毎朝の鍛錬を終えてシャワーを浴び終えると不意に部屋の扉がノックされた。
《コンコンコン》
「は~い。今出ます」
扉を開けるとラウラちゃんとシャルロットさんが佇んでいた。
「お早う、嫁よ。それと一夏」
「お早う、刀也、一夏」
「お早う、ラウラちゃん、シャルロットさん」
「おう、お早う。ラウラ、シャル」
「それで何の用かな?」
僕が尋ねるとラウラちゃんは姿勢を正して僕を見詰める様に見上げてきた。
「ああ……実は買い物行こうと思ってるのだが一緒にどうだ?」
「うん。僕は特に用事もないし、ご一緒させてもらうよ」
僕はにっこりとラウラちゃんに微笑みながら答えた。
「一夏はどうかな?」
「悪い、シャル。さっき連絡があってISの事で緊急の用事があるんだってさ」
「あうっ! ざっ、残念」
一夏が頭を掻きながら答えるとシャルロットさんは心底残念そうな表情を浮かべていた。
「まあ、三人で楽しんできてくれ。それじゃあ、俺は行ってくる」
一夏は急いで部屋を出て行った。
「ねえ、僕お留守番してようか? 刀也とラウラの邪魔になりそうだし……」
シャルロットさんは僕とラウラちゃんをちらちらと見ながら進言してきた。
「何言っているの、シャルロットさん。元々ラウラちゃんと二人で行く予定だったんでしょ。遠慮しないで」
「そうだぞ、シャルロット。わたしの服を選んでくれるんだろう?」
「わっ、分かった……それじゃあ、飛びっきり可愛いの選んであげる」
シャルロットさんはラウラちゃんの手を取りながら微笑みかけている。
「それじゃあ、何時に出かけようか?」
「うん。十時くらいに出ようかなって思ってるんだけど、どうかな?」
「待ち合わせは何処にする?」
「ふむ。学園前でいいだろう」
「了解。それじゃあ、後でね」
僕は二人を見送ってから朝食を取りに行ってから用意をした。
僕は変装用の眼鏡と帽子、ジーパンにポロシャツ、ショルダーバッグのコーディネートを選んで着替えた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
学園前で携帯で暇つぶしにネットをしていると暫くしてラウラちゃんとシャルロットさんがやって来た。
「お待たせ、刀也」
「待たせたな、嫁よ」
ラウラちゃんは黒を基調としたシックなデザインのサマーセーターでホットパンツに胸元に僕のプレゼントしたネックレスがワンポイントになっている。
シャルロットさんは白を基調として淡い水色をくわえて、涼しさと軽快さを醸し出している。
「僕も今来たところだよ」
僕は二人ににっこりと微笑みながら語りかけた。
「ラウラちゃんその服は?」
「これか? 鈴と簪が選んでくれたんだ」
ラウラちゃんはくるりと回ってポーズを取る。
これも鈴ちゃんと簪ちゃんからのアドバイスだろう。
「うん。よく似合っているよ」
僕はラウラちゃんの頭を撫でながら微笑みかけた。
「シャルロットさんも涼しげでよく似合ってるよ」
「ありがとう。刀也もその格好似合っているね」
「うむ。さすがは私の嫁だ。亭主として鼻が高い」
「あはは……そうかな?」
僕は照れくさくなって頬を掻いていた。
「それじゃあ、出発しましょうか、お嬢様方」
僕は自然とラウラちゃんに手を伸ばした。
ラウラちゃんは躊躇いもなく握り返してくれたが、シャルロットさんは羨ましそうに僕達を眺めている。
「よかったらシャルロットさんも繋ぐ?」
僕は冗談混じりに残りの腕を差し出して訊ねた。
「へっ!!? ううん、僕は遠慮しておくよ」
シャルロットさんは慌てて腕を振りながら拒否していた。
「何だ、嫁よ。シャルロットまで粉にかけるつもりか?」
ラウラちゃんが笑いながら茶々を入れてきた。
「まさか。他に思い人のいる子は口説かないよ」
僕は苦笑しながら首を振って否定した。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
駅前のデパートに入るとシャルロットさんは鞄から何やら雑誌を取り出して、それを案内図と交互に見ては何かを確認していた。
「うん、分かった。この順番で回れば無駄がないかな」
「ふむ」
「へぇ~」
「最初は服から見ていって、途中でランチ。その後、生活雑貨とか小物とか見に行こうって思うんだけど、二人ともそれでいい?」
「よく分からん。任せる」
「今日は付き添いだから任せるよ」
僕とラウラちゃんは揃ってシャルロットさんに頷く。
「ところでラウラ? スカートとズボンどっちがいいのかな?」
「ふむ、刀也。私としてはどっちでもいいが、嫁としては私にはどっちが似合っていると思う?」
ラウラちゃんはシャルロットさんの質問を僕にそのままパスしてきた。
「そうだね。僕としてはラウラちゃんの健康的な可愛らしさが引き立てられるなら、どっちでもいいよ。可愛い系も好きだし、クールなボーイッシュ系も好きだよ」
「二人ともそういうところそっくりだね」
シャルロットさんはため息を吐きながらやれやれと首を横に振っている。
「夫婦が似るのはよいことだ」
ラウラちゃんは誇らしげな顔で頷いている。
「はいはい、ご馳走様」
シャルロットさんは苦笑しながらもどこか羨ましそうだった。
先ずは七階へと上がって順番に見ていく事にした。
店に入ると店員や他のお客さんの視線が僕達に集中する。
まあ、二人とも
「ど、どっ、どんな服をお探しで?」
上擦った声を上げている店員は見るからに緊張している。
「えっと、取り合えずこの子に似合う服を探しているんですが、いいのありますか?」
「こっ、こちらの銀髪の方ですね! 今直ぐ見立てましょう! はい!」
何やら力一杯頷きながら展示品のマネキンから服を脱がせている。
それってセール対象外なんじゃないのかな?
僕の疑問を無視するかの様にラウラちゃんに宛がわれる。
「どっ、どうでしょう? お客様の綺麗な銀髪に合わせて、白いサマーシャツは」
「へぇ、薄手でインナーが透けて見えるんですね。ラウラはどう?」
「ふむ。嫁はどうだ?」
またもや僕へのスルーパス。
「よっ、嫁!!?」
何やら店員さんが僕とラウラちゃんを交互に見ている。
「このサマーシャツならデニムのハーフパンツでボーイッシュに纏めると良い感じだね」
「そうだね。そうするとインナーは……」
「Vネックのコットンシャツなんてどうでしょうか?」
「あ、いいですね、それ。色は同色系か、はたまた対照色か……う~ん」
店員さんとシャルロットさんはあれやこれやと楽しそうに服を選んでいく。
「鈴や簪と服を買いに来た時もそうだったが何がそんなに楽しいのだろうか」
ラウラちゃんは不思議そうに首を傾げている。
「ラウラちゃんが可愛いから着飾るのが楽しんだよ」
「そっ、そうか。可愛いか」
僕の言葉にラウラちゃんは照れた様に俯いた。
何時も言っているけど可愛いって言葉になかなか慣れていない様だね。
「さ、ラウラ。これに着替えてきて」
「分かった」
「試着室はこちらになります」
ラウラちゃんは連れられて試着室へと向かっていった。
「ところでシャルロットさんは服選ばなくていいの?」
「今日はラウラの服を買いに来てるからね。だってラウラって折角可愛いのに持ってる服少ないんだもん。しかもどれも一度刀也とのデートで着たことしかないって言うしさ。あ、でもあの猫の着ぐるみパジャマは気に入っているみたいだよ。あれも刀也の趣味なのかな?」
シャルロットさんは口元に手を持っていき、忍び笑いを隠しながら訊ねてきた。
どうしよう。
僕が猫フリークな事隠しても仕方ないけど簡単に認めるのも癪だよね。
「えっと……その……」
「隠さなくてもいいじゃない。ラウラが刀也が選んでくれたって嬉しそうに惚気ていたよ」
あうっ!! あっ、穴があったら入りたい!!
やめて!! そんな眼で見ないでっ!!
「……着替えたぞ」
ラウラちゃんが試着を終えて扉を明ける。
「どうだ、嫁よ。似合うか?」
「うん。こういうクール系も僕の好みでラウラちゃんに似合っているよ」
「そっ、そうか……」
ラウラちゃんは歯切れが悪く答えている。
「ラウラちゃん自身はどうなの?」
「もっ、もう少し、可愛いのがいいな……」
僕が尋ねるとラウラちゃんは節目がちに照れくさそうに答えた。
「うん。可愛い系も僕は大好きだよ」
「ちょっと待っててね。可愛いのがいんだね!? 直ぐ見繕うから」
シャルロットさんはラウラちゃんの表情を見て熱が篭った言葉で頷いている。
「で、で、どんなのがいい? 色とか、形とか、希望ある?」
「そっ、そうだな。それなりに露出度のあるのがいいな……」
ラウラちゃんは僕をちらちらと横目で見ながらシャルロットさんの質問に答えている。
「ん、わかった!」
シャルロットさんは店員さんの元に戻ると、服の物色を始める。
二十分後、着替え終わったラウラちゃんが試着室から出てくると、店内の全員が息をのんだ。
「うわ、すっごくキレイ……」
「妖精みたい……」
周りの視線を受けて、さすがのラウラちゃんも照れくさそうな顔をする。
着ている服は肩が露出した黒いワンピース。
部分部分にフリルのあしらいががあって、可愛らしさを演出している。
ややミニよりの裾がラウラちゃんの超俗的な雰囲気と相俟って、言葉通り妖精さながらの格好である。
「くっ、靴まで用意したのか、驚いたぞ」
「折角だもん、ミュール履かないとね」
「お嬢様、お手をどうぞ」
僕は初めて履くであろうヒールの靴にラウラちゃんが躓かない様に手を取った。
「すっ、すまんな……どっ、どうだ、嫁よ。似合っているか?」
「ええ、とってもお似合いですよ。お嬢様」
僕は跪いて取っていた手の甲にキスをした。
「しゃ、写真撮らせてもらっていいかしら!?」
「わっ、私も!」
「握手して!」
「私も私も!」
何故だか一気に囲まれる僕とラウラちゃん。
店内だけでなく、騒ぎに集まってきた店外の人まで輪に入ってきて、辺りはしばし騒然となった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ふう、疲れたな」
「まさか最初のお店であんなに時間を使うとは思わなかったね」
「まあ、ラウラちゃんが可愛すぎたからいけないんだよね」
「半分は刀也のせいだと思うけど……」
僕をジト目で睨んでくるシャルロットさん。
「えっ!!? 何で?」
「少しは自覚しなよ」
僕が首を傾げるとシャルロットさんはため息を吐いた。
「しかしまあ、いい買い物は出来たな」
「折角だからそのまま着てればよかったのに」
「いっ、いや、その、どうせなら刀也とのデートで着たいしな」
「はいはい、ご馳走様」
真っ赤な顔で僕の顔を眺めてくるラウラちゃんを見詰めながらシャルロットさんは微笑んでいた。
「ごっ、午後はどうする?」
「確か生活雑貨や小物見に行くんだったよね」
「うん。僕は腕時計見に行きたいなぁ。日本製の時計って、ちょっと憧れだったし」
「腕時計が欲しいのか?」
「うん、折角だからね。ラウラはそういうのってないの? 日本製の欲しいもの」
「日本刀だな」
ラウラちゃんは僕のショルダーバッグを見ながらきっぱりと答えた。
「嫁の……確か小太刀だったか。それはどこで手に入れたのだ?」
「父さんの実家のある海鳴市にある井関って刀剣専門店だね。父さんの代からお世話になってるんだ」
「ふむ。かなり遠いな。今日は諦めるか」
「他に女の子的なものはないの?」
「ないな」
即答するラウラちゃんにシャルロットさんはがっくりと首を落とした。
僕がその様子を見て苦笑していると隣の席からため息が聞こえてきた。
シャルロットさんも気が付いた様だ。
「……どうすればいいのよ、まったく……はぁ……」
深々と漏らすため息には、深淵の色が見て取れた。
「ねえ、ラウラ、刀也」
「お節介はほどほどにな」
「ああ、まあ取り合えず話だけでも聞こうよ」
「二人とも僕の事ちゃんと分かってくれているんだね」
「たっ、たまたまだ……」
「友達だからね」
照れて顔を逸らすラウラちゃんと、しっかりとシャルロットさんの瞳を見詰め返す僕。
シャルロットさんは頷いて席を立つなり女性に声を掛けた。
「あの、どうかされましたか?」
「え? ――!?」
僕達を見るなり、椅子を倒す勢いで女性が立ち上がる。
そしてそのまま、シャルロットさんの手を握った。
「あっ、あなた達!」
「はっ、はい?」
「バイトしない!?」
「「「え?」」」
何故だか、切羽詰った様子の女性に突然の頼み事に僕達は一瞬固まってしまった。