IS~朱月の守護者~   作:Mr.凸凹

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第27話

 

 

 

 

 

 時間は午前四時。

 旅館の一室で一夏はもう三時間以上眼を覚ましていない。

 ISの防御機能を貫通して人体に届いた熱波に焼かれ、一夏の体の至る所に包帯が巻かれている。

 

「……………」

「何時までそうしているつもり……?」

 

 僕の問い掛けにも答えず箒さんは拳を握り閉めながら項垂れていた。

 

「篠ノ之 箒!!」

 

 僕は箒さんの肩を揺すって顔を上げさせて眼を覗き込んだ。

 

「お前は成すべき事があるのに何もしないのか!!?」

「わっ、私……は、もうISは……使わない」

 

 はぁ~まったく手の掛る友達だ。

 その弱さ嫌いじゃないがそれではいけない。

 

「問おう!! お前にとって力とは……剣とは何か!!?」

「……わっ、私にとって剣は……剣術は……己を鍛えるものではなく、律するもの……」

 

 なるほど、それは言葉通り自分を抑えるもの。つまりは枷。

 自分の心の弱さで暴走する力を押さえ込むための抑止力。

 

「なるほど……剣を……力を振るうのが怖くなったのか? 力の魔力に溺れる自分の弱さが嫌いなんだな」

「……そうだ!! 私は弱い!! 力を手にして溺れた!!」

 

 箒さんは心の内をぶちまける様に叫んだ。

 

「力は所詮力。自らの信念を貫くための道具……」

「……刀也。お前は何のために力を……剣を振るんだ?」

 

 箒さんは涙眼で縋る様に見つめてくる。

 

「生きるためかな。でも、ただ生きるだけじゃなくて楽しく生きるためだよ。そのために仲間を守る。一人だと生きていてもつまらないだろう。人は一人では生きていけないんだ。楽しく生きるために仲間を守るんだ。でもそれは他人のためじゃなくて、結局自分のためなんだ。自分がしたいからそうする。我ながら自己満足も甚だしいけどね」

「……自分のために剣を振るう」

 

 箒さんは眼を見開きながら僕を見詰めている。

 

「改めて問おう!! 篠ノ之 箒!! お前は成すべき事があるのに何もしないのか!!?」

「わっ、私も自分のために戦う!! 戦って勝つ!!もう迷わない!! 弱い自分にも負けない!!」

 

 箒さんは揺ぎ無い決意を宿して立ち上がった。

 

「ありがとう……刀也」

「どういたしまして……よかった。僕の拙い言葉でも箒さんに伝える事が出来て……」

 

 僕は苦笑しながら立ち上がり、体を解す様に伸びをした。

 

「それにしても、刀也。お前がそこまで利己的だとは思わなかったぞ」

「あはは……僕も結局は弱いんだよ。弱いからこそ自分のために戦うんだ」

「そうか。弱いか……私と同じだな」

 

 僕達は顔を見合わせて噴出す様に笑った。

 

 笑い声を遮る様に扉が開かれた。

 

「刀也。銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の現在地が判明した。ここから三十キロ離れた沖合上空に発見した。ステルスモードに入っていたが、どうも光学迷彩持っていないようだ。衛星による目視で発見したぞ」

「さすがはドイツ軍IS配備特殊部隊“シュヴァルツェ・ハーゼ”隊長だね」

「当然だ……だが本当に待機命令を無視して出撃するのか?」

 

 ラウラちゃんは僕の真意を探る様に尋ねてきた。

 

「本当は千冬さんに逆らいたくはないんだけれどね……でも、一夏を傷つけられて黙って見ていられるほど僕は強くない」

 

 僕は戯ける様に言いながらも眼に強い意志を宿して答えた。

 

「仕方ない、嫁だ。心配だから付き合おう。それに私だけではない」

 

 ラウラちゃんが扉に眼をやると直ぐに開かれた。

 

「甲龍の攻撃特化パッケージのインストール終わったわ。あたしも付き合う」

「わたくしもご一緒いたしますわ」

「僕も準備OKだよ」

「刀也……私も一緒に行く」

「皆……ありがとう。箒さんはどうするの?」

 

 僕が問いかけると箒さんは苦笑しながら答えた。

 

「仕方ない奴らだ。勿論、私も同行するぞ」

「よし、それじゃあ作戦会議といきますか。今度こそ確実に墜とすよ」

「ああ!」

 

 僕達は掌を重ね合わせて自分達を鼓舞した。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 海上二千メートル。そこで静止している“銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)”はまるで胎児の様な格好で蹲っていた。

 膝を抱く様に丸めた体を、守る様に頭部から伸びた翼が包んでいる。

 だが片翼が捥がれており、その守りは完全ではない。

 不意に福音が顔を上げると超音速で飛来した砲弾が頭部を直撃して大爆発を起こした。

 

「初弾命中。続けて砲撃を行う」

 

 五キロ離れた場所に浮かんでいるラウラちゃんとシュヴァルツェア・レーゲンは福音が反撃に移るよりも早く次弾を発射した。

 福音があっという間にラウラちゃんとの距離を詰めていく。

 砲戦パッケージ“パンツァー・カノニーア”を装備したシュヴァルツェア・レーゲンはその反動相殺のために機動との両立が難しい。

 

 福音の伸ばした腕がラウラちゃんに触れ様とするのを海面下に隠れていた僕は切り弾いた。

 

『敵機Bを認識。排除行動へと移る』

「舐めるな!! はぁあああああッ!!」

 

 休む間も与えず、次々と斬撃を繰り出して福音を追い詰めていく。

 その際に蹂躙乱舞を発動させて福音のシールドエネルギーを奪っていく。

 

『……優先順位の変更。現空域からの離脱を最優先に』

 

 全方向にエネルギー弾を放つ福音。

 だが片翼のせいか、その弾幕は薄い。

 福音は全スラスター噴かせて強行突破を図る。

 

「甘いよ!!」

 

 僕は斬月を握り締めて斬撃を拡大化させて射出して、自分もその斬撃の追い縋る様に福音に肉薄して斬撃を繰り出していく。

 

「逃がしはしない。お前はここで墜としてやる!!」

 

 僕は分割思考(マルチタスク)を使用して福音の行動を具に観察してその行動を上回り攻撃を続けていく。

 僕の攻撃をサポートする様に、ラウラちゃんのシュヴァルツェア・レーゲンの砲弾や、鈴ちゃんの甲龍の機能増幅パッケージ“崩山”で計四門の衝撃砲や、セシリアさんのブルー・ティアーズの大型BTレーザーライフル“スターダスト・シューター”や、箒さんの紅椿の“雨月”のレーザーと“空裂”のエネルギー刃や、簪ちゃんの打鉄弐式の“春雷”や、シャルロットさんのラファール・リヴァイヴ・カスタムIIの射撃が福音の背後から行われている。

 

「止めだ!!」

 

 僕は皆の攻撃で動く事が出来ない福音に対して、溜めに溜めた御神流・奥義の六、薙旋(なぎつむじ)を放った。

 斬撃が拡大化されて攻撃力が増幅化された薙旋(なぎつむじ)は福音を海面に叩き落して水柱を上げた。

 

「勝った……?」

 

 誰かがそう言った瞬間、海面が強烈な光の珠によって吹き飛んだ。

 

「何だっ!!?」

 

 球状に蒸発した海は、まるでそこだけ時間が止まっているかの様に窪んだままだった。

 その中心には青い雷を纏った“銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)”が自らを抱くかの様に蹲っている。

 

「!? まずい! これは――“第二形態移行(セカンド・シフト)”だ!」

 

 ラウラちゃんが叫んだ瞬間、まるでその声に反応したかの様に福音が顔を向ける。

 

「各機独自判断にて攻撃!!」

 

 僕は叫ぶと同時に神速を発動して福音に肉薄する。

 

 幾ら斬月により斬撃が射出出来る様になっていても、慣れていない遠距離戦では福音相手にすると僕は落とされてしまう。

 更に一度離されると機動力の違いで簡単には追い縋れない。

 

 初撃を与えると同時に再び神速を連続で発動させて斬撃を切れ間なく繰り出していく。

 福音が墜ちるのが先か神速の発動限界数を超えるのが先かの勝負だ。

 

 皆の援護射撃もあり徐々に福音のシールドバリアーを削っていけている。

 

 だがあと少しで福音のシールドエネルギーを削りきれると思われるところまで来て神速の発動限界数を超えた。

 

 ぐっがぁ!!? 体が軋む!! 頭痛で五感が麻痺する!!

 

 福音は痛みに止まった隙を突いて僕の首を鷲掴みにした。

 

「ぐっ、はぁ……!!?」

 

 福音の手は硬く僕の首を締め上げて離さず、皆の射撃はエネルギー状に進化した“銀の鐘(シルバー・ベル)”に阻まれて届いていない。

 

 朱月・朧の装甲は徐々に破壊され、シールドエネルギーも底を尽き掛けている。

 

 やばい!! これって絶体絶命のピンチってやつだよね。

 僕ここで死ぬのかな?

 ごめんね。ラウラちゃん、鈴ちゃん、簪ちゃん。

 ごめんね。父さん、母さん、雫姉、紫乃姉。

 それと一夏。君にもう一度君に逢いたかったよ。

 

 僕は諦めかけて腕の力を抜きかけた。

 

《ィィィィンッ……!!》

 

『!?』

 

 突然、福音は掴んでいた手を離した。

 

 何だ!!? どうして手を離した。

 

 その答えは直ぐに分かった。

 

「俺の仲間は、誰一人としてやらせねえ!」

 

 朱月・朧のハイパーセンサーには第二形態移行(セカンド・シフト)した白式・雪羅が映っていた。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

「やあ、親友。えらく遅い登場だね」

「一夏っ!!体は、傷はっ……!」

 

 僕が皮肉めいた笑顔を浮かべていると箒さんが文字通り素っ飛んできた。

 

「おう。待たせたな」

「よかっ……よかった…本当に……」

「感動の再会に水差す様で悪いけどシールドエネルギー少し分けてもらうよ」

 

 僕はしれっと白式・雪羅から蹂躙乱舞でシールドエネルギーを掠め取って、自己修復機能を瞬間化させて朱月・朧の装甲を回復させて更に零落白夜をストックした。

 

「はぁ!!? 何それ!!? 助けにきた奴から奪って回復するのか、お前はっ!!」

「やかましい!! べっ、別に一夏と並んで戦うために回復して零落白夜をストックした訳じゃないんだからね!!」

 

 僕は照れた様に一夏から顔を逸らして叫ぶ様に言い放った。

 

「ぷっ! あっはっはっはっ! とっ、刀也! お前という奴はっ!」

 

 何故か箒さんが爆笑していた。

 

 えっと……湿っぽくならなくてOKかな。

 だっ、誰だ!! ツンデレ乙っていった奴はっ!!

 

「はぁ~もういいよ……そうだ、箒。丁度よかった。これ、やるよ」

「え……?」

 

 一夏は持っていた物を箒さんに手渡した。

 

「りっ、リボン……?」

「誕生日、おめでとうな」

「あっ……」

 

 眼の前で甘酸っぱい青春ドラマが巻き起こされている。

 

 僕は拡張領域(バススロット)から輸血用パックを取り出して煽る様に飲み干した。

 

 べっ、別に自棄呑みじゃないからね!!

 回復のために完全栄養食である血を摂取しただけだからね!!

 

「それ、折角だし使えよ」

「あっ、ああ……」

 

 一夏にリボンを手渡されて箒さんはすっかり恋する乙女の表情になっていた。

 

「さてと、一夏。まだ、終わってないよ」

「ああ、再戦といくか!」

 

 僕の呼び掛けに答える、一夏。

 

 言うなり、同時にこちらに向かって来ていた福音に急加速して正面からぶつかった。

 

 僕と一夏は互いの攻撃の隙を埋める様に零落白夜を込めた斬撃を繰り出していく。

 

「「逃がさねえ!」」

 

 僕と一夏の攻撃は徐々に福音を追い詰めていく。

 皆の援護射撃もあり、撃墜は容易く感じられる。

 福音の掃射反撃は白式・雪羅の左腕が変形して零落白夜のシールドで相殺防御していく。

 

「「うおおおおっ!」」

 

 僕と一夏は共に二段階瞬時加速(ダブル・イグニッション)を発動させて福音に肉薄する。

 

『状況変化。最大攻撃力を使用する』

 

 福音の機械音がそう告げると、それまでしならせていた翼を自身に巻きつけてはじめる。

 それは直ぐに繭状になって、エネルギーの繭に包まれた状態へと変化した。

 

 やばい!! アレは洒落になってない。

 

 僕の勘が警鐘を鳴らした。

 

 翼が回転しながら一斉に開き、全方位に嵐の様なエネルギーの弾雨を降らせる。

 

 まずい!! 皆シールドエネルギーが尽き掛けているところにこの攻撃は駄目押しのダメージと成り得る。

 

 皆散会して直撃は避けているがこの攻撃量の前では時間の問題だ。

 

「一夏!」

「おう!」

 

 僕と一夏は弾雨を撒き散らしている福音に迫っていく。

 

 

 

 

 

「ぜらあああっ!!」

「はああああっ!!」

 

 僕と一夏の零落白夜の光刃がエネルギー翼を断つ。

 しかし、福音本体に攻撃を加える前に回避されてしまう。

 そうしている間に失った翼は再度構築されて、僕達に強力無比な連続射撃を行ってくる。

 

「くっ!」

「くそっ!」

 

 朱月・朧と白式・雪羅のエネルギーが底を尽き掛けている。

 

 まずい!!

 あと少しの筈なのに先にこちらがガス欠になりそうだ。

 

「一夏! 刀也!」

「箒!?お前ダメージは……?」

「箒さん!? エネルギーは……?」

「大丈夫だ! それよりも、これを受け取れ!」

 

 箒さんの紅椿の手が僕の朱月・朧と一夏の白式・雪羅に触れる。

 その瞬間、全身に電流の様な衝撃と炎の様な熱が走り、一度視界が大きく揺れた。

 

「なっ、なんだ……?エネルギーが――回復!? 箒、これは――」

「なるほど、これが箒さんの――紅椿の単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)って訳なんだ」

「行くぞ、一夏! 刀也!」

「おっ、おう!」

「うん!」

 

 僕と一夏は意識を集中させて零落白夜のエネルギー刃を最大出力まで高める。

 

「うおおおっ!」

 

 福音は一夏の白式・雪羅の横薙ぎの一撃を縦軸一回転して回避する。

 

「はぁあああっ!」

 

 そこに一拍遅れて箒さんの紅椿の二刀が並び一断の斬撃でエネルギー翼を断ち切る。

 

「うぉおおおっ!!」

 

 続いて僕の朱月・朧の御神流・奥義の六、薙旋(なぎつむぎ)が零落白夜を纏って福音本体を切り裂く。

 

 銀色のISは解ける様に消え去った。

 アーマーを失い、スーツだけの状態になった操縦者が海へと落ちる前に僕は抱きとめた。

 

「終わったな」

「ああ……やっと、な」

 

 一夏と箒さんは肩を並べて空を仰ぎ見ていた。

 

「お疲れ様だったね」

 

 僕は福音の操縦者をお姫様抱っこしながら二人に声を掛けた。

 

 空は綺麗な茜色に染まっており、僕達を優しく包んでくれていた。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「作戦完了――と言いたいところだが、お前達は独自行動により重大な違反を犯した。帰ったら直ぐに反省文の提出と懲罰用の特別トレーニングを用意してやるから、そのつもりでいろ」

「……はい」

 

 勝利の余韻は千冬さんの有り難いお説教に吹き飛ばされていた。

 全員正座でもう彼此三十分経った気がする。

 セシリアさんの顔色が真っ赤から真っ青になり始めている。

 

 うん。間違えなく危険信号だね。

 

「あっ、あの、織斑先生。もうそろそろそのへんで……けっ、軽傷とはいえ怪我人もいますし、ね?」

「ふん……」

「じゃ、じゃあ、一度休憩してから診断しましょうか。ちゃんとISスーツを脱いで全身見せてくださいね。――あっ! だっ、男女別ですよ! 分かってますか、織斑くん、月村くん!?」

 

 分かってますよ。

 僕はさっきから視線を女の子に向けない様に注意しています。

 一夏は無自覚に視線を向けていそうだけどね。

 

「それじゃ、皆さん先ずは水分補給してください。夏はそのあたりも意識しないと、急に気分が悪くなったりしますよ」

 

 微温めのスポーツドリンクを受け通り、少しずつ飲んでいく。

 そして僕はゆっくりと部屋から出て行こうとする。

 

「…………」

「なっ、なんですか?織斑先生」

 

 一夏は千冬さんが無言で見詰めているのに耐えられなくて声を掛けた。

 

「……しかしまあ、よくやった。全員、よく無事に帰ってきたな」

「え? あ……」

 

 一夏は嬉しそうに表情を歪ませている。

 

 僕はその様子を横目で見ながらさっさと部屋から退出した。

 

「「「「「「…………」」」」」」

 

 あっ!!? やばい!! 一夏を部屋に置いてきた!!

 

「あの、織斑くん? 皆の診察をしますから、ええと――」

「「「「「「とっとと出て行け!」」」」」」

 

 六人の声に押されて、一夏が慌てて廊下に脱出してきた。

 

「刀也。お前な……出て行くなら声ぐらい掛けろよ」

「ごめん、ごめん」

 

 僕は苦笑しながら一夏の肩を叩いた。

 

「それにしても……」

「うん。僕達は仲間を守れたよ」

 

 僕と一夏は拳を合わせて心の底から微笑みあった。

 

 

 

 

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