やはり俺が魔法使いでプリキュアなのはまちがっている。   作:乃木八

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第十一話「ただいま!ナシマホウ界!やっと帰れる……ってリコはどこ?」Bパート

 

みらいと八幡は目的の場所を目指して住宅街を抜け、緑に囲まれた道を走っていた。

 

「はっはっはっ……」

「はぁ…はぁ…はぁ……」

 

ここまでずっと走ってきたせいで体力の限界が近い二人は息を切らしながらもあと少しで着くはずだと足を動かし続ける。

 

「あ!イチゴメロンパンのお店モフ!」

 

見えてきたピンク色の移動販売車にモフルンが声を上げた。

 

 

「みらい~~!八幡~~!」

 

 

みらい達が走ってきたのとは反対側の道からリコが二人の名前を呼びながら走ってくるのが見える。

 

「リコ~~!」

 

リコの姿を見つけたみらいはさらにスピードを上げて駆けだした。

 

「「はぁ…はぁ…はぁ……」」

 

「モフー!」

「はー♪」

 

イチゴメロンパンのお店の前で合流した二人は互いに息を切らしながらも手を合わせて再開を喜びあう。

 

「い、いや…はぁ…はぁ…速すぎ……」

 

みらいから少し遅れて八幡も合流し、無事に全員揃った。

 

「やっぱりここだったね!」

 

出会った時の事を思い出しながら嬉しそうにみらいが言う。ナシマホウ界でみらい達三人が共通してわかる場所といえば真っ先に思い浮かんだ場所がここだった。

 

「ここに来ると思ったよ!」

「こっちこそ!みらいの考えなんてお見通しよ」

 

喜ぶみらいを前にリコも口元を綻ばせて照れたように目を逸らしながら答える。

 

「あ、そうだ!八くん!クッキー!」

「あ?……あー…そうだったな」

 

みらいの言葉でクッキーの存在を思い出した八幡は持っていたクッキーの袋をリコに差し出した。

 

「これは……?」

「リコの分のクッキーだよ。さっきリコを探してる途中に見つけて美味しそうだからって」

「見つけたっていうより間違えただろ」

 

戸惑うリコへみらいが説明し、八幡が捕捉する。

 

「私の…って事はみんなはもう食べたの?」

「うん!だからそれはリコがたべて━━」

 

ぐぅぅぅぅ~~~

 

そこまで言いかけたみらいのお腹から本日何度目になるかわからない音が鳴り響いた。

 

「「……………」」

「えっと…これはその……」

 

何とも言えない表情を浮かべる二人に対してみらいはどうにか誤魔化そうと頭を捻るが何も思い付かない。

 

「……みんなで分けて食べましょう」

「ハイ……」

 

優しく諭すようなリコの一言にみらいはおとなしく頷くほかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クッキーを食べ終えた一同は木々に囲まれた道の先にある噴水広場まで足を進めていた。

 

「…ここでリコに魔法を見せてもらったっけ」

 

歩きながら辺りを見回していたみらいが不意にそんな事を呟く。

 

「猫とのお喋り……」

「…ペラペラと喋ってたな」

 

みらいの呟きで八幡はその時の事を思い出し、言葉に少し含みを持たせた。

 

「……あ、あれば失敗じゃないし」

「ふふっ……」

 

プイッと視線を逸らして口を尖らせるリコにみらいが思わず笑みを(こぼ)す。

 

「ぐ……猫がいたらもう一度見せてあげるわ。今度は必ず成功するんだから…!」

「…今度って事は前のは失敗だったって認めてるようなもんだろ……」

 

失敗ではないと言いながら今度は成功させるという矛盾に八幡は呆れたようにツッコミをいれた。

 

「確かあの時は木の上に猫がいて……あ」

 

そう言って木の上を見上げたみらいの口から間の抜けた声が漏れる。

 

「?どうしたのみら……あ」

「何か……あ」

 

声に釣られて木の上を見上げたリコと八幡もそれを目にすると同時にみらいと同じく声を上げた。

 

「猫さんモフ!」

「はー!」

 

視線の先にいたのはみらい達の目の前でリンクルストーンを咥えて逃げたあの三毛猫だった。

 

思わぬ遭遇に驚くみらい達とは対称的に落ち着いた様子の三毛猫はしぺしぺと毛繕いを始める。

 

「…さっきまで追い回してたのに全然警戒されてないな……」

「もしかして私達だって気付いてないのかも」

 

警戒していないなら今がチャンスだと思ったみらいと八幡が三毛猫から視線を離さないようにしてジリジリと木の方に詰め寄った。

 

「もうちょっと…あと少し……」

「そういえばどうやって木の上にいる猫を捕まえるんだ?」

 

木までの距離があと僅かのところで、八幡はふと浮かんだ疑問をそのまま口にする。まさか木によじ登って捕まえるわけにもいかないだろう。

 

「………どうしよう」

「…なにも考えてなかったのかよ」

 

薄々察してはいたものの、本当にノープランで捕まえようとしていた事に呆れる八幡。とはいえ何も考えていなかったのは八幡も同じなので流石にそれ以上は言及を避けた。

 

「……仕方ないわね。ここは私が━━」

 

二人の様子を黙って見守っていたリコがそう言って箒を取り出そうとした瞬間、木の上にいた三毛猫が音もなく飛び降りて脱兎のように走り去ってしまう。

 

「「あ」」

 

突然の逃走にみらいと八幡の声が揃った。逃げ出す事を予期していなかったわけではないが、タイミングがあまりに予想外だ。

 

リコが箒に手をかけただけで、近付いても逃げ出さなかった三毛猫が逃走するとは思わなかった。

 

何かを察したのか、それとも警戒するふりをして逃げ出すタイミングを計っていたのかはわからないが、ともあれリンクルストーンを咥えた三毛猫は逃げ出してしまったのだ。

 

「…ってぼーっとしてる場合じゃないでしょ!?早く追いかけないと!!」

「え?あ、そうだった!」

「…もうだいぶ遠くまで逃げられてるぞ」

 

我に返ったリコの一言で一同は慌てて走り出し、逃げ出した猫の後を追いかける。

 

「ま、待って~!!それ食べ物じゃないよ~!!」

「…流石にあの猫もそれはわかってるだろ」

「喋ってないで急ぎなさい八幡!」

 

三毛猫を追いかけて木々に囲まれた道を駆け抜けるみらい達。少し出遅れた事もあって見失わないまでも中々追い付けない。

 

━━━シュルシュルシュル

 

「ニャー!?」

 

そんな中、追いかけていた三毛猫が前方から突然伸びてきた糸のようなものにからめとられて引っ張りあげられ、宙を舞った。

 

「えっ!?」

「猫さん飛んだモフ!」

 

突如として浮き上がった三毛猫にリコとモフルンが驚きの声を上げる。光の加減で糸が見えなかったらしい。

 

「いや、あれは糸で引っ張られてる…!」

「糸…?もしかして━━」

 

糸に気付いた八幡が苦々しい表情を浮かべ、隣を走るみらいもそれを見て一つの可能性に行き着く。

 

「フフッ…アンタ達もこっちにいるとはね」

「っお前は…!」

 

引き寄せた三毛猫を片手に邪悪な笑みを浮かべるクモ女━━闇の魔法使いスパルダがみらい達の前に立ちはだかった。

 

「リンクルストーン頂くよ!」

 

スパルダは猫を顔の前まで持ち上げると咥えているリンクルストーンに目をやる。

 

「…何だ、エメラルドじゃないのか」

「フシャァァ!」

 

目的のものではないとわかって舌打ち混じりに声を荒げるスパルダ。それに対して首根っこを掴まれて持ち上げられた三毛猫は毛を逆立て、スパルダを威嚇する。

 

「フンッ……」

 

三毛猫のそれを取るに足らないと鼻で嗤ったスパルダへと抜け落ちた一本の毛が風で流された。

 

 

「むぐっ…は……ハックションッ!!

 

 

流されてきた猫の毛に鼻をくすぐられたスパルダの口から大きなくしゃみが飛び出してつんのめりそうになる。

 

「ゥニャァァ!!」

 

その瞬間、今が逃れるチャンスだと感じたのか、スパルダに捕まれたままの三毛猫がじたばたと暴れた。

 

カランコロン━━━━

 

「っしまった!?」

 

くしゃみによって崩れた体勢で激しい抵抗を受けた結果、スパルダ手から三毛猫とリンクルストーンが転げ落ちる。

 

「っ今なら!」

 

スパルダの手を離れ、ころころと転がるリンクルストーンの元へと八幡が駆け出した。

 

「チッ!そうはさせないよ!!」

 

リンクルストーンを取られまいとスパルダが八幡に向けて勢いよく糸を放つ。

 

「っ!?」

 

放たれた糸は(あやま)たず八幡を捕らえ、その勢いのまま近くにあった木の幹に巻き付いた。

 

「がっ!?」

 

縛り付けられた際に背中を強打したらしく八幡の口から苦悶の声が漏れる。

 

「八くんっ!」「八幡っ!」

 

みらいとリコが心配して駆け寄るも衝撃で気を失ってしまったようで八幡からの反応がない。

 

「フンッ、これでいつもみたいにちょこまかと邪魔は出来ないだろ?」

 

動きを封じられて意識を失った八幡を嘲笑ったスパルダが今度はアンタ達の番だと髑髏の杖を取り出した。

 

「魔法、入りました!いでよ、ヨクバール!!」

 

スパルダの足元からクモの巣が放射状に拡がると魔法陣を形作り、猫の毛と近くに停めてあったらしいバイクが吸い込まれていく。

 

「ヨクバール!」

 

魔法陣の中から現れたのは巨大なバイクとそれに跨がる身体は猫で頭は猫耳を生やした髑髏という珍妙な姿のヨクバールだった。

 

ブォンッ!ブォンッ!ブォォンッ!!

 

ヨクバールは肉球の付いた前足でエンジンを吹かし、後部の排気管から紫色の煙を撒き散らす。

 

「変身するモフ!」

「で、でも……」

「八幡が……」

 

意識を失ったままの八幡を見て迷う二人。襲いかかろうとしているヨクバールをどうにかしなければならないのはわかるが、八幡をこのままにしておくわけにもいかない。

 

「八幡はモフルンがどうにかするモフ!」

「はー!」

 

二人の心配を取り払おうとしてそう言ったモフルンに続いてはーちゃんも任せろと言わんばかりに胸を張った。

 

「モフルン…はーちゃん……」

「…うん、じゃあ八くんの事は任せたよ!」

 

モフルン達の言葉で任せる事を決めた二人はヨクバールをまっすぐ見据えて手を繋ぎあう。

 

 

「「キュアップ・ラパパ!!」」

 

 

呪文を唱え、天高く掲げられた二人の手から青く澄んだ光が飛び出した。

 

「モッフー!!」

 

青い光は不規則な軌道を描きながらモフルンへと導かれる。

 

 

「「サファイア!」」

 

 

「モフッ♪」

 

モフルンにセットされたリンクルストーン・サファイアが弾け、青く輝く泡沫となってみらい達を包み込んだ。

 

 

「「ミラクル・マジカル・ジュエリーレ!!」」

 

 

手を繋ぎ合ったみらい達の足下から波が渦巻いてハートを形作り、青い輝きがみらいとリコの姿を変えてゆく。

 

 

━━━━━タンッ

 

 

魔法陣を潜り抜け、人魚を彷彿させる衣装を身に纏った伝説の魔法つかいが弾ける光と共に降り立った。

 

 

「ふたりの奇跡!キュアミラクル!」

 

「ふたりの魔法!キュアマジカル!」

 

 

「「魔法つかいプリキュア!!」」

 

 

深き知性の蒼を宿したプリキュア・サファイアスタイル……再臨の瞬間である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハッ、今日は青かい。いいねぇ……」

 

二人の姿にスパルダがニヤリと底意地の悪そうな笑みを浮かべた。

 

「ヨクバール!奴らの顔色も真っ青にしてやりな!」

「ギョイ!」

 

指示を受けたヨクバールはエンジンを吹かし、轟音を響かせてプリキュアへと突撃する。

 

「「ふっ!」」

 

迫るヨクバールに対し、二人はサファイアスタイルの特色である飛行能力を駆使して立ち回り、翻弄していた。

 

「っはぁ!」

 

ヨクバールの鋭いツメを掻い潜って裂帛(れっぱく)の気合いと共に拳を繰り出すミラクル。しかし、ヨクバールの素早い反応によっていとも簡単にいなされてしまう。

 

「ふっ!」

 

今度は背後からマジカルが蹴りで強襲するも、先程のミラクルと同様に素早く反応され、吹き飛ばされてしまった。

 

 

 

 

 

 

「八幡起きるモフ!」

「はー!はー!」

 

ミラクルとマジカルがヨクバールと激しい攻防を繰り広げている一方でモフルンとはーちゃんが縛られいる八幡の体を揺さぶって呼び掛けていた。

 

「うっ……」

 

外部から刺激を受け、至近距離で呼び掛けられた事で微かに意識を取り戻した八幡が呻くように声を漏らす。

 

「八幡しっかりするモフ!」

「モフ…ルン…?」

 

名前を呼ばれ、徐々に意識がはっきりしてきた八幡は状況を確認するように首だけ動かして周囲を見回した。

 

「あいつらは…もう変身してる、か……なら」

 

少し遠くの方で聞こえる戦闘音からそう結論付けると自分が出来る事をするために脱出を試みる八幡。だが、思った以上にきつく縛りつけられており、まともに動くことすら出来ない。

 

「せめて杖を取り出せれば……」

 

上着の内ポケットに入っている杖が手にあれば魔法を使って糸をどうにか出来るかもしれないが、縛られている八幡には難しく、その上、糸のせいで取り出すこと事態が困難になっていた。

 

「だったらモフルンに任せるモフ!」

 

そう言うとモフルンは八幡を縛っている糸に掴まってよじ登り、上着の内ポケットへと手を伸ばす。

 

「モフ~~ッ!モフ~~ッ!」

 

どうにか杖を取り出そうと上着を引っ張っるモフルンだったが、やはり糸が邪魔をして内ポケットに手を入れる事も叶わない。

 

「…だめモフ。びくともしないモフ」

 

モフルンの力ではどうやっても杖を取り出すのは不可能。糸の方を全力で引っ張ればその部分が少しだけ緩むが、そうしている間はモフルンが動けないためどちらにしても杖を取り出す事はできなかった。

 

「っやっぱり駄目か…」

 

もう一度自分でも力を込めて脱出を試みるも徒労に終わり、無理矢理動いた反動の痛みだけが残る。

 

「━━━いくらもがいても無駄だよ」

「っ!」

 

声のする方を向くと戦闘をヨクバールに任せ、八幡達が脱出しようとする様子を見ていたらしいスパルダがニヤニヤと嫌な笑みを浮かべていた。

 

「いい気味だねぇ……いつも邪魔をしてくるアンタにはそこでプリキュアがやられる様を思う存分に楽しんでもらうよ」

 

スパルダはそこまで言うと満足したのかその場を後にし、戦闘音のする方へ向かっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キィィィィ━━━━!!

 

派手な音をたてて撹乱するように縦横無尽に走り回るヨクバール。そしていつの間にか辺りには紫色の煙が立ち込めていた。

 

「っ速い…!」

「それにこの煙は……」

 

体勢を立て直すために上空へと避難した二人はヨクバールの速度と煙の厄介さに舌を巻く。

 

幸い煙に即効性の毒のような効果はなく、速度が速くとも地上を走るだけなので空を飛べるサファイアスタイルで対応できているものの、このままでは(らち)が明かない。

 

いつもならこういう場合八幡がサポートして状況を好転させてくれるのだが、今はそれを封じられている。

 

「ヨクバールッ!」

 

加速をつけたヨクバールが空中にいる二人目掛けて砲弾のように飛び出した。

 

「なっ!?」

「うそっ!?」

 

まさか空の上まで追撃してくるとは思いもせず、咄嗟(とっさ)の対応が遅れてしまった二人は無防備を(さら)してしまう。

 

「ヨクッ!!」

 

当然、ヨクバールがそんな隙を見逃してくれるはずもない。交差するように振り下ろされた鋭い爪がミラクルとマジカルを容赦なく襲う。

 

「「きゃぁぁぁっ!!?」」

 

ヨクバールの攻撃をまともにくらってしまった二人はそのまま地上へと叩き落とされてしまった。

 

 

━━━━なんだ?

 

━━━━空から人が降ってきた!?

 

━━━━何これ映画の撮影?

 

 

突如として空から派手に落ちてきた人影に困惑する通行人が見える。それもその筈、二人が落ちた場所は道路のど真ん中だ。

 

休日の昼すぎという事もあり、人通りも決して少なくはない。そんな中で日常を切り裂くような轟音と衝撃を撒き散らしたのだから視線が集まるのも無理はなかった。

 

「━━こっちの物も中々だねぇ?良いヨクバールが出来るじゃないか」

 

ミラクルとマジカルを見下ろす形で信号機の上に降り立ったスパルダが自身の生み出したヨクバールの出来を満足げに確認する。

 

「スピードには自信があるみたいだけど……あたしらの方が上だよ!」

 

「ヨックバールッ!」

 

スパルダの声に合わせたかのように、森を突き抜けてきたヨクバールがミラクルとマジカルの前へと躍り出てきた。

 

 

━━━━ば、化け物だっ!!?

 

 

困惑から一転、誰かがそう叫んだのを皮切りに悲鳴を上げて逃げ惑う人々。ほんの数分前までは穏やかな休日を過ごしていたはずなのにヨクバールという非日常(かいぶつ)の登場によってあっという間に崩れ去ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、八幡達は縛り付けられた糸を相手に四苦八苦していた。

 

「モフ~~……!!」

「ぐっ…!」

 

モフルンと八幡が呼吸を合わせて力を入れてみても片腕すら抜け出せず、それどころか余計に食い込んだ糸のせいでじんじんとした鈍い痛みが響いてくる。

 

「八幡大丈夫モフ?」

「じょーぶ?」

 

心配そうに八幡の顔を覗き込むモフルンとはーちゃん。痛みが表情に出ないよう気を付けていたつもりだったが、どうやら見抜かれていたらしい。

 

「…大丈夫だ。むしろこっちよりもモフルンの方がきついだろ」

 

小さな体躯であれだけ強靭な糸を引っ張り続けたのだからその負担は決して軽くはないだろう。

 

「モフ~モフルンも大丈夫モフ!」

 

モフルンは笑顔でそう答えるも疲労の色を隠しきれていない。二人共このままではあと二、三回脱出を試みたところで気力も体力も尽きてしまう。

 

「…はー!はー!」

 

疲れた様子の二人を見たはーちゃんは何かを訴えるように声を上げた。

 

「はーちゃん?」

「どうしたモフ?」

 

怪訝な表情を浮かべる二人にどうしたいのか伝えようとはーちゃんは小さな手足をぱたぱたと一生懸命動かす。

 

「はー!はー!はー!!」

「え~と…モフモフモフ?」

「……それ本当にわかってる?」

 

それを見てもふもふ頷くモフルンに八幡は胡乱(うろん)げな視線を向けた。

 

「わかったモフ!はーちゃんに任せるモフ」

 

そんな八幡の視線を他所にはーちゃんの提案?を了承したらしいモフルンはもう一度糸を掴んで力を込める体勢を作る。

 

「…また引っ張るのか?」

「そうモフ。モフルンがせーのって言ったら八幡は思いっきり後ろに力を入れてほしいモフ」

 

後ろに…という事は縛り付けられているこの木に向かって背中を押しつければいいのだろうか?

 

正直それでどうなるとも思えないが、他に何か手があるわけでもないため一先ず言われた通りにしようと八幡はモフルンの合図を待った。

 

「二人共準備はいいモフ?」

「はー!」

「ああ」

 

糸に両手をかけたモフルンはそこから八幡の体に両足をつけ、より力が入るようにしてから大きく息を吸う。

 

「いくモフ……せーのっ!!」

「っ!!」

 

合図を聞いた八幡が力を入れるのと同時にモフルンは上着の内ポケットに近い糸を思いっきり引いた。

 

「モフ~…!!」

 

モフルンが引っ張り、八幡が力を込めた事で少しだけ糸が緩んで上着と下の服の間に僅かな隙間ができる。

 

「はー!」

 

その隙間に向かってはーちゃんが飛び込み無理矢理中まで入り込むと内ポケットに入っている八幡の杖を掴んで引っ張り出した。

 

「は~~!?」

「モフッ!?」

 

きゅぽんっという効果音が聞こえてきそうなほど勢いよく抜けたせいか、はーちゃんがくるくると宙を舞い、驚いたモフルンは両手を離してしまう。

 

「……大丈夫か?」

 

目を回してふらふら浮いているはーちゃんと勢いよく尻餅をついたモフルンを心配して声をかける八幡。二人とも派手に飛び、落下したためどこかを痛めている可能性もあった。

 

「は、わぁ……」

「だ、大丈夫モフ」

 

まだ少し目が回っていたり、お尻が痛んだりするものの幸い大きな怪我の類いはなかったらしく八幡は安堵の表情を浮かべる。

 

「モフ……ってそれよりも早く脱出してミラクル達の方に急ぐモフ!」

「はー!」

 

ハッとしたようにモフルンは声を上げ、はーちゃんが持っている杖を八幡の手に握らせた。

 

「さっきのは杖をを取るための……」

 

杖を受け取った八幡は納得したように、けれど眉根を寄せて呟く。

 

確かに脱出は無理でもはーちゃんなら隙間から杖を取り出す事ができた…が、もしモフルンが途中で力尽きて手を離していたら糸に圧迫され、最悪潰されていたかもしれない。

 

概要を事前に知らされていたら八幡は危ないからという理由で反対していただろう。

 

「八幡!急ぐモフ!」

「っ…ああ、そうだな」

 

モフルンの声で我に返った八幡はここで考えても仕方ないと思考を打ち切り、杖をぎゅっと握って呪文を唱えた。

 

「キュアップ・ラパパ━━━━━」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっという間に誰もいなくなっちまったねぇ」

 

閑散とした道路を見たスパルダがニヤニヤしながら呟く。

 

「酷い話じゃないか。倒れているアンタ達をほっといて我先にと逃げ出すなんて」

「「っ……」」

 

黙ったままの二人に対してスパルダは嗜虐(しぎゃく)的な笑みを浮かべると声を大にして言葉を続けた。

 

「この世界の連中と来たらマホウ界の奴らに輪をかけて情けないねぇ!━━━魔法も使えないとは、惨めなもんさ」

 

(けな)し、嘲笑(あざわら)い、愉悦(ゆえつ)(ひた)るスパルダ。彼女にとって闇の魔法に劣るマホウ界の魔法すら使えないナシマホウ界の人間は嘲笑(ちょうしょう)の対象でしかない。

 

「……!」

 

悪意のこもった言葉を聞いたマジカルは拳を固く握り、強い意思を秘めた眼差しで真っ直ぐスパルダを見据えながら立ち上がる。

 

「あなたにはわからないでしょうね…」

「マジカル?」

 

隣で倒れているミラクルが立ち上がったマジカルを見上げた。

 

「優しくて……暖かいの!」

 

マジカルはゆっくりと上昇しながら胸に手を当て、親切にしてくれた今日子の事を思い浮かべる。見ず知らずの自分に優しくしてくれた暖かさを。

 

「マホウ界も!この世界の人も!!」

 

だからこれ以上馬鹿にするのは許さないという想いを抱えてマジカルはスパルダの前に立ちはだかった。

 

「しゃらくさいねぇ……」

 

目の前のマジカルを一瞥(いちべつ)し、それが何だと言わんばかりに声を上げる。

 

「どっちの連中もいずれ…みんな仲良く闇に消えるのさ!」

 

スパルダの言葉に呼応するかのようにヨクバールは何度もエンジンを空吹かして煙を撒き散らした。

 

「っそんなことさせない!」

 

倒れていたミラクルがよろめきながらも立ち上がり、宙に浮かんでマジカルの隣に並び立つ。

 

「ここにはお父さんやお母さん…おばあちゃん…友達のみんな……私の大切な人がいっぱいいるの!」

 

痛くても怖くても諦めない。

 

大好きで大切な人達を守るために。

 

「マジカルの言う通りだよ……マホウ界も…私達の世界も━━━みんな暖かくて大切なんだから!!」

 

強い想いのこもったミラクルの叫びに一瞬、忌々しそうな視線を向けるスパルダだったが、すぐに表情を戻すとその言葉を一笑に()した。

 

「ハッ、くだらない……ヨクバール!」

「ヨクバール」

 

指示を受けたヨクバールがバイクを急発進させて二人に襲いかかる。

 

「「ふっ!」」

 

迫るヨクバールに対し、ミラクルとマジカルはまるで誘導するかのように背を向けて飛んだ。

 

「ヨクバールッ!!」

 

プリキュアの後を追ってスピードを上げ、並木道を爆走するヨクバール。平時なら人通りは決して少なくない並木道だが、幸いな事に怪物騒ぎで付近の人達は全員避難したらしく誰かを巻き込む心配はない。

 

 

ヨクバールは木々の生い茂る並木道を抜け、レールのようにカーブを描いている陸橋道路の真横を走り、排気管から炎を吐き出して空を駆けるプリキュアに追い(すが)った。

 

「バァールッ!!」

 

車体を宙に浮かせたヨクバールはスピードに任せて空高く飛び上がると陸橋道路に着地し、減速しないままコーナーを曲がって上へ下へと二人を追いかけチェイスを繰り広げる。

 

連続したカーブも終わりに差し掛かり、プリキュアとヨクバールの行く手には一際大きな高層ビルが見えてきた。

 

「ヨクッ!」

 

最後のカーブを無視して陸橋を飛び出したヨクバールが高層ビルの方に向かう二人に追いつくためさらに加速する。

 

「いくら速くても…」

()()()なら!」

 

前方の高層ビルと加速したヨクバール、そしてその後ろに目を向けてからアイコンタクト交わす二人。どうやら何か作戦を思い付いたらしく高層ビルの前まで飛んだ二人は、そこで急上昇すると壁面ギリギリの距離を保ちながらヨクバールを引き付ける。

 

「ヨクッバール!!」

 

眼前に高層ビルが迫っている中、速度を緩めるどころかさらに加速したヨクバールはスピードに任せて重力に逆らい、ビルの壁面を垂直に登り始めた。

 

とはいえ、先程のチェイスから飛んだり跳ねたり陸橋の側面を爆走したりと常識外の走りを見せていたため、ヨクバールがビルの壁面を登ってくるであろう事は二人にとって予想通り。

 

タイミングを見計らってミラクルとマジカルはヨクバールを挟むように前後へ回り込む。

 

「やぁぁぁっ!!」

 

ヨクバールの正面からマジカルが回転による遠心力を加えた鋭い突きを放った。

 

「ヨクバッ!」

 

ハンドルから片手を離したヨクバールは猫の特徴を引き継いだその肉球で勢いよく繰り出されたマジカルの拳を受け止める。

 

「はぁぁぁっ!!」

 

今度はヨクバールの後ろからマジカルと入れ替わるように急上昇したミラクルがそのまま急降下。

 

落下の勢いを利用した強烈な蹴りをヨクバールにお見舞いした。

 

「ヨッ!?ヨクバール!!?」

 

ミラクルの蹴りをまともにくらったヨクバールはバランスを崩し、派手なブレーキ音と共にビルの壁面をスピンしながら落ちていく。

 

「「ふっ!!」」

 

落下するヨクバールの真横を抜けたミラクルとマジカルは地面まで一直線に飛んで着地。そしてその勢いのまま力いっぱい地面を蹴って飛び上がり、落ちてくるヨクバールに向けて同時に蹴りを放つ。

 

「ヨックバール~!?」

 

蹴りあげられたヨクバールは落下してきた軌道を逆走するように吹き飛び、それを追ったミラクルとマジカルが一気に加速してその背後へと回り込んだ。

 

「「っはぁぁぁぁぁ!!」」

 

手と手を繋ぎ合わせた二人から裂帛(れっぱく)の気合いと共に掌底が突き出され、吹き飛んできたヨクバールをビルの真下へと叩き落とす。

 

「ヨクバ~ル~ッ!?」

 

ヨクバールの巨体が叩きつけられた衝撃と轟音が辺りを揺るがし、コンクリートで舗装されている地面に出来たクレーターがその威力を物語っていた。

 

「…空中攻撃で反撃の隙を与えないってわけかい?」

 

少し離れたところで様子を窺っていたらしいスパルダがそんな分析を口にしながらヨクバールの方に近付く。

 

「━━ヨクバールっ!気合い入れな!!」

 

分析を踏まえた上でスパルダが下した命令はまさかの根性論。とにかく気合いを入れて攻撃に耐え、気合い入れて攻撃しろというブラックなものだった。

 

「ギョイ」

 

どんな無茶な命令だろうとヨクバールには従う以外の選択肢はない。派手に舞っている土煙の中で体勢を整えたヨクバールは持てる力の全てを注いでプリキュアに向かっていく。

 

「ヨクバールッ!」

 

今までも十二分に速かったヨクバールの速度が更に上がり、その巨体は凶悪な破壊力を持つ砲弾と化していた。

 

「「………」」

 

いくら伝説の魔法使いプリキュアと言えどもこの一撃をまともに受ければ一溜(ひとた)まりもない。にもかかわらず二人は避ける素振りすら見せないまま、その場で静かに目を(つむ)る。

 

()()()()()()()()()()()()()()━━━━

 

 

「キュアップ・ラパパ!」

 

 

「なっ!?」

 

突如として聞こえてきた呪文に驚愕の表情を浮かべるスパルダ。なぜなら今しがた呪文を唱えたであろう人物はスパルダ自らが糸で動きを封じ、木に縛りつけて拘束した筈なのだ。

 

その人物がここにいるという事はスパルダの拘束は打ち破られたことになる。今まで散々虚仮(こけ)にしてくだらないと評した〝魔法〟に、だ。

 

「…どこまでもアタシの邪魔をしようってのかい━━比企谷八幡っっっ!!」

 

怒りと怨嗟に満ちたスパルダが見つめる先には両肩にモフルンとはーちゃんを乗せ、箒の上に立ちながら杖を振り上げる八幡の姿があった。

 

 

「バイクよ━━━滑れ!」

 

 

スパルダの叫びを他所に呪文を唱えた八幡は爆走するヨクバールへと杖を振り下ろす。

 

 

━━━━つるんっ

 

 

ビルの壁面を爆走していたヨクバールのバイクがまるで氷の上でも走ったかのように突然滑り始めた。

 

「ヨクッ!?」

 

コントロールを失ったバイクはそのスピード故に止まることなく滑り続け、スピンを繰り返しながらプリキュアの真横を通り過ぎる。

 

「ヨッヨッヨッヨッヨクバ~ル~……!?」

 

ヨクバールは回転を続ける車体に振り回されたまま猛スピードで屋上を抜け、さながら射出される飛行機のように大空へと放り出された。

 

「今モフ!」

 

それを見たモフルンが八幡の肩越しに叫び、ミラクルとマジカルはヨクバールを真っ直ぐ見据える。

 

 

「「リンクルステッキ!」」

 

「モッフ~~!!」

 

 

モフルンの胸元にセットされたリンクルストーンから溢れだした青き光が伝説の杖を構える二人の元に集った。

 

 

「「サファイア!」」

 

 

リンクルステッキの柄にセットされていたリンクルストーンがサファイアに変わる。

 

 

「「青き知性よ……私達の手に!」」

 

 

青の輝き宿したリンクルステッキを手にした二人は正面に螺旋を描くように大きく腕を振るった。

 

 

「「フル♪フル♪リンクル━━♪」」

 

 

宙に描き出された螺旋が小さな雫を(かたど)ると、やがてそれは巨大な雫として浮かび上がり、落下してくるヨクバールの足元に魔法陣を出現させる。

 

「ヨッ!?」

 

目を回して訳のわからないままのヨクバールには()(すべ)もなく、現れた魔法陣はその動きを完全に封じた。

 

 

トンッ━━…

 

 

高く昇った碧の月を背に、目を閉じたまま巨大な雫の上へと降り立つ二人。そして静かに手を繋ぎ合わせて閉じていた目をゆっくりと開く。

 

 

「「プリキュア━━━……」」

 

 

二人の手にあるリンクルステッキから光が零れ落ちて巨大な魔法陣を形作った。

 

 

「「サファイア・スマーティッシュ!!」」

 

 

呪文と共に魔法陣から幾重にも別れた水の奔流が飛び出し、加速しながら動きを封じたヨクバールへと迫ってその巨体を呑み込む。

 

「ヨッ━クッ」

 

水の奔流は虹色のベールとなって呑み込んだヨクバールを段階的に圧縮し、あっという間に拳ほどの大きさまで小さくなった。

 

「バァ…ッ」

 

魔法の余波で溢れた水の上に降り立ったミラクルとマジカルが掲げていた杖を振り下ろすのと同時にヨクバールを包み込んでいた虹色のベールがヨクバールごと虚空に消える。

 

「ルッ!?」

 

その口から漏れた最後の悲鳴と共に派手な爆発音が轟き、中心にいたヨクバールは元の姿であるバイクと猫の毛へと浄化されていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━ハッ、まあいい小手調べになったよ」

 

プリキュアの金魔法によって浄化されていくヨクバールを見つめながらしたり顔で呟くスパルダ。つい先程まで激怒し叫んでいたとは思えない変わりようだ。

 

「……その割りには随分な力の入れようだったな」

 

邪魔されないよう八幡を縛りつけ、プリキュアを追いかけ回し、ヨクバールに活を入れて限界以上の力を出させたりと小手調べにしてはやり過ぎだろう。

 

それにこれが本当に小手調べならスパルダがあそこまで感情的になる必要はない。

 

「チッ…せいぜい今の内にいい気になっていればいいさ━━━オボエテーロ!」

 

図星だったのかスパルダは表情を歪め、短く舌打ちを挟んでからいつもの捨て台詞のような呪文を唱えてその場から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヨクバールを浄化した後、壊れた街並みが修復されているのかを確認しつつ、みらい達は元居た場所の並木道をゆっくりと歩いていた。

 

「…リンクルストーンどっか行っちゃったね……」

 

戦闘の最中に行方知れずとなってしまったトパーズが見つからずみらいがぽしょりと呟く。

 

「甘い匂いしなくなったモフ……」

「はー……」

 

落ち込んだ様子で暗い表情を浮かべるモフルンとはーちゃん。もしかしたらトパーズが見つからない事にどこか責任を感じているのかもしれない。

 

「大丈夫!きっと見つかるよ!みんなで一緒に探せば…ね?」

「ええ!」

「…そうだな。その内ひょっこりと出てくるだろ」

 

モフルンとはーちゃんにこれ以上暗い顔はさせまいとしたみらいの言葉にリコと八幡も同意して頷き、心配いらないと二人の頭を優しく撫でた。

 

「モフ~♪」

「は~♪」

 

撫でられた二人は気持ち良さそうに目を細め、先程までの暗い表情はすっかり消え去っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もうすぐ家だからね~」

 

並木道を抜けて住宅街に差し掛かった辺りでみらいが声を弾ませながらそう知らせる。

 

「この道はさっき来たのと……」

「はー」

 

見覚えのある道にリコとはーちゃんが首を傾げて顔を見合わせた。

 

「…じゃあ、俺の家はこっちだから」

「え?」

 

そう言って八幡はみらい達が進む方向とは別の方へと足を向ける。

 

「あ、そっか…八くんも家に帰らなきゃだよね……」

 

自然と八幡も一緒に家に帰るものだと思っていたらしいみらいがハッとした表情を浮かべた。

 

「……あんまり遅くなってもあれだからな」

 

八幡は少し俯いたみらいから思わず目を逸らし、明後日の方向を見ながら答える。

 

「…そうね、もう日が暮れてきたみたいだし、これ以上は八幡のご家族も心配するわ」

「そう…だね……」

 

頭でわかっていてもいつの間にかみんなと一緒にいる事が当たり前になっていたみらいにはそんな簡単に受け入れられなかった。

 

「あー……まあ、あれだ。とりあえず今日のところはって事だ」

 

気落ちしたみらいの様子に八幡は頭をガシガシとかいてからそっぽを向いてそう呟く。

 

「……え?」

「ふふっ」

 

呆気にとられるみらいと八幡の言わんとしている事を察してついつい笑みを(こぼ)すリコ。そんな二人の反応のせいか、はたまた差し込む夕陽のせいなのか、赤く見える顔を隠すように八幡が背を向ける。

 

「その……また、な」

 

少しだけ振り返った八幡はぎこちない動きで片手を上げて小さく手を振った。

 

「……!うん!またね八くん!!」

「本当、素直じゃないんだから…」

 

みらいは花が咲くような笑顔で手を振り返し、リコも苦笑しながら手を振り応える。そして少しの間、互いに手を振り合っていたみらい達は踵を返してゆっくりとそれぞれの帰路についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たでーまー」

 

久しぶりの我が家へと到着した八幡がそう言いながら玄関を開けて中に入るとリビングの戸が開き、見慣れたアホ毛がぴょこんと顔を出す。

 

「あ、お兄ちゃんお帰り~」

 

どこか気の抜けた声で返してきたのは八幡にとって最愛の妹である小町だ。

 

「おお、久しぶりの小町ぃ……」

 

毎日顔を会わせていただけにほんの一、二週間会えなかっただけで八幡の目に思わず涙が浮かんでくる。

 

「えぇ…お兄ちゃんなに泣いてんの……」

 

兄の年甲斐もなく涙を流す姿にドン引きする小町。それも理由が理由なだけに殊更ドン引いていた。

 

「いや泣くだろ普通」

「いやいや、普通泣かないでしょ…流石の小町もドン引きだよ」

 

呆れる小町を尻目に靴を脱いだ八幡はそのままリビングへと足を向けようとする。

 

「お兄ちゃんちょっと待って。リビングに入る前にシャワー浴びて。汗臭い汚い」

「えぇ…小町ちゃんちょっと酷くない……」

 

辛辣な妹の言葉にげんなりした顔をする八幡。確かに今日は全力疾走したり、縛りつけられた木から脱出しようとじたばたしたりして普段よりも汗をかいたかもしれないが、そこまで酷くはない筈だ。

 

「いいから。ほら、さっさと浴びてきて」

 

有無を言わさず急かされた八幡がその場に荷物を置いて渋々お風呂場の方へと移動する。

 

「あ、シャワー浴びたら色々と聞かせてね?特にみらいちゃんとリコちゃんの事とか」

「へいへい……」

 

上がったら質問攻めにされるんだろうなと再びげんなりした表情を浮かべながら八幡はゆっくりとお風呂場の戸を(くぐ)った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さ、着いたよ!」

 

リコにとって見覚えのある一件の家の前まで来たところでみらいがそう言いながら振り返る。

 

「あなたの家って…ここ!?」

「うん!」

 

驚くリコに対して何の気なしに頷くみらい。まさかリコがすでに自分の家に入った事があるなんて思ってもいないだろう。

 

「もしかしてあなたのお母さんって……」

 

お世話になった時の会話を思い返していくと共通点の多さや似ている部分に気付き、リコの中でまさかという可能性が生まれる。

 

「みらい…!?」

「あっ!」

 

不意に声のした方を向くとそこにはリコの事を助けてくれた恩人、今日子の姿があった。

 

「モフッ!?」

「はー!?」

 

今日子の登場にモフルンとはーちゃんが慌ててポーチの中とリコの背中に隠れる。

 

「お母さん!」

「やっぱり…!」

 

その言葉でリコは今日子の娘がみらいではないかと考えた自分の予想が当たっていた事を知った。

 

「お母さん……」

 

優しく肩に手を置かれたみらいは久しぶりの母との再開に目を潤ませ、今日子を見上げる。

 

「…今までどこで何をしてたのかなぁ?おばあちゃんだけじゃなくてお母さんにも教えてくれる?」

 

肩に置いた手に力を込めて笑顔で尋ねる今日子。その圧にみらいの口から思わず〝ふぎっ〟という変な擬音が漏れた。

 

「あ、あのぅ…は、話せば長いんだけど……」

 

ギリギリと力の込められた手と今日子の笑顔にみらいは変な汗を浮かべつつ、しどろもどろで答える。

 

「いいわ♪時間はたっぷりあるから、ゆっくりとお話聞きましょうか?」

「え、あ、はい…お母さん……」

 

がっちりとホールドされて逃げられないみらいにはおとなしく頷くという選択肢しかなかった。

 

「あ!えっと、この子!」

 

まるで八幡みたいに苦し紛れで視線を逸らしたみらいはその先にいたリコを見て〝そうだ!〟と思い付いたように今日子へ紹介しようとする。

 

「知ってる」

「え?」

 

思わぬ反応にみらいは目を丸くして今日子とリコを交互に見つめた。

 

「ね♪」

「はい!」

 

お互いを知っている様子の二人にみらいが困惑し、首を傾げる。

 

「え?え?……どゆこと?」

 

そんなみらいの姿に笑い合う二人。図らずもイタズラ、あるいはサプライズのような形の出会いと再会についつい笑みが(こぼ)れる。

 

「でもあなたの探していた友達ってみらいだったとはね~」

「え!友達って!?」

「え!?あ、友達というか……」

 

そんな偶然もあるんだなぁと笑う今日子と〝友達〟というワードに反応して詰め寄るみらいに顔を赤くして照れるリコはそんなやり取りを繰り広げながら家の中へと入っていく。

 

 

 

 

 

 

 

こうして魔法と出会い、様々な変化をもたらした春休みは終わりを告げ、次の学年、新たな学校生活が始まりを迎えようとしていた。

 

 

 

━十二話に続く━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━みらい達が家の中へ入っていく最中、その上空に紫色の傘を片手にゆっくりと地面に降りていく教頭先生の姿があった事を誰も気付いていなかった。

 

 

 





次回予告


「ここが私の学校だよ~!」

「みらいと同じ学校に通うことになるなんて……」

「また一緒だねリコ!」

「あ、遊びにきたわけじゃないけどね!」

「新学期からなんでそんなにハイテンションなんだお前ら……」

「は、八幡!?どうして……」

「いや…どうしてって……ここの高等部に通ってるからだけど…」

「八くんもおんなじ学校だったんだ~!これでみんな一緒だね!」

「甘~い匂いモフ!」

「え!?モフルン!?」

「え!?モフルンも学校に!?」

「今、窓の外にはーちゃんが……」

「「「………」」」

「モフー!」

「はー♪」

「「「み、見つかる前に見つけないと……!」」」





次回!魔法つかいプリキュア!やはり俺が魔法使いでプリキュアなのはまちがっている。

「モフルンの初登校?帰って来てもまた一難!?ワクワクのトパーズをゲットモフ!」





「キュアップ・ラパパ!今日もいい日になーれ!」
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