BLACK★ROCK SHOOTER -Wishing on a STAR- 作:アカ狐
奴隷
革命戦争後、戦災孤児や身寄りのない子供達や貧困の家の子供などが、
奴隷として民兵隊の内部にある競売にて値段を付けられ、部隊の高官などに買い取られている。
雨が降る中、傘も刺さずにマルチは三人が走っていく背中を見つめていた。
遠くから銃声と車のスキール音が響いている。
「ケルベロス!ケルベロス!」
マルチは後ろから聞こえる耳障りな声に振り返る。
そこにはデッドマスター“プルート”とスカルヘッドが居た。
そんな彼女の目はマルチを軽蔑しているかのようで、降りしきる黒い雨よりも冷たかった。
「一体どういう風の吹き回しかしら?ゾディアックの三番位ともあろう貴女が。よりにもよってステラすら取り逃がすなんて」
「………」
マルチは答えず、狙撃銃を肩に乗せる。
「……裏切り行為とみなして、貴女をここで殺してもいいのよ?私は」
「あなたには無理」
「なんですって…!」
マルチの一言にプルートの表情が変わる。
目を見開き、翡翠色の眼光を彼女に向け、得物である鎌の刃先を彼女に向けた。
しかし、マルチの表情は変わらない。
「ッ!!」
プルートが何かの気配を感じ、翼を羽ばたかせて後ろに飛ぶ。
直後、彼女が立っていた場所にケルベロスがその爪で地面を抉った。
「あなたは私とこの子には勝てない、私は先に戻る」
「待ちなさい!命令を無視する気!?」
「捕縛対象はトト一人のはず。なのにあなたはステラの抹殺を優先した。命令違反はお互いさま」
マルチはそう言うとケルベロスに跨って、そのまま走り去っていった。
残されたプルートは彼女の言葉に歯噛みをした。
「チッ……!スカルヘッド、二人を探し出しなさい…!生け捕りでよ……!」
「サガス!サガス!」
雷が鳴り始める中を、スカルヘッドが飛んでいく。
そして、プルート目掛けて落ちてきた稲光を、彼女は鎌で二つに切り裂き、
稲光はそのまま街に落下し、辺りを停電させたのだった。
~~~~~
停電はトト達も気が付いた。
同時に夜はアレスに懸念を抱かせた。
夜はクリーチャーが活発に活動するのだ。そして停電で辺りは更に暗くなっている。
奴らにとってこれほど都合の良い状況は無い。
「もうすぐ構内列車の車両基地だ!そこまで頑張れ!」
「ハァ、ハァ……」
街中を走るアレスから数メートル離されながらもトトは走っていた。
しかし息も絶え絶えで、もう目的地が見えているというところで、ついにへばってしまった。
アレスは足を止め、トトの方へ振り返る。
「トト、もう少し。走らなくていいから。」
「う…うん…」
ステラにそう言われ、トトは彼女に肩を借りながら歩いた。
自分のことではあるのだが、体力の無さに情けなさを感じるのだった。
~~~~~
そうしてようやく車両基地は目と鼻の先というところまで来たトト達であったが、アレスに言われて建物の影に身を隠す。
すぐ近くに民兵隊のトラックが停まっていたからであった。
そして民兵隊達の前に、あのゾディアックの “ デッドマスター ” プルートが降り立つ。
彼女を見た兵士たちはすぐさま整列し、彼女は彼らにこう言った。
「あの子達はこの付近に来ているはずよ。7時までに探し出して私に伝えなさい」
もうここまで足取りを気づかれているのかと、トトは思った。
プルートはそう言うと、翼を羽ばたかせてどこかへ行ってしまった。
「よし聞いたな!車両基地の守りを固めろ!列車はこれから出る便を最後に基地を閉鎖するぞ!」
民兵の話を聞いたトトたちは、自分たちに残された時間も少ないことを悟り、すぐに行動に出ることにした。
本来ならばしっかりと考えるところだが、先を急いでいく以外に進む道がないことにトトもアレスも不安があった。
しかし二人共、今まで自分たちの身に起こったことがあまりにも突飛すぎたせいか、どうにかなりそうな気が無いわけではないことが嫌なのだ。
それはやがて慢心になり、いつか足を掬われると思ったからだ。
~~~~~
トト達が最初に来た車両基地を囲むフェンスに沿って東に行ったところで、作業員用の勝手口を見つけた。
幸いにも見張りが二人しかいない。
アレスは握りこぶしくらいの石を拾うと、大きく振りかぶって片方目掛けてそれを投げつけた。
石は頭にぶつかり、もう一人がそれに気を取られた隙をついて剣の鞘で頭を殴り、気絶させた。
そうして、トトも意外に思うほどあっさりと車両基地に侵入することができた。
車両基地に入ったトトはステラが入ったのを確認して扉を閉めて鍵をかけた。
そして彼女を見て一つ頼みごとをすることにした。
「ステラ、お願いしてもいいかな?」
「?」
ステラは首を傾げる。
「その、列車に乗るまでは武器を使わないでほしいんだ。…いいかな?」
「それは命令?」
「ううん、お願い」
「お願い……?」
「えっと、守れたらそうしてほしいなって」
ステラはトトの言葉に二度三度首を傾けてから、縦にうなずいて、
「……わかった」
と言った。
「二人とも、そろそろ進むぞ」
アレスの言葉にはっとしたトトは慌てて彼の後ろに続いた。
車両基地の中は様々な列車が一列に並べられていたり、コンテナが積み上げられている場所や、車両を入れるための倉庫が並んでいる。
見張りの他にまだ作業している人間も多く見えた。
しかし見張りとは別に、作業員たちの監視をしているようにトトは思えた。
そしてその予想は正しかった。
トト達が人目を避けて歩く最中、遠巻きに倒れた作業員が目に入ったのだ。
それを見た民兵の一人がその人を蹴り飛ばして言った。
「おい!さっさと作業を続けろ!発車時刻を20分繰り上げてるんだからな!!」
「えっ…!?」
トトはその言葉に耳を疑った。
民兵は最後の便の発車の時間を早めたのだ。
作業員がその作業に追われ急ピッチで使われているのだ。
しかしそんなこと以上に雨の中必死に働いている作業員を蹴り飛ばした兵士を、トトはどうしても許せなかった。
「おい」
肩を掴まれ、トトはハッとする。
アレスがトトの左肩に手を置いていた。
「君の気持ちはよくわかる。今すぐ飛び出したくなるのも無理はない。だが今は堪えろ」
「……。すみません」
トトはうなだれた。アレスが肩に置いていた手を放す。
「民兵隊は常日頃からああやって権力を日増しさせている。だが、アイツらのあんな行いは、いつか終わりにしなければな。今は先を急ぐぞ。」
アレスはそう言ってまた歩き始める。
「トト…?」
ステラがうなだれたままのトトの顔を覗き込む。
トトは目が合うなり、さっと視線を逸らして、顔を上げて歩みを進めた。
人目から隠れながら歩いていると、かなり作業員や民兵の数が増えてきたのをアレスやトトは感じていた。
そうして、作業員達が貨物列車に荷物を運び入れているのを見たトトは、あれが自分たちが乗り込む列車なのだと確信した。
「あれで間違いなさそうだな」
「はい」
アレスの言葉にトトはうなずく。
首都グランドセントラルへ向かう為の手段にようやく辿り着いた。
残る問題はどうやって乗り込むかというところであった。
「トト、アレは何?」
「へ?」
服の裾を引かれ、トトはステラに問われた方向に目をやる。
そうして、見たものにわが目を疑うこととなった。
「奴隷だ……」
「奴隷?」
そこに居たのは、鎖と手錠で繋がれ、民兵に見張られながら一列に並んで貨物室に乗せられていく奴隷の少年少女たちの姿だった。
歳もトトとさほど変わらない。
「あれもこの街の風景だ。貧しい家の子供をああして民兵隊に売らざるを得ない住人もいるんだ。アイツらは奴隷商と繋がっていて、首都で競売にかける気なんだろう…」
アレスは言った。同時に列車に乗り込む為に都合の良い理由だとも思った。
自分の話を聞きながら、彼らを見ている二人を隠すための、考えが浮かんだのだ
「私に考えがある。が、二人聞いても怒るなよ??」
~~~~~
「よし!閉めろ!発車前点検と確認が済み次第、発車しろと運転士に伝えろ!!」
奴隷の列の最後尾が貨物室に乗り込んだところで、見張りの兵士が作業員に指示を出す。
そうして貨物室の戸が閉められようとしていたときに、作業員がぼろ布に身を包んだ二人の子供を連れてきた。
「おーい!二人ほど置き去りにされてたぞ??こいつらもだろ?」
「何??おい!奴隷が二人逃げてただと??」
兵士が作業員に銃を突き付けて詰め寄った。
「私が見つけてなかったらおおごとだったんだぞ?発車時刻が迫っているのに揉めたくない。」
「奴隷の人数を確認させる」
「いや、そんな時間はない。すぐに発車させないと」
ガガガガガ!!
兵士が持っていた突撃銃を上に向かって撃ち、作業員を脅かせる。
それはその場にいた全員をも驚かせるには十分に過ぎたもので、空気が一気に張りつめる。
奴隷二人はその音と光に怯んで互いに身を寄せ合った。
「…ここの権限は俺だ。俺が決めることだ。」
「ゾディアック“プルート”は認めているのですか??」
「何…?」
作業員の言葉に兵士は少し焦った様子だった。
おそらくは自らの独断で動いているのであろう。
「ここだけの話と言うことにして、この奴隷をさっさと積み込んでしまいませんか?私も面倒事は御免です」
「貴様は俺に楯突くつもりか!?俺達が民兵だと分かってやってるのか!?」
彼自身、とっととこの仕事を片付けたいに違いない。
作業員…に扮したアレスは、その深紅の瞳で彼の怠惰さを見抜いていた。
「私がこの奴隷を責任もって運びます。それで手を打ちましょう」
「……なら、お前もあの貨物室に乗れ」
「構いませんとも」
そうしてトトとステラは奴隷に扮して、アレスは鉄道作業員に扮して、奴隷の詰められた貨物室ではあるが、貨物列車に乗り込むことができたのだった。
「発車しろ!」
兵士の一声と共に、鉄の車輪がレールとの摩擦音を鳴らしながら、ゆっくりと動き始めた。
「へくしっ!」トトは下着も身に着けずに、ぼろ布一枚で雨に打たれたためかくしゃみをした。
そして間近でこの世に希望をみいだせなくなった目をした奴隷たちの姿を見て、やるせなさを感じた。
彼らを助けようにも、どうやって助ければ良いのか。
助けたとして、その先はどうやって彼らを導いていけば良いのか。
トトにそんなことを考えるだけの知識も経験も無かった。
ドン!ドン!ドン!
ガガガガガガガガッ!
遠くの方から銃声と民兵達の声が聞こえる。
街にクリーチャーが出たのだろう。
トトはあの時の巨大な怪物を思い出して、肩をすくめた。
国境都市に居たときは、あんな怪物も、遡ればあのガソリンスタンドで出会った怪物にも会ったことは一度も無かった。
冷えか恐怖か、体が震え始める。
そんな彼を知ってか知らずか、ステラはトトの隣にぴったりと身を寄せて、彼の左手に右手を重ねた。
彼女の手から感じるぬくもりが、冷たい空間に身を置くトトの不安を和らげた。
雪原の中灯した、蠟燭の火のように。
(三章 Under Water Wanderer 了)