IS~朱月の守護者~   作:Mr.凸凹

18 / 39
第18話

 

 

 

 

 

 六月も最終週に入りました。

 IS学園は月曜日から学年別トーナメント一色に染まった。

 その慌しさは筆舌に尽くし難かった。

 今現在は第一回戦が始まる直前で比較的ゆっくりと着替えていられるが、先ほどまでは僕達も雑務や会場の整理、来賓の誘導などを手伝わされていた。

 

「しかし、凄いなこりゃ……」

 

 一夏は着替えながら更衣室のモニターから観客席の様子を見ている。

 そこには各国政府関係者や研究員と企業エージェント、その他諸々の顔ぶれが一堂に会していた。

 よく見ると見知った顔もちらほらと見受けられる。

 

「三年生にはスカウトが、二年生には一年間の成果の確認にそれぞれ人が集まっているからね。一年生には今のところ関係ない場合が多いけど、代表候補生の皆や僕達は注目されるだろうね」

「まあ、何分俺達は世界でたった二人の男性適合者だからな。無様な真似は許されないか。お互いに専用機は接近戦主体のピーキーな機体で大変だな」

 

 一夏はやれやれといった様子で肩を竦めていた。

 

「僕は更に月村重工と御神流の看板を背負ってるから良い意味でも悪い意味でも注目されるだろうね」

 

 僕は苦笑しつつISスーツを手早く着込んだ。

 

 

 

 

 

「さて、俺の準備は終わったぞ」

「僕も準備OKだよ」

 

 僕達はお互いにIS装着前の最終チェックを行いながら、対戦相手が発表されるのを待っている。

 何せ突然タッグ対戦に変更がなされてから従来まで使っていたシステムが正しく機能しなかったらしい。

 一応誰かの工作は認められなかったが油断は禁物だろう。

 本来なら前日までに出来るはずの対戦表も、仕方なく今朝から生徒会が音頭を取って生徒全員で手作りの抽選籤を作成した。

 

「それにしても一年生の部のAブロック一回戦一組目なんて運がいいよな」

「だね。待ち時間にうだうだと考えなくていいし、こういうのは勢いが大切だよね。これが護衛の仕事なら後の先がいいんだけどね」

 

 僕達は身体を解して温めておく。

 身体か冷えて固まっていると実力が出し切れないからね。

 

「あっ、対戦相手が決まったみたいだね」

 

 モニターがトーナメント表へと切り替わった。

 気持ちを切り替えてモニターに意識を集中させる。

 

「ふむ。一回戦の相手はラウラちゃんと箒さんのタッグか」

 

 箒さんには悪いけど全力で相手させてもらおうかな。

 でも一夏に引導を渡された方が納得出来るよね。

 

「一夏、僕がラウラちゃんの相手をするから箒さんの相手お願いするよ」

「おう、任された。いっちょ派手に初戦を彩るとしますかね」

 

 僕と一夏はお互いの拳を合わせて微笑みあった。 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

「まさか、初戦から嫁と当たるとはな……これも運命の赤い糸で結ばれている証拠か」

 

 ラウラちゃんは嬉しそうに微笑みながら頷いている。

 

「ラウラちゃん、ワルツの相手をお願いできるかな?」

「よかろう。いざ戦慄のワルツを奏でよう」

 

 僕の申し出にラウラちゃんは不敵な笑みを浮かべて了承した。

 

 開始のブザーが鳴り響いた瞬間に瞬時加速(イグニッション・ブースト)を発動してラウラちゃんに肉薄する。

 ラウラちゃんは開始早々AICで僕を捕らえ様とした。

 ラウラちゃんの技量なら僕の腕のみを押さえて動きを止める事が出来るだろう。

 だが僕は瞬間的に神速を発動してストックしておいた零落白夜を発動させてAICを切り裂いた。

 でも零落白夜のストックには限りがあるから多用は出来ない。

 

 そして貫を使ってラウラちゃんの防御をすり抜けてシールドエネルギーを削った。

 

「何だとっ!!?」

 

 ラウラちゃんはAICが切り裂かれて無効化された事に驚いたが、直ぐに切り替えてワイヤーブレードとプラズマ手刀を繰り出してくる。

 

 さすがにこの手数だと後手に回って僕が防御に回ることになる。

 

「さすがはラウラちゃん。接近戦もお手の物だね」

「煽ててもなにも出んぞ。刀也を相手に遠距離戦を仕掛けようものなら、それこそ一瞬で沈められてしまう可能性があるからな。このまま押し切らせてもらう」

 

 ラウラちゃんは冷静に僕の戦力を分析して把握している。

 その上僕が見せ札(零落白夜)を切った事でAICの使いどころを悩んでいる様だ。

 

「全く容赦ないね。防ぐので精一杯だよ」

「ふん。全て危なげなく防ぎながら何を言っている」

 

 神速を発動しようにも意識の切り替えを行う暇を与えてくれないぐらいワイヤーブレードが三次元躍動で迫ってくる。

 だがこれではジリ貧でお互いに決定打になりえない。

 これは所謂早撃ちの発想だ。

 ラウラちゃんがAICに集中するためにワイヤーブレードの操作を緩めた隙に僕が神速を発動するのが早いか、そのまま僕がAICに捕らえられるのが早いかの勝負だ。

 

 分割思考(マルチタスク)を使用していても神速を発動できれば話は早いのだが無理なものは無理だ。

 

 ラウラちゃんと切り合いながら分割思考(マルチタスク)を使用して一夏と箒さんの様子を窺うと、一夏が優勢だが攻めあぐねている様だ。

 箒さんは零落白夜を警戒しながら一夏の攻撃を受ける事無く往なしている。

 決定打が打てないのは一夏も同じか。

 それにしても箒さんは量産機の打鉄で稼働時間も短くIS適正もC判定なのに粘っている。

 剣道全国一位は伊達じゃないってことか。

 僕と一夏も確かに強くなっているが箒さんも強くなっているって事だよね。

 

「私と切り合っている最中に他の女の事を考えるなんて余裕だな」

 

 僅かに怒気を孕んだ声を滲ませながらラウラちゃんの攻撃が更に苛烈になった。

 

「なっ、何の事かな?」

「惚けるな! 箒に少し意識を割いていただろう。乙女の勘を甘く見るな」

 

 恋する乙女って凄いよね。

 幾ら僕がまだ分割思考(マルチタスク)を使い切れてないとしても気付くなんて尋常じゃない。

 でもお蔭で僅かにワイヤーブレードの操作が苛烈になった代わりに若干大振りとなった。

 これで神速を発動しやすくなった。

 後はもうラウラちゃんが我慢しきれずにAICを使用する隙を狙って一気に畳み掛けるしかない。

 もう少し虚実を交えて隙を狙おうか。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 ~ラウラ・ボーデヴィッヒ side~

 

 

 

 

 

 刀也は私の想い人であり、同じ夜の一族の仲間でもある。

 他の軟弱な男共とは違い、真に力の振るう意味を理解している心身共に強い男である。

 一夏もなかなか良い男だが、刀也はそれ以上の逸材である。

 私の渇きを癒してくれた月の様な優しい希望の光。

 私が恋焦がれるのはそんな男である。

 

 

 

 

 その愛しき刀也と今正にISで切り結んでいる。

 私と切り結んでいる最中に他の女の事を考えていたのは腹が立ったがな。

 一応こちらが優勢に見えるが、私の攻撃はプラズマ手刀二本だけでなくワイヤーブレード六本を含めて全て往なされている。

 気を抜けば一気に攻守が逆転してしまう危うい天秤の様に成り立っている。

 しかし、このままでは私が負けてしまう算段が高い。

 最初に私のシールドエネルギーが削られて以来、どちらのシールドエネルギーも減少していない。

 AICに捕らえる事が出来れば私の勝ちは揺ぎ無い物になるだろうが、最初の一回目は朱月・朧の単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)の蹂躙乱舞によってストックされていた零落白夜によって切り裂かれた。

 後どれくらい零落白夜のストックがあるのだろうか。

 もしストックが無ければ肉を切らして骨を断つ勢いで勝利する事も可能だろう。

 

「ねえ、ラウラちゃん。もう零落白夜のストックがないって言ったら信じる?」

 

 私の考えを読んだかの様に刀也が尋ねてきた。

 普段は清廉潔白な男だが事戦いや護衛の事となると清濁合わせて飲み込む事の出来る男でもある。

 

「ふん。私を揺さぶる気か、刀也。その手には乗らんぞ」

 

 そう言ってみたもののこのままでは埒が明かない事も事実ではある。

 伸るか反るか一か八かに賭けるのも悪くない。

 

 私はワイヤーブレードで刀也を牽制しつつAICを起動させるために意識を集中した。

 一瞬で起動したAICが刀也の腕を捕らえる前に刀也の姿がハイパーセンサーで辛うじて捉えられるぐらいの速さで掻き消えた。

 AICは不発に終わってしまった。

 次の瞬間刀也の小太刀が私の背後から叩き込められた。

 一気にシールドエネルギーの残量が空になっていく。

 

 

 

 

 

 ああ、私は負けてしまったのか。

 

 私は気が付くと丸で汚泥の様な空間に囚われていた。

 

 ここはどこだ?

 

 辺りは一面の闇。

 だが丸で包み込むかの様に揺らいでいる。

 

『――願うか? より強い力を欲するか……?』

 

 その言葉は弱い私の心に染み込む様に入り込んでくる。

 

「力か……確かに欲しい。刀也と並び戦える力が欲しい……」

 

 私は無意識に声のする方へと手を伸ばした。

 

「だがいらん!! 私は与えられるだけの力は望まない!! そんな力では刀也の横には立てん!! 力は自ら鍛えて得るもの!! それが教官に導かれ、刀也に焦がれた私の答えだ!!」

 

 私は拳を握りながら強く強く心の底から叫んだ。

 

 それは誓いであり願い。

 

 心に巣くう闇を祓う様に私の言葉が広がっていく。

 

 

 

 

 

 ~side out~

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「う、ぁ……」

「気が付いた、ラウラちゃん……よかった」

 

 僕の腕の中でラウラちゃんが身動ぎしながら眼を覚ました。

 

 シュヴァルツェア・レーゲンのシールドエネルギーが零となり破損状態がDレベルに達すると微かに紫電が放たれていた。

 

 あれは何だったんだろうか?

 物凄く嫌な予感がした。

 一度詳しくシュヴァルツェア・レーゲンを検査する必要があるね。

 

「刀也……私は試合に負けたのか……」

「うん……僕の勝ちだよ。箒さんも一夏にやられたよ」

「そうか……だが私は自分には……弱い心には負けなかったぞ」

 

 ラウラちゃんは見惚れるほどの綺麗な笑顔を浮かべている。

 

「そうなんだ……」

 

 僕はその笑顔に引き寄せられる様に微笑み返した。

 

「だからご褒美を頂くぞ♪」

「えっ!!?」 

 

 お姫様抱っこで腕が防がれていたせいで反応が遅れた。

 ラウラちゃんは僕の頬を両手で掴んで顔を寄せてきた。

 

「はむ、くちゅくちゅ、ごくん」

「むぐっ、はむはむ、ぷはぁ~」

「ご馳走様、刀也。甘くて美味しかったぞ」

 

 ラウラちゃんは頬を朱色に染めながら悪戯っぽい笑顔を浮かべていた。

 僕は呆然とその笑顔を見ながら固まってしまった。

 

 ああ、これでラウラちゃんに唇を奪われたのは二回目だよね。

 今回は沢山の観客の前でされてしまった。

 多分家の母さんも朱月・朧の成果を確認しに来ている筈だからばっちり見られたよね。

 家の母さんの事だから今回の画像もしっかりと押さえていて後でからかって来るのは間違いなしだよね。

 アハハ……事ある度にからかわれるのが眼に浮かぶよ。

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。