BLACK★ROCK SHOOTER -Wishing on a STAR-   作:アカ狐

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五章 ~Grand Central~ 5

 

 

 

 

 

「将軍、私は “ 彼ら ” を国教騎士団の保護下に置くことで民兵隊や他のゾディアックから守るつもりでした…、何故私を止めるのですか?」

 

「私は私でお前を信用できないからだよ…、私を裏切ったことでそのゾディアックの地位に就いたお前のことが……!」

 

「……」

 

アレスの言葉にヒュプノスは言葉を詰まらせる。

騎士団長のそんな様子を一つだけとなった真紅の眼で見つめるアレスは折れた切っ先を彼に向ける。

 

「どうしても、戦わねばならないのなら……今や王位を追われた貴方は逆賊。私は、私の為に戦います」

 

「堕ちるとこまで堕ちたな。ヒュプノス」

 

「貴方こそ」

 

二人同時に踏み込み、互いの剣がぶつかり合い火花が散る。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

トトとステラは街の中を走り抜けていた。

なるべくその場から離れる為に。出来るだけ遠くに離れるために。

しかしトトは走り疲れてしまい、そこでへたり込んでしまった。

 

「はあ…はあ…」

 

「トト、大丈夫?」

 

ステラは荒い呼吸を整え、なんとか立ち上がろうとするトトの肩を抱いて顔を覗き込む。

トトは首を縦に振って答える。しかしトトには最早アテというアテが完全に無くなってしまった。

トリュー・ゲオルクには会えず、何処へ行ったかもわからない。案内を買って出てくれたアレスもまた自らの為に騎士団長を食い止めている。

今の自分は何処へ行き、何をするべきなのかが分からず、必死に考えるがそれもまとまらない。

 

そんなとき、ふとトトの頭によぎったことがあった。

彼を知っている人が他にいるかもしれない。

それはそうだ。此処はグランド・セントラル。彼が住んでいた街で彼を知っている人を探すことは出来るはずだ。

 

「ステラ、トリューさんを知っている人を探そう!何処へ行ったか分かるかもしれない!」

 

「わかった。探すの手伝う。」

 

トトの提案にステラは頷き、迷いなくトトを抱きかかえる。

驚く彼の言葉も聞かずにステラは高く跳躍し、建物の壁を、屋根を蹴り上げて空を舞った。

トトは帽子が飛ばないように手で押さえながら彼女が向かう先の景色を見ていた。

探すべき彼を知る人が多そうな場所へ。

 

「トト、知っている人が居そうな場所は?」

 

ステラの問いにトトは悩む。

それはそうだ。グランド・セントラルには初めて来た。

分かるはずがない。

 

ただグランド・セントラルが五つの区から成る都市ということは知っている。

この街の人間のことを知っている人が居る場所となると、まず思いつく場所は一つしかない。

 

「中央区にある役所を見つけよう。まずそこで情報を集めないと」

 

「わかった。どう行けばいい?」

 

ステラの問いに、トトは指さす。

 

「あのお城、あの方向に向かおう。」

 

トトの言葉にステラは頷き、また屋根を一つ、二つと蹴って空を飛んだ。

二人は中央区の中心に建つ王城へ向かうのだった。

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

民兵達が忙しなく連絡を取り合い、グランドセントラルの区内は慌ただしかった。

それは民兵隊を統べる女帝の神経を苛立たせた。

一対の角を生やし、その右目に深紅の炎をたぎらせた “ ヒュドラ ” は地面に鋸を突き立てる。

 

「うるさいわね!一体何の騒ぎか説明なさい!!」

 

周囲の兵士たちが恐れをなす中、彼女の前に “ フリアエ ” が姿を現した。

ざわめきの中、“ フリアエ ” は口を開く。

 

「すべて計算通り。“ プルート ” と “ ケルベロス ” がもうこちらへ来ている。アナタは待機」

 

「はあ?アンタ誰に口を聞いているの?」

 

“ ゴッ!! ”

“ ヒュドラ ” はもう一度鋸を突き立てて、鈍い音を響かせた。

 

「この女帝の私がッ!この愚図共に全部を任せてッ!黙って座って居ろって言うのッ!?」

 

右目の炎が強くなる。しかし “ フリアエ ” の眼は静かに涙を流し続ける。

 

「吠えても何も変わらない。これはキング・キルの判断、命令…。従うほかない…」

 

“ フリアエ ” はそう言い残して姿を消した。

瞬時に霞と消えた為、“ ヒュドラ ” に反論の機会は与えられることは無かった。

彼女はギリギリと歯を軋ませながら再び、

 

“ ゴッ!! ”

 

右手に持った鋸で地面を穿つ。

その衝撃は地響きの様に周囲を振動させ、周囲の人間は足を取られ、その場で尻もちをつく者もいた。

女帝、ブラックゴールドソーと恐れられた彼女の怒りを表すかのように、右目の炎は燃えたぎり、消えることは無かった。

 

「“ ヒュドラ ” 様!捕獲対象が中央区に入ったとの連絡がありました!」

 

「!」

 

民兵の報告に彼女は耳を疑った。

足取りを追いかけていたはずの存在が自らの懐に入り込んでくることが信じられなかったのだ。

しかし、キングの命令だと言った “ フリアエ ” の言葉が重しとなり、彼女の判断を鈍らせた。

 

「…いつでも身柄を押さえられるように見張っていろと伝えなさい……」

 

「?、了解しました!」

 

兵士は彼女の様子に首を傾げながらも敬礼をした後、走り去る。

“ ヒュドラ ” は兵舎に行き、自らの部屋に置かれた大きな椅子にドッカリと座り、頬杖を突いて目を閉じた。

“ つまらない ” 心の中でそう呟きながら。

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

ヒュプノスとアレスの戦いは決着がつかぬまま、アレスは周囲を民兵と騎士団に囲まれてしまっていた。

 

「ハァ…ハァ……」

 

「はぁ…はぁ……」

 

二人とも息が上がっているが、双方の気迫に気圧されて周りは何も出来ず、持っている武器をアレスにただ向けているだけのままであった。

 

「いいか!お前たちは手を出すんじゃないぞ!」

 

ヒュプノスが叫ぶ。

「何の真似だ?」彼にしか聞こえない声でアレスが問いかけた。

 

「…腕が鈍りましたな?」

 

ヒュプノスは問いかけには答えずにそう言った。

アレスは彼の言葉に自嘲気味に答える。

 

「この剣と同じさ。あの日、腹心であったお前に裏切られ、城とこの街から追われ、逃げて逃げて、辿り着いたのは忘れ去られた廃教会だった。そこで一年生きたが、その頃には街へ行って誰が私の顔を見ても、誰も声を掛けてはこなかった。その時に悟ったのだ。皆私の顔ではなく、権威を見ていたのだと。…それに気が付いたとき、この剣の様に、私の心も折れてしまった」

 

「将軍…」

 

ヒュプノスが次の言葉を発そうとしたとき、アレスの背後に一人の少女が降り立った。

否、少女と呼ぶには、異質すぎた。

両腕を取り付けられた巨大な機械の腕にしたその少女を、彼は知っていた。

ゾディアックの6の席に座っていた少女、その名は、 ストレングス

民衆は彼女を “ ゴーレム ” と呼んだ。

振り返り、彼女の存在を確認したアレスだったが、すぐに彼女の巨腕に腹を殴られる。

 

 

「ッ!!う、ご…ッ!!」

 

アレスは悲痛な声を上げ、その場に膝と手を突いた。

ヒュプノスが駆け寄ろうとするも、“ ストレングス ” の右手が阻む。

 

「どういう風の吹き回しだ…?」

 

「キングの命令に他ならない。貴方がすぐに終わらせないから私が来た。」

 

ヒュプノスの問いにストレングスはそう言って左手でアレスの体を鷲掴みにする。

 

「う、ぐぅ…!!」

 

アレスは苦悶の表情を浮かべる。

身体がミシミシと嫌な音を立てるのを否が応にも感じていた。

 

「や、やめろ…!」

 

ヒュプノスがそう言った直後、彼女の頭に声が響いた。

その声の主が誰かを瞬時に察したストレングスは手の力を緩める。

 

(ジュン、その男を此処に連れてきなさい。私はその男と話がしたい。)

 

「……了解、キング・キル。仰せのままに。」

 

ストレングスはそう呟くと、アレスを掴んだまま、高く跳躍し、屋根伝いに王城へ向かって飛んでいった。

ヒュプノスは自らの制止すら完全に無視した行動に呆然とするしかなかったが、足元に視線を落とすと、アレスが持っていた折れた片手半剣が残されていた。

中ほどで折れた刀身、くたびれた鍔や柄、しかしそれでも品格を備えたその剣を拾い上げ、ヒュプノスは呟く。

 

「剣は折れても鍛え直せます...!貴方が折れたというのならば、…私が鍛え直すまでです…!!」

 

「国教騎士団長殿、逮捕者に逃げられたと聞きましたが、どういうことかな?」

 

声を掛けられ、見るとそこには民兵隊の高官が立っていた。

顔を二ヤつかせながら、民兵に手招きし、それに合わせて民兵達はヒュプノスに銃を向ける。

 

「この件の責任は重大だと認識している。従って然るべき形で “ 責任 ” を取るべきだと…」

 

「くだらない責任論でこの私に “ 腹を斬れ ” と宣うか。薄汚いヤツめ。」

 

「貴様!!」

 

高官が銃を抜いた次の瞬間、高官の銃を握る右の手首が宙を舞った。

ヒュプノスが目にもとまらぬ速さで切り飛ばしたのだ。

その激痛に高官の悲鳴が木霊し、返り血が民兵達の服に、顔に飛び、目に入った者も居た。

 

「こ、コイツを殺せ!!」

 

高官の声に慌てて銃を向けたのを皮切りに、

騎士団員たちが武器を構え一触即発となるも、

「分からんのか!!!」という騎士団長の一喝で全員が動きを止める。

 

「この場で争うのは不毛だ!戦力を無意味に消耗しないでいただきたい!!」

 

その言葉で騎士団員はその場から撤収を開始した。

高官はヒュプノスを睨みつけていたが、すぐに来た車に乗せられ治療の為に運ばれていった。

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

一方その頃、グランドセントラル郊外

 

 

「やっと着いたぁぁぁ…歩き疲れて死ぬかと思った…」

 

岩に腰を下ろしてくたびれるユナとマルチをよそに、アンドレは双眼鏡でグランド・セントラルから立ち昇る黒煙を覗き、一人いぶかしんでいた。

 

「あの少年とアレスの旦那、無事だといいがなあ……」

 

 

 

 

 

(続く)

 

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