BLACK★ROCK SHOOTER -Wishing on a STAR- 作:アカ狐
民兵隊
グリーンの制服に赤い腕章を付けた兵隊。
革命政府の主戦力であり、恐怖政治の尖兵でもある。
治安維持という大義名分の下、市民への不当な暴力や恐喝を行っている。
当然市民からの反感は凄まじいが、逆らえば命の保証は無い為、
日増しする権力に皆が怯えている。
「そういえば」
「何?」
通路内を歩いている道中で水路の経路案内図を見つけ、それに目を通していたトトはステラの呼びかけに、彼女の方を見ずに返事をした。
現在位置と最短の脱出経路を知りたかったからだ。
「さっきの怪物は、トトの言葉で攻撃を止めた様に見えた」
「え?」
トトはステラの方を見た。
彼女はいつも無表情で、トトはやはり彼女の心は読めないなと思う。
「うーん…僕がやめてって言ってやめてくれるような生き物には見えなかったけど……」
「…そう見えただけ、気にしないで」
ステラはそう言ってまた周囲を見張るように通路の奥に目を向けた。
トトはステラの言った言葉をあまり気にすることなくもう一度水路の図面を見た。
水路は雨水だけを溜めるためのものであること、
都市全体の雨水を処理するため、広大かつ複雑に分かれていること、
雨水を溜める貯水槽がいくつかに点在していること、
それを地上にある浄水施設へ汲み上げるための巨大なポンプがあること。
そして一番トト達の現在位置に近いのは第三貯水槽だということがわかった。
「これなら、まだ…」
トトは一縷の望みが見えたことに声色を明るくさせた。
「トト」
「え?あ、あぁ…外に出られるかもって思って」
「そうじゃない」
「えっ?」
トトは思わずさっきの怪物がまたいるのかと身構えたが、ステラの様子からそうではないことにすぐ気づく。
ステラはトトの鞄に目を落とし、ポツリとつぶやいた。
「…チョコレート」
「あっ、あぁ……ちょ、ちょっと待ってね…」
鞄からチョコレートの包みを取り出し、ひとかけらを割ってステラに手渡す。
ステラは段々小さくなっていくチョコレートを見て、貰ったひとかけらを更に半分に割ってトトに手渡す。
「トトも食べて」
「え?」
「食べて」
「…ありがと」
トトはステラからチョコレートを受け取って一口かじる。
ステラはそれを見てから小さくかじった。
~~~~~
チョコレートのおかげか心が少し落ち着いたトトはまた再び地図に書かれていた貯水槽を目指して歩いた。
そのうちに、水の音がどんどんと大きくなっていってることに気が付いたトトは、ポンプのある貯水槽はすぐそこだと思い駆け足になった。
ステラもトトにペースを合わせ、通路の出口で二人は広い空間に出た。
そこはまさしく、しかしトトの予想していた以上に遥かに巨大な貯水槽だった。
その空間だけで家が何軒もすっぽりと入ってしまうとトトが思うほどに広く、通路の下すぐのところまで溜まってきている水は、黒く濁っているからか底は全く見えなかった。
中央には天井に向かって伸びる巨大なパイプがまさに水を汲み上げている音が響き、トトが通ってきた場所とは違う水路からも流れる水の音が、巨大な空間を満たしていた。
そしてトトは自分たちが今いる通路から上に向かって上がっていくための通路と梯子が、
貯水槽の内壁に沿って備え付けられているのを見つけた。
「やっぱりだ。あそこから昇っていけそうだよ」
トトはそう言ってステラを見た。
しかし彼女の目は梯子の向こう側を見ているようだった。
「…ステラ?」
「……来る、隠れて。」
ステラに手を引かれたトトは通路から身を隠し、ステラはほんの少しだけ顔を出して様子を伺った。
梯子から誰かが降りてくる音が聞こえてくる。
濃いグリーンの軍服に赤い腕章、民兵隊だとステラは思った。
民兵が五人通路に降りて、最後に作業員と思しき男性が降りてきた。
銃を提げた兵士を前に、ひどく怯えた様子だった。
「話し声がしたのは本当だな?」
「は、はい…」
「ようし、お前たちはついてこい。最近動きを活発化させてる反乱分子の可能性もある」
「はっ」
隊長らしいベレー帽を被った男性が部下たちに命じる。
ステラは再び身を隠し、トトに手を差し伸べた。
「トト、手を出して」
「え?」
「早く」
言われるがままにトトはステラの手を握る。
ステラは指を絡ませてがっちりと握り返し、トトは少し動揺した。
「放したらダメ」
ステラは一言それだけを言った刹那、通路から勢いよく飛び出し、手すりを蹴り上げて飛び上がった。
トトはその速さと腕を引っ張られる感覚に心臓が縮むような感覚になったが、民兵達の姿を見て本当に心臓が縮んだような気がした。
「撃てッ!!」
民兵達が二人に狙いを定めて一斉にライフルを向けて発砲する。
ステラは大砲で弾丸を防ぎ、水を汲み上げているパイプを蹴って飛び、別の水路へ続く通路の前に降り立った。
「追え!!」
隊長が叫ぶが、ステラの砲撃の方が早かった。
放たれた青白い砲弾が中央に据え置かれたパイプが 伸びる天井に直撃してポンプを破壊した。
吹き出した水に兵士達が思わず足を止めた。
その隙をついて二人は更に奥へ逃げ込んだのだった。
「クソ、退避しろ!走れ!」
これ以上の追跡は無謀だと判断した隊長は部下たちに叫ぶ。
兵士達が元来た梯子を上がっていく中、
隊長は通路の奥へ消えていく二人の背中を見ていることしかできず、舌打ちをした。
~~~~~
その貯水槽真上に作られた浄水施設はポンプの破壊によって水が勢いよく溢れ出し、
膨大な水の圧力は建物の屋根を貫いて大きな水柱となった。
それを見た付近に居た住民達は何事かと驚きを隠せずにいる中で、民兵隊の男達が事態を収拾させる為に現場へと向かっていく。
「なんだぁ??水の汲み上げ施設で事故とは珍しいなあ」
少し離れたところで、水柱を見たアンドレがリンゴを齧りながら水柱を見て言った。
アレスはトト達が何か動きを見せたのだと思い、ニヤリと笑みをこぼす。
「アンドレ、ちょっとアレを間近で見てみたくは無いか?」
「まさかアレとトト君とやらが関係あると思ってる?」
「賭けてみるさ」
アレスの言葉にアンドレもふふんと笑う。
「じゃあ行ってみるとしますか」
「ちょっ!ボクの意見は無視!?」
ユナが叫ぶも、アンドレが彼女の言葉を耳にしたのは彼が既にアクセルを踏んだ直後で、
加速で体を後ろに持っていかれて座席に頭をぶつけたユナはまた運転席を思い切り蹴り飛ばした。
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「はぁ…はぁ……」
トトはもう追ってこないのを確認すると、その場にへたり込んだ。
走っている間は感じていられなかった疲れがどっときたようで、荒い呼吸を繰り返す。
トトは水路を流れる水面を眺めた。
地上で降る黒い雨のせいで濁った水を見て、とてもではないが飲む気にはなれなかった。
「この水が飲めればなぁ…」
しかしそれでも喉の渇きを抑えられずにはいられないトトはポツリとつぶやく。
そんなトトは見ていたステラも水面を覗き込んだ。
黒く濁っていた水路の底が見えた。
「…え?」
トトは驚きの声をあげた。
あれだけ黒く濁っていた水がすっかり透明な真水になったのだ。
手で掬ってみても透き通ったままのその水を、トトは口に運んだ。
それは本当に綺麗な水でトトの喉を潤した。あのえぐみのある黒い雨水とは思えなかった。
「……トトが言ったから、水が綺麗になった…?」
ステラが首を傾げながらポツリとつぶやく。
「そんなまさか」とトトは返したが、ふとさっきの怪物に襲われたときのことを思い出した。
そしてすぐにそんなはずは無いと思い、もう一度掬いあげた水をその気持ちと一緒に流し込んだ。
(続く)