IS~朱月の守護者~   作:Mr.凸凹

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第36話

 

 

 

 

 

 いよいよやってきました学園祭当日。

 本当はテンションをアゲアゲで楽しい一日となる筈だったのが、既に急転直下でお葬式の様なテンションです。

 何故ならクラスメイト達が結託して僕を嵌めてくれたからです。

 ラウラちゃんが率先して皆を先導してリアーフィンを展開してまで僕を陥れてくれました。

 幾ら女尊男卑の風潮が当たり前とはいえ、僕の自尊心は粉々に砕け散ってしまった。

 唯一の救いは犠牲者が僕だけでなく一夏も一緒に被害を被っている事だろうか。

 

「うそ!? 一組であの織斑くんと月村くんの接客が受けられるの?」

「しかも女装(男の娘)メイドきゅん姿!」

 

 そうなのである。何が悲しくて女装(男の娘)メイドなんかしなくちゃならないんだ!!

 さすがに千冬さんは反対してくれると信じていたのに一夏のメイド姿を見ると鼻を押さえながらサムズアップをしていた。

 あのブラコンを拗らせた戦乙女の琴線にクリティカルヒットだった様だ。

 一応ヴィクトリアンメイド型なのは救いだが、僕はツインテールで朱色のウィッグを一夏はポニーテールで白色のウィッグを被せられて化粧やパットまでされてしまった。

 鏡で自分の姿を一目見た瞬間は思わず見惚れてしまった僕は自己嫌悪に陥ってしまった。

 

「ねえ、何かゲームもあるみたいだよ?」

「しかも勝ったら写真を撮ってくれるんだって! ツーショットよ、ツーショット! これは行かない手はないわね!」

 

 そうなのだ。何が悲しくて写真にまで撮られなきゃならないんだよ!!

 女装(男の娘)で既にお腹一杯なのに写真まで撮られて画像が残るなんてなんたる屈辱だよ!!

 未だに敗北してないのが救いです。

 ジャンケンは神速を使ってイカサマ紛いの程同時後出しを、神経衰弱は持ち前の記憶力の良さと勘の鋭さを、ダーツは飛針の要領で百発百中を、それぞれ出して無敗記録を更新中です。

 一夏は既に何回か敗北して写真撮影をされてしまっています。

 その度に背中が煤けてしまってどんよりと暗く自己嫌悪している様です。

 僕は絶対にああならない様に気をつけよう。

 

 それにしても徒でさえ朝から行列が出来ていたのに、時間が経過する毎に長蛇の列が形成されていっている気がする。

 

「はーい、こちら二時間待ちでーす」

「ええ、大丈夫です。学園祭が終わるまでは開店してますから」

 

 ジーザス!! 気のせいじゃなかった!!

 僕は思わず頭を抱えて蹲りそうになった。

 

「ちょっと、そこの女装(男の娘)メイドきゅん! テーブルに案内しなさいよ」

「はい、お待たせいたしました」

 

 背後から掛けられた聞きなれた声に反射的に営業スマイルを浮かべながら振り向いてしまう。

 翠屋で培われたスキルが如何せん無駄に発揮されてしまった。

 振り向いた先には何時もの髪型と違い頭にシニョンを身につけて大胆なスリットが入っているチャイナドレス姿の鈴ちゃんが少し憤慨した様に眉を曲げなら佇んでいた。

 

「可愛い……」 

 

 僕は見惚れて無意識に呟いていた。

 お尻から太もものおみ足のライン嗜好(フェチ)の僕にはクリティカルヒットだった。

 

「なっ!!? 何を言い出すのよ!! そう言うアンタこそ可愛いわよ! お蔭で家のクラスの中華喫茶が閑古鳥が鳴いているわよ!」

 

 鈴ちゃんは顔を真っ赤に染めて照れながらもマシンガンの様に捲し立てる様に言い放った。

 うん。鈴ちゃんの態度を見ていると恥ずかしがっていても始まらない気がしてきた。

 よし! 腹を括ってご奉仕しますか。

 

「ありがとうございます、お嬢様。では、お席にご案内いたします」

「おっ、おじょ……!?」

「どうかいたしましたか、お嬢様?」

 

 僕が振り返って顎に指を当ててながら小首を傾げると、鈴ちゃんは鼻を押さえながら上を向いてしまった。

 

「お嬢様?」

「アンタ、無自覚に小悪魔だわ」

 

 鈴ちゃんは首の後ろをとんとんと叩きながらジト目で僕を睨んできた。

 

「お褒めに預かり恐縮です」

 

 僕はスカートの裾を握って少し掲げながら会釈をした。

 

「はぁ~もういいわ……さっさと席に案内してちょうだい」

 

 鈴ちゃんはため息を吐きながら肩を落とした。

 そして、案内されるままに窓際の席に座った。

 

「それで、ご注文は何になさいますか? お嬢様」

 

 僕は席に座った鈴ちゃんの前に立ってメニューを掲げている。

 これは旦那様やお嬢様(お客様)にメニューを持たすのは言語道断という事で決まった事だ。

 

「う~んと……この『メイドきゅんにご褒美セット』って何よ? 何か二つ種類があるみたいね。白か朱か、選べるのね」

 

 選りに選ってそれを選びますか!!?

 

「お嬢様。こちらのシュークリームセットはいかがでしょうか? 当店の一推し商品でございます」

 

 僕は白を切って違うメニューを勧めた。

 額に一筋冷や汗が浮かんでいたのはご愛嬌か。

 

「おいこら、誤魔化そうとしたでしょ」 

「とんでもございません。以前のより翠屋のシュークリームにまた一歩近づいた僕の自信作でございます」

「それは確かに美味しそうだけど、アタシは『メイドきゅんにご褒美セット』の朱がいいのよ!」

 

 鈴ちゃんは上目遣いに睨みながら注文を押し通そうとしてくる。

 

「……『メイドきゅんにご褒美セット』の朱がお一つですね。少々お待ち下さいませ」

 

 僕は丁寧にお辞儀をしてからお嬢様(鈴ちゃん)の前から立ち去った。

 まあ、白の方を選ばれなかって良かったかな。

 

 僕はキッチンテーブルでアイス紅茶と冷やしたポッキーのセットを受け取ってお嬢様(鈴ちゃん)の元へと戻っていく。

 

「お待たせいたしました、お嬢様」

「うっ、うむ。くるしゅうないわよ?」

 

 鈴ちゃんは必死にお嬢様を演じているみたいだけど、それは何か間違っている様な気がするよ。

 

「では、失礼いたします」

「え?」

 

 僕は鈴ちゃんの正面に座った。

 二人掛けのテーブルで差し向かい。

 方や女装(男の娘)メイド服、方やチャイナドレス。

 うん。傍から見るとどんな関係か疑いたくなる光景だよね。

 まあ、友達以上恋人未満な幼馴染なんだけどね。

 

「なっ、何で座ってんのよ……いや、まあ、べっ、別にいいけどさぁ」

「ご説明させていただきます」

「おっ、おー。よきにはからえばいいわよ?」

 

 何故に疑問系なの?

 鈴ちゃんってば変に緊張しているみたいだね。

 

「このセットは齷齪ご奉仕に奔走するメイドきゅんにご褒美としてお嬢様手ずからお菓子を食べさせてあげるものでございます」

「はい?」

「ですから、お嬢様が僕に『あ~ん♪』をするセットでございます」

 

 ぱちくりと瞬きしていた鈴ちゃんがにやりと微笑んだ。

 

「全くお金を払ってお菓子をご褒美にあげるなんてぼったくりも甚だしいわね……まあでも、注文したんだからしないと損よね♪」

 

 何を思ったのか鈴ちゃんは自分の口にポッキーを咥えた。

 

「あの、お嬢様?」

 

 僕は嫌な予感を感じつつも訊ねずにはいられなかった。

 

 鈴ちゃんは頬を染めつつ、眼を瞑ってポッキーを咥えたまま僕にゆっくりと近づいてくる。

 僕はごくりと生唾を飲み込んでその様子を呆然と眺めている。

 

「お嬢様、当店ではそういう風俗に引っかかるサービスはしておりません」

 

 後数センチでポッキーが僕の口に届くといったところでリアーフィンを展開したラウラちゃんが瞬間移動(テレポート)をしてまで割り込んできた。

 その顔は眼がちっとも笑っていない氷の笑みだった。

 キスは気にしなくてもこれは駄目なんだ。

 まあ、鈴ちゃんを許容すれば他のお嬢様(お客様)もOKって事になるから勘弁して欲しいところだけどね。

 ラウラちゃんもその辺を心配しているのかな?

 愛人は気にしないと言っても、未だはっきりと本命を決めていない状態ではライバルが増えると面倒だって事かな?

 

「ちぃ! しっ、仕方ないわね」

 

 鈴ちゃんは舌打ちをして咥えていたポッキーをがりがりと租借してしまった。

 

「では、私はこれでお暇させていただきますが、くれぐれも羽目をを外し過ぎない様にお願いいたします」

 

 それにしても、ラウラちゃんは@クルーズの時みたいに尊大な接客をせずにいたって普通の対応が出来ているね。

 まあ、追加料金を支払えばそのサービスを受けられる様にはなっているから問題なしと言えるのかな?

 既に何人か望んでラウラちゃんに罵られていた旦那様(猛者)が居たからね。

 

 その後は結局普通にポッキーを食べさせられた。

 そして、ひとつのグラスに入ったアイス紅茶を二つのストローで一緒に飲み干した。

 

「ふぅ~♪ 堪能した。そろそろ帰るわね。出来れば刀也も家のクラスの中華喫茶に顔を出しなさいよ。サービスするわよ♪」

 

 鈴ちゃんはウィンクをしながら僕を誘う。

 

「はい、お時間が取れればお邪魔いたします。いってらっしゃいませ、お嬢様」

 

 僕はゆっくりと深々と頭を下げてお嬢様(鈴ちゃん)を送り出した。

 何だかんだ言って鈴ちゃんは上機嫌で帰っていった。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

「あの~そこの女装(男の娘)メイドきゅん……ゲームを申し込んでいいですか?」

「はい、お嬢様。喜んでお受けいたします」

 

 背後から掛けられた声に営業スマイルを浮かべながら振り返った。

 そこには新撰組の羽織を身に着けた簪ちゃんが佇んでいた。

 確か四組は新撰組の劇だったかな?

 さすがに時間が取れなくて観にいけないのは残念だけど、DVDで撮影したものも後日販売する予定だそうだから買おうかな。

 

「簪ちゃん、その格好にあっているね。格好良いよ」

「ありがとう。刀也のもその格好似合っているよ。可愛い」

 

 お互いに褒めあっているもののその頬は朱色に染まっている。

 うん。やっぱりこの格好は照れずにはいられない。

 性別が逆転してしまっているので余計に恥ずかしいね。

 

「それではジャンケン、神経衰弱、ダーツ、どれになさいますか?」

「神経衰弱でお願いします」

 

 簪ちゃんは両手を胸の前で握り締めて真剣な表情で僕を見詰めてきた。

 

「それではこちらへどうぞ」

 

 僕は簪ちゃんを席に案内してトランプをよく切ってテーブルの上に所狭しと並べていった。

 

「それではルールを説明いたします。基本ルールは普通の神経衰弱と一緒でございますが、一つ特別ルールが存在いたします。ジョーカーのペアを揃えると最終持ち点が二倍となります」

 

 そうなのだ。幾ら他の札を沢山揃えていても、ジョーカーの札は文字通り切り札になって逆転される恐れもあるのだ。

 如何に札を揃えつつ、ジョーカーを揃えるのかが鍵となる。

 

「分かった……それで先攻後攻はどうやって決めるの?」

「これで決めております」

 

 僕は胸元から一枚のコインを取り出した。

 その際、周りのギャラリーから生唾を飲み込む様な音が聞こえてきた。

 ふむ。ちょっとサービスが過剰だったかな?

 

「それではトス致した後に裏か表かお決め下さい。いきますよ」

 

 僕は左手の親指でコインを弾いて天井近くまで上げて、落下してきたコインを右手の甲に乗せて左手で隠した。

 簪ちゃんは瞬き一つせずに食い入る様にコインを見詰めていた。

 

「さあ、どちらをお選びになられますか?」

「……裏でお願いします」

 

 簪ちゃんは固唾を呑んで僕の手を凝視している。

 

「では、開きます。正解は……お見事でございます。裏が出ました」

「やっ、やった!」

 

 簪ちゃんは小さくガッツポーズをして喜んでいる。

 いやまあ、まだ先攻後攻を選ぶ権利が貰えただけだけど、可愛いからいいかな。

 

「では、先攻後攻……どちらをお選びになられますか?」

「えっと……じゃあ、後攻でお願いします」

「承りました。では僕から札を選ばせていただきます」

 

 僕はにっこりと微笑みながら札を選んでいく。

 

 

 

 

 一進一退の攻防が続き、残す所三組のトランプが残っている。

 簪ちゃんも中々カードを見切るのが上手くて、今は何と同点である。

 まだ、ジョーカーは一回も出ていないの上に他のカードも未だに捲れていない状態である。

 何か作者()の陰謀を感じるな。

 次は僕の番だ。

 

「ではこれとこれを選びます」

 

 出た札はエースとキングであった。

 残念。雑念が入ってカードに嫌われたかな?

 

「じゃあ、私は先ずこれを選ぶ」

 

 簪ちゃんが捲った札は何とジョーカーであった。

 

「よし! 残りは……これだ!」

 

 残り三分の一の確立をしっかりと逃さない様に簪ちゃんは力一杯カードを取って掲げた。

 その札はピエロが書かれていたジョーカーであった。

 

「おめでとうございます。お嬢様の勝ちでございます」

 

 周りのギャラリーから拍手が巻き起こった。

 

「よっ、よかった……何とか勝てた」

 

 簪ちゃんは少し涙ぐみながら微笑んでいた。

 

「では、お嬢様。どの様なシチュエーションで撮影を行いますか?」

 

 僕は負けて悔しい気持ちもあったが、負けたのが簪ちゃんで良かったと思う気持ちもあった。

 

「えっと……私が刀を構えながらメイドきゅん(刀也)を守っている様な構図がいいかな」

 

 簪ちゃんは照れながらもはっきりと自分の意見を述べる事が出来た。

 

 

 

 

 

 

「この写真大切にするね」

 

 簪ちゃんは胸元に撮った写真を握り締めて頬を染めながら微笑んでいた。

 出来ればこの女装(男の娘)メイド姿を残したくはなかったが簪ちゃんが喜んでいるから良いかな。

 

「はい。良い思い出となります様、心から祝福いたします」

 

 うん。半ばヤケクソだね。

 

「ありがとう。またね、刀也」

 

 簪ちゃんはスキップする勢いで帰っていった。

 

「いってらっしゃいませ、お嬢様」

 

 僕は現実から眼を逸らす様にして深々とお辞儀をした。 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

「どうもー、新聞部でーす。話題の織斑メイドきゅんと月村メイドきゅんの取材に来ましたぁ~♪」

 

 ご存知、新聞部のエースこと黛薫子さんが律儀に行列に並んでやってきた。

 邪険に扱いたい所だが如何せん一応お客様であるので営業スマイルで対応する。

 

「申し訳ございません、お嬢様。メイドきゅんのお写真をお撮りになりたければゲームに勝っていただきませんと……」

 

 僕は表面上はやんわりと拒否をしめした。

 

「まあ、固い事言うな、嫁よ。新聞部の広報の写真ぐらい構わないではないか」

 

 ラウラちゃんが先ほどの簪ちゃんとのツーショット写真をチラつかせながら言ってきた。

 くぅっ!!? 脅迫とは成長したね、ラウラちゃん。

 僕は心の中で涙を流した。 

 

「おっ! いい事言うわね。じゃあ、始めは二人のメイドきゅんのツーショットをお願いするわね!」

 

 了承を得る前に一夏を僕の横に立たせて次々とシャッターを切る黛さん。

 

 もう、好きにしてよ。

 

 僕は内心がっくりと膝をついているものの、表面上は営業スマイルで対応した。

 一夏は笑顔がぎこちないと怒られていた。

 

 

 

 

 

「じゃあ、他の娘ともツーショット写真を撮ろうかしら……貴方達、一緒に撮りたいメイドきゅんに並びなさい」

 

 その言葉に僕の列にはラウラちゃんが素早く一番に並んだ。

 一夏の列には、箒さん、セシリアさん、シャルロットさんが一位を争っているうちに相川さんが一番に並んだ。

 本音ちゃんは最後まで僕か一夏か迷っていたが、結局僕の方に並んだ。

 

 

 

 

 

 先ずは僕の列から捌く事になりラウラちゃんが僕の横に並んだ。

 

「しかし、なんだな。私とお前ではそれなりに身長差があるな」

「えっと……そうだね」

「……てもいいぞ……」

「えっ?」

「だっ、抱っこをしてもいいぞ!!」

 

 ラウラちゃんはそっぽを向きつつも力強く言い放った。

 

 仕方ないな。

 ラウラちゃんってば積極的になってきたね。

 いい傾向だ。

 

「承りました、お姫様」

 

 僕は徐にラウラちゃんを()()()()()()して抱き寄せた。

 

「なっ!!?」

 

 ラウラちゃんは顔どころか全身を真っ赤にして一瞬固まったものの、嬉しそうに僕の首に腕を回して抱きついてきた。

 

「う~ん♪ 良い構図ね」

 

 次々とあらゆる角度からシャッターが切られた。

 

 

 

 

 その後、他の娘もお姫様抱っこを希望したが、丁重に断らせてもらった。

 さすがに仄かな恋心を抱いているラウラちゃんと他の娘は一緒くたには扱えない。

 唯一本音ちゃんだけは妥協してお互いに抱きつきながら写真を撮った。

 本音ちゃんも大切な幼馴染だから他の娘と扱いが違うのは仕方ない事だよね。

 

 

 

 

 

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