やはり俺が魔法使いでプリキュアなのはまちがっている。   作:乃木八

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第一話「出会いはミラクルでマジカル!甘いコーヒーと捻くれ者?魔法のプリキュア誕生!」Aパート

 

「な~んだったのかな昨日のあれ?」

 

朝、母である今日子が営むパワーストーンのお店の開店準備を手伝いながらみらいはそんなことを呟いた。

 

「ま、流れ星かなにかでしょ」

 

商品を磨いていた今日子が適当に答える。

 

「よいしょっと、いやいや~流れ星はパーって落ちてもくるくる~はないでしょ?」

 

みらいがそう言うと今日子は少し呆れた笑いを漏らした。

 

「ひょっとしたらそれは、箒に乗った魔法使いかもしれないわね」

 

そう言いながら入ってきたのはみらいの祖母、結希 かの子だ。

 

「もう、何かあるとすぐそれなんだから」

 

今日子の呆れ声を他所にみらいは、わぁわぁといってかの子の話に興味津々で駆け寄る。

 

「おばあちゃん!今、魔法使いって言いました!?」

 

かの子は優しく微笑んで返す。

 

「あるね!魔法使いの可能性!!それってワクワクもんだ~!!!」

 

両手をグーにしてぶるんぶるん振るほどにみらいはワクワクしていた。

 

「勉強にもそれくらいワクワクしてくれるといいんだけどねぇ」

 

母の言葉にうっと言って動きが止まる。が、それも一瞬だけで力強くグッとしてみらいは言う。

 

「大丈夫!まもなく中学二年生、成長した私を見てて!」

「はいはい」

 

今日子は少し笑ってそう言うとくるりと後ろを向いて腕を組み独り言のように呟いた。

 

「さて、そろそろお父さん起きてくる頃かしらね~」

「ほぇ?」

 

唐突な言葉に首をかしげるみらい。

 

「いてもたってもいられないんでしょ?後はお父さんに手伝ってもらうから流れ星でも魔法使いでも気の済むまで探してらっしゃい」

「え、いいの?」

「あ、その前に…」

「ん?」

 

そう言うと今日子はカウンターの裏にみらいを呼び、そこにある箱を指した。

 

「好きなのどれかひとつ、頑張ってくれたからご褒美♪」

 

そこにあったのは可愛くアクセサリーに加工してある様々な種類のパワーストーン。

 

「いいの?やったぁ~♪」

 

色々あって目移りして迷ってしまう。

 

「ん~どれがいいかな…あっ」

 

少し大きな箱を手に取るとその下にキラリと光るピンク色ペンダントが見えた。

 

「………」

 

何故かそのペンダントが気になりじぃ~と見つめると再びキランと光った気がして手に取ってみる。

 

「お母さん」

「ん?」

 

娘に呼ばれてみるとその手にピンク色ペンダントが見えた。

 

「これでいいの?」

「うん、これがいい」

 

ペンダントを首から掛けて嬉しそうに笑い駆け出す。

 

「じゃあ、いってきますっ!!」

「気を付けていってらっしゃい」

「魔法使いに会ったらお母さんにも紹介しなさい」

「まっかせて~!モフルンっいくよ!!」

 

子どもの頃からずっと一緒にいるぬいぐるみのモフルンをのせた専用のかごを持って元気よく飛び出した。

 

「「いってらっしゃい~」」

 

飛び出していったみらいを見送った後、ふと今日子が呟く。

 

「そういえば、あんなペンダントあったっけ?」

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

「このあたりだったよね~…」

 

元気よく飛び出したみらいは昨日不思議な物体が落ちたと思われる桜並木の道を歩いている。風が吹く度に満開の桜から花びらが零れて桜吹雪が舞っていた。

 

少し歩くと道が二つに分かれていて、立ち止まる。

 

「ん…こっち!―――あいたっ!?」

「うおっ!?」

 

なんとなくの直感で横の道を選んで走り出すと、曲がり角に人がいたらしくぶつかってしまった。

 

「あっごっごめんなさい、私の不注意で…」

「いや、こっちも少しぼーっとしてたからな、悪い」

 

勢いが良くぶつかった為か少し赤くなった鼻を押さえながら顔をあげると高校生くらいの目が特徴的な男の子がいた。

 

「あれ?…どこかで…」

 

その男の子の顔にどこかで見覚えがあり、思わずじぃ~っと見てしまう。

 

「なんだ?…俺の顔に何か付いてるのか?」

「え?えっと~もしかしてどこかで会ったことありませんか?」

「は?いや、初対面だと思うが…それより大丈夫か?」

「へ?あっ大丈夫!私の不注意のせいですし、変なこと聞いてごめんなさい」

 

どうやら気のせいだったみたいでぶつかった事と合わせて変なこと聞いた事も一緒に謝る。

 

「まあ、怪我もないみたいで良かった、次から気を付けてな」

 

そう言うと男の子は行ってしまった。

 

「うーん、どこかで会ったと思ったんだけどな~」

 

そんなハプニングもあったけど、気を取り直して魔法使い探しを再開する。

 

「ん~、どこに落ちたのかな~」

 

キョロキョロ見渡しながら探していると、不意に声を掛けられた。

 

「ねぇ、落ちたわよ」

「ふぇ?」

 

後ろを振り向くと地面にモフルンが落ちていた。

 

「え?うわぁぁ!?モフルン!!」

 

慌てて駆け寄り拾い上げ抱き締める。

 

「ごめんね……ありがとう、教えてくれて…あれ?」

 

教えてくれた声の主を探してキョロキョロするも、見当たらない。

 

「ととっ…駄目よ、気を付けなきゃ」

 

声のする方に顔を向けると箒に乗って空を飛んでいる少女がいた。

 

「ぁぁ……ああ…」

「それじゃあね、よっと」

 

少女はそれだけ言うとくるりと方向転換していこうとする。

 

「魔法使いだぁぁっ!!!」

「あっぁぁうわぁ!?」

 

突然の大声に驚いて少女はバランスを崩し落ちそうになる寸前で箒にしがみつく。

 

「それ魔法の箒?本当に箒で飛ぶんだ~」

「なっ何?」

 

駆け寄ってきたみらいの勢いに押されてたじろぐ少女。

 

「その帽子も素敵だねぇ!あっ昨日夜見たよ、落ちてくとこ!!」

「はっ!」

 

みらいの落ちてくという言葉に反応して少女が箒から降りる。

 

「おっ落ちてないし!あれは…」

「あの!私、朝比奈みらい!13歳今度中学二年生、魔法使いさんっお友達になってください!!ねっ?」

 

みらいはそういって少女に手を差し出した。

 

「へ?ぁ、あっ、聞いてないしっ名前なんて」

 

みらいに背を向けて人差し指をピンと立てる。

 

「私、急いでるから、あなたに構ってる暇なんてないの」

 

そう言ってこほんと咳払いをし、大きく息を吸って唱えた。

 

「キュアップ・ラパパ!」

 

少女が魔法の呪文を唱えるとフワリと風が吹き、箒が宙に浮かぶ。

 

「箒よ、飛びなさいっ!」

 

徐々に箒が上昇し、少女は空に飛びたとうとして…飛び立てなかった。箒が何かに引っ張られているようで動かない。

 

「ふぇ?」

 

怪訝に思った少女が後ろを振り向くと、みらいが箒を掴んで引っ張っていた。

 

「うぅぅぅっ」

「え?こら~!!」

「まって~行かないで~!」

 

みらいに引っ張られても無理矢理飛ぼうと少女は踏ん張る。

 

「んぅぅお話だけでも、ね?」

「えぇ…箒よ、飛んでっ張り切って、頑張って、飛ぉべぇぇぇぇ!!!」

「はぇ?ふぉぉっ!?」

 

少女が思いっきり叫ぶと箒はみらいを連れたまま真上に飛んだ。

 

直後、空に音が響く。

 

ぐぅぅぅぅ~

 

「あっちから、が…」

「え?」

 

飛んだと思ったのも束の間、少女が力尽きるように気を失い、失速して落ちてゆく。

 

「え、え?えぇぇぇぇっ!!!」

 

この高さから落ちれば無事では済まない、みらいが落ちるっと恐怖で目をぎゅっと瞑った瞬間、みらいと少女から光があふれ二人を包んだ。

 

「あ…」

「ん…」

「「はっ」」

 

光の中、少女は目を覚まし、何が起こったのかわからない二人は顔を見合わせる。

 

「あっ」

「あぁっ」

 

すると、二人の胸元から光輝くペンダントが出てきた。

 

「「おんなじ!!」」

目を見開いて驚く二人。何故なら、二つのペンダントの形がまったく同じだったからだ。

 

ぐぅぅぅぅ~

 

再び緊張感のない音が鳴り、それを合図にしたかのように光が消え、宙に放り出される。

 

「「うわぁぁ!?」」

 

どすんと音が響き、とんがり帽子だけが空を舞った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━遡ること数分前

 

曲がり角で少女とぶつかった八幡は少女と別れた後、目的地である本屋を目指して歩いていた。

 

「そういえばこの辺だったな…」

 

昨晩、魔法使いの少女と出会ったことを思い出してそんなことを呟く。

 

あの後、家に帰った八幡を待っていたのは散々待たせた挙げ句、買ってきたアイスが溶けていてカンカンの小町だった。

 

小町をどうにか宥めてると、どっと疲れが押し寄せてきてそのまま寝てしまい気が付くと朝になっていた。

 

本当なら二度寝をしようと思ったのだが、欲しい本の発売日だったことを思い出し、あーあの本人気だからすぐ売り切れるんだよなーでも起きるのだるいなーとか思いつつ結局買いにいく事にした。

 

「あいつはあの後大丈夫だったんだろうか」

 

あいつとは魔法使いの少女のことである。普段、他人とはあまり関わらない八幡だが少女の行動のひとつひとつが危なっかしく、なぜかほっとけなかった。

 

少女は何かを探していると言っていたが深くは聞かなかった、それ以上関わる気はなかったからだ。

 

「まあ、考えてもしかたな━」

 

魔法使いだぁぁっ!!!

 

突然、後ろの方から声が聞こえて反射的に振り返る。

 

聞き間違えでなければ魔法使いと聞こえた。どうやらそれなりに距離があったらしくそれ以降の声は聞こえてこないが自然と八幡の足は声がした方に向かっていた。

 

きた道を引き返すと先程少女とぶつかった曲がり角まで戻ってきていた。辺りを見回すと何かが空に向かって凄い勢いで飛び出すのが見える。

 

「…は?」

 

八幡の目に飛び込んできたのは二人の少女が箒で勢いよく空に飛び出す光景だった。

 

「あの二人…は!?」

 

二人の少女には見覚えがある。昨日の魔法使いとさっきぶつかった少女だ。何であの二人が?と疑問が浮かんだが、次の瞬間吹き飛ぶ。

 

なんと、二人の乗る箒が力尽きたように落下し始めたのだ。昨日のように木から落ちるのとは訳が違う、あの高さから落ちればまず助からない。

 

「くそっ!またか!!」

 

悪態をつきながら八幡は駆け出す。間に合う保証はない、たとえ間に合ったとしても八幡が下敷きになる程度では到底助からないし、それどころか八幡も巻き添えで無事ではすまないだろう。

 

それでもただ指を加えて見てるだけというのは出来なかった。行かなければ後悔する、そんな衝動が八幡を動かす。

 

えっえ?えぇぇぇぇっ!!!

 

少女の絶叫が聞こえる。

 

間に合わない!と思った瞬間、少女達が光に包まれ空中で静止する。

 

「はぁはぁはぁ…な…何だ…あの…光…は?」

 

光の真下まできた八幡は全力疾走の直後で、息も絶え絶え、目の前の出来事に対して思考が働かない。

 

ぐぅぅぅぅ~

 

光の中から聞き覚えのある緊張感のない音が響いたかと思ったら突如、光がぱっと消え、少女達が宙に放り出される。

 

「え?」

 

一度、空中で静止したため落ちたとしても大事には至らないだろうが、問題はその下に八幡がいることだ。全力疾走に加え、頭が追い付いていない八幡は、落ちてくる二人を呆然と見つめることしかできない。

 

どすんっ!と同時にぐぇっ!?と言う声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━同時刻 大通り

 

黒いコートを着た長身の男が何かに気が付いたように呟く。

 

「ん?感じましたよ、強いチカラ…フフフフフッ」

 

男は不気味に笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「はむっ…もぐもぐ」

 

サクッとおいしそうな音を立ててメロンパンを頬張るのは魔法使いの少女。

 

「イチゴメロンパン、甘くて、サクサクでおいしいでしょ?」

 

そう少女に問いかけたのは朝比奈みらい、二人はベンチに座ってイチゴメロンパンを食べている。

 

「ええ」

 

答えつつも夢中でもぐもぐとイチゴメロンパンを食べる少女。

 

「お腹空いてたんだね~」

「昨日の夜、ごくん、おにぎりをひとつ食べてからなにも食べてなかったから」

「えぇぇ!?それ大事件だよ~!」

 

みらいからすればおにぎりひとつで一晩過ごしたというのは大事件らしい。

 

「…何、お前あれから帰らなかったの?」

 

突然、二人の会話に入ってきたのは、ベンチの近くにある桜の木に寄りかかってマッ缶を飲んでいた八幡だ。

 

「ええ、ちょっと探し物をしていて…」

 

俯いて、気まずそうに話す少女。そんな少女を見て八幡は目線を逸らす。

 

「探し物…」

 

魔法使いの探し物に興味があるのかみらいは少し考えるように呟いた。

 

「ごちそうさま」

 

みらいが考えているうちに少女が食べ終わったらしい。

 

「あっ、お腹一杯になった?」

「ええ」

「魔法、使えるようになった!?」

「え?ええ…」

 

グイグイくるみらいに少し引き気味に答える少女。

 

「箒に一緒に乗せて!」

「無理よ、一人乗り用だし」

「ふぇ、そうなんだ…」

 

目に見えてがっかりするみらい、その落ち込みように魔法使いの少女は瞑目する。

 

「…別に箒じゃなくても、魔法をみせてやったらいいんじゃねえの?」

 

みらいのあまりの落ち込みように八幡もつい口をはさむ。

 

「ん…」

 

魔法使いの少女は少し考えると傍らに置いてあった帽子を被って立ち上がった。

 

「ひとつだけ」

「へ?」

「イチゴメロンパンのお礼…何かひとつだけ魔法、見せてあげる」

「ほぇ、わぁぁっ」

 

魔法を見せてもらえることになって嬉しそうなみらい、そんなみらいを見て八幡は思う。

 

(俺、なんでここにいるんだっけ?)

 

 

 

 

 

 

━少し遡って二人が八幡の上に落ちてきた直後

 

「「あいたた~」」

 

二人は同時に声をあげる、箒から落ちてかなりの高さから地面に激突するかと思われたが、途中謎の光に包まれ空中で静止した。

 

そのおかげで大事に至ることはなかったのだがそれでもそれなりの高さがある。二人とも多少の痛みを覚悟したのだが、何かがクッションになったようで思ったよりも痛みがなかった。

 

「きゃっ!?」「ふぇっ!?」

 

驚いた様に声をあげる二人。それもそのはず、下を向くと高校生くらいの男の子が下敷きになっていたのだから。

 

「「あれ?この人…」」

 

再び声が揃う、二人ともその男の子の顔に見覚えがあった。

 

「昨日の…」「さっきの…」

「「え?」」

 

どうやら二人ともが顔見知りのようで戸惑っている。

 

「ゲホッ…あのそろそろ退いてくれませんかね?」

「「あっごめんなさいっ」」

 

下敷きにされた男の子、比企谷八幡は二人分の落下の衝撃を受け、咳き込むのをなんとか抑えて声を絞り出した。

 

「…」

「…」

「…」

 

二人が八幡の上から退くと三人とも黙ってしまい、なんとも言えない空気が流れる。

 

そんな空気を破ったのは八幡とぶつかった少女だった。

 

「あのっ大丈夫ですか?」

「え?あっ…お、おう、大丈夫だ」

 

心配されると思ってなかった八幡は少女の言葉に驚いて少しどもってしまう。

 

「良かった~あっ私、朝比奈みらいっていいます!お兄さんは?」

「…比企谷八幡だ、そっちも怪我はないみたいだな」

 

大丈夫です!とみらいが答えると八幡はそうかと言ってもう一人の少女の方を向く。

 

「そっちは大丈夫だったか?」

「へ?あっ…え、ええ、大丈夫よ」

 

魔法使いの少女は会話の矛先が自分に向くとは思わなかったようで先程の八幡のように少しどもってしまった。

 

(なんか聞き覚えのある台詞だな、会話に慣れていない感じや昨日の様子といい、どことなくボッチ臭がする…)

 

実際どうなのかはわからないが、八幡の中では魔法使いの少女はボッチ認定をされつつあった。

 

ぐぅぅぅぅ~

 

「…また腹減ってるのか」

「ちっ違うしっこれは…」

 

ぐぅぅぅぅぅぅ~

 

魔法使いの少女は顔を赤くして弁明するも、体は正直なようで何か食わせろ~とお腹から鳴る音が大きくなる。

 

「あっ!そうだ!!」

 

その音を聞いてみらいが何かを思い付いたようで、八幡と魔法使いの少女の手をとった。

 

「は?」「え?」

「この近くにとぉってもおいしいイチゴメロンが売ってるから行こっ!」

 

そう言うとみらいは二人の手を引いて走り出す。

 

「ちょっちょっと待って、私行くなんて一言も…」

「大丈夫、大丈夫!」

 

なにが!?と抗議する魔法使いの少女。しかしお腹が減っているため、みらいを振りほどくことができない。

 

「俺が行く必要無いだろ」

 

魔法使いの少女に便乗してさりげなく断ろうとする八幡。

 

「ううん、その、色々迷惑かけちゃったからお詫びしたくて…」

 

ダメかな?と聞かれて、つい八幡は駄目じゃないと答えてしまい、二人揃ってみらいに連れていかれてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「到着~こっちだよ!こっち!」

 

みらいに連れられ、噴水のある広場に来た八幡と魔法使いの少女。

どうやら、目的のイチゴメロンパンのお店は移動販売車らしくなにやらデコレーションされた車の横でみらいが手を振っている。

 

ぐぅぅぅぅ~

 

八幡の隣で再び自己主張の激しい音が鳴った。おそらく漂ってくるイチゴメロンパンの香りに触発されたのだろう。

 

「…違うから」

「なんにも言ってないぞ」

 

二人でそんなやり取りをしていると先に店の前まで行っていたみらいが困った表情を浮かべていた。

 

「どした?」

「それが…その……私、お金持ってなかった…」

「「えぇ…」」

 

まさかの言い出した本人がお金を持っていないということに思わず二人揃って声が出る。

 

「…ごめんね、二人にイチゴメロンパン食べてもらいたかったのに…」

 

しょんぼりするみらいにどうすれば良いのかわからず二人で顔を見合わせた。

 

ぐぅぅぅぅ~

 

そこに追い打ちをかけるようにお腹の音が響いて、さらにみらいの表情が曇り魔法使い少女が申し訳なさそうにお腹をおさえている。

 

「…はぁ、ちょっと待ってろ」

 

そんな様子を見かねてか、八幡は少し考えた後ため息を吐き販売車の方に向かう。

 

「ほら」

「え?これ…」

 

戻ってきた八幡は手に持っていたものを二人に渡した。

 

「イチゴメロンパン…」

 

渡されたのはイチゴメロンパン、みらいの代わりに買ってきてくれたようだ。

 

「でも、どうして?」

「あー…その、なんだ、さっきまであんだけ元気だったやつにそんな顔をさせるのもアレだし、そっちのやつの腹も限界みたいだからな」

 

ソッポを向き早口で捲し立てるようにしゃべる八幡。照れ臭いのか少し顔が赤くなっている。

 

「…ふふっ」

 

そんな八幡を見てさっきまでしょんぼりしていたみらいから自然と笑みが零れた。

 

「…というか私、お腹なんて減ってないし!」ぐぅぅぅぅ~

「はいはい、ここで突っ立ってても邪魔になるから向こうのベンチにでもいくぞ」

 

この期に及んでも認めない魔法使いの少女を適当にあしらいつつ移動を促す。

 

「うん!ありがとう八幡さん!」

「…ありがとう」

「…おう」

 

 

 

 

ベンチに着くとみらいと魔法使いの少女を座らせ、八幡は近くの木に寄りかかってマッ缶を取り出した。

 

「あれ、八幡さん座らないの?」

 

みらいが不思議な顔をして八幡を見ている。

 

「…それ以上は定員オーバーだろ」

「詰めれば三人座れるよ?」

 

確かに詰めれば座れなくはないが、それはつまり密着しなければならないということであり、妹くらいの女の子とはいえボッチには些かハードルが高い。

 

「遠慮しとく、それより食べなくていいのか?隣のやつはもう食べ始めてるぞ」

「ふえ?あっ本当だ、いつの間に」

 

みらいが隣を見ると魔法使いの少女はもぐもぐと夢中でイチゴメロンパンを食べていた。

 

「じゃあ、私もいただきまー…あれ?」

 

大きな口を開けてイチゴメロンパンを頬張ろうとしたみらいが何かに気付いたようにピタリと動きを止める。

 

「そういえば八幡さんの分は?」

「いや俺は別に…」

 

イチゴメロンパンは二つしか買ってないため八幡の分はない、財布には新刊を買うための最低限のお金しか入ってなかったため二つしか買えなかったのだ。

 

「うーん、じゃあ、はい!」

 

少し考えてからイチゴメロンパンを半分に割って差し出すみらい。

 

「遠慮しなくても全部朝比奈が食べていいぞ」

「ううん、遠慮とかじゃなくて一緒に食べた方がおいしいから、ね」

 

そういわれたら受け取らないのも気が引けるので、そうかと言って受けとる。

 

「じゃあ改めて、いただきまーす!」

「…いただきます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな具合で話は元に戻る。

 

公園から少し離れた木。その木の下でみらい、魔法使いの少女、八幡の三人が枝の上で昼寝をしている猫を見上げていた。

 

「じゃあ、猫とお話するってのはどう?」

「あ、いいねぇ!」

「大丈夫なのかそれ…」

 

みらいはこれから見る魔法にワクワクしていたが、八幡は昨日の夜、魔法でおにぎりを開けようとして真っ二つにしたところを見ているのでまたなにかやらかすんじゃないかと心配している。

 

そんなワクワクや心配を余所に魔法使いの少女が杖を取り出した。

 

「これって魔法の杖?」

「…そうね」

 

先端が星形になっている杖を可愛い~と言いながらちょんちょんとつつくみらい。

 

「キュアップ・ラパ…「それ!」うっ…」

「さっきも言ってたよね!?」

「魔法の言葉よ……テンポが崩れるから静かにしてて」

「うぇ、ごめんなさい」

 

ようやく静かになり、魔法使いの少女はふぅと短いため息を吐き、唱える。

 

「キュアップ・ラパパ!猫よ、お話しなさい!」

 

杖から出た光が猫を包み、そして…

 

「アン、アン、アン、アンアン」

 

子犬のように鳴いた。

 

「おお!すごい…けど、これじゃおしゃべり出来ないよねぇ」

「…犬とは喋れそうだな、あの猫が」

「つ、次が本番っ!キュアップ・ラパパ!」

 

誤魔化すようにもう一度魔法を掛ける少女。再び光が猫を包むと、

 

「ペラペーラ、ペラペラペラ━」

 

うぅ…と声を漏らして苦い顔をする魔法使い。

 

「ペラペラ話してるよ!…けど、何言ってるのかわからないね」

「こ、これはえっと…」

「…まあ、魔法は見れたな」

 

失敗したけどと八幡は心の中で付け足す。まあ本人は認めないだろうが。

 

ペラペラぺッ…ニャーン

 

どうやら魔法が切れたようで鳴き声が元に戻り、そのままどこかにいってしまう。

 

…………

 

気まずい空気が流れる。

そんな空気を破ったのはみらいだった。

 

「あっ!そうだ!モフルンと、お話できないかな?」

「「モフルン?」」

 

魔法使いの少女と八幡の声が重なる。

 

「この子」

 

そういってみらいはぬいぐるみの入ったかごを取り出した。

 

「ぬいぐるみは喋らせようがないわね」

「あ…そうなんだ…残念、だめか~」

 

目に見えて落ち込むみらいに魔法使いの少女は少し戸惑い眉を寄せる。

 

「そういうもんなのか?」

 

魔法でぬいぐるみと会話といえばファンタジーではよくある気がするのだが、現実の魔法は違うらしい。

 

「ええ、言葉を翻訳するのとは訳が違うから」

「ほーん…」

 

そこで会話が途切れ、三人は歩きだした。

 

 

 

 

 

「私が生まれたときにね、おばあちゃんがくれたんだって…それからずっと一緒なの、兄弟みたいに」

 

モフルンを抱き上げてぽつり、ぽつりと語るみらいを木々の間から優しく風が撫でる。

 

「もし、できるのなら、お話……してみたいんだ」

 

モフルンを優しく見つめるみらいの横顔をちらりと覗く魔法使いの少女はなにも言わずに耳を傾ける。

 

二人から少し離れた所を歩く八幡もみらいの言葉を静かに聞いていた。

 

「だけど、もしあの時、モフルンを落としたことに気が付かないままだったら、私……だから」

「?」

「本当に…本当にありがとうね!魔法使いさん!!」

 

本当に心の底から感謝しているのが伝わってくるような満面の笑顔と言葉に魔法使いの少女は、むず痒そうな顔をして、視線を逸らし帽子を深く被り直す。

 

「…リコ」

「へ?」

「私の名前、リコよ」

「えっわっ私、朝比奈みらい!」

「それ、さっき聞いたから」

 

魔法使いの少女、改めリコが名前を教えてくれたのが嬉しかったのか、うっかりもう一度自己紹介するみらい。

 

「あ、えへへ~そうだったね~」

 

そう言って笑うみらいをみてリコもしょうがないわねという笑みを浮かべ、そして八幡の方を向いた。

 

「あなたも、私の名前はリコよ」

「いや、昨日聞いたけど…」

 

さっきあの子に注意したのに自分も同じ間違いをするとか、この子大丈夫かしらん?と八幡が心の中で考えていると顔に出ていたのかリコが察したようだ。

 

「…だって、一度も呼ばれてないから忘れてるのかと思って」

「さすがに昨日の今日で忘れねぇよ」

 

あれだけ強烈な出来事ならしばらくは忘れない気がする、それと名前を呼ばないのは勘弁してほしい、名字ならともかく、女の子を名前で呼ぶのはボッチにとってハードルが高い。

 

「そういえば、二人は知り合いなの?」

 

みらいの質問で話題が逸れたのでこれ幸いと八幡は便乗する。

 

「別に知り合いって程じゃない。昨日の夜、初めて会った」

「そうなんだ?もしかして昨日のくるくる~が気になったの?」

「くる?いや、たまたま買い物の帰りに空から落ちてくるのがみえて…」

「落ちてないし!その、丁度良い枝があったから着陸したの!狙い通りだったんだから!」

 

落ちたという単語に過敏に反応して抗議するリコ。正直、どれだけ言い訳しようと誰がどうみてもあれは落ちたようにしか見えなかったのだが。

 

「あれはどうみても落ちてただろ…」

「落ちてない!」

「あはは~」

 

しばらく三人でそんなやり取りをしていると不意に沈黙が訪れる。

 

「…じゃあ、私もういかなきゃ」

 

口を開いたのはリコ、どうやら探し物の探索に戻るようだ。

 

「あっうん…そっか、探し物があるんだもんね」

「そうだな」

 

みらいの呟くような言葉に八幡が答える。

 

不思議なことに、普段ボッチで人とあまり関わらない八幡が会ったばかりの少女たちとイチゴメロンパンを食べて、お喋りをして、別れ際で少し名残惜しいと思っていた。

 

(そういえば魔法について割りとすんなり受け入れられたな…まあもう関わることもないだろうが)

 

実際目にしている以上魔法は確かに存在する。けれどそれだけ、八幡には関係ない。

 

魔法使いの少女の探し物なんてのは主人公になれるようなやつが手伝ってやればいい、ボッチがでしゃばってもろくなことにならない、そんな事を考えていると突然手を掴まれた。

 

「いこ!八幡さん」

「は?」

 

八幡の手を掴んだみらいはそれだけ言うと八幡を引っ張ってリコの隣に並ぶ。

 

「じゃ、どこから探そうか!」

「ええ、まずは…て、はぁ!?」

 

あまりにも自然で流れるように話しかけてきたみらいに驚くリコ。その手に引っ張られている八幡も驚いている。

 

「探し物なら一人より二人、二人より三人!」

「ナチュラルに俺も数に入ってるんですね…」

 

(突然手を引っ張られたと思ったらいつの間にか探し物を手伝うことになってるとは…解せぬ)

 

「それになんでこれが光ったのか知りたいし」

 

これというのは首から下げているピンク色のペンダントのことだろう、リコも同じ形で色違いのペンダントを身に付けている。

 

「そのペンダント…」

「どうしたの?八幡さん」

 

みらいとリコのペンダントを見て八幡はまさかと思いポケットからあるものを取り出した。

 

「それ…!」

「形は違うけど…似てる」

 

それは二人のペンダントよりも少し黒ずんでいたが、確かな輝きを放っている石、似ているということはペンダントなのかもしれない。

 

この石はいつの間にか八幡の枕元にあったもので、どこから出てきたのかもわからない、それが目の前の少女達のペンダントと似ているというのは一体どういうことなのか?次々と疑問が浮かんでくるが、不意に思考が中断される。

 

「フッ…おやおや、こんなところに魔法使いがいらっしゃるとは」

 

聞き覚えのない声に三人は同時に後ろを振り向いた。

 

「ちょっと探し物をしているんですが…伺ってもよろしいかな?」

 

声の主は全体的に黒い格好をした長身の男だった。首回りに羽毛のような毛がついた高級そうなコート、オールバックに触覚のような前髪が二本垂れていて、細目で青白い顔をしている。

 

ここが夜の繁華街ならホストに見えたかもしれないと八幡は思ったがここは真昼の公園、完全にミスマッチだ、それに()()使()()と言った。

 

それらの要素と八幡の長年のボッチ生活で鍛えられた観察眼がこのホスト風の男が危険な存在であることを知らせる。

 

(やばいっ…何がやばいのかわからないが、ここから早く逃げないと)

 

そんな八幡の焦りを余所に男は自分の探し物について尋ねた。

 

 

 

 

「リンクルストーン…エメラルドについて」

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