「シャルロット・デュノアです。フランスから来ました。代表候補生になったのは最近ですが、ISの稼働時間長いです。よろしくお願いします」
シャルロットさんはきちんと女子制服を着て性別を偽る事無く挨拶している。
デュノア社に名前と性別の訂正を求めると拍子抜けするほどあさっりと認められた。
やっぱり僕の推測は間違っていなかった証拠だ。
シャルロットさんのお父さんは不器用だけど本当にシャルロットさんを愛しているんだな。
問題はフランス政府がどう出るか不安だったが今のところ大きな動きはない。
「ラウラ・ボーデヴィッヒだ。ドイツの代表候補生をしている。因みにこのクラスに居る月村 刀也は私の嫁だ!」
「「「よっ、嫁!!?」」」
ラウラちゃんの嫁宣言でクラス中が騒めいた。
僕にクラスメート達の視線が集中する。
何を自己紹介で余計な事まで言ってるの、ラウラちゃん!
好意を寄せてくれているのは嬉しいけれど、さらっと爆弾発言咬まして僕の胃を痛ませないで!
僕は助けを求めて千冬さんに視線を向けた。
「あー……ゴホンゴホン!ではホームルームを終了する。各人は直ぐに着替えて第二グランドに集合しろ。今日は二組と合同でIS模擬戦闘を行う。解散!」
あれぇ~? あの千冬さん? 放置ですか? 放置プレイですか?
そんな高度なプレイされても僕は着いていけません。
するなら一夏とお願いします。
僕は急いで教室を後にした。
決して居づらかったわけじゃないよ。早くしないと女子と一緒に着替える羽目になるからだよ。本当だよ!
「待てよ、刀也! 俺を置いていくな」
思わず一夏を置き去りにした僕は何も悪くないよね。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
第二グランドに到着したけど、僕の心は休まる暇がない。
「ねえ、アンタ。転入早々面白い冗談咬ましたみたいね。誰がアンタの嫁ですってっ!」
鈴ちゃんが般若を背負ってラウラちゃんに詰め寄っている。
「ふむ……何度でも言おう! 刀也は私の嫁だ! 既にキスも済ましているぞ!」
ラウラちゃんは自慢げに更なる爆弾発言を咬ましてくれた。
「なっ!!? キスぐらいあたしも済ませてるわよ!」
鈴ちゃんは火に油どころか更に火薬を混ぜる勢いで反撃に出ている。
「ねえ、月村くんって……」
「意外と遊び人?」
周囲の好奇の視線が痛い。
もう恥ずかしさで死ねる勢いだよ。
「喧しいぞ、お前達!」
《バシーン!》
「へぅ!!?」
「むぎゅ!!?」
僕を巡って言い争っていた鈴ちゃんとラウラちゃんは千冬さんの振り下ろした
「では、本日から格闘及び射撃を含む実戦訓練を開始する」
「「「はい!」」」
単純に二クラスの合同授業なので何時もより人数が二倍で出てくる返事も妙に気合が入っている気がする。
「くうっ……教官の愛が痛い……」
「刀也のせい刀也のせい刀也のせい……」
叩かれた頭が痛むのかラウラちゃんと鈴ちゃんはちょっと涙目になりながら頭を押さえている。
うん、鈴ちゃん。未だにはっきり答えを出していない僕も悪いけど、僕のせいにされても困るんだけどね。
「何笑ってるのよ!」
僕が苦笑していると鈴ちゃんが蹴ってきた。
照れ隠しにしてもISスーツで足を上げると眼のやり場に困るんだけどな。
「今日は戦闘を実演してもらおう。丁度活力が溢れんばかりの十代女子もいる事だしな。……凰! ボーデヴィッヒ!」
「「はっ、はい!」」
二人は千冬さんの呼び掛けに背筋を伸ばして答えた。
「二人とも専用機持ちだから直ぐに始められるな。前に出ろ」
「了解しました」
「刀也のせいなのになんであたしが……」
鈴ちゃんは恨めしそうに僕を見詰めてくる。
「お前ら……特に凰はやる気を出せ。刀也にいいところを見せたくはないのか?」
あの~千冬さん? 小声で話していても僕の耳にはばっちり聞こえているんですけど……僕を出汁に二人を煽らないで下さい。
「ドイツ軍の精鋭シュヴァルツェ・ハーゼの隊長、ラウラ・ボーデヴィッヒの実力を見せてやる!」
「まあ、専用機持ちの実力の違いを見せるのにいい機会よね!」
恋する乙女を煽るには十分すぎる発破だった様で、二人ともやる気ゲージが満タンになった様だ。
「それで、相手はどこに? こいつでもいいですが……」
「あたしの名は凰 鈴音よ! 上等よ。返り討ちにしてあげる」
「慌てるな馬鹿共。対戦相手は……」
《キィィィン……》
千冬さんの台詞を遮る様に空気を裂く音が聞こえてきた。
「ああああーっ! どっ、どいて下さい~っ!」
一夏に向かって山田先生が突っ込んできている。
僕は慌てて朱月・朧を展開して神速を発動して一夏を突き飛ばした。
僕は体制を崩していて避けきれずに山田先生に突進されて地面を数メートル吹き飛ばされて転がった。
むにゅ。あれ? 眼の前が暗い? その上息苦しい。
なんだろう? この柔らかな枕みたいな感触は。地面ってこんなに柔らかかったかな。
僕は枕(?)に手を当てて感触を確かめている。
「あっ、あのう、月村くん……ひゃんっ!」
僕は慌てて顔を上げて確かめた。
そして自分の手先に眼をやった。
「そっ。その、ですね。困ります……こんな場所で……いえ! 場所だけでじゃなくてですね! 私と月村くんは仮にも教師と生徒でですね……」
山田先生は自分の頬を両手で押さえつつ、顔を真っ赤に染めて頭を振り回していた。
それにしても体勢が不味い。どう見ても僕が山田先生を押し倒しているとしか見えない。
しかも僕の手はマシュマロお化けな山田先生の乳房をしっかりと鷲掴みしている。
「……ハッ!?」
殺気を感じて頭を横に傾けた。
刹那、一秒前に頭があったところをレールカノンが通り過ぎた。
「チィッ! 外したか……」
ラウラちゃんが舌打ちしながら僕を見下ろしている。
その表情は笑顔だが眼が全く笑っていなかった。
「アハハ……」
幾らISのシールドバリアーがあっても痛いだけじゃすまなかったよ。
僕は冷や汗を流しながら乾いた笑みを浮かべていた。
《ガシーン》
何かが組み合わさった音が聞こえた。
あれ? この音って鈴ちゃんの甲龍の武器の双天牙月を連結させた音だったよね。
アレって確か組み合わせて両刃状態にすると投擲も可能になるんだったよね。
「死ねぇ~!! この浮気者ぉ~!!」
鈴ちゃんは全身を震わせながら怖い笑顔で躊躇い無く双天牙月を投げつけてきた。
「ちょっ!!? あっ、危な……」
間一髪仰け反ってかわしたけど、僕はそのまま勢い余って仰向けに倒れてしまった。
そして絶望的な光景が眼に映った。
投げた双天牙月が丸でブーメランの様に戻ってきていた。
まずい。かわせない。
「はっ!」
《ドンッドンッ!》
短く二発、銃声が響き渡った。
弾丸は的確に双天牙月の両端を叩いて、その軌道を変えた。
振り向くと山田先生が両手でマウントしているのが眼に入った。
僕のピンチを救ってくれたのは五一口径アサルトライフルのレッドパレットだった。
しかも驚いたのは何より山田先生の姿だった。
倒れたままの体勢から上体だけを僅かに起こして射撃を行ってあの命中精度なのだ。
いつもの子犬の様な姿からは想像できない。
「「「…………」」」
どうも驚いたのは僕だけ無く、鈴ちゃんやラウラちゃんはもちろん、他の女の子達や一夏までも唖然としたまま固まっていた。
「山田先生はああ見えて元代表候補生だからな。今くらいの射撃は造作もない」
「むっ、昔の事ですよ。それに代表候補生止まりでしたし……」
山田先生は照れながら眼鏡を両手で直している。
その表情は千冬さんに褒めらて照れているのか頬が赤かった。
資料で読んで知っていたけど、実際に眼で見るまで信じられなかったな。
「さて小娘共何時まで惚けている。さっさとはじめるぞ」
「おっ、お言葉ですが、二対一では……」
「いや、さすがにそれは……」
「安心しろ。今のお前達なら直ぐに負ける」
負けると言われたのが気に触ったのか、鈴ちゃんとラウラちゃんの瞳に闘志を滾らせている。
「フフフ……巨乳抹殺する」
「ウフフ……あの胸切り落としてあげる」
いや、それだけじゃなくて、二人とも山田先生の胸を凝視して怨嗟の声を上げている。
「では、はじめ!」
号令と共に鈴ちゃんの甲龍とラウラちゃんのシュヴァルツェア・レーゲンが飛び上がった。
それを眼で一度確認してから、山田先生も空中へ踊りだした。
「手加減はせん!」
「さっきのは本気じゃなかったしね!」
「いっ、行きます!」
言葉こそいつもの山田先生だったが、その眼はさっきと同じく鋭く冷静なものへと変わっている。
先制したのは鈴ちゃんとラウラちゃんのペアだったが、それは簡単に回避された。
「さて、今の内に……そうだな。丁度いい。デュノア、山田先生が使っているISについて解説しろ」
「あっ、はい」
僕はシャルロットさんの解説を聞き流しながら空中の実戦訓練を凝視している。
山田先生はラウラちゃんのシュヴァルツェア・レーゲンのAICが展開されると銃撃をしながら避けている。
鈴ちゃんの甲龍の衝撃砲も丸で見えているかの様に避けている。
コンビネーションが全く噛み合っていない鈴ちゃんとラウラちゃんでは山田先生の相手は辛いかもしれない。
お互いに足を引っ張り合ってしまっている。
それに二人とも山田先生の胸に目線が集中していて正気の様子ではない。
これでは実力は発揮できていないだろう。
「ああ、一旦そこまででいい。……終わるぞ」
千冬さんの台詞通りに決着がつこうとしていた。
山田先生の射線が二人を誘導し、ぶつかったところにグレネードを投擲した。
爆発が起こって、煙の中からふたつの影が地面に落下した。
二人はお互いに罵り合っている。
正に竜虎相まみえるというか、仲が悪いだけだね。
僕としては二人とも仲良くして欲しいんだけどね。
二人のいがみ合いは一組二組の女の子のくすくす笑いが起こるまで続いた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「さて、これで諸君にもIS学園教員の実力は理解出来たろう。以後は敬意を持って接する様に」
千冬さんがぱんぱんと手を叩きながら皆の意識を切り替える。
「専用機持ちは織斑、月村、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、凰だな。ではグループになって実習を行う。格グループリーダーは専用機持ちがすること。いいな? では分かれろ」
千冬さんが言い終わるや否や、僕と一夏に一気に二クラス分の女の子が詰め寄ってくる。
「織斑くん、一緒に頑張ろう!」
「分からないところ教えて、織斑くん!」
「手取り足取り教えて、月村くん!」
「月村くんにはじっくりとお話聞かせてもらわないとね!」
なんというか、予想通りかつそれ以上の繁盛ぶりで、僕と一夏はどうしていいか苦笑いを浮かべながら立ち尽くしていた。
「この馬鹿者共が……出席番号順に一人ずつ格グループに入れ! 順番はさっき言った通りにしろ。次ももたつくようなら今日はISを背負わせてグランドを百周させるからな!」
千冬さんの鶴の一声でそれまで蟻の様に群がったいた女の子達は蜘蛛の子を散らすが如く移動して、それぞれの専用機持ちのグループは二分と掛らず出来上がった。