BLACK★ROCK SHOOTER -Wishing on a STAR- 作:アカ狐
「取り込んだか?」
「ええ、まだ完全ではありませんが」
「構わん。記憶の処理を始めろ。必要ならルミも使え」
~~~~~
トトは目を開ける。
そこは広く絢爛な造りの建物の部屋の中で、トトはその奥にある二つの大きな椅子に向かい合うように立っていた。
(王城の、玉座の間だ。)トトは直感的にそう思った。
しかし部屋の中は荒らし尽くされており、窓の外からは砲撃や銃声が鳴り響いている。
何が起きているか分からないが、とにかくこの先に進まなくてはならないと、トトは足を部屋の奥に進めていく。
“ パンッ ”
乾いた発砲音が響き、トトは思わず硬直する。
しかし直ぐに首を横に振り、なんとか自分を奮い立たせて、石のように固まった体を前へ前へと歩かせる。
ふと話し声が聞こえ、耳をすませる。
「……暴発したわけではなさそうだな…?どういうつもりだ?」
玉座の間の奥に通じる部屋の入口に近づき、部屋の中を覗き込む。
そこには王であろう老年の男性と、ステラが立っていた。
ステラの右手には銃が握られており、その銃口は男に向けられていた。
男の肩からは血が流れており、ステラが男に向けて発砲したのは明らかだった。
しかし男の瞳はステラを見据え、彼女に対して恐怖を抱いているようには見えなかった。
「ステラ…?」
「銃を置きなさい。君に王殺しの罪は重すぎる」
トトは思わず言葉を漏らす。だがステラはトトの声には応えない。
銃を向けたまま、王に言った。
「この国に、もう貴方はいらない」
「ステラ!!」
「トト!来てはならぬ!」
トトは彼女を止めようと走り出すが、王の言葉に足を止めてしまう。
ステラは迷うことなく銃の引き金を引く。
トトは叫ぶ。
「ステラ! 」
〜〜〜〜〜
「…トト?」
「あら?私を前にして他所見?」
「ッ!!」
ギィン!ガギィン!
大鎌と剣が交差し、ぶつかり合う度に火花を散らし、金属音を響かせる。
ジャンヌは常に口に笑みを浮かべ、まるで遊戯のようにステラの剣撃をいなしていく。
迷いの無い攻撃と読めない太刀筋にステラは翻弄される。
隙ありと言わんばかりにジャンヌの大鎌はステラの首元を捉え切先が肌に刺さらんとするが、
ステラは大砲を呼び寄せ、その鉄塊とも呼ぶべき砲身を思い切りジャンヌの脇腹に叩きつけそのまま振り抜く。
グシャリと鈍い音が響き、ジャンヌは思い切り劇場の壁に叩きつけられ、粉塵が舞う。
「少しはやるようね、ステラ?」
ジャンヌは何事もなかったかのように床にスタっと降り立ち、服についたホコリを払う。
「あら?セーターがほつれちゃったわ。」
ジャンヌは着ていたセーターの糸がほつれている場所を指で軽くつまみ「はぁあ」とため息を吐く。
そして「あの仕立て屋はだめね」と呟くと、右目の炎が全身に周り、それが消えると彼女の衣服や髪型が変化し、その姿にステラは驚く。
(自分と、同じ…?)ステラは直感的にそう感じた。
「さあ、もっと踊って頂戴。ステラ?」
ジャンヌはそう言って大きく踏み込み、その場からステラめがけて一直線に飛び、大鎌を振るう。
その一閃を後ろに飛んでかわし、二撃、三撃目を剣でさばき、刃がぶつかり、ギリギリと火花をあげる。
「ジャンヌ…!アナタは…誰なの!?」
「ふふ、貴女と同じよ。ステラ。私も貴女と同じ、造られたマガイモノ。ただのお人形なのよ」
人形。その言葉にステラの胸に痛みが走る。
その隙を突かれ、剣を弾かれたステラ。
彼女が次の瞬間見たのは、自分と全く同じ形の大砲を自分に向けるジャンヌの姿だった。
「じゃあね。ステラ」
その言葉と共に引き金を引かれ、光弾の直撃と同時にステラの意識は途絶えた。
~~~~~
静まり返る図書館の中で、激闘を制したアンドレは完全に停止した巨大な頭蓋骨の怪物の上に立ち、メイを見下ろしていた。
「それで?なんで俺を試したんだ?」
アンドレの問いにメイは答える。
「貴方をココに呼んだのは…、この為」
その言葉の直後、アンドレの体は思い切り下に向かって引っ張られた。
まるで足元が無くなるような感覚にアンドレが見ると、床が消えていた。
「なっ!?」
アンドレが言葉を発する間もなく、彼は床に出来た穴に頭蓋骨ごと暗闇の中へと落下し、穴は瞬時に消え、再び静寂に包まれた。
フリアエが静かにアンドレが消えていった場所を見つめていると、彼女の背後に老人が現れた。
「うまくいったようだな?フリアエ」
「はい、ワイバーン様…」
「取るに足らない存在ではあるが…、余計な芽は摘んでおくに限る」
ワイバーンはそう言って転移魔法で何処かへと姿を消した。
静寂の中、とめどなく涙を流し続けながら、メイは呟く。
「…アンドレ」
~~~~~
ステラの左目の炎が消えたのを確認したジャンヌは。フフンと得意げに微笑み、歌を口ずさむ。
この国では知らぬものは居ない歌声で。歌姫 “ シングラブ ” の歌声で。
トトが落ちていった舞台の床の穴の中から球体の中に閉じ込められたトトが姿を表す。
目を覚ました彼は自分の置かれている状況と、崩れ落ちたステラの姿を見て驚愕する。
「あら?随分起きるのが早いのね?」
「ステラ!何があったの?ねえ!ステラ!!」
トトは自分が閉じ込められているその球体の内側をドンドンと叩きながら彼女に呼びかける。
しかし、ステラは目を覚まさない。
ジャンヌはクスクス笑って言った。
「無駄よ。その中に居るアナタの声は、あの子には届かない。それに、もうあの子は目を覚まさないわ」
「そんな……ステラ、起きてよ……」
「目を覚ましてよ!ステラ!!」
奇跡が起きたのかもしれない。
ステラの指がピクリと動き、それに気づいたジャンヌが彼女を見る。
しかしその身体からは黒い瘴気のような物があふれ出ており、ゆっくりと開かれた左目に紫色の炎が灯る。
それが奇跡ではない別のものと知ったジャンヌはその喜びに笑みを浮かべた。
「フフフ…インセイン化したようね?」
ジャンヌがステラに向けて手を向ける。
刹那、何本もの鎖が伸びてステラの手足を拘束する。
ステラは腕を引くが、鎖がピンと張って身動きが取れなくなる。
その様に微笑むジャンヌだったが、ステラは腕を思い切り引き、鎖を引き千切ると、手に大砲を呼びよせ、ジャンヌ目掛けて砲撃する。
ジャンヌは大鎌を振るい、砲弾を真っ二つに破壊していく。
最後の一発を斬り飛ばした瞬間、
ドガァ!!
ジャンヌの体が飛ばされ壁に叩きつけられる。
しかしその一瞬の出来事をジャンヌは理解していた。
ステラの手に持つ大砲の砲口が槍のように形態変化し、それを持って突撃を仕掛けてきたのだ。
それを看破し、体を貫かれることだけは間一髪免れることが出来たジャンヌはステラを思い切り蹴り飛ばし反対の壁に叩きつけた。
ジャンヌは笑みを絶やさぬまま立ち上がり、
反対に凍りついた眼差しのままステラは立ち上がる。
互いに足を踏み込み、またぶつかり合おうとした瞬間、二人の間に爆音と共に割って入る影が二つ。
一方は騎兵、もう一方は騎士だった。
その騎士の顔に、ジャンヌは覚えがあった。
「アウグスト、ヒュプノス……!」
「暴れすぎだWRS」
彼女の言葉にヒュプノスは静かに応える。
ステラの前に立ち塞がったのは、スレイプニルだった。
攻撃行動を停止せざるを得ないステラは目標を変え、立ちはだかる彼と目を合わせる。
「血迷うな。ブラックロックシューター……今はその時じゃねェ」
彼の言葉でステラの瞳の色が青色に戻る。
自身の言うインセイン化が不完全なものだと悟ったジャンヌは馬鹿馬鹿しくなったのか「あーあ」と言って鎌を下ろした。
その様子を何も出来ずに見守るしかなかったトトもあまりの出来事に呆然としているとスレイプニルの槍が真横を掠めた。
驚く間もなく、球体の壁面がピシリとヒビ割れだし、砕けたかと思うとトトはそのまま真下に落下する。
「うわぁああぁあ!?」
そのまま床に背中を打ちつけるが、直ぐに起き上がりステラに駆け寄る。
ガクリと膝をつくステラの肩を抱いてトトは声をかける
「ステラ!?ステラ!大丈夫?」
「……トト?」
ステラは先程の紫色の瞳と冷たさしか感じられない表情は消え、いつものステラの表情と、いつもの青色の瞳でトトの目を見る。
トトは良かったと言ってステラを抱きしめ安堵する。
「つまーんない。もういいわ、私帰る」
ジャンヌはそう言って去っていった。
スレイプニルとヒュプノスはそんな彼女に目を合わせて肩をすくめた。
「我々も行こうスレイプニル、今の君は目立ちすぎる」
「フン、ちげぇねぇ」
「あ、あの!僕達を、捕まえないんですか……?」
そのままその場を後にしようとする二人にトトは言う。
彼の疑問に答えたのはスレイプニルだ。
「俺にはもうお前を捕まえる理由がねぇ。じゃあな小僧。また会おう」
スレイプニルはそう言ってヒュプノスを乗せると、馬のような機械のようなマシンで走り去った。
それを見届けたトトはステラを抱きかかえたまま脱力し深いため息をついた。
「はあ…ステラが元に戻ってよかったぁ…」
「トト?」
「あぁ、いや…さっきステラの様子が変だったから…」
「…私、変?」
「ううん、もう大丈夫」
首をかしげるステラの眼を見て、トトは首を横に振った。
後ろのほうで扉の開く音が聞こえ、振り返るとマイとナミマが立っていた。
マイは二人の姿を見つけるなり駆け寄ってくる。
「あっ!ここに居た!」
「マイさん、どうしてここに?」
「あの後、貴方達の後をこっそりついていって、ココに入っていくのは見えてたんだけど…」
「けど?」
「けど?」トトの言葉の後にナミマが首を傾げながら続き、マイはそれに声を荒げた。
「けど?じゃないでしょう!?アンタが知らないうちにどっか行っちゃうから探してたから今やっとこうして…」
そう怒っていたマイだったが、毒気を抜かれたのか「まあいいわ」と前置きをしてから辺りを見渡す。
「ところで、あの子は?それに…ここで何かあったの?」
「あぁえっと…、うわっ!?」
トトは説明をしようとしたが、ステラを抱きかかえている両の腕に重さを感じ、そのままステラに体を預けられる形で床に倒れ込む。
見るとステラは目を閉じて寝息を立ててしまっている。
「あらあら…ひとまずここから出ましょう。知り合いのお店が近くにあるの。詳しい話はそこで聞くわ」
(続)