やはり俺が魔法使いでプリキュアなのはまちがっている。   作:乃木八

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第二話「ワクワクの魔法学校へ!…帰ってもいい?校長先生はどこ!?」Aパート

 

「おぉ…」

「モフ~!」

「えぇ…」

 

不思議な事が続いて、滅多なことでは反応しないと決めた八幡も目の前の光景に思わず声が出てしまう。

 

「大きなでんでん虫モフ~!」

 

そう、モフルンの言うとおり大きなでんでん虫…つまりカタツムリがそこにはいた。いや、ただいるだけではなくその後ろには電車の車両が見える。

 

「まさか、これに乗るのか?」

 

八幡が恐る恐るリコに聞いた。

 

「ええ、カタツムリニアよ」

「カタツムリニア?」

「モフ」

 

まさか、いくら魔法だからといって移動手段がでっかいカタツムリなんて誰が予想できただろうか。

 

「…名前を付けたやつはある意味凄いセンスしてるな」

 

カラン、カラン、カラン……

 

八幡がそんなことを呟いていると乗車を急かすようにベルが鳴った。

 

「はいはい、いくわよ」

 

リコの言葉に従って車両の中に入ると丁度ドアが閉まり、カタツムリニアがカタカタ~といって鼻から煙を蒸気のように吹き出してゆっくり発進する。

 

「まるで蒸気機関車だな…リニアなのに」

「細かいことは気にしないの」

「わぁ…今からスッゴいワクワクもんだね、モフルン」

「モフ~」

 

ちらりと窓の外に目をやると景色がいつの間にか駅の中から宇宙空間みたいになっているのが見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「空飛んでるみたいだね~」

「すごいモフ!」

 

駆け込み乗車気味に乗り込んだ一行は、みらいとモフルン、それに向かい合うようにリコと八幡といった順で座席に着いていた。

 

「………」

 

はしゃいでいるみらいとモフルンに対して難しい顔をしているリコ。

 

「…どした?」

「へ?あ、いや…」

 

その様子を見て八幡が声をかけるが、歯切れの悪い返事が返ってきた。

 

「モフ!流れ星モフ~」

「えっ?どこどこ~!」

「……」

 

リコの視線はモフルンに向いているようでさらに眉を寄せ難しい顔になる。

 

「ん?リコちゃんどうかしたの?」

 

みらいもリコの様子に気付いて声をかけた。

 

「さっきからモフルンの方を見てウンウン唸ってるがなんかあるのか?」

「……ぬいぐるみが話せるようになるなんて、そんな魔法聞いたことないわ。ねぇ、どうして話せるの?」

 

どうやらリコが唸っていたのはなぜモフルンが喋れるようになったのかを考えていたようだ。

 

「あ、そういえば…何で?」

「それ、モフルンに直接聞いてわかるのか…?」

 

あまりにあっさりモフルンに理由聞くみらいに少し呆れてツッコむ八幡。

 

「モフルンは、ずぅぅぅっとみらいとおしゃべりしたかったモフッ!」

 

そういってみらいにモフルンは抱きついた。

 

「わぁ…私もだよ!モフルン!!」

「モフ~」

「「はぁ…答えになってないから」」

 

ものすごく幸せそうな顔で抱き合う二人をみてリコと八幡は揃って呆れる。

 

「…やっぱりプリキュアになったのと関係があるのかしら?」

「まあ、だろうな…むしろ関係ないほうがおかしいまである」

 

あの時、二人とモフルンを中心に光が溢れていた、そこから考えればモフルンとプリキュアは密接に関係しているとしか考えられない。

 

「ねぇ、プリキュアってなんなの?」

「ずっと伝説として語り継がれている存在なの!とにかく、すごい魔法使いだって」

「え…何?プリキュアって有名なの?」

 

てっきりあのコウモリ男が勝手にそう言っていただけだと思ってた八幡は意外な事実に驚く。

 

「有名というか…マホウ界に伝わる伝説のひとつよ」

「ほーん…」

「…じゃあさ、私達伝説の魔法使いになったってこと?」

 

みらいのその言葉にリコの表情が一変した。

 

「そうだわ…そうよ、そうじゃない!伝説の魔法使いなったのよ私!」

 

突如立ち上がり後ろを向いて笑顔で一人でブツブツと喋りだしたリコ。

 

「うわ…」

 

横で座っている八幡にはその表情が見えてしまい、思わず声が出るほどに引いていた。

 

「エメラルドは見つからなかったけど、先生達は認めてくれるはず…」

「「?」」

「いや、痛いんですけど…」

 

その奇行にポカンとするみらいとモフルンをよそにリコは、はしゃいで無意識にパンチを八幡の右腕に数回にヒットさせている。

 

「カタカタ」

 

そこへ何やら殻の上にいっぱい物がのっている棚を乗せたでんでん虫が現れた。

 

「あっ」

「なんだ?」

 

八幡が疑問に思っているとリコはその殻の上から袋に詰められた物を一つとる。

 

「これいただくわ」

 

リコがそう言うと棚の横に付いているカエルの人形の口がカパッと開いて、中から何か出てきた。

 

「ゲーコ」

 

出てきた何かに先程駅を通り抜けるときに使ったパスカードをかざすリコ。すると、ピロンという電子音の後にチャリンとお金が落ちる音がなる。

 

「車内販売のエスカーゴよ」

「車内販売…エスカルゴとカーゴをかけてるのか、これまた凄いネーミングなことで」

 

きっとカタツムリニアと名付けた人が名前を付けたんだろうなと心の中で思う八幡。

 

「はい」

「いいの?」

 

買ったその包みをリコはみらいに渡し、ドヤ顔をしてこう言う。

 

「まあ、ご祝儀ってやつね」

「ありがとうっ」

「そこは、スルーして受けとるんですね…」

 

八幡は何のだよ!とツッコミたくなったがみらいは笑顔でスルーして受け取り包みを開いた。

 

「モフ?…モフ~!冷たいモフ!」

「氷?」

 

包みの中身は氷の塊、モフルンが少し触っただけでもブルッと震えるほど冷たい。

 

「まあ、見てなさい」

 

そう言うとリコは杖を取り出し掲げた。

 

「おい、何するつもりだ」

 

昨日の夜、おにぎりを真っ二つにした事を思い出して警戒気味に聞く。

 

「いいから…こほん、キュアップ・ラパパ、氷よ溶けなさい」

 

リコが呪文を唱えるとシュゥゥゥと音をたてて氷が溶けていくのが見えた。

 

「ミカンだ!」

「モフッ」

「氷の火山に住むアイスドラゴンのため息で凍らせた冷凍ミカンよ」

「氷なのに火山…それにドラゴンがため息って…もうファンタジーにいちいちツッコんでたらキリがないな」

 

何度目かわからないツッコミ所にとうとう諦めてしまった八幡。

 

「わぁ…さっすが魔法の世界!」

「受け入れるの早いな…」

「早く食べたいモフ」

 

さすがの一言で受け入れてしまうみらいに八幡はある意味感心する。

 

「はい、モフルン」

「はむ…モフ~!」

 

みらいが丁寧に皮を剥いたミカンをモフルンの口にいれると冷たかったのか再びブルッと震えていた。

 

「はい、八くんも」

「お、おう、さんきゅ」

 

くれるとは思ってなかったので八幡は少し驚いてミカンを一粒受けとる。

 

「いっただきまーす、はむ……ん~!!冷たくて美味しい~!」

「いただきます…確かに美味いな」

 

美味しそうに食べる三人の様子にドヤ顔で窓の縁に頬杖をついているリコ。

 

カリッゴリッ

 

何か硬いものを咀嚼する音が聞こえてリコは眉を寄せて横目で何事かと確認する。

 

「…ちょっと硬めだね」

「ちょっとって音じゃないと思うんだが」

「モフ…」

 

三人の反応みてリコが恐る恐るミカンを口にいれた。

 

「あむ…カリッゴリッ……うっ…」

 

思っていたより硬かったのかリコの表情が一瞬渋くなったがこちらをチラリと見ると明後日の方向を向いて、人差し指を上に向ける。

 

「こ、このくらいの硬さが丁度いいんだから、計算通りだし…うん」

「いや、絶対失敗しただろ」

 

言い訳するリコだが、さっきの表情が失敗した事を物語っていた。

 

「しっ失敗じゃないし、私はこのくらいの硬さが好きなんだから!」

「えぇ…」

 

頑なに失敗を認めないリコに八幡は呆れてツッコむのを諦める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ」「モフ」

 

宇宙空間だった外の景色が雲の中に変わり出口が見えてきた。

 

「わぁ…」

「モフ…」

「は…」

 

見えてきた景色にみらい、モフルン、八幡の三人は目を奪われる。雲の晴れたその先には一面に青が広がり、不思議な形の大きな木々が生い茂っていた。

 

「ここが私達魔法使いの世界、マホウ界よ…そしてあの大きな木の上に私達の魔法学校があるの」

 

リコが目線を向けている先にはものすごく大きな木があった。他の木々よりも倍近く大きく、頂上は雲に覆われていて見えない。

 

「魔法学校……ん~!ワクワクもんだぁ!!!」

「モフ~!!」

 

魔法学校という言葉に目を輝かせるみらい、それと比例するかのように八幡のテンションが下がっていた。

 

「はぁ…帰りたい」

「往生際が悪いわね、ここまで来たんだから今更でしょ」

 

ついさっきまであれだけ往生際悪く失敗を認めなかったのはどこの誰ですかねと八幡は恨みがましい視線を向けるも素知らぬ顔で流されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔法学校はマホウ界の中心なの」

「へぇ~」

 

カタツムリニアを降りた一行は、魔法学校の門の前まで来ていた。

 

「それにしても大きい門だな」

「モフ~」

 

見上げる門の大きさは一体何のためにここまで大きくしたのかと聞きたくなるくらい巨大で、数十メートルはある。

 

「いい?校長先生にプリキュアになったことを説明しに行くからあなた達も協力して」

「うんっ「モフッ」わかった!」

「…了解」

 

三人の了承を得るとリコは門に近づいて杖を取り出した。

 

「キュアップ・ラパパ!門よ、開きなさい!」

「ニャニャーン」

 

リコが杖を振ると門の上に付いていた校章の黒猫が鳴いて尻尾を振る、すると巨大な門がすんなりと開いていく。

 

「おぉ…魔法の杖ってすごいね!いいなぁ…私もほしぃい!」

 

そういってリコの持つ杖に顔を近づけるみらい。

 

「ぅ…無理だと思うわ、杖はマホウ界では生まれてすぐに授かる物だから」

 

近づくみらいから距離を取りつつ、リコが答えた。

 

「そっか…残念だな…」

「ほーん…そういうもんなのか」

 

じゃあ、俺が魔法使いになって空を自由に飛び回ったりすることもないのか…いや、別に期待してたわけじゃないけど、ホッホントなんだからねっ!期待なんかしてないんだからね!と八幡が頭の中で誰得なツンデレを繰り広げていると突然、甲高い声が聞こえてくる。

 

「リコさん!!」

「ひゃいっ!?」

 

コツコツと門の向こうから歩いてきたのは、いかにも魔法使いといった格好をした少し恰幅のいい女性だった。

 

「きょ、教頭先生…」

 

リコが怯え気味に教頭先生といった女性はチラリと視線をみらいと八幡の方へ向ける。

 

「ん?」

「こんにちは!」

 

目があったのかみらいは笑顔で挨拶をした。

 

(この状況で笑顔の挨拶ができる朝比奈のコミュ力…恐ろしい子!)

 

明らかに歓迎はされてない、むしろ八幡に至っては完全に不審者を見る目だ。これは、もしかして…魔法使いの存在は一般人にはバレたらまずかったのでは?という考えが浮かぶ。

 

「…どうも」

 

とりあえず、これ以上の悪印象を避けるためにペコリと八幡は頭を下げた。

 

「リコさん…貴方……」

 

教頭先生の眉間にシワが寄るのが見え、八幡はとっさに耳を塞ぐ。

 

 

 

「どういう事ですっっ!!!!!?」

 

 

学校中に教頭先生の甲高い声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マホウ界を許可なく出ただけでなく、あちらの人間を連れてくるとは」

 

現在、八幡達がいるのは恐らく大人数の授業で使われるであろう部屋だ。四人全員横一列に並んでお説教を受けている。

 

「しかも、こんな…」

 

教頭先生が八幡の方を見てそう言いかけ、流石に失礼だと思ったのかその先は口をつぐむ。

 

(いや、確かにこんな目が腐った奴を怪しむ気持ちは分かりますけど、そこまで言ったらもう言ったも同然じゃないですかね…)

 

心の中でそう思っても、決して言葉には出さない八幡。そこに起死回生の一言と言わんばかりにリコが告げる。

 

「私達、プリキュアになったんです!」

 

リコの言葉にみらいもうんうんと頷いている。八幡も同調して頷くが、これはまずいと内心思っていた。

 

「プリキュア?伝説の魔法使いに?貴方達が?…するならもっとマシな言い訳をなさい」

 

教頭先生は呆れた顔をしている、やはり、二人の話を信じていないようだ。

 

「「本当なんです!!」」

 

声を揃えて訴えるが教頭先生は取り合ってくれない。

 

「とにかく、あなた方をどうするべきか、そしてリコさん、貴方への処罰…校長先生に伺ってきます」

 

処罰という言葉にリコは顔を青くして教頭先生に聞き返した。

 

「そんな…処罰って…?」

「校則第八条、許可なくマホウ界を出てはならない、第十二条、魔法学校寮生の無断外泊禁止、二つの校則違反の上、彼とその子をマホウ界に連れてきたのですから…覚悟しておくことですね」

 

コツコツと出口の方に向かいながらリコの違反行為を挙げていく教頭先生。

 

「…すいません、ひとついいですか?」

 

今、まさに出ようと扉にかけた教頭先生の手が止まる。

 

「…何か?」

 

質問した八幡へ威圧的な声が返ってきて、内心、恐いなと思いつつ圧されないように声を出した。

 

「…ここに来たいと無理矢理付いてきたのは俺です。その事でこいつを責めないでやってください」

「あ、わっ私もですっ。リコちゃんに無理いって連れてきてもらいました」

 

八幡の言葉にみらいも合わせる。

 

「…それでも連れてきたのはリコさんの責任です。おとなしくここで待っていなさい。さもなくば、退学もあり得ますよ」

 

教頭先生はそう答え、バタンッと扉を閉めた。

 

後には呆然とした表情のリコと俯く二人が残される。

 

「ごめん、なんか私達が来ちゃったから…」

「別に…あなた達のせいじゃないから…ごめんなさい、庇ってもらったのに」

 

そう言って俯くリコを見て八幡は他に何か方法は無かったのかと考えた。

 

(あの場ではああ言う以外に出来ることはなかった、学校側の監督不行き届きを突く事も出来たが…それじゃあかえってこいつの心象が悪くなるし、確実性もない)

 

もし、これが八幡一人の問題だったのなら相手の痛いところをついて有耶無耶にするのだが、八幡の態度=リコの責任では下手なことはできない。

 

「…補習どころじゃなくなったわね」

「補習?」

 

色々あって隠すどころではなくなり、素直に話すリコ。

 

「私、本当は苦手なの…魔法」

「え?」

「まあ…だろうな」

 

みらいと違い、失敗の数々を見ていた八幡は戸惑う様子もなく受け入れる。

 

「春休みの間、魔法授業の補習を受けないといけなくて…強い魔法の力を持つと言われているリンクルストーンエメラルドを見つければ…先生達も認めてくれる、補習を受けなくても済むと思ったんだけれど…」

「…確かに補習はごめんだな」

 

特に春休み中に学校来るなんて八幡にとっては正気の沙汰とは思えない。ついこの間まで八幡は事故のせいで出席日数が足りず、休みを返上しての補習漬けだったので尚更同意した。

 

「エメラルドは見つからなかった、でも、プリキュアになったって言えば…なんて思ったんだけど、甘かったわ」

「リコちゃん…」

 

リコは自嘲気味に笑って上を見上げる、つまり、リコは校則違反を覚悟した上で、マホウ界を飛び出したということになる。

 

「覚悟の上だった…と?」

 

八幡の問いに力なく頷くリコ、暗いムードが漂う中、モフルンが突然みらいの手からくるりんと降りた。

 

「モフ…」

 

机の上にこれまたくるりんと登るとちょこんと座りリコを見上げる。

 

「甘い匂いモフ」

 

モフルンがそう言うとリコの胸元のペンダントが輝き出した。

 

「あ…」

 

それにつられるようにみらいのペンダントも輝き始め、遅れて八幡のポケットに入れてある石も光を放つ。

 

「キラキラに輝く力を感じるモフ…ダイヤ、光のリンクルストーンモフ!」

「…もしかして、私達のこれがリコちゃんの探してたエメラルドの仲間って事?」

「道理で、不思議な力を持ってるわけだ」

 

伝説と謳われるリンクルストーンなら今までの不思議な出来事にある程度は説得力が出てくる。

 

「モフ!リンクルストーンから伝わってきたモフ…でも、八幡のリンクルストーンはよく分からなかったモフ」

「え…俺のこれはリンクルストーンダイヤってやつじゃないのか?」

 

てっきり、他の二人と同じ物だと思っていたため驚く八幡。

 

「違うモフ、でもリンクルストーンには間違いないモフ!」

「リンクルストーンには変わりないのか」

 

確かに二人の物とは形も少し違っている、それに八幡がプリキュアに変身はしていないのも違いと言えば違いだろう。

 

「…私、校長先生に話してくる!!」

「え…?」

「は…?」

 

みらいの宣言に面食らう二人。

 

「ここで待ってて!リコちゃんはこの部屋から出たら退学になっちゃう!」

「モフ」

 

そう言って走り出すみらいの肩にモフルンが飛び乗る。

 

「あっちょっと!?」

 

リコが引き留めようとしたがすでにバタンッと扉の閉まる音が鳴った後だった。

 

「あぁ…」

 

みらいの出ていった扉を見ているとリコの隣にいた八幡も扉の方へ歩き出す。

 

「え、あ、あなたも?」

 

まさか八幡までが行くとは思わなかったのかさらに驚いた様子のリコ。

 

「…朝比奈だけだと説明が不安だからな、それにこうしてリンクルストーンっていう物証があるなら説得しやすい」

 

そっぽを向いて早口で喋る八幡。

 

「何で…そこまで…?」

「…別に、自分のためだ」

 

早く帰りたいからな、と早口で続けて八幡は扉から出ていってしまう。

 

「………ありがとう」

 

リコの消え入るようなお礼は誰にも聞こえなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━とある洞窟━

 

 

闇に浮かぶ巨大な髑髏の城。深い霧に覆われていてその全貌は見えない。

 

そんな霧の中を進む人影、コウモリ男ことバッティだ。

 

「おや、バッティさん」

 

城に近づいたバッティを呼び止める声がする。

 

「リンクルストーンエメラルドは見つかったんですか?」

「…ヤモー」

 

バッティに声を掛けたのは、ヤモーという男だった。

 

その風貌を一言で表すなら、有名な音楽家の格好をしたトカゲ男、はたまた昔の貴族の格好とも言えるかもしれない。

 

丁寧な口調だが言葉の端に少し皮肉が混じっている。

 

「ま、さ、か、手ぶらじゃありませんよね?」

「…プリキュア」

「…ハイ?」

 

皮肉に何の脈絡もなく関係ない単語で返され、ヤモーは思わず素で聞き返してしまった。

 

「プリキュア…が現れましてね、ドクロクシー様へ報告に」

「…ヌッハハハハハ、プリキュア?ハハッあれはただの伝説でしょう?」

 

バッティの言葉に何をバカなことをと呆れ、肩を竦めて笑い飛ばすヤモー。

 

「だが、確かに私はこの目でっ」

 

そんなヤモーの態度にバッティは語気を荒くする。

 

「ならば、証拠をお持ちください」

「なっ!?」

「当然です…我らが偉大なる魔法使い、ドクロクシー様に示しがつかないでしょう?」

「……」

 

偉大なる主の名前を出されてはバッティもそれ以上は食い下がれない。

 

「他の方もあらゆる手を尽くしてエメラルドを探していますからね、滞るのは困りますよ?」

「…一人は恐らく魔法学校の生徒、ならば」

 

考えはまとまったようで、杖を前へつき出すバッティ。

 

「すぐに捕らえて参りましょう…イードウッ!」

 

バッティがその場から消え、ヤモーだけが残された。

 

「お気をつけて……魔法学校といえば、確かマンティナさんが調査していたはず…」

 

大きな目を細めて、何かを見据えるヤモー。

 

「……プリキュア、ただの伝説か…あるいは…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「出てきたのは良いけど…校長室ってどこ?」

 

色とりどりの花に見たことない綺麗な蝶々、そんな景色が広がる廊下をみらいはあてもなく歩いていた。

 

「…追って…きて…正解…だったな」

 

後ろから聞き覚えのある声がして振り向くみらい。

 

「え、八くん?どうして」

 

そこにいたのは八幡だった。走ってきたのか少し息が荒い。

 

「お前…一人…だと…説明…出来るか…不安だからな」

 

荒い息のまま早口で言い切り、一旦、呼吸を落ち着けてそれに、と付け加える。

 

「あのまま待っているよりは探しに行った方が早く帰れそうだからな」

「…へ?」

 

一瞬、ポカンとしたみらいだったが八幡の表情を見て顔を綻ばせた。

 

「そっか…ありがとう」

「別に…自分のためだ」

 

そう言ってそっぽを向く八幡と一緒に校長室探しを続行するみらい。

 

「ん~…場所を聞きたくても誰もいないし」

「きっと春休みだからモフ」

「…なら仕方ないな」

 

誰だって休み中にわざわざ学校には来ないだろう、少なくとも自分だったら絶対に行かないと八幡はあの補習漬けの日々を思い出して身震いする。

 

「でも、見つけないと!!」

「……そうだな」

 

みらいの決意に八幡が頷きで返すと不意に風が木々を揺らした。

 

「………」

「みらい?」

「…どした?」

 

モフルンと八幡が声を掛けたが、みらいは揺れる木々を見つめたまま固まっている。その様子はまるで何かに呼ばれているように見えた。

 

「……あっ」

 

何かを思い付いたようにみらいが駆け出す。

 

「何を…」

 

いきなり駆け出したみらいに驚きながらも、八幡はそのすぐ後を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

駆け出したみらいがたどり着いた先は校舎の隣にある大木が根付いた建物の中、周りが木々で覆われ、その中心にポツンと大きな木が生えている部屋だった。

 

「ここは……」

 

少し遅れて八幡もその部屋にたどり着き辺りを見回して先に来ていたみらいと同じく中心の木に目が止まる。

 

サァァァァ…

 

「…わぁ……」

「ぁ………」

 

風で揺れる葉の隙間から日の光が覗き、ゆらゆらと辺りを照らして輝く幻想的な風景に心奪われる二人。

 

「「………」」

 

二人がゆっくりと近づいて優しく幹に触れると何故か安心感に包まれる気がした。

 

「立派だろう?」

 

不意に声がして二人は振り向く。

 

そこには落ち着いた雰囲気を纏い穏やかな笑みを浮かべる長髪の青年が立っていた。

 

「そいつは杖の木、魔法の杖を実らせる」

「ふぇ?…今、魔法の杖って言いました!?」

 

青年の登場に驚く二人だったがみらいはそれ以上に青年の言葉に目を輝かせる。

 

「え…誰?」

 

八幡のもっともな疑問はみらいの好奇心には勝てなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━少し遡って二人が出ていった後の教室。

 

 

憂鬱そうに頬杖をつくリコ。ぼーっとしている間にもチクタクと時計の針は進んでいる。

 

(昨日、今日会ったばかりなのに…)

 

思い返すのは二人の姿。一つは真っ直ぐで、お節介で、他人のために頑張る姿。

 

「…どうしてあんなに一生懸命になれるの?」

 

もう一つは捻くれていて、でも優しくて、自分のためと言いながら助けてくれる姿。

 

「…どうしてそこまで優しいの?」

 

比べる二人の姿はまるで違う、けれど…どちらも暖かい。

 

「…今頃きっと、迷ってるわね」

 

そんな二人の事を思うと自然と足が動く。

 

「……まったく」

 

仕方ないんだからと笑ってリコは部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「困ったものだわ、また校長室を留守にして」

 

ため息混じりに肩を落とす教頭先生。報告のために校長室まで来たのに校長先生が不在で頭を抱えている。

 

タッタッタッ…

 

ふと、誰かが走る音がして廊下に備え付けられている窓から外を見た。

 

「リコさん!?」

 

外の渡り廊下を走っていたのはおとなしくしているようにと教室で待機させているはずの生徒だった。

 

「教室に居なさいと言ったでしょ!退学になるつもりですか!?あぁ…リコさんっ!!!」

 

窓の内側からどれだけ叫んでもリコまでは届かない。

 

 

タッタッタッ…

 

 

走り去るリコの頭には退学のタの字も浮かんではいなかった。

 

 

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