BLACK★ROCK SHOOTER -Wishing on a STAR-   作:アカ狐

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提灯鮟鱇

東の海に浮かぶ島国、「倭ノ國」で語られる話
子供たちが遊んでいたら、仲間に入れてよと一人の男の子に声をかけられた。
子供たちは暖かく迎え入れ、その子と一緒に探検に出た。
その子曰く、良い場所があると。
言われるがままに着いていくと、そこは誰も住まわない古い家であった。
子供たちは家の中を探検し、しばらくすると疲れて眠ってしまった。
そしてその子供達も、その家も大人たちが見つけることは二度となかった。

という、甘い誘いにつられて、得体のしれぬ恐ろしいものに屠られる怪談話である。










四章 ~The Edge of the Ridge ~ 4

 

 

 

 

 

 

 

「!」

 

「ワゥ!」

 

「…」

 

マルチが足を止め、ある方向を見たと同時に、アジーンが吠えた。

それを見て、ユナが彼女の方を見た。

 

「マルチちゃん?」

 

「…なんでもない」

 

マルチは静かに首を横に振った。

ユナは首を傾げたが、すぐにアンドレに声をかけられて前を向きなおす。

 

そして彼らはツルギ山の麓にある霧の森に入ろうとしていた…。

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~

 

 

 

 

 

「まさか君が彼女に負けるとはな。アルベルト。」

 

スレイプニルは自身の本名で呼ばれ、はっとする。

血の海の中、仰向けに倒れたまま直前の記憶を思い出す。

 

装甲列車に魔力を伴った突撃を行い、車輛を破壊したが、

自身がその爆発に吹き飛ばされ、地面に叩きつけられたのだった。

全身の痛みで意識が朦朧としている。

 

両脚はちぎれ、左腕は折れ、右腕もひどく痛んで動かせない。

それでも彼は槍を握る手に僅かに力を入れた。

かすかに動いた槍の音に、声の主は驚いた。

 

「…まだ生きていたのか?」

 

「……」

 

スレイプニルは声の主を見た。背中に白い翼を生やした一人の老人。

朦朧とする意識の中、ぐちゃぐちゃになった記憶の引き出しを引っ掻き回して、

ようやく彼の名を思い出した。

 

アンゲル・オクトバー。ゾディアックの10番位。

兵士達からは “ ワイバーン ” と呼ばれている男だ。

 

「ゴボ……」

 

スレイプニルは声を出そうとしてゴボリと血を吐いた。

折れた骨が肺に刺さっていたようだ。

息ができずに咳き込む。

 

「ククク……息も出来ないか…、無理もない」

 

アンゲルはそう言ってしゃがみ込み、スレイプニルの目を覗き込み、またしても驚いた。

彼の眼は、未だに闘志が潰えていなかったのだ。

アンゲルはニヤリと笑う。

 

「…気に入ったぞスレイプニル……。また戦える体にしてやろう…ククククク……」

 

 

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

山を貫く長いトンネルを抜け、トト達を乗せた列車は首都グランドセントラルの手前、

アイゼンという小さな村に着いた。

 

グランドセントラルがすぐ見えるほどの距離に位置していて、トトもようやくかと今までの疲労が押し寄せるほどだった。

 

しかし駅には駅員も民兵もおらず、どうやら無人駅の様であった。

アレスは都合が良いと思う一方で、油断は出来ないとトトに言って、彼もそれに同意した。

 

列車を駅のホームに停車させ、周囲を確認するが、本当に誰も居ない。

駅員すらいない無人駅ということにトトは薄気味の悪さを感じた。

 

トトの住むグレートウォールでさえ、駅に必ず一人は駅員が居て、切符を売っていたからだ。

切符はどうして売買しているのかという疑問もほどほどに、トト達は駅を出て、街の方へ向かった。

 

全員列車の中でトトの持っていたチョコレートをひとかけらしか食べておらず、喉も渇いていたため、どうしても飲み水を確保する必要があった。

先ほどまでアレスのチョコレートの方が微妙に大きいとゴネるステラをなだめるのに苦労したと思いつつ、トトは街の様子に驚いた。

 

誰もいないのだ。

日が高く上り、クリーチャーも出ないこの街には、民兵すらいなかった。

人の気配すらしない、誰も居ない無人の街。

初めて見る光景に、トトもアレスも気味の悪さを感じた。

 

「どうしたの??」

 

ステラは二人に首を傾げながら、どんどん先へ進んでいく。

そんな彼女の手を掴んでトトは止めた。

 

「??、トト??」

 

「なんか、変だよ?ここ……」

 

「……?、どこにも人が居ない以外はおかしいことは無い。民兵がいないのなら安全に通過できる。」

 

だから気をつけるんだとアレスが口を挟んだ。

 

「民兵すら寄り付かないのは人間が居ない以上に厄介なものがここに居るか、そもそもこの街全部が罠かのどちらかだ。用心して進むぞ。」

 

アレスはそう言って銃を抜いた。

 

工業都市の黒い雨も、山を超えたこの街には届かない。

トトは日に照らされる暑さに外套を脱いだ。

 

歩くうち、三人は井戸のある広場に着いた。しかしそこにも誰一人としていない。

 

「井戸は……枯れては無いようだな」と、アレス。

 

「もう少し辺りを見て回りますか?それとも……」

 

トトはアレスに問いかけた。ステラは日光を浴びて自らの体表面の温度の上昇を感じ、トトのチョコレートが溶けるのではないかと彼の鞄を見つめていた。

トトはアレスとこれからのことを話していて、ステラが自分の鞄に手を伸ばしていることに気が付いて彼女の方を向いたときだった。

 

「あれ?」

 

突然背後から声が聞こえ、三人同時に振り返る。

井戸の傍に、一人の女の子が立っていた。

 

トトは驚いた。アレスも驚きを隠せない。

そこに人はいなかったんだから。気配さえも。

しかし銃を向けるわけにはいかなかった。

10歳くらいの女の子に見えたからだ。

 

「旅の御方ですか??」

 

アレスは警戒した。トトは警戒こそしたが、思わず返答をしてしまった。

すぐに口ごもったが、ステラが続けて言ってしまった。

 

「グランドセントラルに向かうだけ。すぐだからこのまま歩く。」

 

「えっ!?グランドセントラルに??」

 

少女は驚いてそう言うとぱたぱたと小走りでステラに近づいた。

にぱっと微笑むその表情は無垢そのもので、トトは可愛いと素直に思った。

 

「でしたら少しでいいので休んでってください!私の家がすぐそこなので!」

 

少女はステラの手を握る。

屈託のない笑顔と、純粋な瞳が、ステラの無感情の眼を見つめた。

ステラはただ眼を見つめた。そして、トトの方を見た。

 

「トト、どうする?私は貴方に任せる」

 

「え?えぇと…」

 

トトはアレスとステラの顔を交互に見た。

アレスは君の好きにしたらいい。と言いたげに手を広げてみせた。

それを見てから少女の顔を見て、

 

「じゃあ、お言葉に甘えて」

 

と言ったのだった。

「ねえ、君の名前は?」トトは尋ねる。

少女はまた屈託のない笑顔で、

 

「ルミ!」と元気よく答えた。

 

「僕はトト。こっちはステラ。あの人はアレスって言うんだ。よろしくね」

 

着いてきて!家はすぐそこなの!と言ってステラの手を引いて、ルミはさっさと歩いていく。

慌てて後をついていくトトの背中を見て、アレスは一度、周りを見渡した。

自分たち以外の人の気配を感じたのだ。

 

しかし、誰も見当たらず気配も消えてしまったため、アレスは気のせいだと思うことにして、ようやくトト達の後に続く為に歩き出した。

 

 

 

 

~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

「ここが私の家だよ!」

 

ルミの家はそれほど大きくない平屋の小さな家だった。

妙に丸みを帯びた形の家を見てトトは思わず全体を眺めた。

同じ規格で等間隔に同じ形で並ぶ家しか見たことのないトトに、この家の形は新鮮味があったのだ。

 

「さ、入って入って!」

 

「おじゃまします」

 

ルミは扉を開けて、客人を迎え入れる。

ちりんちりんと扉に付けられた鈴が小気味良く家の中に音を響かせる。

トトは帽子を取って家に上がりこんだ。

 

家のなかは綺麗に整理されていて、棚にはいくつも写真やちいさな置物が飾られていた。

家具の一つ一つもトトが自分の家で見た質素なつくりのものとは違う、おしゃれなものが揃えられていて、思わず家じゅうを見回してしまうほどだった。

 

「わたしのおうち、きれいでしょ?」

 

「うん、とっても」

 

ルミの言葉にトトはうなずく。

そんなトトの笑顔にルミもにんまりと微笑んだ。

 

「ねえねえ、お姉ちゃんは?私のおうち、綺麗だと思う?」

 

「え?」

 

ルミの問いかけに、ステラは首を傾げる。

ステラは棚に置かれた小物も、扉の鈴の音も気に留めていなかった。

答えに困ったステラはトトに視線を投げかける。

ステラの答えを待っていたトトは彼女が困っていると思い、彼女に伝えた。

 

「ステラ、家の中、どう思う?」

 

「…初めて見る。私が今まで見てきた建物のどれとも違う。不思議な形」

 

「ほんとぉ!?」

 

ステラの言葉にルミは喜ぶ。

扉の鈴が鳴り、遅れてアレスが入ってきた。

「アレスさん」トトが声をかけた。

 

「綺麗な家だ。ご家族は?」

 

「グランドセントラルに用があって一日いないの!だから私がお留守番!」

 

「ほう…小さいのに立派だな」

 

「えへへへー」

 

アレスはそう言ってルミの頭を撫でた。

ルミが嬉しそうに微笑む。

 

「……君のような小さな子供とちゃんと話をしたのは、何年ぶりになるだろうな」

 

「そんなに昔なんですか?」

 

トトがアレスに問う。

ルミはくつろいでいてとステラに言って、パタパタと家の奥にかけていった。

 

「あぁ…」

 

アレスはそう言ってマントを脱いでコートハンガーに掛けた。

飾り気の無い黒服であったが、軍服や礼服に似たしっかりとした作りでところどころ何かを引きちぎった跡がトトの目に映った。

 

「アレスさん、服…直さないんですか?」

 

「ん?あぁ…必要が無いからな」

 

アレスの返答にトトは首を傾げた。

しかしそんな疑問はすぐに消えた。

 

「三人とも!お茶だよ!飲んで飲んで!」

 

ルミがお茶を持って来たのだ。

トトはルミに礼を言って椅子に腰掛けてお茶を飲んだ。

 

 

 

 

 

 

 

(続く)

 

 

 

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