BLACK★ROCK SHOOTER -Wishing on a STAR- 作:アカ狐
クリーチャー
現在国内で突如出現した怪物の総称。
暗い場所を好み、動く物を執拗に狙う習性がある。
姿は動物とはかけ離れているが、人間のような姿をしている個体が存在する。
ようやく呼吸を落ち着けて状況を飲み込んだトトは、
通路沿いの電灯の下で肩に掛けていた鞄の中身を確認した。
水でほとんど濡れてしまってたが、紛失したものは無いようだ。
祖母から預かった手紙とチョコレートだけはどういうわけか無事だったらしく、濡れてすらいなかった。
トトはそれを見て少し安心したが、すぐに不安と罪悪感で胸がいっぱいになった。
祖父の拳銃を失くしたことと、アレスとはぐれたこと。
何より、ここから出られるかが全くわからないからだ。
かなりの距離を流されたらしく、自分が落ちたであろう穴のようなものは見当たらないし、
そもそもここが何処かさえ分からない。
「ど、どうしよう…」
急に心細くなってきてしまったトトは膝を抱えてうずくまる。
「トト」
「え?うわっ?!」
突然ステラに抱きしめられて、トトは動揺する。
しかし彼女の胸から伝わる心臓の音は、不思議と彼を安心させた。
「大丈夫、私がついてる」
「あ…ありがと…、でも、その…」
「?」
「こ、これは、ちょっと恥ずかしいかな…?」
ステラは首を傾げた。
「?人間はこうすると安心するとプログラムにはある」
一体どこの誰がこの子にそんな知識を与えているのだろうかとトトは心底疑問に思った。
~~~~~
自分が迷い込んだのは水路なのだろうと思うことにしたトトがまず行ったのは、
自分の服の水気を取ることだった。
着ている服を全部脱いで、水気を出来る限り絞り取っていく。
ずぶ濡れで体にまとわりつく服を脱ぐのに手間取っているときにステラが手伝おうとしたが、
トトが必死に制止させて向こうを向くように説得し、
ステラは訳が分からないながらもそれに従った。
そうして着替えるが、まだ少し湿っぽくてトトは身震いした。
ずぶ濡れよりはずっといいと思うことにして、トトは鞄からランプを取り出す。
手回しのハンドル回して電気を作って点灯させる方式の物だ。
動かしてみるとしっかりと機能し、トトは安心した。
次に肩に掛けていた猟銃を持って、弾丸を装填する。
銃身が上下二連の中折れ式のライフル銃で、これはトトの祖父が猟師だった頃に使っていたものだ。
大きなシカを狩ったときの写真を見せてくれたことが、トトの記憶には新しい。
「ねぇ、ステラ…?」
「何?」
「またあの、デッドマスターに会ったとき…僕はどうすればいい?」
トトはステラに問いかけた。
もう一度彼女と相対した時、今度はバイクも無ければ狭い水路の中を逃げる必要がある。
前のようにいかないのは明らかだ。
「彼女はトトではなく、私を優先的に狙っていた。」
「え…?」
ステラの言葉にトトは驚く。
そして頭蓋骨には襲われたときのことを思い出す。
たしかにあのとき彼女は居なかった。
「恐らく彼女の狙いはまず私」
「ステラを…?」
「私を倒して、それから貴方を捕まえるつもりだった。そう考えるのが、自然。」
トトは思わず納得した。
確かに腑に落ちるところもあるが、疑問もあった。
「え、じゃ、じゃあ…僕がいる場所や、僕がここに落ちたことが分かったの?」
「分かる。…どうしてかは、わからない。ごめんなさい」
そう言って頭を下げるステラにトトは慌てた。
「そ、そんな…むしろありがとうだよ、君が居なかったら、危なかった…」
トトはステラにそう言うが、バイクや建物を破壊した狙撃やケルベロスのことを思い出し、
アレはもし自分が死んでしまっても別に構わないというような気がトトにはしてならなかった。
(僕の命がどうでもいいとなったら本当は何が彼らにとって必要なんだ…?)
トトは考えているうちに気が滅入ってしまった。
「う~~ン、ダメだ…。今はここから出ることを考えよう」
「そうするべき」
ステラはうなずく
「と、とりあえずこの水の流れと逆を行けば、落ちた穴に戻れるよね…?」
「ダメ」
トトは一歩踏み出す直前に肩を掴まれる。
いきなり掴まれ、トトは驚いてステラを見た。
その左目に青白い炎が灯った。
「な、なんで?」
「向こう側から、何かが来てる。近づいてる。」
「え?」
トトはもう一度目を凝らして通路を見る。
水流の中、一対の赤い光が水面を漂っている。
それを見た瞬間、トトは背筋が凍りつく感覚に襲われた。
(今すぐ此処から逃げなきゃ…!)
どこに逃げるか、どう逃げるか。トトはそんなことを考えるよりも早く声を張り上げた。
「走って!!」
ステラの手を掴みトトは踵を返して駆け出した。
二人の足音が水の音だけだった通路内に響く。
しかし彼らの走る速度よりも早い速度で赤いソレは追いかけてきた。
トトは横目でソレを見て、ソレが一対の眼球だと気が付いたのは、水面から巨大な口が姿を現したときだった。
ステラは大砲を抜くが、その口が閉じる方が早く大砲に喰らいつかれてしまった。
砲身に歯を立てられガリガリと金属の削れる音と金切り音を響かせる。
ステラはトトから手を放し、
右手から刃を顕現させて怪物の体に突き立てた。
「ッ!?」
しかし刃は怪物の体の強固な鱗に阻まれて、切先がわずかにめり込んだ程度で止まった。
ステラは何度も突き立てたり斬りつけようとするが、刃は怪物に傷一つつけられない。
「ステラ!」
トトはステラを助けようとライフルを構えるが、赤い目がぎょろりと動き、それと目が合ってしまい思わず体をこわばらせた。
目が “ 笑っていたのだ ”
考えすぎなのかもしれない。そう見えただけかもしれない。
しかし、「見つけたぞ」とでも言うかのような、
その巨大な口を持つ怪物の微笑を目の当たりにした
トトは完全に蛇ににらまれたカエルのようになってしまった。
引き金には指がかかっているのに、引けない。
怖い。
手が震えて指に力を入れられない。
怪物はそのまま頭を振るい力任せにステラを壁に叩きつけた。
彼女の体はレンガ造りの壁にめり込み、そのまま崩れ落ちる。
「ステラ!」
トトは叫ぶが、彼女は動かない。
にじり寄る怪物に目をやり、その姿に腰を抜かしてしまう。
「く、来るな!来るな!」
トトは叫ぶ。
恐怖心で、心の底から出た精一杯の抵抗だった。
「来るなぁ!!」
しかしトトのその声に怪物は目を見開いてそこから一歩も動かなくなった。
否、動けないという方が正しいほど突然動きを止めた。
「…えっ……?」
怪物自身も何故動けないのか分からないようなナニカをトトも感じ、その状況に驚いた。
“ガシャ”
水路内に響いた鈍い音。
黒い大砲を構えたステラは迷いなく引き金を引く。
撃ち放たれた砲弾が怪物の頭部に直撃し右の眼球を破壊して、水の中に叩き込んだ。
怪物は黒い濁流の中に消え、辺りには水の流れる音だけが残った。
「はぁ…はぁ…」
トトは恐怖心から解放され、一気に体から冷や汗が吹き出た。
その場から動けなかったが、トトはハッとしてステラの元へ駆け寄る。
「ステラ!大丈夫??」
「…私は、平気……、自己修復機能があるから、すぐに立てるようになる。」
「……」
トトは何も言わずにステラを抱きしめ、ステラは何故トトがそうするのか分からなかった。
「…トト?」
「僕がもっと強かったら君が傷付かずに済むのに…」
「…?」
ステラにはトトの言葉の意味は分からなかったが、
抱きしめられる感覚と彼の体温は何故か覚えているような気が、
彼女の中にはかすかに、確かにあった。
(続く)