永全不動八門一派・御神真刀流、小太刀二刀術は主に政治家や重要人物の影からの護衛や不穏組織の殲滅などという、比較的日の当たる場所で働く事が多く、権力に関わって力を振るう。
その為対暗部用暗部である更識家とは古くからの交流がある。
僕-月村 刀也-は未だ初伝ながらも流派を収め、日々精進している。
そして今日は久し振りに訪れた更識家の庭を散策している。
「だ~れ~だ♪」
見知った気配を僅かに感じた瞬間突然目隠しをされた。
未だに乙女には程遠いが女の子独特の柔らかな感触が背中に感じられた。
「刀奈さん、もう稽古は終わったんですか?」
「うん、だから一緒に遊ぼうよ」
ため息混じりに訊ねると手が離されて、代わりの後ろから覗き込むように幼馴染のお姉さんが耳元で囁くように呟いた。
「簪ちゃんもそんな所に隠れてないで出ておいで。一緒に遊ぼう」
背中に刀奈さんを貼り付けたまま振り返り声を掛ける。
「……良いの?」
「当たり前でしょ」
怖ず怖ずと灯篭の影から出てきて僕の服の裾を摘みながら上目遣いに見つめてくる同じ年齢の幼馴染の頭を撫でながら微笑みかけた。
「……うん、ありがとう」
簪ちゃんは俯きながら頬を染めている。
「そういえば今日は雫さんや紫乃ちゃんは来てないの?」
「残念ながら……雫姉はデートで、紫乃姉は僕に負けて悔しかったみたいで家の道場で父さんと居残り稽古してますよ」
「ふ~ん、そうなんだ……って、雫さんがデートぉ~!!? 相手は誰なの!!?」
「ちょ!!? 刀奈さん!! 首、絞まってるって!!」
「おっ、お姉ちゃん落ち着いて」
驚きの余り僕の首を絞めてくる刀奈さんの腕を掴みながら、簪ちゃんは涙目で止め様と四苦八苦している。
「あははは……ごめん、ごめん。お姉さん、ちょっと取り乱しちゃった。てへっ♪」
「……しばきますよ、この女狐」
悪びれた様子もなく舌を出しながらぶりっ子している刀奈さんを冷ややかに見つめながら悪態を吐いた。
「こら!! レディーに向かってそんな態度はないじゃないの!」
「はぁ~……今のはお嬢様に非がありますよ」
刀奈さんが私怒ってますって態度を取っているとため息混じりに窘める声がした。
「あら、虚ちゃん。友情よりも愛情を取るのかしら?」
「お嬢様こそ……あまり悪ふざけが過ぎると嫌われてしまいますよ」
「うぐっ……しっ、仕方ないわね。今回は負けを認めるわ」
虚さんの眼が笑っていない笑顔を向けられた刀奈さんは引きつった笑みを浮かべた。
「大丈夫~つっきー?」
「ああ……本音ちゃん平気だよ」
相変わらずのほほんとした彼女に微笑み返しながら頭を撫でた。
「何して遊ぼうか~」
「……刀也くんは何が良い?」
「そうだな……」
「ああ~ん。お姉ちゃんも混ぜてよ」
「はしたないですよ、お嬢様」
賑やかなそれでいて楽しい一時。
穏やかな日々は今日も続いていた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
稽古を終えてシャワー浴び、牛乳片手になんとなくテレビを眺めていた。
「ここで番組の途中ですが臨時ニュースをお送りします」
キャスターの人もただならない雰囲気だけど、また政治家の汚職でもあって誅殺されたのかな。
「たっ、ただ今入った情報によりますと、各国の軍事基地に配備されていたミサイル約2341発以上が、日本に向けて発射された模様です!! 現在事実確認と並行して在日米軍と自衛隊が緊急配置を……」
これはただ事じゃないな。
僕は食い入るようにテレビを見詰めている。
テレビは飛来する無数のミサイルの映像を映し出している。
自衛隊と在日米軍は必死の迎撃行動を取っているが正に焼け石に水といった具合にその猛威を減らしきれていない。
ああ、自分の無力さが嫌になる。
幾ら稽古を積み、力を手にしても目の前の事しか対処できない。
遥か上空で襲い来る悲劇には太刀打ちできない。
僕が現実に打ち拉がれているとテレビの画面が煌いた。
何事かと眼を向けると信じられない光景が映し出されていた。
一対の翼と一振りの剣を持った女性と思える者が空に浮かんでいた。
後に、白騎士事件と名づけられるこの事件は僕の心に深く刻み込まれた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「護衛任務ですか?」
白騎士事件から数日経ったある日、僕は更識家の応接間に呼び出されていた。
「うむ、かの白騎士事件を解決したモノを開発した人物を知っているかい?」
「はい、ニュースでは未だ正式に発表されていませんが存じ上げています。篠ノ之 束……通称IS、インフィニット・ストラトスの開発者ですね」
「そうだ、彼女の親類には既に護衛が付けられているが、彼女が好意を寄せている姉弟……特に男の子の身の回りの護衛を君に頼みたい」
僕は渡された資料をゆっくりと熟読している。
ふむ、年齢は同じか。
両親は不在で姉と生活を共にしている。
彼の篠ノ之博士の数少ない好意を得ている少年か。
「承りました。この身尽きるまで任務を全う致します」
「ありがとう。転校の手続きやその他の雑務は更識家が責任を持って当たろう。よろしく頼む」
僕は深々とお辞儀をして応接間を退室した。
「……刀也くん、こんにちわ」
「やっほっ~つっきー」
廊下を歩いていると向こう側から幼馴染達が駆け寄ってきた。
「こんにちわ……簪ちゃん、本音ちゃん」
僕はきちんと笑みを浮かべて挨拶出来ただろうか?
転校すると言う事はこの二人と離れ離れになるという事だ。
今生の別れではないが寂しく思う。
「どうしたの~? つっきーなんか元気ないね~?」
「本当……具合でもわるいの?」
僕の大切な幼馴染達には隠し事は出来ないな。
こうなったら自分の口から直接お別れをきちんと言うしかないな。
「あのね……簪ちゃん、本音ちゃん。僕、転校する事になったんだ」
「えっ!!?」
「なんですとっ~!!?」
二人は僕の言葉に眼を丸くしながら驚いている。
「ごめんね。護衛の仕事で対象の小学校に通わなくちゃいけないんだよ、本当にごめんね」
僕が頭を下げると二人とも泣きそうな顔で抱きついてきた。
「ぐすっ……刀也くん。離れたくない」
「え~ん……つっきー嘘だよね~?」
「大丈夫。例え離れていても僕は君達の事を想っているよ」
僕は二人をあやしながら耳元囁くように語り掛けた。
その日は二人ともなかなか泣き止まない上に僕から離れたがらないため、結局更識家に泊まって一緒に寝る事となった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
そんなこんなで転校当日。
僕は時期はずれの転校生として織斑 一夏の元へとやってきた。
「はい、皆さん注目!! 今日は新しいお友達を紹介します。仲良くしてあげてね」
「こんにちわ、皆さん。僕は月村 刀也といいます」
僕が挨拶すると何故か女の子達が感嘆のため息を吐いた。
男の子達は値踏みする様な眼で僕を見つめている。
「それじゃ~席は……織斑君の隣りが空いているわね。そこにしましょう」
なんて偶然。
早速チャンスを生かして対象との仲を縮めよう。
「よろしく、織斑くん」
「おう、よろしく。一夏って呼んでくれよ。俺も刀也って呼ばせてもらうからさ」
「うん、一夏」
僕達は笑顔で握手をした。
「一夏、悪いけど教科書見せてもらっても良いかな?」
「良いぜ。なら机をくっつけるか」
一夏は楽しそうに机を動かして僕の直ぐ隣に座った。
「織斑×月村……うん、ありね」
先生がぼそりと言った台詞は精神衛生上聞き流したほうが身のためだな。
放課後、僕は一夏と共に帰宅している。
「ところで刀也はどこに住んでいるんだ?」
一夏が後ろ向きに歩きながら訪ねてきた。
「あれ? 知らないの、一夏。僕、今日から君の家に居候するんだよ」
「へぇ~……って、なにぃ~!!?」
一夏は心底驚いた様に仰け反っている。
「千冬さんには話が通っているんだけど……今夜はすき焼きが食べたいって聞いてるよ」
「まじかよ……それじゃまあ、買い物付き合ってくれよな」
一夏は気を取り直して夕暮れの道を駆け出していった。
僕は周囲に気を配りつつ、一夏の後を追いかけていった。
「ただいま~っと」
「お邪魔します……」
「違うだろ、刀也。ここは今日からお前の家でもあるんだからただいまだ」
一夏は僕の鼻先を指差しながら微笑んでいる。
「うん、ただいま」
「お帰り……一夏。それと君が刀也くんか」
僕が言い直すと奥から一人の女性が出てきた。
資料で見るより美人だな。
「始めまして、千冬さん。今日からよろしくお願いします」
僕はゆっくりと頭を下げた。
「早速で悪いが君の実力を試させてもらおう……一夏、夕飯の支度は任せたぞ」
千冬さんは木刀を持って庭へと出て行く。
僕は黙ってランドセルから装備を取り出して着いていく。
「篠ノ之流剣術免許皆伝。織斑 千冬」
「永全不動八門一派・御神真刀流、小太刀二刀術初伝。月村 刀也」
僕達は互いに間合いを計りながら距離を詰めていく。
「「いざ、尋常に勝負!!」」
二人の距離が一瞬で縮まり剣風が庭木を揺らしている。
「ほう……なかなかの腕前だな。君は本当に小学四年生か?」
「お褒めに預かり至極恐悦。僕は一夏と同年代ですよ」
言葉を交わしながらも剣戟は止む事無く鳴り響いている。
「ふむ……実力は申し分ないな。一夏の事よろしく頼む」
「はっ、はい……お任せください」
四半刻打ち合い僕はさすがに大量の汗を流しながら倒れ込んだ。
千冬さんは汗を流しながらも平然と佇んでいる。
「お~い、ご飯が出来たぞ……って、大丈夫か刀也?」
「なっ、なんとか……良い匂いがしてるね」
僕は上体を起こしてタオルとスポーツドリンクを受け取る。
微温めのスポーツドリンクが身体に染み渡った。
「さあ、歓迎会を始めよう」
千冬さんは微笑みながら僕の手を引っ張り立たせてくれた。
こうして僕の護衛初日は完膚なきまでに叩きのめされたが辛くも平穏無事にスタートした。