やはり俺が魔法使いでプリキュアなのはまちがっている。   作:乃木八

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第三話「魔法商店街でショッピング!通うなんて聞いてないんですけど……?目覚めるルビーの力!」Bパート

 

「…どこだここ?」

 

魔法商店街の一角、比企谷八幡は迷子になっていた。

 

「おかしい、俺は別に方向オンチってわけじゃあない筈なんだが…」

 

キョロキョロと周りを見渡して呟く八幡。お花摘みに行ってくると言って出てきたが、別に八幡はお手洗いに行きたかったわけではない。

 

「…とりあえず来た道をもどってみるか」

 

振り返り、歩き始めると頭の中にさっきの光景が浮かぶ。

 

笑いあうみらいとリコそれを見守るモフルン。それを少し離れたところで見ていた八幡は無性にその場から逃げ出したくなったのだ。

 

「なんで俺はここにいるんだろうな」

 

誰に聞かせるでもなくそう呟く。流れで通うことになったが、八幡がもっと強く断っていれば今頃、家に帰れていたのかもしれない。

 

そもそもマホウ界に連れてこられるときだって本気で拒否すればリコだって無理に連れてこなかったかもしれない。だが、八幡はそれをしなかった。

 

八幡はボッチだ。別に一人でいるのは嫌いじゃないし、それでいいと思っている。人の顔色を伺い、話を合わせ、上っ面で笑いあうなんてのはごめんだ。

 

しかし、人はそんな嘘と欺瞞に満ちた関係を友達と呼ぶ。

 

空気読まず和を乱せば除け者にされ、人とは違うものを拒絶し排除しようとして、いとも簡単に崩れ去る。

 

今まで八幡が見てきた友達というのもすべてそういうものだった。

 

それでもいいと人に合わせみても最後には裏切られて傷つく。だから、もう八幡は期待しないし、勘違いもしない。

 

そうしていつからか希望も持たなくなった。筈なのに、リコとみらい、二人に出会って、こいつらとなら…といつの間にか期待してしまっていた。

 

「俺とあいつらは違う…」

 

笑いあう三人を見て気付く。その中に自分の入る余地なんてないことに。

 

手を伸ばしたって届かない。外から羨ましそうに見ることしか出来ない。なら、見なければ、諦めてしまえばいいのだ。

 

「春休みが終われば…それでおしまいだ…」

 

通うのは春休みの間だけ、そこで終わりにしてしまおうと八幡は決める。

 

手に持っている箒がやたらと重く感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待てーっ!!」

 

糸に手繰り寄せられていくダイヤを追って商店街の中を全力疾走するみらい達。

 

宙を舞うダイヤは他より頭一つ大きい建物の方へと引き寄せられ、その建物の屋根から逆さまにぶら下がる影の手に渡った。

 

「コイツがダイヤのリンクルストーンかい?」

「返して!!」

 

その影がいる建物の元までたどり着いた三人は影を見据える。

 

「フッこんな小娘共にてこずるなんて、バッティも情けないねっ」

 

影はそう言うとその正体を現し、三人の前に降り立つ。

 

「アンタ達なら知ってるよね、このスパルダにエメラルドの在りかを教えなっ!!」

 

スパルダと名乗ったのは人間とは思えない恐ろしい風貌、そして言動からあのバッティの仲間と思われる蜘蛛女だった。

 

「そんなの…」「教えないっ!!」

 

不安そうなリコの声を遮り、みらいが強い意思を言葉にする。

 

「人の物を盗るなんて…知ってたとしても絶対に教えないっ!!!」

 

みらいの言葉にスパルダはニヤリと笑った。

 

「立場がわかってないようだね…アンタ達に選択の余地はないのよ…」

 

髑髏の杖を取り出したスパルダは呪文を唱える。

 

「魔法、入りました。出でよっヨクバール!」

 

スパルダの足下から蜘蛛の糸が広がり、それが魔法陣へと変わった。そしてそこに岩とミカンが吸い込まれていく。

 

━ゴゴゴゴゴッ

 

凄まじい音と共に建物が薙ぎ倒され、その余波が周囲に降りかかる。

 

「あっ!?」「きゃっ!?」

 

二人は衝撃に吹き飛ばされて地面に倒れこんだ。

 

衝撃で巻き上がった砂埃が晴れると、中から巨大な岩石が現れる。

 

「ヨク…バールッ!」

 

岩石から手足が生え、中心から真っ二つに割れた。そこからみえるのは冷凍ミカン、そして髑髏の顔だ。

 

「ヨクバッ!」

 

巨大な岩石みかんヨクバールは手始めと言わんばかりに近くにあったお店をその拳で粉砕する。

 

「フッフフフ、魔法はこうやって使うのさ…」

 

自身の作り出したヨクバールの暴れっぷりに高笑いしながらスパルダはみらい達に語り始めた。

 

「こんなもんじゃない、ドクロクシー様がエメラルドの力を手にすれば、世界は暗黒に…全てを闇が覆うっ!!……心が踊るだろ?」

「そんな…」

「モフ…」

 

高揚した声色でスパルダが語る話の恐ろしさに三人は絶句してしまう。だが、そうしている間にもヨクバールは町を破壊していく。

 

「ヨクバァールッ!!」

 

あちこちで悲鳴が上がり、人々が逃げ惑う。その姿を見てスパルダは嘲笑うかのように呟いた。

 

「しかし、逃げるだけとはね。情けない連中だよ」

「「っ…!」」

 

スパルダの言葉に憤った二人は顔を見合わせて決意を確認しあう。

 

「リコちゃん!」

 

名前を呼び、プリキュアへと変身すべく手を伸ばしたみらい。しかし、モフルンの言葉が無情な事実を告げる。

 

「モフッみらいのダイヤがないとプリキュアにはなれないモフ…」

「あっ…」

 

変身出来ない、絶体絶命な状況に陥ってしまったみらい達。

 

「ヨクバール」

 

変身出来ない事にほくそ笑み、スパルダがヨクバールへ指示を下す。

 

「ギョイ…ヨッヨッヨッ!!」

 

指示を受けたヨクバールは手足を収納すると、高速で回転し始め、みらい達へと狙いを定めて襲いかかる。

 

ギュルルルルッ、ドガガガガッ―

 

「「わわっ!わぁぁぁぁっ!?」」

 

瓦礫を蹴散らしながら迫り来るヨクバールに二人は声を上げて逃げるしか出来ない。

 

タッタッタッタッ―

 

ドガガガガガガッ―

 

ひたすらに走って逃げるが商店街の中を破壊して進むヨクバールの方が速く、このままではじきに追い付かれてしまう。

 

「あっ!」

 

運良く店と店の間にできた横道を見つけたみらい達は激突する寸前でそこへ走り込んだ。

 

ドゴンッ―コロコロ…ギュルルルルッ

 

無事逃げ切れたと思った矢先、ヨクバールは急ブレーキで止まるとバックしてその横道に無理矢理突っ込んできた。

 

「「!!?」」

 

二人は侵入してきたヨクバールに驚くが足を止めることなく再び全力疾走で逃げる。

 

走る二人は路地を抜け、小さな橋を飛び越えて最初に来た猫像がある広場へとたどり着いた。

 

しかし、その広場はすでにドーム状の糸で覆われていて逃げ場がない。

 

ドゴッガシャーンッ―

 

後ろからはヨクバールが追い付き、前には先回りしたのか、スパルダが立ちはだかった。

 

「フフッ逃がさないよっ!!」

 

スパルダの罠に嵌められたみらい達。勝ちを確信したスパルダが嗜虐的な笑みを浮かべさらに二人を追い詰める。

 

「エメラルドの在りかを言わないのなら…町ごと消してやろうか?」

「っ…!?」

 

それは脅しでも、目の前の闇の魔法使いはいとも簡単にそれをやってのけるだろう。リコは無力な自分に唇を噛み締め後ろを振り返った。

 

無惨に破壊された町並み、傷ついた人々、小さい頃から知っている大切な場所が壊されていく。

 

ギュッ…

 

大切な人達を…大切な場所をこれ以上傷つけさせないと拳を握り締め、リコはスパルダを睨んだ。

 

「さあ、どこだいっ!?」

「だからあなたにはっ…」「絶対に教えない!!」

 

追及するスパルダに今度はリコがみらいの言葉を遮って叫ぶ。

 

「リコちゃん?」

「モフ?」

 

驚くみらいとモフルンを他所にリコは怒りをあらわにして叫び、続ける。

 

「私の大切な…みんなの町にっ!なんてことしてくれるのよっ!!!」

 

リコの心からの怒りと共鳴するように猫像が持つランプの炎が燃え上がり辺りを赤く照らした。

 

「フッ、今さらどうしようってんだい?」

 

変身も出来ないクセにとみらいのダイヤを前につきだし、余裕の表情で煽るスパルダ。

 

「くんくん…甘い匂いモフッ!」

 

緊迫する空気の中響くモフルンの声、燃え上がった情熱の炎が煌めいて広場を覆っていた糸を焼ききった。

 

「熱い想いを…感じるモフ!」

 

天に立ち昇る情熱の光。その光は町の人々の目にも映る。

 

「おおっ?」

 

「あっ…」

 

「情熱の炎が…」

 

町の人々は理解する。情熱の炎が自分達を守るために燃え盛っていることを。

 

「あれはっ!!」

 

炎の中から紅く美しい宝石が現れた。

 

「いくわよ!」

「うんっ!」

 

その宝石を見た瞬間、みらいとリコは確信と共に手を繋ぎあう。

 

「━ごめんなさいね」

 

━━パチンッ

 

二人の元へと向かう煌めく炎を突如、現れた影が遮った。

 

「!?」

「えっ?」

 

あまりに追突な出来事にみらい達は手を繋いだまま立ち尽くしている。

 

「…チッ、なんのつもりだい?マンティナ!」

 

スパルダが苛立ち混じりに叫んだ。その反応にくすくす笑いながらマンティナと呼ばれた影が答える。

 

「あらあら、つれないわね。せっかく助けてあげたのに…」

 

手の中で紅い宝石を転がすマンティナ。その素顔はフードを被っていて見えない。

 

「余計なお世話だよっ!それを渡してとっとと失せな」

「…仕方ないわね。ま、せいぜい返り討ちに合わないように気を付けなさいな」

 

マンティナは肩を竦めて首を振ると手の中の紅い宝石をピンッと弾いてスパルダに渡し、みらい達の方を向いた。

 

「またね、お嬢さん達」

「あなたは…」

「っ…」

 

立ち尽くすみらいとリコにそう言い残すと、マンティナは指をパチンッと鳴らして消えていった。

 

「…フン、またなんてコイツらにはないわよ。ヨクバール」

「ヨクバァール…」

 

スパルダはマンティナが言い残した言葉に鼻を鳴らして反論するとヨクバールへ指示をとばす。

 

「リンクルストーンがなければアンタ達は所詮ただの魔法使い、なにもできやしないのよ」

 

ジリジリと距離を詰めてくるヨクバールに二人は為すすべがない、そこへスパルダが告げる。

 

「これが最後、エメラルドの在りかを教えな。さもない…と……?」

 

何故かそこでスパルダは言葉を止め、周囲を見回した。

 

「「?」」

「モフッ何か聞こえるモフ!」

 

いきなり動きを止めたスパルダに戸惑うみらいとリコ。そこへモフルンが音に気付いて声を上げた。

 

「何かが近付いてきてる…?」

 

音が二人の耳にも聞こえ、周りを見ると、右の方の通りから何かが派手に土煙を上げながら物凄い速度でこちらに向かってきているのが見える。

 

「一体何だってんだい」

 

スパルダもその方角を見て訝しげな顔をし、全員の視線がそこへ集まった。

 

ぁぁぁぁぁ━

 

「あれって…」

「もしかして…」

「モフ?」

 

土煙の中から見覚えのある人物が箒に捕まって飛び出してくる。

 

「八「幡さん!?」くん!」「モフ!」

 

声を揃えて驚く三人。それもそのはず、飛び出してきたのは八幡だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━みらい達がダイヤを追いかけていた頃、八幡はまだ道に迷っていた。

 

「完全に迷った……」

 

来た道を引き返した筈なのに、見覚えのない通りに出てしまった八幡は途方にくれて呟く。

 

これでも何度かすれ違う人に道を聞いたのだが、いかんせん似たような場所がいっぱいあって元の場所に戻れない。

 

「案内板らしきものも字が読めないから意味がない…」

 

この世界の人とも言葉は通じていたが、使われている文字が別物なので全く読めないのだ。

 

「…はぁ、とりあえずもう少しその辺をまわるか……」

 

もしかしたら知っている通りに出るかもしれないし、今のところ他に案は浮かばないからなと歩き出そうとした直後、震動と轟音が遠くの方で聞こえた。

 

「っなんだ!?」

 

驚いて音のした方を見ると建物が倒壊したようで、瓦礫と砂塵が煙となって空へと立ち昇っている。

 

━ヨクバァールッッ!!

 

聞き覚えのある鳴き声がしたと思ったら、その建物が倒壊した辺りに巨大な岩の怪物が出現した。

 

「なっ…あれは!?」

 

八幡がマホウ界へと来る原因になった怪物、ヨクバールが再び姿を現す。前のヨクバールとは姿形が違うが、あの髑髏の顔は一度見れば忘れないだろう。

 

「…まさか、あそこにあいつらが……?」

 

ヨクバールは闇の魔法によって生み出された怪物。そして闇の魔法使いはリンクルストーンエメラルド、もしくはその情報を欲している。

 

頭の中で嫌な想像が駆け巡り、予感が確信となる。八幡はヨクバールの方へと足を向けかけ…止まった。

 

「あいつらなら大丈夫だろ…」

 

みらいとリコは伝説の魔法使い、プリキュアだ。相手が誰であろうとその力と絆でどうにかする。

 

(そこには俺の手助けも存在も必要ない、そんなものなくてもあいつらは…)

 

さっきまで考えていた事が浮かんで八幡はその場で立ち止まってしまった。

 

━ヨクバァールッ!

 

八幡が止まっている間にもヨクバールは暴れている。町は壊され、町の人々は恐怖して逃げ惑うが、八幡は動けない。

 

それでいいの?

 

聞いたことのない声がどこからともなく聞こえて、八幡に問う。

 

「…誰だ?」

 

返事は返ってこない。幻聴かと思う八幡だったが、この混乱の中、聞こえたその声は不思議と耳に残った。

 

「それでいいって何がだよ…」

 

そう呟くが、声が指すそれの意味を八幡はわかっている。わかった上でわからないフリをして自分を納得させているのだ。

 

━ドガガガガッッ

 

ヨクバールが高速で回転し、町を破壊しながら何かを追っている。未だプリキュアは現れない。

 

もしかしたら、二人は変身出来ない状況に陥っているのかもしれない。そう思ったが、すぐにあの二人なら…という考えが浮かび、動けなかった。

 

「ここらが潮時だ…これ以上は…」

 

初めてあの二人がプリキュアになった時、八幡は何もできなかった。二人はそんな事ないといっていたが、八幡にとってはそれが嫌だった。

 

学校で戦った時は、運良く手助けすることが出来た。けれどそれだけ、たまたま成功しただけだ、次はない。魔法が使えても八幡にはプリキュアを助けるような力はなかった。

 

邪魔になるから、入る余地がないから、力がないから、必要がないから、これだけ並べても割り切ることができない。

 

「俺は…」

 

無理矢理理由を捻り出し、適当な言葉で自分を誤魔化す、そうしないと踏み出せないのだ。

 

それでいいの?と謎の声は問うた。八幡の理性がそれを肯定するが、心が否定し、再び問うのだ、いいのか?と。

 

結局、比企谷八幡は諦めきれない。入る余地がなくても、力がなくても、手を伸ばして届かなくても。

 

「なら、その答えは…」

 

たどり着いた答えは色んな事を考えていたのが馬鹿らしくなるくらいシンプルだ。

 

 

八幡が答えを出したその時、町の中央から紅い光が立ち昇る。

 

「……情熱の…炎…」

 

その光が情熱の炎であることがなんとなく伝わって来た。そして、そこにみらい達がいることも。

 

もう八幡は迷わない、みらい、リコ、モフルン、三人の元へと向かうために最善を考える。

 

(走って向かうには遠すぎる、かといってあの時みたいに出来るかわからない瞬間移動に頼るのも論外だ。なら…)

 

考えはまとまった。ただ、この方法は八幡にとってリスクが高い、下手をすれば大怪我で済まない可能性もある。

 

「…これ以外思い付かないしな……それに、たぶん、これが一番速い」

 

そういって手に持っていた箒に視線を移す。箒店の主人グスタフがカスタムした特別製の箒。本人いわく、ピーキー過ぎて誰も乗れないという代物だ。

 

八幡なら乗りこなせると謎の期待を込めて渡され、初心者になんてものをと思っていたが、それがこの状況ではありがたい。

 

「えーと、確か…こんな感じで…」

 

リコがやっていたのを思い出しながら、箒を前につきだし、見よう見まねで再現する。

 

「キュアップ・ラパパ!」

 

呪文を唱え始めると箒が浮き上がり、丁度良い位置に来たところでその柄にまたがって続けた。

 

「箒よ、空を…」

 

しかし、この時八幡は甘くみていたのだ。グスタフのカスタムした箒のスピードを。

 

「飛べっ…!?」

 

唱え終えた瞬間、八幡の見ていた風景が一変し、視界が青一色に染まった。

 

「あ……あぁぁぁぁぁっ!?」

 

驚き混乱してする八幡。あまりのスピードでまたがるどころか箒に捕まるのが精一杯、むしろ手を離さなかっただけマシだ。

 

「うっうえっいきす、ぎ…し、し、たにぃぃっ!?」

 

町並みが小さく見えるほど上空まで飛んだ箒を混乱する頭でなんとか下に戻そうと口に出した瞬間、今度は浮遊感と急速落下する恐怖が八幡を襲った。

 

「お、お、おおっっ!!?っ!?」

 

急上昇からの急降下で、空の次はすぐ目の前に地面が迫る。

 

「っ……!!」

 

咄嗟に捕まっている柄の部分を持ち上げるように力を入れると、間一髪、地面スレスレのところで持ち直し、そのまま超低空状態で飛んだ。

 

幸い、光が立ち昇った場所までは一直線の道で避難したのか人影はなく、誰かを巻き込む心配はない。

 

「お、あ、あぁぁぁぁぁっっ!?」

 

土煙を上げながら真っ直ぐ飛んでいく箒。グングン増すそのスピードにもはや八幡は叫ぶことしか出来ず、あっという間に目的地までたどり着く。

 

「八「幡さん!?」くん!」「モフ!」

 

最初に来た猫像の広場にたどり着いた八幡の耳にみらい達の驚いた声が聞こえたが、それどころではない。

 

なぜなら、目的地に着いてなお、箒は真っ直ぐ飛び続けていたからだ。

 

「ちょっまちっ!?」

 

暴走箒の進行方向にいたスパルダが慌てふためき避けようとしたがそのスピードの前に失敗に終わり、箒の先端の部分がちょうど鳩尾の辺りに激突した。

 

「るぐぇっ!?」「っ!?」

 

凄い声を出してスパルダが吹き飛び、その手から紅い宝石がこぼれ落ちる。

 

「っ痛……あ…地面?…助かった…?」

 

箒から投げ出された八幡は箒自体にかけられていた安全装置のような魔法とスパルダに激突したのがクッションになって大きな怪我もなく無事だった。

 

━コツン

 

「…なんだこれ?紅い…宝石?」

 

八幡の頭の上に宝石が落ちて、それを拾いあげ首をかしげる。

 

「八くん!大丈夫!?」

「モフ~」

「まったく、無茶するんだから…」

 

さっきまで色々考えていたこともあって、八幡は心配して駆け寄ってきた三人に対し、そっぽを向いて答えた。

 

「…ああ、その…あれだ……狙い通りだし?」

「へ?」

「モフ?」

「なっ!?」

 

何て言って良いのかわからず、ぱっと思い浮かんだ台詞を口にする八幡に、みらいとモフルンは一瞬呆気にとられ、リコは顔を赤くする。

 

「…あ、もしかして今のリコちゃんの真似?ちょっとだけ似てたよ!」

「モフッ狙い通り~モフ!」

「ちょっ!に、似てないから!私そんな事言ってないし!!」

 

みらいとモフルンが似てる~と笑い、リコはむきになって反論する。そんな光景を見て八幡は思った、いつか手が届けばいいと。

 

「……よくも…やってくれたねぇ…!」

 

吹き飛んで瓦礫に埋もれていたスパルダが、怒気を含んだ声を起き上がった。まだ痛むのか激突した部分を押さえて血走った目を八幡へと向ける。

 

「ヨクバール!なにボケッとしてんだい!!小娘もろともそこの目が腐った男をやっちまいなっ!」

「ギョ、ギョイ!」

 

スパルダが戸惑い動けないでいたヨクバールを怒鳴り散らし、八幡達へとけしかけてきた。

 

「っ…お前ら逃げろっ!」

 

攻撃体制に入ったヨクバールをみて八幡が叫ぶ。

 

「いやだ!逃げない!」

「は?」

 

さっき笑いあっていた表情とは、うって変わって怒ったようにヨクバールを睨み付けるみらい。

 

「そうね、私も逃げる気なんてないわ」

「お前まで…?」

 

リコもみらいと同じく怒った表情を浮かべてヨクバールを睨み付け、二人は八幡を庇うように前へ出た。

 

「みんなの町をこんなに滅茶苦茶にして!」

「私の大切な人達を傷つけて!」

「「私は怒ってるんだから!!」」

 

二人の怒りに八幡の手の中の宝石が共鳴するように紅い光を放つ。

 

「すっごく甘い匂いモフッ!」

「まさか、この光は………っ受け取れ!!」

 

モフルンの言葉で察した八幡は二人の方へと紅い宝石を投げ渡した。

 

「今度こそ、いこう!リコちゃん!」

「ええ!」

 

合図と共に二人は手を繋いで呪文を唱える。

 

「「キュアップ・ラパパ!」」

 

「モッフー!!」

 

すると、二人の背後から真っ赤な光にのって紅い宝石がモフルンの元へ飛んだ。

 

「「ルビー!」」

 

「モフッ!」

 

紅い宝石、リンクルストーンルビーがモフルンにセットされるとモフルンは二人と手を繋ぎあう。

 

「「ミラクル・マジカル・ジュエリーレ!!」」

 

二人の姿を深紅の花びらが覆い隠し、見えなくなったかと思えば、魔法陣が現れた。

 

そして、その中から炎と共に真っ赤な衣装を身に纏う二人が飛び出す。

 

「ふたりの奇跡!キュアミラクル!」

 

「ふたりの魔法!キュアマジカル!」

 

「「魔法つかいプリキュア!!」」

 

名乗りと共にヒーローさながらの爆炎が二人を照らし出した。

 

「な、なにっ!?変身した…だと!?」

 

スパルダが驚き狼狽した声を出す。

 

「赤い…プリキュア……」

「ルビーのプリキュアモフ!ルビーが新しい力をくれたモフッ!!」

 

変身した二人の姿を呆然と見つめて呟く八幡と嬉しそうなモフルン。

 

「っいけ!ヨクバール!!プリキュアを狙うんだよ!!」

「ギョイ」

 

予想外の変身に驚いたスパルダは、攻撃体制に入っていたヨクバールに指示を出し、標的をプリキュアに絞った。

 

「ヨクッッ」

 

ヨクバールはその巨体からは想像もつかないジャンプ力を発揮して、上空から二人に向かって落下する。

 

ヒュォォ━ドスンッッ!!

 

凄まじい速度で落下してきたヨクバールを二人は真正面から受け止め潰されないように歯を食い縛って踏ん張った。

 

「くっぅぅぅっ…」「んぅぅぅっ…」

「無理だよっお前らに跳ね返せるもんか!!ヨクバールっ押し潰しておやり!」

「ギョッイィィ」

 

更に体重をかけて押し潰そうとしてくるヨクバールに二人は必死で耐えている。

 

「「ぐぅぅぅっ……!!」」

「ハッ、どうだい!…さてこっちはもう片付くからねぇ、次はアンタだよっ!!」

 

勝利を確信したスパルダはプリキュアをヨクバールに任せ、八幡の方へゆっくり近づいてきた。

 

「くっ…」

「モフッ八幡!ミラクル!マジカル!」

 

ドスンッッ!!

 

「どうやら、あっちは終わったみたいだねぇ…後はアンタとあそこの喋るぬいぐるみだけだよ!」

 

耐えきれなくなったのか二人がヨクバールの下敷きになってしまった。

 

迫るスパルダ、八幡とモフルンが絶体絶命のピンチに陥りそうになった時、ヨクバールの真下から真っ赤な光が溢れ出る。

 

「!?」

 

二人を押し潰した筈のヨクバールが徐々に持ち上げられていく。

 

「二人に手は……」

「出させない!!」

 

「「はぁぁぁぁっ!」」

 

「すごい力モフッ!」

 

気合いの掛け声と共にヨクバールを頭上へ持ち上げると、輝きを増した紅い光が町の人々を照らした。

 

「「はぁっ…ふっ!!」」

 

呼吸を整え、再度力を込めてヨクバールをスパルダの方へ吹き飛ばす。

 

「くっ」

 

スパルダはそれを後ろに飛び退いてかわそうとするか、ヨクバールのあまりの巨体にかわしきれない。

 

「チッ…ハァッ!」

 

回避を諦めて、スパルダは手から放射状の糸を出し、ヨクバールを受け止めて横へはね飛ばした。

 

「ふぅ……っ!?」

 

ホッとしたのも束の間、手の中にあった筈のダイヤが無くなっているのに気付くスパルダ。

 

「モフッ!」

 

トテトテ、ポフンッとモフルンがスパルダの手からこぼれ落ちたダイヤを滑り込んでキャッチする。

 

「ヨクバッ!」

 

吹き飛ばされていたヨクバールが飛び上がって、再び高速で回転しながらプリキュアに突っ込んだ。

 

「「はぁぁぁぁ…ふっ!!」」

 

二人は気合いを入れて構えると凄まじい勢いで転がるヨクバールを真正面から受け止める。

 

「「くぅぅっ!」」

 

摩擦による火花を散らしながら一歩も退かずに踏ん張るプリキュア。そして、徐々にヨクバールの回転が弱まり始め完全に止まった。

 

「「でぃやぁぁぁぁぁっ…ていっ!!」」

 

回転の止まったヨクバールを持ち上げるとその巨体を遥か上空へと打ち上げた。

 

「ヨクバー……ルゥゥゥ!?」

 

打ち上げられたヨクバールは悲鳴を上げながら重力に引かれて落下しはじめる。

 

「「ふっ!」」

 

「やぁぁぁぁっ!」

 

「はぁぁぁぁっ!」

 

落下するヨクバールに向かって二人は跳躍し、同時に拳を繰り出してヨクバールの岩の外皮を粉砕した。

 

「「……フッ!!」」

 

岩が割れて中から冷凍ミカンのボディが剥き出しになる。カチンコチンに凍ったそれを見て、ミラクルとマジカルがルビーの力を乗せた蹴りを放った。

 

シュゥゥゥゥ━

 

「ヨクバー…」

 

ルビーの力により最後の砦である氷のボディを溶かされたヨクバールはそのまま地面に叩きつけられる。

 

「…今度は上手く解凍できたみたいだな」

「モフ~!」

 

動けない八幡が口元を緩め、そんな事を呟いた。

 

「っ…何だ?この力は…」

「ヨクバァール…」

 

プリキュアの想定外の力に焦るスパルダ。そして全ての殻を破壊されたヨクバール。

 

「もう勝手な真似はさせない!」

「この街から出ていきなさい!」

 

ミラクルとマジカルの宣言と共に二人の杖が伝説の杖へと変わる。

 

「「リンクルステッキ!」」

 

「モッフー!!」

 

モフルンの胸元に輝く赤い光がリンクルステッキへと放たれる。

 

「「ルビー!」」

 

「「紅の情熱よ!私達の手に!」」

 

ルビーの力を得たリンクルステッキが紅く輝いた。

 

「「フルフルリンクル!」」

 

円を描くようにステッキを振るとそこへ炎が宿り、ハートを形作る。

 

ミラクルとマジカルはそれを宙へ放つと同時に跳躍、そして放たれたハートはくるくると魔法陣に変わり、二人の足場となった。

 

「「プリキュア!」」

 

前を向いて繋いだ手をぎゅっと握り締め、交差したステッキを解き放つ。

 

「「ルビーパッショナーレ!!」」

 

呪文と共に魔法陣が大爆発を起こし、二人は紅い流星となってヨクバールの纏う闇の力と衝突、ルビーの紅い情熱の炎がそれを包み込んだ。

 

「ヨクバール……」

 

リボン状に包み込まれたヨクバールは炎に浄化され、元の岩とミカンに戻っていく。

 

「ぐっ……プリキュア…オボエテーロ!!」

 

自らの作り出したヨクバールを浄化されたスパルダは悔しげに声を漏らすと吐き捨てるように呪文を唱え、消えてしまった。

 

「…あれは完全に捨て台詞だな……」

 

未だに動けない八幡はそう呟くと辺りを見渡して顔をしかめる。

 

「それにしても…今回はだいぶ街の被害が大きいが…直るのかこれ……」

 

前回と違い、街へ広範囲にわたって被害が出ていたので、校舎のように元通りになるかと心配したがそれは八幡の杞憂に終わり、全て元の通りに直った。

 

「まさか…あれは、伝説の魔法使い、プリキュア!!」

 

プリキュアとヨクバールの戦いを見守るために広場に集まっていた街の人たち。その中いた伝説好きのフックの言葉にその場にいた街の人全員が驚きの声を上げた。

 

「ま、まぁ!プリキュアですって!?」

「おお!?」

 

フランソワを筆頭にザワザワし始めた街の人達。それに困惑したようにミラクルがどうも~と手を振る。

 

「何してるの!?いくわよっ」

 

マジカルが慌ててミラクルを促し、二人は屋根づたいにその場を離れた。

 

「…俺も今の内に移動するか」

 

その場にいた八幡もプリキュアへと注意が向いている隙にこっそりと人混みに紛れる。

 

一方、屋根から屋根へと飛び移って逃げる二人は自分たちの新たな力に困惑していた。

 

「ねぇ、前と違うよ?なんで?」

「私だってわからないわよ!」

 

二人が広場から離れるのと入れ替わりに魔法の絨毯に乗った校長と魔法の水晶がその場に飛んで来る。

 

「街は無事なようですね」

「ああ、あの二人の…いや、三人のおかげじゃよ」

 

元に戻った街を見て微笑む校長。そして校長は遠くを見つめて呟く。

 

「リンクルストーン…ルビー…また新たな輝きが彼女達によってこの世界に灯された」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

広場での騒動が落ち着いた後、合流した四人は箒を受けとるために再びグスタフ箒店を訪れていた。

 

「おぉ~!!私の箒♪可愛いリボン!!」

 

出来上がった箒を受け取ったみらいが歓喜の声を上げてはしゃぐ。

 

「サービスだよ、学校、頑張んな」

「ありがとうございますっ!!」

 

可愛いリボンをサービスしてもらったみらいが深々と頭を下げてお礼を述べた。

 

「リコ、お前のも出来たぜ…壊れたらまたいつでも来なよ」

「え?これって…」

 

修理した箒にはみらいとお揃いのリボンが付けらていて驚くリコ。

 

「いいだろう?友達とお揃いだ」

「えへへっ」

 

お揃いの箒にみらいは嬉しそうに笑ってリコを見た。

 

「おっと、もちろんあんちゃんも仲間外れじゃないぜ?」

「え?…これは」

 

実はみらい達よりも先に着いていた八幡はスパルダに突撃して傷んだ箒をグスタフに預けていた。

 

本当は他の箒に換えて欲しかったのだが、グスタフがあんちゃんにやる箒はそれしかねぇ!と言い切ってしまい断念した。

 

「さ、受け取れ二人共!」

「「ありがとう…」ございます」

 

差し出された箒を受けとるリコと八幡。

 

「みんなお揃いだね!!」

 

そういって笑うみらいにつられてリコも自然と笑顔になり、男にリボンの装飾なんてと少し苦い顔をしていた八幡もまあいいかと頬を緩めた。

 

(…こいつらとなら補習授業も悪くないかもな)

 

まだ八幡の出した答えが正解かなんてわからない。けれど、こうして笑いあっているのならそれが正解でなくとも今はいいと八幡は思う。

 

たとえそれが、酷く傲慢な事だったとしても。

 

 

 

━四話に続く━





次回予告


「ついに魔法の授業開始♪」

「最初の課題は…紙で出来たちょうちょ探し?」

「……これで何回目だ?箒から落ちるの…」

「お、落ちてないし!…こほん、学校は広いわ、よーく考えて探さないと……ってあれ?」

「みらいいなくなっちゃったモフ~」

「も~っ!時間がないのにどこにいったの!?っていつの間にか八幡さんもいないし~!?」





次回!魔法つかいプリキュア!やはり俺が魔法使いでプリキュアなのはまちがっている。

「魔法の授業スタート!13個目の謎!?ふしぎなちょうちょを探せ!」





「キュアップ・ラパパ!今日もいい日になーれ!」
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