「全員揃ってますねー。それじゃショートホームルームを始めますよー」
教壇に立っているのは山田真耶教員。
元日本の代表候補生にして我がクラスの副担任である。
しかし、本当に年上なんだろうか?
どう見ても同年代にしか見えない。
なんというか子供が無理して大人の格好してますみたいな無理がある感じがする。
まあ、胸はご立派で一夏が顔をにやけさせて眺めている。
僕の好みはスレンダーな女性なので琴線には響かない。
「それでは皆さん、一年間よろしくお願いしますね」
その台詞に誰も反応しない。
一夏と僕にクラスメートの視線が集まり変な緊張感を生んでいる。
因みに一夏の席はど真ん中の最前列で、僕の席はその後ろである。
「じゃっ、じゃあ自己紹介をお願いします。えっと、出席番号順で……」
何人か自己紹介を終えて一夏の番が来た。
一夏は席を立って後ろを向いた。
緊張している事が手に取るように分かる。
「えっ、えっと……織斑 一夏です。よろしくお願いします」
一夏に今まで以上の好奇の視線が集まっている。
一夏は冷や汗を流しながら佇んでいる。
一夏は僕に向けて子犬の様な眼を向けて助けを求めている。
僕はため息を吐きながら紙を手渡した。
「……趣味は料理で、得意種目は剣道です。数少ない男性のIS適合者でまだまだ若輩者ですがよろしくお願いします」
一夏の自己紹介が終わると同時に、クラスの皆の歓声が教室中に響き渡った。
「かっこいい!! モデルみたい」
「可愛いぃ~!! 弟にしたい」
何だか一夏は檻の中のパンダみたいな気持ちになっているんだろう。
口を開いて呆然と佇んでいる。
「何だ。騒がしいな」
歓声を掻き分ける様に千冬さんが現れた。
「あ、織斑先生。もう会議は終わられたんですか?」
「うむ、山田くん。クラスへの挨拶を押し付けてすまなかったな」
「いっ、いえ……私は副担任なのでこれくらいはしないと……」
「自己紹介をしている様だが、どこまで終わりました?」
「えっと……まだ織斑くんまでです」
「なるほど……それでは私の自己紹介もしよう」
千冬さんは教壇に立つと凛々しく挨拶を開始した。
「諸君……私が織斑 千冬だ。君達新入生を一年間で一端のIS操縦者に育てる事が仕事だ。特にISの雑学と実技を担当する。分からない事があればその都度私か副担任の山田先生まで聞きに来るように……以上だ」
千冬さんの挨拶が終わると教室中に響き渡った。
「きゃーーーーー!! 千冬様よ。本物の千冬様よ!」
「ずっとファンでした!!」
千冬さんは困った様に頬を掻きながら、話題を変える為に一夏に話しかけた。
「どうだ、織斑……やっていけそうか?」
「はい、ちふ……じゃなかった、織斑先生。刀也も居るしなんとかやっていけそうです」
一夏は安心している様な笑顔を俺に向けてきた。
「やっぱり、織斑くんは千冬様の弟なのね」
「……って、言うか織斑くん。もう一人の男の子に微笑みかけてたよね。まさか……」
「うん、禁断の愛!!?」
何だか話が変な方向に向かっているな。
やめてよね。散々そのネタで弄くられているからもう沢山だよ。
「静かにしろ!! さあ、自己紹介を続けてくれ。私も君達の顔と名前を覚えないといけないからな」
千冬さんの鶴の一声で自己紹介が再開された。
次から次へと自己紹介が終わり僕の番がやって来た。
「僕は月村 刀也です。実家は月村重工を経営しています。趣味は料理で、特に洋食が得意です。後、古流剣術を嗜んでいます。それと皆さん知っての通り二人目の男性IS適合者で、織斑 一夏の護衛も勤めています。よろしくお願いします」
僕が言い終えると再び歓声が響き渡った。
「彼もかっこいい!!」
「私も守ってもらいたい!!」
「うん、織斑×月村……今度の新刊はこれで決まりね!!」
何か不穏な言葉が聞こえた気がしたが気のせいだ。
ああ、気のせいなんだ!!
精神安定上、大事な事だから二回言った。
中学時代からそれ関係の扱いは多かった。
でも僕達は至ってノーマルなんだ!!
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ショートホームルームと一時間目のIS基礎理論授業が終わった。
僕と一夏は千冬さんにみっちりIS理論を叩き込まれていたから授業にはきちんと付いて行けた。
それよりも廊下に沢山の人だかりが出来ているのが気になる。
十中八苦、僕と一夏目当ての女生徒達だろう。
ため息混じりに廊下を眺めているとクラスメートの一人が一夏に話し掛けてきた。
「ちょっと、良いか?」
「箒……お前、箒か!」
一夏は懐かしそうな顔で笑顔を浮かべている。
ふむ、篠ノ之 箒さんか。
実物は初めて見るな。
「悪い、刀也席外すな……」
「はいよ……いってらっしゃい」
「箒、外の空気吸いに行こうか?」
「ああ……屋上へ行こうか」
俺は手を振り二人を見送った。
「あれ? 刀也だけ……一夏は?」
鈴ちゃんが女生徒達を掻き分けてやって着た。
「やあ、鈴ちゃん……一夏は幼馴染と出て行ったよ」
「ふ~ん……まあ、良いか。でも本当に久し振りね、刀也♪」
鈴ちゃんは嬉しそうに僕の机に座りながら話し掛けてきている。
「ああ~つっきー、浮気は良くないんだな~」
声に振り向くと本音ちゃんが簪ちゃんを連れてやって来た。
「こんにちわ、刀也くん……」
簪ちゃんは少し気恥ずかしそうに俯いている。
「初めまして……二組所属、中国の代表候補生の凰 鈴音よ」
「初めまして……四組所属、日本の代表候補生の更識 簪です」
二人は一見仲が良さそうに握手を交わしているがお互いの手を力強く握り締めている。
しかも鈴ちゃんと簪ちゃんの間に火花が散っている様に感じられる。
「持てる男は辛いね~」
本音ちゃんはにこにことお菓子を食べながら僕達を面白そうに眺めている。
僕は一夏の様に異性からの恋慕には疎くはない。
自惚れではないなら二人の気持ちが僕に向いているって理解出来ている。
でもまだ恋人作る気はないからはぐらかしているんだよね。
「つっきー……余り先伸ばしにするのはレディーに失礼だよ~」
本音ちゃんが真面目な顔をしながら僕の頬を突いている。
「分かっているけど……まだまだ一夏の護衛を続けなくちゃいけないからね」
僕は苦笑交じりに答えるしかなかった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ちょっと、よろしくて?」
二時間目の休み時間になると一人の女生徒が僕達に声を掛けてきた。
「何か僕達に用かな? イギリス代表候補生のセシリア・オルコットさん」
「あら……きちんと自己紹介は聞いていましたのね。そうわたくしがイギリスの代表候補生にして、入試主席のセシリア・オルコットですわ。以後よろしくお願いしますわね」
「よろしく。織斑 一夏だ」
「月村 刀也だよ。お見知りおきを……」
資料で見た限りでは分からなかったが、この子自尊心の塊だな。
今も僕や一夏を敵意の眼差しで見ている。
余程男の僕達がISを動かしているのが気に食わないのか。
「貴方達さえよろしければ……まあ、泣いて頼むならISの事を教えてあげてもよくってよ。何せ、わたくし数少ない教官を倒したエリート中のエリートなんですから!!」
「何だ、君もか……教官なら俺と刀也も倒してるぜ」
一夏は何でも無い様な表情で答えている。
「なっ!!? そっ、そうですの!!?」
オルコットさんは驚いた様子で聞き返してきた。
「オルコットさん、自分で言ってたでしょ。
僕はため息混じりに注意をした。
「えっと……落ち着けよ。な?」
「わっ、わたくしは落ち着いていますわ!!」
《キーンコーンカーンコーン》
オルコットさんの台詞と同時にチャイムが鳴り響いた。
オルコットさんはすごすごと自分席に戻っていった。
「さてと……この時間は実戦で使用する各種装備の特性について説明しよう」
一、二時間目は山田先生だったがこの時間は千冬さんが教壇に立っている。
「ああ……すまん。その前に再来週行われるクラス対抗戦の代表者を決める必要があったな」
千冬さんは今思い出したといった具合に言った。
「クラス代表者というのは文字通りの意味だ。所謂クラス長だな。生徒会の開く会議や委員会に出席等を行ってもらう。因みにクラス対抗戦は入学時点での各クラスの実力を測るものだ。加えると1度決まると1年間変更はないからそのつもりでな。さあ、自薦他薦は問わんぞ。意見のある者は挙手しなさい」
殆どのクラスメートの視線が僕と一夏に集中する。
「はい!! 織斑くんを推薦します!!」
「私は月村くんを推薦します!!」
案の定僕と一夏が推薦された。
「ふむ……候補者は織斑と月村か。他には居ないのか?」
「納得がいきませんわ!!」
オルコットさんが立ち上がり机を力強く叩いた。
「その様な選出は認められません!! 大体男がクラス代表なんて務まる筈ありませんわ!! 恥さらしもいいところです!! このセシリア・オルコットはその様な屈辱を一年間耐える事なんて出来ません!!」
何この子。怒りで暴走している?
はあ~イギリス貴族を名乗るのなら自分を律さないといけないな。
「大体物珍しいからと極東の猿を代表に選ばれては困ります!! わたくしは態々この様な東方の島国までISの技術の修練にきているのであってサーカスをするつもりは毛頭ありませんわ!!」
あちゃ~千冬さんが切れちゃっているよ。
山田先生も静かに怒りを耐えている。
クラスメート達からも憤怒の気配が漂っている。
ああ、駄目だ。僕も切れてしまいそうだ。
「やっかましいぞ!! この小娘!!」
あっ、先に一夏が切れちゃった。
お蔭で少し落ち着いた。
仕方ない、僕も助け舟を出すか。
「オルコットさん、それが仮にも国を背負っている代表候補生の言葉かな。君は我が祖国日本を侮辱した。それはつまりイギリス本国の総意と取られるんだよ」
僕の言葉にオルコットさんは眼に見えて狼狽している。
「まあ、それでも納得がいかないなら僕と一夏、オルコットさんで決闘して決めようじゃないか。よろしいですね、織斑先生」
「ああ、構わん。オルコットもそれで良いな」
「わっ、わかりました。その決闘お受け致しますわ」
「では決闘は一週間に後執り行うこととする」
こうしてクラス代表を選出する決闘が取り決められた。
さあ、どう転ぶか楽しみでしょうがない。