やはり俺が魔法使いでプリキュアなのはまちがっている。 作:乃木八
「リンクル…ストーン?」
聞き覚えのない単語に首を傾げるみらい。反対に心当たりがあるのかリコは驚いた表情を浮かべている。
みらいと同じく八幡も聞き覚えはないが、ストーンと聞いてあるものを思い浮かべた。
(二人が持っていたペンダント、それに俺の持っている石…まさか?)
「知ってるの!?リンクルストーンのこと」
八幡の考えていた可能性はリコのこの発言でないということがわかる、もし、三人の持っているコレがリンクルストーンならその単語を知っているリコがなんの反応もしなかったのはおかしい。
話を聞くため男に詰め寄ろうとするリコをみて男がニヤリと笑うのをみらいと八幡は見逃さなかった。
「あなた、一体…」
男をみた瞬間から全身が警鐘をならしていた八幡と何か不穏な気配を感じたみらいは同時にリコの手を引いて踵を返して走り出す。
「あ…ああっ」
急いで男から離れるべく公園の外に向かう三人、リコは状況についていけずに混乱していた。
「ちょ、ちょっと?」
「ごめん!でも、逃げなきゃって」
「ええ?」
「同感だ、格好だけみたって不審者にしかみえない、それに…」
「「近づいたら危ない」そんな怖い感じが…」
奇しくも八幡とみらいの声が重なる。あのホスト風の男に対する認識は二人とも同じらしい。
「お話しの途中なんですが?」
「「「!!?」」」
驚愕する三人、それもその筈、声の主は先程撒いたはずのホスト風の男だった。しかもコウモリのように木の枝に逆さ釣りの状態で立っている。
(確かに撒いたはずだ、瞬間移動でもしたってのかっ!?)
八幡は先回りされていた理由を考えるがもし本当に瞬間移動の類いならば考えたところでどうしようもないと割り切り、その思考を放棄した。
「魔法にまつわる伝説のひとつ…」
シュタッと枝から降り、地面に着地した男はさらに続ける。
「人智を越えた強大な力の結晶、リンクルストーン…我らが欲するのはその中心となる輝き、リンクルストーンエメラルド」
今この男の言葉でわかったのは男が魔法に関わっているということ、そして男には仲間がいること、そしてリンクルストーンと呼ばれる強大な力を秘めた石を探していることだ。
「先程感じた強い力、ひょっとしたらと来てみれば…そこには、魔法使いさんがいるじゃありませんか…偶然とは思えません」
(やばいっ、俺達の持っている石はおそらくこいつの探し物と無関係じゃない、まだ気づかれてないみたいだが目をつけられている時点で時間の問題だ…相手が実力行使してくる前に逃げないと)
「なにか、ご存じだったりしませんかね?…お嬢さん方」
八幡の懸念は見事に的中したようで、男の雰囲気が一気に変わる。
変わったのは雰囲気だけでなく、耳がバサッとコウモリのように広がり、コートがひとりでに翻る。そして、細められていた糸目がカッと見開かれ、人間のものとは思えない真っ赤な双眸が姿を表した。
「わ、わぁっ!?」
恐怖と驚きが混じった悲鳴をあげるみらい。リコは驚きのあまり呆然としている。
(ダメだ、三人まとめては逃げ切れない…)
二人の様子を見てそれを悟ると八幡は一歩前に出てコウモリ男と対峙した。
「ん?あなたは…」
コウモリ男は今初めて気付いたように八幡に目線を合わせる。おそらく、視界には入っていても眼中に無かったのだろう。
「ふむ、なにやらあなたの目からは私達に通ずるものを感じますねぇ」
どうやら八幡の腐った目は目の前のコウモリ男、それに類するやつらに通ずる程ひどいらしい。そのことに地味にショックを受けつつ、会話を試みる。
「そりゃどうも、で?あんたの目的はそのリンクルストーンとやらの情報ってことでいいのか?」
「ええ、我々の目的のために必要なのでね…なにか知っているのですか?」
とりあえず会話が成立するようでひとまず八幡の思惑は成功した。
「その前に、俺達の無事を保証してほしいんだが…」
そういうと八幡はいまだに立ち尽くしているリコの方をちらりと向き目配せをする。
「?」
意図がうまく伝わらない、それも仕方がないとも言える、昨日今日会ったばかりの間でアイコンタクトが成立する訳がない、そんなことは八幡が一番よく知っているはずだ。
(…俺は一体何をしてんだか)
八幡はゆっくりリコのところまで後ずさるとリコに耳打ちをする。
「…俺が合図したら朝比奈と一緒に箒に乗って逃げろ」
「へ?ちょっあなたはどうするのよ!?」
「俺はあいつの注意を引く」
「!だめよっあなたも一緒に…」
「…どのみち三人は乗れないだろ」
「…それは」
その言葉にリコはなにも言えずに黙ってしまった。
「お話しは終わりましたか?私としてはエメラルドについて聞ければあなた方にはなにもしませんよ」
コウモリ男の発言は嘘ではないのかも知れないが誰もエメラルドの場所なんていうのは知らないためどうなるのかわからない。
「わかった、エメラルドについて話す」
そう言って八幡はコウモリ男に近付く。そしてコウモリ男との距離が数メートルまで迫った時、八幡がコウモリ男に向かってダッシュした。
「今だっ!!」
八幡が叫ぶと同時にリコが動き出す。
「こっちよ!捕まってなさい!」
みらいの手を引いて箒の後ろに乗せるリコ。
「待って、まだ八幡さんが…」
「っキュアップ・ラパパ!箒よ飛びなさい!」
呪文を唱えるとみらいとリコを乗せた箒はジグザグしながらその場を後に飛んでいく。
「もっと高く!!」
「八幡さんがっ!それに二人乗りはダメなんじゃなかったの!?」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!八幡さんは、私達を逃がすために囮になったのっ」
「そんな…戻ろう!八幡さんを助けないと!」
みらいがそういうもリコは首を横に振る。
「だめよっ八幡さんの厚意を無駄に出来ないわ」
「でもっ!」
「それに、私達が戻って何ができるっていうの!?」
リコの言葉に押し黙ってしまうみらい。
「一体なんなの?あんなのがリンクルストーンを探してるなんて…」
そういっている間に箒は上昇し、かなりの高度まで来ていた。
━リコとみらいが飛び立った後の八幡。
「ほう、逃げ出しましたか…」
「…かはっ」
二人が逃げていった方を見つめるコウモリ男と少し離れたところで倒れ伏す八幡。
「全く、なにもしないと言っているのに飛びかかってくるとは」
あの時、リコとみらいが飛び立つと同時に八幡はコウモリ男に向かってダッシュで体当たりをするも、あっさりとかわされしまいコウモリ男から発せられた衝撃波で吹き飛ばされてしまった。
「しかし、そこまでして彼女達を逃がすということはやはり知っているということですね?リンクルストーンエメラルドについて」
「………」
八幡は答えない、がコウモリ男は鋭利なキバをのぞかせて笑う。
「まあいいでしょう。どうあがいたところでこのバッティからは逃げられないのですから」
そういうとコウモリ男改めバッティは空に飛び上がる、突然下から現れたバッティに驚き飛んでいたカラスが羽根を散らせて逃げていってしまった。
「ふむ、これでいいでしょう」
落ちてくるカラスの羽根をひとつ掴むと近くにあったトラックに目を向けるバッティ。
「魔法、入りました。出でよっヨクバール!」
バッティが手に持っていた髑髏の杖を掲げてそう唱えるとバッティを中心に魔法陣が発生し、そこにカラスの羽根とトラックが吸い込まれていく。
「ヨクバァール」
煙が晴れて姿を現したのはトラックの荷台からカラスの羽根が生え、正面に巨大な髑髏の顔がついた怪物だった。
「っ!?」
あまりにも現実離れした光景に絶句する八幡。
「あの二人を捕らえなさい」
「ギョイ」
下された命令を実行するため飛び立とうとする怪物、それを止めるために八幡は立ち上がろうとするが体が動かない。
「ぐっ…ま、て」
「フッもう貴方には用はありません、行きますよヨクバール」
「ヨクバールッ」
八幡を放置してバッティと怪物は飛び立ってしまった。
「く…そっ!」
(足止めするつもりだったのに体が動かなかった…)
アスファルトの地面に拳を叩き付け悪態をつく。八幡は動けなかった、それはダメージがあったからではない、恐怖で足がすくみ頭の中に一瞬過った言葉が動きを封じたからだ。
そんなに必死になってどうするんだ?
自分の暗い部分がこのまま逃げ出せと囁く。
会ったばかりの他人だろ?
次は命がないかもしれない、まだやるのか?
行ったところでボッチのお前に何ができる?
「…うるせぇよ」
次から次へと聞こえてくる自分の幻聴にぼそりと返す。こうしている間にも怪物は逃げていった二人へと迫っているだろう。
「…年下の女子に全部丸投げして逃げるわけにはいかないだろ」
誰に言うわけでもなく呟かれた独り言は八幡自身に言い聞かせるために捻り出した暗い言葉を振り払う理由だ。
「…行くか」
覚悟を決めて八幡は二人が逃げていった方向に向かって走る。
「怪物を出す魔法!?」
箒に乗って全力で逃げていた二人は後ろから迫ってくる怪物に驚き声をあげた。
「ヨクバール、です」
「!?」
聞こえてきた声はあのコウモリ男のものだ、よく見れば怪物の真下に逆さ釣りで佇んでいる。
「ま、退屈な魔法しか知らないあなた方にはこんな真似出来ませんよね」
「そんな…八幡さんは!?」
八幡が足止めしていたはずのコウモリ男がここにいるということは八幡は無事なのだろうか?みらいの頭にそんな不安が押し寄せてきた。
「八幡?…ああ先程の、さあ?どうでしょうね、それよりリンクルストーンエメラルドは何処です?」
「っ箒よ、もっと速く!!」
リコの言葉に反応して箒がぐんっと加速する。
「ね、ねぇ八幡さん大丈夫かな?」
「わからないけれど、無事を信じるしかないわ」
迫る怪物を振り切りながら八幡の身を案じる二人、それともうひとつ、コウモリ男が知りたがっているリンクルストーンエメラルドの在りかについてリコが呟く。
「…知りたいのはこっちよ、私だって探してるんだからっ」
「ヨクバァール」
逃げる二人をピンク色の煙を排出させながら追う怪物とコウモリ男、両者ともかなりの速度を出しているのでもしどこかに激突しようものなら怪物はともかくみらいとリコは痛いじゃ済まないだろう。
「ヨォクバァール!」
「っ!?」
必死に追撃をかわす二人の前にビル群が立ちはだかる。
「ヨクバァールッ」
「ふっ!!」
右へ左へ上へ下へ、ビルの間をジグザグと縦横無尽に飛ぶリコ。その飛びっぷりは昨晩、墜落したとは思えないほどだ。
「ふわぁぁっ!?リコちゃん凄い…」
「そ、そう?…何でいつもよりうまく飛べてるのかしら?二人乗りだって初めてなのに」
「あっリコちゃん!!」
「ヨクバァール」
リコが少し考え事に気を取られた隙に怪物がすぐそこまで迫っており、それを慌てて間一髪かわす。
「っモフルン!!」
無茶なかわし方をしたせいでみらいが抱えていたかごからモフルンが空中投げ出されてしまった。
「ああっ!?」
投げ出されたモフルンに手を伸ばすもみらいの手は僅かに届かない、がもうひとつ伸ばされたリコの手がしっかりとモフルンを掴む。
「リコちゃん…」
「ふぅ…」
ひと安心したリコとみらいに無情にも怪物の追撃が迫り、リコが箒から落下してしまった。
「リコちゃんっ!!!」
なにが起きたのか頭が追い付いていないまま落下するリコの手を伸ばしたみらいの手が掴む。
「くっ」
「あ」
しかし、落下の衝撃でみらいも箒から滑り落ちてしまう、なんとか片手で箒に捕まっているが二人は空中で今にも落ちそうな宙吊り状態になってしまった。
「っふぅ」
「だ、大丈夫?」
「え、ええ、助かったわ」
間一髪、助かったことに安堵しつつも、まだ飛んでいられることに疑問を覚え箒を見るとほのかに光っているのが見える。
「フッフフフ、もはや浮いているのが精一杯のようですね」
振り返ると勝ち誇った顔をしたコウモリ男がいた。
「さて、もうお二人ともおとなしく…」
「待って!この子は関係ないっ!」
「それを決めるのは私ですよ?」
真っ赤な目をさらに見開いてみらいとリコを威圧するコウモリ男。
「それともまだ抵抗しますか?…しかし、両手が塞がっていては杖も持てない、魔法も使えませんねぇ」
「っ」
「まあもっとも、どうにかできる力があったら最初からやってますか、ハッハッハッハ」
「くっ……キュアップ…ラパパ…怪物よ…」
コウモリ男の高笑いに悔しさを滲ませながら確かな抵抗の意思をもってリコは叫ぶ。
「怪物よ!!あっちへ行きなさいっ!!!」
「フッ、フッハッハッハッハ、そんなデタラメな魔法がありますか?それで私のヨクバールが吹き飛んでしまうとでも?ハッハッハッハ」
「キュアップ・ラパパ、怪物よあっちへ行きなさい!キュアップ・ラパパ!怪物よあっちへ行きなさい!」
リコは何度も呪文を唱えるがなにも起こらない、それが可笑しいのかコウモリ男は笑い続けていた。
「キュアップ・ラパパッ!!」
「?」
もうひとつの呪文を唱える声にコウモリ男は笑いを止めその方向に目をやる。
「怪物よ…あっちへ行きなさいっ!!!」
その声の主はみらいだった。怪物を真っ直ぐ見据えて、呪文を唱える。
「キュアップ・ラパパ!怪物よあっちへ行きなさい!」
「キュアップ・ラパパ!怪物よあっちへ行きなさい!」
みらいに続いてリコも続く。
「フッフ…ハッハッハッハ、いくら唱えようと無駄なことですよ、ヨクバー…」
「ぅおおおおぉっ!?」
突如、空に響く叫び声にコウモリ男の動きが止まり、次の瞬間怪物の頭上に何かが落下した。
「ヨクッ!?」
「くっ…」
その衝撃でぐらつく怪物とコウモリ男、そして怪物の頭上に落下した何かがゆっくり起き上がる。
「っ痛…気付いたらいきなり空の上に投げ出されるとかどうなってんだよ」
「あ…」
猫背気味の背中、ぴょこんと目立つアホ毛にその特徴的な腐った目は彼の捻くれた性分をよく表している。
「「八幡さんっ!!?」」
みらいとリコ、二人同時に名前を呼ばれビクッと反応するのは比企谷八幡だ、その登場に一番驚いていたのは彼自身だろう。
「お前ら…それにここはど━」
「ヨクバァールッ!!」
何が起きたのかわからない八幡は状況を確認しようとした瞬間、怪物が八幡を振り落とそうと激しく動く。
「うぉっ!?」
「ヨォクバールッ!!」
上下左右と激しく動くので八幡は振り落とされまいと必死でしがみつき抵抗した。なにせ、ここはビルの屋上を見下ろすほどの高さ、もし落ちれば命はない。
「何をやっているのです!ヨクバールッ!!さっさと振り落としなさい!」
「ギョイ」
激しく動く怪物の真下から脱出していたコウモリ男の指示でさらに怪物の動きが激しさを増した。
「八幡さんっ!」
「助けないと…!」
どうにかしたいが箒に捕まっているのが精一杯の二人にはどうすることも出来ずに焦りだけが募る。
「無駄なことを、あなた方に他人の心配する余裕があるのですか?」
コウモリ男はみらいとリコを見てそう言うと、何かを思い付いたように口角を上げて笑った。
「もし、あなた方がリンクルストーンエメラルドの在りかについて教えてくださればヨクバールを止めましょう」
「なっ!?」
「しかし、教えてくれないのなら…残念ですが、彼には落ちてもらいましょうか」
「そんな…」
その提案にどうすればいいのか考えるリコ。エメラルドがどこにあるのかなんていうのは自分だって知りたいくらいでわからない。
でも、このままだと八幡はいずれ振り落とされてしまうだろう、それにリコもみらいもそろそろ腕の力が限界だ、考えてもいい案が浮かばないまま時間だけが過ぎていく。
「まあ、私はどちらでも構いませんよ?どちらにせよあなた方から聞き出すのはかわりませんから」
知らないものは答えられない、結局のところ選択肢はなんて存在しないのだ。
「━逃げろっ!!」
ぐるぐると思考の渦に囚われていたリコの意識をその声が引き戻す。
「っ八幡さん…!!」
声の主は八幡だった。必死でしがみつきながらみらいとリコに逃げろと叫んでいる。
「足手まといはごめんだ」
八幡は落ちまいと抵抗するなかでも会話は聞こえてきていた。
「助けるつもりがこれじゃ本末転倒といいとこだな…」
しがみつきながら誰にも聞こえないくらいの声で呟く。
━数分前━
コウモリ男…バッティがヨクバールと呼ばれる怪物と共にみらいとリコ追って飛び立った後、八幡もそれを追って走り出したのだが…
「あいつら…どんだけ速いんだよ…」
空飛ぶ箒もヨクバールという怪物もあっという間に見えなくなってしまい、追いかける手段が走るしかない八幡には到底追い付けない速さだった。
「こうなったらタクシーでも呼ぶか…」
いつもならこういう時はすぐ諦めるが今回ばかりはそうもいかない、どうにか追い付く手段がないかと考える。
(でも、今から呼んだところで到底間に合わない、かといってこのまま走っていても追い付けないだろうな)
現状どうやったって追い付けない、八方塞がりだ。あれでもないこれでもないと考える内に、ふとある可能性が浮かんだ。
「この石…」
それは突拍子も無いことで、出来るなんて保証はない。むしろ出来ない可能性のほうが大きいだろう。
「どっちにしたってこのままじゃ間に合わない、やってみるか」
八幡が思い付いたのはこの石を使って瞬間移動するという案。別にこれは八幡がおかしくなったわけでも中二病が再発したわけでもない。
(気のせいだとおもっていたが、魔法やらリンクルストーンやらの話を聞いた後ではあり得ると思う)
思い出すのは、昨日の夜の出来事。落ちるリコを助けようとして間に合わないと思ったのに目の前が光って気が付くと木の真下に移動していた。
「今思えば、あれはこの石の力なんだろう…なら出来る筈だ」
どうやって瞬間移動したかはわからない。だが、あの時はリコを助けたい一心で走ってとにかく間に合えと思っていたら発動したのだ。
「頼む…!!俺をあいつらの所まで連れていってくれ…!」
両手でぎゅっと石を握り締めて目を閉じて想いを口にする。
「俺に何か出来るなんて思わない、だけど…あいつらを放って逃げるわけにはいかないんだよ…!!!」
出会って間も無い関係、けれど、その短い時間の中に八幡の追い求めた何かがある気がした。そんな少女達を関係ないと切り捨てることはもうできない。
「頼む…!!キュアップ・ラパパッ!」
想いを込めて魔法使いの少女リコが唱えていた呪文を口にする八幡。すると、目を閉じていてもわかるほどの光が石から放たれたと思うと、急に浮遊感に襲われた。
「ぅおおおおぉっ!?」
叫び声と共に瞬間移動した八幡は怪物の上に落下したのだった。
━回想は終わり元に戻る。
「フッ、やはり彼には落ちてもらいましょう」
迷う二人に業を煮やしたのか、はたまた必死で叫ぶ八幡を鬱陶しいと感じたのか、あるいはその両方なのか、痺れを切らしたコウモリ男は怪物に指示を下す。
「ヨクバール!」
「ギョイ」
さらに勢いを増した怪物の動きにとうとう限界がきてしまった。八幡が勢いよく空中に投げ出される。
「「八幡さんっ!!!!」」
みらいとリコの悲痛な声が空に響いた。
「…っ!?」
視界に入る風景は否が応でも落ちればどうなるかを想像させる。仮にビルの屋上に運良く落ちたとしても命はない。
「く、そっ…!」
助からない、そう思い八幡は目を閉じ落下の痛みを恐れて歯を食い縛る。が、いつまでたっても痛みは襲ってこない。気が付くといつの間にか背中にコンクリートの感触があった。
「あ?生きてる…のか?」
辺りを見回すとビル群、そして少し上の方を見ると箒にぶらさがっているみらいとリコ、それに向かい合う形で怪物とコウモリ男が見える。
「ここは、近くのビルみたいだな…」
どうやら落ちる途中で瞬間移動して助かったらしい。よく見るとコウモリ男は八幡を見て驚きの表情を浮かべていた。
「バカな…!確かに彼は落下した筈、まさか瞬間移動したとでも言うのですか!?」
「よかった…無事で」
「ええ…でも、どうやって」
無事だったことに安堵するみらいとリコ。しかし、八幡が瞬間移動した事に困惑している。
「先程ヨクバールの真上に突然表れたことといい…どうやら彼も魔法使いだったようですね」
「八幡さんが魔法使い…?」
「そんなはずないわ」
リコは否定するが、コウモリ男の中では八幡は魔法使いということになっていた。
「…多少驚きましたが考えればなんてことない、彼が魔法使いであろうとヨクバールに対抗する手段を持っていないということに変わりありません」
コウモリ男の言葉の言う通り、八幡にはどうすることも出来ない。
「つまり、状況は先程と何一つ変わっていない、彼にもあなた方にもどうすることも出来ないのです!!」
「っ………」
このどうしようもない状況を前に諦めかけていた八幡の耳に声が聞こえてきた。
「キュアップ・ラパパ!怪物よあっちへ行きなさい!」
声の方を見るとみらいが箒に掴まりながら怪物に向けて呪文を唱えている。
「キュアップ・ラパパ!怪物よあっちへ行きなさいっ!!」
みらいに続いてリコも呪文を唱えた。二人はまだ諦めていないらしい。
「どうしてまだ…」
戦う力もなく、逃げることも出来ずに箒にぶらさがっているのが精一杯、そして助けに来た八幡は何も出来ずに振り落とされた。
なのに、何故まだ諦めずにいられるのか、どうしてそんな真っ直ぐな目で立ち向かえるのか、八幡にはわからない。
「…あいつらが諦めていないのに俺が諦めるのは間違っているよな」
出来ることは何もない、けれど、諦めないみらいとリコの姿を見て、八幡は顔を上げる。諦めて目を逸らさないように。
「キュアップ・ラパパ!怪物よあっちへ行きなさい!」
「キュアップ・ラパパ!怪物よあっちへ行きなさい!」
「フハハ…なんとも馬鹿馬鹿しい」
ひたすら呪文を唱える二人に飽きたと言わんばかりに笑みを消すコウモリ男。
「キュアップ・ラパパ!怪物よあっちへ行きなさい!」
「キュアップ・ラパパ!怪物よあっちへ行きなさい!」
「ヨクバール、二人を捕らえなさい」
「ギョイ」
迫り来る怪物、その恐怖を振り払うようにみらいとリコは繋いだ手にぎゅっと力を込め叫んだ。
「「キュアップ・ラパパッ!!!!!」」
重なる二人の声に世界が震え、まばゆい光が二人を中心に広がる。輝きは二人のペンダントから発せられていた。
「これは…」
共鳴するように八幡のポケットの中の石が光輝く。
光に包まれたみらいとリコは無意識にモフルンと手を繋いだ。すると、ペンダントが更に輝きを増して生まれ変わる。
「っこの輝き、このパワー、あれこそは…リンクルストーン」
不思議な光の力でみらいとリコ、そしてモフルンは八幡のいるビルの屋上にふわりと降りた。
「くっ、逃がしませんよっ!!」
それを追ってコウモリ男と怪物が凄いスピードで迫ってくる。
屋上へ降り立つと同時にみらいとリコはアイコンタクトを交わし、何をすればいいのかわかっているように互いに手を取って繋ぎ合う。
「「キュアップ・ラパパ!」」
繋ぎ合った手とは反対の手を天に掲げ叫ぶ。
「「ダイヤ!」」
すると、二つのペンダントが一つとなってモフルンへとセットされた。
「「ミラクル・マジカル・ジュエリーレ!!」」
呪文とともに光が二人を包み込み姿が見えなくなり、魔法陣が浮かび上がって中から二人とモフルンが飛び出す。
「ふたりの奇跡!キュアミラクル!!」
「ふたりの魔法!キュアマジカル!!」
「「魔法つかいプリキュア!!」」
今、ここに伝説の魔法使いが誕生した。
「ヨクバァァールッ!!」
猛スピードで突進してくる怪物を二人はジャンプしてかわす。その跳躍力は尋常ではなく軽々とビル数階分の高さまで飛んだ。
「プリキュア…?プリキュアッ」
かわされるとは思っていなかったコウモリ男が驚き混じりの声を出す。
「キュア…ミラクル?」
「キュア…マジカル?」
どうやら当の本人たちも困惑しているらしく自分達に起きた変化に頭が追い付いていない。
「まさか、あの二人が!?」
コウモリ男は二人の変化に心当たりがあるようだが、それを認めまいと襲い掛かった。
迫り来る怪物をくるりと回ってかわし、勢いを利用して二人同時に蹴りを放つ。
「ヨクバッ!?」
怪物は蹴りのあまりの威力に吹き飛ばされ他のビルの屋上に叩き付けられた。
「プリキュア…伝説の魔法使いプリキュアッ!?」
驚愕するコウモリ男、怪物共々派手に吹き飛ばされたので少しダメージを負っているようだ。
「何が…起きたんだ…?」
その様子を見ていた八幡は目の前で起こった事に対して混乱する頭を整理する。
(突然、石が光ったと思ったら二人の姿が見えなくなって光の中からキュアミラクルと名乗る少女とキュアマジカルと名乗る少女が現れた)
二人の少女はみらいとリコの面影を残しているが、見た目は彼女たちよりも大人びて見え、八幡も一瞬見惚れてしまう程、きれいだった。
(もしかしてあの二人なのか?)
軽々と数十メートルジャンプする脚力、怪物を吹き飛ばすほどの力、そして大人びた見た目、どれを取っても違う、しかし八幡の直感とでもいうべきものがそうだといっている気がする。
「さっきまで箒で飛ぶのが精一杯だったひよっ子共が!?…ありえないっ、ヨクバールッ!!」
「ヨクバァァール」
八幡が考えている間にコウモリ男は体勢を立て直し、目の前で起こった出来事を否定するように怪物をけしかけた。
再び襲い掛かってくる怪物の猛攻をミラクルは横にステップしてかわし、マジカルは箒と共に後方へ跳躍、勢いそのままに箒を鉄棒代わりとしてくるくると回って反動で怪物に踵落としを決める。
怯んだ隙に目の前まで移動していた箒にミラクルは飛び乗り、マジカルも離脱して箒を足場にした。怯みから回復した怪物は二人を叩き落とそうと攻撃するが、二人揃って後方へくるりと一回転して回り込んでいた箒を踏み台に怪物へ突撃する。
「「怪物よ、あっちへ…いきなさぁぁい!!!」」
勢いをつけて繰り出された二人同時の突きはその宣言通り怪物のボディにひびをいれた上で吹き飛ばした。
「魔法というか…物理じゃね?」
思わずツッコんでしまった八幡、確かに魔法(物理)という感じである。
「くぅ…ここは退いてドクロクシー様に報告を…オボエテーロッ」
劣勢と悟ったのかコウモリ男はボロボロの怪物と共に一瞬で消え、撤退したようだ。
「最後の捨て台詞っぽいのは何だったんだ…?」
わざわざ覚えてろなんて捨て台詞をはいて消えたのが気になったがとりあえず全員無事でいられたことに安堵する八幡。
コウモリ男が去った後、破壊された周りのビルが何事も無かったように直っていた。
「…なんかこれが一番魔法っぽいな」
そんな感想を口にしつつ、いつの間にか元に戻っていたみらいとリコを見つけ、そちらに足を向ける。
「プリキュア…」
「プリ…キュア?」
自分達が変身して戦ったということに実感が湧かず、戸惑う二人。
「私達、伝説の魔法使いに…!?」
「あっ…モフルン!?」
リコはまだ少し上の空だったが、みらいはモフルンがいないことに気付き、慌てて辺りを見回す。
「あ、良かった無事で…」
モフルンを発見して、抱き締めるみらい。
「モフ~苦しいモフ」
「あっちょっと、強く抱き締めすぎよ」
「うわぁ!?ごめんねモフルン、つい…」
「…いや、何でナチュラルに会話できるの?」
ちょうど合流した八幡が一連のやり取りを見てまたまたツッコミをいれた。
「「ん?」」
みらいとリコが同時に疑問符を浮かべて一瞬フリーズする。
「「あ~!!喋った!!?」」
「今気付いたのかよ…」
「モフ?」
「モフルンっ喋れるようになったの!?」
「モフ~♪」
突如喋れるようになったぬいぐるみのモフルンにみらいは喜び、リコは困惑し、八幡は呆れていた。
「どうして…ありえないわ」
「いやもう何が起こってもおかしくないだろ…」
魔法、怪物、変身と色々ありすぎてモフルンが喋ったくらいでは八幡は驚かない。
「モフルン、私ずぅぅっとお話ししたかったんだよ」
「モフルンもみらいとお話ししたかったモフ」
「そうだ!モフルンっ」
何かを思い付いたみらいはリコと八幡の方を向いて続ける。
「こちらリコちゃんと八幡さんだよ!」
「「へ?」」
モフルンに紹介しているのだろうが、いきなり名前を呼ばれてリコと八幡の声が揃った。
「リコちゃん、八幡さん、改めましてこの子モフルンです!!」
「モフルンはモフルンっていうモフっよろしくモフ~」
「え、ええ、リコよ…よろしく」
「…比企谷八幡だ、よろしく」
みらいの勢いに乗せられて戸惑いながら自己紹介する二人。
「リコに八幡、よろしくモフ~♪」
モフルンはそう言うとみらいの腕の中からぴょんっと降り二人の方に近づいてくる。
「二人はみらいのお友達モフ?」
「「え?」」
再び揃う声。リコも八幡もそんなことを聞かれるとは思わなかったので、一瞬固まってしまった。
「もちろんだよ~!ねっ?」
「いや、友達ではないだろ」
「そうね、知り合ったばかりだし…」
昨日今日会ったばかりでお互いの事をなにも知らないのに友達と言われても困るし、何なら八幡には今までいたことすらない。
「ええ!?そんなぁ~…」
しょんぼりするみらいだったが、すぐに切り替えて二人に向き直った。
「…よし!じゃあ今から私は二人の友達になる!よろしくねっリコちゃん!八くん!!」
「ちょっ…近い」
「…八くんって、まさか俺の事か?」
一応、年上なんだけど?と訴えてみるがリコの方へぐいっと顔を近づけていたみらいにはスルーされてしまう。
「って、こんなことしてる場合じゃないわ!このことを誰かに相談しないと…」
「相談?」
「ええ、だからあなた達も来て」
「「え…どこに?」」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
屋上でのやり取りの後、一同は駅に向かって走っていた。
「ありがとうリコちゃん!」
「だから私はなにも…」
「お話しできるようになってすっごく嬉しいよ!モフルンっ」
「モフルンも、嬉しいモフ♪」
「ふぁ…ふふふっ♪」
幸せそうな顔を浮かべてモフルンを抱き締めるみらい。
「もう…何がなんだか」
「同じく…てか何で俺も走ってるんですかね」
あの後、リコの申し出を断って華麗に去ろうとした八幡は二人に肩を捕まれて引き留められてしまった。
「
「えぇ…別に俺いらないだろ?」
事情を説明するのなら当事者であるリコと一緒に変身?をしていたみらいがいれば充分だし、わざわざ八幡が行く必要はない。
「そうはいかないわ、あなただって当事者でしょ?」
そういって取り出したのは例のペンダント、さっき見た時と何かが違って見える。
「当事者って言われても俺は特に何もしてないぞ」
たまたま同じような形の石を持ってはいたが二人のように変身?して戦ったわけじゃなく、ただ見ているだけ、下手をしたら足を引っ張っていたかもしれない。
「そんな事ないよ!八くんは私達を助けようとしてくれたもん!」
「何も出来なければしてないのと変わらない」
確かに助けようとしたが、結局二人は自分達の力で乗り越えてしまい、八幡に出来ることは何もなかった。
「でもっ!」
「…とにかく俺には行く理由もない、この石は渡しとくから好きに調べてくれ」
食い下がるみらいを尻目に、持っていた石をリコに渡そうとすると突然石がバチッと光を放つ。
「きゃっ!?」
驚いたリコは短く悲鳴をあげて尻餅を付いてしまった。
「リコちゃん大丈夫!?」
「いたた…ええ、一体何が…」
石はまるでリコを拒むかのように今だバチバチと光を放っている。
「……」
八幡が恐る恐る弾かれて落ちた石を拾うと何事も無かったように光は消えた。
「もしかしてその石は八くんにしか触れないのかな?」
まさかそんなわけ…と思ったがよくよく思い返してみれば、この石を八幡以外が触ったのはさっきが初めてなのでもしかしたらそうなのかもしれない。
「なら決まりね、八幡さんも一緒にくるという事で」
「いやでもあれがあれで忙しいから…」
この期に及んで同行を拒否する八幡にリコがぴしゃりと言い放つ。
「その石はあなたしか触れないのだからおとなしくついてきなさい!」
「あ、ハイ…」
年下の中学生の言葉におとなしく従う八幡。
「さ、時間がないから急がないと」
「あっ待ってよリコちゃん!」
「モフ~」
急いで走り出すみらいとリコそしてモフルンの少し後ろを八幡はついていった。
━そして再び駅前に戻る━
「それにしても凄いね!キュアップ・ラパパ…本当に怪物を吹っ飛ばしちゃった」
「いや結果的にはそうだけどあれは魔法…なのかしら」
「魔法(物理)だな」
「モフッ」
そんなやり取りをしている間に駅につきそのまま改札へ急ぐ。
「電車に乗るの?」
「ええ、一旦学校に戻って相談しないと…三人分っ」
可愛らしい黒猫の絵がついたパスカードを改札にかざすと景色が真っ白になり、駅員の格好をした謎の生き物が現れた。
「ご利用ありがとうごさいます」
景色が晴れるとそこは駅の中、しかし先程の駅員の格好をした謎の生き物がそこら中を飛び回っている。
「わぁ…」
「同じ駅の中にこんなとこが…」
みらいと八幡は初めて見る光景にそれぞれ感想を漏らした。
「急いで!」
「まもなく本日最終便、魔法学校行きが出発いたします」
リコの急かす声とアナウンスが聞こえる。
「「魔法…学校?」」
魔法学校という単語に二人の声が揃った。
「今、魔法学校って言いました!?」
みらいは目をキラキラと輝かせてワクワクの気持ちいっぱいで叫ぶ。
「はぁ…帰りたい…」
八幡の呟きはみらいの声でかき消されるのだった。
━二話に続く━
次回予告
「私、魔法の世界に来ちゃった!!電車がカタツムリ!魔法学校大きい!ワクワクもんだぁっ!!!」
「何で俺も行くことになってるんですかね……はぁ…帰りたい……」
「えっ!?私が退学…?伝説の魔法使いになったのに……」
「リコちゃんっ私が校長先生に説明してくるよ!」
「……俺は助けたいとかじゃない…ただ……」
次回!魔法つかいプリキュア!やはり俺が魔法使いでプリキュアなのはまちがっている。
「ワクワクの魔法学校へ!…帰ってもいい?校長先生はどこ!?」
「キュアップ・ラパパ!今日もいい日になーれ!」