IS~朱月の守護者~   作:Mr.凸凹

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第21話

 

 

 

 

 

 寮の裏側、時折簡単な集会の場として使われるぽっかりと空いたような空間。

 そこで僕と箒さんは真剣による鍛錬をこのところ毎日の様に行っている。

 一夏は木刀に錘をつけて参加している。

 

「はああぁぁッ!!」

 

 藁俵相手に演舞の様に次々と技を繰り出していく。

 小太刀だけでなく鋼糸や飛針も駆使して実戦さながらに行う。

 

 

 箒さんは白い胴着と紺袴に足袋に草履で鍛錬している。

 何事も形から入るのは箒さんらしい。

 真面目な話、剣術というのは足運びがとても大きな意味を持っていて、足指による踏みしめや堪え、溜めといった動作を行える足袋と草履はいわば実戦を想定した装備である。

 因みに僕と一夏はジャージ姿にスニーカーである。

 御神流は装備を選んではいられない。

 何時如何なる時でもその技を持ってして対象を守ったり不穏組織の殲滅に当たる。

 

 箒さんと一夏は並んで素振りを行っている。

 心なしか箒さんは嬉しそうに微笑んでいる。

 

 

 

 

 

「ふぅっ……」

 

 箒さんが素振りを終えてタオルで汗を拭っている。

 僕と一夏もタオルで汗を拭っているが、箒さんは女性特有の色気を感じさせるのに僕達は同じ動作でも男臭いだけである。

 

 七月に入り、最近は朝の日差しが強くなるのが早い。

 加えてじわりとした熱気が早くも大気に満ち始めている様な感覚がする。

 体を鍛えるのは心地がいい。

 だが、纏わりつく汗はどうしても不快に感じてしまう。

 

「私は部活棟のシャワールームに向かう」

「おう、俺達は部屋に戻って浴びるわ。後でな、箒」

「箒さん、お疲れ様でした」

 

 分かれてそれぞれ目的の場所に向かう。

 僕と一夏は順番に浴びるが距離の関係で僕達の方が早く食堂に辿り着くだろう。

 

「それにしても刀也と箒は凄いよな。真剣を苦も無く振り回しているんだから」

「刀は人の命を絶つ武器の重さだからね。その重さを振るう事、刀に振られるのではなく振るうその意味を忘れないためにも真剣での鍛錬は欠かせないよ」

 

 僕は真剣な表情で一夏に改めて真剣を振るう意味を伝えた。

 

「でも一夏あれだけ錘をつけて木刀を震えるんだから凄いよね」 

「そうかな。まあ、慣れだよ慣れ」

 

 一夏は照れた様に顔を逸らした。

 

 

 

 

 

 

 部屋に帰ると扉の前でラウラちゃんが待っていた。

 

「どこに行っていたのだ嫁よ」

「ちょっと朝の鍛錬をしに行っていたんだよ」

 

 僕はラウラちゃんの頭を撫でながら答えた。

 

「何で頭を撫でるのだ!」

 

 ラウラちゃんは上目遣いに抗議してくる。

 

「勿論ラウラちゃんが可愛いからに決まってるでしょ」

「そっ、そうか。可愛いか。ならば仕方ない」

 

 僕が微笑みながら答えるとラウラちゃんは頬を染めつつ納得したようだ。

 

「先にシャワー浴びるぞ」

 

 一夏は苦笑しながら部屋に入っていった。

 

「朝ご飯一緒に食べるでしょ? シャワー浴びるから待っててくれるかな」

「どうせなら背中ながしてやろう」

「遠慮します。大人しく部屋の前で待っててね」

「あ痛っ!」

 

 僕はラウラちゃんのおでこにデコピンをして釘を刺した。

 

「むぅ~夫婦の営みの一環なのに……」

「はいはい……後でね」

 

 僕はため息を吐きながら部屋へと入っていった。

 好意は嬉しいけど、僕も健全な思春期の男の子だから間違えが起きる可能性があるから少しは自重して欲しいよ。 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 時間は過ぎて、場所は変わり、一年寮の食堂でゆっくりと朝ごはんを食べている。

 席順は僕の隣にラウラちゃん、正面に一夏、その隣が箒さんである。

 メニューは僕が卵焼きと焼き魚の定食、一夏は納豆と焼き魚の定食、ラウラちゃんはパンとコーンスープそれにチキンサラダ、箒さんは煮魚とほうれん草のお浸し。

 どれも美味しそうで目移りしてしまう。

 

「ん、欲しいのか?」

 

 視線に気付いたラウラちゃんが僕の口元にパンを持ってくる。

 

「ありがとう、ラウラちゃん」

 

 僕はパンに噛り付いた。

 

「お前達、それって間接キス……」

 

 一夏が眼を丸くしながら指摘してくる。

 公衆の面前で既にディープキスを済ませている僕とラウラちゃんは今更間接キスを恥ずかしがる間柄でもない。

 

「ふむ。何だ、一夏羨ましいのか? それならば箒にしてもらえばいいではないか」

 

 ラウラちゃんは勝ち誇った様に箒さんを見ている。

 

「なっ!!?」

 

 箒さんは顔を真っ赤にして固まっている。

 

「何だ、出来ないのか?」 

「だっ、だっ、誰が出来ないものか! いっ、一夏っ!」

 

 箒さんはラウラちゃんに煽られて味噌汁を含んで一夏に顔を向けている。

 箒さん、それって間接キスじゃなくて口移しだよ。

 何気に自分でハードル上げちゃってるよ。

 

「……!………!!」

 

 箒さんは一夏に早くしろと眼で催促している。

 

「えっと……」

 

 一夏はどうしていいか分からずに目線で僕に助けを求めてくる。

 はぁ~仕方ないか。

 

「箒さん。一夏って奥ゆかしい女性が好きって言ってたよ」

「!」

 

 僕の言葉に箒さんは丸で鳩が豆鉄砲を食らったかの様な表情をした。

 そして、ごくんと口の中の味噌汁を飲み込み、何事もなかったかの様に静かな表情でぱくぱくと朝ご飯を食べていく。

 

 一夏は助かったとジェスチャーしてくる。

 僕は黙って頷き返した。

 

「何だ、つまらん」

 

 ラウラちゃんはため息を吐きながら食事を再開した。

 

 ラウラちゃんも良い性格になったよね。

 ある意味社交的になったと喜ぶべきか世俗に塗れたと悲しむべきか迷うね。

 

 

 

 

 

「わああっ!ちっ、遅刻っ……遅刻するっ……!」

 

 珍しく慌てた声でシャルロットさんが食堂に駆け込んできた。

 

「よ、シャル」

「遅かったね、シャルロットさん」

「あっ、一夏、刀也。おっ、おはよう」

 

 一夏がシャルロットさんを手招きして呼び寄せる。

 

 シャルロットさんがこんなに遅く食堂に来るとは珍しい。

 それは本人の慌てようを見ても分かる。

 確かに今から朝食を食べ始めるなら大急ぎで食べないと遅刻間違えなしだ。

 

「どうしたんだ? いつもしっかりとしているシャルがこんなに遅いなんて、寝坊でもしたのか?」

「うっ、うん、ちょっと……その、寝坊……」

「へぇ、シャルでも寝坊なんてするんだな」

「うっ、うん、まあ、ね……その……二度寝しちゃったから」

 

 食べるので忙しいからだろうか、シャルロットさんは微妙に歯切れの悪い言葉で受け答えをしている。

 心なしか微妙に一夏から離れているような?

 

「……というかラウラちゃん起こしてあげなかったの」

「うむ。幸せそうに寝ていたからな。起こすのは気が引けた」

 

 幸せそうに寝ていたのと今一夏から微妙に距離を取っているのを見ると、一夏の夢でも見ていたのかな。

 うん。シャルロットさんも乙女だね。

 

「いっ、一夏? ずっと僕の方見てるけど、どうかした? ねっ、寝癖でもついてる?」

「いあや、ないぞ。ただほら、随分箸使いが上手くなったなって……それに食べ方が可愛いなってな」

「かっ、可愛い?」

 

 褒められ慣れていないのか、シャルロットさんは一夏の言葉に顔を赤く染めている。

 

「いてえっ!」

 

 一夏が箒さんに頬を抓られている。

 

「人に奥ゆかしい女がいいと言っておいて、お前は随分軽薄な事だな」

「えっと……」

 

 頑張れ一夏。選択ミスは死を招くよ。

 

「箒は大人しいと美人だな」

 

 一夏は余計な一言を付け加えて箒さんに足を踏まれている。

 

《キーンコーンカーンコーン》

 

 微笑ましい(?)やり取りを眺めていると予鈴が鳴り響いた。

 

 僕はダッシュで食堂を出て行く。

 

「おっ、置いていくな! 今日は確か千冬姉……じゃない、織斑先生のショートホームルームだぞ!」

 

 一夏はスタートダッシュが遅れて一人取り残されている。

 

「遅刻は即ち死を意味するのに待ってられないよ」

「私はまだ死にたくない」

「右に同じく」

「ごめんね、一夏」

 

 僕達は一夏置いて駆け出していく。

 

 

 

 

 

 

「到着っ!」

 

 僕とラウラちゃんと箒さんが教室に辿り着いて着くとほぼ同時に、ISを部分展開させたシャルロットさんが一夏を引き連れてやってきた。

 だがしかし、本鈴前に辿り着いても既に千冬さんが教室に居た。

 

「おう、ご苦労な事だ」

 

 シャルロットさんの顔は初めて見る青ざめ方をしていた。

 

「本学園はISの操縦者育成のために設立された教育機関だ。そのためどこの国にも属さず、故にあらゆる外的権力の影響を受けない。しかし……」

 

《すぱぁんっ!》

 

 今日も今日とて冴え渡っている出席簿アタックが響き渡った。

 

「敷地内でも許可されていないISの展開は禁止されている。意味は分かるな?」

「はっ、はい……すみません……」

 

 優等生のシャルロットさんが予想外の規律違反をした事はクラスメイトにも衝撃的だったらしく、皆唖然としている。

 

 因みに僕とラウラちゃんと箒さんは一夏とシャルロットさんが怒られている後ろを難なくすり抜けて着席した。

 尊い犠牲だったよ。一夏、シャルロットさん。

 僕は二人に敬礼した。

 

「デュノアと織斑は放課後教室を掃除しておけ。二度目は反省文提出と特別教育室での生活をさせるのでそのつもりでな」

「「はい……」」

 

 一夏とシャルロットさんは二人揃って意気消沈しながら着席した。

 

《キーンコーンカーンコーン》

 

 空気を換える様にチャイムが鳴り響いて、ショートホームルームが始まる。

 

「今日は通常授業の日だったな。IS学園生とはいえお前達も扱いは高校生だ。赤点など取ってくれるなよ」

 

 そうなのだ。授業時間自体は少ないが、一般教科も当然IS学園では履修する。

 中間テストはないが、期末テストはある。

 ここで赤点を取れば夏休み連日補習となる。

 それは生徒会に属する者としてなんとしても避けなければならない事態だ。

 うん。嬉々して紫乃姉にお仕置きと称して逆セクハラされるのは勘弁願いたい。

 

「それと、来週から始まる郊外特別実習期間だが、全員忘れ物などするなよ。三日間だけとはいえ、学園を離れる事になるぞ。自由時間では羽目を外し過ぎない様に」

 

 七月頭の郊外学習……即ち、臨海学校がある。

 三日間の日程の内、初日は丸々自由時間。

 元論そこは海なので、そこは花も咲き乱れる十代の女の子達が先週からずっとテンションが昇りぱなしなのだ。

 

 僕はラウラちゃんとのデートで水着を新調するつもりである。

 聞いたところラウラちゃんも水着は学園指定の物しか持っていないらしいので丁度いい。

 

「ではショートホームルームを終わる。各人、今日もしっかりと勉学に励めよ」

 

 千冬さんが教室を出て行こうとすると、クラスメイトの一人が山田先生の不在を尋ねた。

 山田先生は先に現地視察に行っているらしい。

 その事でクラスメイト達が一気に賑わった。

 千冬さんはそれを鬱陶しそうに捌いている。

 それに揃ってはーいと返事する一組女子達。

 相変わらずのチームワークである。

 

 

 

 

 

 

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