時間は放課後。場所は第三アリーナー。
僕は今、ある意味ピンチに陥っています。
朱月・朧を展開しているけどこのピンチは物理的な効力を持っていないからシールドバリアーで防げないよね。
「あっ、あの……三人共? 少しは落ち着いて……ね?」
僕は宥める様に好意を寄せてくれている三人、ラウラちゃんと鈴ちゃんと簪ちゃんに話し掛けている。
「止めるな、嫁よ」
ラウラちゃんはシュヴァルツェア・レーゲンを展開させてニヤリと微笑んで他の二人を見下ろしながら答えた。
「そうよ。女には引けない時もあるの」
鈴ちゃんは甲龍を展開させて不敵な笑みで他の二人を見詰めながら答えた。
「もうこれ以上後手には回らない……今は攻める時なんだ」
簪ちゃんは打鉄弐式を展開させて瞳に強い意志を乗せて他の二人を見据えながら答えた。
何でこんな事になっているかというと、あの噂が原因である。
そう箒さんの告白が捻じ曲がって伝わった、今度の学年個人トーナメントで優勝したら僕か一夏とどちらかと交際できるって噂なのだ。
一応根も葉もない事を三人には理解してもらえる様に一から説明したし、僕もなるべく優勝して噂を根元から叩き折ると宣言した。
恋する乙女達は振って湧いたチャンスがデマだと分かり一旦は落胆していたのだが、いつの間にか話し合いが拗れるというか発展して、今度は何故か僕とのデート権を賭けた三竦みの模擬戦をする事になってしまった。
そりゃ憎からず思っている女の子とデートするのは吝かではない。
こっちからお願いしてもいいくらいだ。
でもやっぱり僕が友達以上恋人未満と思っている仲の良い彼女達にはなるべく僕の事で争って欲しくない。
しかし、だからと言って僕が今のところこの三人の中から恋人を選ぶ事は出来ない。
優柔不断と罵られても仕方ないが、三人共僕にとっては掛替えのない大切な友人でもある。
そこから一人を選んで他の二人と変わりなく友人として歩む勇気を持てないのである。
我ながら女々しいとは思うが割り切れない感情なんだよね。
そんな逃避にも似た感傷に浸っていると模擬戦が火蓋を切ろうとしていた。
「「「いざ参る!!」」」
三機のISが僕を置き去りにして上空へと駆け上がっていった。
僕はため息を吐いて胡坐をかいて空を仰ぎ見る事しか出来なかった。
先ずは先制とばかりにシュヴァルツェア・レーゲンのレールカノンが火を噴いた。
鈴ちゃんと簪ちゃんは危なげなく避けて行く。
そして申し合わせたかの様に甲龍の龍砲と打鉄弐式の春雷がラウラちゃん目掛けて放たれた。
どうやら鈴ちゃんと簪ちゃんは揃って最初にラウラちゃんを落とす算段の様だ。
だがラウラちゃんは滑る様に空中を
巧みにワイヤーブレードを操り簪ちゃんを牽制しつつレールカノンを打ち抜く。
「きゃあぁっ!!?」
簪ちゃんは避けきれずに吹き飛ぶ様に後退した。
そしてラウラちゃんは
鈴ちゃんは双天牙月で応戦する。
前進し続けるラウラちゃんに後退しながら間合いを取り鈴ちゃんはプラズマ手刀を捌いていく。
だがワイヤーブレードも三次元躍動で襲い掛かってきてくる。
いくら格闘戦に慣れているといえる鈴ちゃんもそれらを捌ききる事は困難だ。
「喰らえ!!」
焦った鈴ちゃんは大きく後退して龍砲を放った。
しかし、シュヴァルツェア・レーゲンのAICに見えない龍砲は停止させられてその効力を発揮出来ない。
「無駄だ! このシュヴァルツェア・レーゲンの停止結界の前ではな」
「チィッ!! こうも相性悪いなんてね」
鈴ちゃんは悪態を吐きつつ攻めあぐねている。
「こっちの注意が散漫だよ!」
ラウラちゃんがAICに集中しているその隙を狙って簪ちゃんは打鉄弐式の春雷をシュヴァルツェア・レーゲン目掛けて放とうとする。
「甘い!!」
ラウラちゃんは鈴ちゃんの足ををワイヤーブレードで掴んで振り子の様に簪ちゃんにぶつけた。
「くっ!!?」
簪ちゃんは避けきれずに空中で一瞬姿勢を崩した。
ラウラちゃんはその隙を逃さずに
「やばぁ!!?」
「何するのっ!!?」
鈴ちゃんは簪ちゃんをラウラちゃんに向けて蹴り出した。
何とか体制を立て直した簪ちゃんは夢現でラウラちゃんと切り結ぶ。
「やるではないか、簪!! だが防ぎきれるか?」
ラウラちゃんは左右のプラズマ手刀と六本のワイヤーブレードで応戦する。
「捌ききれないっ!!」
簪ちゃんは冷や汗を流しながら後退していく。
そしてプラズマ手刀を夢現で防御してその勢いで大きく後退した。
「行けっ!!」
鈴ちゃんはラウラちゃんに龍砲を放ちつつ、双天牙月を投げつけた。
「舐めるなっ!!」
ラウラちゃんは龍砲と双天牙月をAICで停止させつつ、レールカノンで鈴ちゃんを打ち抜いた。
「もらった!!」
簪ちゃんはラウラちゃんのその隙を狙って甲龍までマルチロックオンシステムで捕捉して山嵐を解き放った。
「ちょっ!!? 不味い!!」
鈴ちゃんはシュヴァルツェア・レーゲンのレールカノンで体制を崩していたので退避が遅れた。
甲龍の龍砲で数発は相殺したが落とし切れずに被弾した。
ラウラちゃんはAICを使って誘導ミサイルを止めて誘爆させた。
そして鈴ちゃんは爆発の煙が晴れない内にシュヴァルツェア・レーゲンのレールカノンと打鉄弐式の春雷が命中して脱落した。
鈴ちゃんが落ちて行くのに一瞬気を取られた隙に簪ちゃんがシュヴァルツェア・レーゲンのAICに捕らえられた。
「しっ、しまった!!」
「Schach und matt!!」
驚愕の表情の簪ちゃんにレールカノンが突きつけられた。
「どうした? 投了しないのか?」
「くっ!! ……まっ、参りました」
簪ちゃんは歯軋りしながら負けを宣言した。
「やったぞ、嫁よ!! 私の勝ちだ!!」
ラウラちゃんは喜びの余りISを身に纏ったまま飛び込んでいた。
「おっと……危ないよ、ラウラちゃん」
僕は苦笑しながら飛び込んできたラウラちゃんを抱きとめてお姫様抱っこをした。
「悔しいぃ~!! 負けた!! って言うか簪!! アンタあそこでアタシまで攻撃する普通っ!!」
鈴ちゃんは悔しい様な恨みがましい様な複雑な表情で簪ちゃんに詰め寄っている。
「別に……三竦みの戦いだったから問題ない。それに先に私を蹴って囮にしたのは誰だった?」
簪ちゃんは悔しそうな表情でラウラちゃんを見詰めながら鈴ちゃんをあしらっている。
「うぐっ!!? まあ仕方ないか……ラウラ、今回は負けたけど次は勝つわよ!!」
「私も負けない!!」
鈴ちゃんと簪ちゃんはラウラちゃんのリベンジを宣言した。
「よかろう。受けて立つぞ」
ラウラちゃんは僕から降りて腰に手を当ててその挑戦を受けて立つ様に不遜な笑みを浮かべていた。
「……とっ、ところでデートは何時にする?」
ラウラちゃんは一転恥ずかしそうに両手の指を突き合わせながら訊ねてきた。
「そうだね……取り合えず学年個人トーナメントが終わってからだね」
僕はラウラちゃんの頭を撫でながら答えた。
「そっ、そうか!! 楽しみにしているぞ!」
ラウラちゃんは満面の笑みを浮かべた。
問題は紫乃姉が妨害してこないか心配だが、まあ恋人同士になるならまだしもデートだけなら友達同士の買い物という事で何とかなるかな。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
《ドドドドドドドッ……!》
僕と一夏が食堂に向かっていると廊下の向こう側から地鳴りに似た音が聞こえてきた。
「なっ、何だ? 何の音だ?」
「僕は嫌な予感がするよ」
音はだんだんと近づいてきている。
そして暫くして廊下の角から数十名の女生徒が飛び出してきた。
「織斑くん!」
「月村くん!」
僕と一夏を丸で餌に群がる蟻の様に女生徒達が取り囲んだ。
そして獲物を奪い合うかの様に手を伸ばしてくる。
「なっ、なっ、なんだなんだ!?」
「みっ、皆何事!?」
「「「これ!」」」
状況が飲み込めない僕達に、女生徒一同が力強く叩きつける様に出してきたのは学内の緊急告知文が書かれた申告書だった。
「なっ、なになに……?」
「“今月開催する学年別トーナメントでは、より実戦的な模擬戦闘を行うため、二人組みでの参加を必須とする。なお、ペアが出来なかった者は抽選により選ばれた生徒同士で組むものとする。締め切りは”――」
「ああ、そこまででいいから!とにかくっ!」
そしてまた一斉に伸びてくる手。
ひいっ。冗談じゃなくて本当に怖い。
気を抜くと喰べられちゃうかもしれないと危機感を覚える。
「私と組もう、織斑くん!」
「私とペア組んで下さい、織斑くん!」
「私と組んで、月村くん!」
「第一印象から決めてました、月村くん!」
学年別個人トーナメントがコンビ仕様になったのは恐らく以前のクラス対抗戦の無人機乱入の影響だろうね。
不測の事態に対処してなるべく安全を期するための配慮だろう。
その仕様変更があって一年の女生徒達が学園内で二人しかいない男子生徒と組もうと我先にと集まってきているんだろう。
「あっ、あのな……そっ、その……」
一夏は周りを埋め尽くした女生徒達に圧倒されて言葉も出ない様子だった。
僕は一夏のテンパった様子を見て落ち着く事が出来た。
「皆態々僕達を誘いにきてくれてありがとう。でも僕は一夏と組むよ。ごめんね」
僕はなるべく笑顔を浮かべながらやんわりと断った。
「まあ、そういう事なら仕方ないか……」
「他の女子と組まれるよりはいいかな」
「やっぱり月村くんって織斑くんの事……きゃ♪」
取り敢えずは納得してくれたようだ。
しかし、ちょっと待て!! 一人おかしな想像してなかった!!?
何度も言うけど僕は女の子が大好きな健全な思春期の男の子だからね!!
あれ? でも一夏と組んで優勝したらあの噂が曲解されて僕と一夏が付き合うと勘違いされる可能性が無きにしも非ずだよね。
どうすればいいの?
僕達が優勝すれば不快で腐海な噂が実しやかに語られるだろうし、もし万が一他の女生徒達が優勝すれば済し崩しに男女交際する事になってしまいそう。
父さん、IS学園……っていうか女子高の恐ろしさは男の子の僕には御神流を持ってしても太刀打ち出来そうにありません。
一人じゃないのは心底心強いけど、女の子の妄想力と噂の伝達力には敵いません。
僕が思考の渦に呑み込まれていると一人一人と去って行って廊下は元の静けさを取り戻した。
「……飯食べに行こうか」
「……そうだね」
僕と一夏は顔を見合わせて疲れた表情で笑いあった。
多分一夏は僕と違ってあの人数の多さに圧倒されたいただけだろう。
取り合えずお腹が空いているから変な考えが浮かぶんだよね。
早く夕食を食べてお腹一杯になろう。
そうすれば幸せな考えも浮かぶよね。