第一回戦を終えて次の試合まで暫し暇になった。
対戦表を見る限り暫く専用機持ちと当たる事はない。
次に専用機持ちと当たるのは順当にいけば五回戦の鈴ちゃんとセシリアさんの英中同盟だ。
先ほどの鈴ちゃん達の第一回戦を観ると、鈴ちゃんは何やら鬱憤は晴らすが如く対戦相手を滅多打ちにしていた。
先ず間違えなく容易く唇を奪われた僕の事を怒っているのだろう。
乙女の嫉妬ほど怖いものはない。
僕が身震いしていると
なのはさんにはシュヴァルツェア・レーゲンの修理と共に詳しい検査をお願いしていた。
『刀也くんの嫌な予感が当たったよ。巧妙に隠されていたけどVTシステムが搭載されていたよ』
「そうですか……」
正式名称ヴァルキリー・トレース・システム。
過去のモンド・グロッソの
まさかと思ったけど実際に搭載されてるなんて何考えてるんだか。
『現在学園はドイツ軍に問い合わせてるよ。近いうちに委員会からも強制捜査が入るでしょうね』
「この事をラウラちゃんは知りませんでしたよね……」
『例え搭乗者が知らなくてもISに搭載されていたから査問はさけられないだろうね』
「……まあ、仕方ありませんよね」
僕は思わずため息を吐いていた。
『こら! ため息を吐くと幸せが逃げるよ。心配しなくてもそんなに深刻にはならないよ……まあ、恋人の事を心配するのは当然かな』
「ちょっ!!? だっ、誰が恋人ですか!!?」
僕は思わず噴出しながら必死に否定した。
『ええっ~だって公衆の面前であんなに情熱的なキスをしてたじゃない』
なのはさんもやっぱり乙女なんだな。恋バナは好きな様で眼が爛々と輝いていた。
「まっ、まだ違います!! 友達です!!」
『ふ~ん。
「からかわないで下さい!!」
『からかってないよ。だって事実でしょ。ところで誰が本命なのかな? 忍さんには内緒にしておくから教えて欲しいな♪』
「もう直ぐ第二回戦なので失礼します!」
僕は顔を赤くしながら
さあ、気持ちを切り替えて二回戦に挑もう。
浮ついたままでは足元を掬われかねない。
僕は深呼吸をしてピットへと足を運んでいった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
取り合えず順当に勝ち進み第五回戦を迎えた。
相手は英中同盟の鈴ちゃんとセシリアさんのタッグだ。
二人とも徹底的に連携訓練を行っていた。
もともと相性が悪くなかった上にきちんと前衛の甲龍と後衛のブルー・ティアーズのバランスが絶妙に取れている。
僕の朱月・朧と一夏の白式はどちらも前衛型なので、如何にどちらかが甲龍を突破してブルー・ティアーズに肉薄して一対一の構図に持っていくかが鍵である。
「刀也ぁ~!! アンタ隙ありすぎでしょ!! 何簡単にラウラに唇奪われてるのよ!!」
「鈴さん、落ち着いて下さいな。余り熱くなると足元を掬われますわよ」
「うっさい!! 分かってるわよ。さあ、刀也。懺悔の時間よ。アタシに跪きなさい」
うわぁ~鈴ちゃんの眼がマジでやばいぐらい瞳孔開いちゃってるよ。
でも切れている鈴ちゃんも可愛いなって現実逃避している暇はないか。
「行くよ、一夏。僕が鈴ちゃんを引き付けている間に何とかセシリアさんに接近してね」
「おっ、おう……死ぬなよ、刀也」
一夏、真顔で僕の肩をやさしく叩かないでよ!
だっ、大丈夫だよね? 幾ら鈴ちゃんでも僕を殺したりしないよね?
開始のブザーが鳴り止むと同時に甲龍の龍砲が僕達目掛けて放たれた。
僕と一夏はブザーがなったと同時に
息吐く暇も無くブルー・ティアーズのビットと連携して甲龍の龍砲が放たれてきている。
僕はタイミングを計って鈴ちゃんに肉薄しようとする。
射撃のパターンを掴んで把握しながら僅かな隙間を見つけて神速を発動した。
周囲の景色がモノクロームになり、射撃がスローモーションになる。
「はあああああぁぁぁぁッッ!!」
気合一閃。もっとも得意とする御神流・奥義の六、
紫電を奔らせて破壊される龍砲。
これで鈴ちゃんは接近戦しか出来なくなった。
そして僕は鈴ちゃんの双天牙月と打ち合う。
その隙に一夏は鈴ちゃんをすり抜けてセシリアさんに
「くっ!!? やってくれたわね、刀也!!」
鈴ちゃんは悔しげに下唇を噛んでいる。
一夏がブルー・ティアーズに迫っているお蔭でビットによる援護射撃が不可能となり、事実上僕と鈴ちゃんの一対一となった。
「せいやあああぁぁぁぁッッ!!」
鈴ちゃんは勇猛果敢に攻めてくる。
僕相手に後手に回ると敗北する事をよく理解している。
その一撃一撃が重く、腕力だけでなく身体全体の体重を使って振るっているのが分かった。
僕は受ける事無くその力を往なしていく。
「やるね、鈴ちゃん。さすがは短期間で中国の代表候補生になっただけはあるよ」
「そりゃそうよ。アタシは刀也に再会したくて、その気持ちを糧に頑張ってきたんだから!!」
僕達は切り合いながら何時しか笑顔を浮かべていた。
楽しい。僕のためと言ってくれた力とぶつかりあえて楽しい。
鈴ちゃんの一撃一撃が僕の心を揺さぶり動かす。
ああ、僕は、なんて幸せ物だろう。
こんなに可愛い娘が僕のために狭き門を潜り抜けてまで逢いに来て嬉しい。
僕は果報者だ。
だからこそその力を認めて、その上で打ち砕く。
やっぱり女の子より弱くちゃ幻滅させちゃうかもしれないもんね。
さあ、僕の体よ。僕の心よ。僕の意識に答えてくれ。
今なら至れる。
小太刀二刀御神流斬式・奥義の極み、閃。
斬月が閃光となって鈴ちゃんに叩き込まれた。
落ちていく鈴ちゃんを力一杯抱きしめる。
「本当に頑張ったんだね、鈴ちゃん。鈴ちゃんの一撃は僕の心を打ったよ」
僕は鈴ちゃんの耳元で囁いた。
「……うん。頑張ったんだよ。刀也に逢いたくてどんな辛い特訓にも耐えた。それだけでどんな時でもあたしは強く在れたんだ」
鈴ちゃんは涙声で僕に震えながら抱きついている。
僕は無言で鈴ちゃんの頭を撫で続けた。
「ねえ、刀也。あたし……アンタの事が好き、大好きだよ」
鈴ちゃんの告白をはっきりと聞いたのは始めてかもしれない。
今までは態度でそれと無く察してはいたが、はっきりと言葉に出して言われると重みが違う。
「ありがとう、鈴ちゃん。僕は……むぐっ!!?」
「はむ、くちゅ、ぺろっ、ごくっ」
僕は唇を塞がれて言いかけた言葉を文字通り飲み込んだ。
鈴ちゃんは悪戯っぽい笑顔を浮かべながら舌を出していた。
その舌から僕の口元に掛けて唾液の橋が架かっていた。
「えへへ♪ 今すぐ答えは要らないわよ。でもあたしもキスぐらいは構わないわよね?」
その頬を真っ赤に染めた鈴ちゃんの笑顔を綺麗だと思った。
っていうか今キスされたよね。しかもディープキス。
あれ? 二回目? しかも相手が違う?
僕は混乱した頭がショートしそうなぐらい熱くなるのを他人事の様に感じていた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
女の子って怖い。
僕は床に手を突きながら落ち込んでいる。
そりゃ確かにラウラちゃんも鈴ちゃんも僕には勿体無いくらい可愛いよ。
でも簡単に唇を奪われるなんて僕って駄目な男かな?
しかも全世界的な公衆の面前で奪うんじゃなくて奪われた。
幾ら今の世の中が女尊男卑が当たり前とはいえ情けない。
「何を落ち込んでいるんだ、嫁よ?」
「はうっ!!? ラウラちゃん!!?」
僕はびっくりして壁際まで後ずさってしまった。
「何をそんなに驚いているのだ?」
「えっ、えっと……もっ、もう査問終わったんだ?」
「うむ。査問と言っても形だけだったしな。それよりも……」
「ごっ、ごめんなさい!」
僕はジャンピング土下座を咬ました。
「何を謝っているんだ?」
いや、僕も何故だか勢いで謝ってしまいました。
何だか僕が悪い事した訳じゃないのに居た堪れない気持ちになって思わず勢いで謝ってしまった。
「そっ、その~りっ、鈴ちゃんと……」
僕は額を床に擦りつけたまま答えた。
「ふむ。鈴とキスしたことか? 別に私は気にしてないぞ」
はい? 他の娘とキスした事を気にしていない?
僕は思わず顔を上げてラウラちゃんの表情をまじまじと見詰めた。
「ほら、何時までしゃがんでいる。立て、刀也」
「うっ、うん……」
僕はラウラちゃんに促されるまま立ち上がった。
「……なっ、何で気にしてないの?」
僕は恐る恐る尋ねた。
「えっ? 日本男児にとってはハーレムは基本ではないのか? ならば私は気にしないぞ」
誰だ!!? 純粋無垢なラウラちゃんにある事ない事吹き込んだ奴はっ!!? ってか一人しかいないよね。
「ラウラちゃん、それってクラリッサさんに聞いたのかな?」
「うむ、そうだ。クラリッサには何時も助けられている」
ラウラちゃんは眼を瞑りながら腕を組んでうんうんと頷いている。
ここは否定すべきか、このままスルーするのがいいのか悩みどころだよね。
「それに刀也は独り占めするには荷が重いだろうしな。その内自由国籍を取得して世界中を飛び回る事になるだろう。各地に愛人を作っても私は気にしないぞ」
駄目だ。完全に僕がプレーボーイにされている。
そんなに僕って女の子にだらしない様に見えるのかな?
確かに僕は一人に決めれない優柔不断な男だけど、それって許されないよね?
でもラウラちゃんは気にしないって言ってるし……って何考えてるんだ、僕はっ!!?
「勿論旦那は私だがな。そこは譲れん!!」
ラウラちゃんは拳を握って力強く宣言している。
ああ、一応はラウラちゃんにもちゃんとした欲が合ったんだ。
そこは出来れば独占欲であったなら倫理的にも問題ないんだけれどね。
あれ? ちょっと待ってよ。僕と一夏は現在二人だけのIS男性適合者だよね。
下手すると僕と一夏の子種を巡って争いが起きる可能性がある?
そうすると戦争を避けるためにIS委員会が僕達を重婚してもいい様にする可能性があるのか。
それって完全に種馬扱いだよね。
一部の男性陣達からは羨ましがられるだろうけど、女尊男卑な世界観ではありえる展開だよね。
まさか考えすぎだよね。
僕は自分自身の考えが怖くなって頭を振った。
「どうした、嫁よ。顔色が良くない様だが……」
ラウラちゃんが心配した表情で僕の顔を覗き込んでくる。
「だっ、大丈夫だよ。ちょっとベンチで休めば元気になるよ」
僕はふらふらとベンチに向かって歩き出した。