ある意味順当にやって来た決勝戦。
アリーナーは大いに盛り上がっていた。
決勝戦に残ったのは何れも劣らぬ猛者達である。
今大会目玉の男性適合者のタッグと日仏同盟のタッグの戦い。
今年の一年生の決勝戦は例年以上に盛り上がりを見せている。
僕はピットでその歓声とは裏腹に沈んでいた。
とうとう決勝戦まで来ちゃった。
はぁ~あの優勝したら僕か一夏と付き合えるって噂は払拭出来そうだけど、心配していた通り僕と一夏のカップリングの噂が実しやかに囁かれている。
それとは別に僕とラウラちゃん並びに鈴ちゃんのキスの件も黄色い悲鳴と共に噂されている。
僕が二股掛けてるとか、本命はやっぱり一夏だとか、いや紫乃姉が本命だとか、女の子の想像力には逞しいよね。
それに種馬扱いも考えすぎだと思うんだけど頭の隅にこびりついて離れない。
僕ってこんなにナイーブな感性だったんだ。
「大丈夫か、刀也?」
一夏が心配そうに僕の顔を覗き込んできている。
「ごめん、一夏……大丈夫だよ」
僕は頭を振って嫌な考えを追い出した。
目の前の試合に集中しないと簪ちゃんやシャルロットさんだけでなく今まで倒してきた人達に申し訳ない。
特にラウラちゃんと鈴ちゃんには物凄く怒られそうだ。
まあ、ここまで来たらうだうだ考えるよりも身体を思い切って動かそう。
それこそ、世の中の男達が憧れる様な戦いにしよう。
「行くよ、一夏。目指すは優勝のみ!」
「おう! いっちょ男の子の意地を見せ付けてやるか!」
僕と一夏は互いの拳を合わせて微笑んだ。
順番にカタパルトデッキに乗り、アリーナーへと飛び出していった。
そして沸き起こる大歓声。
僕達は決勝に臨む気持ちを引き締めた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「来たね。色男」
「あの~シャルロットさん? 何故か言葉に棘がある様に感じるんだけど……」
僕は真顔で言ってくるシャルロットさんに冷や汗を流しながら尋ねた。
「別に棘がある様に感じるのは刀也に疚しい気持ちがあるからじゃないの。少しは簪の気持ちも考えてあげなよ」
「えっと……」
簪ちゃんに眼を移すと顔を真っ赤にして眼を逸らされた。
あれ? 怒って顔が真っ赤って訳じゃなく単に照れているのかな?
何で? どうして? Why?
思わず思考が混乱する。
シャルロットさんはやれやれと肩を竦めながら首を振っている。
「それじゃあ僕の相手は一夏でいいんだよね、簪?」
シャルロットさんは確かめる様に簪ちゃんに声を掛けた。
「……うん。お願い」
簪ちゃんはゆっくりと頷いている。
「大丈夫? 無理してない」
「大丈夫だよ、シャルロット。私は刀也くん……いえ
こちらを向いた簪ちゃんの眼は戦う者の眼に変わっていた。
若干まだ頬が赤いのはご愛嬌か。
凛々しくも可愛らしい眼差しだった。
そんな簪ちゃんの眼差しを受けて僕も意識を集中させて切り替えていく。
『それでは両タッグ共に開始位置について下さい』
アナウンスに従い各機とも所定の位置へと移動する。
『一年生の部学年別トーナメント決勝戦。始め!!』
決勝戦の火蓋が切って落とされた。
開始のブザーと共に簪ちゃんが
拙いながらも一撃一撃が重い。
僕は受け流して捌いていく。
「さすがは刀也……接近戦でも全く勝ち目がないね」
「やっぱり、聞き間違えじゃなかった。簪ちゃん僕の名前……」
「駄目だったかな?」
簪ちゃんは瞳を潤ませながら訊ねてきた。
「駄目じゃないよ。嬉しいよ。それだけ簪ちゃんの心に近づけた様な気がする」
僕は夢現を捌きながら微笑み返した。
「よかった。今はまだ貴方の隣には立てないけど私なりのけじめ……貴方の背中を追いかけ続けるためのけじめだよ」
簪ちゃんは微笑んだかと思うと徐に眼を瞑って顔を近づけてきた。
「えっ、えっと……簪ちゃん?」
僕は思わず手を止めて簪ちゃんの顔を見詰めた。
徐々に近づいてくる悩ましい唇に見蕩れて動けない。
「はむ、ちゅちゅ」
「むぐっ、ぷはっ」
触れるだけの啄む様な優しいキス。
眼が合うと簪ちゃんは耳まで真っ赤になって離れていった。
僕は呆然と自分の唇に触れていた。
「隙ありだよ、刀也♪」
簪ちゃんは距離を取りながら、顔を真っ赤にして微笑みながら山嵐を発射してきた。
ちょっ!!? 照れ隠しにしてもこれは物騒じゃない!!?
僕は茹った頭を切り替えて目の前まで迫ったミサイル群に神速を発動させて突っ込んだ。
自機に当たる最低限のミサイルを切り裂いて囲いを抜ける。
そして神速が解けた背後でミサイル群が誘爆した。
朱月・朧のシールドエネルギーが少し削られる。
その爆発エネルギーを利用して
返す刃で切り返して抜刀の体制に入り、気合一閃もっとも得意とする御神流・奥義の六、薙旋へと繋げた。
打鉄弐式は技の威力で大きく後退した。
これで打鉄弐式のシールドエネルギーは約半分となった。
「さすがは刀也……でもまだ落ちるわけにはいかない」
簪ちゃんの眼はまだ諦めていない。
春雷を連射してこちらの動きを牽制している。
僕は演舞の様に身体を動かして避けていく。
「さてと……そろそろ決めるよ、簪ちゃん」
意識を集中させて剣氣を高めていく。
僕の背中を追いかけてくれると言った幼馴染に失望されない様に、僕は強く在らねばならない。
さあ、僕の体よ。僕の心よ。僕の意識に答えてくれ。
大切な幼馴染の心を酌むために全力で打ち負かそう。
小太刀二刀御神流斬式・奥義の極み、閃。
斬月が閃光となって簪ちゃんに叩き込まれた。
「負けちゃった……」
簪ちゃんは僕の腕の中で瞳を潤ませながらもさっぱりとした笑顔を浮かべている。
僕は無言で簪ちゃんの頭を撫でている。
「刀也……私は諦めないよ。何時か隣に立てるまで貴方を追いかけ続ける」
「うん。こんな僕でいいの?」
「貴方だからこそ追いかけるんだよ」
簪ちゃんは見惚れるほどの笑顔を浮かべて力強く抱きついてきた。
『お楽しみのところ悪いけど、こっちはまだ決着ついてないぞ』
さすがは決勝戦まで残ったシャルロットさんのラファール・リヴァイヴ・カスタムIIだね。
一夏が攻めあぐねるほどの
「じゃあ、行って来るね」
「うん……」
僕は簪ちゃんの耳元に囁く様に言った。
一夏と合流してシャルロットさんを二人掛りで攻め込む。
さすがに二対一では分が悪く、シャルロットさんは追い詰められていく。
最後は僕が切り崩した隙に一夏の零落白夜が止めを刺した。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「織斑くん、月村くん、優勝おめでとう!!」
「「「おめでとう!!」」」
クラッカーが祝砲の様に打ち鳴らされる。
食堂の一角を間借りして一年生の学年別トーナメントの祝勝会が開かれている。
人の噂は七十五日までというが今回の噂は何時払拭出来るんだろうか?
僕と一夏のベーコンレタスな噂は払拭出来たと思うけど、新たに僕が三股掛けているという噂が既に実しやかに囁かれている。
僕の膝の上にはラウラちゃんが座り、両隣には僕の腕を取って鈴ちゃんと簪ちゃんが座っている。
ラウラちゃんのお尻から太ももに掛けての感触や、鈴ちゃんと簪ちゃんの細やかながらも主張している胸の感触に僕はドキドキしている。
「あの~三人共……そっ、その色々と当たっているんですが……」
「問題ないぞ、嫁よ」
「当ててるのよ、刀也」
「駄目、刀也?」
三人共誰の眼を憚る事無く全力で甘えてきている。
少し離れた一夏の側では箒さんやセシリアさんとシャルロットさんが僕達を羨ましそうに見詰めてきている。
「「「はい、あ~ん♪」」」
腕が塞がれているのでラウラちゃんと鈴ちゃんと簪ちゃんが揃って僕の世話を焼いてくる。
「あっ、あ~ん」
僕は諦めの境地で三人にされるがままになっている。
暫く僕達が騒いでいると女生徒達の一角がモーゼの様に割れて紫乃姉が現れた。
「おめでとう、刀也。一年生の部は一夏くんと共に優勝出来たみたいね」
「ありがとう。そう言う紫乃姉も二年生の部を楯無さんと共に優勝出来たみたいだね」
「ええ勿論、私達でIS学園で一番と二番目に強いんですもの。それよりも……」
紫乃姉は笑顔から一転僕に甘えている三人を睨む様に見詰めている。
「よくも可愛い刀也の唇を公衆の面前で奪ってくれたわね」
紫乃姉の怒りのオーラに呼応する様に女生徒達が蜘蛛の子を散らすかの様に逃げ惑った。
食器も僅かに震えている。
「幾ら刀也の姉でも私達夫婦の仲は裂けませんよ」
「「誰が夫婦よ!!」」
僕の膝の上で胸を張ったラウラちゃんの両頬をそれぞれ鈴ちゃんと簪ちゃんが引っ張りながら突っ込んでいる。
「いふぁいぞ」
ラウラちゃんは涙眼でされるがままになっている。
「アハハ♪ 変な顔……」
「でも肌すべすべ……」
三人共紫乃姉の怒気を物ともせずに戯れ合っている。
「ふぅ~貴女達は見所ありそうね。でも刀也と本当に付き合いたいなら私に勝てないと認められないからね。挑戦何時でも待ってるわ」
紫乃姉は微笑みながら踵を返して歩き去っていった。
「一応アタシ達の事……」
「うん。認めてくれたみたい……」
「だが、まだまだ先は長いぞ。やっと第一関門突破といったところだ」
三人は歩き去っていく紫乃姉の背中を眺めながら手を合わせて喜んでいる。
「ところで物は相談なんだが、鈴、簪……」
「何よ……?」
「うん、何?」
ラウラちゃんは恥ずかしげに指をつき合わせている。
「こっ、今度の嫁とのデートのコーディネートを頼みたい……刀也との付き合いは二人の方が長いから好みも把握しているだろう?」
「「…………」」
鈴ちゃんと簪ちゃんは暫し無言で見詰め合っている。
「はぁ~仕方ないわね」
「うん、いいよ……」
二人は苦笑しながらラウラちゃんの頭を撫でている。
「すまん、よろしく頼む」
ラウラちゃんは二人に深々と頭を下げた。
三人共仲がいいのは僕にとってもありがたい。
でも何時かは誰が一番か決めないといけないんだよね。
僕は今の関係を壊したくない気持ちと一歩進んだ関係になりたい気持ちの板挟みになりながら三人の様子を眺めていた。
願わくばこんな関係が少しでも長続きしますように。
我ながら女々しい感情だけど、この気持ちも本心である。