BLACK★ROCK SHOOTER -Wishing on a STAR-   作:アカ狐

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アレスは床の冷たさに目を覚ました。
彼は自らが身を置かれているその場所がどこかを悟った。
王城の地下牢だ。王政時代、裁判の場という役割も兼ねていたこの場所に罪人を一時的に拘束するための場所だが、まさか自分が此処に入ることになるとはアレスも思わなかった。
鉄格子を挟んだ向こう側に“ストレングス”は居た。
見張りということなのだろう。アレスは彼女に声をかけた。

「見張るのも“カール”の命令か?」

「......」

少女は答えない。無理もないとアレスは思った。
体を起こして深呼吸をする。
ふと暫く吸っていなかったタバコが吸いたくなり、再び見張りを続ける彼女に問いかける。

「煙草、持っていないか?」

「…煙草、嫌い」

「……そうか」

アレスは居心地の悪さが増すのを考えないために、別のことを考える。
しかし目の前の見張り番は自分をおいそれと逃がしてはくれないだろう。
もう一度、少女と言葉を交わそうとアレスは言葉を投げかける。

「何故君はカールに従うんだ?」

「……、キングは、軍人嫌い。私も、軍人が嫌い」

「……それが理由か」

「だから、将軍だった貴方も、嫌い」

「なるほどな...なあ、私はこれからどうなる?」

その問いに対する少女の答えに、アレスは驚くことになる。



「......コロシアムで、闘士として戦うことになる。死ぬまでずっと」









六章 ~Insane~ 2

 

 

 

 

 

 

 

 

「何故俺が兵隊だと?」

 

アンドレはジャンヌに問いかけようとするが、しかし彼女の姿はおろかトト達の姿すら忽然と消えてしまっていて、人々の雑踏だけがそこにあった。

アンドレは帽子を被りなおしながら考える。

 

「兵隊さん」

 

ジャンヌの言葉を思い浮かべ、残った疑問を燻らせる。

トトにすら教えなかったことを何故彼女が知っているのか。

 

「知りたいですか?」

 

背後から投げかけられた言葉にアンドレは身構える。

そこには一人の女性が立っていた。

フードを深くかぶり、その表情はよく見えない。

 

「えっと…君は?」

 

「……私の質問への答えが先です。疑問の答えが知りたいですか?」

 

少し考え、アンドレは頷く。

 

「……では、こちらへどうぞ」

 

 

 

 

 

 

歌劇場、所謂オペラ・ハウスとも称されるその場所に案内されたトト達は建物の外観の造りに圧倒された。

自分が生まれる前からこの建物で音楽が響いていたのかと想像する時間も与えられないまま、ジャンヌは鼻歌を歌いながらどんどん先を進んでいき、トトとステラはその後ろを急ぎ足で着いていく。

そうして中に入ると、またその中の造りにも目を奪われた。

しかし、当時の活気や美しさは失われており、人の姿は全くと言っていいほど無く、床や照明はうっすら埃を被っている。

 

「こっちよ」

 

ジャンヌに促され、トトは建物の奥へ奥へを進んでいく。

ステラはそんな彼の背中を追う。

ジャンヌに着いていく様子が、まるで彼女の鼻歌に誘われているようにステラは感じた。

そうして一番奥にある部屋の扉をジャンヌが開ける。

そこは大舞台のある部屋で、ジャンヌは観客席横の通路をスキップしながらぬけて、舞台に駆けあがってみせた。

 

「ほら、あなたも」

 

そう言って手を差し出すジャンヌに惹かれるようにトトも舞台に上がる。

ステラは上がらずに、トトの後ろ姿を見ていた。

トトはそんな彼女の様子に、胸騒ぎを覚えた。

彼女にもう会えなくなってしまう気がした。

 

「あの、そろそろ教えてくれませんか?」

 

「何を?」

 

「その…トリューさんはどこに?」

 

トトがそう聞いた次の瞬間だった。

自分の体が床に吸い込まれる感覚に襲われ、トトは舞台の上から姿を消した。

“ 空間転移魔法 ”、ポータルとも呼ばれる高度な魔法によってトトの体は何処かへと連れ去られたのだ。

 

「トト!!」

 

ステラはそれを見てすぐに舞台の上に飛んでくるも、もうそこにトトの姿は無かった。

「トト!?トト!!」ステラは必死に名前を呼ぶが、名前の主が返事をすることはなかった。

 

「あっははははは!!おばかなステラ」

 

ジャンヌの言葉にステラの左目に炎が灯る。

その眼で睨まれるジャンヌの表情は余裕そのものであった。

彼女は白い大鎌を手に取り、右目にステラとは対称的な赤い炎を灯らせた。

 

「あの子は私がもらうわ、だから貴方はここで死んでちょうだいね?ステラ?」

 

ステラはその言葉に抜剣で応え、ジャンヌと対峙する。

彼女の目に宿す炎が強くなる。

 

「ジャンヌ、貴方は何者?トトを何処へ連れて行ったの?」

 

「言わないわ。貴方はここで死ぬんだもの。」

 

ステラは剣を振るい、ジャンヌの鎌と火花を散らせ、幾度と刃が交差する。

忘れ去られた舞台の上で、二人の少女の戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 

「…ここは」

 

女性に誘われアンドレが辿り着いたのは、中央図書館であった。

数多くの貴重な蔵書が眠る場所と聞くが、アンドレはそれを見るために来たのではない。

女性はアンドレに背を向けたまま、図書館の中を進みながら口を開いた。

 

「元国境警備隊第一歩兵連隊小隊長、アンドレ・マクミリア。優れた近接戦闘能力の高さから、“ 狂犬 ” と呼ばれていた…」

 

「……特にPRしたつもりはなかったんだがなあ」

 

女性の言葉にアンドレは頭をポリポリと掻いた。

彼女はアンドレに向きなおると、深々と頭を下げた。

 

「ご紹介が遅れました。わたくし、当館長のメイ。と申します」

 

“ メイ ” その言葉にアンドレの頭の中でキインと音がしたように感じた。

何かを思い出せそうで、思い出せないような感覚。

どこか懐かしく思えるような、そうでないような、そんな感覚が。

 

「何故俺のことをそこまで知っているんだ?それに、あの白い子だって…」

 

白い子、というのはジャンヌのことだ。

女性はずっと俯いて見せていなかった顔を上げ、アンドレはその表情に驚いた。

彼女は、涙を流していたのだ。恐らく此処に来るまでの間も、ずっと。

しかし彼女は右手を上げ、パチンと指を鳴らした刹那、

 

「ガァァッ!!」

 

「ッ!!」

 

アンドレは後ろに飛び、直前まで自分が立っていた場所に人のような姿をした怪物の、

人の体とは思えない程巨大化した爪が空を切っていた。

避けていなければ首は斬り飛ばされていたとアンドレは思う。

しかしそれだけではない。

 

そこかしこに人とは思えない怪物たちがあらわれ、逃げる間もなく取り囲まれた。

全員が唸り声をあげながら近づいてくる。

アンドレは過去ユナとの旅の道中でクリーチャーに襲われたことは確かにあった。

だがここまでの数に囲まれたことは無かったし、まして今目の前に居る奴らは何故かついさっきまで人だったかのように衣服をまとっているものばかりだ。

 

「ここにあるのは沢山の貴重な書物。汚さない様に」

 

メイはそう言って指を鳴らそうと右手を挙げる。

 

「ちょちょちょ!ちょっと待ってくれよ!なんだって俺をこんな目に遭わせるんだ!?」

 

アンドレのもっともらしい疑問に彼女は答えた。

 

「アンゲル様の御命令ゆえ、このような形をとったまでです」

 

アンドレはその言葉に更に質問を投げかけようとするが、無慈悲にももう一度パチンと指を鳴らされ、アンドレは自分を取り囲む怪物たちに襲い掛かられるところとなる。

 

「うわうわうわうわうわ!!!??」

 

飛び掛かってきた怪物の爪を、牙を、手を、足を、飛んでかわし、床に転がり、四つん這いでジタバタと逃げる逃げる逃げる。

 

「うおおぉぉぉおおあああああ!!」

 

情けない声を上げながら逃げ回るアンドレを涙の絶えぬ目で見るメイは思う。

(なにゆえアンゲルはこの男を求めているのだ?)と。

彼女の目には国境警備隊で最強と呼ばれた兵士の姿はなく、ただ怪物を前に逃げ回る男にしか見えなかった。

 

「ハァ…アンゲル様にご報告ですかね…?」

 

メイは呟く。男の悲鳴も煩わしくなってきたのでとりあえずさっさと始末させようかと思い始めたそのときだった。

館内に響く一発の銃声。

直後、恐らく銃撃を受けたであろうクリーチャーの一体が吹き飛ばされて、彼女の足元にごろりと転がった。

 

「ったく、だからPRした覚えはないんだっての」

 

「……」

 

そう言いながら歩いてきたアンドレの右手には黒い大型拳銃が握られている。

銃口から立ち昇る煙が消えないうちにクリーチャー達の攻撃が迫り、アンドレは先ほどの様子とは違い、一切迷いの無い目で引き金を引き、標的の急所に正確に二発弾丸を叩き込む。

クリーチャー達が断末魔を上げ倒れ伏す中、アンドレの背後に飛び掛かる最後の一体に対し、アンドレは左手で散弾銃を抜き、頭部目掛けて発砲する。

一撃でクリーチャーの頭が吹き飛ぶ様子を見たメイは表情こそ変えなかったが、その目は驚愕を隠せずにいた。

 

だがこれだけでは彼女の疑念は晴れなかった。

まだこれは“片鱗”でしかない。彼は本気ではないと。

メイはもう一度指をパチンと鳴らす。

その音に呼ばれるように、アンドレの体より遥かに巨大な頭蓋骨が現れた。

角の生えたその頭蓋骨の眼孔はたしかにアンドレを捉えていた。

アンドレは散弾銃の弾を交換しながらメイに問いかける。

 

「新手か…。コイツの紹介してはくれないのか?お嬢ちゃん?」

 

「…答える義務はない」

 

「…そうですかい」

 

アンドレは懐に散弾銃と拳銃をしまうと、ナイフを抜いて逆手持ちで構えた。

 

「図書館ではお静かにしないといけないんじゃあなかったのか?」

 

「ここには魔術で結界が張られている。なにがあっても外にこのことが漏れる心配は無い」

 

「……なんでそうまでして俺をこんな目に?」

 

「見たいから。貴方の力の強さを」

 

「…これに勝てってことですか…ったく」

 

メイの言葉にアンドレは呆れた様子で言った。

それは目の前で自分を狙う巨大で不気味な異形に挑まなければならない自分の不運への嘆きでもあった。

そんな彼とは対照的に、彼女の予測する未来は。

 

“傷一つ付けられずに敗北する自分が使役する怪物の姿”であった。

 

 

 

 

(続く)

 

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