BLACK★ROCK SHOOTER -Wishing on a STAR- 作:アカ狐
「貴方は誰?どうやって鍵のかかっている部屋に入ったの?」
真っ先に少女に言葉を投げかけたのはマイだった。
彼女はナミマを押しのけ、少女の前に詰め寄った。
少女はフフンと不敵な笑みを浮かべている。
「私はジャンヌ。アナタたちと同じこの学校の生徒よ」
「え?貴方も?」
ジャンヌと名乗った少女はマイの問いかけには答えずに
「そんなことより」と前置きをして持っていた本を見せながら話しはじめた。
ナミマはその本に見覚えがあった。
羊皮紙で作られた大きな蔵書。トリューが姿を消したあの日、
そのページの一つを取って見せようとしていたあの蔵書と同じものだった。
「あなたたちはトリュー先生がどんなことを研究していたか、知ってるかしら?」
「えっ…?」
ジャンヌの問いかけにトトは言葉を詰まらせる。
トト自身はトリューが学校で教鞭を振るっているという話は聞いていたが、
具体的にどんなことを教えていたかまでは知らなかった。
それはマイも同じだったようだが、ジャンヌは気にせず話を続ける。
「言霊の魔法って知ってる?」
「言霊の…」
「まほう?」
ジャンヌの問いにトトとステラが聞き返した。
「魔法は火、水、風、土、雷の五つ、失われた光も合わせて六大魔法と言われているの。そして、その魔法に必要なのは呪文の詠唱と、杖に準ずるもの。訓練を重ねれば無詠唱も可能だけれど、でも…杖を必要とせず、言葉が呪文と杖を兼ねることができる魔法があるとすれば…」
「言葉を…魔法に?」
「それをトリューが調べてたの?」
ジャンヌの話にステラが疑問を投げかけた。
ジャンヌはそれに答えるように蔵書を開いて中身を見せた。
そこには不思議な文字の羅列が書かれていた。
しかしトト達が普段使っているアルファベットとは全く違うものだった。
「先生はこの文字で構成される言葉の意味なんかを研究していたわ」
ジャンヌはそう前置きをした上で続けた。
「私ね、この言葉こそが言霊の魔法に繋がる言語だと思っているの」
「あの、それで…トリューさんがどちらにいるかは、貴方はご存知ないんですか?」
ジャンヌの言葉をトトは遮り、問いかけた。
彼女はトトの方を向いてフフンと微笑んでみせた。
「知っているわ。でも…貴方は先生を何のために探しているの?」
「えっ…」
トトは言葉を詰まらせた。
どう説明しよう?突然民兵に襲われ、
手紙を託された上でトリューという男を頼れと言われ、
アレスと共に民兵やゾディアックからの追跡を逃れて此処までやって来たが、
トリュー・ゲオルクという人間に頼ったとして、この状況は本当に改善されるのか?
また、どうやって今までのことを説明すれば良いのだろう?
「いきなり学校にやってきて、先生に話があるなんて、そもそも貴方は何処の誰で、何故わざわざ非常勤講師のトリュー先生を御指名なのかしら?」
「僕は…その…」
「トトはトリューに用事がある。トリューの居場所を知ってるなら教えて」
二人の間に割って入ったのはステラだった。
ステラの青い瞳がジャンヌの赤い瞳を見て問いかける。
「ふふふ、勘違いしないでね?私は教えないなんて一言も言っていないわ」
「え…じゃあ、トリュー先生が何処にいるのか教えてくれるってこと?」
マイの問いかけにジャンヌは「勿論」と答え、こう続けた。
「でも、先生は知っての通り追われている身……、当然だけど大学にも姿を見せていないの」
「先生はそもそも休講、大体そういうときは旅行に行く…」
「いやいやナミマ、アンタもう忘れたの?!先生の家が爆発事故で、先生は今行方知れずだって言ってたじゃない!」
「あ…」
ナミマはポンと手を叩き、それを見てマイは呆れた。
トトは二人の会話であの窓が吹き飛び焼け焦げたアパートメントを思い出す。
そんな状況の中だというのに、ジャンヌはやはりどこか他人事かのような余裕が見られた。
「さ、話を戻そうかしら?貴方は何故トリュー先生を探しにはるばるここまでやってきたの?北にある壁の街グレートウォールから」
「な、なんでそれを…」
「服を見れば分かるわ」
ジャンヌに即答され、トトは後ずさる。
自分が民兵に突き出されることを想像して冷汗があふれ出る。
しかし「安心して」と前置きして彼女は言った。
「民兵には黙っているわ。私も彼らの事が嫌いなの。そして、トリューのところに案内してあげるわ?」
「えっ…?」
思わぬ申し出にトトは拍子抜けした。
しかしステラは違った。
「話が上手すぎる。裏があるなら全て話して」
「あら私を脅すの?ステラ?」
フフンを不敵な笑みを浮かべるジャンヌにステラは詰め寄る。
「私は本気。トトを危険に晒すようなことは、絶対にさせない」
二人の一触即発の状態は部屋の空気を支配する。
三人はその様子を固唾を飲んで見守ることしか出来ない。
「…ふっ」
ジャンヌは口元に手を当てて、まるでにらめっこに負けた子供のようにくすくすを笑いはじめた。
ステラは眉一つ動かさずに彼女を見つめる。
「そんな怖い顔しないで」とジャンヌは言った。
「当然だけど条件があるわ、私が欲しいのはトリュー先生の持っているこの本よ」
「はぁ!?そんなの私達が決めていいわけないじゃない!?」
マイが声を荒げた。ナミマが彼女の肩に手を当てて制止する。
トトは思わぬ条件に狼狽えた。
トリューが研究しているとする言語の資料だ。恐らく唯一で替えが効かない代物だろう。
ジャンヌはそれを知っていてそんな冗談みたいな話を吹っ掛けているに違いない。
こういうことを言えばあきらめる。
そういう考えなんだろうと、トトは思った。
ステラは振り返り、トトの目を見る。
彼女は何も言わなかったが、その青い瞳は「トトに任せる」と言っているように聞こえた。
トトは言った。
「分かりました。僕の責任でその本を譲ります!」
「ふふふ、交渉成立ね?」
「ちょっ、ちょっとトト君!?」
マイがトトの肩を掴む。
「トリューさんには、僕からちゃんと伝えて頭を下げます。どんなことを言われても、かならず責任は取ります」
「トト君…」
「じゃあ決まりね、行きましょうか?トリュー先生が居る場所へ」
ジャンヌに促され、トトは彼女の後に続く。
ステラもそれを見て歩き出そうとしたときだった。
「待って」
呼び止められ、三人は立ち止まる。
振り返ると呼び止めたのはナミマだった。
彼は真っ直ぐに、一人振り返らないジャンヌを見つめている。
「トリュー先生が何処に行ったか。それだけ教えて」
「……」
彼の問いかけにジャンヌは答えない。
彼女が振り返らずにこちらを見ようともしない様子に、ナミマは口を開く。
「君が答えないなら、君のことを民兵に通報する」
「ちょっとナミマ!?何を根拠に…!?」
マイがナミマを諫めようとするも、彼の言葉にジャンヌは振り返り言った。
「中央区と東区の境にある、歌劇場よ」
~~~~~~
「キング、連れてきた」
王城内、玉座の間。
ストレングスはその腕にアレスを提げてやってきた。
乱暴に地面に放り投げられ、玉座に座る男の前に転がされるアレスはなんとか起き上がり、
男の顔を見た。
キング、確かに彼はそう呼ばれた。
1年前、たった数日で軍事独裁政権を終焉させ、革命政府と銘打った新たな政権下で
殺戮の王(キング・キル)の名のもとに、民兵達に暴虐を働かせている男。
彼は玉座からアレスを見下ろして言った。
「随分と無様な姿に成り下がったものだ。アレス」
「……私を呼び捨てにする貫禄まで身に着けたようだな、カール・アイザー・ラブレス。頭文字を取ってキング・キルとは恐れ入ったよ」
「会えて嬉しいよ、お前の行方はずっと追っていたが長いこと見つけられていなかった。さぞ優秀な部下がよく働いてくれたのだろうなあ」
「……誰も信じずに生きていたからだよ。カール」
突如ストレングスの巨腕がアレスに振り下ろされ、アレスは地面に這いつくばるように叩きつけられた。
「ぐぅ……ごはっ…!!」
苦痛の表情を浮かべながらもアレスはキング・キルを睨みつける。
彼はその眼を見て一言、
「…面白い。ふさわしい死に場所を用意してやろうアレス、いや…アレス元将軍」
連れていけと言われたストレングスはそのままアレスを掴みあげ、玉座の間を後にする。
玉座に座るキング・キルは右手で左手を包むように握る。
その左手は僅かに震えていた。
彼はアレスの眼を一瞬見て、そして恐れたのだ。
政権を、地位を、軍人としての名誉を、全てを奪い去ったにも関わらず、
彼が見たアレスの瞳には、未だ闘志が宿っているように見えたのだ。
(五章 ~Grand Central~ 了)