合宿二日目。
今日は午前中から夜まで丸一日ISの各種装備試験運用とデータ取りに追われる。
特に僕達専用機持ちは大量の装備が待っているから大変だ。
朱月・朧も月村重工から色々な装備が届いていた。
母さんの事だからネタ装備も充実していそうだ。
それでも実用的で使い勝手が良くて困りそうだ。
「さて、それでは各班ごとに振り分けられたISの装備試験を行う様に。専用機持ちは専用パーツのテストだ。全員、迅速に行え」
千冬さんの言葉に全員返事をする。
さすがに一学年全員がずらりと並んでいるので、かなりの人数である。
「ああ、篠ノ之。お前はちょっとこっちに来い」
「はい」
おや? 箒さんが専用機持ちのグループに呼ばれた。
しかも箒さんも混乱する事無く従っている。
まあ、昨日束さんが来ていたから、多分妹の箒さんにも専用機が手渡されるのかな。
「お前には今日から専用……」
「ちーちゃ~~~~~~~ん!!!」
千冬さんの言葉を遮る様に束さんが砂煙を上げながら走ってきている。
うん。やっぱり身体能力も凄まじいみたいだね。
「……束」
千冬さんは頭を押さえながらため息を吐いている。
「やあやあ! 逢いたかったよ、ちーちゃん! さあ、ハグハグしよう! 愛を確かめ……ぶへっ」
千冬さんが飛び掛ってきた束さんを片手で掴む。
しかも顔面で思い切り指が食い込んでいた。
あれ? 成人女性の体が片手で宙吊りになってない?
相変わらず千冬さんも
「うるさいぞ、束」
「ぐぬぬぬ……相変わらず容赦のないアイアンクローだねっ。愛が痛い」
そしてその拘束から簡単に抜け出す束さんもただ者ではない。
着地した束さんは、今度は箒さんの方を向いた。
「やあ!」
「……どうも」
「えへへ、久し振りだね。こうして逢うのは何年ぶりかなぁ。大きくなったね、箒ちゃん。特におっぱいが」
《がんっ!》
「殴りますよ」
「なっ、殴ってから言ったぁ……しっ、しかも日本刀の鞘で叩いた! ひどい! 箒ちゃんひどい!」
涙目になりながら頭を押さえて訴える束さん。
「え~ん。とうくん、慰めて♪」
箒さんの隣に立っていた僕に擦り寄ってくる束さん。
何だろう、どうしても年上には見えない。
「はいはい……痛いの痛いの飛んでいけ~!」
僕は頭を撫でながらお馴染みのフレーズを言う。
その様子を一夏以外の皆が驚愕の表情で眺めていた。
特に千冬さんと箒さんが吃驚している。
「えへへ♪ ありがとう、とうくん」
「どういたしまして」
そんなやりとりを、一同はぽかんと眺めていた。
「はっ!!? たっ、束? お前……」
「何? ちーちゃん?」
千冬さんの呼び掛けに首を傾げている束さん。
「……いや、なんでもない。それより自己紹介くらいしろ。うちの生徒達が困っている」
「えー、めんどくさいなぁ。私が天才の束さんだよ、はろー。終わり」
そう言ってくるりんと回ってみせる、束さん。
ぽかんとして一同も、やっと理解したみたいだ。
眼の前に居るのがISの開発者にして
「はぁ……もう少しまともに出来んのか、お前は。そら一年、手が止まってるぞ。こいつの事は無視してテストを続けろ。山田先生も各班のサポートをお願いします」
「はっ、はい。分かりました」
「こいつとはひどいなぁ、らぶりぃ束さんと呼んでいいよ?」
「うるさい、黙れ」
旧知の間柄である二人の漫才を見ているのも面白いが話が進まない。
「束さん。今日はどうしてこちらに……多分、箒さんの専用機を用意して来たんだと推察しますが……」
「おっ!!? 勘がいいね、とうくん。その通り。さあ、大空をご覧あれ!」
びしっと上空を指差す束さん。
その言葉に箒さんも他の女生徒達も上空を見上げる。
《ズズーンッ!》
いきなり激しい衝撃を伴って、何やら金属の塊が砂浜に落してきた。
銀色をしたそれは、次の瞬間壁がぱたりと倒れてその中身を僕達に知らしめた。
「じゃじゃーん! これぞ箒ちゃん専用機こと“紅椿”! 全スペックが現行ISを上回る束さんお手製ISだよ!」
「つまりは最新鋭機にして最高性能機という事ですか?」
「そうなんだよ。とうくん、興味津々だね」
「まあ少しは……」
箒さんは振り回されることなくこの紅椿を制御する事が出来るんだろうか?
「さあ!箒ちゃん、今からフィッティングとパーソナライズをはじめようか! 私が補佐するから直ぐに終わるよん!」
「……それでは、頼みます」
「堅いよ~実の姉妹なんだし、こうもっとキャッチーな呼び方で……」
「はやく、はじめましょう」
取り付く島も無く、箒さんは束さんの言葉に取り合わず先を促す。
「ん~まあ、そうだね。じゃあはじめようか」
空間投影ディスプレイが現れてボタンを押す、束さん。
刹那、紅椿の装甲が割れて、箒さんを受け入れる状態へと移る。
「箒ちゃんのデータはある程度先行して入れてあるから、後は最新データに更新するだけだね。さて、ぴ、ぽ、ぱ♪」
コンソールに指を滑らせる束さん。
更に空間ディスプレイを六枚ほど追加して呼び出し、膨大なデータに目配りをしていく。
それと同時進行で、同じく呼び出した六枚の空間投影のキーボードを叩いていく。
そのスピードは凄まじいの一言だ。
「近接戦闘を基礎に万能型に調整してあるから、直ぐに馴染むと思うよ。後は自動支援装備もつけておいたからね! お姉ちゃんが!」
「それは、どうも」
素っ気無い態度だね、箒さん。
まあ、仕方ないか。束さんがISを開発したせいで転校を余儀なくされて監視付きの生活を強いられていたんだからね。
しかも一夏と離れ離れになった。
それが一番の原因かな?
「ん~ふ、ふ、ふふ~♪ 箒ちゃん、また剣の腕前があがったねえ。筋肉の付き方を見れば分かるよ。やあやあ、お姉ちゃんは鼻が高いなぁ」
「…………」
「えへへ、無視されちった。とうくん、慰めて♪」
「はい。よしよし」
「ありがとう……はい、フィッティング終了~。超速いね。さすが私。さあ、褒めて褒めて」
更にずずいっと僕に頭を差し出してくる、束さん。
何だか、えらく懐かれてしまったな。
「はい。ご苦労様でした。凄かったですよ」
僕は苦笑しながら束さんの頭を撫で続けた。
ラウラちゃんと鈴ちゃんと簪ちゃんが羨ましそうに見詰めてくる。
千冬さんと箒さんは驚愕の表情を浮かべている。
「あの専用機って篠ノ之さんがもらえるの……? 身内ってだけで」
「だよね。なんかずるいよねぇ」
女生徒達から不平不満の声が聞こえてきた。
「おやおや、歴史の勉強をした事がないのかな? 有史以来、世界が平等であった事など一度も無いよ」
束さんにピンポイントに指摘を受けた女生徒は気まずそうに作業に戻る。
それを別段どうでもいい様に流して束さんは調整を続ける。というか、発言の間もずっと手は止まっていない。
「後は自動処理に任せておけばパーソナライズも終わるね。あ、いっくん、白式見せて。束さんは興味津々なのだよ」
「え、あ。はい」
一夏が集中して白式を呼び出す。
一瞬で装着される白式。
「データ見せてね~うりゃ」
言うなり、白式の装甲にコードを刺す束さん。
すると、先程と同じ様に空間ディスプレイが浮かび上がる。
「ん~……不思議なフラグメントマップを構築してるね。なんだろ? 見たことないパターン。いっくんが男の子だからかな? あっ、とうくんのISも見せてくれる? 比較しよう」
「了解しました」
僕は朱月・朧を呼び出した。
一瞬で身に纏われる愛機。
こちらの装甲にもコードを刺す束さん。
「う~ん。こっちも見たことのない不思議なフラグメントマップだね。白式とも類似点が見つからないや。同じ男なのに……ああ、血筋が関係しているのかもね」
「その事なんですが、束さん。どうして男の僕と一夏がISを使えるんですか?」
「ん?ん~……どうしてだろうね。私にもさっぱりだよ。ナノ単位まで分解すれば分かる気がするんだけど、していい?」
きっとこの分解には僕達も対象に含まれているんだろうな。
「「いい訳ないでしょ……」」
僕と一夏は揃ってため息を吐いた。
「にゃはは、そう言うと思ったよん。まあ、分からないなら分からないでいいけどねー。そもそもISって自己進化するように作ったし、こういう事もあるよ。あっはっはっ」
全然解決してないですよ、束さん。
まあ、開発者が分からなければしょうがないか。
「因みに
「そりゃ、私がそう設定したからだよん」
「え……ええっ!? 白式って束さんが作ったんですか!?」
「一夏、知らなかったの? あれ? 僕、教えなかった?」
「きっ、聞いてないよっ!! ってか、刀也は知ってたのかよ!!」
「にゃはは~とうくんは物知りさんだね。白式は欠陥機としてポイされてたのをもらって動くように弄っただけだけどね。でもそのお蔭で第一形態から
「馬鹿たれ。機密事項をぺらぺらバラすな」
《ぺしん!》
手加減抜きの打撃が束さんの頭に直撃する。
幾ら旧知の仲とはいえ、束さんに突っ込めるのは千冬さんだけだね。
「いたた。は~ちーちゃんの愛情表現は今も昔も過激だね」
「やかましい」
《ぺしん!》
更にもう一発突っ込まれた。
「え~ん。とうくん。ちーちゃんが苛める」
僕に泣きまねをして抱きつく束さん。
「はいはい。痛いの痛いの飛んでいけ!」
僕は頭を撫でながらお決まりの台詞を言う。
そこにセシリアさんが束さんに声を掛けてきた。
「あっ、あのっ! 篠ノ之 束博士のご高名はかねがね承っておりますっ。もしよろしければわたくしのISを見ていただけないでしょうか!?」
有名人であるところの束さんを前にして興奮しているのか、その眼は妙にきらきら輝いている。
「はあ? 誰だよ君は。金髪は私の知り合いにいないんだよ。そもそも今は箒ちゃんとちーちゃんといっくんと数年ぶりの再会なんだよ。しかも、とうくんに慰めてもらっているんだよ。どういう了見で君はしゃしゃり出て来てるのか理解不能だよ。っていうか誰だよ君は」
突然の冷たい言葉。言葉だけでなく視線も、そして口調もかなり冷たい。
「え、あの……」
「うるさいなあ。あっちいきなよ」
「う……」
ここまで明確に拒絶されるとさすがのセシリアさんもしょんぼりと引き下がった。
あちゃー、下手すると僕もあういう態度を取られていたわけか。
でもなんで僕に興味を持ったんだろう?
しかも何故か甘えてきているしね。
「ふー、へんな金髪だった。外国人は図々しくて嫌いだよ。あっ、でもくーちゃんは特別だね。それにやっぱ日本人だよね。日本人さいこー。まあ、日本人もどうでもいいんだけどね。箒ちゃんとちーちゃんといっくんととうくん以外は」
また、くーちゃんか。
彼女も僕と一緒、多分夜の一族なんだろうけどね。
「なんで僕も含まれているんですか?」
「ん? そうだね、くーちゃんと一緒って事もあるけど君に興味が湧いたからね。まあ、インスピレーションが合った感じかな」
先程と違ってにっこりと微笑む束さん。
まあ、嫌われるよりはいいけど何か釈然としない気持ちもあるよな。
「あっ、そうだ。いっくんさー、白式改造してあげようか?」
「え。えーと……因みにどんな改造ですか?」
「うむ。執事の格好になるなんてどうかな。いっくんには前々から燕尾服がにあうと思っていたんだよ。あるいはメイド服」
よし、今の内に巻き込まれない様に離れよう。
隙を突いて神速まで発動して退避した。
一夏、君の犠牲は無駄にはしないよ。
「アンタ、何敬礼しているのよ。ってか、何で篠ノ之博士と仲がいいの!!?」
鈴ちゃんが僕の肩を乱暴に揺すって詰問してくる。
「ちょ!!? しゃっ、しべれ……!!?」
僕は眼を回して喋ることすら出来ない。
「おっ、落ち着いて……」
簪ちゃんがおろおろと鈴ちゃんを止めようと声を掛けている。
「止めろ、鈴。嫁が眼を回している」
ラウラちゃんが鈴ちゃんの肩を叩いて止めてくれた。
ああ、世界が回ってるよ~うえっぷ。
そんな漫才をしている内に紅椿の試運転が開始されていた。
僕の予感通りに新たに得た力に酔いしれている箒さん。
いけない兆候かもね。
今一度箒さんに力を振るう意味を問い質さないといけないね。