BLACK★ROCK SHOOTER -Wishing on a STAR- 作:アカ狐
ホルン
ツルギ山の霧の森の更に奥に棲む精霊
99匹のフクロウと共に過ごしている。
大木の根元付近に存在する “ 記憶の泉 ” を守っている。
アンドレが目を開くとそこは薬品の臭いがツンと鼻につく部屋のベッドだった。
どうやらそこで寝ていたらしい。
体を起こして迷うことなく部屋の扉を開けて廊下に出る。
アンドレは頭の中で自分が何処に居るかを知っていて、
そして誰かに会いに行こうとしている感情が確かにあった。
しかし同時に、自分が過去の記憶を追体験している感覚もあった。
どうやらホルンが言っていたことは本当だったらしい。
しっかりと泉の中で記憶を見ているようだ。
だがどうやって現実世界に帰るのだろうか?
アンドレはぐるぐると思考を巡らせるが、そんな考えに辿り着く前にある部屋の前で立ち止まり、ドアをノックした。
「どうぞ…」
部屋の中から女性の声が聞こえ、アンドレはドアを開ける。
自分が眠っていた部屋と同じつくりの部屋で本を手にこちらを見つめる黒髪の少女の姿があった。
ペリドットの様な透き通った緑色の瞳の少女。
彼女はアンドレを見てクスリと微笑む。
「おはよう、アンドレ」
アンドレもそれに応えるように口を開いた。
「おはよう、――――。」
“ ざばあ ”
突然胸倉を掴まれて水面に引きずり出される感覚でアンドレは目が覚めた。
同時に強烈な息苦しさに襲われて、むせて咳き込む。
掴んだ手の主は、ユナだった。
「テメエふざけてんのか!?五分も水の中で寝こけやがって!!」
ユナの言葉にアンドレは驚く。
体感的には一分も経っていないと思っていたのだ。
そんな彼のただならぬ様子を見て、ユナも思わず手を放した。
「…本当に見たのか?過去の記憶を……」
「…ほんの少しだけどな」
アンドレが残念そうに答えた。ユナはその様子に思わず戸惑った。
懐かしそうでもあり、少し寂しそうに見えたのだ。
池から上がる二人にホルンが言った。
「記憶の泉で見ることの出来る過去は…貴方の心残り、或いは後悔、或いは禍根…或いは…幸福」
「……教えてくれ、アンタは精霊なのか??」
「…私は、ホルン。このフクロウの森と、記憶の泉を守る為に、此処に居る。それが貴方達に教えられるすべてです」
「……」
ホルンの言葉と、少しの沈黙。
またホルンが口を開いた。
「…貴方がまた過去の記憶を見たくなったら、此処に来ると良いでしょう。次からは、フクロウがここまで導いてくれるはず……」
ホルンが言い終えた瞬間、周囲が霧に包まれた。
突然の出来事に三人は狼狽える。
「お、おい!どうなってんだ!?」
「ユナ、落ち着いて…離れたらダメ…」
「俺まだずぶ濡れ…」
しかし霧はすぐに晴れ、三人は森を抜けていた。
遠巻きにではあるものの、首都グランドセントラルが見える。
「なあ、ホルンって一体なんだったんだ?」
「いや、僕が知るかよ…」
「ワゥ!」
そんなやりとりをしながら、三人は歩き出した。
マルチはふと視線を感じ立ち止まる。
振り返るとフクロウが見つめていた。
「またきてね」とでも言いたげに。
~~~~~
トト達はあれからしばらく歩き、ようやく首都グランド・セントラルに辿りついた。
手荒な手段を使うことなく街の関所を抜けることが出来てトトは内心ほっとしていた。
ここまで長い道のりだったと思うトトであったが、まだやることがある。
ここからトリュー・ゲオルクの自宅があるとされるグランドセントラル東区まで行かなければならないのだ。
「しかし、さっきの民兵は一体何かあったんだろうか?」
「え?」
「いや、あれだけ怪しんでいた割に、随分あっさり通したと思ってな」
「気になるなら、私が確認しに行こうか?」
アレスの疑念にステラはそう言って来た道を引き返そうとしたのをトトは慌てて止める。
ステラは少しむすっとしていたが、トトがまたどこかでチョコレートを買うと約束して、ようやくステラは収めてくれた。
「トリュー・ゲオルクの家は東区にある。そこまで案内しよう。」
「あ…前から気になっていたんですけど…」
そう言って歩き出すアレスをトトは呼び止めた。
アレスが足を止めて振り返る。
「…なんだ?」
「アレスさんは…彼のお知り合いなんですよね…?」
「まぁな」
トトはここまでの道のりの中、トリューという男がどういう人間なのかもそういえばよくわかっていなかった。
アレスは顎に手を当て少し考えてこう答えた。
「……酔狂な男だよ」
その言葉に首を傾げながらアレスの案内で向かったトリューの住む東区ヴルカーノ通り22番地でトトが見たのは、
3階部分が吹き飛んだアパートメントだった。
~~~~~
「何を考えていらっしゃるのですか??」
彼にはその笑みの理由が分からなかった。
ワイバーンは椅子から立ち上がり、杖をついて歩き出した。
「報告はキングに伝えよう。…だがその前に、君に見せておきたいものがある。着いてきたまえ」
そう言って歩いていく老人の言葉に疑問を持ったユイトだったが、その背中に着いていくことにした。
向かった先は地下の研究施設で、ワイバーンとユイトをエンジンの爆音が出迎えた。
ユイトの視線の先で彼を待っていた “ ソレ ” は八本の脚を持つ幻獣スレイプニル。
と、呼ぶには遠すぎるほどの異形だった。
脚とは別に三本のタイヤが体から生えており、腹には巨大なエンジンを提げ、馬の呼吸に合わせてエンジンが唸り、マフラーから火が吹き出る。
その馬とは言い難い怪物は荒い息を繰り返しながら、何本も繋がれた鎖を激しく揺らして暴れていた。
怪物の目を見て、ユイトはポツリとこぼした。
「………隊、長…??」
「一目見て気が付くとは、いやはや勘が鋭いな。」
呆然と立ち尽くすユイトの背後にワイバーンが立つ。
「君の隊長は君が捕えるべき者との戦いで肉体が完全に破壊されてしまってな。こうする他なかったのだ。」
「……」
「…肉体を失ってもなお我々に尽くそうとする彼に応えたいとは思わないか?」
「……」
静かにその異形を見つめるユイトにワイバーンは続けた。
「彼らへの復讐に、君にはこのスレイプニルを与えたいと考えている。…どうかね?」
ワイバーンがユイトの表情を覗き込むが、ユイトの眼は目の前にいる己の上官を異形の怪物に仕立て上げた邪悪への殺意と憤怒で満ちていた。
目が合ったその瞬間、ユイトは腰に携えていた剣を思い切り彼の首目掛けて振り抜いた。
しかしその刃はワイバーンの首を斬り飛ばすどころか、彼の手によって防がれた。
ユイトの表情にワイバーンは笑みを浮かべる。
「アンタは此処で殺す!」
「ククククク…流石は騎兵だ、実直だ」
(続く)