BLACK★ROCK SHOOTER -Wishing on a STAR- 作:アカ狐
王立国教騎士団
アウグスト・ヒュプノスが率いる騎士の集団
軍事政権以前の旧王国体制時代に国王より
“ ナイト ” の称号を授かった22人の男女で構成されている。
騎士団長であるアウグスト・ヒュプノスはゾディアックの8番位でもあり、
“ グリフィン ” の名を冠している。
王城内、玉座に座るキング・キルにスーツの男が報告を行っていた。
「つまりヒュプノスが今彼の身柄を預かっていると?」
「はい」
スーツの男は金縁の眼鏡に手を添えて頷いた。
キングキルは、なるほどと笑みを浮かべると入口に目を向け、そこへ向かって声をかけた。
「では彼にもう一度体を張ってもらおうではないか。ワイバーン?」
キング・キルの視線の向けた先に、ワイバーンが現れ一瞥した。
「かしこまりました、キング…オーディンとスレイプニルを使わせます…」
“ ドルォオン!!ドルルォオオン!! ”
~~~~~
王立国教騎士団に事実上の逮捕をされて、トト達三人は馬車でグランド・セントラルの道路を護送されていた。
三人を覗いて車内に一人となった騎士団長の男は静かに三人を見据えている。
白と青を基調とした隊服に身を包んでいて、手に細身の剣を据えている。
「何故我々の武器を捨て置かせない?」アレスの問いに彼は口を開いた。
「君達を拘束するつもりは始めから無かったからだ」
「何?」
アレスは眉をひそめる。
今目の前に居る王立国教騎士団長、アウグスト・ヒュプノスはその肩書きと共に、
最強の12人の英傑 “ ゾディアック ” の8番位に就いている男だ。
トトのことを追いかけている者達の言葉とは到底思えなかった。
「手荒な真似をしてすまない。民兵隊から君達を保護するにはこうするしか無かった」
「え?」
「紹介が遅れた。私は王立国教騎士団長のアウグスト・ヒュプノスという者だ」
「あ、僕は…」
「君のことは知っている。聞きたいことがあるのは君の方なのではないか?」
ヒュプノスにそう言われ、トトは驚く。
少し考え、彼に問う。
「教えてくれませんか?トリュー・ゲオルクさんのこと……」
「分かった...では、我々が今知りうる情報を教えよう」
そうしてヒュプノスは以下のことをトト達三人に伝えた。
一つはトリュー・ゲオルクは数日前、民兵隊が押し入った自分のアパートの部屋を爆弾で吹き飛ばした直後逃走し、現在行方不明だということ。
二つは民兵隊はトリュー・ゲオルクを国家反逆の容疑で指名手配していること。
三つは逃走の際、ゾディアックの四番位 “ ヒュドラ ” が追跡したにも関わらず、妨害を受けて捕縛に失敗していること。
この三つを聞かされたトトは考え、改めてヒュプノスに問いかける。
「……それで、僕はこれから何処へ連れていかれるのでしょう?」
「君達はー…」
ヒュプノスが口を開いた直後だった。
馬車は突然速度を上げて走り出し、トト達は思わず席から落ちそうになる。
ヒュプノスは慌てた様子で声を掛けた。
「どうした!?何があった!?」
「団長!後方よりクリーチャーです!かなりデカい!」
「クリーチャー!?」
ヒュプノスが驚いた様子のまま窓から身を乗り出し後方を確認する。
彼の眼にはとてつもない速さで爆炎と爆音を放ちながら、こちらに向かって一心不乱に足を動かす馬が見えた。
しかしその馬の姿は、異形だった。
八本の足と三つの車輪を持ち、巨大なエンジンとマフラーを備え、マフラーからは炎が吹き出しながらけたたましく嘶いている。
その爆音はトト達の耳にも聞こえ、トトも窓からその姿を見て戦慄した。
それはそうだ。機械と融合した怪物などという本にも記されていない存在をトトは知らない。
知らないもの、わからないものほど恐怖するものは存在しない。
馬が大きく嘶くが、その叫び声はエンジン音とマフラーから吹き出る炎にかき消される。
「アウグストさん!手錠を!」
「何??」
トトの申し出にヒュプノスが驚く。
それはそうだ。今さっき手錠を掛けた人間から手錠を外せと言われているのだ。
無理な相談というものだろう。
「出来るか!そんなこと!」
「“ 僕の ”じゃない!二人を解放して!!」
「なんだって!?」
ヒュプノスが真っ向から否定した事に対し、トトが求めたのは自分以外を解放しろという申し出だった。
彼には今目の前に居る少年の考えが見えてこない。
「トト?」
ステラはトトに声を掛ける。
トトの真意を問う為に。トトはステラの意思を知ってか知らずか、口を開く。
「この二人は僕のことを知っている以外は何の罪もありません。貴方達の目的は僕なんでしょう?なら…」
トトがそこまで言ったところで、窓を見ると真横に並んだ機械馬の怪物が体当たりを仕掛けようとした瞬間だった。
「トト、危ない!」
ステラに覆いかぶさられて、トトは思い切り床に倒れ込む。
直後、車体が大きく横に傾き、馬車が勢いよく横転した。
引いていた馬はパニックになって街道を走り出す。
「トト、無事か?!」
「トト、けがは?」
アレスとステラに声を掛けられてトトはハッとして飛び起きる。
倒れこんだときに思い切り背中を打ちつけた痛み以外は大丈夫そうだと安心した。
しかし外ではまだあの機械馬のエンジン音がけたたましく鳴り響いている。
トトは完全に壊れた馬車の中から人が出られそうな隙間を見つけ、そこから外になんとか出て機械馬の姿を見た。
8本の足に三つの車輪を持ち、巨大なエンジンと一体になった馬の姿を。
その馬の背には黒い甲冑の騎士が巨大なランスを構えて収まっていた。
トトはその馬の姿を見て、どういうわけか、どうしても彼の存在を思い出さずにはいられなかった。
「あ、…アレは...!騎兵の……!」
「何だって??」
アレスはそんな馬鹿なという表情でトトのことを見た。
それはそうだ。あの騎兵部隊の隊長は装甲列車と運命を共にしたはずなのだから。
しかしその馬に跨る黒騎士はステラの姿を捕らえるなり、様子が変わった。
「ブラックロックシューター…!」
「…?私を知ってる……?」
黒騎士が初めて発した言葉にステラは首をかしげる。
そんな彼女のことなど構うものかと言うように黒騎士は手綱を引き、馬の上体を引き起こしたかと思うと、ステラめがけて突撃した。
ステラは手錠を掛けられたまま大砲を出そうとしたが、それよりも早く彼女の前に誰かが立つ。ヒュプノスだった。
彼は剣を抜き、黒騎士の槍を剣で受け止めるとそのまま槍を弾いて、その体を大きくのけぞらせた。
黒騎士は馬を数歩後退させて体勢を立て直す。
「市民の保護を優先し、クリーチャーの対処を最優先に実行する!」
黒騎士と機械馬はヒュプノスに立ちふさがったことで、動きを止める。
戦意を失ったのか、はたまた様子をうかがっているのか、両者がにらみ合う。
機械馬が大きく嘶いた。
「俺の邪魔をしないでもらおうか?グリフィン」
黒騎士が口を開く。ヒュプノスはその声、言葉遣いに覚えがあった。
馬、槍を持つ騎士、何故気が付かなかったのか。
ヒュプノスは驚いて言葉を掛ける。
「生きていたのか…!?スレイプニル!」
「生きていたさ。いや、正確には死にかけていた。だがこうして作り変えられたのだよ。体を」
「作り変えられた…?まさか……!」
「俺はそこまで答える気はない。…チッ、時間切れだ。後のことはお前に任せたぜ?グリフィン」
「待て!!」
ヒュプノスの制止を聞かずに、黒騎士は機械馬で何処かへ走り去っていった。
ヒュプノスはハッとしてトト達の方を振り返るが、自らに銃を向けるアレスの姿がそこにはあった。
そのすぐそばには不意を突かれたのか、完全に気を失って倒れている二人の団員の姿があった。
「すまないな騎士団長、ここで二人を囚われの身にするわけにはいかぬ」
「手錠を…!?いつの間に…!!」
「トト!ステラ!今のうちに逃げろ!私では時間稼ぎにしかならん!」
「で、でもそれじゃアレスさんが…!」
「私の案内は此処で終わりだ!身勝手だが後は君たちの力でどうにかしろ!早く行け!!」
アレスは冷たく言い放ち、目の前にいる国教騎士団長を睨みつける。
トトは少し迷ったが、ステラに肩を叩かれたことで決心がついたのか、
一度頷いて
「絶対に死なないでくださいね!!」
そう言うとステラと二人でその場から走り去った。
「待て!!」ヒュプノスが叫ぶが足元に銃弾を当てられ、追いつく機会を逸する。
アレスは左手で折れた剣を抜き、ヒュプノスと対峙する、
「その剣は…!」ヒュプノスはアレスの持つ剣を見て驚く。
中ほどで折れた刀身、くたびれた鍔と柄、それでも品格を備えたその剣を。
アレスも彼の反応に「やはりな」と言いたげな表情で言った。
「君の前でこれを抜きたくは無かったよ。ヒュプノス」
「まさかアナタだったとは気がつきませんでしたよ……アレス将軍!」
(続く)