BLACK★ROCK SHOOTER -Wishing on a STAR- 作:アカ狐
「二人とも伏せろおぉぉーーーーーー!!」
ユナの声だ。
トトがそう思った直後、彼はステラに肩を掴まれて地面に伏せる形になった。
ユナは車の天窓を開けてそこから身を乗り出し、使い捨て式の対戦車用擲弾発射器を構え、ケルベロス目掛けてそれを発射させた。
“ポンッ”という軽い音と共に弾頭が発射され、それは二人の頭上から2メートル上を通過して狙撃銃の少女目掛けて飛んでいく。
少女は巨大な狙撃銃を盾にしたところで弾頭が爆発し、辺りは煙に覆われる。
爆発を見たアンドレはブレーキをかけて激しいスキール音を響かせながら車を停車させる。
「やったか!?」
アンドレは雨の中巻きあがった土煙を見て言った。
トトは爆発のせいで耳鳴りを起こしてしまい、ステラに支えられながら耳を押さえてなんとか立ち上がる。
しかし土煙を振り払い、狙撃銃の少女が無傷で歩いてくるのを見て、アンドレとユナは絶望せざるを得なかった。
「対戦車ロケット弾だぞ……!?」
「化物かよ…」
「…邪魔をするなら、貴方たちでも容赦はしないと言ったはず……」
二人に向かって少女はつぶやく。
しかし、
「ッ!ダメ!」
少女が突然後ろを振り返り叫ぶ。
それよりも早く、アンドレ達の乗る車目掛けて、ケルベロスが3つの口から生える牙をむき出しにして襲い掛かった。
アンドレは慌てて車をバックさせ、逃走を図るがケルベロスが諦める気配はない。
「アジーン!ストップ!!アジーン!」
狙撃銃の少女が慌てて叫び駆け出すが、三頭の怪物は主人が自身の名を呼んでも攻撃の意思を抑えない。
ユナは咄嗟に残った発射器を投げつけるが、怯む様子も無くケルベロスは飛びかかる。
ユナは車内に逃げ込んだ為、噛みちぎられずに済んだが、車の上にケルベロスが飛び乗り、爪を立て車を歪ませる。
アンドレはなんとか振り落とそうと車をターンさせて急加速させるが、ケルベロスは爪を深く突き立てていて、振り落とせそうにはなかった。
「アジーン!!」
少女はトトのことも忘れて名前を叫ぶが、主の声は届かなかった。
ステラはこれを好機と捉え、トトを連れてこの場から離れようとするが、トトは手を引かれても動こうとはしなかった。
「トト?」
少女の背中を見つめる彼の横顔は、
ステラの目には寂しそうに見えた。
少女は膝から崩れ落ち、まるで生きる糧を失ったようにその場に座り込んでしまった。
トトは彼女の背中に声をかける。
「……あのケルベロスは、君の大切な存在なんだね…」
「……」
少女は答えない。
ステラはそんな二人を見ているしかできない。
トトは更に続けた。
「僕は、君の友達の耳を銃で撃った。自分を守るためとはいえ……」
「……」
「……こんなことを、君に言うのは、変だと思う。でも……、本当に…ごめんなさい」
「……ぇ?」
トトはそう言って、彼女に頭を下げて謝った。
少女はそれを聞いて驚いた様子で振り返る。
トトは顔を上げた。
「僕は、君の友達を傷つけた。だから、ごめんなさい!」
「…変なことを言うね。私は」
少女がそう言いかけた直後だった。
ステラが何かの気配に気づく。
それは少女も同じで、二人の様子の変化に気づいたトトは、自分たちの立っている “ 地面の下 ” から身も毛もよだつ殺気を感じた。
そしてその正体は、トトたちのすぐ前の道路の排水口を周りの路面ごと押しあげて姿を現した。
恐らくは地下水路のあるであろう場所、道路を押し上げて右目を潰されたあの怪物が再び地上に姿を現したのだ。
トトはその姿を見て怯えた。なんという執念で自分をここまで追ってきたのだと。
ステラは狙撃銃の少女を見た。
彼女はこの怪物を良くは思っていないらしく、不快そうにその姿を見つめている。
「トト!!」
アレスの声と同時に怪物の固い外皮に何かが着弾して爆発を起こした。
トトは爆風と熱に目と細める。
彼は煙を吐き出している擲弾発射銃を両手に持って、トト達とちょうど怪物を挟んだ向かいにやってきた。
「無事か!?」
「アレスさん!僕は大丈夫です!!ステラもいます!!」
彼の問いかけにトトは答える。
怪物はトトを見て咆哮を上げた。
「私が囮になる!ステラはトトを連れて逃げろ!」
「そ、そんな…!」
アレスの提案にトトは言葉を詰まらせた。
万が一自分たちが逃げきれたとしても、アレスが助かる保証が無かったからだ。
怪物が左目でアレスを捉え、尻尾で振り飛ばすが、アレスはそれを飛んで回避する。
ステラはトトを守るために彼の前に立ち、怪物を見て刀を構えた。
しかし怪物はそれを見逃さず恐ろしい速さで体を回転させ、ステラをトトや少女ごとなぎ倒そうとする。
「っ!!危ない!!」
トトは咄嗟に少女の方へ飛び出し、少女の体を伏せさせた。
トトの軍帽が尾に掠り飛ばされる。
ステラは尾の先を刀で防ぎ、火花を散らせた。
そのまま左手に大砲を出現させて撃ちだすも、砲弾は彼の固い鎧のような体に傷をつけることさえ出来ない。
アレスの銃でもそれは同様で、アレスは自分の銃の弾では鉛筆の芯で刺すようなものだと思った。
「君は…どうして…!?」
少女がトトに問いかける。
トトは軍帽があった場所を手で抑えながら、
「…なんでだろ、わかんない。」
とだけ言った。
怪物は体をよじってその巨大な口をトト達に向けた。
「トト!」
ステラは走り出し、その口がトトを喰らう前に止めようとするが、
怪物の動きの方が速く、怪物はトトと少女の二人を飲み込もうと大きく口を開けた。
もうだめだと思いトトは目をつむるが、狙撃銃の少女は違った。
彼女は狙撃銃を抜き、思い切り怪物の口の奥まで銃身を突き立てて引き金を引いた。
放たれた紫色の光弾が怪物の体を内部から粉砕し、影も形も残すことなく消し飛ばした。
トトは恐る恐る目を開くと、自分の目の前に立つ少女の持つ狙撃銃の機関部が動き、白い蒸気を上げていた。
「…トト、私はアジーンの事は咎めない。でも、君に敬意を払って名前を教える」
「えっ……」
「…私はマルチ、ケルベロスとか、ブラックマタギと呼ぶ者もいるけど…」
少女は狙撃銃を肩に乗せ、トトの方へ向き直りそう言った。
ステラはトトの前に立ち、彼女と対峙する。
しかし、マルチの口から発した言葉はトト達を驚かせた。
「ステラ、トトを連れて行きなさい」
「えっ!?」
狙撃銃の少女が唐突にそう言ったことに、トトは困惑した。
自分も先ほど頭を下げた身とは言え、見逃すと思っていなかったのだ。
マルチはトトの方を見て。
「アジーンを追いかけなきゃいけない。気が変わらないうちに行って」
トトは後ろから肩を掴まれる。
驚いて振り返ると、アレスが立っていた。
「トト、急げ。民兵隊が来る前に離れるぞ」
アレスの声にハッとしたトトは彼を一瞥して頷き、その場を離れるために走り出した。
ステラは一度マルチと目を合わせ、言葉を交わすことなく二人に続いた。
止まない雨の中、夜になりつつある街の中を三人は走り抜けていった。
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アンドレの車に爪と牙を立てていたケルベロスであったが、突然に攻撃を停止し自分の主人のいる方へ三つの顔を向けた。
「止まった!?」
車の屋根はケルベロスの重さで潰れてしまっており、ユナとアンドレは床に這いつくばってその牙と爪からどうにか逃れているような状態であった。
三頭の怪物はそのまま車から飛び上がり、地面に降り立つと主人のいる場所へ駆け抜けていった。
「な、なんだったんだ…?」
アンドレとユナは呆然としながらその後姿をみているしかなかった。
しかしものの十秒たらずで民兵隊が発砲してきたため、二人は脱兎の如く逃走を再開させるのだった。
(続く)