IS~朱月の守護者~   作:Mr.凸凹

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第39話

 

 

 

 

 

 一難去ってまた一難。

 嵐が過ぎ去ったかと思えば、また嵐がやって来た。

 

「お帰りなさいませ、お嬢様」

「きゃぁあぁ~♡ 可愛いぃ~!!」

「お触りは厳禁です、お嬢様」

 

 僕は刹那に背中に走った怖気に無意識に神速を利用した空蝉の術で抱きついてこようとした紫乃姉をひらりと躱した。

 何気に普段から試していた技が初めて成功した瞬間だった。

 

 危なかった。避けなければ貞操の危機に瀕していただろう。

 正気じゃない紫乃姉に押し倒されたら一巻の終わりで、周りの眼を気にすることなく僕はお婿に行けなくされてしまっていただろう。

 実の姉に押し倒される女装(男の娘)メイドきゅんは一部の腐女子(お嬢様)に需要がありそうだが、さすがに僕が当事者になるのは勘弁して欲しい。

 

「これは凄いわね。本職のメイドに負けず劣らず似合ってるわね」

 

 僅かに上気した表情で褒めてくれる楯無さん。

 何時もの悪戯っぽい雰囲気は鳴りを潜めて、丸で恋する乙女の様な雰囲気を醸し出している。

 やっぱり、百合の気が若干あるんだろうか?

 

「お褒め頂きありがとうございます」

 

 僕は僅かに浮かんだ疑問を振り払い、スカートの裾を摘んで掲げて会釈した。

 その際、にっこりと微笑む事も忘れず遣って退けた。

 

「ごくっ……完全に成り切ってるわね。仕草も可愛いわよ♪」

 

 一瞬眼を見開いて生唾を飲み込んだ楯無さんだったが、持ち直して優雅に扇子を広げながらお褒めの言葉をくれた。

 扇子には『天晴』と書かれていた。

 

「はぁはぁ~刀也きゅ~ん♡」

 

 眼がぐるぐると廻り、鼻息が荒い紫乃姉。

 

「落ち着きなさい、紫乃。てりゃ!」

「むぎゅっ!!?」

 

 楯無さんのチョップが紫乃姉の脳天に炸裂した。

 勢いといい、角度といい、申し分ない一撃だった。

 

「はっ!!? わっ、私は何を?」

「正気に戻ったわね。まあ、刀也きゅんの可愛さは破壊力抜群だから仕方ないけどね。私も気を抜くとやばいわ」

 

 額に一筋の汗を流しながら苦笑している楯無さん。

 僕がにっこりと微笑みながら見詰めると眼を逸らす楯無さん。

 その眼を逸らした視線の先には給仕をしている一夏がいた。

 

「ふ~ん……一夏きゅんも中々そそるわね。でも、さすが二人同時に指名は出来ないわよね。紫乃、聞くまでもないけど……」

「勿論、刀也きゅんを指名するわよ!」

 

 拳を握り締めて力説する紫乃姉。

 正気に戻ったとは言え、あまり刺激するとまた爆発しそうだ。

 

「ご指名、ありがとうございます。では、こちらへお越し下さいませ」

 

 僕は二人を席に案内していく。

 周りから注目されているがもう馴れっこになってしまった。

 だが何も感じなくはないし、男としての尊厳ががりがりと削られているのは間違いないだろう。

 

 

 

 

 

「お嬢様方、ご注文はお決まりでしょうか?」

 

 二人を席に案内した後に暫くしてテーブルに呼ばれたためやってきた。

 

「刀也きゅん、私と勝負してくれるかな?」

 

 きゅぴ~んと眼を光らせている紫乃姉。

 何故か背中に怖気が走った様な気がした。

 

「ジャンケン、真剣衰弱、ダーツ、どれになさいますか?」

 

 僕は表面上何事も無い様に尋ねたが、内心冷や汗を流していた。

 負けたら、人生が詰む予感がひしひしとする。

 多分普通の撮影会では終わらないだろう。

 

 真剣衰弱は運の要素があり勝敗がどちらに転ぶか分からないし、ダーツは多分互角の腕前で勝負がつかないだろう。

 残るはジャンケンだが、ある程度運の良さに左右されるが御神の剣士には神速がある。

 お互いに神速を発動してインチキ紛いの後出しの応酬となるだろう。

 

「う~んとね……ジャンケンにするわね」

 

 やっぱりか!

 これはただのジャンケンではない!

 己がプライドと御神の剣士としての力量を賭けた戦いになるだろう。

 

「分かりました……お受け致します」

 

 僕は真剣な表情で頷いた。

 呼吸を整えて身体の余分な力を抜いて、脳を活性化させて神速を発動を効率良く行える様に氣を練り上げていく。

 

「なっ、何この空気……丸で真剣勝負みたいね」

 

 楯無さんが額に汗を流しながら僕と紫乃姉を見詰めている。

 

「「いざ、尋常に勝負! 最初はグー……ジャンケン……」」

 

 今だっ!!

 僕は神速の重ね掛けを行い、眼に集中させた。

 だが、何か違和感をを感じた。

 

 コレはまさかっ!!?

 

 紫乃姉の腕に眼をやると、刹那の瞬間に赤月・叢雲が部分展開されていた。

 

 やられた!

 周りのギャラリーは一切気付いていないだろう。

 まさか、赤月・叢雲の単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)の『超加速』まで使ってくるなんてっ!!

 超加速とは、物理法則や時間法則を無視した加速が可能となり、厳密には一時的に周囲の時の流れを遅くする。

 発動されれば初見では絶対に対応なんて出来ないし、知っていても対処は難しい。

 人の事は言えないけど、なんてチート!!

 

「「……ポン!!」」

 

 刹那の瞬間の思考を終えて神速を解いて自分の手と紫乃姉の手を見比べる。

 紫乃姉がチョキで、僕がパー。

 うん、何度見直しても僕の負けだ。

 

「やったぁ~!! はぁはぁ~♡ さあ、刀也きゅん。お姉ちゃんと……むぎゅ!!?」

 

 鼻息荒く手をわきわきさせながら僕ににじり寄っていた紫乃姉は横から差し出された手にアイアンクローで掴まれた。

 しかも、足が床から離れてぶら下がっている状態だ。

 視線を手の持ち主に向けると、そこには案の定、我らが用心棒(担任)の千冬さんが満面の笑顔でいた。

 まあ、眼はちっとも笑っておらず、よく見ると額には青筋が浮かんでいたけどね。

 

「月村姉……学園内でのISの無断展開だけでなく、単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)まで使用するとはいい度胸だ」

 

 さすがは千冬さん。

 神速が使えるわけでもないのに刹那の瞬間を認識出来るとはっ!!?

 超越者は一味も二味も違うね。

 そこに憧れるし、痺れるね。

 

「さあ、たっぷりとお説教を骨の髄まで味あわせてやろう……来い!」

「はわぁ!!? はわわっ!!? た、す、け、てぇ~!!」

 

 売られていく子牛の如く頭を掴まれたまま引き摺られていく紫乃姉。

 

「いってらっしゃいませ、お嬢様」

 

 僕はホッとしながら紫乃姉を見送った。

 

「……はっ!!? ……どっ、どうしよう! 紫乃が連れて行かれちゃった」

 

 あまりの展開の速さに固まっていた楯無さんが正気に戻った。

 

「取り敢えずお気を直して、ご注文は如何致しましょうか?」

「そっ、そうね……折角並んだんだから紫乃の分まで楽しまないと損ね。じゃあ、『メイドきゅんにご褒美セット』の朱をお願いするわ♪」

 

 気を取り直して注文する楯無さんは案の定の注文の品をオーダーした。

 

 そして、用心棒(担任)の千冬さんがいない隙にポッキーゲームを敢行しようとしてラウラちゃんに強制排除(テレポート)されていった。

 テンプレ乙。

 皆どこまで僕のSAN値を削れば気が済むんだろうか。

 ああ、癒しが欲しい。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 慌しいご奉仕に奔走してやっとこさメイド喫茶も落ち着いて休憩時間をもらえる事になった。

 クラスメート達が気を利かせてくれたのかラウラちゃんも一緒だ。

 着替えたかったが宣伝も兼ねてメイド服のまま行動しろとの御達しだった。

 

「それでどこに行くのだ、嫁よ?」

「そうだね……」

 

 コンサートまで時間がまだあるから約束通り鈴ちゃんのところに顔を出そうかな。

 

「二組の中華喫茶を覗いていこうか」

「ふむ……鈴のクラスか。よかろう、敵状視察も一興か」

 

 ラウラちゃんは腕を組みながらうんうんと頷いている。

 

 

 

 

 

 隣のクラスに足を運ぶと疎らにお客さんが入っていた。

 

「いらしゃいませ~……って、刀也とラウラじゃない。メイド喫茶はいいの?」

「うん。一夏を生贄にしたからね」

「アンタ、良い性格なったわね」

 

 鈴ちゃんが苦笑しながら僕を見詰めている。

 

「やだなぁ~勿論冗談だよ」

「刀也、冗談を言う時は笑ってないと説得力が無いぞ」

 

 珍しくラウラちゃんが真面目な表情で突っ込みを入れてくる。

 

「えっ!!? 僕、満面の笑みだと思うけど?」

「眼が全然笑ってないわよ」

 

 鈴ちゃんが呆れながら突っ込みを入れてきた。

 

 まあ実際、僕が抜けた穴を一夏が埋め合わせしているんだから強ち間違った表現じゃないんだよね。

 事実だから冗談にならないのは仕方ないのかな。

 

「まあ、良いわ。折角来たんだから、たっぷりとサービスするわよ♪ 二名様、ご案内ぃ~!」

 

 鈴ちゃんは茶目っ気たっぷりの笑顔で僕とラウラちゃんの手を引いていく。

 

 

 

 

 

「さあ、注文は何にする?」

 

 テーブル着いた僕の直ぐ隣に座って腕を組みながらメニューを開く鈴ちゃん。

 

「ふむ。意外に本格的な飲茶が楽しめそうだな」

 

 反対側は勿論ラウラちゃんが腕を組んできてメニューを覗きに来ていた。

 

 SAN値が削れている所為か何時もより二人の鼓動が僕を焦らす。

 二人の艷やかな髪や瑞々しい肌が僕の牡の部分を刺激する。

 牝の匂いが僕の牡の本能を呼び覚ます。

 ああ、そのプルンとした唇に吸いつきたい。

 小振りな胸に抱きしめられたい。

 柔らかそうな太ももに蹲りたい。

 その首筋に噛み付きたい。

 

「刀也? どうしたの?」

 

 不思議そうに覗き込む様に見詰めてくる鈴ちゃん。

 

「はっ!!? えっ、えっと……この、烏龍茶と胡麻団子のセットと杏仁豆腐しようかな! ラウラちゃんは?」

 

 僕は慌てて頭を振って、無理やり正気に戻って注文をした。

 

「……そうだな、この月餅にしよう。プーアール茶でな」

 

 ラウラちゃんは暫くメニューと睨めっこしていたが注文が決まったようだ。

 

「ご注文を繰り返します。胡麻団子セットを烏龍茶と杏仁豆腐。月餅とプーアル茶ですね」

 

 鈴ちゃんは真面目そうな表情に屈託のない笑みを交えて注文を確認している。

 

「うん。それでお願いします」

「ちょっと、待ててね。直ぐに用意するから♪」

 

 鈴ちゃんはウィンクしながら厨房スペースへと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

「お待たせしました。ご注文の品は以上でよろしいでしょうか?」

 

 鈴ちゃんが営業スマイルとは違う満面の笑みを浮かべながらやって来た。

 そして危なげなく小さめのテーブルに美味しそうな点心が並べていく。

 よく見ると注文した品以外もあった。

 

「ねえ、アタシも休憩だから一緒に座って良いかな?」

「ああ、そういう事……僕は構わないよ。ラウラちゃんは?」

「私も異論はない。いいぞ、鈴」

 

 ラウラちゃんも快く鈴ちゃんの提案を受け入れる。

 一夏ラヴァーズの面々とは違い、僕に好意を寄せてくれているラウラちゃんや鈴ちゃんと簪ちゃんは比較的仲がいい。

 どうやら僕を巡って恋の好敵手(ライバル)として恋の鞘当てをして争うより、協定を結んで僕を墜とそうとしている様だ。

 僕の事で喧嘩するよりは良いが、それってハーレムを容認されている様でどこか後ろめたい気持ちになる。

 僕は思わず苦笑を零しながら誤魔化す様に点心に手を付けようとスプーンに手を伸ばしたが、一瞬早く鈴ちゃんがスプーンを掠め取った。

 

「鈴ちゃん? あの、さすがに手掴みじゃ食べられないんだけれど……」

 

 鈴ちゃんは何処か悪戯っぽい笑みを浮かべながら隣の椅子に座って杏仁豆腐を掬って僕の口元に運んできた。

 

 これはまさか!?

 

「はい、あ~ん♪」

 

 疎らな周囲の客席から好奇の視線が集まる中で行われる行為に、僕はため息を吐きそうになるも既の所で飲み込んでスプーンを口に含んだ。

 

「はむっ……うん、仄かな酸味の中に確かな甘味が感じられるね。これ、鈴ちゃんが作ったの? 小父さんの味とそっくりで美味しいよ」

「良かった。刀也のお墨付きを貰えたら一安心よ」

 

 鈴ちゃんは照れながらも嬉しそうに微笑んでいる。

 

「よし! 胡麻団子は私が食べさせてやろう。ほら、あ~んしろ」

 

 鈴ちゃんに触発された様にラウラちゃんが僕の口元に胡麻団子を運んでくる。

 その表情は出会った頃には想像もできなかった年相応な若干朱色に染まった乙女の表情であった。

 

「あむっ……胡麻の香ばしさと餡子甘さが絶妙だね。これも鈴ちゃんの作品だよね?」 

「そうよ。やっぱり好きな人には手料理を食べてもらいたいもんね」

 

 鈴ちゃんは若干頬を朱色に染めつつも、臆する事なく胸を張っている。

 

 その後はお互いに食べさせあいながら点心を平らげていった。

 周りの好奇の視線は気にならないといったら嘘になるが、学園中どころか世界中にキスシーンが放映された僕にはこれくらなんともない。

 今の女装(格好)からすれば、僕の正体に気付いていない人には仲の良い女友達にみえるだろうしね。

 まあ、IS学園関係者には既に僕と一夏の女装(男の娘)メイドきゅん姿は知れ渡っているんだけどね。

 今更気にしたところで精神安定上何ら問題にもならないくらい開き直ってるから大丈夫……

 うん、嘘吐きました。

 女装(男の娘)メイドきゅんは金輪際勘弁して欲しいです。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 コンサートの時間が近づいてきて僕はラウラちゃんと連れ立って舞台となる第4アリーナーに向かっていく。

 

「しかし、幾らコネがあるとはいえクリステラ・ソングスクールのコンサートがロハで観れるとはな」

「まあ、普通はチケットにプレミア価格がつくぐらい人気だからね」

 

 そうなのだ。

 クリステラ・ソングスクール、取分け校長のフィアッセさんのコンサートは世界中で熱狂的なファンが星の数ほど居る。

 チケットは直ぐに完売してしまう。

 

「刀也は何度か観た事があるんだったな」

「まあね。父さんが校長のフィアッセさんと旧知の仲で、僕も幼い頃から懇意にしてもらってるけどね。でも、生でコンサート観るのは久し振りだよ」

 

 僕は幼い頃に観たコンサートを反芻しながら微笑んでいた。

 その笑みを侵す様に虫が這い回るかの様な殺気混じりの視線が感じられた。

 

 この気配は―――

 

 殺気は指向性を持っていてラウラちゃんには向けれれていない様だ。

 実際にラウラちゃんは違和感を感じていない様だ。

 僕が視線の元に眼だけを向けると、そこには例の胡散臭いキャリアウーマンな巻紙礼子某が佇んでいた。

 彼女はニコニコと笑う仮面を脱ぎ捨ててねっとりと絡み付く蛇の様な嘲笑を浮かべていた。

 そして、一瞬両手を僕に見せ付ける様に掲げた。

 そこには見覚えのあるお揃いのバンダナと二房の()()()が握られていた。

 

 っ!!? あっ、あれはっ!!? 

 

 驚愕に揺れる僕の瞳に映された彼女の唇が無音で言葉を紡ぐ。

『ひ・と・り・で・つ・い・て・こ・い』だとっ!

 

「……ごめん、ラウラちゃん。先に行ってってくれるかな。ちょっと、雉を打ちに行ってくるよ」

「ふむ。確か、その隠語は……ああ、トイレか。そこは女装(男の娘)メイド姿なのだからお花を摘みに行ってくるが正解ではないか」

「どっちでもいいよ。もう、漏れそうだから行くね」

 

 僕は走り出しそうになるのを堪えてゆっくりと歩いていく。

 焦りは禁物だ。心は熱くとも頭は常に水面の様に澄ませていないといけない。

 まだ、二人の安否が確認出来ていない。

 最悪の予想を浮かべそうになるのを振り払って一歩一歩踏みしめる様に歩いていく。

 

 無事でいてくれよ、二人共っ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

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