IS~朱月の守護者~   作:Mr.凸凹

37 / 39
第37話

 

 

 

 

 

 学園祭も酣になり五反田兄妹と約束の時間が近づいてきた。

 

「ごめん、ちょっと抜けても大丈夫かな?」

「何だ、もうそんな時間か。俺も抜けていいかな?」

 

 一夏は僕の台詞に約束を思い出した様で便乗してきた。

 

「さすがに目玉の女装(男の娘)メイドきゅんに一緒に抜けられたら困るわよ」

「そうよ! せめてどっちか一人にしてよね」

 

 さすがに第一戦力たる女装(男の娘)メイドきゅんは一緒に行動出来ないか。

 護衛としては致命的だな。

 早く父さんに一夏の護衛に就いてもらわないといけないな。

 

「どうする、刀也?」

「恨みっこなしのジャンケンで決めよう」

「ああ、いいぜ。最初はグー……ジャンケンぽん!」

 

 僕は素早く神速を発動して一夏の手を確かめる。

 ふむ。チョキか。

 僕は慌てずグーを出した。

 一瞬で神速を解いて通常状態に戻った。

 

「あちゃぁ~俺の負けか」

「じゃあ、僕が弾と蘭ちゃんを迎えに行ってくるね」

「ああ、任せた。でも早めに戻ってきてくれよな」

「善処するよ。じゃあ、いってきます」

「いってらっしゃい、出来れば大手を振って歩き回って宣伝して来てね♪」

 

 出来れば着替えたいところだが、まだ接客に戻らないといけないからこの格好でいかないといけないか。

 しかも、宣伝して来いとはご無体なシャルロットさん。良い性格になったね。

 それよりも女装(男の娘)メイドな姿なんて弾や蘭ちゃんに絶対に爆笑されるだろうな。

 まあ、今更一人や二人増えたところで僕の自尊心は既に一度圧し折られてるからな。

 

 

 

 

 

「やだ! あのメイドさん可愛い!」

「あれって、確か月村くんじゃなかった?」

「えっ!!? 嘘ぉ~!! まっ、マジでっ!!?」

 

 行く先々で遠巻きながら見惚れられている。

 何やら好奇の視線に背中がむず痒くなってくる。

 さすがに女装(男の娘)メイドな姿の僕に直接声を掛けてくる猛者は居ないものの、皆嫌悪するどころか好感触な反応を示している。

 男としては複雑な心境だが、この反応は正直悪い気はしない。 

 まあ、心中複雑だが嫌われるよりはましだろう。

 後は女装(男の娘)が癖にならない様にしっかりと正気を保たないといけないな。

 

 ぴくん!!?

 羨望の視線に僅かに含まれた殺気混じりの視線を感じて思わず一瞬固まった。

 僕は不自然にならない程度に呼気を整えながら殺気が感じられた方へと視線だけを向けた。

 

「ちょっといいですか? えっと……月村刀也くんですよね?」

 

 声を掛けてきたロングヘアーの女性がにこにこと微笑みながら確認する様に訊ねてきた。

 既に殺気は霧散しており一見人当たりが良さそうに見えるが僕の五感は警鐘を鳴らしていた。

 香水の匂いで誤魔化しているが隠し切れない硝煙の臭いやこびり付いた複数の返り血の臭いが感じられた。

 うら若き乙女の血の匂いは好きだが、彼女から臭う血の臭いは嫌悪感を感じられる。

 それに笑顔が無理に張り付いている様に見えてどこかぎこちなかった。

 

「はい。そうですが何か御用でしょうか?」

 

 僕は表面上は全く無警戒で対応する。

 

「失礼しました。私、こういう者です」

 

 僕は名刺を受け取り確認をする。

 巻紙礼子。IS装備開発企業『みつるぎ』の渉外担当か。

 事前にチェックしたリストの内容と照らし合わせてみても齟齬がないが、感じられる立ち振る舞いからは企業人とはとても思えない。

 

「月村さんには是非とも我が社の装備を使っていただけないかなと思いまして」

 

 仮称巻紙礼子さんはカタログを取り出しながら微妙に間合いを詰めてこようとにじり寄る様に近づいてくる。

 

「朱月・朧の装備に採用されたければ、月村重工か倉持技研に持ち込んで下さい。それでは人を待たせているので失礼します」

「あっ!!? ちょっ、ちょっと……」

 

 僕はにべも無く断りをいれて、半ば遮る様に突き放して歩き去っていく。

 背後から微かに舌打ちが聞こえてきて湧き上がる怒気が感じられる。

 こんな人目のある所で仕掛けてはこないだろうが、まだ付け込む隙を見せるわけにはいけない。

 確定した訳ではないが彼女は一応マークしておく必要があるだろう。

 他にも襲撃者は居るかもしれないからまだ楽観は出来ないけどね。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 ~五反田 弾side~

 

 

 

 

 

 IS学園の正面ゲート前で俺は込み上げる笑いを必死に耐えている。

 まあ、隠し切れずに表情が少し可笑しくなっているのか、蘭が一歩引いてこちらを訝しげに睨んでいる。

 

 

「お兄、気持ち悪い……」

「なっ!!? そう言うお前こそ、一夏にチケットを貰って舞い上がっていただろうがっ!」

「お兄と一緒にしないでくれる!」

 

 俺と蘭は額をくっ付ける勢いで睨みあっている。

 

「あそこの男子、ちょっといいよね」

「隣の娘は彼女かな?」

「多分兄妹じゃない? 雰囲気似てるし、確かお兄って呼んでたわよ」

「格好良いとは思うけど私は織斑くんの方がいいかな」

「えっ~!!? 嘘ぉ~!!? 私は断然月村くんだよ」

 

 うおお、注目されている……こっ、こっ、こっ、これは、新たな出会いの前触れか!?

 

 蘭と睨み合っている事を半ば忘れて、俺は無意識に胸が高鳴るのを感じられた。

 

「そこのあなた達」

 

 俺は不意に背後から声を掛けられて思わず背筋を伸ばした。

 振り返った視線の先に映った女性を一目見て全身に電気が走った。

 

 こっ、この人、むちゃくちゃ美人……いや、可愛い!

 

「あなた達、誰かの招待かしら? 一応、チケットを確認させてもらってもいいかしら?」

「はい、分かりました……って、ちょっと、お兄! 何間抜け面で固まってるのよ!」

「はっ!!? ちっ、チケットですね! どうぞ!」

 

 俺は蘭の突っ込みに我に返り握り締めていたチケットを差し出した。

 

「配布者は……あら? 刀也くんと織斑くんですね……確か五反田 弾くんと五反田 蘭さんだったかしら?」

「えっ!!? なっ、何で俺達の名前知っているんですか!?」

 

 俺は驚きよりも期待に胸が高まるのを感じながら訊ねた。

 

「刀也くんも織斑くんもこの学園じゃ有名人だし、特に刀也くんは幼馴染だからね。今年からチケットを手渡す人物のプロフィールの提出を義務づけているし、二人のチケットはある意味プレミア物だからチェックも厳重にしていたから」

 

 お姉さんはふんわりとした笑顔でこちらを見ている。

 既に茹で上がっていた身体がその笑顔で更に熱くなる様に感じられた。

 

「はい、チケット返すわね」

 

 やっ、やばい!! このままだと、この出会いが無駄になる!! お姉さんとお近付きになれない!!

 なっ、何か話題……話題……

 

「あっ、あのっ!」

「? 何かしら」

「いっ、いい天気ですね!?」

「そうね」

「何言ってるの、お兄?」

 

 って、会話終わったじゃねえかっ!!?

 蘭も何人を馬鹿にした眼で見てるんだよ!

 何でもいいからお前も話し振れよ!

 

「あっ! 居た! お~い、弾! 蘭ちゃん!」

 

 俺が自分のセンスの無さに落ち込んでいるとどこか聞いた事のある様なハスキーボイスが聞こえてきた。

 振りかえるとこれまた美人のメイドさんがこちらに小走りに近寄ってきていた。

 

 ふむ。確かに美人で可愛いがお姉さん程ではないな。

 まあ、お姉さんに出会う前だったら惚れてたかもしれないな。

 

「あの~どちら様でしょうか?」

 

 蘭が俺の思いを代弁する様に訊ねた。

 メイドさんは困った様に頬を掻きながら固まっている。

 

「えっと~そっ、その……」

 

 こんな可愛い娘とお知り合いなら絶対に忘れない筈だが一向に思い出せん。

 

「あら? この声は……まさか、刀也くん? なるほど確かメイド喫茶だったわね。似合ってますよ」

「何だ、刀也さんでしたか……って、ええええぇぇぇぇ~!!?」

 

 蘭は驚きのあまり眼を見開いて仰天している。

 俺は逆に冷静になれてまじまじとメイドさんの顔を見詰めていた。

 

 確かに刀也の面影があるな。

 元々中性的な顔立ちだから違和感が全く無いな。

 危うく親友で男の刀也に恋するところだったぜ。

 口直し、元い眼の保養にお姉さんを見ていよう。

 うん。やっぱり綺麗だ。

 

 

 

 

 

 ~side out~

 

 

 

 

 

「やっぱり普通は驚くよね。言っとくけど、これは僕の趣味じゃないからね!クラスメイトに無理やり着させられたんだよ!」

 

 蘭ちゃんの大声に僕は苦笑しながら一応の弁解を試みてみる。

 蘭ちゃんは驚愕の表情をしながら僕をつま先から頭まで何度も見返している。

 弾は何故か僕から視線を外して虚さんを熱い視線で眺めていた。

 

 ふむ。これは弾の奴に春がやってきたのかな。

 虚さんの表情を見るにこちらも満更でもない様子だし、一肌脱ごうかな。

 

「えっと……虚さん、資料で見て既に知っているかも知れませんが、こちらが腐れ縁で同年代の五反田 弾とその妹の蘭ちゃんです」

「ごっ、五反田 弾です! よっ、よろしくお願いします!」

「改めまして、五反田 蘭です」

 

 僕の紹介にどもりながら挨拶する弾と少し硬い微笑みながら挨拶する蘭ちゃん。

 蘭ちゃんはどうやら思考がまだ追いついてないらしく、現実逃避する様に僕を視界に入れない様にしている様だ。

 

「弾、蘭ちゃん……こちらは僕の幼馴染で二つ年上の布仏 虚さん。IS学園生徒会会計でもあるから公私共に僕の頼れる先輩だね」

「ご紹介に預かりました、布仏 虚です。不束者ですがよろしくお願いします」

 

 表面上はにこやかに年上の余裕で微笑んでいる様に見える虚さんだが、幼馴染の僕の眼には僅かに朱に染まった頬を見逃してはいなかった。

 しかも少しテンパっている様で普段なら絶対にしない口上を述べちゃいるしね。

 うん。虚さんもやっぱり恋する乙女なんだな。 

 

 取り合えず今日はここまでかな。

 余り一気に話を進めすぎるとお節介が過ぎて失敗するかも知れないしね。

 

「では、私はこれで失礼します。ゆっくりと学園祭楽しんでいって下さいね」

「あっ!!? はい!! ありがとうございます」

「ありがとうございます」

「御疲れ様です」

 

 虚さんが滅多にしない様な乙女な表情を微かに浮かべながら去っていった。

 まあ、微か過ぎて他の人には気付かれない程度だけどね。

 

「布仏 虚さん……」

「お兄には高嶺の花の様な気がするけど……」

 

 去っていく虚さんの背中を見えなくなるまで熱い視線で見詰める弾の様子にさすがの蘭ちゃんも気付いた様だ。

 

「まあ、全く脈なしって訳じゃなさそうだよ」

「ほっ、本当か、刀也!!? ぐへぇ!!?」

「落ち着きなよ、弾」

 

 僕を押し倒す勢いで迫ってきた弾を無意識に投げ飛ばしてその上にマウントポジションで押さえ込んだ。

 そして耳元で囁く様に諭した。

 

「あっ、あの~とっ、刀也さん? 刀也さんがメイド服って事は一夏さんも、まさか……」

 

 蘭ちゃんが何やら顔を赤くして指を付き合わせながら訊ねてきた。

 僕は弾から降りて満面の笑みを浮かべながら答えた。

 

「うん♪ 勿論、一夏も女装(男の娘)メイドきゅんだよ」

「はうっ!!?」

 

 僕の台詞に想像したのか、鼻を押さえながら上を向く蘭ちゃん。

 

「何なら見に行ってみる? まあ、人気過ぎて行列が凄い事になってるから並ぶのが大変だけど……」

「是非とも!!」

 

 興奮で顔を染めながら眼を輝かせて頷く蘭ちゃん。

 うん。恋する乙女は猪突猛進ぐらいがちょうど良いかもね。

 まあ、暴走しすぎない様にすれば恋愛不感症とも言える一夏攻略には丁度良いぐらいじゃないかな。

 

「ちょっ、ちょっと、待てよ。他にも見たいのに……いっ、いや、何でも無いです」

 

 起き上がって抗議しようとした弾は蘭ちゃんの一睨みで黙り込んだ。

 

 

 

 

 

 

「げぇ~!!? こっ、これに並ぶのかよ!?」

 

 弾は長蛇の行列を見て露骨に嫌そうに顔を顰めた。

 蘭ちゃんは列を物ともせずに無言で並んでいる。

 

「あっ!!? 刀也きゅんだよね? 何、休憩中?」

「本物だぁ~!! 本物の女装(男の娘)メイドきゅんだぁ~!!」

 

 僕は早速行列に並んでいたお客さんに見つかったが、さすがに列を乱そうとする猛者は居ないようだった。

 

「はい、お嬢様方。只今、僕はお暇をいただいておりますが直ぐに戻ります」

 

 僕は営業スマイルを浮かべながらその場で会釈した。

 感嘆のため息があちらこちらから沸きあがった。

 

「お前、男の娘(その姿)でも人気あるんだな」

 

 弾が何やら低い声で宣ってくる。

 

「何だったら、交代するかい? 弾なら態々ウィッグ着けなくても地毛で十分だよね」

「いっ、いや……さすがに女子に囲まれるとしても男の娘(その姿)は遠慮してく」

 

 弾は冷や汗を流しながら辞退する。

 うん。懸命だね。僕も開き直ったとはいえ、男の娘(この格好)は進んでしたいとは思わないもんね。

 

「あれ? 刀也に弾? それに蘭も一緒か」

 

 聞きなれた声に振り向くとチャイナドレス姿の蘭ちゃんが看板を掲げながら歩いてきた。

 看板には『中華喫茶只今セール中!』と書かれていた。

 

「ぶはっ!? りっ、鈴、おまっ、お前っ……ちゃっ、チャイナドレス……似合わなねー。まだ、刀也の女装(男の娘)メイド姿の方が似合って……ぶごっ!?」

「うっ、うっさいわね! 確かに刀也の女装(男の娘)メイド姿は見事だけど、アタシも負けてないわよ!」

 

 鈴ちゃんの看板アタックが弾の顔に減り込んだ。

 

「そうだよ、弾。鈴ちゃんも思わずお持ち帰りしたい位可愛いじゃないか」

「はぅっ!!?」

 

 僕の台詞に全身真っ赤して固まっている鈴ちゃん。

 蘭ちゃんはこの騒ぎに我関せずと列に並んでいる。

 よく観ると早速張り出されている一夏の女装(男の娘)メイド姿の写真に釘付けのようだ。

 

「相変わらず刀也は女誑しだな」

「誰でもって訳じゃないよ。鈴ちゃんだからだよ」

「はいはい、ご馳走さん。これで未だ付き合ってないなんて、ある意味詐欺だよな」

 

 弾は肩を竦めながら首を振っている。

 

「ねっ、ねえ、刀也……時間あるなら中華喫茶(うち)に寄っていかない?」

 

 再起動した鈴ちゃんが上目遣いで訊ねてくる。

 うん。可愛い。これは断れないかな。

 

「じゃあ、少し……」

「あっ~!!? 居た!! 刀也!!」

 

 僕の台詞はシャルロットさんに遮られてしまった。

 

「なっ、何かな? シャルロットさん?」

「刀也はどこだってお客さんのクレームが凄いから、すぐに戻って」

 

 シャルロットさんらしからぬ焦りの色が見える表情に僕は戻らざる得なくなる。

 

「分かったよ。ごめん、鈴ちゃん。時間が出来れば必ず寄らせてもらうからね」

「ふぅ~仕方ないわね。頑張ってきなさいよ、女装(男の娘)メイドきゅん」

 

 鈴ちゃんはため息を吐きながらも笑顔で送り出してくれた。

 

「ありがとう……戻ろう、シャルロットさん」

「うん。早く早く!」

 

 僕の背中を押しながら駆け足をするシャロットさん。

 この時、シャルロットさんの態度に違和感を覚えていれば()()の事態は避けられたかもしれない。

 でも、避けられない運命ってやっぱりあるんだなと痛感した。

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。