バツンッ、と何か引きちぎられた音が部屋に響き、赤い鮮血が部屋の中を彩った。
「……ハッ、エッ、ガッ、アァァアアアァァァアァァアアアア!!」
悲鳴───悲鳴───圧倒的、悲鳴。
巨大な獣の鳴き声さながらの野太い声の絶叫が部屋中に響く。
隼人の両手に持っているのは、襲ってきた化け物の右腕二本。
どうして腕を持っているのか、どうやったら化け物の腕を引きちぎられるのかという疑問が出てくるが、今この場所にそれを聞く人物は誰一人もいない。
「クッ、ククククク、アッハハハハハ!!」
隼人の体全体に刻まれた謎の赤黒い紋様。
先程までの美しい漆黒の髪が、半分まで白髪に変化しており、両眼は金色に変化していた。
腕を引きちぎられた化け物はその場で膝をついており、隼人の豹変ぶりを見た化け物の本能は、即座に隼人への認識を正そうとする。
この男は、先程までの雑魚ではなく、自分を喰らおうとする強者だと。
しかし、その事実は化け物のプライドが認めない。いや、認めたくないと思ってしまう。
『己ら強者に搾取されるだけの弱者が、自分強者を見下している』
その事実が、化け物の意識を完全に支配した。
自らの内より湧き上がった憤懣が、全ての神経や筋肉を支配し、腕の痛みを怒りが遮断して青年に襲い掛かる。
言葉すらあげることもできず、残った腕に全部の力を集中させ暴走させた。
ありったけの衝撃と熱が込められた拳が、勢いよく青年の顔を吹き飛ばすために空間を切り裂き加速する。
ほんの一呼吸で、その拳は青年に当たるかと思われた。
だが、そうはならなかった。
「『──────────』」
怒りによって聞き取れなかった詠唱。
青年は此方を見ずに口を開き、己の中で構築した『呪術』をさらけ出す。
瞬時にして、膨大な力が青年と化け物の間に湧き上がった。
青年の前に現れた巨大なの風の顎が、自分の放った拳を切り刻み、風の爆発が化け物の全てを呑み込んだ。
まるで、極限まで膨大な力を圧縮したが故の、圧倒的威力を持つその風は、部屋中の畳を剥がし、襖を全て吹き飛ばす。
その爆発に呑み込まれた化け物は跡形もなく消し去られており、彼の存在はあっさりと風の中に呑み込まれる結果となった。
「………ッはぁ!はぁ、はぁ、はぁ」
隼人の体に刻まれた紋様はあっさりと消えており、髪も元の漆黒に戻っている。
しかし、眼だけは元に戻らす、金色のままになっている。
彼は力を使いきったのか、既に顔に疲労の色がみえ、足もふらつき、遂には後ろに倒れこんでしまった。
仰向けに寝転んだ隼人は、あの爆発で寺に大きな被害を出してしまったかの確認をしようとするが、体は疲労で動かないため、視線だけでする。
見たところ、多少の傷はつけてしまったのは見えたが、そこまで大きな被害は出ていなかった。
「………ふう」
安心したのか、溜め息をつく隼人。
彼は震える右手を天に突きだし、握りこぶしをつくる。
「……ああ、やっと、やっとだ!やっとあの化け物に復讐できる!!」
彼は歓喜したのだ。やっと、あの化け物を殺せる力を手に入れたと。
後はこの力を使いこなすだけだと、彼は右手を地面に降ろし、一先ず体を休めようと眼を閉じようとした。
「無理だね」
ふいに、そんな声が聞こえた。
「!!」
「『呪霊』に復讐するには確かにその力があれば出来るよ。けど、その力を使いこなすには最低でも三、四年はかかる」
まるで此方を見透かしたような声。
隼人はその言葉だけで、閉じ掛けた眼が見開き、声の主を警戒しようとする。
「誰だ」
「おおっと、すまないすまない。先ずは自己紹介からだね」
そして、声の主は姿を見せた。
修道士の様な装束を着ており、さらりとした白銀の長髪をたなびかせ、その眼は翡翠の色をしていた。
一見、美少年といえる顔立ちをしているが、隼人はその服の一部分が盛り上がっているのを見逃さなかった。何処とは言わないが。
「貴方は、女か?」
「お、正解。皆からは男だと間違えられるのが多いのだけど、君はどうして分かったのかな?」
貴方の胸辺りを見て分かりました。
なんて答えたら殺されそうな気がするので、ここは黙秘権を行使した隼人であった。
「……答えちゃくれないか。まぁいいだろう、さて、自己紹介の続きだ。君はそのまま寝転んだ状態でいいよ」
「……感謝する」
「ウンウン、では、私の名前は
「………俺の名前は葛城 隼人」
「隼人君だね。葛城って事はこの寺の?」
ぐいぐい来るな、この女。と思いながら失礼だとその言葉は口に出さない隼人。
何となくだが、この真壁 咲々舜は味方だと、彼は思った。
「ああ、代々伝えられてきた寺だ」
「そうか、君のご家族は?」
「村の皆と一緒に、化け物に襲われ死んでしまったよ」
「それは……悪い事を聞いたね」
「別に……なぁ、呪霊ってなんなんだ?」
『呪霊』という今まで聞いた事もないその単語に、隼人は反応した。
呪霊はあの化け物なのか?
村を襲い、両親に友人を殺したあの憎き化け物も呪霊なのか?
隼人は知りたかった。己の復讐の為に。
「……そうだね、葛城としても、被害者としても、君は知っておくべきだ」
そう言って彼女は近くの大きな石に腰を降ろし、溜め息をついた。
「まず、呪霊というのは、妖怪と同じ様なもの。人の恐怖や恥辱、更に怨念といった負の感情が集まり、その集合体に形が与えられたモノが呪霊というものだ」
「その呪霊を祓い清める者として、呪術師が生まれた。まぁいうなれば退魔師の様なものさ。因みに、私もその呪術師の一人だよ」
「退魔師と呪術師の違いは、退魔師が寺出身の奴が多かったりと色々あるが、一番の違いはその戦闘方法だろう。
退魔師は法力といった特別な力があり、それを流した錫杖だけで戦うのに対して、呪術師は己の感情を呪力という力に変え、様々な武器に流す」
「そんな退魔師と呪術師は協力するときもあるが、基本的にはお互い対立している。何故って?そりゃあ依頼は貴族からが多いからね、利益を独占したいのだろう。今の時代では、大半の呪術師や退魔師は貴族に仕えている。私のようなあちこち放浪している方が珍しくなっているのさ」
その話を聞いた隼人はゆっくりと起き上がる。
まだ身体中ズキズキと痛むが、先程より結構回復していた。
「……なぁ」
「どうしたの?」
立ち上がった隼人は彼女に質問を問い掛ける。
「あんたはどうやってこの寺に来たんだ?」
この寺は山奥にあり、そこまで人里に知られていない。
しかも、この寺へ来るには特別な道を通らなければ、絶対にこの寺にはたどり着かない。
あの化け物は血の匂いを嗅ぎ付けて来たのは何となくだが理解していた。
しかし、この女は人間だ。
犬並みの嗅覚がなければ来ることは出来ないのだ。
「ああ、確かにあの道を通らなければここには来れなかったね」
「ッ!!」
この女はあの道を知っている!!
隼人は警戒を更に強めた。
それを見た彼女は慌てて弁解する。
「ちょっと!?そんなに警戒しないで!ちゃんと理由はあるから!」
「……理由?」
「はぁ、君は知らないかも知れないけど、この寺は呪術師には有名な場所でね、偶々通りかかったからここ来たわけ!分かった!」
「…………」
「そんなに睨まなくても、お姉さん悲しいなー」
よよよ、と嘘泣きする彼女を見て、隼人は訂正、この女を味方だと思えない。まだ信じないようにしようと、心の中で決めた。
「はい!君の質問に答えたんだから、次は私の質問も答えてね」
「………質問の内容によるけど」
「まぁ別にいいよ。……この寺には『役小角』の心臓があった筈なんだけど、何故か呪力が感じ取れないんだ。君、何か知らない?」
その質問を聞いて、隼人は冷や汗が止まらなくなる。
自分が呑み込んでしまいましたと言うべきか、それともでっち上げの嘘で何とか誤魔化すか。
隼人は今、二つの選択を迫られていた。
書いちゃった。己の文才がなくてとても恥ずかしいです。
これからも頑張ります。