BLACK★ROCK SHOOTER -Wishing on a STAR-   作:アカ狐

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maw

 

 

 

 

 

 

ルミに泊まってほしいと言われたトトは仕方なくも、そこに泊まることにした。

その日の夜、トトは違和感に襲われて目が醒めた。

なんともいえない生臭さが鼻につき、たまらなくなったのだ。

そこは、得体の知れない肉の壁に覆われた世界だった。

 

「うぇっ…」

 

酷く臭い。トトはそう思いハンカチで口元を覆った。

そこはルミの家ではなかった。ベッドも、家具もそこには無く、

生臭さと表面を粘膜が覆った肉の部屋だ。

 

アレスもステラもルミもおらず、トトは心細くなった。

それにどういうわけか最近見る夢とは感覚が違った。

トトにはこの肉の部屋が現実のように感じたのだ。

 

同時に “ この場所から今すぐ逃げださなければならない。 ” という恐怖にも似た不安がトトの中にあったのだ。

 

その瞬間、ゴォという音を立てて風が吹き抜けた。

生臭い臭いが否が応でも入ってきて、トトは吐き気に襲われてその場に手を突いた。

 

「うぅ…」

 

トトは口元を押さえながら壁に手を突いて出口を探す。

手に粘つく感覚が気持ち悪い。

 

「トト」

 

「!、ステラ?」

 

トトは辺りを見回す。誰も居ないが確かに聞こえた。

ステラが何処かに居るのかもしれない。

そう思い声のした方向に歩き出す。

 

手元にランプも何もないことと、暗さで視界が全く取れず、

トトは不安でしかない。

無理もない。ちゃんと前を歩けているかすらわからないのだから。

 

地面はところどころ凸凹としており、ぬめりけもあるせいで歩きにくく、トトは何度も足をとられかけた。

数分歩くだけで息が上がる。何度もむせ、嗚咽しながらも歩く。

 

「おえっ…どこなんだここ…??」

 

「トト?」

 

「えっ?」

 

声を掛けられ振り返ると、ステラがいた。

トトは彼女がそこにいることに安心のあまり彼女に抱きついた。

 

「ぐすっ…よかったぁ~…!大丈夫?」

 

「トトの方が心配」

 

ステラに冷静に言い返されて半ベソをかいていたトトは顔を赤くした。

そんな彼の表情を見て、ステラはなんとなく頭を撫でた。

何故そうしようと思ったのかステラは理由を探すが、みつからなかった。

 

「ココは臭いも、周りも全部が変。すぐに出た方がいい。」

 

「う、うん…アレスさんは見なかった?」

 

「見てない」

 

ステラは首を横に振った。

トトは出口も大事だが、アレスを探すことにした。

 

とはいえ、何処に繋がっているかも分からない肉の壁に覆われた場所で、アレスを見つけられるかは分からなかった。

けれども探さなければとトトは思った。

なんとか口元を押さえながら壁伝いに歩く。

 

普通に歩いているステラに臭いが平気なのかと問いかけたが、

ステラも正直不快感があるらしい。

彼女は自らをバイオロイドと呼んだが、どこまでが機械の体なのかがトトの想像では計り知れなかった。

 

そうしてしばらく歩くうち、トトは広い空間に出た。

しかしまるでそこはまるで暗い海のような空間が広がっていたが、海の様な潮の香りではなく、強烈な酸のような臭いが目と鼻を襲った。

トトはいるだけで息苦しく、ステラは顔をしかめた。

 

「なんだここ…まるで胃液みたいだ……」

 

「胃液?」

 

「うん…」

 

トトにはどうもこの臭いが胃液くさく感じてたまらなかった。

あまりの顔色の悪さにステラはトトを休めるために一度この場から離れようと来た道の方を向いたときだった。

 

“ザバァ”

 

「…?」

 

二人は水音に反応し思わず振り返る。

身体が半分以上溶けた何かがこちらに向かって這ってきている…!

トトは「うわぁ!?」と悲鳴を上げた。

ステラが近づいてきたソレを大砲で殴り飛ばした。

 

殴り飛ばされたそれはうめき声のようなものを発しながら酸の海に落ちた。

トトとステラには今の化け物の正体が分からない。

しかし“一刻も早くここから脱出しなければならない”ということだけは確信になった。

 

「トトさん」

 

「!」

 

トトは声のした方を振り返る。

二人は驚きを隠せなかった。

ルミがにこにこ笑顔で立っていたのだ。

周囲を肉の壁に覆われた生臭いこの空間でその笑顔は不気味でしかなかった。

 

「起きたらダメじゃないですか~?ちゃんと眠っていただかないと」

 

「貴女、誰?」

 

トトに歩み寄るルミの前にステラが立って問いかける。

彼女の問いかけにルミは首を傾げた。

ステラを映す無垢な瞳が、今のトトには物凄くおぞましい。

 

ステラの右目に炎が灯る。

ルミはステラに手を伸ばすが、彼女はそれを叩き、ルミの体を掌打した。

 

小さな体が宙を舞い、肉の壁に叩きつけられる。

ステラは間髪入れずに大砲を出してルミに向けるが、ルミの右腕が異形に姿を変えておぞましい速さで伸び、ステラの首を掴むや否や壁に押し付けた。

 

「ぐぅ…ぁ…!」

 

「ステラ!!」

 

トトはステラを掴む手のようなモノを引き剥がそうとするが、力が強く引き剥がせない。

このままではステラが窒息してしまうとトトは狼狽した。

 

ステラは目から生気が消えたかと思うと腕をだらんとさせて虚脱した。

腕が離れるとそのまま膝を着いて倒れ込む。

 

「ステラ!しっかり!」

 

「魔力を少し奪っただけ。小さな女の子をいじめたんだから。このくらいはね?」

 

トトはそう言われ彼女を見ると、やはりニコニコと笑顔のルミが立っていた。

トトは怯えた。

この小さな怪物はまるで提灯鮟鱇のようだと思った。

 

この女の子は獲物をおびき寄せるためのワナで、本体はあの家であり、この肉の壁は胃袋の中といったところなのだろう。

 

ルミはトトに歩み寄り、そして突然立ち止まり、首を傾げた。

そしてスンスンと鼻を鳴らして言った。

 

「…この匂い……」

 

「え?」

 

突然の出来事にトトも驚きを隠せない。

匂いという言葉もトトにはピンとこなかった。

しかしこのルミだった何かは何かの匂いを感じ、うろたえ、頭を抱えてうめき声を上げた。

 

「あ…ぁ……ぁ……」

 

その何かの周囲を黒い霧が覆い、そして、

 

「あああああああぁああぁぁああああぁああああああ!!!!」

 

ついに何かは絶叫したかと思うと、黒い霧は肉の壁にぶつかり霧散した。

そしてそこに古びた木の扉が現れた。

扉がドアノブを捻ることなくギィィとひとりでに開くのをトトは見ていた。

開いた扉の向こう側から青白い月の光が差し込んでいる。

 

トトには今自分が目の当たりにしている出来事の全てが理解できなかった。

否、唯一つ、少なくとも自分の想像の及ばない何かが起こっていることは理解できた。

ステラの様子を見るが、彼女は意識を失っているようだった。

トトはステラの肩を借りて、扉の中へ行くことにした。

 

肉の壁の中よりマシだと思ったからだ。

中に入ると薄暗い。完全に中に入ったと同時にひとりでに扉が閉まった。

トトは一瞬振り返るが、部屋が急に明るくなり、トトは目が眩んだ。

 

「あ、父さん。私ちょっと市場に出てくるよ。すぐ戻るから。」

 

「え?」

 

すぐ聞こえた快活そうな女の子の声。

トトはそう言ってパタパタと扉から飛び出していく女の子の長い髪の毛が見えたかと思ったらすぐに扉が閉まった。

 

「あ、あの…。」

 

「やれやれ、俺の返事も待たねえで。」

 

長椅子に腰掛けた男はトトを見ることなく、扉を見ながらつぶやいた。

トトは何が起きているか分からなかったが、男には自分の姿が見えていないということだけはわかった。

そんなとき、ステラが顔を上げた。

 

「ぅ…、トト…?」

 

「あ…ステラ、大丈夫??」

 

トトはステラを座らせた。小さくうなずくステラを見て溜飲が下がる。

ふと家の中を見回してトトは気が付く。家の作りに見覚えがあったのだ。

 

思い出そうとして、すぐさま家の外が騒がしくなった。

家の中にも響いてくる銃声、ざわめきからやがてパニックになる人達の声と足音、

彼らを追い立てる靴の音。

男性が窓の外を見て慌ただしく家の奥に向けて声を張り上げた。

 

「マリア!ルミを連れて裏口から逃げるんだ!早く!」

そう言った直後の事だった。

 

“バキィッ!”

 

家の中に緑色の制服に身を包んだ民兵達と、スーツの男が入ってきた。

男は金縁のメガネを翔けて、男性の目を見てこう言った。

 

「ジャック・マシューセッツ、家族を連れて私と来い。さもなければ」

 

「断る!」

 

「じゃあ仕方ない」

 

スーツの男の言葉と同時に民兵が男性に向けて銃を撃った。

他の何人かは奥へ押し入り、女性と子供の悲鳴が聞こえた。

トトは何も言えなかった。そして同時に思い出した。

 

この家は

 

「トト!」

 

ステラの声にトトはハッとする。

気が付くと道の真ん中にトトは立っていて、日の出が近づいているのか、空が白み始めていた。

 

「ステラ!?ここは…?」

 

トトが周りを見ると、そこには何もない。

後ろから走ってくる音が聞こえてくる。

振り返るとアレスがひどく心配した様子で駆け寄ってきていた。

 

「トト!ステラ!無事か!?目を覚ましたら外だし、二人は居ないしで、民兵に捕まったのかと思ったぞ!?」

 

「アレスさん、それが僕にも何が何だか…」

 

トトの言葉にステラも頷く。

ステラの表情で、嘘はついていないと納得したアレスはとりあえず安心したように胸をなでおろした。

 

「荷物は持っているみたいだな。…時間が無いから急ぎたいが…少し休もう、頭の整理もしたいしな……」

 

「…そうですね……」

 

そうして彼らは情報を交換し合い、朝が近いこともあって先を急ぐことにした。

そんな彼らの背中を、一人見つめる少女が居た。

金縁メガネのスーツの男と共に。

男は少女に問いかけた。

 

「何故そのまま飲み込まなかったんだ?」

 

「…おねえちゃんのにおいがしたから」

 

「匂い?」

 

少女の答えに、スーツの男は顎に手を添えた。

(もう少し調整が必要なのかもしれない…)

そんなことを考えながら。

 

 

 

 

 

maw 了

 

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