昼休み。僕達は屋上に居た。
「……どういうことだ」
箒さんが不機嫌そうに呟いている。
「天気がいいから屋上で食べるって話だったろ?」
「そうではなくてだな……!」
箒さんが僕達にちらっと視線を寄越した。
そこに居るのは僕とセシリアさんとシャルロットさんとラウラちゃん、それに鈴ちゃんと簪ちゃんといった一年生の専用機持ちが全員集まっていた。
うん、僕達はお邪魔虫だよね。
箒さんは一夏と二人きりがよかったんだよね。
「折角の昼飯だし、大勢で食った方がうまいだろ。それにシャルとラウラは転校してきたばっかりで右も左も分からないだろうし……」
「そっ、それはそうだが……」
箒さんは恨めしそうに僕達を見詰めながら持ち上げた拳を握り締めていた。
その手にはお弁当箱が握られていた。
まあ、そっちはそっちで頑張って箒さん。
僕はそれどころじゃないしね。
「…………」
簪ちゃんが無言で僕を下から覗き込んでいる。
しかも目尻に涙を溜めて見詰めてきている。
これってもしかしなくても、鈴ちゃんとラウラちゃんが僕にキスしたって話を聞いたからだよね。
「あっ、あの~簪ちゃん? その……」
「私、負けないから……はい、お弁当。食べて」
簪ちゃんは眼を擦って涙を拭いながらお弁当箱を差し出してきた。
「ありがとう、簪ちゃん」
僕は笑顔で受け取った。
お弁当を開くと卵焼きやから揚げ等が美味しそうに詰まっていた。
ご飯の上にはご丁寧に田麩でハートマークが作られていた。
「はい、刀也と一夏の分」
「ありがとう、鈴ちゃん」
「おう、サンキュー」
鈴ちゃんが僕と一夏にタッパーを手渡してきた。
中身は鈴ちゃんお手製の酢豚だった。
「嫁よ、私も作ってきたんだ。食べてくれ」
ラウラちゃんがバスケットを開いて中身を見せてくる。
中にはザワークラフトやフランクフルトを使ったホットドッグが入っていた。
「美味しそうだね、ラウラちゃん」
「ちゃんと味見しているから大丈夫だぞ」
ラウラちゃんは頬を染めながら顔を逸らしている。
「味見……」
セシリアさんがぼそりと呟いた。
一夏に渡そうとしていたサンドイッチを引っ込めてセシリアさんは自分で一口食べてみた。
食べた瞬間セシリアさんの顔色が変わった。
一夏や周りの皆はその味を察した様だ。
「すいません、皆さん。少しお暇させていただきますわ」
セシリアさんは早足で屋上から出て行ってしまった。
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放課後。僕はメールで呼び出されてセシリアさんの部屋にやってきた。
「すいません、刀也さん。呼び付けてしまって……その……」
セシリアさんは頭を下げたまま言い淀んでいる。
「セシリアさん。誰だって最初は失敗するよ。僕もそうだったんだよ」
僕はセシリアさんの頭を撫でながら語りかけた。
「……わたくしに料理を教えていただけませんか、刀也さん」
セシリアさんは振り絞る様な声でお願いしてきた。
「僕でいいなら喜んで……頑張って一夏に美味しいって言わせようね」
僕はセシリアさんの手を取って力強く握手をした。
「それじゃあ、明日の朝六時にキッチンに集合……エプロンとレシピ本を持ってきてね」
「はい。よろしくお願いいたしますわ」
やっとセシリアさんは笑顔を見せてくれた。
「さてとそれでは月村 刀也のお料理教室を始めたいと思います」
「よろしくお願いいたします。先生」
セシリアさんはパチパチと拍手をしている。
「まあ、そんなに難しく考えなくてもいいよ。レシピ通りに作れば大抵美味しく出来るからさ」
「あっ、あの~わたくしは本の通りに作って失敗したんですけど……」
セシリアさんは驚いた様子で口元を押さえている。
「えっ!!? ちっ、因みに何を参考にしたのかな?」
僕は恐る恐る尋ねた。
「……ですから本の色合い通りに色々とわたくしなりにアレンジいたしましたの」
「アホかっ!!」
《スパーン!》
「痛っ!!? なっ、何いたしますの?」
セシリアさんは涙眼でハリセンで突っ込んだ僕を見て抗議している。
「初心者がいきなりアレンジなんかするな! それに色合い通りって何さ!」
はあ~先が思いやられる。
先ずはその幻想打ち砕いてやる!
「あのね、セシリアさん。料理ってのは確かに見た目も大事だけど、なにより美味しくないといけないんだ。そのため先人の知恵であるレシピを先ずは忠実に再現する事から始めるんだよ。後はそう!! 愛情だね!!」
「わっ、分かりましたわ。ご指導、ご鞭撻のほどをよろしくお願いいたしますわ」
この日から暫くセシリアさんを生徒にしたお料理教室が幾度と無く開かれた。
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そしてやってきたセシリアさんのお弁当のリベンジの日。
幾度と無く試作を繰り返し、僕とセシリアさんは試食を重ねて満足のいく作品に仕上がった。
「一夏さん、おひとつどうぞ」
「えっと……じゃあ、もらうな」
一夏は恐る恐る口元にサンドイッチを運んでいった。
そして眼を瞑りながら一口噛り付いた。
「……美味い」
一夏は驚いた様子で一言呟いた。
「よかったですわ。よろしければ皆さんもどうぞ」
セシリアさんは花が咲いた様な笑顔で喜んでいる。
「よかったら皆のお弁当少しずつ交換しようよ。今日は僕も作ってきたんだ。どうぞ、一夏」
シャルロットさんはミートボールやミートスパゲッティー、それにオムレツ等の入ったお弁当を差し出した。
「おう、いただくぜ。うん、美味い」
一夏は串の刺さったミートボールを摘んで食べた。
「私は今日はおでんに挑戦してみた。食べてみてくれ、嫁よ。あ~ん♪」
ラウラちゃんのお弁当は串に刺してあるおでんであった。それを僕の口元に差し出してきた。
「いいわね。じゃあ、あたしの酢豚を食べさせてあげる。はい、刀也。あ~ん♪」
鈴ちゃんは笑顔で僕の口元に箸を差し出してきている。
「私も……はい、刀也くん。あ~ん♪」
簪ちゃんも卵焼きを僕の口元に差し出している。
「あっ、あの……ラウラちゃん? 鈴ちゃん? 簪ちゃん? さすがにそれは恥ずかしいんだけど……」
僕は冷や汗を流しながら遠慮しているが三人とも引く気が無い様だ。
僕はため息を吐いてから順番に口をつけた。
「うん、ラウラちゃんのおでんは味がしっかり染み込んでいて冷めていても十分美味しいね。鈴ちゃんの酢豚はまた腕をあげたね。簪ちゃんの卵焼きは出汁がしっかり効いていて美味しいね」
僕の感想に三人共嬉しそうに微笑んだ。
「ほら、一夏。このから揚げは自信作なんだ。食べてくれ」
箒さんは僕達に触発されたのか箸でから揚げを摘んで一夏の口元に持っていっている。
「ああ……うん、美味いな。これって結構仕込みに時間掛ってないか? えっと、混ぜてるのは生姜と醤油……んぐんぐ。なんだろうな絶対に食べた事のある味なんだけど……」
「おろしニンニクだ。それと予めコショウを少しだけ混ぜてある。隠し味には大根おろしが適量だな」
「へえ! それはいいな。今度俺もやってみよう」
一夏は感心した様に頷いている。
「一夏、このオムレツも自信作なんだ。食べてみて」
シャルロットさんは慣れない箸を使って一夏の口元に差し出した。
「おう、どれどれ……うん、美味い。これはミックスベジタブル入りなんだな」
一夏はシャルロットさんに微笑みかけている。
シャルロットさんはその笑顔に見惚れている。
「一夏さん! こちらもどうぞ! フルーツサンドですわ!」
セシリアさんも負けじと一夏の口元にサンドイッチを差し出している。
「へぇ~どれどれ……うん、美味い。程よく酸味と甘さがマッチしているな」
一夏はセシリアさんの手で差し出されたサンドイッチに齧り付いて笑顔を浮かべている。
その後も食べ差し合いっこは続いて楽しい昼食の一時を堪能した。
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「ふぇ~凄いね。一夏と刀也接近戦主体の専用機なのに強いんだ」
シャルロットさんは僕と一夏の戦い方を見て感心している。
「うむ、さすがは私の嫁とその親友だ」
ラウラちゃんは腕を組んでうんうんと頷いている。
「あの二人はただ強いって言うより寧ろ反則よね」
鈴ちゃんがジト目で僕達を批評している。
「両機共に
セシリアさんがため息混じりに僕達の専用機の補足説明を行っている。
「機体の性能だけでなく生身での剣術も強いぞ。それに心も強い。心技体が揃っている。正に現代の侍だな」
箒さんが僕達の剣技に見惚れながら僕達を褒め称えている。
「うん……二人とも正にヒーローみたいだよね」
簪ちゃんが僕達をきらきらした眼で丸で子供の様に見入っている。
僕はそんな皆の様子をハイパーセンサー駆使して一夏と模擬戦闘しながら観察している。
うん。
どうやら何時も神速で酷使している影響か脳内が活性化している様だ。
常人なら廃人まっしぐらな脳内ホルモン操作でも夜の一族の身体なら耐える事が出来る。
「何ぼうっとしてるんだよ!!」
一夏が僕の思考の隙をついて切り掛かってきて零落白夜を発動させる。
おっと、まだまだ使いこなすには練習が必要みたいでね。
直ぐ様
刹那の瞬間が体感的に延びて一夏の攻撃がスローモーションの様に見えて紙一重で避ける。
そして間合いを計り直してもっとも得意とする御神流・奥義の六、
白式の絶対防御が作動し、一気に残り少ないシールドエネルギーが空になった。
「だぁ!! 畜生!! また負けた!!……これで何敗目だよ!!」
一夏が空を仰ぎ見て力一杯吼えている。
「えっと確か僕の234勝13敗7引き分けだったんじゃないかな」
「ぐっ!! もうそんなに差がついちまったのか。神速なしなら負けないんだけどな」
僕が顎に人差指を当てながら戦績を思い出すと、一夏は悔しそうにため息を吐いた。
「一応神速の使用回数に制限をつけているけど、僕も一夏と戦い慣れしてるしね。ここぞという時意外神速を使わなくても凌げる様になってるからね。それに護衛対象より弱いと御役御免なっちゃうから日々精進してるのさ」
僕は苦笑しながらも真剣な眼で一夏を見詰めている。
「俺は守られるより肩を並べて戦いたいんだ!! もうあの時みたいに無様に攫われるだけは御免だ!!」
一夏は拳を握り締めて己の心の内を吐き出している。
「心配しないでも一夏もちゃんと強くなってるよ」
僕は一夏の拳を包みながら囁く様に言い聞かせた。
「そうなのか?」
一夏が少し涙目で僕を見上げてくる。
「うん。大丈夫……僕の背中を守れるのは一夏しかいないよ」
僕は最高の笑みを浮かべて一夏を励ました。
この姿が数多くの女生徒達に目撃されて不快で腐海な噂が何時も以上に広がったのは誤算だったけどね。
正に恐るべし女の子の妄想力と噂の伝達力だね。
アハハ……こればっかりは昔からどうしようもなく僕達に付き纏ってるんだよね。
何度も言うけど僕と一夏は親友で心友なだけだよ!!
二人とも真っ当に女の子が好きな健全な思春期の男の子だよ!!