」
遂には名前の後にお母さんを付け始めたみらいを半眼で睨みつつ、八幡はため息混じりに答える。
「きっと八幡はリコの分のクッキーを残してるから食べないモフ」
空腹ではなないから食べないと答えた八幡に対して別の意図があった事を察したモフルンが笑顔でその理由を口にした。
「そうなの?」
「…まあ、そういう理由も無くはない」
まさかモフルンに見抜かれるとは思ってもいなかった八幡はみらいに尋ねられて誤魔化すようにそっぽを向き、
「そっかぁ…実は私もリコの分をとっておいたんだ~」
そう言ってみらいは残りが半分ほど入ったクッキーの袋を取り出した。
「…ならこの一袋を残しとくからそれは全部食べていいぞ」
流石に残しておくのは一袋で充分だろうと思い、八幡がみらいに残りを食べるように
「そうだね……じゃあ、はい♪」
八幡の言葉に頷いたみらいは袋からクッキーを一枚取り、差し出してきた。
「え、何?」
「なにって…クッキーだよ?」
どうしてという意味を込めた八幡に対して素で聞き返すみらい。思わずクッキーなのは見ればわかるとツッコミたくなるのを抑えて、八幡はどうにか言葉を絞り出した。
「………いや、そういう意味じゃなくて」
戸惑う八幡の様子に一瞬、首を傾げるみらいだったが、すぐに自分の言葉が足りなかった事に気付いて声を上げる。
「?……あっ…ええっと、私の分のクッキーを八くんと半分こにしようと思って」
「ああ…そういう……」
理由を聞いて納得したように頷いた八幡はどこか引っ掛かる部分があったのか、先程のみらいと同じように首を傾げた。
「…本当は全部あげたいけどそうしたら八くん受け取ってくれないでしょ?」
確かに残していた分を全部となるとみらいに気が引けて八幡は断っていただろう。それを見越してみらいが半分こを提案したという事はこの長いとはいえない付き合いの中で八幡の行動は読まれるようになってしまったらしい。
「だから…はい、半分こ!」
八幡は再びみらいから差し出されたクッキーをじっと見つめ、やがて観念したように受け取った。
「…………うまい」
「ふふっ…よかった。私ももう一枚食べよっと」
無事に八幡がクッキーを受け取ったのを確認したみらいは小さく微笑むとクッキーをもう一枚取り出し、並んで食べ始める。
「モフー……モフ?」
そんな中、専用のポーチにすっぽりと収まり、クッキーを食べていたモフルンが何か気付いたように鼻を鳴らした。
「どうしたのモフルン?」
「向こうから甘い匂いが近付くモフ!」
少し遠くの方を指して声を上げるモフルンに八幡とみらいが顔を見合わせる。
「きっとリコのダイヤモフ!」
「今度こそリコだね!」
「流石に二度はないはず…」
先程と違い、クッキーを食べて多少なりともお腹が膨れている今なら間違えないだろうと二人はモフルンの指した方向に目を向けた。
━━━ブゥゥゥン━━カラン…カラン……
リコを待つみらい達の横をトラックが通り過ぎ、荷台の上から小さな金色の物体が音をたてて落ちてくる。
「なんだリコじゃないや」
「ただのリンクルストーンだったな」
「ごめんモフ。違ったモフ」
それを見て残念そうな表情を浮かべた三人は肩を落として
「リコどこにいったんだろう……って、あっ!」
「はーちゃんも心配だな…早く見つけ……あっ」
「「リンクルストーン!?」」
落ちてきたのが探していたリンクルストーンだと遅れて理解した二人は声を揃えて叫ぶと大慌てで来た道を引き返す。
「あった…」
「良かった~……」
まだ誰にも拾われていなかった事に安堵する二人。しかし、それも束の間、次の瞬間には予想外の珍入者によってリンクルストーンは持ち去られる事となる。
━━━にゃ~ん♪
「あ」
「え」
道路側に面している柵の上で毛繕いをしていた三毛猫がリンクルストーンを咥え、どこかへ走り出してしまった。
「っま、待って~!?」
お魚…ではなくリンクルストーンを咥えた三毛猫を追いかけるみらい達だが、思ったより三毛猫がすばしっこく、なかなか捕まえられない。
「リコ~!どこなの~!リンクルストーン見つけたよ~~!!」
「ちょ…待……」
走る三毛猫を呼び掛けながら追いかけるみらい。そしてその後を息切れした八幡がさらに追いかけていった。
みらい達がそんな状況になっているとは露知らず、リコは飲み終わったグラスを回しながら今日子と話し込んでいた。
「あなたのご両親は?」
商品の陳列や整理をしながら今日子が何気なく話し掛ける。
「…父は考古学者、母は料理研究家で……」
「へぇ~カッコいい」
考古学者と料理研究家の夫婦と聞いて今日子の口から素直な感想が漏れた。
「二人ともあちこち飛び回っててしばらく会ってませんけど…」
目を
「…あなたの事、心配でしょうね」
「え?」
今日子はリコを真っ直ぐ見つめると柔らかく微笑んで言葉を続けた。
「子供の事を想わない親はいないから…」
元気にしているだろうか?ちゃんとご飯を食べているだろうか?寂しい思いをしていないだろうか?どれだけ離れていても親というのはいつも子供の事を考えているのだと今日子は語る。
「家の子は何かに興味を持つとすぐ周りが見えなくなって勝手に突っ走っていっちゃうんだよね…」
しょうがない子と呆れながらも今日子はどこか嬉しそうに娘の事を語り、頬を緩めた。
「……でも、やっぱり可愛いものよ」
娘を想い、静かに外を見つめる今日子に話を聞き終えたリコは何だか似てるかもと呟く。
「…こっちに一緒に来た子がいて…考えるよりも先に行動しちゃうし、自分の事よりも人のためにって子で……本当…お
「確かに家の子と似てるかも……あなたの友達」
そう言うと顔を見合わせて笑いあう今日子とリコ。似た人がいるんだなと思っているのかもしれないが、それもそのはず二人が指しているのは同じ人物である。
「友達……ええ!」
リコは力強く頷いて今もはぐれてしまった自分を探しているであろうみらい達の事を思い浮かべた。
「仲がいいのね。話してるあなたを見てわかるわ」
「まあ、一緒にいると退屈しないですから……その…捜さないと…友達を」
いつまでも話してばかりじゃいられない。リコは空になったグラスを置いて切り出す。
「そうね。お腹いっぱいになったらみたいだし……一緒に探しに行こうか?」
席を立ったリコの隣にいつの間にか歩み寄っていた今日子がそんな提案をしてくれた。
「え、お店は?」
手伝ってくれるのは嬉しいものの、今日子が出てしまうとお店が開けられなくなってしまう事を心配してリコが尋ねる。
「だから、困った時はお互い様だって。捜し物は一人よりも二人でしょ?」
「あっ……」
『捜し物なら一人より二人、二人よりも三人!』
今日子の口から出た聞き覚えのある言葉がリコの頭の中で重なり、記憶が呼び起こされた。
「どうかした?」
急に黙りこんでしまったリコを心配して今日子が声をかける。
「一人より二人……確かあの時、猫に魔法をかけて…その前は………イチゴメロンパン!!」
もしかしたらとリコはみらい達の行き先に当たりを付け、勢いよく椅子から降りて今日子の方を向いた。
「私、いってきます!」
「え?」
突然の行動と言動に戸惑っている今日子を他所にリコは深々と頭を下げる。
「色々とありがとうございました!」
リコはお礼を言うと急いだ様子で外へと駆け出した。
「う、うん。いってらっしゃい」
戸惑いながらも今日子は駆け出すリコの背中を笑顔で見送る。無事にリコが友達と会えるよう応援を込めて。
「あ!」
今日子に見送られてお店を後にしたリコは立て掛けてあった箒を危うく忘れそうに成りながらも、みらい達と合流出来るかもしれない
リンクルストーンを咥えた猫を追いかけていたみらい達は走り回った末にその行方を完全に見失っていた。
「ネコはいないしっリコもいないしっ」
「甘い匂いもしないモフ」
「二人揃って
疲れた顔でフラフラと左右に揺れながら韻を踏んだみらいとそれに合わせたモフルンに力なくツッコミを入れる八幡。
無論、八幡もみらいと同様…もしくはそれ以上に疲れた表情を浮かべているのだが、唐突なラップ口調にツッコまずにはいられなかった。
ぐぎゅるるるる~~~……
「うぅ…お腹すいた……」
大きな音で空腹を訴えるお腹を押さえ、みらいはその場に立ち尽くす。
「………はあ…仕方ない……ほら」
「あ…クッキー……」
まるで幽鬼のような状態のみらいを見かねて八幡がリコのためにと取っておいたクッキーの袋を取り出した。
「……は!?だめだめっ…!!それはリコのために取っておくんだから!」
無意識の内にクッキーの袋へ手を伸ばしていたみらいは寸前で踏みとどまり、ぶるんぶるんと振り払うように首を振る。
「二、三枚なら食べても大丈夫だろ」
幸いクッキーは一袋に十枚ほど入っているため、それくらいならばリコの分が無くなってしまう心配もない。
「……ううん、やっぱりだめ。それは全部リコの分だもん」
「…そうか」
再度、首を横に振って断るみらいに八幡もそれ以上薦める事はしなかった。
ぐぅぅぅぅ~~……
「うぅ…でもやっぱりお腹すいたよ~……こんな時はクッキーよりも大きくて甘いもの~……」
もう一度お腹を鳴らしたみらいはうわ言のように呟きながら空に向かって両手を伸ばす。
「食べたいなぁ……イチゴメロンパン………」
空に思い浮かべるのは大好きなイチゴメロンパン。マホウ界には当然そんなものはなかったのでしばらく食べられなかった分、なおさら食べたくなっていた。
「…ああ、あの日食べたあれか……」
みらいの言葉でマホウ界へと出発した日に三人でイチゴメロンパンを食べた事を思い出しながら八幡が呟く。
「「……あ!」」
「どうしたモフ?」
同時に声を上げたみらいと八幡に少し驚いた様子のモフルンが首を傾げた。
「もしかして…!」
「…可能性はあるな」
「モフ?」
互いに考えている事が同じだと気付いた二人は小首を傾げるモフルンを他所に顔を見合わせ、その方向へと足を向ける。
「行かなきゃ!……あの場所へ!!」
こうしてみらい達は思い浮かべたある場所に向かって走り出した。