IS~朱月の守護者~   作:Mr.凸凹

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第10話

 

 

 

 

 

 暦は進み五月になった。

 一月経って落ち着いてきたのか僕と一夏は女生徒達に質問攻撃や視線包囲網に晒される事が少なくなっていきた。

 だが完全になくなった訳でもなく僕と一夏の特訓にはアリーナーの観客席は満員御礼だった。

 来週からクラス対抗戦が始まるのでアリーナーは試合用の設定に調整されるため実質特訓は今日が最後だ。

 

 僕の朱月と一夏の白式が剣を交えている。

 気を抜くと零落白夜で一気に落とされる。

 神速を使えばまだ僕に軍配が上がるが、特訓の際は使用回数に制限を持たせているため使い所を見極めなければならない。

 

「また腕を上げたね、一夏!」

「そう言う刀也こそ!」

 

 僕達は笑みを浮かべながらお互いを称えあっている。

 だがお互いに隙は見せていない。

 

 

 

 

 

 結局アリーナー使用制限の時間まで決着はつかなかった。

 

「なんと言いましょうか……お二人共、わたくしと決闘した時より更にお強くなっていらっしゃいますわね」

「うむ。同じく剣に生きる者として遅れを取らない様にしないといけないな」

 

 恋の宿敵(ライバル)である筈のセシリアさんと箒さんは、僕と一夏の戦いを見て同じ様な感想を述べている。

 

「刀也、一夏。はい、スポーツドリンクよ」

「刀也くん、一夏くん……タオルどうぞ」

「ありがとう。鈴ちゃん、簪ちゃん」

「おう、サンキュー」

 

 僕と一夏はISを解除して一息吐いた。

 温めのスポーツドリンクが身体に染み渡る。

 

「それじゃあ、僕は生徒会に行ってくるから……一夏、先にシャワー使わしてもらうよ」

「おう……お疲れさん」

 

 僕はISスーツのまま部屋へと戻っていった。

 途中すれ違う女生徒達がちらちらと僕の姿を盗み見る事には慣れてしまった。

 

 

 

 

 

「遅くなりました」

「いらっしゃい、刀也♪」

 

 生徒会室に入ると紫乃姉が僕の腕を取り抱きついてきた。

 鈴ちゃんと簪ちゃんの宣戦布告以来スキンシップがますます激しくなってきた。

 

「副会長、まだ書類が片付いていませんよ」

 

 虚さんがため息を吐きながら、紫乃姉を窘めている。

 

「いいじゃない、刀也も来た事だし休憩してお茶にしましょう」

「あら、いいわね。そうしましょう、虚ちゃん」

「うん、休憩しよよぉ~今日のお菓子は何かな~?」

 

 紫乃姉の言葉に楯無さんと本音ちゃんが賛同した。

 

「仕方ありませんね。分かりました、紅茶を用意します」

「あっ、虚さん。お茶請けに僕が作ったプリンが冷蔵庫に入っています」

「わ~い♪ プリン、プリン~♪」

 

 本音ちゃんはプリンがあると聞いて全身で喜びを表していた。

 

 

 

 

 

「相変わらず虚ちゃんが入れる紅茶は世界一ね」

 

 楯無さんが小指を立てながらゆっくりと紅茶を楽しんでいる。

 

「ありがとうございます、お嬢様。お代わり如何ですか?」

 

 虚さんははにかみながら給仕を行っている。

 

「うん、頂こうかしら……でも、お嬢様はやめてね」

 

 楯無さんは苦笑しながらカップを差し出していた。

 

「うまうま~つっきーはプリンも上手だね~」

 

 本音ちゃんはスプーンを咥えつつ、頬を押さえながらプリンを味わっている。

 

「ねえ、刀也。お姉ちゃんに食べさせて♪」

 

 紫乃姉は僕の腕に抱きついたまま催促してくる。

 だったら腕を放せばとは言い難いほどの笑顔である。

 僕はため息混じりにスプーンを手に取り、プリンを掬い上げて紫乃姉の口元に持って行く。

 

「はい、あ~ん……」

「あ~ん♪ うん、刀也に食べさせてもらうと余計に美味しく感じるわね」

 

 紫乃姉はにこにこと微笑みながら幸せそうに蕩けていた。

 

 

 

 

 

 お茶の時間も終わり、僕達生徒会役員は書類と格闘している。

 来週始まるクラス対抗戦用の書類が殆どである。

 

「会長、出来上がりました。確認と印鑑をお願いします」

「はい、どれどれ……うん、OKよ」

 

 そんなこんなで書類と格闘する事約二時間掛ってやっと終わりが見えてきたのであった。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 クラス対抗戦当日。第二アリーナーの第一試合。

 一組代表の一夏と二組代表の鈴ちゃんの試合である。

 

 僕はピットから二人の試合を見学する事にしている。

 二人ともお互いに怪我をする事はないと思うのだが、朝から嫌な予感が頭から離れないでいる。

 用心に越したことは無いよね。

 

 

 

 

 

 ~織斑 一夏side~

 

 

 

 

 

 俺の視界の先には鈴とそのIS甲龍(シェンロン)が静かに試合開始の時を待っている。

 結局特訓の際、一度も対戦していないので戦力は未知数である。

 分かっているのは俺の白式や刀也の朱月と同様に接近戦主体の機体であるという事だけである。

 だが両肩の非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)が何らかの重火器武装である可能性がある。

 

『それでは両選手、規定の位置まで移動してください』

 

 アナウンスに促されて、俺の白式と鈴の甲龍が空中で向かい合う。

 

「一夏、やるからには手加減無用よ」

「ああ、手は抜かないぜ」

 

 そう、戦うなら常に全力で当たるのが礼儀である。

 それに鈴は昔から体術だけなら刀也に引けを取らない功夫(クンフー)の使い手である。

 手を抜けばあっという間に敗北を喫する事になるだろう。

 それに俺は真剣勝負で手を抜くのも抜かれるのも嫌いだ。

 勝負とはそういうものだ。

 全力でやってこそ、初めてそこの意味が生まれると思う。

 我ながら戦闘狂(バトルジャンキー)な考え方だが悪くない。

 

『それでは両選手、試合を開始して下さい』

 

 ブザーが鳴り響き、それが切れると瞬間に俺と鈴は同時に動いた。

 瞬時に展開した雪片弐型が鈴の双天牙月に弾き返される。

 

「やっぱり初撃は防がれたか。それでこそやりがいがある」

 

 俺は笑みを浮かべながら次々と斬撃を放っていく。

 

「ちょっ!!? 捌き切れない。仕方ない……」

 

 甲龍の肩のアーマーがスライドして開き、中心の球体が光った瞬間、俺は眼に見えない衝撃に()()飛ばされた。

 

「くそ!! それはまさか衝撃砲か?」

 

 俺は無理やり距離を取らされた事に悪態を吐きつつ、鈴の甲龍をしっかりと見据えている。

 

「ご名答。さあ、今度はこっちの番よ」

 

 鈴は口角を上げて見下ろす様に宣言してきた。

 

 見えない衝撃が白式に向かって打ち出されるが、俺は焦る事無く鈴の眼を見据えて避けた。

 避けた砲弾がアリーナーのシールドを叩いた。

 

「はぁっ!!? 何で砲身も砲弾も見えないのに避けられるのよ!!?」

 

 鈴は驚愕の表情をしながら俺を指差している。

 

「まあ、目線を辿ればどこをロックしているか分かるからな」

「ちょっと、やめてよね。アンタどこまで出鱈目よ!!」

 

 鈴は空中で地団太を踏んでいる。

 

「刀也と打ち合っているからこそ観察眼は研ぎ澄まされているんだ……ところで隙だらけだぞ!!」

 

 俺は瞬時加速(イグニッション・ブースト)で一気に鈴の甲龍に肉薄した。

 

「しっ、しまった!!」

 

 鈴は慌てて体制を立て直そうとする。

 

《ズドオオオオオン!!!》

 

 鈴の甲龍に刃が届きそうになった瞬間、突然大きな衝撃がアリーナー全体に走った。

 しかもステージ中央付近からもくもくと土煙が上がっている。

 どうやら先ほどの轟音は何かがアリーナーの遮断シールドを貫通して入ってきた衝撃波らしい。

 

 くそ!! 何だってんだ!!

 

 状況が分からず混乱する俺に、刀也から個人間秘匿通信(プライベート・チャネル)が飛んできた。

 

『油断しないで、一夏!! 敵は君を狙っている!!』

 

-ステージ中央に熱源。所属不明のISと断定。ロックされています-

 

 刀也の言葉と白式が警告を発しているのを聞いて気を引き締めた。

 

 

 

 

 

 ~side out~

 

 

 

 

 

 僕は朱月を纏って神速を使ってアリーナーへと降りて行く。

 間一髪、一夏と鈴を引っ張ってさらう。

 その直後にさっきまでいた空間が熱線で砲撃された。

 

「ビーム兵器……それもブルー・ティアーズより出力が上だね」

 

 神速を解いてハイパーセンサーの簡易解析でその熱量を知った僕は背中に冷たいものが流れていく思いだった。

 間に合ってよかった。

 幾らISのシールドバリアーでもあの熱量はやばいよ。

 

「助かったぜ、刀也」

「ありがとう、刀也」

「どういたしまして……散開!!」

 

 煙を晴らす様にビームが連射される。

 それをどうにか避けていくと、その射手たるISがふわりと浮かび上がってきた。

 

「何だよ、こいつ……」

 

 一夏が驚愕の声を上げている。

 

 姿からして異形だった。深い灰色をしたそのISは異様に手が長く、つま先よりも下まで伸びている。

 しかも、首というものがない。肩と頭が一体化している様な形だ。

 何より特異なのが、その全身装甲(フル・スキン)だ。

 

 おかしい……あのISからは搭乗者の鼓動や息遣いが聞こえてこない。

 聞こえてくるのはISの駆動音のみだ。

 

「お前、何者だよ」

「…………」

 

 当然の様に謎の乱入者は一夏の問い掛けには答えない。

 

『織斑くん! 凰さん! それと何で居るんですか、月村くん! 今すぐアリーナーから脱出してください! 直ぐに先生達がISで制圧に行きます!』

 

 山田先生が開放回線(オープンチャネル)で割り込んできた。

 普段のぽわんとした様子は鳴りを潜めて、心なしか何時もより威厳がある。

 

「……いや、先生達が来るまで俺達が食い止めます」

 

 一夏の言うとおりだ。

 あのISは遮断シールドを貫通してきた。

 つまり、今ここで僕達が相手をしなくては観客席にいる人達に被害が及ぶ可能性があるということだ。

 そんな事、一夏が見過ごせる筈ないもんね。

 

「いいよな……刀也、鈴」

「誰に言っているのよ。任せなさい」

 

 鈴ちゃんは胸を叩いて頷いている。

 

「一夏……」

「何だよ、刀也?」

 

 僕の問い掛けに一夏は首をかしげて訊ねてきた。

 

「一つ確認していいかな? 時間を稼ぐのはいいが、別にアレを倒してしまっても構わんないだろう?」

「ああ、遠慮なくやっちゃえ!!」

 

 僕が忍び笑いを堪えながら訊ねると、一夏は親指を立てながら頷いた。

 

『織斑くん!? だっ、駄目ですよ! 生徒さんにもしもの事があったら……』

 

 その台詞は途中までしか聞けなかった。

 敵ISが身体を傾けて突進してきた。

 それを危なげなく避けた。

 

「ふん、向こうもやる気満々みたいね」

「みたいだな」

「さてと、いっちょかましますか!」

 

 僕達はお互いの武器の切っ先を当てた。

 それを合図に僕と一夏と鈴ちゃんは即席のコンビネーションで飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

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