BLACK★ROCK SHOOTER -Wishing on a STAR- 作:アカ狐
トトの自宅は壁から少し離れたところの住宅街の一角にあった。
規格を合わせているらしく、どれも同じ形の家で道路に面している部分に番号が振られている。
トトはその中のG-24と書かれた家の扉を開けて中に入る。
「君も入る?寒いでしょ?」
トトは訪ねる。少女はこの真冬にホットパンツという丈の短いズボンを履いていたからだ。
「寒くは無い。でも、入る。」
少女は小さくうなずく。眉一つ動かさない反応は、心理を一つも読ませない。
中へ入ると、暖炉で火が燃える音と、ラジオの音が聞こえてくる。
「あら?トトですか?えらく帰りが早いじゃないの...。」
奥の部屋から老婆の声が聞こえてきた。
声は優しいものだった。
トトは部屋へ向かうと、紅茶をすする老婆と、車椅子の老夫がいた。
老婆はヘレナ、老父はクレスという名前で、トトが4歳のときに彼を引き取って世話をしていた里親だ。
「ただいまお爺さん、お婆さん。ちょっと大変なことになって。ニュースは聞いた?」
「いいえ?先程外が少し騒がしかったのは聞きましたけどねぇ。そちらは?」
老婆はトトの背後に立つ少女に気づく。
「あっと...ステラさん、僕の、おきゃくさんです。」
「あらまぁ。」
ややたどたどしい言葉でトトは答えた。
ステラという名前は彼の咄嗟の思い付きで、着ているコートの胸元に、星のマークが描いてあったからだった。
トトは老夫婦との会話を続けた。
「それで、その外の騒ぎのことなんだけど...その、僕...急いでこの街を発たなくちゃいけなくなったんだ。」
部屋が静まり、部屋はラジオの音と暖炉で燃える火の音だけになる。
老夫は静かにトトを見つめ、老婆はラジオを止めた。
「トト、何があったかを説明してちょうだい。いきなりそう言われても、私達はうなずけない。貴方の身に何があったの?」
「実は...」
トトは経緯を話した。
話を終えると、真っ先に老婆が口を開いた。
「トト、これは私達...いいえ、貴方の手にも負えない問題だと思うわ。でも貴方の助けになるかもしれない人がいる。その人に手紙を書くからそれを渡しにグランドセントラルまでお行きなさい。」
そういうと老婆は棚の引き出しから便箋を取り出すと椅子に座って老眼鏡をかけ直しペンを走らせ始めた。
老夫は少し待っていなさいと言って部屋を後にする。
少し待ち、ぱきんと音を立てて薪が爆ぜたとき、老婆が立ち上がって便箋とメモを渡した。メモには住所と名前が書かれている。
「トリュー、ゲオルク......。」
「この人なら貴方の助けになってくれると思うわ。」
ちょうど老夫が戻ってきた。回転式拳銃と、中折れ式の猟銃を持っている。
「何かの役には立つだろう。持っておきなさい。」
老夫はさらに弾を20発ずつ、金貨10枚と銀貨15枚を渡してくれた。
「お爺さん...。」
「家の裏にお前が直していたバイクがあっただろう?アレはもうお前のものだ。乗っていくと良い。」
「...ありがとうございます。」
「トト、急いだ方がいい。」
ステラの声にトトが振り返ると彼女が窓の外を見つめている。民兵のトラックが家を一件一件回っているらしい。
「此処に居るのは危ない。裏口から出て行きなさい。無事を祈っているよ。」
トトは自分の部屋に行き、身支度を整えると最後に老夫婦に深々とお辞儀をして裏口から家を出た。すぐのところに停めてあったバイクに掛けられた布を取り、エンジンを掛ける。
日頃の整備と手入れの賜物だったのか、軽快な音を立ててエンジンが回り始める。
そのとき家の表側から民兵達が家の中に入ってくる音が聞こえ、トトが行こうとするが、彼女に止められた。
「行ってはダメ。」
「でも......」
トトは歯を食い縛って気持ちを押さえ、バイクに跨がりアクセルを開けた。
ステラもその後ろに乗り、バイクが通りに出たその瞬間だった。
「居たぞ!こっちだ!!」
男の声が響いた。そしてそのすぐ後に
バン!バン!バン!
銃声が響き渡り、弾丸が空気を切り裂いてトトとステラの横を通り抜けた。
彼はよせばいいのに、あと頭一つ分横にずれていたらという想像をしてしまい、全身の血の気が一気に引いて、嫌な汗が溢れだした。
「止まったらダメ!彼らから逃げて!」
ステラが強い語気で言った。その言葉にハッとしたトトはアクセルを開けて更に加速させる。
後ろからは車数台とトラックが列になって追いかけてきた。
バン!バン!
後ろから銃声が聞こえる。地面に当たり弾けたり、彼の横をすり抜け、トトの耳に風を切る音が響く。
思わずひぃと声を出して、彼は更にアクセルを開けバイクを加速させる。
「トト、そのまま。」
ステラに言われ、トトは姿勢を低くしたままバイクを走らせる。次の瞬間、ステラは大砲を抜き、車の一台を吹き飛ばす。
「見るのは前だけ。」
トトはミラー越しに後ろの光景を見たのだが、ステラに言われすぐに視線を戻す。
やがて、街の区画、つまりは街の外に出る為の関所が見えてきたが、そこも民兵達によって塞がれている。
「絶対に止まったらダメ。」
トトは首を縦に振った。心臓が飛び出そうなほどに息が詰まり、声がでなかったのだ。
その背後でステラは立ち上がり、大砲を発射する。
青白く燃える岩の弾丸が関所を固めている兵士達を吹き飛ばし、煙で見えない場所をそのままバイクで駆け抜けた。
関所を抜けた先は広い道路と、何もない荒野が視界に広がる。
トトは自分のこれからの運命に不安を感じながらも、この少女を頼りに首都へ向かう以外に残された道が無くなってしまったことを思いながら、バイクを走らせ続けた。
「何故歌わなかったんだ?」
「ふふっ、気分♪」
「...そうか、次はいい曲を頼むよ。シングラブ」