やはり俺が魔法使いでプリキュアなのはまちがっている。   作:乃木八

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第十二話「モフルンの初登校?帰って来てもまた一難!?ワクワクのトパーズをゲットモフ!」Bパート

 

始業式が終わり、教室に戻ったみらいとリコは誰かにモフルン達が見つからないかとひやひやしながら先生の話を聞いていた。

 

「えー始業式で校長先生がおっしゃっていたように新学年の目標をたてる━━━……」

 

他の生徒達が先生の話を退屈そうに聞き流している中、二人は居ても立っても居られずに教室内と窓の外を何度も見回す。

 

「早く…!早く終わって…!」

 

顔の前で両手を合わせ、早く終ることを必死に祈るみらい。そして二人が心配しながらやきもきしているその頃、モフルン達はというと━━━━

 

 

 

 

 

 

 

「やっと学校にこられたモフ~♪」

「は~♪」

 

みらい達が心配していることなんて露知らず、グラウンドにあるフェンスの近くではしゃぎ回っていた。

 

「みらいの言ってた通りモフ♪学校にはたくさん友達がいてワクワクで楽しいモフ~!」

 

生徒達がまだ教室で話を聞いているため人がおらず、積んであるレンガに姿が隠れている事も相まって今は見つからずに済んでいるが、これだけ大きな声で駆け回っていたらいずれは見つかってしまうだろう。

 

「来て良かったモフ~!」

 

しかし、初めての学校でテンションが上がっているモフルンの頭からは見つかったらまずいという考え自体が抜けてしまっていた。

 

「モフ!甘い匂いモフ~!!」

「は~!」

 

ハイテンションのままモフルンは、はーちゃんと一緒に匂いのする方に向かって駆け出す。

 

「あっちからするモフ~♪」

「は~♪」

 

そう言って二人が駆け出した先は誰かに見つかる可能性がとても高そうな周りを校舎に囲まれた中庭だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

生徒指導室から直接始業式に向かった八幡は先程見かけた影の事が気になって始業式が終わった後、教室に戻らずそのまま校内をこっそり回っていた。

 

「確かこっちの方に……」

 

誰もいない廊下で小さく呟きながら辺りを見回す八幡。気のせいかもしれないのにHR(ホームルーム)をさぼってまで探しているのは影の正体に心当たりがあったからだ。

 

(さっきの影…一瞬見えただけだったが、モフルンの後ろ姿に見えた)

 

昨晩の通信が終わる少し前、モフルンが何か言おうとしていた事に八幡は気付いていた。八幡が小町に呼ばれた事で通信が終わり、モフルンが言いかけた言葉も遮られてしまったものの、学校という単語までは聞こえた。

 

(あの時、モフルンは自分も学校に行きたいって言おうとしていたなら…)

 

通信の後にみらい達とモフルンとの間にどんなやり取りがあったのかは八幡にはわからない。だが、少なくとも今朝見かけた時にみらい達はモフルンを連れていなかった。

 

「あと探してないのは中庭の方か……」

 

もしかしたら全部八幡の思い過ごしかもしれないが、それならただの取り越し苦労で済む話だ。しかし万が一にもモフルンが学校に来ていて誰かに見つかってしまったら大騒ぎになってしまう。

 

「っ…!?」

 

遠くに先生の姿を見つけた八幡は慌ててその場にしゃがみ込み、様子を(うかが)った。

 

(今見つかるのはまずい……!)

 

現状、八幡はHRをさぼってモフルンを探している。そのため先生に見つかってしまうと注意や説教で時間をとられる可能性が高い。

 

もう少しすればHRが終わって他の生徒達に紛れる事ができるが、そうなると本当にモフルンいた場合に見つかるリスクが高くなってしまう。

 

「…なるべく急いで慎重に移動するしかないな」

 

八幡は見つからないように人のいる教室を避けながら中庭の方へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

甘い匂いを追って中庭へとやって来たモフルンとはーちゃんは一面に広がっている芝生の中にキラリと光る何かを見つけた。

 

「リンクルストーンモフ~!」

 

モフルンはしゃいだ様子で声を上げる。それもその筈、光るものの正体が昨日ゲットし損ねたリンクルストーン・トパーズだったからだ。

 

「やったモフ~!」

「は~♪」

 

思わぬ発見にモフルンとはーちゃんが大喜びで駆け寄ろうとしたその瞬間、物凄い地響きと衝撃が二人を襲った。

 

「「わぁぁっ!?」」

 

衝撃に驚き校舎の影に隠れた二人は恐る恐る中での方を覗く。

 

「モフ…?」

 

どうやら空から何かが落ちてきたらしく、丁度トパーズのあった辺りに土煙が立ち込めていた。

 

「━━━リンクルストーン発見…」

「モフ~っ!?」

 

土煙の中から現れたのは闇の魔法使いが一人、ガメッツ。今まで何度もみらい達を苦しめてきた相手だった。

 

「大変モフ~!!みらい達に……」

 

慌てた様子ではーちゃんの方に振り返ったモフルンはそこまで言いかけたところで言葉を止める。

 

(今みらい達を呼びにいって戦いになったら魔法をみんなに見られるかもしれないモフ…)

 

昨晩、教頭に言われた事が頭を(よぎ)り、呼びにいく事を躊躇(ちゅうちょ)してしまうモフルン。もし誰かに魔法を見られてしまったら、みらい達は魔法を使えなくなってしまう。

 

「…駄目モフ!みらい達の所には行けないモフ……」

 

考えた末にモフルンはこの事態をみらい達に知らせないという決断を下した。

 

「モフ…」

 

しかし、それはこの状況をモフルン達だけで何とかしなくてはならないという事になってしまう。

 

「フッフッフッ━━━」

 

もう一度中庭の方に目をやるとガメッツが不敵に笑いながらトパーズの元に向かっているのが見えた。

 

「……モフルンには無理モフ」

 

モフルンとガメッツの力の差は火を見るより明らかだ。どう立ち向かっても勝負にすらならないだろう。

 

「ぅぅぅ……」

「はーちゃんにはもっと無理モフ……」

 

今にも泣き出しそうなほど不安な顔をしているはーちゃんを見たモフルンはさらに思い悩む。みらい達に知らせない以上、助けは望めない。

 

「でも……」

 

このままではガメッツにトパーズを奪われてしまう。残された時間はもう一分となかった。

 

「フッフッ━━」

 

トパーズの目の前まできたガメッツがそれを拾い上げようと手を伸ばす。

 

「っモフ~~~!!」

 

ガメッツが手を伸ばした瞬間、校舎の影から飛び出したモフルンが自分を鼓舞するように大きな声で叫んだ。

 

「ん?」

 

声に気付いて振り返ったガメッツに向かって覚悟を決めたモフルンが全力で駆ける。

 

「モフッ!!」

 

勢いのままに飛び込んだモフルンはガメッツの目の前に滑り込み、落ちているトパーズに覆い被さった。

 

「やったモフ~!」

 

ガメッツよりも先にトパーズを確保出来た事を喜んだのも束の間、モフルンを見下ろすように大きな影が射し込み、仁王立ちしたガメッツが立ちはだかる。

 

「フンッ…小癪(こしゃく)な。我によこさぬか」

「嫌モフ!」

 

威圧的に迫るガメッツの手をかわしたモフルンはトパーズを抱えながら股の下を潜り抜けた。

 

「ほう…我に挑もうというのか」

 

くるりとその場で反転したガメッツが少し感心したように走り去るモフルンを見つめる。

 

「誰であろうと手加減はせぬぞ!」

 

髑髏の杖を取り出したガメッツの背後に闇の力を帯びた桜の木と掲示板が浮かび上がった。

 

「モフ…!?」

「はー!」

 

はーちゃんと合流したモフルンが後ろを振り返り、冷や汗を浮かべる。

 

「魔法、入りました!出でよっヨクバール!!」

 

桜の木と掲示板が闇の魔法陣に吸い込まれると中から飛行機の形をした怪物が姿を現した。

 

「ヨクバール!」

 

髑髏の顔を先頭に桜の木の胴体、掲示板の羽に花びらのプロペラという出で立ちのヨクバールが滑空しながらモフルンとはーちゃんを追いかける。

 

「バール!」

 

逃げるモフルン達との距離をあっという間に詰めたヨクバールは二人に向かって突進繰り出した。

 

「「ひゃあっ!?」」

 

ヨクバールの突進は直撃こそしなかったものの、通り過ぎた際に生じた風圧だけでモフルンとはーちゃんは吹き飛ばされてしまう。

 

「うっ……」

 

吹き飛ばされたモフルンは地面を転がり、何かにぶつかって(うめ)き声を上げる。

 

「フフッ…」

「モ…フ…!?」

 

転がった先でモフルンを待ち構えていたのは不敵な笑みを浮かべたガメッツだった。

 

「モフー……!」

「フンッ。他愛ない…」

 

ガメッツはモフルンを片手で掴み、逃げられないように力を込める。

 

「うぅ…モフ……」

「はー……」

 

ギリギリと締め付けられ、苦しそうな声を漏らすモフルンの姿をはーちゃんが涙を浮かべながら見上げた。

 

「うぅ…うっ……はーちゃんは…逃げるモフ━…!」

 

締め付けられる圧力で苦しい筈なのにモフルンは自分よりもはーちゃんを逃がそうとする。

 

「はー…はー……」

「うっ…行くモフー!」

 

このまま一人だけ逃げたくないと躊躇(ためら)うはーちゃんにモフルンが語気を強めて叫んだ。

 

「うっ…ぅぅん……!」

 

モフルンの言葉に押されたはーちゃんは涙を振り払うように首を振り、背中を向けて勢いよく飛び立つ。

 

「うぅ…うっ……」

 

何度も墜落しそうになりながら必死に羽を動かし、はーちゃんは校舎を目指して飛んだ。

 

「逃がしたか。まあいい」

「モ…フ……」

 

はーちゃんが飛び去った方向に一瞬、目を向けたガメッツだったが、すぐに視線をモフルンの方に戻すと圧力をさらに強める。

 

「さあ…リンクルストーンを渡せ」

「ぐ……渡さないモフ!」

 

絶対に渡さないと抵抗するモフルンをガメッツは容赦なく締め上げた。

 

「ならば力ずくで奪うだけだ」

「モフ…っ」

 

増していく圧力に握り潰される事を覚悟したモフルンがぎゅっと目を(つむ)る。

 

「━━キュアップ・ラパパ!」

 

その瞬間、ガメッツの背後から杖を構えた八幡が呪文を唱えながら駆け込んできた。

 

「む?」

 

八幡に気付いたガメッツは少し驚いた顔をしながらも、避ける素振りすら見せない。

 

何故ならいくら奇襲で隙を突かれたとはいえ、このまま突撃されても八幡の体当たりくらいでガメッツはびくともしないからだ。

 

「━━地面よ、滑れ!!」

 

動かないガメッツに体当たりする直前、八幡は地面に向かって杖を振るう。

 

「な…!?」

 

杖から放たれた魔法は地面に作用し、油断していたガメッツの足元を文字通り(すく)った。

 

「っバカな!?」

 

滑る地面によって全く踏ん張りが効かないこの状況なら力の差は関係ない。八幡の体当たりを受けたガメッツは勢いよく滑ってそのまま背中から地面にすっ転んだ。

 

「モッフ~!?」

 

ガメッツが転んだ拍子に捕まっていたモフルンが宙に投げ出されてしまった。

 

「っモフルン!」

 

体当たりの勢いと滑りやすくなった地面を利用して加速した八幡が投げ出されたモフルンを上手く抱き止める。

 

「……っ大丈夫か?」

「モフ……ありがとうモフ」

 

怪我が無い事を確認した八幡はモフルンを抱えたまま急いでその場から離れようと走り出した。

 

(逃げるならあいつがひっくり返って動けない今しかない……!)

 

不意打ちは成功したものの、八幡の使う魔法程度では足止めくらいにしかならない。

 

闇の魔法使い、あるいは闇の魔法によって生み出された怪物…ヨクバールに対抗できるのは伝説の魔法使いプリキュアだけだ。

 

つまり、ガメッツを退けるためにはどうしてもみらいとリコの力が必要になる。

 

「っ……」

 

二人に頼らなければならないという結論に対して歯噛みする八幡。いくら陽動やアシストのための魔法が使えても、プリキュアのように直接戦ったり、闇の魔法を浄化する事が出来ないのが酷くもどかしい。

 

「八幡…?」

 

感情が思っていたよりも表情に出ていたようでモフルンが心配そうに覗き込んでくる。

 

「……何でもない。とにかく今はあいつらと合流する事が先決だ」

 

暗い思考を頭の隅に追いやった八幡はそう言って前を向き、中等部を目指して走るペースを上げた。

 

「もしかして八幡はみらい達のところに向かってるモフ?」

「…俺達だけじゃどうしようもないからな」

 

八幡とモフルンだけではガメッツを止められないし、かといってこのまま放置する訳にはいかない。元より取れる選択肢が他にはないのだ。

 

「それは駄目モフ!みらい達が戦ったら魔法をみんなに見られちゃうかもしれないモフ!!」

「は?いや、それはそうだが……」

 

みらい達との合流を強く拒むモフルンに八幡は思わずたじろぐ。

 

「八幡だってさっきみたいに魔法を使って誰かに見られたら大変モフ!…だから…だからモフルンが……」

 

どこか思い詰めた表情で俯き、呟くモフルン。おそらく昨日の教頭の話をモフルンもしっかりと聞いていたのだろう。

 

確かにモフルンの言う通り、戦いになれば目立つし、迂闊に魔法を使えば誰かに見られるかもしれない。

 

もしそうなれば杖を没収され、魔法の使用を禁じられるという重い罰が待っている。しかし━━

 

「……大丈夫だモフルン」

「モフ…?」

 

その言葉に俯いていたモフルンが顔を上げると八幡がドヤ顔を浮かべていた。

 

「知ってるか?問題は問題にしなければ問題にならない」

 

重い罰が下るのはあくまでも見つかればの話。仮に見つかったとしても魔法だと気付かれなければ問題はないし、いくらでも誤魔化せる。

 

「問題…モフ?」

 

言い回しのせいか、いまいちピンときていない様子のモフルンに八幡は咳払いをしてドヤ顔を引っ込めた。

 

「んんっ……つまりあれだ、バレなきゃ大丈夫って事だ」

 

モフルンに伝わるよう八幡はわかりやすく簡潔に言い換える。その結果、奇しくも昨晩のみらいと同じような台詞を口にしていた。

 

「でも…」

 

言葉の意味を理解してなお、食い下がろうとするモフルンに対し、八幡はそれを遮るように続ける。

 

「それに、だ。もしバレる可能性があったとしても、あいつらは戦うと思うぞ」

 

八幡達が知らせなくとも時間が経てば騒ぎは大きくなり、否が応でも二人の耳に入る。

 

そうなった時、みらいとリコは魔法を隠すことよりも誰かを守る事を優先する筈だ。

 

ましてそのためにモフルンが傷つくというのなら、ルールを押し退けてでもあの二人は戦うだろう。

 

「二人のために頑張ろうとしてるのはわかるが、そのせいでモフルンが危ない目に遭うのをあいつらが望むと思うか?」

「モフ……」

 

これまで八幡自身が何度もそうして、その度に言われてきた事だ。自分の事を棚に上げていると言えばそれまでだが、それでも……だからこそモフルンに同じ事をさせるわけにはいかない。

 

「……誰だって一人で出来る事には限界がある。だからモフルンはモフルンにできる事を頑張ればいい」

 

自分の言葉が自分に返ってきているのを自覚しながらも八幡はモフルンに諭すように語る。

 

「八幡……ありがとうモフ」

「……とにかく今はあいつが起き上がってくる前に合流しないとな」

 

モフルンのお礼に八幡は照れた顔を誤魔化すようにそっぽ向き、早口で呟いた。

 

 

 

 

 

 

二人が中等部の校舎に向かって走っている頃、八幡に転ばされたガメッツは未だにその場から動けないでいた。

 

「くっ…おのれぇっ!まさか我があのような者に遅れをとるとは!!」

 

背負っている甲羅が邪魔をして起き上がる事ができないガメッツは手足をバタバタさせながらもがき叫ぶ。

 

「こうなれば……こいっ!ヨクバール!!」

「ヨクバール!」

 

このままでは時間がかかると判断したガメッツは飛行機ヨクバールを呼び、その体に掴まる事でようやく起き上がる。

 

「っ……逃さぬぞ。リンクルストーンは必ず我が貰い受ける」

 

ガメッツはそれだけ呟くと二人が向かった方にヨクバールを走らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、始業式を終えたみらいとリコはモフルン達の行方を気にしてソワソワしながらHR(ホームルーム)を受けていた。

 

「お願い……」

「早く……」

 

二人は顔の前で手を合わせ、一刻も早くHRが終わるように祈る。

 

━━━キンコーンカーンコーン

 

「あっ」

 

待ち望んだ終わりを告げるチャイムにみらいが思わず声を漏らした。

 

「……はーちゃん!?」

 

何かに気付いて窓の外に顔を向けたリコは驚き、声を上げる。

 

「えっ?」

 

みらいがリコに釣られて窓の外を見ると、そこには涙で顔を濡らしながら必死に窓を叩いて何かを訴えるはーちゃんの姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

合流を目指して中等部に向かっていた八幡とモフルンは追ってきた飛行機ヨクバールにジリジリと追い詰められていた。

 

「八幡後ろモフ!!」

「っ……!?」

 

モフルンの声で咄嗟に屈んだ八幡は間一髪のところでヨクバールの突進をかわす事に成功する。

 

「ヨクバール!!」

 

しかし八幡とモフルンには安堵する間も無かった。なぜなら突進をかわされたヨクバールが攻撃の手を休める事なくそのまま旋回して再びこちらの方へと迫ってきたからだ。

 

「またくるモフ!」

「休む暇もないって事か……!」

 

二度目の突進を横っ飛びでかわした八幡は悪態をつきながらも立ち上がり、走り通しで悲鳴を上げる身体に鞭を打って必死に足を動かした。

 

「ヨクバール!ヨクバール!ヨクバール!!」

 

逃げる八幡達をヨクバールを容赦なく追い詰める。このままでは八幡達が避けきれなくなるのも時間の問題だろう。

 

「っ……はぁ……はぁ……」

「ごめんモフ……」

 

息も絶え絶えな八幡の様子に抱えられているモフルンが自分には何も出来ないと俯く。

 

「……別に……モフルンが……謝る……事じゃない……だろ……」

 

近くの草むらに飛び込む事で一時的にヨクバールをやり過ごした八幡は息を整えながら続けた。

 

「……さっき言った通り……出来る事をやればいい……今……俺に出来るのが……モフルンを二人のところまで連れていく事ってだけだ……」

 

八幡では逆立ちしてもヨクバールに敵わない。だが、敵わなくともモフルンを抱えて逃げる事くらいは出来る。ならば逃げながらモフルンをみらい達の元に送り届けるのが八幡の役目だろう。

 

「だから……まあ……今は俺が頑張る……後はモフルン達に任せた」

 

そう言って八幡は俯くモフルンの頭を優しく撫でた。

 

「モフ……任されたモフ!」

 

撫でられたモフルンは気持ち良さそうに目を細めると先程まで俯いていたのが嘘のような力強い返事を返す。

 

「……よし、ならこのまま隠れながら中等部の校舎に急ぐぞ」

「モフ!」

 

周囲を窺いつつ、そのまま草むらに沿って進む二人。一時的に隠れたつもりだったが、運良く見つからずに済んだらしくヨクバールが近付いてくる気配はない。

 

(これなら見つからずに辿り着けそうだな)

 

中等部の校舎まであと少しと迫り、八幡は進む速度を上げる。ここまでくれば八幡が見つかったとしてもモフルン一人で校舎まで走れる距離のため最悪の事態は避けられると判断したからだ。

 

「あと少しモフ……!」

 

八幡達はヨクバールがいない事を確認してから隠れていた草むらを抜けて開けた道を一気に駆け出そうとする。

 

 

「━━我から逃げられると思ったか?」

 

 

突然の声と共に鈍い痛みと衝撃が八幡を襲った。

 

「がっ……ぐっ!?」

「モフっ!?」

 

衝撃に耐えきれなかった八幡は吹き飛ばされて宙を舞い、そのまま地面に落下する。幸い落ちた高さが大したことなかったので大事には至らなかったが、それでもすぐに動ける状態ではなかった。

 

「ごほっ……モフルン大丈夫か?」

「だ、大丈夫モフ……」

 

咳き込みながらもモフルンを心配して声をかける八幡。落ちる瞬間、咄嗟に八幡が体を入れ換えたおかげでモフルンに大きな怪我はないようだった。

 

「……フンッ。思った以上に吹き飛んだな」

「っお前は……」

 

顔を上げるとそこには八幡が足止めしたはずのガメッツが二人を見下ろすように立っていた。

 

「先程の礼をしようと思っていたが、その様では立つこともできまい」

 

動けない八幡を一瞥したガメッツはつまらなさそうにそう言うとモフルンの方に手を伸ばす。

 

「モフルン逃げろっ」

「モフっ……!」

 

八幡の叫びに反応してモフルンがガメッツの手から逃れるように駆け出した。

 

「逃すかっヨクバール!!」

「ヨクバールッ!」

 

ガメッツの呼び掛けに上空からヨクバールが現れ、急降下してモフルンの進路を塞ぐ。

 

「ぐっ……モフルン……!」

 

逃げ道が塞がれてしまったモフルンを助けようと八幡が動かない体に力を込めて無理矢理立ち上がった。

 

「ほぅ……まだ立ち上がれたか」

 

感心した声を上げるガメッツを無視して八幡はモフルンの元へと走る。たとえ無茶を通してでもモフルンを捕まえさせる訳にはいかない。

 

「キュアップ・ラパパ!風よ……」

 

八幡は杖を片手に足が(もつ)れそうになるのをどうにか堪えながら魔法を放とうと呪文を唱える。

 

「━━だが、邪魔はさせんぞ。魔法使い」

 

先に走り出していた八幡にたった一歩で追い付いたガメッツが無造作に腕を振るった。

 

「っ……!」

 

ガメッツの攻撃に対して八幡は呪文を中断し、咄嗟に腕を交差させて防御を試みる。

 

「ぐっ……がっ!?」

 

軽く振るわれた筈の拳はいとも容易くその防御を貫き、衝撃で八幡を吹き飛ばした。

 

「八幡!」

「人の事を心配している場合か?」

 

八幡を心配して気を取られている隙にガメッツは片手でモフルンを掴み上げ、そう言い放つ。

 

「モフ……!」

 

捕まったモフルンはどうにか抜け出そうともがくが、ガメッツの腕はびくともしなかった。

 

「……往生際が悪いな。大人しくリンクルストーンを寄越さぬか」

「っ渡さないモフ!」

 

引き渡しを断固として拒否するモフルンにガメッツは苛立ちを(あらわ)にする。

 

「ならばこれでどうだ……」

 

モフルンを片手から両手に持ち変えたガメッツはギリギリと締め上げるように力を込めた。

 

「モフ……」

 

震えながら恐怖を必死で押し殺し、モフルンは気丈に耐える。

 

「げほっ……モフ……ルン……」

 

吹き飛ばされ、鈍い痛みと混濁する意識の中で八幡は地に伏したままモフルンの方へ手を伸ばそうとするが、それ以上体が動かない。

 

「さあリンクルストーンを渡してもらうぞ」

「モ……フ……」

 

限界の近いモフルンとダメージで動けない八幡。このままリンクルストーンを奪われ最悪の結末を迎えてしまうかに見えたその時━━━━

 

「モフルン!」

 

HRからようやく解放されたみらいとリコがはーちゃんと共に二人の元へ駆けつけた。

 

「っ……八幡!?」

 

ガメッツから少し離れた場所で倒れている八幡を見つけたリコが急いで駆け寄る。

 

「大丈夫!?」

「げほっ……あ、ああ……こっちは大丈夫だ。それよりもモフルンを……」

 

咳き込みながらも駆け寄ってきたリコに対してそう答える八幡。今、優先すべきなのは八幡よりもガメッツに捕らわれたモフルンの救出だ。

 

「モフルンを離して!」

 

苦しそうにしているモフルンの姿を目にしたみらいがガメッツに向かって叫ぶ。

 

「おお、プリキュア。そちらから挑んでくるとは……だが我の使命はリンクルストーン……」

 

みらいとリコが現れた事でガメッツは存分に戦えると歓喜したが、手の中のモフルンに目を向け、与えられた使命と欲求の間で逡巡(しゅんじゅん)する。

 

「……っヨクバール!」

 

悩んだ末に使命を選んだガメッツは離れた所にいるヨクバールを呼びつけ、二人の相手を命じた。

 

「ヨクバールッ!」

 

命令を受けたヨクバールはすぐにみらい達の真上まで飛んでくると、狙いを定め、急降下しながら突撃してくる。

 

「わぁっ!?」

 

ヨクバールの巨体から繰り出される突進は直撃こそしなかったものの、その風圧だけで軽くみらいを吹き飛ばしてしまった。

 

「みらい!」

「はー!」

 

吹き飛ばされたみらいを心配してリコとはーちゃんが声を上げる。

 

「待っていろプリキュア。リンクルストーンを取り上げた後、我も相手をしてやるわ」

 

どうやらガメッツは自らの欲求を抑えた訳ではないらしい。早く使命を果たして二人と戦うためにモフルンから無理矢理リンクルストーンを奪おうとする。

 

「ぐっ……モフルンを離して!!」

「待ってみらいっ!」

 

それは無茶だと止めようとするリコの静止の言葉も聞かずに立ち上がったみらいはガメッツに向かって走り出した。

 

「ヨクバール!」

 

モフルンを助けるために走るみらいの行く手を塞ぐように旋回してきたヨクバールが向かってくる。

 

「っ……!」

 

再びヨクバールの突進による風圧で吹き飛ばされるみらい。いくら直撃していないと言っても吹き飛ばされる度に痛みは蓄積していく。

 

「みらいー!」

 

自分を助けようと無茶をして傷つくみらいにモフルンの口から悲痛な声を上げる。

 

「モフ…ルン……!」

 

助けたいのに近寄ることすら出来ない現状にみらいは歯噛みし、悔やむようにモフルンを見つめた。

 

「みらい……」

 

そんなみらいの様子にリコも思わず力を込めて拳を握る。

 

「……キュアップ・ラパパ━━━━」

 

ガメッツとヨクバールの注意がみらいとモフルンに向いたこの瞬間、倒れている八幡が箒を取り出し、痛む体に鞭を打って飛び出した。

 

「箒よ、飛べ!」

 

飛び始めた箒は初速からトップスピードまで一気に加速し、飛び上がってから急降下してガメッツに向かっていく。

 

「ぐっ……お……!」

 

ただでさえ扱いの難しい箒を今のボロボロの状態で自由に操れる筈もなく、八幡は振り落とされないように必死でしがみつくのがやっとだった。

 

「フンッ何をしてくるかと思えば……ヨクバール!」

 

自分の方に真っ直ぐ向かってくる八幡をちらりと見たガメッツはつまらなそうに鼻を鳴らして指示を下す。

 

「ヨクバールッ」

 

ガメッツの指示を受け、先程までみらいの行く手を阻んでいたヨクバールが加速しながら旋回して今度は八幡の進路に立ちはだかった。

 

「っ……!」

 

目の前に現れたヨクバールに対して箒にしがみつくのが背一杯の八幡にはどうすることも出来ない。

 

「ヨクバール!」

「がっ!?」

 

互いに正面から激突する八幡とヨクバール。その結果、当然ながら大きさと強さが勝るヨクバールがその対決を制し、八幡を乗せた箒は木々が密集した場所に落下していく。

 

「八くんっ!?」

「八幡っ!」

 

墜落していく八幡の姿にみらいとリコの口から悲鳴が漏れた。

 

いくら魔法が使えても八幡の体はプリキュアのように丈夫ではない。ヨクバールの巨体から繰り出される突進をまともに受ければどうなるかは想像に難くないだろう。

 

「愚かな……」

 

一瞬、八幡が墜落した辺りに目を向けたガメッツだったが、短くそれだけ呟いてすぐにモフルンの方へと向き直った。

 

「まあいい。さっさとリンクルストーンを……」

「駄目モフ……!」

 

再度リンクルストーンの引き渡しを要求しようとしたガメッツの言葉を遮るようにモフルンがその答えを重ねる。

 

「学校はわくわくで楽しい所モフ!」

「何……?」

 

真っ直ぐ強い意思を秘めた瞳を向けてくるモフルンにガメッツは眉をひそめた。

 

「みらいもリコも八幡もみんなが笑顔になれる場所が学校モフ……だから怖いのや痛いので邪魔しちゃ絶対に駄目モフ━━━━!!」

 

強い想いを叫んだ瞬間、モフルンから辺りの景色を塗り潰す程の眩い閃光が溢れ出す。

 

「ぬぉっ!?」

「ヨクバール……!?」

 

溢れ出した光はガメッツを怯ませ、空中で旋回しているヨクバールをも退けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モフルンから放たれた閃光は墜落した八幡の所まで届いていた。

 

「痛っ…………この光は……」

 

光に気付き、草木に埋もれた状態で目を覚ました八幡はまだはっきりしない意識の中で辺りを見渡しながら状況を整理しようとする。

 

「……確かヨクバールと激突して……それから」

 

少しずつ意識が覚醒してきた八幡は自分がヨクバールと衝突し、洒落にならない高さから落ちた事を思い出した。

 

「生きてる……そうか……箒の……」

 

普通なら起き上がる事も出来ない程の重症を負っていてもおかしくない筈なのに、こうして五体満足でいられるのは箒に施された魔法の安全装置が働いたおかげだろう。

 

「怪我も治りかけてるな……これはこの光の力か……?」

 

落下の際に木々で引っ掛けた傷や安全装置で防ぎきれなかった衝撃によって出来た打撲傷が少しずつ治癒していくのを見て八幡が光の正体をなんとなく察する。

 

「……動けるならここでじっとしてるわけにもいかないだろ」

 

八幡は未だガメッツやヨクバールと交戦中であろうみらい達の元へ向かおうとするが、なぜか手足が震えてうまく立つ事が出来なかった。

 

「………………」

 

光のおかげで多少回復したとはいえ、積み重なった疲労やダメージが完全に無くなったわけではない。だが、八幡が立てない理由はそんな身体的なものではなく別にあった。

 

「……今更怖くなったってか」

 

確かに目の前に迫る怪物や高所からの落下は恐怖を感じる要因に充分なり得る。

 

しかし、八幡がこうして九死に一生を得たのは別に今回が初めてというわけではなかった。これまで何度も危険な目にはあってきたし、初めて闇の魔法使いと遭遇した時も足が竦んだの事を八幡は覚えている。

 

「あの時よりもやれる事はある……それにこのくらいなら今まで何度も……」

 

自分に言い聞かせるように呟き、立ち上がろうとするが八幡の言葉とは裏腹に体は動かない。魔法を覚え、幾度となく闇の魔法使いやヨクバールと対峙してきた筈なのに。

 

(……いや、何度経験したって痛いものは痛いし、怖いものは怖い。それが当たり前だ)

 

八幡は超人でもなければヒーローでもない。痛みを恐れ、恐怖で怯む一人の人間だ。魔法や箒の扱いが上手くなろうとそれは変わらない。

 

「…………行くか」

 

瞑目し、ゆっくりと深呼吸をして立ち上がる八幡。手足の震えはまだ収まらない。けれど八幡はそれでも足を止める事なく戦いの渦中いるであろうみらい達の元へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「モッフ~~~!!」

 

ガメッツの手から逃れたモフルンが光を放ちながらゆっくりと宙に浮き上がる。

 

「トパーズ……わくわくのリンクルストーンモフ!」

 

闇を退けた光の正体はガメッツに渡すまいとモフルンが大事に抱えていたリンクルストーン・トパーズだった。

 

「バカな……!こんな小さき者に力を貸すというのか!?」

 

光が止み、モフルンの手にあるリンクルストーンを見てガメッツはあり得ないと驚愕の表情を浮かべる。

 

「みらい!リコ!」

 

淡い虹色の光を纏ったモフルンはトパーズを手にみらい達の元へ飛んでいく。

 

「「うん!」」

「はー!」

 

モフルンの呼び掛けに答え、みらいとリコは合流して互いに手を繋ぎあった。

 

 

「「キュアップ・ラパパ!!」」

 

 

みらいとリコが繋ぎあった手を空に掲げて呪文を唱えると地面から金色の光が飛び出し爆ぜる。

 

 

「「トパーズ!」」

 

 

二人と共に飛び上がったモフルンの元にキャンディの包みが現れ、その中からリンクルストーン・トパーズ飛び出した。

 

 

「「ミラクル・マジカル・ジュエリーレ!!」」

 

 

トパーズがモフルンにセットされるとそれぞれ手を繋ぎ、輪になって浮き上がる━━━

 

 

 

━━━金色の光はキャンディの嵐となってみらいとリコに降り注いで二人の姿を変えていった。

 

 

━━━━ぴょん♪

 

 

輝く魔法陣から飛び出したモフルンは巨大なプリンをクッションにして跳ね、二人と共に着地する。

 

 

「ふたりの奇跡!キュアミラクル!」

 

「ふたりの魔法!キュアマジカル!」

 

 

「「魔法つかいプリキュア!!」」

 

 

沸き上がるワクワクな気持ちとお菓子な衣装を身に纏う伝説の魔法使い……プリキュア・トパーズスタイルの力が今、解き放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「トパーズのプリキュアモフ~!」

 

変身した二人の姿にモフルンが嬉しそうに声を上げる。

 

「「……?」」

 

ガメッツとヨクバールを見据え、駆け出そうした二人の周りにサッカーボール程の大きさを持つ黄色の玉が四つ現れた。

 

「これは……」

 

突然現れた玉に疑問を感じて二人はそれが何なのかを確かめようとする。

 

「エメラルドではなかったか……だが、なんという不思議な格好……我がヨクバールに通じるかな?」

「ヨクバール!」

 

しかし、二人が玉の正体を確かめるより先にガメッツの指示を受けたヨクバールが攻撃を仕掛けてきた。

 

「「ふっ!!」」

 

突撃してきたヨクバールに対し、ミラクルとマジカルは跳躍する事でそれをかわす。

 

「それでかわしたつもりか!その出で立ちのように甘い!」

「ヨクッ!」

 

旋回したヨクバールが二人を狙って機関銃のように闇のエネルギー弾を発射した。

 

「「っ!!」」

 

空中で身動きのとれないミラクルとマジカルは腕をクロスさせてエネルギー弾を防ごうとする。

 

「「え?」」

 

衝撃と痛みを覚悟してぎゅっと目を閉じた二人だったが、周りに浮いている黄色の玉がいつの間にか盾の形に変化してヨクバールの攻撃を受け止めていた。

 

「な、何ぃっ!?」

 

当たると思っていたヨクバールの攻撃を防がれ、ガメッツが驚愕して声を上げる。

 

「あれがトパーズの力モフ!」

 

叫ぶモフルンの目線の先でミラクルとマジカルは黄色の玉を変化させて足場に変え、その上に落下した。

 

「「わあっ!?」」

 

黄色の玉が変化した足場はまるでトランポリンのような弾力性を備えてたようで落下の衝撃も相まって二人はさらに空高く跳ね上がる。

 

「「あ……」」

 

足場が弾んだ事に二人は驚くも飛び上がった先にヨクバールの姿を見つけると互いに視線を交わして息を合わせた。

 

「「はぁぁぁぁっ!!」」

 

気合いの叫びと共に無防備なヨクバールの顔面にドロップキックが炸裂する。

 

「ヨック……バールッ!?」

 

二人の蹴りを正面から受けたヨクバールはひっくり返り空中でたたらを踏むもすぐに起き上がって体勢を立て直した。

 

「その程度では敗れはせん」

 

トパーズスタイルの能力に驚いていたガメッツはようやく落ち着きを取り戻し、冷静に戦況を見極める。

 

「ふっ……はぁっ!」

 

盾に足場と変わっていく様子を目にした事で黄色の玉を使い方を理解し始めたマジカルは空中で姿勢を正すと玉をブーメランのような形に変え、ヨクバールに向かって投擲した。

 

「ヨクバール」

 

自分目掛けて飛んでくるブーメランに気付いたヨクバールは体を斜めに傾けてそれを回避する。

 

ヨクバールという的を外し、弧を描いてマジカルの元に戻ろうとするブーメランを軌道上に跳んできたミラクルがキャッチした。

 

「だあっ!」

 

ミラクルは両手に握ったブーメランを交差させて身の丈ほどあるハンマーを作り出すとさらに自分の周りに浮いている玉も加え、手元で回転させる。

 

「ヨォォッ!」

 

それを隙だと判断したヨクバールがミラクルに向かっていく。

 

迫るヨクバールに対してミラクルは二人分の玉を使って作り出した超特大の〝ピコピコハンマー〟を思いっきり振りかぶった。

 

「これで━━━どうっ……だぁぁぁ!!」

 

裂帛(れっぱく)の気合いを込めて振り下ろされたハンマーは向かってきたヨクバールの頭を(あやま)たず捉え、その巨体を地面に叩きつける。

 

「ヨック~~~~ッ!!?」

 

ハンマーの衝撃は先程のドロップキックの比ではなくヨクバールは派手に土煙をたてながら大地に沈んだ。

 

「はー!」

「やったモフー!」

 

強烈な一撃が決まり、はーちゃんとモフルンがヨクバールを倒したと喜びはしゃぐ。

 

「動きが読めん……ぬぅぅぅ……怯むな!行けヨクバール!!」

 

黄色の玉を様々な形に変えて戦うトリッキーなトパーズスタイルの戦術に歯噛みしながらもガメッツはヨクバールに活を入れる。

 

「ギョイッ!」

 

活を入れられたヨクバールはむくりと顔を上げ、ダメージなんてなかったかのように勢いよく空に飛び上がった。

 

「ヨクバー……ルルルルルルッ!!」

 

ヨクバールは旋回し、空高くから二人目掛けてエネルギー弾を乱れ撃つ。

 

「「くぅっ……!」」

 

地面を抉りながら迫ってくるエネルギー弾を変化させた盾で防ぐ二人。どうやらミラクルの一撃はきちんとヨクバールに効いていたらしく照準がぶれてエネルギー弾がどんどん二人から外れた場所を撃ち抜いていく。

 

「わぁっわぁっわぁっ~~~!?」

「はー!?はー!?はー!?」

 

狙いの逸れたエネルギー弾が離れたところにいるモフルンとはーちゃんを襲った。

 

「モフルンっ!」

「はーちゃんっ!」

 

モフルン達の方に迫るエネルギー弾に気付いたミラクルとマジカルが二人の元に向かうが、到底間に合わない。

 

「━━━あぁぁぁぁっ!!」

「モフッ!?」

「はー!?」

 

エネルギー弾が当たる直前で草むらから駆け込んできた八幡が二人を抱き抱えて倒れ込むように跳ぶ。

 

 

━━━━━ドドドドドドッ!!

 

 

先程までモフルンとはーちゃんがいた場所をエネルギー弾が駆け抜ける。もしあの場に留まっていたら二人はボロボロにされた地面と同じ運命を辿っていただろう。

 

「っ……大丈夫か?」

 

衝撃で苦痛に顔を歪めながらも八幡はモフルン達の無事を確認する。

 

「八……幡……?モフ!良かったモフ!無事だったモフ!」

「はー!はー!」

 

自分達の事よりも人の無事を喜ぶ二人に八幡は思わず苦笑を漏らした。

 

「八くん!良かった無事だったんだ……」

「八幡のおかげでモフルン達も無事みたいね……」

 

三人の姿を見てミラクルとマジカルがほっと安心して胸を撫で下ろす。

 

「ルルルルルッ!」

 

しかし安堵したのも束の間、ヨクバールの乱れ撃ちは止む事なく土煙を巻き起こしながら再び迫ってきた。

 

「っ走るぞ二人共!」

「モフ!」

「はー!」

 

身体が訴えてくる痛みに歯を食い縛って耐え、八幡は走り出す。

 

ドドドドドドッ!!

 

出鱈目に撃ち散らかしている筈なのに三人の後を追ってくるエネルギー弾。止む事のない苛烈な攻撃は走る八幡達を追い詰めていく。

 

「止めなきゃ!マジカル!」

「わかってる!行くわよ!」

 

暴れているヨクバールを止めるべく黄色の玉を足場に変えてミラクルとマジカルが空を駆ける。

 

「ヨクバー……ルルルルルルッ!」

「わっ!?」

「きゃっ!?」

 

近付いてくる二人に対してヨクバールは上下左右あらゆる角度に船体を回転させ、弾幕の壁でミラクルとマジカルを弾き飛ばした。

 

「ミラクル!マジカル!」

「はー!」

「っまず!?」

 

落ちていく二人を心配して声を上げるモフルンとはーちゃん。それに続いて振り向いた八幡の目がこちらへと飛んでくるエネルギー弾を捉えた。

 

「伏せろ!!」

「モフッ!!?」

「はー!?」

 

八幡がモフルンとはーちゃんを庇うように覆い被さる。その直後、すぐそばにエネルギー弾が着弾し、衝撃が八幡達の頭上を走り抜けた。

 

「っ……」

 

このまま倒れてしまいたい気分になるがそういうわけにはいかない。息つく暇もなく八幡は二人を抱えてその場を離れようとする。

 

(足が……!?)

 

重ねに重ねた疲労がついにピークを迎えたらしく八幡の足は固まったように動かない。

 

「バー……ルルルルッ!」

 

まるでそこに追い討ちをかけるようにヨクバールの乱れ撃ちが再び襲い掛かる。

 

「くっ……あぁっ!!」

 

眼前に迫るエネルギー弾に八幡はモフルン達の前へ転がるように躍り出て杖を突き出した。

 

(っ一か八か風の魔法で……!)

 

魔法を暴発させて軌道をずらそうとするが、間に合うかどうかも成功するかどうかもわからない。

 

覚悟を決めて賭けに出た八幡とその後ろにいるモフルンを庇うようにはーちゃんが腕を交差させながら前に出てきた。

 

「「はーちゃん!?」」

 

予想外なはーちゃんの行動に八幡とモフルンが声を揃えて驚き、止めようとするも間に合わない。

 

「━━━━はー!!」

 

はーちゃんが叫ぶのとほぼ同時にエネルギー弾が着弾して衝撃と共に三人のいた場所が派手な土煙に覆われる。

 

「モフルン!?八くん!?」

「はーちゃん!?八幡!?」

 

エネルギー弾が直撃した光景を目の当たりにしたミラクルとマジカルは駆け寄りながら最悪の事態を想像した。

 

「はー!」

 

煙が晴れるとそこには八幡とモフルンを包み込むように淡いピンク色のバリアを展開しているはーちゃんがいた。

 

「わぁ……」

「はーちゃん……!?」

 

まさかはーちゃんにヨクバールの攻撃を防ぐ力があるなんて思いもよらず驚く二人。そしてはーちゃんのバリアに守られているモフルンと八幡もまた驚きに目を見開いていた。

 

「はーちゃんが……守ってくれたモフ?」

「そう……みたいだな……」

 

呆然として呟かれたモフルンの言葉に八幡が同じく呆然して返す。この時、八幡はバリアを張って自分達を守るはーちゃんを見て不思議な感覚を覚えていた。

 

(胸の奥が熱い……これは……)

 

今までに感じた事のない感覚に八幡は戸惑い、疑問を浮かべる。その感覚は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ように感じた。

 

「……ちっこいのにやりおるな」

 

攻撃を防がれたにもかかわらず、嬉しそうな表情を浮かべたガメッツは思わぬ力を発揮したはーちゃんに狙いを定める。

 

「相手にとって不足はない。行けヨクバール!」

「ギョイッ!」

 

ニヤリと笑いヨクバールに指示を下すガメッツ。そして指示を受けたヨクバールがバリアを張っているはーちゃん目掛けて突進を繰り出した。

 

「モフルンとはーちゃん……」

「あとついでに八幡を……」

 

「「いじめないで!!」」

 

ミラクルとマジカルは声を揃えてそう言うとはーちゃんの前に立ち、向かってくるヨクバールを真っ直ぐ見据える。

 

 

「「リンクルステッキ!」」

 

「モッフ~~!」

 

 

モフルンの胸に輝くリンクルストーンから黄色の玉が飛び出した。

 

「モッフ♪」

 

飛び出した黄色の玉に乗ってくるくると一回転したモフルンは可愛らしい掛け声と共にそれを頭で打ち出す。

 

「ふっ!」

 

飛んできたモフルンからのパスをミラクルがリンクルステッキで受け止め、今度はマジカルの方に打ち出した。

 

「はっ!」

 

ミラクルからのパスを受け取ったマジカルはリンクルステッキをテニスラケットのように振りかぶるとそのまま天高く打ち上げる。

 

 

「「トパーズ!」」

 

 

パスを受け止めた二人のリンクルステッキの柄にはトパーズがセットされ、輝く稲妻を纏っていた。

 

 

「「金色の希望よ……私達の手に!」」

 

 

二人は勢いよく跳び上がって打ち上げられた黄色の玉を掴んで手を繋ぎあう。

 

 

「「フル……フル……リンクル━━!」」

 

 

リンクルステッキを重ね合わせたミラクルとマジカルはジグザグに線を引いて稲妻マークを描き出すとそれを混ぜるように回転させて球体を作り出した。

 

━━━━━カンッ

 

球体を掲げた二人がステッキを打ち鳴らすと稲妻の柱が建ち上がり、巨大なリンクルステッキに変わる。

 

そしてそこへタイミングを見計らったかのように闇の魔法を全開に纏ったヨクバールが猛スピードで突撃してきた。

 

ガキンッ━━━ガチャンッ

 

巨大なリンクルステッキが倒れ、突撃してきたヨクバールを拘束する。

 

 

「「プリキュア━━━……」」

 

 

拘束されたヨクバールの前に黄色の魔法陣が形成されると巨大なリンクルステッキに稲妻が走り始めた。

 

 

「「トパーズ・エスペランサ!!」」

 

 

腕を交差させて呪文と共に前に突き出すと稲妻の奔流が巨大なリンクルステッキに流れ込み、磁場を作り出してヨクバールを引き寄せる。

 

ヨクバールを砲弾、巨大なリンクルステッキを砲身とし、電磁加速砲(レールガン)の要領で撃ち放った。

 

「ヨクッ━━━……バ━━━━ル━━……」

 

浄化の雷に包まれて砲弾と化したヨクバールは何度も地面に叩きつけられ、バウンドしていく。

 

飛んでいったその果てに雷が弾けて地面に拡がり、それによって吹き出した紅蓮の炎に覆い尽くされたヨクバールは浄化されて元の掲示板と桜の木に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「出で立ちに惑わされたわ!……オボエテーロ!!」

 

浄化されたヨクバールを見て悔しげな表情を浮かべたガメッツが捨て台詞と共に呪文を唱えて消える。

 

「終わった……か」

 

ガメッツが消え、壊された景色が元に戻っていく中でぽつりと八幡。その胸中には、はーちゃんが力を発した時に感じた不思議な感覚についての疑問が渦巻いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦いが終わり、全てが無事に修復された後で変身を解いたみらい達はモフルン達と向かい合っていた。

 

「どうして学校に来てたの?」

 

みらいがモフルンに向かって尋ねる。結果的にモフルンが学校にいたおかげでガメッツの襲来に対応出来たものの、本来なら校長からの連絡に備えてみらいの家で待機している筈だった。

 

「勝手に来てごめんモフ……」

「はーはー!はー!」

 

尋ねられてしょんぼりした顔で謝るモフルンとその横で庇うように何かを訴えるはーちゃん。その様子を見て二人が学校に来た理由を何となく気付いている八幡が口を挟もうとする。

 

「は~~~~!!」

 

八幡が口を開こうとしたその瞬間、叫ぶと共にはーちゃんの体が一際強く輝きだした。

 

「え━━?」

「へ━━?」

「あ━━?」

「モフ━━?」

 

突然の出来事に呆然と驚くみらい達を他所にはーちゃんは光り輝きながら姿を変化させていく。

 

「えぇっ!?」

「また大きくなった!?」

「か、可愛い……」

 

成長前より二回りは大きくなり、背中には妖精らしい四枚のエメラルドグリーンの羽、ピンク色のお団子を左右に結った髪の上には白い花飾りを乗せ、ふわふわとした可愛い服装に身を包んだはーちゃんの姿をみらい達がまじまじと見つめる。

 

「みらいーリコー」

「「え……?」」

 

たどたどしい口調で言葉を話すはーちゃんに再び驚く一同。そしてはーちゃんはみらいとリコを真っ直ぐ見つめながら言葉を続ける。

 

「モフルンはー……一人で頑張ったの……みんなの学校……邪魔しないように……」

 

一緒にいてモフルンが頑張った事を知っているはーちゃんがゆっくりとみらい達に向けてそれを訴えた。

 

「でも……やっぱりモフルンもはーちゃんも……みんなと一緒がいいの……学校も一緒がいいの!」

 

家でも学校でもずっと一緒に過ごしたいというはーちゃんの想いを聞いてみらいとリコは顔を見合わせる。

 

「…………まあ自分達だけ留守番って言われるのは置いてきぼりにされたみたいであれだからな」

 

先程まで言葉を話すはーちゃんの可愛さに悶絶していた八幡がようやく正気を取り戻し、モフルン達をフォローするように呟いた。

 

「モフ……」

 

はーちゃんの訴えと八幡の呟きを受けたみらいとリコはモフルンを優しく抱き上げる。

 

「モフルン、私達のためにありがとう」

「はーちゃんもありがとう」

「モフ?」

 

抱き上げられてお礼を言われたモフルンが不思議そうに首を傾げた。

 

「……明日からはちゃんと隠れててね?見つかったら大変」

「はーちゃんもね?」

「はー……?」

「……学校に来ていいモフ?」

 

二人の言葉にモフルンとはーちゃんが驚き、目を輝かせる。

 

「みんなで学校に通えるなんて……ワクワクもんだよ~~~~!!」

 

みらいのはしゃぐ声にリコ達の嬉しそうな笑い声が木霊し、そばにいる八幡もまた微かな笑みを(こぼ)した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば八くん私達よりも早くモフルンの助けに来てたけどHRはどうしたの?」

 

一頻(ひとしき)り喜びあった後でふと浮かんだ疑問をみらいが口にする。

 

「…………き、緊急事態だったから……まあその……サボタージュを……」

 

まさかその事を聞かれるとは思ってもみなかった八幡は目線を逸らしながら誤魔化すようにそう答えた。

 

実を言えばモフルンを探しにいった当初はガメッツに襲われてるとは知らず、見かけたような気がするから取り敢えず探してみるかという緊急性の薄い理由だったのだが、わざわざそれを言う必要もないだろう。

 

「……八幡。あなた出席日数は大丈夫なの?」

 

高校生である八幡には日数が足りなければ補習、あるいは留年の可能性もある事を知っているリコが心配そうに尋ねる。

 

「大丈夫だ。最悪、先生に土下座して謝り倒せば何とかなる」

「……それって大丈夫なのかな?」

「……大丈夫じゃないと思う」

 

言っている事は後ろ向きなのに得意げな表情を浮かべる八幡。それを見てみらいは首を傾げ、リコは呆れてこめかみの辺りを軽く抑える。

 

「……あ、そうだ!八くんこの後家においでよ」

 

流れてしまった変な空気を打ち破るようにみらいがそんな提案を打ち出した。

 

「え、あー……今日はあれがアレで忙しいから……」

「八幡に予定は無いみたいね」

 

反射的にみらいの提案断ろうとした八幡の言い訳をリコが容赦なく叩き切る。

 

「ぐっ……まだ……」

 

それでもなお食い下がろうとする八幡の前にはーちゃんが近付いてきた。

 

「はーちゃ一緒に行かないの……?」

「……お前ら何をしてる、さっさと行くぞ」

「変わり身はやっ!?」

 

はーちゃんに上目遣いでお願いされた事で渋っていたのが嘘のように一瞬で乗り気になった八幡にリコが思わず声を上げる。

 

「よーし、じゃあみんなで一緒に帰ろっか!」

「モフ━!」

 

夕焼けに沈む木々を背にみらいとモフルンの弾んだ声が空に響いていた。

 

 

━━十三話に続く━━

 

 





次回予告


「ここが私の家だよ!」

「ほーん、店と家が一緒になってるのか」

「ただいまー」

「モフー」

「ちょっ二人共待ちなさい」

「隠れてなきゃお母さんに見つかっちゃうよ!」

「お帰りなさい。あら貴方は……」

「……?」





次回!魔法つかいプリキュア!やはり俺が魔法使いでプリキュアなのはまちがっている。

「爆ぜる想いの火!みらいと八幡、二人の始まり!」





「キュアップ・ラパパ!今日もいい日になーれ!」
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