BLACK★ROCK SHOOTER -Wishing on a STAR-   作:アカ狐

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スタング

革命政府に属している騎兵部隊。
構成員全員がバイクに乗り、槍を用いた高速戦法を得意とする。
リーダーであるアルベルト・ディセンベラは革命戦争で戦果を上げたとされ、
ゾディアックの12番位である “ スレイプニル ” の名を冠している。








四章 ~The Edge of the Ridge ~ 1

 

 

 

 

 

工業都市ルールの車両基地の前に整列した民兵達は目の前に立つ女性に怯えていた。

捕縛する人間を捕まえられなかったどころか、貨物列車に乗った可能性が持ち上がったのだ。

 

この失態に対し、彼女、デッドマスターの二つ名を持つゾディアックの七番位プルートは鎌の刃先を地面に掠らせて火花を散らしながら目の前の兵士達を静かに見つめていた。

 

「で?ステラもトトも見つからなかったうえにこの街から逃がしたということでいいのかしら?」

 

民兵達は答えない。

答えられないのだ。

 

下手な言葉を紡げば、首と斬り飛ばされるに違いないと思っていたのだ。

その場にいる兵士達全員が。

プルートは苛立ちを抑えきれず鎌を振り上げたその時だった。

 

“ ドルルォン!! ”

 

爆音をとどろかせながら、三台のバイクが彼女たちの目の前に現れた。

彼らの跨るバイクには数本の巨大なランス(円錐型の槍)が専用のホルスターに収められていて、まるで巨大な排気管のようにも見えた。

 

そして彼らは全員馬に用いる頭絡のようなものを頭に着けており、服の肩には八本足の馬と槍が描かれていた。

一人が降りてきてプルートに声を掛ける。

 

「自分の部下でもない民兵を相手に憂さ晴らしか?デッドマスター?」

 

「スレイプニル…!貴方に関係ないでしょう?金で雇われているだけの分際で…」

 

「どうかな?ここで無駄に兵を殺せばキレるのはあの女帝だ。ノコギリ女の怒りを鎮める役はアンタも御免だろ?」

 

スレイプニルと呼ばれた男はそう言うとフシュウウーーと大きく息を吸って吐いた。

 

「…覚えておきなさい」

 

プルートはそう言って翼を広げて飛び立つと、そのまま何処かへ去って行った。

スレイプニルはそれを見届けたのち、兵士たちに指を指してこう言った。

 

「お前ら、あのノコギリ女に伝えておけ。悪いが手柄はこのスレイプニルとスタングが貰い受けるとな」

 

スレイプニルはそう言うとバイクに跨り、後輪から白煙とスキール音を立てて引き連れた部下と共に走っていった。

道路から線路を沿うように、トト達の乗る貨物列車への追跡を開始したのだ。

 

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 

トトは奴隷たちに囲まれ、列車に揺られている。

隙間風に震えるトトにアレスが服を手渡した。

 

「ここまで来れば大丈夫だろう。早く着替えるんだ。グランドセントラルの手前の駅で列車が停まるはずだ。そこで列車から降りる。そこからは歩きになるがな」

 

「停まるんですか?」

 

「あぁ、駅でアイツらが話していたことが正しいならな」

 

服を受け取るトトの問いかけにアレスは答えた。

兵士達の話を聞いてる余裕が無かっただけに、アレスの存在がトトには心強かった。

服を着たトトは外套をステラに羽織らせた。

 

「?トト、私はべつに寒くはない」

 

「あ、いや、着替えるときにあったほうがいいから…」

 

「?」

 

ステラにはトトが顔を赤くするのは何故かは分からず首を傾げた。

トトは更に肩を叩かれる。アレスが銃と弾などが入った自分の鞄と、ステラの服を渡してきたからだ。

 

「君の銃だ。返しておく」

 

「…ありがとうございます」

 

トトは死んだようにその場に横たわる奴隷たちを見て、

彼らの為に行動できない自分の今にもどかしさを感じた。

 

「駅に着いたら覚悟しておけ。今度は人を撃つかもしれないからな。」

 

トトは拳銃のシリンダーから薬莢を出して新しい弾丸を装填した。

祖父から貰った弾丸は、これで残り14発となった。

 

「トト、これはどうしたらいい?」

 

ステラに声をかけられて振り返ると、ステラが着替えを終えていたが、

外套とは別にもう一つロザリオを持っていた。

 

それはトトが物心のついた頃から、お守りとしていつも持ち歩いているものだった。

いつもそうしているから、外套の内ポケットに入れたままであったことを、

トトはすっかり忘れていたのだ。

 

「あ、うーん…」

 

外套を受け取ったトトは、そのロザリオをステラから受け取ると、そのまま彼女の首に掛けた。

ステラは意図が分からず、首を傾げた。

 

「?、トト?」

 

「君が付けてて。預かってほしいんだ。」

 

「それは、命令?」

 

「ううん、お願い」

 

お願いと言われ、ステラは少し考えたように俯いてから頷いた。

 

「…お願い、聞いた。」

 

「ありがとう」

 

「お話し中のところすまないが、あまり時間はないぞ」

 

二人のやり取りにアレスが割って入った。

彼は列車の走行音に混じって近づいてくるエンジンの音に気が付いていた。

 

「この貨車から移動するぞ。着いてくるんだ」

 

三人は奴隷の乗る貨車の扉を開け、前の貨車に乗り移る。

近づいてくるエンジンの音はトト達にも聞こえた。

だいぶ近い。もうすぐそこまで迫ってきている。

トトはそう感じた。

 

そうして物資が多く積み込まれたコンテナの中に入り、前の貨車に移動しようとトトが歩き出そうとした瞬間、トトはステラに思い切り掴まれて前に倒れこんだ。

しかしその直後、側壁から何かが突き刺さり、コンテナの内部にまで達した。

 

アレスも咄嗟に伏せたため、全員が無事であったが、トトはあのエンジン音の主たちの恐ろしさを思い知った。

すぐにその何かは引き抜かれ、側壁に大きな穴を造った。

今やエンジン音は無数に中で響き、もはや爆音も同然であった。

 

「コイツらは…!」

 

アレスが吐き捨てるように言った。

彼らの存在を知っていたのだ。

ゾディアックの12番位を冠する男 “ スレイプニル ” と、彼に従う兵隊 “ スタング ”

 

バイクを駆り、手持ちの槍を用いて戦う騎兵部隊。

ゾディアックの位は最も下ではあるものの、その実力を国中に爆音と共に轟かせている。

トトもアレスと同じことを思い、やはりあのときマルチが言っていた、自分の持つ何かを狙っているのかとも考えた。

 

しかし考えてる暇は無く、トトが動く前にステラは立ち上がり、大砲を外へ向けて発砲し、壁に大きな穴を開け、

外へ飛び出して貨車の屋根に飛び乗った。

そうして彼女はそこで初めて攻撃を仕掛けた者達の姿を見た。

 

見える範囲だけで追跡者は7人

バイクに跨る彼らの右手には、騎兵が突撃に使う大型のランスが握られていた。

さらにバイクには予備のものであろうランスが5本も備え付けられている。

 

「ステラ!!」

 

トトは叫ぶが、彼の声は彼女には届かない。

列車の音、バイクの爆音、風切り音が完全に遮ってしまっているからだ。

そして彼女は今、彼を守るために囮になろうとしている。

 

「ブラックロックシューター!お前の王子様はこのスレイプニルとスタングが頂くぜ!」

 

スレイプニルはそう言って、バイクを加速させ貨車の上にバイクごと飛び乗って槍をステラに投げつけた。

 

「スレイプニル!」

 

ステラは飛んできたランスを大砲で弾き返し、砲弾をバイクに向けて撃つ。

しかしスレイプニルは、片手で巧みにバイクを操作し、右へ左へ鳥のようにひらりと砲弾をかわしていく。

そうして彼女を肉薄し、ランスをもう一本取って大きく横薙ぎに振るった。

 

しかしステラは剣を振るい、それを一度受けて押し返した。

スレイプニルは体勢を大きく仰け反らせてしまい、その隙をステラは逃さずに大砲を向けるが、

彼はそのままバイクのアクセルを全開にし、車体を大きくウイリーさせたかと思うと、そのまま前輪を振り下ろして、砲身に叩きつけた。

 

そのままスレイプニルはバイクから飛び上がり槍をステラに降り下ろす。

ステラは後ろに転がって避け、再度斬りかかる。

バイクの上で剣と槍で火花を散らし、互いの得物が交差する。

そして鍔迫り合いの最中、スタングの一人が槍を構えた。

 

「手を出すな!お前らはヤツを捕まえろ!!」

 

スレイプニルがそう叫ぶと、その言葉を聞いた彼は槍を下ろす。

ステラにはその真意が分からなかった。

 

「わからない。何故そんなことを?」

 

「聞いてる場合か?ブラックロックシューター!!」

 

スレイプニルがそう言って押し飛ばすが、ステラは飛ばされた勢いを利用して大砲を引き抜いた。

スレイプニルもまた、大砲を引き抜かれバランスを崩したバイクの座席に戻りアクセルを吹かす。

 

「まあせっかくだから答えてやるよ。お前の実力を試してみたかったのさ」

 

「なら、これ以上戦う理由がない」

 

「いいやあるんだなこれが。お前が俺の相手をしている以上、お前はアイツを守れねえ」

 

「…ッ!」

 

その言葉を聞いたステラは分かっていると言わんばかりに大砲を撃つ。

スレイプニルは槍を投げて砲弾を食い止め、もう一本を出して彼女に突撃をした。

 

ステラは転がって避け、更に砲弾を撃つ。

しかし列車の屋根の上と言う狭い場所にも関わらず、スレイプニルは巧みにバイクを操って砲弾をかわしていく。

 

「さぁどうするつもりだ?ブラックロックシューター!?どう戦う!?」

 

「ッ…!黙って!!」

「ステラ!お願い!戻ってきて!!ステラ!!」

 

トトはそんなステラをどうにか呼び戻せないかと考えていたが、そんな彼に狙いを定めるライダーの存在にトトは気が付いていなかった。

 

「トト!」

 

「えっ…うわあ!?」

 

アレスの言葉にハッとしてトトは振り返るが、視界の端にランスを構えるオオカミのマスクが見えた直後に先が刺又の様になっているランスがトトに命中し、壁に繋ぎとめられてしまった。

 

「ぅ…ぐぅ…!!」

 

トトは腕ごと体を拘束されてしまい、銃が抜けなくなってしまった。

「トト!」アレスはトトに駆け寄り、彼を拘束している槍を引き抜こうとする。

 

しかしトトにはもう一度槍を構えている姿が目に入った。

今度は先が尖っている。当たればひとたまりもない。

 

「アレスさん!!」

 

トトが叫ぶが、同時に槍がアレス目掛けて投げられた。

アレスは左手で腰に携えていた鞘から剣を抜き、一撃で槍を弾き飛ばす。

 

トトはその剣を見て驚いた。

彼が逆手で引き抜いたその剣の姿に。

 

彼のそれは本来ならば片手半剣と呼ばれるはずのその剣は、中ほどで刀身が折れてしまっている。

長年使い込まれていたが故なのか、剣の鍔や柄はくたびれてこそいたが、

しかしそれでもその剣は品格を備えていた。

 

「私にこれを抜かせるとはな!」

 

アレスはそう言って銃を抜いて狙い撃つが、相手は鎧を纏っているのか、弾丸が弾かれてしまう。

撃たれたライダーはそのまま速度を落として視界から姿をくらませた。

 

「敵は優秀だな。しかし…」

 

アレスは剣を収めてから、銃のボルトを引き更に続ける。

 

「しかし……、これだけの騒ぎが起きているというのに、乗務員は何をしているんだ??」

 

トトは言われてみれば確かにそうだと思った。

数台のバイクに列車が追いかけられているという状況で、民兵だって乗っているはずなのにも関わらずだ。

 

この列車は何かおかしい。トトがステラにそう伝えようとした矢先だった。

更に前の車両に移るための扉が向こう側から破られたのだ。

 

何事かと二人が銃を向けた先には、人の姿をした人ならざる者がこちらに向かって、フラフラと歩み寄ってくるのだ。

それらは列車に乗った作業員の服を着ているものや、見張りの民兵隊の服を着た者まで居た。

その異様な光景に、トトは震えた。

 

「ッ…!トト!下がっていろ!」

 

アレスは背中に背負った擲弾銃を抜き、その怪物達目掛けて砲弾を放った。

弾は先頭を歩いていた者の胸に当たった瞬間に爆発し、後ろに歩いていた者達をも爆風で吹き飛ばした。

 

その爆発は列車の外、屋根の上で戦っていたステラ達もはっきりと認識できるほどの出来事だった。

しかしステラは目の前の騎兵の相手でそれどころではない。

 

しかしスレイプニルは仲間の様子から自分たちが思ってもいない事態が起こっていることを悟った。

 

部下の一人が彼に手信号で合図を出す。

スレイプニルはその内容に悪態を吐いた。

 

「チッ、ホムンクルスか……!誰かが “ アレ ” をやりやがったな…?」

 

「アレ?」

 

「お前には関係無い。だが…」

 

スレイプニルはステラの問いかけには答えないまま、バイクから立ち上がると、

そこからたった一回の踏み込みで一気に彼女との距離を詰めた。

 

「お前はここで脱落してもらうぜ?ブラックロックシューター!」

 

その言葉の直後、ステラは宙を舞い、列車の外へ放り投げられた。

 

 

 

 

 

 

 

(続く)

 

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