IS~朱月の守護者~   作:Mr.凸凹

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第26話

 

 

 

 

 

 僕が箒さんが力に溺れているのを心配していると、千冬さんは束さんを厳しい眼で見つめていた。

 

「たっ、たっ、大変です!おっ、おっ、おっ、織斑先生っ!」

 

 いきなりの山田先生の声に、僕は思考を千冬さんは鋭い視線をやめて向き直った。

 しかも何時もの様な慌て方ではなく、切羽詰まったものを感じられる。

 

「どうした?」

「こっ、こっ、これをっ!」

 

 手渡された小型端末の画面を見て千冬さんの表情があからさまに曇った。

 何やらきな臭い雰囲気が漂っている。

 

「特務任務レベルA、現時刻より対策を始められたし……」

 

 やっぱり厄介事か。しかも特務任務レベルA、尋常じゃない事態だ。

 

 それから千冬さんは山田先生と小声でやり取りしていたが途中から会話でなくハンドサインに切り替えた。

 

 読唇術は覚えがあって唇の動きから会話を推測出来るが、ハンドサインは独自の法則があってそれを理解していないと判別は難しい。

 しかも普通の手話ではなくどうやら軍関係の暗号手話らしい。

 

「そっ、そっ、それでは、私は他の先生達にも連絡してきますのでっ」

「了解した。――全員、注目!」

 

 山田先生が走り去った後、千冬さんは手を叩いて全女生徒を振り向かせる。

 

 

「現時刻よりIS学園教員は特殊任務行動へ移る。今日のテスト稼働は中止。各班、ISを片付けて旅館に戻れ。連絡があるまで各自室内待機すること。以上だ!」

「え……?」

「ちゅっ、中止? なんで? 特殊任務行動って……」

「状況が全然わかんないんだけど……」

 

 つい半年前まで一般人だった女の子達には理解が追いついていない。

 

「とっとと戻れ! 以後、許可無く室外に出たものは我々で拘束する! いいな!!」

「「「はっ、はいっ!」」」

 

 全員が慌てて動き始める。

 事態を理解したのではなく千冬さんの怒号に怯えているかの様であった。

 

「専用機持ちは全員集合しろ! 織斑、月村、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、凰、更識!――それと、篠ノ之も来い」

「はい!」

 

 箒さんは妙に気合の入った返事をしている。

 ああ、これは駄目だ。

 新たに手にした力に完全に浮かれている子供そのものだ。

 このままだと自分だけでなく周りまで巻き込んで破滅する恐れがある。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

「では、現状を説明する」

 

 旅館の一番奥に設けられた宴会用の大座敷・風花の間に僕達専用機持ち全員と教師陣が集められた。

 大型の空中投影ディスプレイが浮かんでいる。

 

「二時間前、ハワイ沖で試験稼動にあったアメリカ・イスラエル共同開発の第三世代型の軍用IS“銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)”が制御下を離れて暴走。監視空域より離脱したとの連絡があった」

 

 

 チィッ!! よりによって軍用ISが暴走しただとっ!!

 洒落になってない。

 一つ間違えれば命に関わる。

 

 一夏と箒さん以外は真剣な表情をしている。

 国家代表候補生ということもあって緊急時に対しての訓練も受けているのだろう。

 特にラウラちゃんは軍属ということもあってこの中で一番事の重大さに気がついているのだろう。

 その眼差しは真剣そのものだ。

 

「その後、衛星による追跡の結果、福音はここから二キロ先の空域を通過することがわかった。時間にして五十分後。学園上層部からの通達により、我々がこの事態に対処することとなった」

 

 それで僕達が集められたのか。

 だが、これは言わば戦闘になる。

 競技ではなく下手をすれば命の遣り取りだ。

 

「教員は学園の訓練機を使用して空域及び海域の封鎖を行う。よって、本作戦の要は専用機持ちに担当してもらう」

 

 訓練機より専用機の方が勝率が高いが軍用ISに対して競技用に調整された機体で何処までやれるだろうか。

 

「それでは作戦会議をはじめる。意見があるものは挙手するように」

「はい」

 

 早速、セシリアさんが挙手をする。

 

「目標ISの詳細なスペックデータを要求します」

「わかった。ただし、これらは二ヵ国の最重要軍事機密だ。けして口外はするな。情報が漏洩した場合、諸君には査問委員会による、裁判と最低でも二年の監視がつけられる」

「了解しました」

 

 当然だ。

 情報とはそれほど重い意味を持つ。

 

 そして僕達は開示されたデータを元に相談をはじめる。

 

「広域殲滅を目的とした特殊射撃型か……厄介だね。僕のISは相性良くないな」

「ええ、わたくしのISと同じく、オールレンジ攻撃を行えるようですわね」

「攻撃と機動の両方に特化した機体ね。しかも、スペック上ではあたしの甲龍を上回ってるから、向こう方が有利……」

「この、特殊武装が曲者って感じはするね。ちょうど本国からリヴァイヴ用の防御パッケージが来てるけど、連続しての防御は難しい気がするよ」

「しかも、このデータでは格闘性能が未知数だ。持っているスキルもわからん。偵察は行えないのですか?」

 

 僕達は千冬さんに視線を向ける。

 

「無理だな。この機体は現在も超音速飛行を続けている。アプローチは一回が限界だろう」

「それに、高機動型だから一度抜かれると追い付けない可能性が高いよ。一撃必殺の攻撃力を持った零落白夜が最適だけど……」

 

 僕の台詞に全員の視線が一夏に集まる。

 

「はいっ!!? おっ、俺がやるのか!?」

「無理なら強制はしないよ、一夏。これは競技じゃなくて戦闘だ。僕の朱月・朧でも零落白夜をストックしていけばなんとかなる。でも一夏はこんな時に尻尾巻いて逃げ出す奴じゃないんだよね」

 

 僕はため息を吐きながら一夏を見詰める。

 僕の親友はある意味馬鹿正直な男だよね。

 

「分かった、俺がやる!」

 

 一夏は拳を握りながら力強く宣言した。

 

「じゃあ、後の問題は一夏をどうやってそこまで運ぶかだよね。エネルギーは全部攻撃に使わないと難しいだろうしね。失敗した時用に後詰めも必要だろうし……」

「白式を運ぶのは目標に追いつける速度が出せる機体でなければいけないな。超高感度ハイパーセンサーも必要だろう」

 

 僕達は意見を出し合って最適な方法を模索する。

 

「呼ばれてないけど飛び出てパンパカパーン♪」

 

 天井に全員の視線が集中する。

 

 何やっているんですか、束さん。

 

「月村。排除しろ」

「Yes mam!」

 

 くるりんと空中で一回転している束さんに鋼糸を巻きつけて拘束する。

 何故かその巻き方は僕の意思に反して亀甲縛りであった。

 

「おおっ!!? SMプレイ!!? いや~ん、とうくんのエッチッ♪ それよりもちーちゃん、ちーちゃん。いい作戦が私の頭の中にナウ・プリンティング!」

「……出て行け」

 

 頭を押さえながらため息を吐く、千冬さん。

 

 僕は縛った束さんを外へと連れ出そうと試みるもするりと拘束から逃げられた。

 

「聞いて聞いて! ここは断・然!紅椿の出番なんだよっ!」

「なに?」

「紅椿のスペックデータ見てみて! パッケージなんかなくても超高速機動ができるんだよ!」

 

 何だか嫌な予感がする。

 まさか、紅椿、延いては箒さんの華々しいデビューのために今回の暴走は仕組まれたものではないだろうか?

 いや、考えすぎだよね。

 

「紅椿の展開装甲を調整して、ほいほいほいっと。ホラ! これでスピードはばっちり!」

「展開装甲!!? 月村重工(うち)でも研究されているけど未だ実現の目処が立っていない第四世代型って事ですか!」

「その通り! 天才束さんが作った第四世代型のISの装備なんだよ」

 

 僕の驚きの声に束さんはピースサインをしながら答えた。

 

「試しに白式の“雪片弐型”に突っ込んで上手くいったから、紅椿は全身のアーマーを展開装甲にしてあります。イェ~イ♪」

「それってつまり状況に応じてアーマーを切り替えて幾らでも対応出来るって事ですよね」

「うん。これぞ第四世代型の目標である即時万能対応機(リアルタイム・マルチロール・アクトレス)ってやつだね。にゃはは、私が早くも作っちゃったよ。ぶぃぶぃ」

 

 洒落になってないよ。さすがはISの生みの親の()()科学者の篠ノ之 束博士。

 

 千冬さん以外は場の一同が静まり返って言葉もない。

 

「はにゃ? あれ? 何でみんなお通夜みたいな顔してるの? 誰か死んだ? 変なの」

 

 無理もない。各国が多額の資金、膨大な時間、優秀な人材の全てをつぎ込んで競っている第三世代型ISが無意味だと言われている様なものなんだからね。

 

「――束、言ったはずだぞ。やりすぎるな、と」

「そうだっけ? えへへ、ついつい熱中すちゃたんだよ~」

 

 てへぺろっ♪ と舌を出して戯ける束さん。

 

「まー、あれだね。今回の話は紅椿のスペックをフルに引き出したら、って話だからね。でもまあ、今回の作戦をこなすくらいは夕飯前だよ!」

「夕飯前……つまり、朝飯前よりも次元を超えて容易いって事ですね」

 

 何かさっきから僕が何故か話し相手というか突っ込み役になっている?

 まあ、懐かれてるし適役かな。

 

「それにしてもアレだね~。海で暴走っていうと、白騎士事件を思い出すねー」

「そうですね。アレってどこかの誰かのマッチポンプって噂がありますけど、本当ですかね? しかも白騎士の搭乗者はその人の身近な関係者って話ですよね?」

 

 僕は笑顔で、しかし眼だけは笑わずに問いかけた。

 うん。ポーカーフェイスしてるつもりだけれど、千冬さん。額に汗が一筋流れていますよ。

 

「にゃはは~♪ まあ、あの事件のお蔭でISの有効性が世界に広まった訳だしね。うん、よかったよかった」

「まあ、冗談はこれくらいにして作戦を詰めましょうか」

「ごほん……そうだな。束、紅椿の調整にはどれくらい掛る?」

「そうだね。七分あれば余裕だね★」

「よし。では本作戦では織斑・篠ノ之両名による目標の追跡及び撃墜を目標とする。作戦開始は三十分後。各員、ただちに準備にかかれ」

「僕は朱月・朧で後詰めに回ります」

「構わん。好きにしろ」

 

 さてとお許しも出たし、随行しないとね。

 まあ、最大加速は紅椿に負けているから戦闘時には間に合わないだろうけどもしもの時は役に立てる。

 

「なのはさん……拡張パーケージの“風林火山”の風の型を調整並びに量子変換(インストール)をお願いします」

「うん。お任せあれだよ」

 

 僕達は急いで月村重工から届いているコンテナに向かっていった。

 

 因みに拡張パーケージの“風林火山”は状況に応じて展開する事により擬似代四世代型といえる性能を発揮する。

 風の型は機動力アップがメイン。林の型は隠密行動がメイン。火の型は攻撃力アップがメイン。山の型は防御力アップがメインである。

 欠点としては起動変更に時間が掛るという事か。

 戦闘中に装備換装を行うには、まだまだ自殺行為なほど時間が掛る。

 ゆくゆくは第三.五世代型といえるくらいに改良して使いこなす必要がある。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 時刻は十一時半。

 一夏と箒さんは並んで、僕は離れた場所に立っている。

 

「来い、白式」

「行くぞ、紅椿」

「纏え、朱月・朧」

 

 一瞬で光と共に展開されるISアーマー。

 それと同時にPICによる浮遊感、パワーアシストによる力の充満感で全身の感覚が変化する。

 

 僕が拡張パーケージの“風林火山”の風の型の具合を見ている内に一夏の白式が箒さんの紅椿の背中に乗った。

 

 箒さんの表情と台詞を見る限り確実に与えられた紅椿(オモチャ)に高揚している子供そのものだ。

 

 はぁ~僕は一夏の護衛として一緒に戦いたいが機動力の違いで遅れて随行するしかない。

 最悪の事態も想定して動かなければならないか。

 時間があれば箒さんと話して力を振るう意味を思い出してもらう事も可能だろうが、今の状態では話しても聞き入れてもらえないだろう。

 ならば、僕の任務は失敗した時に自分も含めて離脱する事を優先しなければならない。

 

『月村……すまないが篠ノ之の尻拭いを頼んだ』

 

 箒さんの様子を危惧した千冬さんが個人間秘匿通信(プライベート・チャネル)で話しかけてきた。

 

「了解しました」

 

 僕はため息を吐きそうになるのを我慢して頷いた。

 

 

 

 

 そして白式を乗せた紅椿が飛び立った。

 あれほどの加速では幾らなんでもエネルギー消費量が莫大なんじゃないだろうか。

 必死に紅椿に追い縋ろうとするもやはり距離を開けられてしまう。

 作戦開始時間にはやはり追いつけないか。

 僕は嫌な予感に歯軋りしながら高速飛行を続けて行く。

 

 

 

 

 

 やっと目視で二人を捕らえられる距離まで詰めた時、一夏が箒さんを庇って被弾した事が眼に映った。

 くそ!! やはり嫌な予感が的中した!!

 

 僕は全神経を総動員して神速の重ね掛けを行う。

 景色がモノークロームに変化して世界がゆっくりとなる。

 あっという間に二人を庇う様に銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)にもっとも得意とする御神流・奥義の六、薙旋(なぎつむじ)を叩き込んだ。

 

 ぐはぁ!!? 全身が軋んで頭痛が酷い。

 

「さっさと一夏を連れて撤退しろ、箒さん!!」

 

 僕が叫ぶ様に声を掛けると箒さんは眼に涙をためながら一夏を揺すっていた。

 

「一夏っ、一夏っ、一夏ぁっ!!」

 

 僕は舌打ちしながら箒さんを蹴り飛ばした。

 

「なっ、何をするっ!!」

 

 一瞬の遅れて二人が居た空域を光弾が通り過ぎた。

 

「僕が時間を稼ぐから、箒さんは一夏を連れて早く!!」

「だっ、だがっ……!!?」

 

 涙目で必死に一夏を抱き寄せている箒さん。

 

「足手まといなんだよ!! 一夏を死なせる気か!!」

 

 僕は光弾を掻い潜ったり、二人に当たる光弾を弾け飛ばしたりしながら叫んだ。

 

「…………」

「行け!! 篠ノ之 箒!! 惚れた男を死なせるな!!」

 

 再び叫んだ僕の声を聞いて、先程の最大速度には程遠いが箒さんが一夏を抱えて飛び去っていった。

 

「さてと、残念ながら現在零落白夜のストックは零……出来て時間稼ぎか」

 

 僕は息を整えるように集中していく。

 

「悪いが少しばかり付き合ってもらうぞ!!」

 

 再接近した時のために少しでもダメージを蓄積させておく必要がある。

 

 僕の気合に答えてか朱月・朧が新たな力を提示した。

 斬月による斬撃を拡大化して増幅化と斬撃を発射する機能。

 溜めの時間が長ければ長いほど斬撃の威力と射程距離が伸びる。

 

 これで蹂躙乱舞と合わせて勝つ事は難しくとも負ける事無く戦える。

 だが履き違えるな。今は敵戦力の削りと時間稼ぎだ。

 この戦いは一人ではない。

 

 僕は自分の力を振るう意味を改めて自己に問いかける。

 

 わが剣は守るために!!

 でもそれは他人のためじゃなくて、結局自分のためなんだ。

 自分がしたいからそうする。

 我ながら自己満足も甚だしいがね!!

 

 

 

 

 

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