BLACK★ROCK SHOOTER -Wishing on a STAR- 作:アカ狐
キングキル
革命政府の代表
国民の為の政治を謳い、真に平和な社会を実現すると称して
国内の反乱分子とみなされる人間を逮捕、拘留、抵抗するものはその場で射殺するなどの
恐怖政治を行っている。
トトの身柄を拘束することを命令しているが、その真意はおろか彼の出自には疑問が多い
首都グランドセントラル王城内
ゾディアックの4番位ヒュドラは、苛立ちのあまり己の得物である鋸を振り回し、周囲の物を破壊していた。
民兵達から結果の報告が来ず、プルートやケルベロスが帰ってこない事に苛立ちを積もらせ、それが爆発したようだ。
すぐそばにいた6の席の少女は何も言わずにそれを見つめており、時折自らの方へ飛んでくる破片をその巨大な腕で防ぐことしかしていない。
しかし直後一発の光弾がヒュドラ目掛けて飛び、ヒュドラはその光弾を切り飛ばす。
真っ二つにされた弾は壁に直撃し粉塵が舞った。
「全く…君は女帝らしい振る舞いに欠けるな」
ヒュドラが睨みつけたその視線の先には、10の席の老人が立っていた。
杖をコツコツと鳴らし、彼女に歩み寄る。
「うるさいわね…首を切り飛ばすわよワイバーン…!」
「怖ろしいことだ…。だが、戦う相手を見誤らぬほうが良いぞ?」
ワイバーンと呼ばれた10の席の老人はヒュドラに向かって笑う。
その釣りあがった口角に彼女は薄気味悪さしか感じなかったのか、視線を逸らす。
少しの沈黙、そして
「…ブラックゴールドソーでもあるこの私より下位の貴方が、私に指図しようなど……」
ヒュドラはそういうとワイバーンの横を通って去って行こうとする。
だが彼も6の席の少女も、彼女がそう簡単に引き下がるとは思っていなかった様だ。
「ッ!!」
ヒュドラは右手に握られた金の装飾が施された鋸を古いワイバーンの頭上に振りおろそうとした。
しかしその刃は何者かによって阻まれた。
彼女の赤い炎の灯る瞳には、それよりも明るい赤に光る刃と、同じ色の瞳を持つ白い少女が映っていた。
「…うるさくて眠れやしないわ。貴女が騒々しいから」
「……ローレライ…!!」
ヒュドラはローレライと呼んだ白の少女を睨みつける。
しかしその二人を止めたのはワイバーンだった。
「ここで争いを起こすでないぞ女帝閣下…。戦う相手を見誤るなと言ったはずだ」
「クッ…!」
「今ここで競り合っても君の兵士達の士気が上がるわけではない。…共に結果を待とうではないか。キングキルの様にな………」
「……」
ヒュドラは歯を軋ませると、ローレライとの競り合いを止め、鋸を床に思い切り振り下ろして轟音を響かせる。
そうして彼女は深く息を吸って吐いた。右の瞳の赤い炎が消え、辺りは静寂に包まれる。
ワイバーンは彼女を見つめる。ヒュドラの眼に最早憤怒は無い。
「……減らず口も程々になさい…!」
握られた鋸は炎に包まれて消え、ヒュドラは去っていった。
ワイバーンはそれを見届けてからローレライに声をかける。
「さて、眠りの邪魔をしたようだったが…もう目は覚めましたかな?歌姫よ…」
「もう少し眠るわ」
ローレライはそう言ってタンタタンとステップを踏みながら踊るようにその場を後にした。
事の顛末を見届けた6の席の少女はワイバーンの背中を見つめこう思った。
バカみたい。と
~~~~~
「ステラ!」
トトの声に応えるようにステラは狙いを逸らすべく、屋根から屋根に飛ぶ。
狙撃銃の少女はケルベロスで追跡しながら次弾を装填し、ステラに狙いを定めた。
ステラは振り返りざまに大砲を撃つ。
「チッ」
少女は軽い舌打ちをするとその砲弾を撃ち抜く。
青白く燃える砲弾は爆発し、火花を散らして地面に落下していく。
(このままでは不利だ、トトをどこかへ避難させなくては……)
ステラはそう考えながら、砲弾を何発も撃って距離を取ろうとするが、少女は距離を保ちながらその全てを正確無比な射撃で撃ち落としてしまう。
トトもこれにはどうするべきかをステラに抱えられながらも頭を回転させた。
そんなときトトの視線の先で建物の屋根が爆発した。
何が起きたのかと目を凝らす。民兵達が誰かを追いかけている。
彼らの追う先に、黒服の男が銃を持って応戦しながら走っているのが見えた。
トトはそれがアレスだとすぐに気づき、その方向を指さした。
「ステラ!あっちだ!」
ステラは頷いて屋根に着地しようと視線を移したが、直後に感じた気配に振り向くと、
狙撃銃を大きく振りかぶった少女に思いきり背中を殴られ、地面目掛けて落下させられてしまった。
どうやら視界から外れたわずかな隙をついて大きく飛んで距離を詰めたようだった。
落下の衝撃でステラが苦悶の声をあげる。
「ステラ!?」
トトは幸いにもステラが咄嗟に身を守ってくれたおかげで無事ではあった。
アレスの声にすぐに反応して身を起こそうとするが、ステラがしっかりと抱きとめているせいで起き上がれない。
「ステラ!大丈夫!?」
「私は平気……!」
そう答えたステラはやっと腕をほどいて身体を起こすと、トトの腕を引いて立ち上がらせる。
トトは少し不安が和らいだと同時に、自分のせいで傷ついていく彼女に申し訳なく思った。
狙撃銃の少女は二人の前に降り立ち、数秒遅れてケルベロスが降り立って咆哮を響かせた。
トトはそれに腰が引けながらも、どうにか打開できないかと思考を巡らせる。
「あ…貴女の目的はなんなんですか!?」
「目的?」
トトの問いかけに少女は聞き返す。
愚問であると言いたげに笑みを浮かべる少女にトトは畏怖した。
「キングキルが貴方を連れてこいと命令したから従っているだけの事。それが私達ゾディアックの存在理由」
「ゾディアック……」
トトは彼女の言葉を聞いて狼狽えた。
ゾディアックが二人がかりな上に民兵隊まで自分を追っている事実に驚かない方が無理だろう。
少女は自身の身の丈よりもある巨大な狙撃銃を一度だけ振るい、トトに近づいていく。
ステラは少女の前に立ち塞がり、トトを守る様に刀を彼の前に向けながら、左手に持った大砲の砲口を彼女に向けている。
「…ブラックロックシューター……やはり貴女が邪魔ね。」
「…トトには、一歩も近づかせない」
ステラが静かに、しかし真っ直ぐに少女を見つめた。
少女は紫の瞳でステラに対し明確な敵意を向け、狙撃銃を振り被ってステラに襲い掛かった。
ステラは黒の剣でそれを受け、同時にトトは横に転がってすぐさま物陰に隠れた。
少女はステラに押し返されて距離を取られてしまい、それを見たケルベロスの左右の頭が唸り声を上げた。
「ドヴァー、トゥリー。焦らないで」
少女は一言そう言ってもう一度ステラに接近する。
ステラは素早く砲撃をするが、狙撃銃の先端に取りつけられた杭打ち機のような物で砲弾が貫かれて爆発し、その爆風の中から少女はステラの眼前に飛び出し、銃を振り抜く。
「クッ…!」
ステラは大砲でその一撃を防ぐが、対応が遅かったのか腕を無理のある曲げ方をしてしまい、表情を歪ませる。
少女は紫の瞳で静かに炎の灯る左目を見た。
「随分余裕が無さそうね、大人しくあの子を渡せば殺さずに済ませてあげるのに…」
「トトは、渡さない…!」
少女の言葉にステラは静かに、しかし確固たる意志で言い返す。
トトは二人のそんな様子を見て猟銃を取るが、あのケルベロスがこちらの存在に気付いているのか、見張っているのか、トトを見つめたまま動かない。
目の前で競り合う二人を前に、トトは動けなかった。
(動くな。勝負が決まるまで見ていろ)
とでも言われているような気がしてならなかったのだ。
激しく金属がぶつかり合う度、火花が散り鈍い音が響く。
そして
「ぐっ…!うぅっ!!」
ステラは下から上に振り上げられた狙撃銃の一撃にガードを解かれ、
そこから更に横一線に振られた一撃をもろに受けて、受け身も取れぬまま道路に叩きつけられた。
「ステラ!」
トトは叫ぶ、彼女は答えない。
少女は突きの姿勢で狙撃銃を構える。
“ ガシャッ ” という音を響かせて、銃の先端が杭のような形に変形した。
少女は立ち上がろうとするステラにとどめの一撃を入れようと右足に体重をかけた瞬間、
「やめろ!!」
トトはそう叫び、ステラの前に両手を広げて飛び出した。
狙撃銃の少女はトトの行動に一瞬驚きを見せたが、彼に問いかける。
「…なぜ、彼女を庇う?」
トトは答えられなかった。
自分でも何故そんなことをしているのか分からなかった。
今にも足がすくみそうで、気が引けてしまって声も出ないのに。
少女はそんなトトを見て、さらに続ける。
「貴方は突然目の前に現れた彼女の言葉を信じて、言われるがまま我々から逃げているだけ。我々は君に協力してほしいだけだ。君の “ 力 ” が必要なんだよ」
「僕の、力……?」
トトが聞き返す。
彼の背後では刀で体を支えながら、ステラがなんとか立ち上がろうとしている。
少女の後ろにケルベロスが歩み寄ってくるのを見たトトはどうするべきかと考える。
ステラを連れて逃げようにも、あの怪物から逃れられる気がまるでしない。
「トト、私が囮になる…その隙に…アレスと合流して……」
「え…?」
背後から小声でステラにそう言われ、トトは聞き返す。
しかし、答えたのは少女の方だった。
「ブラックロックシューター、無駄な抵抗はしないことだ。彼を引き渡せば、お前は破壊しないでおいてやる」
少女はいつの間にか外していた耳当てを付け直しながらそう言った。
しかし、ステラは最初から言う通りにするつもりはないらしく、トトの前に立って刀を構えた。
それを見た少女が狙撃銃を構える。
二人の間に沈黙が流れたが、ステラが雨の音に混じって聞こえる車の音に気が付いた。
トトや少女にも聞こえ、ケルベロスが唸り声を上げる。
それはトトたちの後ろから近づいてきていた。
トトは振り返る。
狙撃銃の少女は二人の後ろからやってくるその車を見て、眉をひそめた。
屋根の上に、人影のようなものが見えたのだ。
「二人とも伏せろおぉぉーーーーーー!!」
(続く)