BLACK★ROCK SHOOTER -Wishing on a STAR-   作:アカ狐

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この街と隣の街を隔てた壁の向こうへ行くことは、自分の人生には縁の無いものと思っていた。
彼女と出会うまでは。











序章

風の強い肌寒い日のことだった。

 

吹き付ける風が国境に沿うように立てられた巨大な壁にぶつかり、

風切り音がその上に造られた通路の手すりに、紐で結びつけられたラジオをカタカタと揺らしている。

 

ラジオからは民衆の反乱によって起きた革命によって10年続いた軍事政権が倒れてからもう1年が経つというのに、未だ混乱が続く様子を伝えている。

 

今日は隣の街で工場の作業員がストライキを起こしているというニュースを国境警備兵の少年に届けた。

 

背は大人達よりも一回り背が小さく、持っている自動小銃が大きく見えた。

ストライキの煽りでまた少し市場の物価が値上がりしてしまうかもしれない。

少年は思った。

 

彼の名はトト。国と国とを隔てる巨大な壁の内側に、寄り沿うように造られた壁の街”グレートウォール”で老夫婦と暮らしている。

トトは白い息を吐きながら時折吹き付ける冷たい風に目を細めている。

 

「トト!少し早いが交代だ!お前に面会の客人が来てるぞ!」

 

「あ、はーい!すぐ行きます!」

 

壁の下からの呼ぶ声にトトは答えてラジオを回収すると、階段を降りてすぐの場所に立てられた小屋に入る。寒さをしのぐための休憩所で、小屋の真ん中に置かれた薪ストーブがこんこんと音を立てて燃えていて、そこに数人の男が兵装のまま暖をとっている。

 

「今日も寒いですね...」

 

何気なくトトは彼らに声をかける。

コーヒーをすすっていた一人にお前もどうだ?とすすめられたが、トトは遠慮した。

 

「お前さんの待ち人は俺たち以上に寒そうだ。早く行ってやれ。」

 

「はい。」

 

トトは銃を毛布で包んで隅に立て掛けると一礼してその場を後にした。

向かう途中で彼の一年先輩に当たる兵士、ヴォルに声をかけられる。

 

「トト、お客さんはあそこだ。お前どこで引っかけたんだよあんな美人。」

 

「勘弁してくださいよぉ~...。」

 

トトはヴォルの茶化しをあしらいつつ、彼の指差した方向を見る。

黒い髪を二つに結い、その髪の色と同じくらい黒いコートを着た少女が、国境を守る壁を見上げている。

 

歳は彼とさほど変わらなさそうだった。

トトが思わず見とれていると少女が気づいて歩み寄ってくる。

 

透き通る青い瞳と、眉一つ動かさない無表情にトトは思わずうろたえる。

彼の数歩手前で少女は足を止め、口を開く。

 

 

「トト。」

 

「...へ?な、何で僕の名前を...?」

 

「貴方に危険が迫ってる。私は貴方にそれを伝え、守るためにここへ来た。」

 

「そ、それってどういう...。」

 

少女の突然すぎる言葉をさらに動揺したトトだったが、少女の後ろに自分のものと違う制服に身を包んだ兵士達が歩いてくることに気づき、その姿に思わず身構えた。

 

濃いグリーンの軍服に赤い腕章。革命政府の民兵達だ。

街の住人や警備兵達が何事かと彼らを見つめ、辺りが異様な雰囲気に包まれる。

 

「いたぞ。アイツだ。」

 

先頭を歩いていた男が写真を片手にトトか少女のどちらかを指差した。

後ろにいた民兵達が突撃銃をこちらに向けて構える。

街の住人達がうろたえ、動揺し、警備兵数人がそれを見て咄嗟に銃を民兵達に向ける。

 

「何をしに現れた!」

 

トトの後ろから怒声が聞こえる。

振り返るとヴォルがピストルを民兵達に向けている。

 

「やれやれ...大人しくしてもらいたいのだが...」

 

車が更に走ってきて停まり、民兵達が降りてくる。

その時点で銃を構えた警備兵よりも民兵の数が多くなってしまった。

 

「いいか国境警備兵の諸君!ここで血を流したくないのなら大人しくすることだ!我々は君らには用はない!」

 

無関係な住人を巻き込みそうなリスクを抱えている分こちらが不利だとトトは思った。

他の警備兵達もそれは同じだったようで銃を少しだけ下ろす。

 

「分かればよろしい...さて、トト・ヘレナ・クレスト君。我々と来てもらう。」

 

「...ぇ?」

 

「そう、君だ。拒否権はない。抵抗するならば、この場で身柄を拘束する。バカな真似はしないことだ。」

 

突然の出来事にトトは訳が分からずに狼狽える。

しかし黒髪の少女は彼の前に庇うように立ち、彼らを阻んだ。

 

「やれやれ...まだ話の分からない者がいたとは...」

 

男は腰のホルスターから拳銃を素早く抜いて引き金をひくが、吹き飛んだのは男の体だった。

 

少女がそれよりも早くどこからともなく身の丈ほどもある巨大な大砲から青白い炎をまとった岩石のような弾丸を撃ち出し、男を吹っ飛ばしたのだ。

その場にいた全員が言葉を失う。

 

「君は...一体...。」

 

「すぐに撤退してもらいたい。退かないのならこちらもただでは済まさない。」

 

彼女の左目に、青白い炎が灯る。

トトの疑問に答えないまま、民兵達を見つめている。

 

「ッ...!退け!退け!」

 

民兵達はすぐに吹っ飛ばされた男を回収し、車に乗り込んで去っていった。

少女が大砲を下ろす。

 

「い、行った...?」

 

「...退いただけ。またやって来る。あなたはもうここには居られない。すぐに街を離れるべき。」

 

少女の冷たい言葉にトトは思わず声を荒げる。

 

「そんな!いきなり現れてそんなこと言われても困るよ!君はいったい何者なんだ?」

 

「......いきなりではない。命令を受けて、私はここにいる。」

 

「!...命令......?」

 

「10年前、私は命令を受けた。10年後の貴方を守るようにと。」

 

淡々と答える少女にトトは狼狽える。

 

「トト!あとの事は俺達にまかせろ!お前は家に戻ってすぐここを発つ用意をするんだ!」

 

ヴォルがトトに言った。彼は悩む。

 

「とりあえず、あの二人には話をしないと。街を出るのは、それからです。」

 

「...分かった」

 

トトの言葉に少女は頷く。

そういえば名前を聞いていなかったことを彼は思い出して問いかける。

 

「君、名前は?」

 

「...ブラックロックシューター。」

 

少年と少女は、こうして出会った。

そして、運命の歯車はゆっくりと動き始めたのである。

 

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